2019年12月31日火曜日

北海道コンサドーレ札幌の2019シーズン(2) ~失速の背景~

前編
北海道コンサドーレ札幌の2019シーズン(1) ~偽りの2人と偽れぬ要~

4.中盤戦の苦境と収穫

4.1 二足の草鞋と倍増する責任


 シーズン序盤、後方のポジションにはキム ミンテが欠かせないと判明した(確認された)頃に、開幕直後からのアンデルソンロペスの爆発が終焉する気配を見せる。

 第2節、アウェイでの浦和戦では武蔵、ロペスの2トップを後方でチャナティップ、荒野らが支援する速攻重視の布陣採用が的中したが、基本的には武蔵、ロペスとも前線にスペースがある状況で威力を発揮するプレイヤー。(1)で書いたように、敵陣で時間をかけてプレーする(≒味方も相手も枚数が揃ってしまい、スペースがなくなる)ミシャチームとの相性はあまりよくない。これは岩崎も同様だ。それでも彼らの潜在能力や伸びしろに期待して獲得、起用されているのもあるし、もしくは「速攻ができないサッカーなんて怖くない」。武蔵やロペスのような選手は必ずピッチ上に1人置きたいのもある。

 4月最後の試合、第9節の磐田戦でロペスが負傷し、最低1ヶ月の離脱を余儀なくされる。ジェイはその前、3月から離脱し復帰が長引いていたところ。特に前線のターゲットとして攻撃の起点を作れるジェイ不在期間が長引くことで、札幌の前線で唯一、狭いスペースでプレーできるチャナティップへの負担は増大する。

 札幌が自陣でボールを保持している局面。相手が完全に引いた状態なら難なく敵陣に侵入し、ボールと人を送り込むことができるが、問題は相手が前線から迎え撃つ場合。「後ろの誰か」が前線にボールを届ける役割を担う必要があるが、この役割は殆どチャナティップに依存していた。
 チャナティップは密集地帯でボールを受けて保持する役割を単独で担える。そして相手を剥がすこともできるし、前線の選手(中央/サイドを問わない)に展開する能力も持ち合わせる。ミシャは右シャドーのアンデルソンロペスにも、幾分かはチャナティップの仕事を分散させることを期待していたと思うが、そのロペスが離脱し、荒野やルーカスがシャドーに起用される状況が続くと、札幌は殆どチャナティップを経由しないと形が作れない状況に徐々に陥る。
チャナティップが毎回ビルドアップ部隊に加わる

 キープレイヤーを取り巻く状況は徐々に厳しくなる。相手の警戒に加え、1月にタイ代表としてAFCアジアカップに参加するなど、チームで最も厳しいスケジュールが組まれていた。ただ、シーズンを通じた得点数の減少(2018:8点→2019:4点)の要因は、やはり右シャドーの選手との役割分担にあり、三好のようなタイプの選手が反対サイドにいれば、チャナティップが常に中盤に下がってビルドアップを助けることにはならなかった(≒もっと前線に顔を出すことができた)と見ていいだろう。
下がって受けるチャナティップをどのチームも包囲する

4.2 苦境での知恵


 追い詰められた時に頑張ったり、知恵が生まれたりする場合がある。鈴木武蔵の右シャドーは必ずしもファーストチョイスではなかったが、6月以降に定着した。
 初採用は6月のアウェイ川崎戦。病み上がりながらジェイ、アンロペ、武蔵、チャナティップと揃ったゲームで、アンロペをベンチスタートとし武蔵を右シャドーに起用したこのゲームでは、押し込まれることを覚悟のうえで、川崎の最終ラインの背後を武蔵のスピードで強襲するための限定的なシフトだと思っていたが、その後の試合でも継続的に採用される。クラブが初めてタイトルに手をかけたルヴァンカップ決勝でもこのセットだった。

 見ていると、アンロペよりは余程シャドーのプレーを理解し実践できている武蔵。本来FWの武蔵がシャドーに入ると、前線に張り付くだけでなく中央に落ちたポジションを取る。武蔵とチャナティップに対し相手が2枚付けは、(相手が5バックだと仮定して)中央3枚のDFのうち2枚が動いてスペースができるので、シャドーのポジションからスタートする選手がチャナティップに加えてもう1枚いることは重要だ。
武蔵シャドー起用で前線の受け手を分散

4.3 白井の台頭


 シャドーが両方右利き(≒相手を背負って左回りにターンしやすい)で、左には福森がいる。必然と攻撃サイドは右サイドに偏る構成で、白井はこの恩恵を存分に受ける。もしかしたら、人生で初めてウイングバックというポジションを経験したかもしれないルーカスが徐々にコンディションを落とす反面、右で固定された白井が夏場以降に存在感を強める。
 福森のサイドチェンジ、チャナティップの反転からの右サイドへの展開は2018シーズンから持っていたオプション。これに、武蔵を経由するパターンも形になり、「右シャドー問題」は解決を見る。
右に集中しやすい設計なので白井の好調は大きかった

 そして充実の白井は、「相手の枚数が揃った状態」からでも仕掛けて勝てる。繰り返すが遅攻主体のミシャチームにとって、1on1で勝てるサイドアタッカーは不可欠だ。但し左サイドの菅にはそこまでの役割は求められない。なぜなら、菅の斜め後ろにはJリーグ最高の左足を持つ男がいるからだ。

5.失速の背景


 9月以降の公式戦14試合は4勝3分け7敗、特にリーグ戦では、2勝1分6敗と数字だけを見ると尻すぼみ気味にシーズンが終わった。
 ルヴァンカップの決勝が典型だったが、スペースを与えてくれる相手と対峙した時は、札幌が望む試合展開に持ち込める。逆に、スペースを簡単に与えてくれないチームをどう攻略するか、という点が課題として残った。

 リーグMVPを受賞した横浜F・マリノスの仲川輝人選手は典型だと思うが、基本的に大半のアタッカーはスペースがあって輝く。日本代表では[1-3-4-2-1]のシャドーで起用されていたが、シャドーとして最初から前線中央で張ると中川の良さは活きない。仲川はスピードに乗った状態で、スペースに突っ込んでいくことで活きる選手だからだ。
 札幌にも似たタイプの選手が数人いるが、それらの選手がスペースを享受できている展開だと”札幌らしさ”が現れる。ルヴァンカップの先制点は、①札幌のGKの際に川崎が前線高い位置から守備を敢行したので中央にスペースができる、
(10/26ルヴァンカップ決勝)序盤は高い位置から守備を開始する川崎

 ②スペースを使ってチャナティップが川崎のMFを引きつける→引き付けたことで、ゴール前に枚数を確保させる状況を作らせなかったことで白井や菅の能力が発揮されたことで生まれた。
(10/26ルヴァンカップ決勝)川崎が前から来たことで生じたスペースを使って前線に展開

 この試合、川崎が途中から前線守備の強度を下げてコンパクトなブロックを作る。すると札幌の前線にはスペースがなくなり、チャナティップ以外の選手は殆どボールを持てなくなる。そのチャナティップにも中盤の選手がマンマークで監視すると脅威は半減する。
(10/26ルヴァンカップ決勝)川崎がブロックをセットすると使えるスペースがなくなり放り込むだけに

 ルヴァンカップ決勝に限らず、リーグ戦の終盤はこのパターンが非常に多かった。札幌の”いい攻撃”は自陣ゴールキックからのものが多かったが、これはゴールキックの際に札幌のク ソンユン&キム ミンテ&深井のユニットを狙うために、相手の2トップないし前線3人で圧力をかけようとするチームが多かったためだ。ここを剥がせれば相手の1列目を無力化して、前線にスペースを作りやすい。
 反対に、この展開につきあってくれないチーム相手だと厳しくなる。ゴールキックという、”セットされたプレー”以外の完成度はあまり高くなかった、というのがげん

6.2020シーズンの展望


 前提として、この記事を書いている時点では、岩崎悠人の湘南ベルマーレへの期限付き移籍が決定。選手の入り…補強はなさそうで、大幅なメンバーの入れ替えはない。岩崎のアウトを考慮しても、前線は比較的、選手を多く抱えているのでフロントも緊急性は感じていないだろう。
 東京オリンピック・パラリンピックが開催され、札幌ドームがサッカー会場として使用される2020シーズンは、ロシアワールドカップが開催された2018シーズン同様に特殊な日程で、短期決戦×2のようなシーズンになることが予想される。チームとして仕上がりが早いことは重要だし、ACLに出場しているチームは特に過酷なシーズンになるだろう。リーグチャンピオンの横浜F・マリノスや3位の鹿島アントラーズが積極的に動いているが、例年以上に選手層を厚くしたいとの思惑が感じられる。

 札幌はメンバーが大きく変わらず、仕上がりが早そうなことはプラス。チームとしての課題は、本記事でも触れたように、スペースを簡単に与えてくれないチームの攻略。やり方が大きく変わらないとすると、期待する選手は、
 ①右シャドーでの起用が想定される金子:FC東京に入団した紺野選手(法政大学)の獲得に動いていたほか、元オランダ代表のロッベンへの”ガチオファー”等、ミシャ就任時から「とにかく右シャドーに左利きで剥がせる選手が欲しい」という意向が透けて見える。アンロペはやはり潜在能力はあるが、何らかの”仕掛け”がないと札幌でも能力が眠ったままになってしまうかもしれない。金子は競争相手として十分だし、アンロペや武蔵を差し置いて右シャドーに定着する可能性は十分にある。
 チャナティップ&金子のユニットがシャドーで計算できるなら、前線はそのスペースを使える機動性に長けた武蔵の起用になる(いずれにせよ日本代表がベンチに座ることは考えにくいが)。前線に空中戦で勝てる選手を置かないことは、ここ数シーズンの成功体験から考えるとリスクもあるが、本来志向するスタイルに近づくならそうした転換も必要だ。

 ②中盤センターor最終ラインのテコ入れ:「相手を引き付けてスペースを作る」仕事をチャナティップに依存しきっているのが現状。遅攻の成立にはDFやGKにもこの仕事を担わせることが不可欠だが、札幌はアンタッチャブルな選手が後方に複数いることがボトルネックになる。福森のロングキックは捨てがたいし、ク ソンユンのシュートストップ能力も同様だ。進藤がベンチに座ることも考えにくい。
 となると、2020シーズンもミンテが割を食うことになるのか。リーグ戦終盤を見る限り、CB宮澤は諦めていなさそうだが、宮澤も”引き付けられるDF”かというと微妙なところ。ここでも新人の田中が競争に割って入ってきそうな予感は十分にある。
 そして中盤は駒井の本格復帰が期待される。現状はオープン、ダイレクトな展開なら運動能力に長ける荒野、よりポジショナルな展開なら駒井。荒野はこの点の”伸びしろ”を、そろそろ回収していきたい。
 本格的なてこ入れは、ソンユン&ミンテの兵役問題がクリアになってからが現実的か。

※2019シーズン選手短評編に(たぶん)続く。

2019年12月29日日曜日

北海道コンサドーレ札幌の2019シーズン(1) ~偽りの2人と偽れぬ要~


1.2018シーズンの冒険の書と、2019シーズンの位置づけ


 時計の針と記憶を今から1年前に巻き戻す。

1.1 ミシャの「本物」の証明


 2018シーズンのコンサドーレについて端的に振り返ると、新監督ミシャの最大の功績は、札幌におけるサッカーやJ1リーグに対する既成概念をぶっ壊したことにある。コンサドーレはお金がない。他チームよりも戦力で劣る。だからボールを保持するサッカーは無理、というのが北海道におけるそれまでの通説だった。
 優秀なマネージャーは2ヶ月もあれば、そのチームコンセプトを浸透させることが可能だと言われる。2018年2~3月頃の開幕数試合は移行期間として、3月後半の国際Aマッチウィークによる中断期間を経たチームは明らかに「ミシャのチーム」に変貌していた。2017年7月に札幌に加入したジェイ ボスロイドは、事あるごとに「勝者のメンタリティ」の重要性を説き続けたが、ジェイの神がかり的な決定力をもってしても、チームのメンタリティやクラブステータスの向上はともかく、「札幌のフットボールの構造」を根本的に変えることはできなかった。
 野々村芳和社長も指摘する通り、ミシャが来てからチーム内外を取り巻く「サッカーに対する目線」は劇的に変わっている。数年前までは、J1とは失点を少しでも少なくするようにゴール前に引きこもって、それでもボコボコにされて試合後のビールが唯一の楽しみのような存在だったのだ。今求められているのはビールよりもゴールだ。

1.2 2018シーズンの冒険の書


 もっとも、2018シーズンに何もかも達成できたわけではない。ターニングポイントは、9月上旬の北海道胆振東部地震の発生と、その直後に迎えたアウェイの川崎フロンターレ戦。札幌の中途半端なボール保持は川崎のハイプレスの餌食となり、衝撃的な7失点を喫した。
 この試合までの札幌はミシャが長く採用してきた、[1-4-1-5]…アンカーポジションに選手を1人置き、ボールを動かすスタイル。
[1-4-1-5]

 これが川崎戦後は、
(2018シーズン第28節鳥栖戦)CB中央に宮澤を起用しての[1-5-0-5]

 アンカーの選手も最終ラインに落とした[1-5-0-5]。完全に前後に選手を分けて運用するスタイルに変わる。札幌の中央には稀代の才能、チャナティップがいるが、チャナティップ以外は中央に殆ど選手を置かなくなり、トップの選手へのロングパスで攻撃を組み立てる比率が高まる。
 後方では、最終ラインにコンバートされて1年目のキム ミンテが信用を失い、中央には宮澤、中盤センターは深井と、ミシャが好む駒井、下部組織出身で期待の高い荒野のいずれかの起用が増えることとなる。
 一見すると、宮澤、深井、荒野という北海道出身のMF3人を並べたこの布陣は、いかにも「パスを繋ぎますよ」というメッセージに見える。が、試合では相手がいる。単に「うまい」だけではボールは回らない。必要なのは適切なポジショニングだ。中盤のポジションを放棄したこの形は、事実上、短いパスによる攻撃の組み立てを放棄した、ミシャにとっては”妥協の産物”だった(但し、駒井はどのポジションで出てもビルドアップの出口を作ってチームを助けていた)。

 10月の横浜F・マリノス戦、ソンユンがボールを保持した時の、ミシャの(久々に出番を得た)ミンテへの要求は鬼気迫るものだった。「GKが持ったらすぐに開いてサポートしろ」…この指示を実践できないミンテを見て、次のシーズンもかなり難しくなるだろうと感じたところだった。

 最終的には最終戦でサンフレッチェ広島に勝ちきれず、夢のACL出場を逃したシーズン。結果だけ見ると望外のところまで到達したが、チームとしては上記のような積み残しを含んだ状態でオフに突入した。

2.コンサドーレの2019シーズンはどのような位置づけだったか?

2.1 見据えるシーズン


 ピッチ外の要素も含んだ話になる。野々村社長が常々言っているのは、

昨季は札幌ドームの芝の張り替え、今季はラグビーW杯、20年は東京五輪が控えており、札幌ドームがフルで使用できる21年の飛躍を見据え、チーム人件費などの先行投資を図ってきた。野々村芳和社長(46)は「投資の3年間という位置づけ。21年に今の投資が生きる」と語った。


 移籍マーケットでの動きを見てもこの考え方は明白だ。
 リーグ最低クラスの強化費でありながら四方田監督(当時)に、「石にかじりついてでも残留してくれ」と(理解できるものの)無理難題を押しつけた2017シーズンに迎え入れた選手は、32歳(2017シーズン開幕当時、以下同じ)の早坂良太、28歳の金園英学、32歳の兵藤慎剛、28歳の田中雄大といったキャリアのピーク前後であり即戦力級の選手。(失礼を承知で)言ってみれば、「札幌加入以降は選手としての資産価値が下がる」選手だ。
 これに対し、2019シーズンに向けて2018シーズンオフに札幌が獲得した選手は、オフの早い段階から報道が出ていたアンデルソン ロペス、鈴木武蔵、中野嘉大、ルーカス フェルナンデス、岩崎悠人。いずれも25歳以下で、一般的には選手としては2~3年後にピークを迎える選手に違約金を支払った上で獲得している。サポーターからの人気も高かった三好康児(市場価格1億円前後にはなっただろう)の完全移籍での獲得を狙ったり、FC東京のDF小川諒也の獲得を企図したりと、噂のあった選手も同様だ。
 「アンデルソンロペスが2019シーズンからの3年契約」、「ミシャとは2018シーズンからの4年契約」(実際の契約年数は異なるにしても、それくらいのスパンでチームを作ってほしい、的な話は合ったのだと思う)…これらの情報も、2021シーズンに照準を定める(少なくともアンロペを2021までは保有し、仮に資産価値が上がって引き抜かれれば、違約金をゲットできるリスクヘッジ)とする全体戦略と一致する。

2.2 欠けているパーツの補充


 よりミクロな、ピッチ内での事情に目を向けると、2018シーズンのオフにミシャがリクエストしたのは、恐らく①(三好康児に代わる)左利きの右シャドー、②突破力のある右ウイングバック。この2つのポジションには外国人枠を割き、それぞれアンデルソン ロペス、ルーカス フェルナンデスの2人を充てることが早い段階から決まっていたようだった。

 この2つのポジションが重要なのは何度か書いたつもりだが改めて。
 右シャドーについてだが、ミシャチームでは高い位置を取るウイングバックが関与する、ピッチの横幅を目いっぱいに使った攻撃が生命線だ。ピッチの横幅を使うためには、横68メートルの間でボールを動かすことが必要になる(この点で、福森晃斗を擁している札幌は、サンフレッチェ広島や浦和レッズと比べても非常に恵まれた状況でもある)。
 左の福森に加え、左シャドーのチャナティップから右サイドへのサイドチェンジは札幌の得意のパターン。”左利きの右シャドー”は、この攻撃の逆バージョンの充実のために必要だ。そのためには(都倉のような)ゴール前でプレーする選手ではなく、中盤でボールを受けて反対サイドを向く能力がある左利きの選手を右シャドーに置きたい、というのが現場サイドのリクエストだったと思う。
 結果、獲得されたのはアンデルソン ロペス。タイプ的には三好よりも都倉に近いが、年齢的にも若く、ボールコントロールに長ける選手なので、個人戦術、グループ戦術を叩き込めばチームにとってアップグレードになるとの考えだっただろう。
(左利きの右シャドーの優位性)背負って受けてから最短距離のターンで左サイドに展開できる

 右WBについて。
 ミシャチームは相手を敵陣に押し込んだ状態で戦うことを志向している。「福森が攻撃参加して進藤がクロスを上げた!」などと象徴的に語られることがあったが、これができるのは相手を全員敵陣に押し込んでおり、カウンターを食らう余地が殆どないためだ(加えて、深井と宮澤が背後を守っているから)。
 反面、「敵陣に相手を押し込む」状況になると、相手ゴール前のスペースがなくなり攻め崩しにくくなる。ゴール前にスペースがあったほうが崩しやすいのは明白だし、スペースを作る動き(スペーシング)が重要なのは言うまでもない。ゴール前の見方の人数が多ければいい、というものでもない。
 となるとスペースを消され(というか、こちら側から消し)、かつマークにつかれても勝負して勝てる選手が必要で、それは局面の人数に関係なく1on1の関係を作りやすいサイドだと効果的だ。左サイドは北海道出身の菅がいる。右サイドは、2018シーズンは駒井がいたが、駒井は中央の選手としてミシャが評価している。代わって早坂の起用が2018シーズン途中から増えていたが、早坂は狭いスペースでプレーできるタイプではないので、野々村社長の言うところの”クオリティのある選手”…フルミネンセで主力としてプレーしていたルーカスなら十分だろうとのことで、完全移籍で選手を買うとの方針を曲げてまで、期限付き移籍で迎え入れることとなった。
(すごい右WBの必要性)ミシャチームは相手を押し込んでから攻撃するので「1人抜ける」選手が欲しい

 この2ポジションの補強が優先で、岩崎は恐らくポスト・チャナティップも見据えた動き。武蔵は都倉の退団に伴う前線の即戦力であり、”資産になる選手”として理想的な人材だった。中野は、やや飽和気味のサイドアタッカーだが、これも”資産になる選手”であり、ベガルタ仙台のキープレイヤーとして計算できる選手だ。
 一方でCBの補強はなし。CBの勘定は、「宮澤を計算に入れられるか」によって大きく異なってくる。この段階では、十分に数に入れられると思っての編成だったのだろうが。

3.”要”は偽れない

3.1 開幕戦で見えた2019モード


 湘南ベルマーレ相手に0-2で敗れた開幕戦だったが、”何がしたいのか”は明白だった(今振り返ると)。
 札幌はこの試合、後半の運動量が落ちる時間帯に、湘南お得意の走力を活かした攻撃で福森の背後を突かれて失点している。湘南がどんなチームで何をしてくるかは明白で、また福森の背後がウィークポイントであることはこの時点でわかり切っている。それでもリスク覚悟で札幌がトライしていたのは、極限まで後方の人数を削って相手と同数で守ることに他ならない。

 湘南は1-5-4-1⇔1-5-2-3で守るチーム。札幌のボール保持時、湘南の選手が撤退すると、湘南は最前線にFW1人しかいなくなる。この時に、相手が1人しかいないなら、そこに3人も4人もDFを残しておく必要がないじゃん、むしろDFをたくさん残した方が必要な場所に選手がいなくてリスクじゃん、というのがミシャの考え方で、押し込んだ時は湘南の1トップ相手に札幌はCB中央の宮澤しか残していない状態で戦っていた。

 サッカーは11人vs11人の戦いであると同時に、ピッチ上のスペースを奪い合う戦いでもある。人だけを見ているとスペースでの主導権を握れなくなる。この場合は、宮澤の左右のスペース…本来そこにDFの選手を置いているスペースだ。ここはGK…クソンユンがカバーすることになっていて、ソンユンはそのために、ボール保持時は常に高いポジションを取り続ける。GKにとってゴール以外のスペースにも責任を負うことは、ミスが許されない仕事において小さくない負担だ。そこまでして、ミシャは最大限の人数を敵陣に送り込むような戦いをしたかったことになる。
(2019シーズン第1節湘南戦)1トップの湘南に対して宮澤1人を残して相手を押し込む

3.2 荒野の台頭


 開幕前に起こった事件として、駒井の膝の負傷による長期離脱(後に再発し、フルシーズンアウト)が挙げられる。コンディションが万全ならば、駒井は「どこかのポジション」で必ずスタメンに入ってくる選手。右シャドー、右ウイングに外国人選手を補強したなら、残るポジションは中盤センターだ。深井とのコンビが想定されていたと思うが、駒井の離脱によって荒野が初の開幕スタメンに抜擢された。

 荒野は開幕2試合で期待に応え、攻守ともに圧巻のパフォーマンスを見せる。北海道で、[身長が180センチある、プロのスポーツ選手になれるくらいの運動能力やメンタリティがある、サッカー選手になれるだけの基礎的なボールコントロールがある]この条件を満たした子どもが野球やバスケではなくサッカーを選択し、かつ中学時代にグレない、そんな奇跡が重なって荒野のような選手が生まれる。荒野にあって宮澤や福森、もしかすると深井にもないものは身体を俊敏に動かす能力で、特に広大なスペースがある状況では、そのスペースをカバーできるスピードはチームに不可欠だ。いつかはボールを失うのだから、ボールを奪回する装備は備わっていなくてはならない。

3.3 ”要”は偽れない


 ミシャが掲げ、理想とするサッカーは開幕6戦で行き詰まりを見せる。第4節の鹿島、第5節の名古屋、第6節の大分との3連戦で3連敗を喫するが、特に大分戦では問題の、「福森の背後、宮澤の左側」のスペースを執拗に突かれて敗れている。荒野の活躍と、2~4月までのリーグ戦9試合で7ゴール2アシストを記録した、アンデルソン ロペスの爆発によってごまかされいたが、宮澤が守れる守備範囲は決して広いとは言えない。
(2019シーズン第6節大分戦)福森の背後を執拗に突かれて敗戦

 だから守れる保証がないなら、本来は福森の背後を簡単に使われてはいけない。四方田ヘッドコーチは福森(だけでなく右の菊地直哉も)を定位置から動かさないことによって、この問題を解決してきたが、ミシャはそうしたアプローチをとらない。

 荒野の負傷もあって宮澤が中盤センターに戻り、干されていたキム ミンテに白羽の矢が立ったのが第7節のセレッソ大阪戦。ロティーナセレッソは所謂「場を整えながら戦うチーム」なので、福森の背後にスペースがあってもすぐには使ってこない。そのためこの試合では、ミンテの特徴は、セレッソのFWとの空中戦によって発揮される。
 が、ミンテの真骨頂は、本人がプロフィールに「自分の武器:意外に速い」と書く通りの、その運動能力によって後方のスペースをカバーできることにある。でかくて速い=無理がきく。ミシャのチームには無理がきくDFが不可欠だ。ミンテがカップ戦要員からスタメンに返り咲き、戦績は好転する。第6節までは2勝4敗。第7節から折り返しの第17節までは11試合で6勝3分け2敗。

 よく、本来のポジションから逸脱してプレーする選手を「偽のサイドバック(Falso Lateral)」などという。ミシャのチームでは、中盤センターの選手などが本来のポジションから離れてプレーすることが多い。だからミシャの選手起用は他の監督とは一味違う。
 が、CB中央の選手はごまかしがきかない。ゴール前は戦場だ。戦える選手が求められる。それに気づくのにリーグ戦6試合を要したことは、リーグチャンピオンを狙うチームとしては痛すぎるが、札幌は現実的にはそこまでにはない。6試合の授業料は、ルヴァンカップによって活かされることになる。

※(2)へ続く

2019年12月9日月曜日

2019年12月7日(土)明治安田生命J1リーグ第34節 北海道コンサドーレ札幌vs川崎フロンターレ ~未来は見えているか~

0.スターティングメンバー


スターティングメンバー

 札幌(1-3-4-2-1):GKク ソンユン、DF進藤亮佑、宮澤裕樹、福森晃斗、MFルーカス フェルナンデス、深井一希、荒野拓馬、菅大輝、鈴木武蔵、チャナティップ、FWアンデルソン ロペス。サブメンバーはGK菅野孝憲、DFキム ミンテ、MF白井康介、中野嘉大、早坂良太、FW岩崎悠人、ジェイ。ミシャが好む宮澤CB。ルーカス、ロペスの先発起用も合わせて、メンバーだけ見ると攻撃的な印象。

 川崎(1-4-2-3-1):GKチョン ソンリョン、DF守田英正、山村和也、谷口彰悟、車屋紳太郎、MF大島僚太、田中碧、家長昭博、脇坂泰斗、阿部浩之、FW小林悠。サブメンバーはGK新井章太、DFジェジエウ、マギーニョ、MF下田北斗、FWレアンドロ ダミアン、知念慶、旗手怜央。新井がベンチに復帰したがスタメンはチョン ソンリョン。前線はやはりダミアンではなく小林。
 プレビューはこちら。

2019年12月6日金曜日

プレビュー:2019年12月7日(土)明治安田生命J1リーグ第34節 北海道コンサドーレ札幌vs川崎フロンターレ ~何も恐れず 何も失わず~

1.予想スターティングメンバー

予想スターティングメンバー

1.1 札幌


×(非帯同、欠場確定)※特になし
×(負傷等で欠場濃厚)MF駒井(右膝半月板損傷)
*(負傷等で出場微妙)DF濱
MF檀崎

IN(夏マーケットでの加入)※特になし
OUT(夏マーケットでの放出)DF中村(Honda FCへ育成型期限付き移籍)
MF中原(ベガルタ仙台へ完全移籍)
MF小野(FC琉球へ完全移籍)

 雪が降り積もる季節になり、アンロペの家族はもう帰国してしまったようだ。2月23日に開幕→12月7日に閉幕というのは、改めてクレイジーなスケジュールだと思う(天皇杯もあるチームは…)。
 荒野と宮澤、深井は誰が出てもおかしくない。これに対し前線は、ゴールから遠ざかっているアンロペよりもジェイ、守備面でより信頼されていそうな白井の起用を予想する。そして、キム ミンテのリベンジの機会も奪わないのではないか。

1.2 川崎


×(非帯同、欠場確定)※特になし
×(負傷等で欠場濃厚)MF中村(11/2広島戦での左膝前十字じん帯損傷)
*(負傷等で出場微妙)GK新井

IN(夏マーケットでの加入)GK馬渡(愛媛FCから期限付き移籍)
OUT(夏マーケットでの放出)DF舞行龍(アルビレックス新潟へ完全移籍)
MF鈴木(ガンバ大阪へ期限付き移籍)
MFカイオ・セザール(V・ファーレン長崎へ期限付き移籍)
FW宮代(レノファ山口FCへ期限付き移籍)

 3位鹿島とは勝ち点差3。鹿島が名古屋に敗れるという条件付きだが、自力でのACL出場権獲得の可能性を残している。中村以外はほぼ、負傷者が戻ってきた。GKは新井に負傷により前節は久々にチョン ソンリョン。が、マリノスの猛攻に晒され4失点したのは不安材料。CBは山村がレギュラーを守っている。前線はダミアンと小林の交互の起用が続いていたが、やや小林の起用が増えている。

2.今期の対戦の振り返り

2019年6月14日(金)明治安田生命J1リーグ第15節 川崎フロンターレvs北海道コンサドーレ札幌 ~カオスの調停者~

 宮澤とルーカスを欠き、ジェイとアンロペも故障明けの札幌は川崎にボールを渡し、自陣からのダイレクトな攻撃に活路を見出す。しかし(毎度のことながら)札幌の人を受け渡す守備は川崎の流動的な攻撃に翻弄される。前半からク ソンユンの度々のビッグセーブでなんとか0-0を維持し、武蔵のPKで1点のリードを奪って折り返し。後半はカウンターにも結び付かず防戦一方の展開で、小林のヘッドで川崎が追いつく。その後も川崎が攻めるが1-1で試合終了。

2019年10月26日(土)2019JリーグYBCルヴァンカップ 決勝 北海道コンサドーレ札幌vs川崎フロンターレ ~陽はまた昇る~

 ほんの1ヶ月前の話なので簡潔に。札幌が得意のGKからの幅を使った攻撃でまさかの先制も、すぐに川崎が押し込み、札幌が撤退する展開に。ダミアンや脇坂の逸機が続く中で、武蔵かロペスがカウンターを制していれば、という展開だった。

3.戦術面の一言メモ

3.1 札幌


コンセプト極限まで後ろの人数を削って、なるべくゴール前に多く人を送り込む。
ボール保持
(自陣)
1-4-1-5や1-5-0-5の形からサイドのDFが持ち上がってシャドーやトップに縦パスを狙う。
ボール保持
(敵陣)
引いて受けるチャナティップに預けての打開。フィニッシュは右の白井の仕掛けから。
ボール非保持
(敵陣)
「ボールを取り上げたいチーム」との対戦を除いてはハーフウェーライン付近まで撤退。
ボール非保持
(自陣)
1-5-2-3でセットしてマンマーク基調で守る。最終ラインはなるべくスライドせず5枚を残しておく。
ネガティブ
トランジション
前線の3選手はなるべく下がらず即時奪回に切り替え。後ろはすぐに戻って人を捕まえる。
ポジティブ
トランジション
自陣で奪った時はトップ(ジェイ、アンデルソン ロペス)、シャドーのチャナティップを探して預けて速攻を狙う。
セットプレー攻撃キッカーはほぼ全て福森に全権委任。ファーサイドのターゲット狙いが多い。ゴールキックはなるべくCBにサーブしてからポジショナルなビルドアップを狙う。
セットプレー守備コーナーキックではマンマーク基調。
その他memo同数で守る3バック相手なら対人に強い1トップ2シャドーがターゲットで質的優位を活かす。ギャップのできやすい4バック相手ならWBへのサイドチェンジを狙う傾向が強い。

3.2 川崎


コンセプトスモールフィールドでの戦いに持ち込み、選手の質とユニットのコンビネーションで局面を制圧。
ボール保持
(自陣)
DFと中盤センターはあまり広がらず、あまり動かずに中央でボール保持から、下がってくる家長やトップ下に預けながらゆっくり前進。
ボール保持
(敵陣)
サイド(特に左)に人を3~4人集めてコンビネーションで突破からのクロス。中央も同様に人を集めて、基本的に足元でのプレーからの突破を狙う。
ボール非保持
(敵陣)
なるべく[1-4-4-2]は維持したまま前線4人+1人で高い位置から人を捕まえ、成功すればショートカウンターを狙う。4+1人でのプレスが失敗すると自陣ゴール前に最終ラインを引き直す[1-4-4-2]へ移行。
ボール非保持
(自陣)
ブロックが整ったら人を捕まえる。最終ラインのCBはスライドするので相手FWが流れるタイプだと中央から不在になることも。
ネガティブ
トランジション
密集攻撃からボールホルダーを囲い込んで即時奪回を狙う。
ポジティブ
トランジション
自陣で回収後は長いパスで前線の選手を走らせての、まずはダイレクトな展開を狙う。
セットプレー攻撃キッカーは中村→脇坂。左足なら下田など。
セットプレー守備CKではマンマーク基調。
その他memoダミアンが出場している時はロングボールの比率がやや多め。

4.想定される試合展開とポイント

4.1 何を怖がっているんだ


 試合展開は互いのスペックよりも、「意思」で決まると思っている。
 川崎に対し、1年目のミシャ札幌のアプローチは「札幌陣内に入らせないためにハイプレスでいこう」。だったのだが、このゲームプランは等々力の7-0の悪夢により、押し入れの奥に片付けられてしまった。2019シーズン、等々力でのリーグ戦、そして埼玉でのルヴァンカップ決勝とも、札幌の戦い方は、自陣にいかに枚数を確保して、川崎の密集攻撃に対抗するか、という点にフォーカスされている。アプローチが180度変わっていることになる。

 願望が多分に含まれるが、札幌にとってタイトルもACL出場権も懸かっていないこの試合では、再び2018シーズンでの対戦のように、また11月の横浜F・マリノス戦のように、札幌陣内ではなく敵陣でプレーする意思をもった試合展開が見たい。
 これは単に好き嫌いの問題よりも、川崎相手の苦手意識を払拭し、2020シーズン以降に真にタイトルを狙えるチームとしてエントリーするなら、自陣にこもっていては難しいと考えるからだ。ルヴァンカップ決勝は深井の奇跡的な得点、川崎の数度の逸機もあり、PK戦にもつれる展開となったが、25分以降、得点の期待値が高かったのは常に川崎だった。要するに、自陣ゴール前で耐える時間が長い試合展開では、守備の文化がないミシャチームが勝つことが難しい。勝つなら前に出るしかない。

 そして川崎は、ビルドアップ(自陣から敵陣までボールを運ぶこと)が実はそこまでうまくない。川崎の代名詞として、パスが何本も繋がったゴールシーンが想起されるが、相手ゴール前での密集地帯での即興を含めたフィニッシュワークは得意であるものの、ピッチを広く使うことが要求される自陣でのビルドアップには難がある。GKにそうしたタイプの選手を保有していないし、実際にマリノスのエリキに谷口が狙われて失点してもいる(前節)。札幌としても、十分に勝算があるはずなので、前に出て戦うべきだ。それが未来に繋がることにもなる。

4.2 怖いフリーマン


 ミシャチームに”その気”があるとして試合展開を考える。
 ハイプレスをするなら、マッチアップを合わせる(川崎にフリーのフィールドプレイヤーがいない状況を作る)必要がある。これは下図の通りできるので問題ない。過去にも似た形で数度、運用している。
「枚数を合わせる」

 F・マリノスのチアゴ マルチンスのように、「CBが中央からサイドに開くことで相手のFWのプレスを回避し、CBを始点にボールを運ぶプレー」は、どの居酒屋にもある厚焼き玉子のような定番になって数年が経つ。これをやられると、運動量に乏しいFW(はっ…ジェイボスロイド様のことではありません…)が1列目を務めるチームだと厳しいが、川崎はあまりCBが開いてプレーしないし、ビルドアップにおいて決定的な役割を担ってもいない。サイドはSBの滑走路だ。

 川崎のポイントガード(ボールの運び役)は、中央のMFと下がってくる2列目…特に家長。田中にせよ大島にせよ、札幌はマーカーを用意できるので問題ない。
 問題になりそうなのは家長で、その奔放なポジションチェンジは福森のマンマークによる対応を難しくさせる。福森は典型的な”ソファの幅しか守れない”選手で、四方田ヘッドコーチが頑なに、最終ラインに過剰なまでの枚数を用意するかのような戦い方をしていたのは福森にかなりの原因があると思っている(福森の左右に選手を置いておかないと簡単に攻略されてしまうので、最終ラインに常に5枚揃っている状況にしておきたい、ということ)。
CBはあまり貢献しないが選手が降りてきて解決する

 だから川崎としては、札幌がハイプレスでくるなら家長のところで勝負、が最も合理的だ。ただ、その家長をどこで使うかという点は要検討。ピッチのどこにいても対面の選手に勝てるなら、ゴール前で働いてもらった方がいい。もっとも、自由に動き回る選手なので、どこまでコントロールできるかという問題もあるが。
 札幌は福森に限らず不利なマッチアップをカバーしたい。が、マンマーク色が強くなるとカバーリング関係は働きにくくなり、限度がある。家長-福森のマッチアップ以外だと、オリジナルポジションが離れている両ウイングバック、そして機動性のある大島と宮澤のマッチアップは気になるところだ。この点を考慮すると、宮澤ではなくこちらも機動力のある荒野の起用は、ハイプレス戦術を採用するなら普段よりも有力なオプションになるだろう

4.3 現実論


 とはいえ、仮にハイプレス戦術を採用したとしても、札幌が自陣ゴール前で川崎のアタックにどう対抗するか、は用意しておく必要があるし、これまでの経緯からいっても重要だ。

 ルヴァンカップでの川崎は、家長や車屋をスタートではサイドに配置していた。これによって、札幌のDFの横幅を拡げ、より中央に選手が走り込むスペースを作ろう、とのアプローチだった。
 この形になると札幌には分が悪い(と筆者は思っている)。札幌の強みの一つに、チャナティップ・ジェイ・武蔵が分業で行う速攻がある。ジェイがボールを収め、武蔵が走り、チャナティップがスルーパスを狙う。この3人が「速攻での攻撃に関与できる状況」を常に維持しておきたい。が、図のように車屋が攻撃参加すると、右サイドは白井1人に任せられない。武蔵が下がらざるを得ず、前線でジェイが孤立(それでも、山村には結構買っていたのは流石だ)、というデジャビュになりかねない。
車屋が攻撃参加すると右は1人だけでは足りなくなる

 何らか、武蔵を前に残しておける手立てがあると面白い。宮澤がカバーする(2列目はは深井との2人ではなく、チャナティップを含めて3人で守るイメージか)、進藤がポジションを捨てて早めに対処する、など。

2019年12月2日月曜日

2019年11月30日(土)明治安田生命J1リーグ第33節 サガン鳥栖vs北海道コンサドーレ札幌 ~魅せてくれ荒野、見せてくれDAZN~

0.スターティングメンバー


スターティングメンバー

 札幌(1-3-4-2-1):GKク ソンユン、DF進藤亮佑、キム ミンテ、福森晃斗、MFルーカス フェルナンデス、宮澤裕樹、深井一希、菅大輝、チャナティップ、鈴木武蔵、FWジェイ。サブメンバーはGK菅野孝憲、MF白井康介、中野嘉大、早坂良太、荒野拓馬、FWアンデルソン ロペス、岩崎悠人。予想通り、豊田対策?でキムミンテをスタメンに戻してきた。
 鳥栖(1-4-4-2):GK高丘陽平、DF小林祐三、高橋祐治、高橋秀人、三丸拡、MF小野裕二、松岡大起、原川力、イサック クエンカ、FW金崎夢生、豊田陽平。サブメンバーはGK金民浩、DF金井貢史、藤田優人、MF福田晃斗、安庸佑、FW趙東建、金森健志。考えられるメンバーの中ではやや攻撃的な選択。小野を右MFに起用していることから、あまり引く気はなさそうに見える。
 その他プレビューはこちら

2019年11月29日金曜日

プレビュー:2019年11月30日(土)明治安田生命J1リーグ第33節 サガン鳥栖vs北海道コンサドーレ札幌 ~帰巣本能~

1.予想スターティングメンバー


予想スターティングメンバー

1.1 札幌


×(非帯同、欠場確定)※特になし
×(負傷等で欠場濃厚)DF濱
MF駒井(右膝半月板損傷)
MF檀崎
*(負傷等で出場微妙)DF福森

IN(夏マーケットでの加入)DF田中(特別指定選手登録)
OUT(夏マーケットでの放出)DF中村(Honda FCへ育成型期限付き移籍)
MF中原(ベガルタ仙台へ完全移籍)
MF小野(FC琉球へ完全移籍)

 いつの間にか通算成績は負け越し。それでも得失点差はかろうじてプラス4で、このまま維持できればクラブ史上最高成績だ。
 前線は、前節ベンチスタートのジェイのスタメン復帰を予想。後ろは荒野かキム ミンテの選択になる。「地元出身の若い選手を育てたい」とするミシャ。ジェイが「今年最も伸びた選手」に挙げた荒野は道民という訴求点があり、ミンテと同い年ながら若手扱いされている。それでもキム ミンテをスタメン予想としているのは、前節敗れていることと、鳥栖が仕掛けてくるであろうエアバトルへの対策をするだろう、との考えによる。福森は右足首に負傷を抱えているが強行出場の見込み。

1.2 鳥栖


×(非帯同、欠場確定)※特になし
×(負傷等で欠場濃厚)※特になし
*(負傷等で出場微妙)※特になし

IN(夏マーケットでの加入)GK大久保(清水エスパルスから完全移籍)
DF金井(名古屋グランパスから期限付き移籍)
DFパク ジョンス(柏レイソルから期限付き移籍)
FW金森(鹿島アントラーズから期限付き移籍)
FWチアゴ アウベス(全北現代モータースから期限付き移籍)
OUT(夏マーケットでの放出)DFニノ ガロヴィッチ(FCディナモ・ミンスクへ期限付き移籍)
DFカルロ ブルシッチ(契約解除により退団)
MF島屋(徳島ヴォルティスへ期限付き移籍)
FWビクトル イバルボ(V・ファーレン長崎へ期限付き移籍)
FWフェルナンド トーレス(現役引退)


 負傷者は(たぶん)いない。
 16位・湘南との勝ち点差は4。大失速のライバルを尻目にここ5試合で8ポイントを稼ぎ、安全地帯へと逃避成功した印象を受ける。
 そのサッカーの内容は、混迷のカレーラス期、再出発の金明輝監督就任直後を経て、”鳥栖らしい”キックランドラッシュ風味を採り入れたサッカーに原点回帰している印象を受ける。
 また、守備的に戦う場合は、SBに金井、中盤サイドに原、センターにパク ジョンス、トップに金森といった選手の起用により活路を見出している。勝ち点1を積めば、湘南の2連勝以外で残留が決まるゲーム。札幌の5トップ攻撃対策もあってこれらの選手を起用してくると予想する。

2.今期の対戦のおさらい

2019年6月22日(土)明治安田生命J1リーグ第16節 北海道コンサドーレ札幌vsサガン鳥栖 ~体は心と一体~

 鳥栖はクエンカと原、札幌は福森と菅。互いにサイドのキープレイヤーを欠く厚別での対戦。金明輝監督に交代後持ち直してきた鳥栖は1-4-4-2のゾーンディフェンス風味が強いやり方で札幌を迎え撃つ。札幌は鳥栖の圧力をジェイへのフィードでかわしながら鳥栖陣内に侵入し、福森に代わってキッカーを務めたルーカスのCK2本からの2得点で前半を折り返す。
 後半はペースダウンした札幌に鳥栖が反攻。鳥栖の左右非対称のアタックに人を巧く当てられない札幌は混乱するが、カウンターからチャナティップ・武蔵のコンビで追加点を奪って逃げ切り。

2019年11月24日日曜日

2019年11月23日(土)明治安田生命J1リーグ第32節 北海道コンサドーレ札幌vsジュビロ磐田 ~もっと、強くなろう~

0.スターティングメンバー

スターティングメンバー

 札幌(1-3-4-2-1):GKク ソンユン、DF進藤亮佑、宮澤裕樹、福森晃斗、MF白井康介、深井一希、荒野拓馬、菅大輝、アンデルソン ロペス、チャナティップ、FW鈴木武蔵。サブメンバーはGK菅野孝憲、DFキム ミンテ、MFルーカス フェルナンデス、中野嘉大、早坂良太、FW岩崎悠人、ジェイ。宮澤は9月のルヴァンカップ準々決勝(広島戦)以来のCB起用。細かい話では、荒野が左、深井が右でいつもと逆の配置になっている。
 磐田(1-4-4-2):GK八田直樹、DF小川大貴、大井健太郎、藤田義明、宮崎智彦、MF松本昌也、上原力也、山本康裕、藤川虎太郎、FWアダイウトン、ルキアン。サブメンバーはGK三浦龍輝、DF大南拓磨、MF田口泰士、荒木大吾、針谷岳晃、FW川又堅碁、中山仁斗。メンバーの傾向はここ数戦と同じ。田口は第26節以来のベンチ入り。4月の札幌戦以降、長期離脱中だった川又も復帰。
 その他プレビューはこちら。

2019年11月22日金曜日

プレビュー:2019年11月23日(土)明治安田生命J1リーグ第32節 北海道コンサドーレ札幌vsジュビロ磐田 ~哲学は根付くか~

1.予想スターティングメンバー

予想スターティングメンバー

1.1 札幌



×(非帯同、欠場確定)※特になし
×(負傷等で欠場濃厚)MF駒井(右膝半月板損傷)
*(負傷等で出場微妙)※特になし

IN(夏マーケットでの加入)DF田中(特別指定選手登録)
OUT(夏マーケットでの放出)DF中村(Honda FCへ育成型期限付き移籍)
MF中原(ベガルタ仙台へ完全移籍)
MF小野(FC琉球へ完全移籍)

 武蔵、進藤、菅、チャナティップ、ク ソンユンの5人が代表帰り。これまででは考えられない状況だ。菅は日曜日、武蔵は火曜日、チャナティップは金曜日と火曜日のゲームにスタメン出場している。10月のセレッソ大阪戦でソンユンを休ませた選択を考えると、チャナティップのベンチスタートもありうるだろう。

1.2 磐田


×(非帯同、欠場確定)※特になし
×(負傷等で欠場濃厚)※特になし
*(負傷等で出場微妙)※特になし

IN(夏マーケットでの加入)DFファビオ(フリートランスファーでの加入)
DF秋山(名古屋グランパスから期限付き移籍)
MFエベリシオ(レッドスター・ベオグラードから完全移籍)
MF今野(ガンバ大阪から完全移籍)
FWルキアン(チョンブリFCから完全移籍)
OUT(夏マーケットでの放出)DFエレン(双方合意の上契約解除後、アンタリアスポルへ移籍)
DF石田(レノファ山口FCへ期限付き移籍)
MF中村(横浜FCへ完全移籍)
FWロドリゲス(ディナモ・キエフへ完全移籍)
FW小川(水戸ホーリーホックへ育成型期限付き移籍)

 16位の湘南とは勝ち点差6。負傷中の川又と山田の復帰は好材料だが、前者は前線の軸になっているルキアンとどう使い分けるか。ミシャチーム相手に、サイドに計算のできる選手を置きたいとの考えがあるなら、山田はそちらでの起用があるかもしれない。

2.今期の対戦のおさらい

2019年4月28日(日)明治安田生命J1リーグ第9節 ジュビロ磐田vs北海道コンサドーレ札幌 ~祭りの後始末~

 攻守ともに”色々と”遅く、ゆったりとした磐田に対し、開始6分でアンデルソン ロペスのスーパーゴールが炸裂して札幌が先制。前半はゴール前から人が減る(ボールを受けに下がってくる)磐田は殆ど脅威がなく札幌が終始優勢。ATにCKから進藤のヘッドで追加点。
 後半、磐田は負傷明けの川又を投入して福森サイドを狙う。札幌は絶好調のアンロペの負傷退場もあり1-5-3-2気味の布陣で引いてカウンターを狙うも、起点ができた磐田が後半は盛り返す。川又も負傷で退いてしまうが、ガス欠の福森狙いは継続される。アダイウトンの得点で1点差とするも時間が足りず札幌の勝利。

2019年6月19日(水)YBCルヴァンカップ プレーオフステージ第1戦 ジュビロ磐田vs北海道コンサドーレ札幌 ~嘘を嘘と見抜こう~

2019年11月10日日曜日

2019年11月9日(土)明治安田生命J1リーグ第31節 横浜F・マリノスvs北海道コンサドーレ札幌 ~偽りなきマイスター~

0.スターティングメンバー

スターティングメンバー

 札幌(1-4-4-2):GKク ソンユン、DF進藤亮佑、キム ミンテ、福森晃斗、菅大輝、MFルーカス フェルナンデス、荒野拓馬、深井一希、チャナティップ、FW鈴木武蔵、ジェイ。サブメンバーはGK菅野孝憲、DF石川直樹、MF宮澤裕樹、白井康介、中野嘉大、早坂良太、FWアンデルソン ロペス。ボール非保持を想定すると、予想通りの[1-4-4-2]。ボール保持時はこれまでのマリノス戦と同じく、左MF(チャナティップ)がシャドーに上がる[1-3-4-2-1]。この関係で、2トップは武蔵が右、ジェイが左の並び。宮澤に代わって荒野のスタメン起用は、ハイテンポな展開が予想される中で、その運動能力を買っているのだと予想する。
 横浜(1-4-2-1-3):GK朴一圭、DF松原健、チアゴ マルチンス、畠中槙之輔、ティーラトン、MF喜田拓也、扇原貴宏、マルコス ジュニオール、FW仲川輝人、マテウス、エリキ。サブメンバーはGK杉本大地、DF伊藤槙人、高野遼、広瀬陸斗、MF大津祐樹、遠藤渓太、FW李忠成。仲川が2試合ぶりにスタメン復帰し、現状のベストメンバーが揃った。
 プレビューはこちら

2019年11月8日金曜日

プレビュー:2019年11月9日(土)明治安田生命J1リーグ第31節 横浜F・マリノスvs北海道コンサドーレ札幌 ~勇気とバランス~

1.予想スターティングメンバー

予想スターティングメンバー

1.1 札幌


×(非帯同、欠場確定)※特になし
×(負傷等で欠場濃厚)MF駒井(右膝半月板損傷)
*(負傷等で出場微妙)※特になし

IN(夏マーケットでの加入)DF田中(特別指定選手登録)
OUT(夏マーケットでの放出)DF中村(Honda FCへ育成型期限付き移籍)
MF中原(ベガルタ仙台へ完全移籍)
MF小野(FC琉球へ完全移籍)


 マリノス相手に、2018シーズンから数えて6度目の4バック(ボール保持時はいつもの[1-4-1-5]に可変)採用が予想される。といっても、4バック(⇔5トップ変形)に対応できる選手が揃っているわけでもなく、メンバー選択の幅はいつもより狭まる。恐らくこの11人で決まりだろう。

1.2 マリノス


×(非帯同、欠場確定)※特になし
×(負傷等で欠場濃厚)MF渡辺(左足関節骨軟骨骨折)
FWエジガル ジュニオ(左足関節骨折)
*(負傷等で出場微妙)※特になし

IN(夏マーケットでの加入)GK中林(サンフレッチェ広島から期限付き移籍)
DF伊藤(水戸ホーリーホックから完全移籍)
MFマテウス(名古屋グランパスから期限付き移籍)
MF渡辺(東京ヴェルディ1969から完全移籍)
MF泉澤(MKS Pogoń Szczecinから完全移籍)
FWエリキ(SEパウメイラスから期限付き移籍)
OUT(夏マーケットでの放出)GK飯倉(ヴィッセル神戸へ完全移籍)
GK原田(SC相模原へ育成型期限付き移籍)
MF三好(期限付き移籍契約を解除して川崎フロンターレへ復帰)
MF山田(名古屋グランパスへ期限付き移籍)
MF天野(KSCロケレン・オースト=フランデレンへ期限付き移籍)
MFイッペイ シノヅカ(大宮アルディージャへ完全移籍)

 シーズン中に何度かマイナーチェンジを繰り返した末、今の形は扇原と喜田が中央に並び、ウイングが開く[1-4-2-1-3]に近い形。エジガルが負傷し、夏のマーケットで恐らく幾つか選択肢がある(お金もなくはないし、ネットワークも持っているはずなので)中でのエリキをチョイスには、そのチームスタイルが現れている。
 メンバーは恐らく湘南戦で負傷した仲川がスタメンに復帰するだろう。変えてくるとしたら、4月の札幌ドームでの対戦で手を焼いたルーカス フェルナンデスの対面となる左SBだが、普通に考えれば、高野の長期離脱中にスタメンを守ってきたティーラトンか。

2.今期の対戦のおさらい

2019年3月6日(水)YBCルヴァンカップ グループステージ第1節 横浜F・マリノスvs北海道コンサドーレ札幌 ~制約下での布石~

 シーズンで最初の「控えメンバーを試せる公式戦」。札幌はキム ミンテ、白井、ジェイ、マリノスは扇原、パク イルギュ、ティーラトンがこの時は控え扱いで、三好は日程の関係でスタメン起用。
 序盤、札幌は3バックでほぼ純粋なマンマークディフェンスで対抗する。マリノスは開いたウイングを起点に札幌のCB両端の選手の脇を強襲。こりゃあかんということで札幌は20分過ぎから4バックにし、後方にスペース管理の概念を採り入れる。49分にカウンター気味の展開からジェイの得点で先制するも、次第に運動量が落ちてからはマンマーク守備が通用せずマリノスペース。三好の同点ゴールは完全に置いていかれての得点だった。

2019年4月20日(土)明治安田生命J1リーグ第8節 北海道コンサドーレ札幌vs横浜F・マリノス ~Homecoming Day~

 今度は札幌はスタートから4バック。マリノスはエジガル ジュニオが欠場で、三好のゼロトップという驚きの布陣。
 試合の主役は”本職”で起用してもらったルーカス フェルナンデスと、前にスペースがある展開なら滅法強いアンデルソン ロペス。開始3分でアンロペのロングドリブルから先制、福森のスーパーFKで札幌が早々と2点を奪うと、[1-4-4-2]の中央密集で守ってから常に高い位置で待っているルーカスを使ったカウンターを繰り出し、札幌はマリノスにカウンターの脅威を突きつけることに成功する。
 マリノスはこの時はウイングが中央に絞って裏抜けを狙うスタイル。幅をとらずに中央に入ってくる挙動は札幌にとっては捕まえやすかった。

2019年5月8日(水)YBCルヴァンカップ グループステージ第5節 北海道コンサドーレ札幌vs横浜F・マリノス ~忘れ去られし才能~

 再び控えメンバー中心の一戦。共にキープレイヤーを欠くが、そのダメージが大きかったのはチャナティップの代役に岩崎を起用した札幌。チャナティップに預けて5バック(この日は4バックだったが)→5トップの可変時間を稼ぐいつものパターンが成立せず、福森もいないので右で張るウイング(ルーカスではなく中野)を効果的に使えない。
 控え中心でも前線には遠藤、大津、李が並ぶマリノスは、中央偏重をやや是正し、ウイングが拡げてのハーフスペース狙いの攻撃から先制。札幌は後半チャナティップ、ルーカスを投入してポジティブトランジションの迫力は出るも、殴り合いからマリノスが連続得点し0-4の大差のゲームとなった。

3.戦術面の一言メモ

3.1 札幌

※変更なし
コンセプト5トップで攻めて5バックで守る。相手の攻撃機会や攻撃リソースを奪う(守勢に回らせる)。
ボール保持
(自陣)
1-4-1-5や1-5-0-5の形からサイドのDFが持ち上がってシャドーやトップに縦パスを狙う。
ボール保持
(敵陣)
引いて受けるチャナティップに預けての打開。フィニッシュは右の白井の仕掛けから。
ボール非保持
(敵陣)
「ボールを取り上げたいチーム」との対戦を除いてはハーフウェーライン付近まで撤退。
ボール非保持
(自陣)
1-5-2-3でセットしてマンマーク基調で守る。最終ラインはなるべくスライドせず5枚を残しておく。
ネガティブ
トランジション
前線の3選手はなるべく下がらず即時奪回に切り替え。後ろはすぐに戻って人を捕まえる。
ポジティブ
トランジション
自陣で奪った時はトップ(ジェイ、アンデルソン ロペス)、シャドーのチャナティップを探して預けて速攻を狙う。
セットプレー攻撃キッカーはほぼ全て福森に全権委任。ファーサイドのターゲット狙いが多い。ゴールキックはなるべくCBにサーブしてからポジショナルなビルドアップを狙う。
セットプレー守備コーナーキックではマンマーク基調。
その他memo同数で守る3バック相手なら対人に強い1トップ2シャドーがターゲットで質的優位を活かす。ギャップのできやすい4バック相手ならWBへのサイドチェンジを狙う傾向が強い。

3.2 マリノス


コンセプト相手を敵陣に押し込み、即時奪回の”サイクル”を回して攻撃を続ける。
ボール保持
(自陣)
縦幅を目一杯使う。2CBと2MFが被らないポジションを取って中央でボール保持→ウイングに供給までがワンセット。マンマークで消されたら3トップへロングフィード。
ボール保持
(敵陣)
ウイングは幅を取り、対面の選手に縦を意識させ、SBやMFがインナーラップ。
ボール非保持
(敵陣)
(機会は多くないが)セット守備は[1-4-2-1-3]気味の布陣からハイプレスに移行。
ボール非保持
(自陣)
(機会は多くないが)ボールサイドにスライドするゾーン基調の守備。CBもスライドしてクロスを上げられる前にサイドで狩り切る。
ネガティブ
トランジション
相手ボールホルダーを速攻でケアしながら+2人でコースを切り、追い込む。
ポジティブ
トランジション
ウイングの前にスペースがあれば速攻を狙う。
セットプレー攻撃キッカーはマルコス ジュニオール、マテウス。クロスはインスイング。
セットプレー守備CK守備はゾーン主体。
その他memo相手がポゼッションらしいポゼッションをしている展開は稀。局面の大半はボール保持かトランジション。

4.想定される互いのゲームプラン

・本来はどちらも「相手を見るよりもいつもの姿であり続ける」チーム。そんなミシャが毎回4バックで臨む、アンジェマリノスへのリスペクトはかなりのものだ。2018シーズンの日産スタジアムでの対戦もそうだったが、ボールを保持するチームに対するミシャの考え方は「プレッシングで圧殺してボールを取り上げる」。それも難しいと判断しての今年4月の対戦は、札幌の(それまでよりも守備開始位置を下げた)ミドルゾーンからの守備がはまった格好だった。恐らく今回もこの点は踏襲されるだろう。

・マリノスは札幌のカウンター対策、4月の対戦で活躍したルーカスが位置する、札幌の右、マリノスの左サイドでの攻防は対策が必要だろう。但し、マテウス-ティーラトンのコンビで進藤に2on1を突きつける(そのままではいられないのでルーカスは下がるはず)ことが札幌相手に一番効果的なはず。ルーカスを押し込んでしまえば、札幌の4バック採用のメリットは1つ消える。マリノスはアグレッシブに先手を取りに行きたいところ。


5.想定される試合展開とポイント

5.1 同じ策が通用しなさそうな理由


 少なくとも最初はマリノスがボールを持つ展開になるはず。
 対する札幌の狙いは、4月の対戦時のチャナティップの先制ゴールと同じく、中央を固め、サイドの選手をマンマークで監視してからマリノスのDFが孤立した状態を狙うだろう。

札幌のイメージする中央切り~人を捕まえる守備

 が、問題は、①マリノスのウイング(マテウスと仲川)はサイドに開いてプレーするので、菅と進藤はかなりサイドに引っ張られ、この2人と札幌のCB2人の間には常時スペースを空けた状態でマリノスの攻撃を受け続けることが予想される点。
 もう一つは、②札幌は枚数をなるべく合わせたくて普段の形ではなく[1-4-4-2]で挑むとしても、マリノスはそれを見て形を変えてくることが極めて容易に予想される点。ここ2試合は湘南、鳥栖共に守備時は[1-4-4-2]だったが、マリノスは下のような、[1-3-3-1-3]とも言うべき形で返り討ちにしている。
想定されるマリノスの変形と札幌守備に予想されるスペース

 この変形により、[1-4-4-2]で守る相手が捕捉しづらい状況を作ってから、
マリノスの攻撃パターン(ウイングが横幅を作ってDFの間を狙う)

 突破力のあるウイングにボールを預けるまでが「ビルドアップ」。崩しのフェーズでは、ウイングのマテウスと仲川に主役が移る。マリノスはシーズン中に何度かマイナーチェンジをしている印象があるが、今の崩しのパターンは、札幌との今年の対戦でいうと3月のルヴァンカップでの対戦時に近い。バスケでいうところのローポスト制圧攻撃だ。(なおマイナーチェンジをすることは必要だと思う。Jリーグだと選手の組み合わせや入れ替えによって目先を変えることには限界があるので、シーズン後半には対策されてしまう)。

 特にマテウスは、サイドの狭いスペースでも強引に仕掛けることができる。”抜ける”ではなく”仕掛けられる”であり、負けることもあるがとにかく仕掛けることが重要だ。仕掛けによって、相手のDFはサイドを意識するし、また左利きのマテウスは左サイドで必ず縦に行くので、相手の最終ラインを押し下げる効果が期待できるからだ。
 どのようなシチュエーションであっても、マテウスにボールが入った時、足に不安を抱える進藤とのマッチアップは非常に重要になる。

5.2 どこまで展開を予測・準備できるか


 こうなった時に札幌はどうすべきか。
 ポイントは、原則(なるべく枚数を合わせる)を維持し、守備の安定を図りつつ、カウンターを狙う時のことを考えてその威力を削がないようにすること。となると考えられるのは、
(予想)マリノスが[1-3-3-1-3]になるなら札幌も2トップから2トップへ

 札幌も前3枚にし、その「+1」はチャナティップではなくルーカス。サイドで前を向いたときに1人で攻撃機会を作れるルーカスは高い位置に置いておきたい。
 この時、元々のマーク対象のティーラトンは完全に放棄することになる。こうなると、元々のマーク関係、ひいては守備時の役割が曖昧になり、オープンな展開になることも予想される。ただ札幌としては、5バックで撤退しないならこのような策しかないだろう。

 マリノスの変形に対して一応、他の策もある。
全員で下がる策もあるがミシャ自身の言葉を裏切ることになる

 ルーカスを最終ラインにまで下げるいつもの5バックだ。これなら、ルーカスにはマテウス、進藤はその内側を守れるので、マリノスが使いたいスペースを塞げる。
 しかしこの状態は、ミシャが嫌う「同数で守る事や背後を取られる事を怖がっている」状態。4バックの採用理由はまさにこれで、相手が3トップなら5人もDFはいらないからだ。

 この試合にタイトルがかかっているわけでもないし、どこかの社長が「何が何でも残留しろ」とも言っていない。ので、5バックの採用は考えずらい。となるとこの線は薄い。

5.3 両サイドの性質


 札幌がボールを奪ってからの展開について。これはシチュエーションを簡単に類型化できないので説明が難しいところがあるが、あくまで一例として「右から仲川が突っ込んできて札幌がストップした状態」から考える。
 図で表すとこうだ。
(仮定)マリノスの右サイド攻撃が失敗して札幌のポジトラ

 札幌が狙いたいのはこの展開。やはりティーラトンが高い位置を取る限り、こちらもルーカスをなるべく前に張らせておくとそれだけお釣りがくる。
 マリノスのネガトラは、かつての「パスの受け手制圧型」のゲーゲンプレスからこれもややマイナーチェンジをして、1人がボールホルダーを切り、2人目はパスコースを切る(つまり、そこまで強く人に当たらない)対応に変わっている。最終ラインは基本的にはリトリート優先。下図のシチュエーションなら、喜田と扇原で一次的な対応をするが、4バックは喜田に連動するのではなく戻って4枚で組み直す。チャナティップが喜田を剥がせれば札幌の期待は一気に膨らむことになる。
左で奪えるとトランジションから札幌得意のパターンに持ち込みやすそう

 こう考えると、マリノスは札幌のルーカスのカウンターを回避する意味合いでも、マテウスのサイドから攻めた方が良さそうだ。札幌の得意とする展開は、速攻遅攻共に福森・チャナティップの左→ルーカス・アンロペの右なので、札幌が左から攻撃を始めるシチュエーションは避けられるなら避けた方がいい

2019年11月4日月曜日

2019年11月2日(土)明治安田生命J1リーグ第30節 北海道コンサドーレ札幌vs名古屋グランパス ~赤ワインのように~

0.スターティングメンバー

スターティングメンバー

 札幌(1-3-4-2-1):GKク ソンユン、DF進藤亮佑、キム ミンテ、福森晃斗、MFルーカス フェルナンデス、荒野拓馬、深井一希、菅大輝、チャナティップ、アンデルソン ロペス、FW鈴木武蔵。サブメンバーはGK菅野孝憲、DF石川直樹、MF宮澤裕樹、白井康介、中野嘉大、早坂良太、FWジェイ。アンロペ、ルーカスをスタメンに、「開幕当初のメンバー」に戻してきた。名古屋がアンカーを置くシステムだったら他の選択肢もあっただろうか。
 名古屋(1-4-4-1-1):GKランゲラック、DF宮原和也、中谷進之介、丸山祐市、吉田豊、MF前田直輝、エドゥアルド ネット、米本拓司、和泉竜司、FW長谷川アーリアジャスール、ジョー。サブメンバーはGK武田洋平、DF千葉和彦、MF成瀬竣平、ジョアン シミッチ、伊藤洋輝、杉森考起、FWガブリエル シャビエル。フィッカデンティ監督得意の3センターの[1-4-3-2-1]ではなく、中盤底を2枚にした布陣。監督交代後スタメンだった選手のうち、シミッチ、太田、シャビエルを入れ替えてきたが、太田は体調不良?で欠場とのこと。

2019年11月1日金曜日

プレビュー:2019年11月2日(土)明治安田生命J1リーグ第30節 北海道コンサドーレ札幌vs名古屋グランパス ~次の電車はすぐそこに~

1.予想スターティングメンバー

予想スターティングメンバー

1.1 札幌


×(非帯同、欠場確定)※特になし
×(負傷等で欠場濃厚)MF駒井(右膝半月板損傷)
*(負傷等で出場微妙)※特になし

IN(夏マーケットでの加入)DF田中(特別指定選手登録)
OUT(夏マーケットでの放出)DF中村(Honda FCへ育成型期限付き移籍)
MF中原(ベガルタ仙台へ完全移籍)
MF小野(FC琉球へ完全移籍)


 名古屋はアンカーシステムなので、予想は1-3-4-1-2。が、120分間を戦ったルヴァンカップからは中6日。試合後の2日間はオフで休ませたが、キーとなるトップ下のチャナティップらはまだ疲労が抜けていないようだ。その決勝戦を欠場した宮澤は29日の練習から完全合流したとの報道。深井の疲労を考慮すると、入れ替わる形でのスタメン復帰も予想される。他には、負傷を抱えている進藤の状態も気になるところだが。

1.2 名古屋


×(非帯同、欠場確定)FW赤﨑(累積警告4枚で出場停止)
×(負傷等で欠場濃厚)※特になし
*(負傷等で出場微妙)※特になし

IN(夏マーケットでの加入)DF太田(FC東京から完全移籍)
MF山田(横浜F・マリノスから育成型期限付き移籍)
FW深堀(ヴィトーリアSCへの期限付き移籍から復帰)
OUT(夏マーケットでの放出)DF金井(サガン鳥栖へ期限付き移籍)
DF櫛引(大宮アルディージャへ期限付き移籍)
DF菅原(AZアルクマールへ期限付き移籍)
MF小林(大分トリニータへ完全移籍)
MFマテウス(横浜F・マリノスへ期限付き移籍)
MF相馬(鹿島アントラーズへ期限付き移籍)
MF秋山(ジュビロ磐田へ期限付き移籍)
FW大垣(いわてグルージャ盛岡へ育成型期限付き移籍)

 負傷者は(たぶん)いない。期限付き移籍での放出が多いのは、マテウスと相馬は「来年戻すから」とのことだが、恐らく中堅~ベテランの選手は複数年契約中なのだろう。
 9/23のフィッカデンティ新監督の就任から1ヶ月が経ち、この間にリーグ戦3試合を消化し、戦績は2分け1敗。メンバーは和泉と長谷川アーリアジャスールのところが五分五分だが、基本的には「特徴がわかる(監督が把握している)選手」を起用している印象だ他、起用されていない選手でスタメン起用が考えられるのは宮原か。

2.今期の対戦のおさらい


2019年3月30日(土)明治安田生命J1リーグ第5節 名古屋グランパスvs北海道コンサドーレ札幌 ~責任の取らせ方~

 風間監督の名古屋は、序盤からその志向する「敵陣に相手を閉じ込めてプレーする」を実践すべく出足が鋭い。札幌のGKクソンユンから始まるビルドアップには、4~5人を投じたプレスで対抗し、マイボールはジョーボールを駆使してとりあえず札幌陣内に運ぶ。宮澤がCB起用の札幌はジョーボールへの脆弱性もあり序盤から名古屋の侵入を許す。
 札幌もロペス、チャナティップが前残り気味で序盤から撃ち合いの様相。全裸に靴下だけで殴り合うような展開から、17分にカウンターで、名古屋がシャビエルのゴールで先制。ポジショニング無視でボールに寄る風間スタイルに対し、受け渡し守備主体の札幌は再三マークが外れて決定機を招く。31分、39分に続けて失点し、前半だで0-3。勝負は決した。


良い子のみんな、そして次の勝利をもって、感傷に浸るのは終わりにしよう。

シャドーが開いて外々でビルドアップする。

左利きが多い。
クロスを上げるなら左にいると都合がいいが、それ以外は都合が悪い。

だから左の前田よりも右のシャビエルのサイドから前進したそうで、吉田経由での前進が多い。


色々探っているように見える。
大分戦ではアクション型の守備。

3.戦術面の一言メモ

3.1 札幌


コンセプト5トップで攻めて5バックで守る。相手の攻撃機会や攻撃リソースを奪う(守勢に回らせる)。
ボール保持
(自陣)
1-4-1-5や1-5-0-5の形からサイドのDFが持ち上がってシャドーやトップに縦パスを狙う。
ボール保持
(敵陣)
引いて受けるチャナティップに預けての打開。フィニッシュは右の白井の仕掛けから。
ボール非保持
(敵陣)
「ボールを取り上げたいチーム」との対戦を除いてはハーフウェーライン付近まで撤退。
ボール非保持
(自陣)
1-5-2-3でセットしてマンマーク基調で守る。最終ラインはなるべくスライドせず5枚を残しておく。
ネガティブ
トランジション
前線の3選手はなるべく下がらず即時奪回に切り替え。後ろはすぐに戻って人を捕まえる。
ポジティブ
トランジション
自陣で奪った時はトップ(ジェイ、アンデルソン ロペス)、シャドーのチャナティップを探して預けて速攻を狙う。
セットプレー攻撃キッカーはほぼ全て福森に全権委任。ファーサイドのターゲット狙いが多い。ゴールキックはなるべくCBにサーブしてからポジショナルなビルドアップを狙う。
セットプレー守備コーナーキックではマンマーク基調。
その他memo同数で守る3バック相手なら対人に強い1トップ2シャドーがターゲットで質的優位を活かす。ギャップのできやすい4バック相手ならWBへのサイドチェンジを狙う傾向が強い。

 3.2 名古屋


 分析対象は28節大分、29節仙台戦。
コンセプトリスク管理をしながらセーフティに前進し、ゴール前で個を活かして襲撃。
ボール保持
(自陣)
基本的にはボールを大事にする。ジョーボールの優先度は低い。SBと、サイドに流れてきたインサイドハーフで縦関係を作って外→外で前進。右の吉田-米本ラインが多い。ハーフスペースで待つシャビエルに預けるまでがセット。
ボール保持
(敵陣)
オープンな状態での太田の攻撃参加からのクロス。膠着した時は作り直すか、前田の突破。
フィニッシュは放り込みが多く、やや単調な印象。
ボール非保持
(敵陣)
相手GKが関与する展開にはハイプレス。ボールホルダーをマークする選手以外は中間ポジションに立つ。
セット守備はシミッチをアンカーにした1-4-3-2-1で敵陣センターサークル付近(要するにミディアムな高さ)にセット。1列目は中切り、サイドに誘導してインサイドハーフがスライドしてゾーン気味に守る。
意外にも前田よりシャビエルの方がプレスバックの優先度が高い。
ボール非保持
(自陣)
4-3ブロックが迅速にゴール前までリトリートして人を捕まえる。CBのスライドは許容されている。足りないところはアンカー(シミッチ)を下げて枚数確保。
時間を得るとシャビエルも右MFまで下がってくる。前田は前残り気味。
ネガティブ
トランジション
撤退優先で枚数が揃ったらボールにアタック。
ポジティブ
トランジション
ポジション整理を優先し、あまり速く攻めない。
セットプレー攻撃キッカーは太田。他はシャビエル、前田。全員左利き。
セットプレー守備※確認中。
その他memo新監督になり、トランジション等の判断基準を整理している印象。

4.想定されるゲームプラン

・名古屋はミシャチームがあまり得意としない、アンカーシステムに変わっている。今シーズンここまで、札幌はアンカーシステムの浦和(第2節)、ガンバ、神戸(第25節)戦では全てトップ下を置く1-3-4-1-2を採用している(但し、神戸戦では後半からの採用)。神戸戦と同じ1-3-4-2-1でのスタートもなくはないが、荒野トップ下の3連コンボだったガンバ3連戦の様相、そして名古屋のアンカー・シミッチのクオリティを考えると、恐らく(ミシャ的には)最大限の警戒をしてくるはず。リーグ戦でここ4試合勝ちがないことも、この判断に影響しそうだ。

ルヴァンカップ決勝戦を見ていたという名古屋。ジョーの言葉を真に受けるなら、恐らくまず札幌の、自陣でリスクを抱えながらボールを保持するプレーには注目すると予想される。これに対してはハイプレスでの迎撃が有力だ。
 
・そしてミシャの代名詞、5トップでのアタックに対する対処も入念に確認してくるだろう。ただ、札幌は[1-3-4-1-2]なら、いつもと比べて前線の枚数が1人減り、チャナティップはいつもよりも更に低いポジションからのスタートが多くなり、そして得意の5トップ布陣に変形するには武蔵やチャナティップがいつも以上に移動することになる。この違いは大きく、札幌は恐らく名古屋が思うほど遅攻主体にはならないと予想する。お互いに、後ろの枚数が多めの時間帯が多くなりそうだ。

5.想定される試合展開とポイント

5.1 名古屋のスカッドの特性とボール保持時の傾向

(1)右からの前進


 名古屋は主力に左利きの選手が多く、予想されるスタメンの6人を締める。かつて札幌も、福森、上里、ゴーメ君、ジュリーニョ、そしてセレッソの恋人・都倉が揃ったことがあったが、この5選手はそれぞれ適所に配されていた。前線は左利きが2人並んでいるが、都倉は右、ジュリーニョは左サイドが得意。残りの3選手はいずれも左サイドで起用されている。

 左利きの選手は、敵陣ゴール側を向いてボールを保持した時に下図の向きにボールを動かしやすい。
 丸山の正面に、ジェイ ボスロイド様が正対して威圧してきたとする。丸山は自分の身体の中心よりもやや左で、自然とボールを持つことになる。正対している時に、左足を巻き込むようにして丸山から見て右側にパスを出そうとすると、ジェイ ボスロイド様のお体にボールが当たってしまう。だから相手と正対した時は、自分の左方向にボールを流しやすい。
 前線のシャビエル。フィニッシュ(パス、ドリブル、シュート)の際に、最終的に左足でボールを扱うので、ボールを自分の進行方向左に転がして前進したい。だからシャビエルも前田も、下図のようなベクトルで進むことが多くなる。
左利きの選手は左向きに進みやすい

 前田はこのまま進んでいくと、ゴールから遠ざかってしまうことになる。これは是とするか否とするか、チームとしての考え方によるが、サイドからのクロスでフィニッシュなら、名古屋は太田という選択肢も持っている。

 この選手特性もあって、名古屋のビルドアップは、
右で作って左利きの選手が中央~左向きに展開

 右サイドで作って、左利きのブラジリアン2人が左足で、左方向を向きながらの展開が多い(左に流すのが自然だが、シミッチは裏をかいて右や中央に展開することもある)
 CB中谷⇒SB吉田⇒MF米本までのラインはミスが許されない。ここはサイドから運ぶことで中央でのロスト(⇒被カウンター)リスクを回避。しかし、米本から先にはサイドで進めないので、基本はシャビエルに預けての展開になる。

 右サイドで作ると、相手の人と意識は右に寄り、左サイドはオープン。名古屋の左、太田と前田は、共にクロッサー、ドリブラーとしてはクオリティがあるが、ビルドアップで力を発揮するタイプではない。この2人は主にフィニッシュへの関与が期待されており、特に太田のクロスはフィニッシュのメインパートだ。

(2)アンカーシステムの採用が有力な札幌のキーポイント


 札幌が[1-3-4-1-2]を採用するなら名古屋とは全てのポジションでマッチアップが揃う。これは非常に人を捕まえやすい反面、リスクもある。1on1の性質が強すぎて、誰かがやられたらカバーが難しく一気にバランスが崩れやすい。

 札幌の前線の[1-2]のところはそのメリットがわかりやすい。名古屋のCB2人と、中央の要注意人物・シミッチに人を当てやすい。問題はサイドで、米本とシャビエルがポジションを入れ変えてくる。菅が吉田に当たるとする。宮澤はシャビエルを優先すると、終着点の米本のマークはあいまいだ。
札幌は米本が曖昧になりそうだが米本はそこまで警戒しなくてもいいかも

 もっとも、米本がここで受けたとしてサイドを爆走できる選手でもない。名古屋はこの後の展開を用意しておきたいし、札幌は基本は、常にシャビエルとシミッチを空けないこと。準備期間が短い中で、このあたりの取捨選択が整理されているかもポイントだろう。

5.2 名古屋の最大の狙いどころ


 鳥栖時代のフィッカデンティは特段ミシャ式対策をしてきたという印象はない。なので、名古屋は5バックでミラーにしたりすることはなく、基本はいつもの形がベースになるだろう。
 ミシャ式の亜種ともいえる大分戦での名古屋の対応を考えると、恐らく札幌が自陣深くでボールを保持した時には高い位置からの守備で対抗してくる。対する札幌も、直近のルヴァンカップ決勝では川崎の圧力に屈しず、ボールを保持する(&相手の1stディフェンスを突破する)がキーワードになっていたので、この攻防が繰り広げられるシチュエーションは揃っている。

 名古屋は[1-4-3-3]の陣形で、ジョーがボールを追い、他の選手は中間ポジションを取る。例えばシャビエルは、宮澤と荒野の間。どちらにも行けるポジションを取って牽制する。前田も同様。
 問題はその後で、米本やシミッチ、和泉も同様の方針で対応するが、ミシャ式がそのオリジンな配置を取ると、中央の3選手は守る人もスペースも存在しなくなる
 対する札幌は、福森がいつものようにビルドアップにあまり関与しないポジションを取れば浮く。ここに浮き球のフィードなどでボールを供給できれば1発で名古屋の1列目を突破し、「福森がフリーかつ名古屋は(特に横幅の)枚数不足」という状況を作れる。タイミングを見て降りてくるであろう、チャナティップの存在も名古屋には悩ましい。
中間ポジションからのプレスを狙いたい名古屋

 だから名古屋が[1-4-3-3]のままでハイプレスをすることで、札幌のリスキーな局面を狙っているが、実は名古屋も(フィッカデンティが嫌いな)色々リスクを抱えることになる。それでも、恐らく勝ちがなく、また得点にも見放されているチームにとってここは重要な狙いどころのため、互いにリスクを背負った攻防が繰り広げられると予想する。

5.3 札幌の狙いどころ


 名古屋のセット守備の特徴は、シャビエルと前田の役割の違い。[1-4-3-3]でセットするが、最前列[3]の右のシャビエルは2列目までプレスバック。
シャビエルは積極的に「MF化」する

 逆に左の前田は、終始前残り気味で運用されている。大分戦では後半途中から、4バックに近い布陣にもなっていた。かつての「MSN」時代のバルサの、オフザボール時のネイマール役がシャビエル、メッシ役?が前田とも言える。
 日本人とブラジル人のステレオタイプなキャラクターを考えると逆のほうがいいように思えるが、これはポジティブトランジションの際の前田の突破力への期待が大きいのだろう。
左サイドは前田は戻らずMFがスライドする

 左SBの太田の起用も、どちらかというと攻撃重視の起用だ。サイドに蓋をすることを考えると、宮原・吉田コンビの方が安定するはず。太田が使われているのは、特徴がわかりやすいこと、そして直接ゴールを脅かせる必殺の左足への期待が大きいためだろう。そう考えると、風間監督=攻撃的、フィッカデンティ監督=守備的、という図式は必ずしも当てはまらないように思える。ザッケローニが再三強調していたように、全ては「バランス」なのだろう

 札幌はこの太田のサイドで勝負したい。かつて早坂良太が引き裂いた太田のサイドは、白井なら十分に勝負になるはず。名古屋の対応なら、チャナティップの得意とするバイタルエリアの中央~やや左はなかなか空きにくい。そして前田からのカウンターを狙っていることを考えると、サイドでの攻防…簡単に白井は勝負できるか、そして勝てるかがポイントになる。

用語集・この記事内での用語定義


1列目守備側のチームのうち一番前で守っている選手の列。4-4-2なら2トップの2人の選手。一般にどのフォーメーションも3列(ライン)で守備陣形を作る。MFは2列目、DFは3列目と言う。その中間に人を配する場合は1.5列目、とも言われることがある。
守備の基準守備における振る舞いの判断基準。よくあるものは「相手の誰々選手がボールを持った時に、味方の誰々選手が○○をさせないようにボールに寄せていく」、「○○のスペースで相手選手が持った時、味方の誰々選手が最初にボールホルダーの前に立つ」など。
ゾーン3ピッチを縦に3分割したとき、主語となるチームから見た、敵陣側の1/3のエリア。アタッキングサードも同じ意味。自陣側の1/3のエリアが「ゾーン1」、中間が「ゾーン2」。
トランジションボールを持っている状況⇔ボールを持っていない状況に切り替わることや切り替わっている最中の展開を指す。ポジティブトランジション…ボールを奪った時の(当該チームにとってポジティブな)トランジション。ネガティブトランジション…ボールを失った時の(当該チームにとってネガティブな)トランジション。
ハーフスペースピッチを縦に5分割した時に中央のレーンと大外のレーンの中間。平たく言うと、「中央のレーンよりも(相手からの監視が甘く)支配しやすく、かつ大外のレーンよりもゴールに近く、シュート、パス、ドリブル、クロスなど様々な展開に活用できるとされている空間」。
ビルドアップオランダ等では「GK+DFを起点とし、ハーフウェーラインを超えて敵陣にボールが運ばれるまでの組み立て」を指す。よってGKからFWにロングフィードを蹴る(ソダン大作戦のような)ことも「ダイレクトなビルドアップ」として一種のビルドアップに含まれる。
ビルドアップの出口ビルドアップを行っているチームが、ハイプレスを突破してボールを落ち着かせる状態を作れる場所や選手。
マッチアップ敵味方の選手同士の、対峙している組み合わせ。
マンマークボールを持っていないチームの、ボールを持っているチームに対する守備のやり方で、相手選手の位置取りに合わせて動いて守る(相手の前に立ったり、すぐ近くに立ってボールが渡ると奪いに行く、等)やり方。
対義語はゾーンディフェンス(相手選手ではなく、相手が保持するボールの位置に合わせて動いて守るやり方)だが、実際には大半のチームは「部分的にゾーンディフェンス、部分的にマンマーク」で守っている。

2019年10月27日日曜日

2019年10月26日(土)2019JリーグYBCルヴァンカップ 決勝 北海道コンサドーレ札幌vs川崎フロンターレ ~陽はまた昇る~

0.スターティングメンバー

スターティングメンバー

 札幌(1-3-4-2-1):GKク ソンユン、DF進藤亮佑、キム ミンテ、福森晃斗、MF白井康介、荒野拓馬、深井一希、菅大輝、鈴木武蔵、チャナティップ、FWジェイ。サブメンバーはGK菅野孝憲、DF石川直樹、MFルーカスフェルナンデス、中野嘉大、早坂良太、FWアンデルソン ロペス、岩崎悠人。(宮澤が間に合わないことも含め)予想通りのメンバー。

 川崎(1-4-2-3-1):GK新井章太、DF登里享平、山村和也、谷口彰悟、車屋紳太郎、MF大島僚太、田中碧、家長昭博、脇坂泰斗、阿部浩之、FWレアンドロ ダミアン。サブメンバーはGKチョン ソンリョン、DF奈良竜樹、マギーニョ、MF中村憲剛、長谷川竜也、下田北斗、FW小林悠。DFを2人メンバーに入れたのは登里の負傷退場で混乱が生じたリーグでのガンバ戦の反省か、カップファイナルのシチュエーションを考慮してか。ジェジエウが間に合うとの予想に反し奈良がベンチ入り。右SBでの起用を予想していた守田は負傷でメンバー外。
 プレビューはこちら。

2019年10月25日金曜日

プレビュー:2019年10月26日(土)2019JリーグYBCルヴァンカップ 決勝 北海道コンサドーレ札幌vs川崎フロンターレ ~我慢の先にあるもの~

1.予想スターティングメンバー

予想スターティングメンバー

 札幌のホーム扱いで開催される。21歳以下の選手をスタメンに加えるルールは決勝でも適用され、札幌は菅、川崎は田中の起用による規定クリアが有力。

1.1 札幌


×(非帯同、欠場確定)※特になし
×(負傷等で欠場濃厚)MF駒井(右膝半月板損傷)
*(負傷等で出場微妙)MF宮澤(10/18セレッソ大阪戦での右太もも肉離れ)
MF荒野(左ふくらはぎ痛で10/18セレッソ大阪戦を欠場)

IN(夏マーケットでの加入)DF田中(特別指定選手登録)
OUT(夏マーケットでの放出)DF中村(Honda FCへ育成型期限付き移籍)
MF中原(ベガルタ仙台へ完全移籍)
MF小野(FC琉球へ完全移籍)

 ここ2週間に行われた試合を休んでいた選手のうち、ジェイとチャナティップは22日の全体練習に合流。一方、そのチャナティップと同じ「軽い肉離れ」と診断された宮澤の出場可否は50%を切っているはず。代役として荒野に期待がかかるが、荒野も微妙な状況だ。ただ、先週のセレッソ戦では中野が試合途中から中央に回ったものの、宮澤か荒野のいずれかがいないと厳しいので、恐らくよほどの状況でない限りは荒野は強行出場になるのではないか。
 前線は信頼の厚いジェイの先発起用が有力だが、試合展開を想定すると、アンデルソン ロペスは先発/ジョーカーいずれの起用法でもキーマンになるだろう。
 なお、「選手・スタッフ・職員 総勢90人で埼玉入り」をするらしい。これに長期離脱の駒井が入っているのかわからないが、おそらく選手+スタッフで45人程度と考えると、札幌の職員は45人程度なのだろう(鹿島の職員数は改めてすげーなと思わされる)。

1.2 川崎


×(非帯同、欠場確定)※特になし
×(負傷等で欠場濃厚)DF馬渡(10/9鹿島戦での左膝外側半月板損傷)
*(負傷等で出場微妙)MF阿部(膝の痛みで10/20ガンバ大阪戦を欠場)
FW小林(10/21練習試合での右足負傷)

IN(夏マーケットでの加入)GK馬渡(愛媛FCから期限付き移籍)
OUT(夏マーケットでの放出)DF舞行龍(アルビレックス新潟へ完全移籍)
MF鈴木(ガンバ大阪へ期限付き移籍)
MFカイオ・セザール(V・ファーレン長崎へ期限付き移籍)
FW宮代(レノファ山口FCへ期限付き移籍)

 AFCチャンピオンズリーグに参戦していたので当然といえば当然だが、前線は2チームで回せそうなほどの選択肢がある。トップは小林の負傷に加え、公式戦ここ5試合は交互にスタメン起用されており順番でいくとダミアン。トップ下はダミアンと同時起用が多く、相性が良さそうな脇坂を予想する。
 中盤は負傷離脱していた大島、齋藤、U-22代表招集によりたびたび離脱していた田中も戻っておりほぼベストメンバー。左は阿部のコンディションを考えると、長谷川の起用が予想される。
 一方、最終ラインは右側の2ポジションに、これという適任者がいないためか流動的な起用が続く。CBは開幕当初のレギュラーで4月から離脱していた奈良、9月から離脱していたジェジエウが10/21の練習試合で実践復帰。奈良は90分プレーしたというが、カップ戦決勝というシチュエーションを考えると、残りのメンバーから、前節も先発した山村の起用が有力。札幌の高さ対策にもなる。

2.今期の対戦の振り返り

2019年6月14日(金)明治安田生命J1リーグ第15節 川崎フロンターレvs北海道コンサドーレ札幌 ~カオスの調停者~

 宮澤とルーカスを欠き、ジェイとアンロペも故障明けの札幌は川崎にボールを渡し、自陣からのダイレクトな攻撃に活路を見出す。しかし(毎度のことながら)札幌の人を受け渡す守備は川崎の流動的な攻撃に翻弄される。前半からク ソンユンの度々のビッグセーブでなんとか0-0を維持し、武蔵のPKで1点のリードを奪って折り返し。後半はカウンターにも結び付かず防戦一方の展開で、小林のヘッドで川崎が追いつく。その後も川崎が攻めるが1-1で試合終了。

3.戦術面の一言メモ

3.1 札幌


コンセプト5トップで攻めて5バックで守る。相手の攻撃機会や攻撃リソースを奪う(守勢に回らせる)。
ボール保持
(自陣)
1-4-1-5や1-5-0-5の形からサイドのDFが持ち上がってシャドーやトップに縦パスを狙う。
ボール保持
(敵陣)
引いて受けるチャナティップに預けての打開。フィニッシュは右の白井の仕掛けから。
ボール非保持
(敵陣)
「ボールを取り上げたいチーム」との対戦を除いてはハーフウェーライン付近まで撤退。
ボール非保持
(自陣)
1-5-2-3でセットしてマンマーク基調で守る。最終ラインはなるべくスライドせず5枚を残しておく。
ネガティブ
トランジション
前線の3選手はなるべく下がらず即時奪回に切り替え。後ろはすぐに戻って人を捕まえる。
ポジティブ
トランジション
自陣で奪った時はトップ(ジェイ、アンデルソン ロペス)、シャドーのチャナティップを探して預けて速攻を狙う。
セットプレー攻撃キッカーはほぼ全て福森に全権委任。ファーサイドのターゲット狙いが多い。ゴールキックはなるべくCBにサーブしてからポジショナルなビルドアップを狙う。
セットプレー守備コーナーキックではマンマーク基調。
その他memo同数で守る3バック相手なら対人に強い1トップ2シャドーがターゲットで質的優位を活かす。ギャップのできやすい4バック相手ならWBへのサイドチェンジを狙う傾向が強い。

3.2 川崎


 「前線の選手は裏抜けが少ないのでネガトラが速い」というのは非常に腑に落ちる。

コンセプトスモールフィールドでの戦いに持ち込み、選手の質とユニットのコンビネーションで局面を制圧。
ボール保持
(自陣)
DFと中盤センターはあまり広がらず、あまり動かずに中央でボール保持から家長やトップ下に預けながらゆっくり前進。
ボール保持
(敵陣)
サイド(特に左)に人を3~4人集めてコンビネーションで突破からのクロス。中央も同様に人を集めて、基本的に足元でのプレーからの突破を狙う。
ボール非保持
(敵陣)
なるべく[1-4-4-2]は維持したまま前線4人+1人で高い位置から人を捕まえ、成功すればショートカウンターを狙う。4+1人でのプレスが失敗すると自陣ゴール前に最終ラインを引き直す[1-4-4-2]へ移行。
ボール非保持
(自陣)
ブロックが整ったら人を捕まえる。最終ラインのCBはスライドするので相手FWが流れるタイプだと中央から不在になることも。
ネガティブ
トランジション
密集攻撃からボールホルダーを囲い込んで即時奪回を狙う。
ポジティブ
トランジション
自陣で回収後は長いパスで前線の選手を走らせての、まずはダイレクトな展開を狙う。
セットプレー攻撃キッカーは中村、左足なら下田など。
セットプレー守備CKではマンマーク基調。
その他memoダミアンが出場している時はロングボールの比率がやや多め。

4.想定される互いのゲームプラン


 札幌としては、まともに撃ち合いたくない。川崎に持たせて(できることなら塩漬けにしながら)背後のスペースを突く、という6月のリーグ戦と同様のプランを考えていると思う。
 ただ、それが6月にあまり機能しなかったのは、札幌の前線の選手のコンディション(負傷明けの選手が多く、また武蔵は初めて右シャドーに入った)もあっただろうが、「3.2」でも書いたように川崎はネガティブトランジションが強烈だから。その点では、6月の試合でスタメンを外れた、前を向けば相手にとって脅威となるアンデルソン ロペスの起用法がキーになりそうだ。

 川崎は札幌を意識するとしたら、ミシャチーム得意の横幅アタックをあまり自陣ゴール前で発生させたくないはず。札幌を自陣ゴールから遠ざける意味でも、川崎の守備の重心は高くなることが予想される。

5.想定される試合展開とポイント

5.1 川崎の特徴と札幌の狙いたい展開


 想定される、平均的なポジション(互いのボール保持/非保持時)を基にしたマッチアップは概ね以下。共に、左サイドの選手が高めのポジションを取ることは共通している。
札幌ボール保持時の平均的なポジションとマッチアップ

川崎ボール保持時の平均的なポジションとマッチアップ

川崎ボール保持時の平均的なポジションとマッチアップ

 この「平均的なポジション」は、札幌は恐らく多少のメンバー変更があっても変わらない。川崎は、左のにMFに入る選手によっては、長谷川のようにサイドに張らない場合もある。

 この図で何が言いたいかというと、川崎は中央に人を集める傾向があり、そして「中央でボールが行き来する展開」に強い。人を中央に集めており、かつその”狭さ”がデメリットにならないだけのクオリティがある。そして、攻⇔守で札幌ほどのポジション移動をしないため、(ボールが行き来する)速い展開になった時に、攻⇔守の切り替えを迅速に行えるためだ。

 前節セレッソ大阪戦の記事で、「広く攻めて狭く守る」ことがサッカーの基本だと書いた。川崎は「狭く攻めて狭く守る」チーム。狭く攻めることは一般にセオリーに反している。が、セオリーを無視しているのは、その問題さえ解決できれば、ゴールはゴールライン上の中央にあるので、中央を突破するのが一番効率がいいとする考え方があると思われる。川崎はデメリットを打ち消すだけの、密集地帯での攻防に強さがある。言うまでもなく、選手個人の能力と、2~4人の選手が関与するユニットとしてのプレーの洗練さ(普通はあれだけ近寄っていると動きが被り、互いに打ち消して機能しない)によるものだ。
(イメージ図)「中央でボールが頻繁に往来する展開」だと川崎に分がある


 だから札幌は、基本的にはボールが頻繁に行き来しない展開に持ち込みたい
1)札幌のゴール前にずっとある
2)川崎のゴール前にずっとある
3)札幌のゴール前にあり、川崎のゴール前まで運ばれていくが、そこから帰ってこない→札幌は得点か、それに近い状態になっている
4)川崎のゴール前にあり、札幌のゴール前まで運ばれていくが、そこから帰ってこない→札幌は失点か、それに近い状態になっている
5)札幌が横幅を使ってボールを動かしている

とパターンを整理すると、4)は避けたい。2)は難しい。志向したいのは5)だがそれも難しい。となると1)か3)、札幌のゴール前のプレー機会が多くなるのは覚悟での戦いになりそうだ

5.2 札幌ゴール前での4on2


 その、札幌の「ゴール前でのプレー機会」のパターンの1つ。札幌が後方でボールを保持している時の展開を考える。

・初期配置は概ねこのようになるはず。川崎は[1-4-4-2]で、2トップは高めのポジションから人を捕まえてくることが多い。札幌は、ここはいつもの形で、キム ミンテ+中盤の2人で対応したいところ。
・札幌の前線3人は「FW2人+チャナティップ」。なので、川崎はCB2人が左寄りのポジション。
・チャナティップは頻繁に落ちて荒野や深井を助けるが、川崎は、神戸戦でイニエスタに密着していた田中がスッポンマークで対抗してくることが予想される。
札幌ゴール前でのボール保持時の「4on2」と前線の「2on2」

 6月のリーグ戦での対戦では、序盤はジェイへのロングフィードが何度か選択され、そのジェイへのフィードから札幌が先制点となるPKを獲得している。しかし、このゴールキックから”セット”されたプレーならばともかく、ジェイへのフィードを選択した時の問題は、川崎相手に引いたポジションをとっていると、ジェイに当てた後のサポートが遅くなり孤立無援状態に陥ることがある(ジェイが味方に「もっとサポートを速くしてくれ」とするやり取りをしている場面もあった)。
 そのため、ジェイへのフィード一辺倒ではなく、後方の「4on2」を起点にしたビルドアップの時間が生じる、6月の対戦と同様の展開が予想される。この時はアンカー荒野が下がりすぎる問題があった。「4on2」を4人で攻略して、荒野がより高いポジションで前を向けることで次の展開…5トップで時間をかけずに攻撃に移行する形に繋がる。逆に、この展開が失敗すれば川崎の前線4人でのカウンター。リスクとリターンを常に天秤にかけた状態での攻防は荒野がカギを握っている。
荒野が下がってこなければ中央から展開できる

 なおジェイとジェジエウのマッチアップは4:6くらいでジェジエウが優勢だった(あくまで印象論)。4でも起点を作れれば、川崎相手には大きい。相手が山村になるとパワーバランスはどうか。アンデルソン ロペスの突進力も捨てがたいが、久しく「本物のFW」と戦っていない山村との勝負を、スタートからジェイに託す価値は十分にあるだろう。

5.3 我慢の先に


 川崎のボールを保持攻撃の特徴は、ポジションチェンジと密集。ボール周辺のエリアに過剰なほど人を送り込み、また家長や脇坂は横方向にかなりのポジション移動を行う(基本的にはボールに寄っていく)。札幌の「人を捕まえて受け渡す」守備は非常に相性が悪い。人が増え、また配置が目まぐるしく変わると、個々の「どこまでついていき、どこで受け渡す」の判断が難しくなる(相手の人ではない、別の判断基準にしないとついていけない)からだ。
 それでも基本的なマッチアップは決まっていて、長谷川vs白井、進藤は白井の斜め後ろを見ながらハーフスペースに寄ってくる選手(トップ下の選手が有力だ)、右シャドーの武蔵も、川崎の左SB(車屋)まで下がって捕まえることになるだろう。フジテレビで「主役」とされている武蔵だが、白井と共に我慢の時を過ごすことになりそうだ。
川崎の得意の攻撃パターン(密集から抜け出してサイド突破)

 2019シーズンの中盤戦から定着した、「右シャドー・武蔵」。これが初めて実装されたのが6月の川崎戦だ。恐らく、この時の狙いは川崎の左SBの背後を狙うこと。ただ、この時は武蔵が想定以上に守備に追われ、ジェイとのチェーンが機能しなかった。
 恐らくトランジション後にダイレクトにジェイを使うのではなく、チャナティップをクッションとするなど、速攻の形はよりデザインされた形で来ると思うが、その思惑通りになるか。狙われることがわかっている、車屋の振る舞いも気になるところ。
サイドをえぐられる前に食い止めてジェイに当てての速攻を狙いたい札幌