2018年10月7日日曜日

2018年10月5日(金)19:30 明治安田生命J1リーグ第29節 横浜F・マリノスvs北海道コンサドーレ札幌 ~最低限の合理性~

0.プレビュー

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは4-4-1-1、GKク ソンユン、DF早坂良太、進藤亮佑、キム ミンテ、菅大輝、MF駒井善成、荒野拓馬、深井一希、チャナティップ、三好康児、FWジェイ。サブメンバーはGK菅野孝憲、DF石川直樹、MF兵藤慎剛、稲本潤一、白井康介、小野伸二、FW宮吉拓実。福森、宮澤、都倉がいずれも累積警告4枚で出場停止。代わりに起用されるメンバーはこれまでの傾向から予想できたが、その配置は、前日に幾つかのメディアで「これまでにない布陣」が示唆されており、蓋を開けてみればまさかの4バックだった。

 横浜F・マリノスのスターティングメンバーは4-1-2-3、GK飯倉大樹、DF松原健、チアゴ マルチンス、畠中槙之輔、山中亮輔、MF扇原貴宏、大津祐樹、天野純、FW仲川輝人、遠藤渓太、ウーゴ ヴィエイラ。サブメンバーはGK杉本大地、DF栗原勇蔵、MF喜田拓也、中町公祐、久保建英、FWオリヴィエ ブマル、イッペイ シノヅカ。夏場以降、チアゴ、ドゥシャン、畠中、久保建英を補強し、3バックの3-4-2-1(この数字の羅列はミシャチームと異なり配置をそのまま表す)を試すなど試行錯誤を続けてきた。その甲斐もあってバランスが向上、9月に入って3勝1敗と持ち直し、前節仙台戦では5得点の快勝を収めた。依然として降格圏がちらつくが、危機的な状況からは脱しつつあると言えるかもしれない。




1.奇策4バックの理由


 「まさかの4バック」と言っておいてだが、攻守ともに大きく形を変えるミシャチームにおいて、○-○-○-○という数字の羅列はあくまで便宜的なものでしかない。それでも便宜的に、ボールを持っていない時の札幌の人の配置を示すと、4-4-1-1に近い形だったと思う。
 ただ、よく見ると実は根底にある発想、考え方はいつもの試合と、またミシャが就任前にチームを率いていた四方田監督のチームと同じだった。

1.1 最終ラインは「+1」の原則


 最初に考えられていたのは、ボール保持時に3トップがワイドに開くマリノスに対し、DFを何人置いておくか、という点。ミシャも語っているように、3トップに対して5バックを常時用意しておく形だと、守備側は人が余り気味になる。最終ラインで2人多くなっているということは、裏を返せばそれ以外のエリアで2人足りない状態で戦うことになり、(運用に工夫がなければ)中盤や前線で相手に圧力をかけることは困難になる。まとめると、中盤から前の枚数を確保するため、最終ラインは最低限の枚数にしたい、サッカーの鉄則に沿い、相手の攻撃枚数よりも1人多くしておこう、というのが1つ(下の図の①)。

1.2 中間ポジションをとらせないためのマンマーク


 次に、マリノスのミドルゾーンでの対応について。
 後述するがマリノスはポジションを相手の立ち位置によって変化させる。例えば、SBの山中や松原がサイドから中央に入ってプレーすること(アラバロール)が話題になっているが、これはサイドよりも中央にいた方がCBだけでなくアンカー(扇原)、インサイドハーフ(天野、大津)と近い位置、かつ重ならない位置を取り、パスコースを作ってボール保持時にサポートができるため。
 加えて、ボールを失った時に味方と近い位置にいるので、相手選手を複数で囲い込むことができる。
 それでいて、一般的な守備陣形である4-4-2であれば、アンカー扇原の脇のエリアは相手が優先的に人を配さないので、山中や松原は最初にフリーになれる。フリーになった選手を捕まえようと相手が動くと、そこにスペースができる。次はそのスペースを狙っていけば、後出しじゃんけん的に優位なエリアを使える、そのためのポジションをとろう、ということになる。
3つのエリア分けて考える札幌の守備対応

 札幌はマリノスがポジションを動かしてくることの対策として、じゃあ最初からこっちも動く前提で守ればいいじゃん、となる。山中が中央に絞れば、駒井はその動きについていく。天野が中盤から消えれば、荒野は前でも後ろでもついていく。他も同様である。
 大事なことは、ついていく人の組み合わせが基本的に決まっている。よって枚数不足に陥ってはいけない。このやり方では、1人1人役割が分かれる。5人の仕事を4人でこなすやることはできない。
 よって、マリノスの中盤に登場する選手と同じ数だけ人が必要になり、またその基本ポジションに近い形に人を置くことが望ましい。マリノスは扇原-大津-天野が逆三角形なので、札幌は正三角形に荒野-深井-三好を配す。サイドには駒井とチャナティップ(上図の②)。

1.3 最前列は知らん


 最終ラインは札幌が1枚多い、ミドルゾーンは同じ人数にした。となるとマリノスの最終ラインと、札幌のトップは札幌が1人少なくなる。(上図の③)
 ここは捨てる。捨てる、"abandon"(英語は毎回適当である)と書くと語弊があるが、守るのはどうせジェイである。少なくともゴール前に比べると軽視されている。
 どうせゴールから離れているので、ここから直ちに問題が起きることはない。ミドルゾーンに入ってきたら、各自決められたやり方で対応すればよい(机上論としては)。

1.4 原理はいつもと変わらず


 原理や考え方を説明すると上記1.1~1.3の通りだが、このように縦にゾーンを切り分けて、それぞれ人を分割し、対応するやり方はこれまでにも何度かみられている(例えばこの試合)。分割された3つのゾーンは、それぞれの対応において縦のチェーンが意識されない。味方をサポートに行くことよりも、担当が明瞭に決まっていて、各々が役割を変えたりスライドすることが少ない。
 特に、縦のゾーン間でこの傾向は顕著で、この試合で言えば右サイドの駒井と早坂は縦に並んでいるが、それぞれが互いのマーク対象への対応を相互的に助けたりすることは少なく、基本的に決められた相手をずっと守ることになる。

2.スペースを見つけよう


 札幌が3分割した各エリアでの攻防を、特にマリノスがボールを保持している時を中心に見ていく。なお、前半のボール支配率は札幌4:マリノス6程度で推移していった。

2.1 弱弱しい札幌のスイッチ

2.1.1 マリノスのポジショナルなビルドアップの始点


 札幌もチャレンジしているが、GKをビルドアップに組み入れることにマリノスはより強い拘りを持っている。それはボール保持の始点をGKにすることで、最後尾にGK飯倉・CB2枚・アンカー(扇原)の4枚で菱形を作るため。菱形はそのままパスコース、すなわち前進経路になる。札幌は初期状態で、ジェイと三好が中央にいて、扇原を隠すポジションをとっているが、CBのチアゴと畠中はオープンになっている。よってこのままでは、マリノスは2つの前進経路を持つことになる。
GK飯倉を起点に前進経路を3つ作る

2.1.2 三好のスイッチとSBのアラバロール


 オープンな経路のうち、右CBのチアゴに展開すると、札幌はジェイがチアゴをケアするために寄ってくる。これをみてチアゴは飯倉に戻してやり直す。塞がれていない経路…畠中を使って前進するためである。
ジェイが動くとGKを使って反対サイド(オープンな別の経路)を使う

 ここで、畠中がに渡ると今度は三好がチェック。所謂「守備のスイッチを入れる」状況になる。三好が中央から畠中に寄せると、畠中から扇原へのパスコースを消しながら寄せることができる。
 しかし扇原が空く。畠中からは出せなくても、飯倉に戻してパスコースを確保すれば、中央の扇原が最短距離で使えることになる。
 そこで、札幌は「誰か」が扇原を消す必要になる。序盤1度あったのは、チャナティップが松原のマークを捨てて扇原に寄っていく。
 すると、扇原は消せるが今度は松原がフリー。このフリーな選手、そして空けられたスペースをマリノスは利用する。松原はこの状況で、中央のレーンに進出する。周囲の選手と近く、重ならない位置をとって、ビルドアップの出口(最終的にボールを落ち着かせることができる人や場所)を作る。
攻撃サイドを変えると三好が動くことで、連動し守備のスイッチが入る

2.1.3 弱弱しいスイッチと欠落していた合理性


 札幌の問題は2つ。1つは、マリノスが飯倉に戻せば、半永久的にやり直しをできる構図になっていること。もう一つは、上記の松原のように必ず誰かが空いてしまうので、1on1で捕まえていくだけではハメられなくなっていること。後者については、例えば松原がオープンになり使われる時に、ジェイや深井がマーカーを捨ててサポートに行ければ解決できるが、深井はともかくジェイにそうしたハードワークは期待できない。三好が最初アンカー扇原を見ていて、扇原を捨てて畠中に出ることや、チャナティップが松原を捨てて扇原に出ることは、ある意味で1人で複数の役割を担っているハードワークであるが、ジェイは守備時は基本的に1つの仕事しかできない。
 もっとも、先に書いたようにこのエリアは「捨てている」。よって、この程度の問題が生じることは想定内だったと思われる。
 ただ、想定内であることと、それで勝てるための計算ができていたか、ということは別問題になる。

 なおマリノスは左の畠中から前進することが多かった。これは、札幌とマリノス、どちらが仕向けていたかというと札幌の側だったと思う。マリノスとしてはジェイのサイドから運ぶ考え方もあるし、それによりチャナティップを押し込むことができる。札幌はチャナティップと菅を使ったカウンターを仕掛けることを考えると、札幌から見て右サイドから攻めさせ、ボール回収後に左に展開する、というやり方をイメージしていたと思われる。

2.2 ミドルゾーン以降の攻防

2.2.1 想定通り人を捕まえる札幌


 マリノスがビルドアップの出口を見つけ、ミドルゾーンでの攻防に移行した時は概ね以下のような図式になっている。黄色の線で示したように、札幌は中盤4人でマンマーク。扇原は(少なくとも序盤は)ジェイや三好がプレスバックしてオープンにならないようにしている。サポートしパスコースを作ろうと松原が移動してきたら、チャナティップがそのままついてくる。
 こうなると畠中からの前進のコースは基本的に全て消されている。飯倉に戻して攻撃のサイドを変えてもいいが、そのバックパス→やり直しの間の時間で札幌は態勢を整えることができるので同じ構図になってしまう。
中盤は人を捕まえ最終ラインは1人余らせて待ち構える

2.2.2 スペースを見つけよう(そのためのスペースを作ろう)


 ここで、ポステコグルー監督のの試合後のコメントを引用する。
選手たちに常に伝えているのは、“スペースを見つけろ”ということです。サイドバックだからここにいなければいけない、ミッドフィルダーはここにいなければいけない、というのではいけない。サッカーの試合では、スペースが必ずあるので、それを見つけることが大事です。
「スペースを見つけよう」、そして「味方が使うためのスペースを作るために動こう」。
 この試合、マンマーク基調の札幌は人の移動についてくることを利用する。序盤、10分足らずでマリノスは札幌の原則に気付く。天野と大津は、ハーフスペースから大きく逸脱した位置に、それぞれ荒野と深井を引き連れて移動することが多くなる。すると札幌の中央はがら空きになる(これも、想定・許容していたはず)。そこにトップからウーゴが降りてきてポストプレーで基点を作る。
札幌がついてくるのを利用してサイドへの移動に寄り中央のスペースを作る

2.2.3 裏に走られることの恐怖


 机上論では、進藤かキム ミンテがウーゴに前を向かせず、ウーゴからの展開は、マンマークで他の選手がケアしていれば脅威はない。しかし、実際はウーゴにボールが入ると、裏へのパスを呼び込むためにマリノスのウイングが走り、早坂や菅はその動きを捕まえなくてはならないため、ボールと人を同時に捉えられず、後手に回る対応が多くなってしまう。特に、5バックのWB(基本的には、近くにCBがいるのでカバーしてくれる)しかやったことがない両選手の負担は大きくなる。
 一方で進藤とキム ミンテは、守備対象はウーゴだが、遠藤や仲川が走ってくる裏のスペースに無責任でいいか?となる。勿論ここはCBが守らないともたないため、ウーゴに強く当たることもできなくなる。
前を向いた状態で持たれると、DFは人とボールを同一視野に捉えることが難しくなる

3.いつもの形への移行のチャンスを窺う札幌


 札幌のボール保持時の展開を見ていく。ポステコグルーのマリノスはポジショナルなスタイルだとしてたら、攻防を一体的に捉える志向が特に強いタイプで、逆に我らがペトロビッチの札幌は、恐らくJリーグでも最も攻守を分離的に考えて運用している。この点では対照的な両チームがかち合うとどうなるかと思っていたが、結論としては、それなりに札幌はマリノスの守備をかいくぐって前進することが、少なくとも前半はできていたと思う。

3.1 変形のパターン(原理はいつもと同じ)

3.1.1 菅の大移動


 2.で示したように、前線~ミドルゾーンでボールを回収することは難しそうだった札幌。よって札幌のボール保持機会は必然と、ソンユンのセーブやマリノスのシュートミス、その他自陣ゴール前でボールを回収することによって生じたケースが多くなり、札幌の攻撃は自陣のかなり低い位置から始まる。
 マリノスのボール保持時の札幌のベーシックな陣形は、↓の4-4-2ないし、4-4-1-1に近い配置になっているが、これが札幌ボールになり、後方でボールを回しながら陣形を変えていくと、
札幌が守備→攻撃に移行しようとする時の基本配置

 一つはこのパターンになる。まず、「いつも通り」アウトサイドで大きくタッチライン際に開き、高いポジションを取ることで相手のDFを釘付けにし、かつ相手の選手間をワイドに拡げる役割を担う選手が2人必要になる。この点だけは何があっても(例え9人で戦う羽目になっても)曲げないミシャ。
 左は守備時SBの位置にいる菅、右は駒井である。駒井はこの試合、守備時4-4-1-1の2列目右にいるので、守備→攻撃時の移動距離はそこまで多くない。問題は菅で、いつもの5バックで守っている時と同じく最後方から移動していくのだが、この試合は最終ライン4枚ということでいつも以上に最終ラインから離れられず、気も抜けない状況から攻撃時、勢いよく前に飛び出していく必要がある。
 5バックだと、局面により1枚が欠けていても4枚で対処できる。だが4枚が3枚になるのは、特にマリノスのような3トップの相手に対しては、守備強度の点でかなりの問題が生じるため、いつも以上のハードワークが菅には求められる。
後方でポゼッションしつつ、攻撃しやすい形に移動する①

 後方は、進藤とキム ミンテに深井を入れた3バックに近い形+早坂で考える。深井は菅の背後を守るため、必ず左に移動する。キムミンテと進藤がそれぞれ右にスライドして、いつも担っているポジションに割と近くなる。

3.1.2 駒井の気配りと早坂も大移動


 もう一つのパターンは、駒井がサイドに張らず中央に入ってきた場合が挙げられる。これは3バック+荒野の計4人でボールを前に運ぶことが難しいと判断したときに、駒井は「いつものように」中盤に加勢してパスコースを作り、またそのボールを運ぶ能力をもって味方を助ける。
 すると駒井の代わりにサイドで張る選手が必要になるが、早坂が最後方から、菅と同じようにポジションを一気に上げる。早坂の守備→攻撃で抱える守備負担は菅と全く同じ状況で、サガン鳥栖時代から運動量豊富な選手として鳴らしてきた早坂でも、ここで求められる走りの質はかなりの要求だったと思う。
後方でポゼッションしつつ、攻撃しやすい形に移動する②

3.2 ビルドアップvsハイプレス

3.2.1 中間ポジションを取るマリノスの守備


 札幌がボールを保持すると、マリノスは前線から守備を敢行しボールを取り上げようとする。4-1-4-1で守備を行うマリノスは、基本的には前5人がハイプレス要員として割り当てられる。
 対する札幌は、進藤、キム ミンテ、深井、荒野は確定で、高頻度で助けに来る駒井、菅ほど思い切ったポジション移動は行わない早坂を含めた6枚がビルドアップ要員だと考えることができる。
 マリノスは5人の選手が、札幌の選手の中間となるポジションをとり、ボールを受けた選手を捕まえられるようにする。まずトップのウーゴがCBの進藤とキム ミンテの中間で、右の仲川は深井とキム ミンテ、左の遠藤は進藤と早坂…という具合に、1人の選手が2人をケアできる位置に立って札幌の前進を阻害する。
札幌の変形を妨害するためのハイプレスを、荒野や駒井のドリブルで打開

3.2.2 荒野への期待


 札幌は荒野がアンカー、深井がCBに移動する形になっていたが、守備を考えると中央のスペースを守ることに長けた深井が中央の方がいいのでは?と思っていた。ただおそらく、荒野が中央を任されていたのは、そのボールを運ぶ能力に期待してのものだったと思う。
 ↑の図に示したように、最終ラインの選手はマリノスの2人に監視されている。ただ荒野は大津、駒井は天野にしか監視されておらず、ほかの選手に比べてオープンになりやすくなっている。そして自陣のスペースがある状況では、荒野は前を向けるしドリブルで持ち運べる能力がある。荒野、駒井、そしてチャナティップに預けることで札幌はマリノスの前線守備を打開し、相手陣内に侵入を試みる。

3.3 20分間の奇襲


 立ち上がりをやり過ごすと、20分頃までは札幌は何度かマリノスのゴール前に迫る。16分には、菅のグラウンダーの折り返しをチャナティップがダイレクトシュートでネットを揺らしたが、ジェイがプレーに関与したとの判定でノーゴール、という場面もあった(この判定は妥当だと思う)。
 20分までマリノスにとって脅威となっていたのは、守→攻のトランジションで一気に前のスペースに飛び出す”SB”菅のオーバーラップだった。マリノスは前5枚で札幌に圧力をかけるが、これには必ずSHの仲川と遠藤が参加する。後方は扇原や、アラバロール気味に中央を守っている山中がいるが、基本的には前線守備を荒野や駒井がかいくぐると、4バック+扇原の5枚でペナルティエリア幅を守っているだけになる。
ハイプレスを突破すると横幅4枚で守るマリノスには大外の菅が脅威になる

 よりバランスを気にした振る舞いをする早坂に対し、菅はポジティブトランジションでは、ほぼ決まって前線に駆け上がる。マリノスの人の配置から考えると、松原が菅を見ることになるが、左サイドには”SH”チャナティップもいて、この予想と違う形に直面した松原はどちらを見るべきか迷ってた迷いが生じていたようにも思えるし、また「元々のSH」であったチャナティップへの対処を優先すると決めてからも、菅への対応は遅れ続けていた。
 ただ先に示したように、菅がこの動きを90分続けることはまず不可能。以降の時間帯は、変則システムの問題が徐々に顕在化していく。

4.冷静な逆転劇


 20分以降一気に両チームのスコアが動く。0-0が1-1になるまでの1得点ずつは、上記の「1.」~「3.」で言及した、序盤20分間で何度か再現性をもって展開された事象の延長上にあるものだった。

4.1 ジェイのクオリティ爆発と荒野の一か八かアタック


 21分の札幌の先制点は、マンマークで前線守備をしていたところ、天野がアンカー扇原の付近でボールを保持したときに荒野が斜め後方から強く当たってボール回収したところからだった。
 天野はファウルをアピールしたが、確かにボールを体で隠しているところを強引に体を当てて倒したともとれ、微妙な判定だったと思う。
 戦術的に重要なのは、この荒野のように、札幌の前線守備は「2.1」に示したように常に1人~2人少ない人数でマリノスの選手を追い回す状況で繰り広げられていて、その中で相手のミスを誘ったりボールを回収するためには、この荒野のように1人で二度追いをして2人をチェックした上で、遅れてボールホルダーに当たることになるためファウル覚悟でも強く当たるなどしないと成功しない。この荒野のプレーは大殊勲だったが、チームとして再現性のあるボール奪取だったかというと、疑わしいものだった。

4.2 潰せないCBと同時に見れないSB


 その3分後、仲川の同点となる得点は、「2.2.2」~「2.2.3」で示した形とほぼ全く同じで、ウーゴにボールが入った時に札幌のCBはマークが決まっているはずなのに当たれない。そしてウーゴが前を向くと、選択肢が一気に増え、視線を操られた菅はマーク対象の仲川にずっと付いていくことが難しくなる。前節仙台戦で50メートルドリブルシュートを決めた仲川に菅の背後を取られた状況でほぼ勝ち目なしだった。

4.3 逆転までの経緯

4.3.1 山中のインナーラップと進藤の警戒


 一方で20分以降、それまでに見られなかった新たな形もあった。
 20分~30分頃までに増えていったのが、マリノスは最終ラインを最初から3枚にして山中をハーフスペースに置いておく形への変形だった。前節仙台戦でもみられた形である。ハーフスペースを開けるために、天野は山中と入れ替わるように外に流れる。縦に遠藤と並ぶが、遠藤が早坂を引き連れているので、札幌のハーフスペースは駒井のにみになっている。
天野と遠藤がサイドに張ってハーフスペースを空ける

 後は単純な展開で、札幌のどこまでもついてくるDFを利用して空けたレーンにトップスピードで山中(天野もたまに)が侵入してくる。この形でサイドを割られてクロス、が20分~30分頃だけで3回程度あった。
ご開帳されたスペースにトップスピードで山中や天野が突っ込んでいく

 これを見て、早坂の隣を守る進藤が警戒を強める。マリノス左サイドでの展開が始まると、進藤はウーゴをミンテに預け(自分の視界にあまり入れない)、進藤自身は最初からハーフスペースに立ち、スペースを塞ぐようにする。

4.3.2 松原のオーバーラップ


 この形後ろ3枚でスタートする形にずっとしていくのかと思えば、一辺倒にはならず反対サイドからのアタックも使い分ける。この時、仲川が内側に絞り、松原は大外のレーンをオーバーラップする形で使っていくことが何度か見られた。
 これにより、札幌が困るのはカウンターの軸としたいチャナティップが最終ライン付近まで押し下げられてしまう。もっとも無尽蔵の運動量を誇るチャナティップならば、まだマシだったと言えるかもしれないが、基本的に札幌のチャンスはほぼチャナティップが絡んでいるので、マリノスからするとその脅威を封じ込めることでも効果的だったと思う。
大外を空けて松原の滑走路にすることでチャナティップを押し込む

 42分、まさに「4.3.1」で示した山中のオーバーラップから何度目か知らないが同じようにハーフスペースを割られ、クロスをウーゴ ヴィエイラに合わされてスコアは1-2。

5.いつもの形に戻そう

5.1 最初のミッション

5.1.1 捨てることは許されない


 後半スタートから札幌は早坂→石川に交代。いつもの4-1-5⇔5-4-1(5-2-3)可変システムになる。
46分~

 1点を追いかける展開で、相手はボール保持に長けたチームということで、まずボールを回収する建設的なアプローチが必要になる。「1.」でジェイが担当する最前線のエリアについて、「どうせジェイなので捨てる」と書いたが、追いかける展開になると捨てられなくなる。何らかテコ入れをした上で現実と戦わなくてはならない。

 後半立ち上がりは以下の形で入る。三好とチャナティップを前に出して、ペナルティエリア幅に開くチアゴと畠中を見させる。ジェイは「たまに」人に圧力をかけるが、それは数に入れられないレベル。せいぜい、飯倉へのバックパスを抑制する程度だった。マリノスのSBはWBの前進守備。
 かみ合わせ上、自然とこう決まるが、問題は中央のエリアで、札幌最終ライン3枚はマリノスの3トップと、広大なスペースを背にして3on3という危険な状況。それ以上に、中盤で深井と荒野が前半と同じマーク対象で考えると、アンカー扇原は余ってしまう。荒野が天野を捨てて対応する形が多かったが、そうなると天野がフリー(この荒野の判断は当然というか、個人の判断や選択に解決策を求める設計であることがおかしい)。49分には早速天野から速攻がスタートし、ゴール前に迫られている。
扇原が空いてしまうので荒野は天野を捨てて扇原へ

5.1.2 気合の二正面作戦


 55分頃から以下の形になることが多かった。荒野は前で扇原をマーク。天野は駒井が中央に絞って対応する。すると駒井が見ていたSB山中は、三好が気合で畠中と二正面作戦。チャナティップも同様であった。これで菅を最終ラインに移して、マリノス3トップに対して4on3を確保。
 三好は札幌加入後、おそらく一番走っていただろうというパフォーマンスを見せるが、それでもこの二正面作戦にはやはり無理があり、ここから運ばれてしまうことが多くなる。
天野は駒井が見るが、三好とチャナティップは二正面作戦を強いられる

5.2 読み切ったバックパス


 上記の形で守備を行う関係上、札幌は本来WBとして運用したい、左の菅と右の駒井の位置取りの高さには10mほどの差異が常時、生じることになる。ボールを回収した後の展開は、駒井が前目で振る舞え、かつジェイがたまに流れてくる右サイド基点となることが多くなり、菅の攻撃参加はかなり減少する。事実上、4バックに5トップをぶつけるミシャスタイルは瓦解している。

 右サイドを起点とした札幌の敵陣侵入は、最終的にはこれもいつもと同じく、ファーへのロングフィードで展開を打開しようとすることが目立った。この時、左サイドで菅が大外にいないので、中央のジェイを超えたボールはチャナティップの裏取りを狙っていたように思えたが、このボールはほとんどすべて180センチの松原がチャナティップよりも高い打点で触り、かつ飯倉に頭でバックパスすることで完全に攻撃の目を摘んでしまう。
 ボールの精度にも課題があったが、大外を突く菅を欠き、ミシャアタックが不完全なままでは、チャナティップの飛び出しはターゲットとして物足りないただの小さな選手に成り下がる。札幌のサイドを押し込めば、この攻撃の威力は半減すると読み切っていたのかと思うほど、松原や畠中は後半、冷静に札幌のクロスを処理し続けていた。
逆サイドへのクロスはほぼ全て松原がカット


 こうなるとゴール前に飛び出す選手が欲しくなる、ということで、予想通り3人目の交代は三好→宮吉。しかし、宮吉が右に入るも、対角線にボールを供給できる福森がおらず、菅も依然として高いポジションを取ることはまれだった。最後の15分間は、パワープレー気味の放り込み以外に成す術なかった。

6.雑感


 思うことは2つ。
 1つは追いかける展開となった時にボールを回収するための合理的な手段、備えがあまりにもなさすぎる(最初から最後まで、相手よりも少ない人数でマンマークしよう、しかしていない)。
 もう1つは、先日「Jリーグタイム」でミシャが前節鳥栖戦での「福森のクロスに進藤がヘディングシュート」という展開がみられたことを自賛していたが、このようなDFがポジションにとらわれずに攻撃参加することで相手の対応が難しくなる、という発言の意図はわかる。
 だが、その視点がありながら、同じようにフレキシブルなポジションを取って(もちろん、ミシャチームとは設計が全く違うけど)攻撃参加してくるような相手に対して、こちらは固定的にマンマークで人についていくしかできていない。この、原始的な方法を低い練度で繰り出すしかできないという点は、新しい景色を今後も見続けるためには必ずボトルネックになると思われる。

2 件のコメント:

  1.  昨日湘南戦観た後にここ来たらコメント無かったので、かなり前のゲームだけどコッソリとコメントwww
    正直、だれが出場停止だろうとも相手に合わせるのではなくて、自分たちの形で最初から勝負して欲しかったなというのが率直な感想。
     三好は相手からしたら怖さ無いよねー。もっと球離れ早くして、一度出した後でもう一度自分を使ってもらう形も出していかないと・・・。味方に出すだけ、自分で行くだけじゃ単調過ぎ。何十年も三好タイプの選手がイマイチ伸びずに終わっていくのを見てるから同じようになってほしくないですわ。来年もウチにいるか分からないけど、攻撃でも守備でももう一皮も二皮も剥けまくって、持ってる能力をもっと上手く使っていって欲しいです。
    そんな感じ。にゃんむるでした。またのー('ω')ノ

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    1. 横浜まで見に行き、今年一番頑張って書いた記事でした。
      どの監督も年に2~3回くらいはどうしようもなくてびっくりスタメンで臨んだりする時はミシャでもあるんだな、という適当な感想を当時は思いつきましたw 函館でいきなり河端和哉が1試合だけ使われたみたいな?
      三好に関しては、まだ4-2-3-1の右MFのようなプレーをしているというか、中央の攻撃的MFとして考えると計算が立たないし、FWとして考えるとシュートが枠に飛ばなさすぎですねw

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