0.プレビュー
スターティングメンバー |
北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-2-1、GKク ソンユン、DF進藤亮佑、宮澤裕樹、福森晃斗、MF駒井善成、荒野拓馬、深井一希、菅大輝、都倉賢、チャナティップ、FWジェイ。サブメンバーはGK菅野孝憲、DFキム ミンテ、石川直樹、MF兵藤慎剛、白井康介、早坂良太、三好康児。
湘南ベルマーレのスターティングメンバーは3-4-2-1、GK秋元陽太、DF山根視来、坂圭祐、大野和成、MF岡本拓也、石川俊輝、金子大毅、杉岡大暉、FW松田天馬、梅崎司、山﨑凌吾。 サブメンバーはGK富居大樹、DF島村毅、MF新井光、ミキッチ、FW野田隆之介、高山薫、小川慶治朗。国際Aマッチウィーク中にルヴァンカップの準決勝2試合が開催され、柏との2試合はいずれもドローだったがPK戦を制して決勝に進出。次週10/27に埼玉スタジアム2002で開催される決勝戦を戦う権利を手に入れた。
1.序盤は間違いなくミシャのペース
お互い基本布陣3-4-2-1のチーム同士の対戦だが、そのスタイルはトランジション重視の湘南、サッカーにはトランジションという概念など存在しないかのように時に振る舞う札幌、と対照的な顔合わせである。
前半は札幌が6割近いボールポゼッションでありながら、湘南が前半唯一となった山崎のシュートが決まり1-0で折り返すことになった。スコアはともかく、前半はビルドアップの出口を作ることに成功していた札幌が優位に試合を進める時間帯が多かった。
1.1 前提条件①(ビルドアップの出口の有無)
前回対戦時の記事では「陣地の占有」という考え方をテーマとしたが、ミシャ札幌がボール保持時に確保したい陣地は、自陣最終ラインの選手の前方である。ロングボール主体のビルドアップを行うミシャチームにおいて、ミドルゾーンの占有は殆ど意識されていない。そのため札幌は、必然と下のように4-1-5、もしくは5-0-5となる形に人を配す。
対する湘南は、札幌の5トップに対しては5枚を確保し、残り5枚は「2-3」の形で、初期配置は中央寄りだが、札幌がボールを保持していつもの攻撃陣形を作ると、すかさず前線からのプレッシングで札幌のボール周辺の選手に対して圧力をかけて時間を奪おうとする。基本的にはミラー布陣を崩さぬよう、マッチアップしている対面の選手を見るようにしていた。
札幌の5-0-5気味の配置と湘南の守備 |
この攻防では最終的に札幌が優位な状況に立つ。一つは、札幌が深井だけでなく荒野も落とした5-0-5でボール保持を開始すると、湘南は梅崎、山﨑、松田の3枚だけでは札幌の選手を捕まえきれない。そのため、中盤2枚のうち、金子が前に出て4枚体制で対応する時もあったが、札幌はポゼッションの「出口」を確保してボールを落ち着かせる。
右の駒井と、中央左のチャナティップである。この技術があり簡単にボールを失わない2人が、元々空洞化していたミドルゾーンに顔を出してボールを受けることで、湘南のプレスを空転させる。
駒井やチャナティップが出口になる |
1.2 前提条件②(強引に出口を作る質的優位性)
それでもうまくいかない時は、強引に前線に放り込んで起点を作る。この時は、所謂「質的優位性」が活きる。
前線中央では元・イングランド代表(1キャップ)のジェイと、アンドレ バイアからポジションを奪った大卒ルーキーの坂というマッチアップ。札幌がビルドアップの出口を見つけられない時、
湘南が高い位置からの守備で出口を作らせない場合は… |
前線に放り込むと、190センチのジェイが登録174センチの坂を抑え込んで、中央でボールをキープする光景が頻繁にみられた。これによっても「出口」が確保できる。
この”相対的”に「AがBより強い」が重要で、ジェイも万能ではないが坂を背負ってのプレーではかなりの分がある。湘南の3バックは山根178センチ、大野180センチと、ジェイ・都倉のコンビを擁するチームならまず最初に目が行くサイズである。一部メディアでは三好のスタメン起用も予想されていたが、都倉が起用されたのはこの湘南最終ラインのサイズを考慮しての起用だったと思われる。
強引に前線に出口を作ってしまってビルドアップを成立させる |
1.3 偽のシャドー・都倉
駒井、チャナティップ、ジェイに加えてもう一人、「出口」を作ることに成功していたのが都倉。その方法は、得意の空中戦ではなく、サイドのオープンなスペースに走ってボールを受けることだった。空中戦以外で都倉を使うことは、今に始まったことではないが、特にこの試合効果的だったのは、都倉のランと出し手のパスが非常に呼吸が合っていた。これも、湘南の最終ラインはJリーグにありがちなべた引きの5バックとなりにくく、特に相手が3バックでミラー布陣ならば、WBは相手のWBを基準にポジションをとるので、杉岡の裏が空きやすいことは、札幌の選手には確実に共有されていたと思われる。
駒井が杉岡を引き出したスペースに都倉が流れる |
都倉のアクションの多くは、中央ほぼトップに近い位置で大野と競るか、サイドに流れて大外のレーンからゴール方向を向いてドリブルを開始する(大野はこのゴリゴリ力任せな突破には比較的うまく対応していた)ものだった。チャナティップや三好のような、トップの0.5列裏でのプレーが殆どなく、一時期流行った表現で言うと「偽の」シャドーとも言える動きをする。
要は典型的な「3-4-2-1」、もしくはミシャサッカーという型やイメージ、既成観念に当てはまらない。ミラーゲームといっても都倉だけ異質な動きをする。勿論その特徴は、湘南側としては当然把握していたと思われるが、実際に偽シャドー・都倉とマッチアップすると、かなりやりづらいそうにしていた印象だった。
1.4 見えない出口
湘南はボール保持時に、札幌のようなポジション移動を殆ど行わない。それは最終ラインが3枚から4枚に増えるメリットよりも、中盤が1枚減るデメリットを嫌ってのものだが、GK秋元もあまりボール保持に関与しない湘南が3枚のみで組み立てを行うと、出口を確保することは更に困難になる。
特に、都倉・チャナティップに加え、秋になると契約更新を意識し始めた?ジェイが精力的に守備を行い、坂にもプレッシャーを与えることで、湘南はボールを前方に逃がさざるをえない局面が多くなる。
最前線は、全員180センチオーバーの札幌に対し、湘南は唯一のターゲットが山﨑。どこに放り込んでくるかはわかり切っているということで、札幌は無難にここを対処することができていた。
配置を変えないままではどこにボールを逃がしていいか不明瞭に |
2.高さ対策と裏のリスク
2.1 ツインタワーを危険な位置から遠ざけよう
最終ラインに高さが(比較的、相対的)ない湘南は、札幌の攻撃陣(特にジェイ)に対して取りうる策が必然と限定される。一番怖いのは、ゴール前で高さのミスマッチを突く形で勝負されること。よってジェイと、都倉をゴール前から遠ざけるべく、最終ラインは高い位置に設定される。
必然と裏にはスペースができる。遅攻が多いミシャチームは、あまり裏を1発で取るような攻撃パターンが少ないが、この試合はジェイや都倉が度々裏抜けを狙っていたのはこのためである。そして、裏にスペースを作っていたままでは延々とこれを狙われてしまうということで、湘南はボールホルダーへの圧力は維持し続ける。札幌の持っている策のうち、最も守備の基準点を狂わされる5-0-5での組み立てに対しても、前方向への圧力でボールを下げさせ、簡単に裏に出させないようにしていた。
ラインを押し上げるために前方向への圧力を維持 |
それでも札幌は度々前進に成功する。相変わらずのジェイを使った強引な前進もあったが、それ以上に5-0-5でサイドに押し出される進藤や福森への対応が湘南は曖昧になりがちだったため。特に福森のサイドから前進されると、湘南はボールサイドでチャナティップ、ファーサイドで裏に走る都倉の存在があり、ボールホルダーの福森をケアできない限りは、湘南はラインを下げて撤退することを余儀なくされる。
札幌の5-0-5にはまともに勝負しないため札幌は前進に成功する |
2.2 人を捕まえて籠城
アタッキングサードに侵入されると、湘南は5バックでの籠城守備に移行し、ゴール前で都倉とジェイを捕まえる。札幌にとっても想定されたシチュエーションで、籠城されると最も威力のある攻撃…左の福森や菅からのクロスで崩そうとする。
ディフェンシブサードでの肉弾戦は避けられない |
この札幌最強の武器は前半フィットすることがなかったが、それでも自陣ゴール前から離れて試合を展開したい湘南の狙いを難しくすることには成功していた。
スーパーなカウンターマン(チャナティップや、かつての札幌ダヴィのような)がいない湘南において、トップの山﨑が起点を作ることに対する期待は大きくなる。ただ、3-4-2-1を採用しているチームの大半が陥る問題だが、5バックで撤退した時にはトップの選手が孤立しやすくなってしまう。ただでさえ前で起点を作ることに苦戦していた山﨑は、更に難しい状況での仕事を強いられる。
2.3 盤石の宮澤と札幌左サイドでの伏線
起点を作る仕事を求められる状況において、山﨑はポジションにとらわれず、サイドに流れたり、自陣に撤退している状況では更に下がった位置に移動し、フリーになれるポジションを探していた。しかし、札幌はCB中央の宮澤の状況判断が光っていて、山﨑がトップの位置から消え、「最後尾の中央」に自身がいなくてもいい状況ならば積極的に持ち場を離れて、山﨑をケアするので、山﨑はなかなかフリーになることができず、湘南のカウンターの芽をことごとく消し去っていた。
一方で前半から「何か」が起こりそうだったのが、札幌の福森が攻撃参加した状況での札幌から見て左、湘南から見て右寄りのエリアだった。攻撃が大好きな福森がフィニッシュに絡むためポジションを上げると、深井がその背後をカバーする。そのため、中盤は荒野1枚なのだが、荒野の意識は大半の局面でゴール前の攻防に偏っているように見え、まるでジェイ、都倉に次ぐ3人目のターゲットであるかのような動きを見せることもあった。
要するに深井が下がると、札幌は中盤のフィルター機能が著しく低下する。そして湘南は5-4-1、極端にシャドーを下げて守る機会はさほど多くなく、押し込まれてもシャドーを完全に後ろには下げずにいる。ここにセカンドボールが転がると、下の図のように松田は圧力がかからない状態で前を向いてアクションを開始できる。
松田にチャナティップのようなスーパーな縦突破があれば、これだけで何らか攻撃機会を得られる状況になっていた。前半、このような形でボールが渡る状況は2度ほどあったが、深井がポジションを上げて遅らせ、チャナティップが決死のプレスバック(福森よりもチャナティップの戻りはよほど迅速で勤勉だった)により大事には至らなかったが、非常に再現性のある形でもあった。
3.Q:チャナティップどうするの?
3.1 何が「どうするの?」なのか
試合後Twitterの一部界隈で話題になっていたのが、曺貴裁監督の試合後会見で、
金子はチャナティップへの対応が気になっていて、曺監督は具体の対応策を示さなかったというやりとり。世の中には「○○なら許される」という振る舞いがある。またサッカーにおいては曺監督の言う通り、選手がその場で判断し解決しなくてはならない状況が多々ある。それでも、人によっては無策と言われかねない対応だが、とにかく湘南にとっては困る状況が前半生じていた。-カップ戦に続き、本日も出場した金子大毅選手の今日の評価は?カップ戦とリーグ戦を分けて使っているわけではないので、特に続けて起用したことに意識は全然ありません。良さは、試合になると強気になるというところじゃないかなと思います。今日も前半途中にベンチにきて何を言うのかなと思ったら、「あれチャナティップどうするの?」って僕に思いっきりタメ口で聞いてきたので(笑)。「自分で考えろ」と言いましたけれど(笑)。そのくらい根性があると思います。
先述のように札幌のシャドーは、都倉は前方向への意識が強く、チャナティップはビルドアップの段階からボールに寄ってくる。札幌の5トップと湘南の最終ラインは数的同数のはずで、まず山根が「チャナティップ番」と考えるのが最も妥当だが、山根はチャナティップに当たることが難しい。
それは、札幌は福森が高い位置を取り、菅を押し出すことで菅が最前線で高いラインの裏を狙うようになるため、山根が前に出ると、ハーフスペースはがら空きになってしまうため、この裏抜けを警戒し、下がっていくチャナティップを山根が捕まえられる状況になっていなかった。
加えて松田は福森についていき、金子の相方である石川は、自由に(本当に自由である)動き回る荒野をケアするため中央から離れがちになる。金子はこの状態で、自分が中央を離れてチャナティップをケアしてよいか、迷いが生じていたのだと思う。
このやり取りが何分頃にあったかはわからないが、これを言われた金子がチャナティップに対する対応を特段明確化する、という展開にはならなかった。しいて言うならば、湘南は前線守備の圧力を緩める代わりに、ライン間を狭めてチャナティップが活動するスペースをより狭くする。しかしそれでも、坂に圧勝するジェイと同様に、狭いスペースで呼吸ができるチャナティップも湘南には止められなかった。
もっともこのような展開を見越しての「自分で考えろ」なのかもしれないし、最終的にはゴールを守れればいい。ラインを上げて守っていれば、チャナティップの活動範囲はゴールから遠ざかり、札幌のフィニッシュのパターンはサイドからのクロスが大半なため、チャナティップのケアの優先度は下がる。その意味では、脅威ではあるけども他にも考えることがたくさんある、という意味では、ここで対応を変えなかったことは正しかったと思う。
後半最初のビッグチャンスは、47分、札幌が右サイドで裏に走った都倉が大野を弾き飛ばし、ゴール前に侵入するところから。都倉の中央への折り返しは、走り込んだ荒野の謎のスルーが発動し、チャンスの芽が潰える。この日の荒野は妙に(いつも以上に)確実性のない選択…バックヒールでのパスやダイレクトでのパス等が多く、平常運転とも言える自由なポジショニングは健在で、何かが起きるなら荒野のところか?という予感はあった(的中したかというとそうでもなかったが、杉岡のFKの際のシュートブロックはもう少しうまくやってほしかった)。
後半立ち上がり、もう一つ顕著になっていたのがネガティブトランジションの際のリスク管理の不十分さだった。象徴的だったのが以下の48分前後の展開で、スローインから札幌がゴール前でボールを回収し、荒野→駒井とサイドに逃がしてトップのジェイへ当てる。ジェイの落としは、チャナティップに渡るが、タッチが大きくなったところを数的同数守備で負けられない山根の「勇気あるチャレンジ」(かといって無謀な突撃でもない)で湘南がボールを回収する。
この時、札幌は荒野と深井が最終ラインに吸収されていて、湘南は中盤の選手がフリーになっている(松田以外にも、金子と石川の周囲にも札幌の選手はいない)。
山根が奪ってそのまま、スペースのある前方向にドリブルで運ぶと、深井が危機を察知してボールに寄せるが、この時、更に後方にいる福森も猛然と山根に突っ込んでくる。が、この福森の長い距離の寄せは山根に難なくかわされ、更にその背後に走った松田にフリーでパスを通されてしまう。
この時はパスがサイドに流れたこともあって大事には至らなかったが、構造的には、前半福森の攻撃参加の背後を深井が守っている状態を挙げて説明したプレーと似ている。構造的な問題に加えて、個人のまずい判断も重なると一気に怪しくなっていく。
が、この湘南の攻撃を宮澤が凌ぐと、(いつも通り)遅れて戻ってきたというか前残り気味の福森の前にボールが転がり、そこから得意のロングパスを裏に通す。これで得たコーナーキックから、ジェイの得点で札幌が後半早々に追いつくことに成功した。
湘南は終始ラインが高い。その裏を使わない手はないし、空中戦でも相対的に優位となれば、早いタイミングでの放り込みは必然と多くなる。ダイレクトな展開が増え、後半は前半以上に試合が高速化する。
ジェイの得点で追いついた後の10分間で、札幌は立て続けにファウルコミットが発生する。52分、ロングボールを収めた山﨑に対する後ろからの宮澤、全て札幌から見て中央~左、福森の周辺で起きる。55分、引いて(上記の図と同じように生じた)スペースで受ける松田に福森が出るが、潰しきれずターンを許し後ろからファウル。そして57分(DAZN中継特有のリプレイの長さもあって展開はよく覚えていないが)ルーズボールを競った荒野が梅崎を蹴り、これまでの2回よりも近い位置でのファウル。梅崎がずらしたボールを杉岡がグラウンダーで叩きこむ、トリック気味のプレーで湘南が勝ち越しに成功する。
この3つのファウルは全て札幌の左サイドで起きている。また共通しているのは、福森の前方にスペースが生じたときにファウルが起きている。スペースが生じやすいのは、チームの構造的な理由もあるが、やはり荒野(深井との役割は、どちらが右・左と空間を切り分けるのではなく、「ボールサイド:荒野」になってしまっていてやたらと食いついて引っ張り出される)の起用が大きかったと思っている。そして湘南の松田vs福森のマッチアップは、ジェイvs坂ほどではないものの守備側に不利なミスマッチになっていて、湘南はここを狙っていた印象を受ける。
追いかける札幌は64分、菅⇒白井に交代。このあたりの時間帯から徐々にオープンな展開になっていく。福森を攻撃時に上げるところまではできているので、これまで何度か当ブログでも言及したが、その1列前のWBは内側のレーンでプレーさせたかったのだと思われる。ただ、古巣対決で気負ったのか?白井は仕事をさせてもらえず、逆に、守備でそこまで怖い仕掛けがない岡本を相手にしているはずが、度々突破を許し、札幌は白井のサイド(隣は福森が守っている)で更に危うい状況に陥る。
74分頃、ミシャは三好を準備させ、深井との交代を考えていたようだが、そのプレーが切れない間にセンターサークル内で受けたチャナティップが縦にドリブル、右の都倉に一度はたいて、自身がボックス内に侵入し、折り返し気味のシュートが湘南DFに当たって入る幸運な得点で2-2と追いつく。
後はオープンな間延び展開で、両チームともロングボールが多くなる。札幌はツインタワーにボールを集めるが、フィニッシュの精度を欠き、痛み分けの結果となった。
RIZAPマネーによって生まれ変わる前夜である湘南と比較すると、札幌の方が札束もクオリティも現時点では備わっているな、という印象で、ジェイやチャナティップ、都倉、駒井のような違いを作り出せる選手の有無が、決定機の多さには密接につながっていたと思う。札幌の問題は、特に前半、それらの選手がゴール前に顔を出せず、フィニッシュに絡んでいたのが菅や荒野だったこと。トランジションに課題を抱えるチームであるだけに、そこを強みとする湘南相手にどのような展開になるか注目していたが、よく言えば力でねじ伏せる、悪く言えばディティールは未だに手付かず、といった印象のゲームになった。「自分で考えろ」も、ある意味でディティールは何とかしろ、と捉えられなくもないが、湘南のそれは選手に何とかしろ、と言えるだけの準備は感じられるものだった。
完全マンマークではないのでチャナティップへの対応にはギャップが生じてしまう |
3.2 A:自分で考えろ
このやり取りが何分頃にあったかはわからないが、これを言われた金子がチャナティップに対する対応を特段明確化する、という展開にはならなかった。しいて言うならば、湘南は前線守備の圧力を緩める代わりに、ライン間を狭めてチャナティップが活動するスペースをより狭くする。しかしそれでも、坂に圧勝するジェイと同様に、狭いスペースで呼吸ができるチャナティップも湘南には止められなかった。
もっともこのような展開を見越しての「自分で考えろ」なのかもしれないし、最終的にはゴールを守れればいい。ラインを上げて守っていれば、チャナティップの活動範囲はゴールから遠ざかり、札幌のフィニッシュのパターンはサイドからのクロスが大半なため、チャナティップのケアの優先度は下がる。その意味では、脅威ではあるけども他にも考えることがたくさんある、という意味では、ここで対応を変えなかったことは正しかったと思う。
4.顕在化するリスク
4.1 パルプンテ荒野
後半最初のビッグチャンスは、47分、札幌が右サイドで裏に走った都倉が大野を弾き飛ばし、ゴール前に侵入するところから。都倉の中央への折り返しは、走り込んだ荒野の謎のスルーが発動し、チャンスの芽が潰える。この日の荒野は妙に(いつも以上に)確実性のない選択…バックヒールでのパスやダイレクトでのパス等が多く、平常運転とも言える自由なポジショニングは健在で、何かが起きるなら荒野のところか?という予感はあった(的中したかというとそうでもなかったが、杉岡のFKの際のシュートブロックはもう少しうまくやってほしかった)。
4.2 構造の問題とよろしくない判断
後半立ち上がり、もう一つ顕著になっていたのがネガティブトランジションの際のリスク管理の不十分さだった。象徴的だったのが以下の48分前後の展開で、スローインから札幌がゴール前でボールを回収し、荒野→駒井とサイドに逃がしてトップのジェイへ当てる。ジェイの落としは、チャナティップに渡るが、タッチが大きくなったところを数的同数守備で負けられない山根の「勇気あるチャレンジ」(かといって無謀な突撃でもない)で湘南がボールを回収する。
この時、札幌は荒野と深井が最終ラインに吸収されていて、湘南は中盤の選手がフリーになっている(松田以外にも、金子と石川の周囲にも札幌の選手はいない)。
山根がチャナティップから奪った時、松田の周囲には大きなスペース |
山根が奪ってそのまま、スペースのある前方向にドリブルで運ぶと、深井が危機を察知してボールに寄せるが、この時、更に後方にいる福森も猛然と山根に突っ込んでくる。が、この福森の長い距離の寄せは山根に難なくかわされ、更にその背後に走った松田にフリーでパスを通されてしまう。
この時はパスがサイドに流れたこともあって大事には至らなかったが、構造的には、前半福森の攻撃参加の背後を深井が守っている状態を挙げて説明したプレーと似ている。構造的な問題に加えて、個人のまずい判断も重なると一気に怪しくなっていく。
福森が松田に突撃すると裏ががら空きに |
が、この湘南の攻撃を宮澤が凌ぐと、(いつも通り)遅れて戻ってきたというか前残り気味の福森の前にボールが転がり、そこから得意のロングパスを裏に通す。これで得たコーナーキックから、ジェイの得点で札幌が後半早々に追いつくことに成功した。
湘南は終始ラインが高い。その裏を使わない手はないし、空中戦でも相対的に優位となれば、早いタイミングでの放り込みは必然と多くなる。ダイレクトな展開が増え、後半は前半以上に試合が高速化する。
4.3 平面のミスマッチ
ジェイの得点で追いついた後の10分間で、札幌は立て続けにファウルコミットが発生する。52分、ロングボールを収めた山﨑に対する後ろからの宮澤、全て札幌から見て中央~左、福森の周辺で起きる。55分、引いて(上記の図と同じように生じた)スペースで受ける松田に福森が出るが、潰しきれずターンを許し後ろからファウル。そして57分(DAZN中継特有のリプレイの長さもあって展開はよく覚えていないが)ルーズボールを競った荒野が梅崎を蹴り、これまでの2回よりも近い位置でのファウル。梅崎がずらしたボールを杉岡がグラウンダーで叩きこむ、トリック気味のプレーで湘南が勝ち越しに成功する。
この3つのファウルは全て札幌の左サイドで起きている。また共通しているのは、福森の前方にスペースが生じたときにファウルが起きている。スペースが生じやすいのは、チームの構造的な理由もあるが、やはり荒野(深井との役割は、どちらが右・左と空間を切り分けるのではなく、「ボールサイド:荒野」になってしまっていてやたらと食いついて引っ張り出される)の起用が大きかったと思っている。そして湘南の松田vs福森のマッチアップは、ジェイvs坂ほどではないものの守備側に不利なミスマッチになっていて、湘南はここを狙っていた印象を受ける。
4.4 オープンな展開で輝いた推進力
追いかける札幌は64分、菅⇒白井に交代。このあたりの時間帯から徐々にオープンな展開になっていく。福森を攻撃時に上げるところまではできているので、これまで何度か当ブログでも言及したが、その1列前のWBは内側のレーンでプレーさせたかったのだと思われる。ただ、古巣対決で気負ったのか?白井は仕事をさせてもらえず、逆に、守備でそこまで怖い仕掛けがない岡本を相手にしているはずが、度々突破を許し、札幌は白井のサイド(隣は福森が守っている)で更に危うい状況に陥る。
74分頃、ミシャは三好を準備させ、深井との交代を考えていたようだが、そのプレーが切れない間にセンターサークル内で受けたチャナティップが縦にドリブル、右の都倉に一度はたいて、自身がボックス内に侵入し、折り返し気味のシュートが湘南DFに当たって入る幸運な得点で2-2と追いつく。
後はオープンな間延び展開で、両チームともロングボールが多くなる。札幌はツインタワーにボールを集めるが、フィニッシュの精度を欠き、痛み分けの結果となった。
5.雑感
RIZAPマネーによって生まれ変わる前夜である湘南と比較すると、札幌の方が札束もクオリティも現時点では備わっているな、という印象で、ジェイやチャナティップ、都倉、駒井のような違いを作り出せる選手の有無が、決定機の多さには密接につながっていたと思う。札幌の問題は、特に前半、それらの選手がゴール前に顔を出せず、フィニッシュに絡んでいたのが菅や荒野だったこと。トランジションに課題を抱えるチームであるだけに、そこを強みとする湘南相手にどのような展開になるか注目していたが、よく言えば力でねじ伏せる、悪く言えばディティールは未だに手付かず、といった印象のゲームになった。「自分で考えろ」も、ある意味でディティールは何とかしろ、と捉えられなくもないが、湘南のそれは選手に何とかしろ、と言えるだけの準備は感じられるものだった。
奇跡! 「パルプンテ荒野!」 ← 俺と全く同じ表現使ってる人がここに居るwww
返信削除でも、きっとみんなも似たような表現使ってんだろうなー。早く中原帰って来ないかなー。(謎)
福森の裏は我慢しましょう。俺は毎試合、深井と宮澤の健闘を祈っています。
ジェイの代わりをあのクオリティでできる人はいないから、来年も契約更新できるでしょ。たぶん・・・。ホントお願いしますわ。
何処かにスゲーボランチいないかなー?そんな感じ。
にゃんむるでした。またのー。
川崎戦なんかが典型ですが、荒野はゲームに入れている時はいいとして一度狂うと一気にどうしようもなくなるのは、もう仕方ないのかなとして思います。センタープレイヤーとしては相当厳しいですね。
返信削除中原は帰ってきたら中央でしょうか。駒井を右に回すか、駒井を中央で考えて右にスゲーウイング引っ張ってくるか。
あと、左利きのシャドーをどう確保するか、というのも私は気になっています。