2018年4月13日金曜日

2018年4月11日(水)19:00 明治安田生命J1リーグ第7節 北海道コンサドーレ札幌vs湘南ベルマーレ ~飛び道具を持つ者、持たざる者~

0.プレビュー

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-2-1、GKク ソンユン、DF進藤亮佑、キム ミンテ、福森晃斗、MF駒井善成、荒野拓馬、宮澤裕樹、菅大輝、三好孝児、チャナティップ、FW都倉賢。サブメンバーはGK菅野孝憲、DF石川直樹、MF兵藤慎剛、ジュリーニョ、早坂良太、FW宮吉拓実、ヘイス。カップ戦を含めた15連戦の4戦目。「買っているチームは変えない」なのか、前節のリーグ戦から中3日のホームゲームということもあってか、メンバー変更はなし。サブではジェイがベンチ外で、ヘイスがベンチ入りしている。選手及び、やりくりをする監督も徐々にタフな状況になっていくが、会社勤めの傍ら中2日、中3日で記事を書くネット戦術君にもハードな日程である。
 湘南ベルマーレのスターティングメンバーは3-4-2-1、GK秋元陽太、DF山根視来、アンドレ バイア、大野和成、MF岡本拓也、石川俊輝、杉岡大暉、高橋諒、FW端戸仁、梅崎司、イ ジョンヒョプ。 サブメンバーはGK後藤雅明、DF島村毅、MF松田天馬、ミキッチ、FW野田隆之介、アレン ステバノヴィッチ、高山薫。前節はホームで鹿島相手に、アディショナルタイムの決勝ゴールで劇的勝利。その鹿島戦で試された杉岡の中盤センターでの起用がスタートからであるほか、ターンオーバーとしてシャドーは2枚とも入れ替えている。

1.陣取り合戦理論(湘南の視点から)


 ゴール型競技は時に陣取り合戦に例えられる。札幌と湘南のこのカードについて、とあるメディアでは同じ基本布陣同士を採用していることからミラーゲームと目されていたが、両チームのマッチアップを陣取り合戦として見ると、それぞれの立ち位置は開始時点で異なっていたと言える。

 陣取り合戦は、基本的に攻撃側はボールを保持しつつゴール方向に進み、守備側はそれを防ぐという大原則を踏まえて展開される。まず湘南がボールを保持している時の構図から陣取り合戦の状況を考えてみる。

1.1 陣地を占有する、使う


 湘南が、5-2-3の陣形で守備をセットする札幌と対峙すると、下の図のように基本的に自陣側は湘南が陣地を占有している状況にある。ここでいう陣地の占有とは、その陣地においてなんらかの優位性…数的優位、質的優位、配置的優位…を確保した状態をいう。その上で、陣地を活用してゴールを奪うには、占有している陣地にボールを届けることができる状況が必要である。
 例えば湘南の9番がイブラヒモビッチで、札幌のCBが私だとすると明白な質的優位が湘南にはある。イブラヒモビッチにボールが届けられれば(最終ラインからボールを放り込むとか)、札幌側はどうしようもない(ほぼ勝ち目がない)ので、質的優位によってその陣地を占有している状況だと言える。
 しかし湘南のCBとGKが全員小学生だとしたら、湘南は初期状態で占有している陣地からイブラヒモビッチがいる陣地にはボールを届けられないので、陣地を占有していても活用することはできない。そのため、陣地を使うために最終ラインにもっと良い選手を配するなり、もっと一般的にはより確実性のあるパス経路を確保する(そのためには、パス経路となる陣地の確保が必要)などして、占有している陣地にボールを届ける手段を確保する必要がある。
湘南ボール時の陣地占有状況

1.2 自陣の占有とニュートラルな中盤


 話を札幌ドームに戻すと、都倉やチャナティップ、三好は湘南の3バックに対してそこまで強い圧力を与えるようなハイプレスを継続的には敢行してこないので、湘南は自陣のエリアでは基本的にボールの保持を続けることができる。いざとなれば、バックパスで秋元に戻すという手もある(秋元は繋がずに蹴っ飛ばすことが多いが、秋元が持った状態ではまだ湘南ボール。蹴ればニュートラルになることが多いが)。
 ただ、これが例えばアンドレ バイアが札幌の1列目の間を通すパスで石川に渡すと、札幌は宮澤が石川に対して出てくる。同様に杉岡も荒野が監視していて、ここの攻防は①数的同数、②質的にもほぼ同等、③配置的にはボールを人を両方捉えられている札幌がやや優位、といった状況で、トータルでみてどちらが優位とは明確に言えない状況にあり、陣地の占有として考えると、どちらが占有でもないニュートラルと表現できる。
 サイドの菅と駒井の前方は、それぞれ岡本と高橋とマッチアップしているが、岡本と高橋に渡るまでは、札幌はこの陣地をあまり監視していないので、大野⇒高橋というように高橋にボールを渡すところまでは湘南は問題ないので湘南の占有状況にあると言える。

 一方で札幌の最終ラインの背後とCB3枚の前方は、札幌はここを中盤2枚も合わせて監視し、簡単に使わせないように守っているので、初期状態では札幌の占有状況にある。

1.3 陣地を奪い合う


陣地は奪い合うという概念があり、陣地の占有は恒久的な状態ではなく、状況はしばし移り変わる。
 先の例え話の続きで、湘南の9番イブラヒモビッチが中盤に落ちてゼロトップ状態になれば、中盤は2vs2から湘南は+1となって2vs3で数的優位。この陣地はニュートラルから湘南の占有に移り変わり、また最終ラインから隣接するエリアである中盤にボールを届けることはさほど難しくないので陣地の活用もできる状況になる。
 代償として湘南は札幌DFの周辺の陣地における優位性を”一時的に”放棄する。しかし中盤の陣地を占有すれば、そこを起点とした攻撃…一例としては中盤から裏へのスルーパス等ができる。スルーパスのタイミングと精度、選手の走りの質が効果的であれば、走った先の陣地の占有につながる。
トップが中盤に下りてくれば数的優位が作れ陣地を取れる

 一般にはよりゴールに近い陣地を占有することが得点を奪うためには効果的であるため、既に占有している陣地を起点として新たな陣地を獲得していくことは重要だが、サッカーにはオフサイドルールがあり、敵陣ゴールに近い陣地に常に人を配しておいて継続的に陣地を保有することは難しい設計になっている。そのため攻撃側は敵陣ゴールに近い陣地を占有するためにはアクションを何度も繰り返すことも必要だといえる。

2.飛び道具と陣取り合戦

2.1 札幌の視点


 同様に札幌がボールを保持し、攻撃を開始するときの構図を確認する。札幌は最終ラインを3枚にする形と4枚にする形を両方使うことができるが、この試合は湘南のハイプレスを警戒してか後者が基本となっていた。
 この時の陣地占有図は以下のようになっていて、湘南の前線3枚の圧力が及ばないエリアは基本的に札幌の占有となる。中盤は特徴的だが初期状態では湘南の占有と言ってよい。前線は基本的に守備側が監視しているので、守備側の占有状態にあることは湘南の視点と同じだが…
後方は札幌、中盤から先は湘南

2.2 札幌の「2つの飛び道具」が強いた撤退


 展開が動いて福森がボールを持った時は下の図のように、対角に高精度のフィードを飛ばせるので、都倉や三好が走る先の陣地を札幌の占有に変えることができる。これに関して、都倉の走力や強さも飛び道具の一つだと言え、対峙するDFとイーブンの状態であればスペースに走り、競り合うことで並のFWでは不可能なボールもマイボールにしてしまう。
 この図示した陣地が札幌占有、もしくはニュートラルに変わると、ここを起点に札幌はフィニッシュに近づくことができるので、湘南は対応を余儀なくされる。
福森のフィードに走ると”飛び地”を獲得できる

 湘南の対応は主に3通りが考えられ、
 1)陣地を取られることは諦めて、より重要な陣地(=ゴール前)を固める
 2)福森を潰すことで陣地占有に関わる飛び道具を使えなくする
 3)都倉や三好が占有しようとする陣地を防衛する
となる。
 湘南のリアクションは、シャドーの端戸と梅崎を下げて撤退することで、上記1)~3)でいうと1)と3)の両方の考え方があった。中盤を4枚としラインを下げることで、最終ラインは前方を気にせず、後方の防衛に専念できる。またサイドは三好や都倉の動きに対してマーカーとなる選手が大胆に出ていくことができる(カバーリングを期待できる)ので、サイドを占有される恐れも小さくなる。
”飛び地”を使われたくないので撤退

2.3 飛び道具が隣接する陣地を奪う


しかし湘南が撤退し後方の陣地確保を優先するとなると、下に示すように元々1トップのイ ジョンヒョプとシャドー2枚で見ていたエリアは完全に放棄することになり、湘南の占有状態orニュートラルな状態から、完全に札幌の占有状態へと移り変わる、札幌が新規獲得した陣地となる(下の図で濃い赤で示したエリア)。
新たに得た中盤を使う

 新規獲得エリアを札幌は早速活用する。目立ったのはここでも福森で、サイドに開く(=湘南の中央の監視から逃れる)必要がなくなったこともあって徐々に中央に侵入してボールに触る。湘南は4枚にした中盤がずっと引きこもっているのではなくて、その前方のエリアに札幌の選手が入ってくると捕まえる(≒陣地回復しようとする)姿勢を見せるが、福森は捕まる前にバイタルのチャナティップへの縦パスや、サイドの菅を走らせることで新たな陣地獲得を企図していく。

3.湘南の予想と圧力を上回ったミシャチームのビルドアップ

3.1 陣地回復という概念


 湘南は押し込まれると最前線にはイ ジョンヒョプのみが残される状況が多くなる。この状況は、湘南は自陣ゴールから数えてピッチの1/3~1/4程度の陣地のみを占有・防衛している状態にある。これは守ることだけが目的ならばアリだが、札幌からゴールを奪うことも両立する目的とするなら、湘南はこの状況から陣地を獲得(陣地回復)することが求められる。
 なお、このイが強くて速くて巧いスーパーな選手で札幌のDF2枚~3枚と対峙してもボールが入りさえすればDF3枚に対しても優位性を作ることができるとか、1回のセットプレーをものにできるスーパーなプレースキッカーがいる等、湘南が自陣側の1/3から一発で札幌のゴール前まで侵入できるような「飛び道具」を持っていれば陣地回復というアクションは必ずしも求められない(ただ、そうした選手がJリーグに来る場合めちゃくちゃ給料が高かったり、年齢詐称していたりする)。

3.2 守備による陣地回復


 先述の2.1~2.3では札幌の陣地獲得の状況について、攻撃時(札幌ボール)の際にアクションを起こしていることを説明したが、陣地獲得/回復はボールを持っていなくてもできる。これは、サッカーにはオフサイドルールがあり、守備側がポジションを上げれば攻撃側はオフサイドルールに抵触しない範囲内でプレーすべく後退しなくてはならないため。
 ただ守備側がラインを上げる直前のタイミングでその裏にボールを送られれば、オフサイドルールの範囲内で裏を取られてしまうので、この陣地回復は常に行えるものではない。言い換えれば、ボールが裏に出てこないようにボールホルダーに対して圧力をかけることがラインを上げる(≒守備により陣地回復する)ための必要条件となる。

3.3 湘南の予想と圧力を上回ったミシャチームのビルドアップ


 湘南はこれが得意なチームで、序盤札幌に明け渡した陣地をそのままにせず、20分過ぎ頃から回復させようと試みる。
 先述の通り、陣地回復のためにはまずボールホルダーへの圧力が必要だが、湘南からするとミシャチームに対して圧力をかけるべきタイミングはわかりやすいものだったと思う。何故ならば守備時5-2-3ないし5-4-1、攻撃時3-2-5ないし4-1-5の可変システムであるミシャチームは、最終ラインでボールを保持して可変作業を行っている期間は本来攻撃を仕掛けてこない(前に放り込んでこない)設計になっている。よってここで圧力をかけてポジションを押し上げても、裏を取られるリスクが小さい。

 20分前後の攻防はまさにそうしたタイミングで、場を整える(≒ビルドアップ)札幌に湘南が高い位置から襲いかかったところから始まった。進藤がボールを保持すると、湘南は梅崎が進藤の正面を切る。進藤は一度宮澤に預けるが、湘南は宮澤にも対面の杉岡が出てくるので、宮澤はボールを下げなくてはならない。このボールが下げられている時に湘南は最終ラインを押し上げ、進藤からク ソンユンとボールホルダーが変わると圧力をかけ続ける。
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

 しかしこのエリア(札幌陣内)はク ソンユンも含め、札幌が多く人を配していて占有している陣地であり、湘南はこの陣地を占有することは難しい。そのため陣地を奪うというより、属人的な守り方で人に付ききることが重要だが、湘南の前線3枚の守備は僅かに荒野とキムミンテに遅れてしまう(この位置で相手を背負って慌てないところが荒野のいいところでもある)。
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

 付ききれず回避されると、人につくことを優先したために放棄していた陣地を使われて札幌に前進されてしまう。

 湘南はこの後、何度か同じようなアクションを繰り替えすが、25分過ぎにも札幌右サイドの進藤から同じような形で前進を許してしまう。また、札幌で徐々に見えてきている"ネオミシャ式"の厄介なところでもあるが、都倉やジェイを擁しているためビルドアップの局面を不意に中断して放り込んでくることもあり、この全く異質の攻防にも備えなくてはならないこともあって、湘南の走力を活かした陣地回復のアクションは徐々に影を潜めていき、5-4-1で撤退する時間帯が長くなっていった。

4.後半のアクション

4.1 高山の投入


 湘南が陣地を取り戻し始めたのは後半、58分に梅崎に代わって高山が投入されてからだった。梅崎はどちらかというと足元で受けてからのアクションに特徴があるタイプ。高山はかつて毎試合スプリント関係の指標でリーグトップレベルの数値をたたき出していたが、オフザボールにおける走りに特徴があるタイプ。
 高山の仕事は守備時は進藤をケアしつつ、サイドを保護すること。進藤から駒井に展開されサイドで前進を試みると、高山はすかさずプレスバックして後方のブロックに加わることでサイドで手詰まりを誘発する。
高山の守備

 そして攻撃に転じると、梅崎になかった動き…駒井の裏に飛び出すことで札幌のDFを動かそうとする。65分のイ ジョンヒョプの決定機はこの形による左サイドの突破から生まれた。札幌にとって救いだったのは、高山は右利きなのでフィニッシュが持ち替えて時間がかかるか、さほど制度のない左足で折り返す形が多かったことだった。
裏に抜けて陣地を奪う

4.2 陣地を使う人


 札幌の1枚目のカードは64分に荒野→兵藤。続いて66分に三好→ヘイス。今のところ兵藤を中盤のバランサーとして見ているミシャだが、この試合の兵藤は荒野以上に積極的に攻撃参加していく。またヘイスは典型的な”陣地を使う人”。前方にオープンスペースがある状態で能力を発揮しやすいジュリーニョは陣地を獲得/回復することに長けた人材だとしたら、ゴール前の密集地帯でも前を向けたりボールを収められるヘイスや宮吉は、獲得した陣地を使う役割の選手だと言える。要は札幌としては押し込んでいるので、これ以上陣地を獲得する必要はなく、兵藤の攻撃参加でゴール前の枚数を増やすことや、決定的な仕事ができるヘイスを投入することが得点に近づくとの判断だったと思う。
 ただ(2試合連続で)都倉を代えようとして最終的にピッチに残しているが、札幌のフィニッシュで現状最も威力があるのがハイクロスによる攻撃。前線に兵藤、ヘイス、宮吉と並んでも渋滞気味で空中戦でもあまり強さが発揮されない。ヘイスは湘南の隙を突くシュートを何度か放っていたが、この日はヘイスの日ではなかった。それでも最後は圧力をかけ続けたことが効いたか、都倉の2試合連続得点がアディショナルタイムに生まれた。

5.雑感


 見直して確認したが、最終的に湘南はそこまで前に出てこなかった。もっと圧力をかけてくることを想像していたが、札幌が2度ほど前プレを回避するとあっさり撤退し、陣地を放棄することになった。陣地の活用はまだ改善の余地がある(キャンプでずっとトレーニングしてきたことがあまり生きていない)が、陣地を獲得するに至る進藤やキムミンテのアクションは徐々に改善されていることが安定を生んでいる。

4 件のコメント:

  1. 会社勤めの傍ら中2日、中3日でポンチ絵描いてます、こんにちわ。
    勝ってるチームは変えないというより、固定したメンバーは変えないってことみたいです。友達の赤サポいわく、ターンオーバーもしないそうなので、柏戦も同じスタメンかもしれません

    >年齢詐称していたりする

    誰なんでしょう(すっとぼけ)

    返信削除
    返信
    1. おや、ジュリーニョの ようすが…

      削除
  2. 連日のブログ更新お疲れさまです。ようやっと湘南戦を見終えました。

    四方田コンサではジェイや都倉の点に合わせるのがミシャコンサでは点だけでなく面(スペース)を取れるようになるところにまで役割が広がっている。自陣から一発で橋頭堡を築けるとラクですよねぇ。陣取りゲーム、トレンドにしたいですなあ。
    柏戦のスタメンを見ましたが福森はお休み。石川に福森ばりの長距離砲を求めるのはムリがある。気が利く宮澤、推進力のあるチャナもお休みという条件の中でチーム全体でどうやって陣地を確保するかは興味深いですね。

    返信削除
    返信
    1. 仰る通り福森→石川のところがポイントになっていましたね。ルヴァンカップで苦戦しているのも基本的に福森不在が大きいと考えています。柏が動けなくなって助かりましたが、今後考えていく必要はありますね。

      削除