2018年4月10日火曜日

2018年4月7日(土)14:00 明治安田生命J1リーグ第6節 北海道コンサドーレ札幌vs名古屋グランパス ~変わらぬ景色がもたらす平穏~

0.プレビュー

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-2-1、GKク ソンユン、DF進藤亮佑、キム ミンテ、福森晃斗、MF駒井善成、荒野拓馬、宮澤裕樹、菅大輝、三好康児、チャナティップ、FW都倉賢。サブメンバーはGK菅野孝憲、DF石川直樹、MF兵藤慎剛、ジュリーニョ、早坂良太、FW宮吉拓実、ジェイ。負傷で前節を欠場したジェイがベンチ入り。深井は左ひざ痛で大事をとって欠場。水曜日にアウェイでルヴァンカップの清水戦を戦ったが、この時はGK菅野、DF早坂、稲本、濱、MF宮吉、小野、荒野、白井、ジュリーニョ、兵藤、FWヘイスというスタメンで、メンバーを総入れ替えして臨んでいる。ジュリーニョがプレシーズンで試されていた左サイドではなく右シャドーで起用されたことは興味深かったが、この試合でのベンチ入りも前線起用も想定されての策だと思われる。
 名古屋グランパスのスターティングメンバーは4-1-2-3、GKランゲラック、DF宮原和也、菅原由勢、櫛引一紀、秋山陽介、MFワシントン、小林裕紀、長谷川アーリアジャスール、FW和泉竜司、青木亮太、ジョー。サブメンバーはGK武田洋平、DF畑尾大翔、MF深堀隼平、児玉駿斗、成瀬竣平、FW佐藤寿人、玉田圭司。開幕2連勝と好スタートを切ったが、以降の公式戦6試合は1分け5敗。前節負傷のホーシャと、ガブリエル シャビエルはメンバー外。水曜日のルヴァンカップ(ホームで1-4でガンバ大阪に敗戦)には宮原、菅原、秋山、青木がフル出場している。

1.両者の視点

1.1 札幌の視点でみる名古屋


 序盤ボールを持つ時間が多かったのは名古屋。ペトロビッチと風間八宏、いずれもボールを持つことでゲームを掌握しようとする監督と括られることがあるが、この試合、相手がボールを持つ展開をより想定していたのは札幌の方だったと思う。
 札幌の視点では、攻撃時の名古屋の選手配置に対して以下のようなマッチアップが成立する。完全にマンマークということではないが、概ねこのように考えられていた。
札幌の視点(守備対象は明確)

 ポイントは、①中央でマッチアップがほぼかみ合っている点と、②サイドでは関係は明瞭になっているが、5バックで守備をすると名古屋のSBに対して札幌のWBの距離が開いた状態になっている点。
 上記①は札幌にとっては見る相手が決まりやすいので好都合となりやすい。一方で上記②については、名古屋がSBを使うと札幌はWBが前に出て対応するが、距離が開いているためどうしても時間的な余裕を与えてしまいがちになる。それを避けるために、駒井や菅が高めの位置取りをすると、最終ラインの側面にスペースができる。このスペースを使われる(サイドに放り込むなど)と、札幌は3バックの左右の選手がスライドしての対応を余儀なくされ、開幕当初から問題になってる中央でのマークずれが発生しやすくなる。

 …と書いたが、実際は名古屋はこうしたアプローチをほとんど行ってこない。そのため上記①②のうち、①の札幌にとって好都合となる要素のみがクローズアップされていたと思う。

1.2 名古屋の視点


 名古屋は中央突破を志向している。(あくまでモデル的に)図で示すと、相手の3ライン守備のライン間を縦パスで突破することを狙っている。例えば札幌の1列目(チャナティップ・都倉・三好)の前方の選手からその後方(1列目~2列目の間)で待つ長谷川や小林に縦パスが入れば、そのパス1本で札幌の3選手を無力化できる。ただそれは当然相手からするとバレバレで、特にマッチアップが揃っている札幌は、宮澤と荒野が長谷川と小林を監視している。
名古屋の視点(札幌の3ラインを中央突破)

 よって名古屋は頻繁に、小林と長谷川が宮澤や荒野の監視を逃れるためにポジションを下げ、札幌の1列目の後方から前方に移動してくる。特に小林が頻繁に下がると、札幌は三好や都倉の守備の基準点が曖昧になって、それまでの関係性(都倉⇒ワシントン、三好⇒櫛引)が曖昧になり、小林と櫛引、ワシントンの誰の前に立つべきか時折迷うようになる。

1.3 手数が増え人が減る


 こうしたギャップを狙って名古屋は縦パスを狙っていくが、小林や長谷川が1列目~2列目間から消えるとここで受ける選手がいなくなる。その場合、更に最前列から和泉や青木が中盤に下がることで解決を図るか、それが無理ならサイドに逃がすしかない。
 前者の場合、下がった位置で例えば和泉が受けた後の次の展開は、また同じようにライン間を突破する縦パスが基本となるが、これを続けていくと受け手となる選手が目減りしていくので、選手が元の位置に復帰する時間が必要になる。その時間を作るためにここでもバックパスを繰り返すことになるので、縦パスが入っても再びブロックを作り直され、人数と守備の基準を札幌が整える時間が確保されることが多かった。
ボールを前進させるのに人と時間をかけてしまう

2.当然のリアクション

2.1 大胆に押し上げるがボール周辺はルーズな名古屋


 名古屋の特徴の一つが、ボールを前進させている時の最終ラインの大胆な押上げだった。ボールを少しずつ前進させていく時に、最終ラインからボールが離れるとほぼ決まってハーフウェーラインまで押し上げることで札幌の選手を自陣に”閉じ込める”。
 一方で閉じ込められた札幌の選手…チャナティップ・都倉・三好の前線3枚は札幌がボールを回収すると同時に前線に広大なスペースと共に”解放される”。この時、名古屋は攻撃から守備に切り替わった直後の圧力が総じて不十分で、札幌のボールを保持する最終ラインの選手は簡単にルックアップできる。

 20分頃、名古屋のベンチからジョーに対して「もっとプレッシャーをかけろ」と指示されたとのリポートがあったが、上の宮澤の縦パスのように、札幌は確かにジョーの脇でボールを落ち着かせてから縦パスや裏へのフィードを狙うプレーはいくつかあった。
 ただ裏を突かれることについては、先述のように攻守が切り替わった瞬間にはジョーや前線の選手の圧力が足りないということは一面あったが、そうした状況でも機械的に常にハイラインを維持し、ボール周辺の状況を見て上げ下げするというディティールに欠けているため、札幌はボールを持てばほぼすべての局面で裏で勝負し放題になっていた。
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

2.2 必然の裏狙い


 札幌はポジトラにおいて、駒井の前方のスペース…右サイドを三好が使う形がこの試合も多かった。駒井はここ3試合ほど、高い位置に張る横幅要員としてよりも、低い位置でボールの逃がしどころとなる特性の方が強くなりつつあるが、この試合も奪った直後、5バックの位置にいる駒井の前方のスペースに三好が走り、そのスペースが埋まらない状況でロングフィードを飛ばす攻撃は多用されていた。
 ただ、そもそも、それ以前にある程度適当に放り込んでも都倉のスピードと強さであればそれだけで脅威になってもいた。ロングボールを放り込むというプレーにも、デザインされたものとそうでないものがあって、例えばこの記事でク ソンユンが語っている以下の話は後者。
ミシャさん(ペトロヴィッチ監督)からは『リスクがあると思ったらアバウトに蹴ってもまったく構わない』と言われているので、危ないと思ったら蹴り出せばいい。
逆に、2017シーズン終盤に、スーパージェイを前線に手に入れてから札幌が毎試合繰り出していた疑似セットプレーのようなアタックは前者だと言えるが、恐らくこの試合では、名古屋のラインが高いという情報を最低限持っていて、三好や都倉が前残りの状態から利用するというシンプルなイメージを共有していたのだと思われる。

3.キム ミンテが見ていた変わらぬ景色


 名古屋の最前線と札幌の最終ラインとでは、終始中央に鎮座するジョーと、3バック中央のキムミンテを中心としたデュエルが度々繰り広げられる。前線で待つジョーにボールが入るパターンは主に2つで、1つは中盤から選手を飛ばして浮き球などで高さを活かす形で当てていくもの。もう1つは、札幌の2列目を超える形でパスが入ること。
 前提として、先述の通り名古屋は中央の選手がどんどんポジションを下げてボールを受けようとするので、ジョーは必然と孤立しやすくなる。そして札幌は名古屋の選手に対して比較的明確に人を決めているが、ポジションを下げる名古屋の選手に対して完全に付いていくことにはならないので、結果的に進藤とキムミンテ、もしくはキムミンテと福森の2枚でジョーを挟んで見ていることが多かった。
 前半はジョーの近くで受ける選手を用意できない名古屋は、放り込みでジョーを活用する機会の方が多かったが、この時、大半の放り込みの状況は最終ライン中央からのシンプルなもので、守備側の視界をリセットするような揺さぶりもない。キム ミンテは一度サイドに振られて視界をリセットされると、守備対象となる選手とボール両方のケアが散漫になる傾向があるが、正面からシンプルに放り込まれるボールには滅法強く、ハワイでのPacific Rim Cupを見ていても思ったが、特に正面から放り込まれるボールに対して滅法強い。ジョー相手でも苦にせず跳ね返しまくっていたが、それは空中戦に限らず地上戦でも強さを発揮していた。
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

4.サイド解禁

4.1 ようやく使われるようになる宮原


 後半の変化としてまず、名古屋は長谷川を守備時に前に出してジョーとの2トップ気味、4-4-2に近い陣形で守るようになったことが挙げられる。これは恐らく4-1-5気味でボールを保持する札幌に対して中央2枚に同数の2枚を当てるようにした方が都合がよいとの考えがあったと思われるが、シンプルに見てジョー1枚だとスイッチが入らないので、札幌の形を意識しなくともこの布陣変更の必要性を感じていたのかもしれない。
 後半開始15分ほどの展開は、名古屋がボールを保持し札幌がカウンターを繰り出すという展開。先制点を奪っていた札幌は、名古屋の布陣変更に対する様子見もあったのか、後半開始直後はややペースを落としていた。
 一方で名古屋は、前半からずっとオープンな状態にあったサイドバックをようやく本格活用し始める。宮原の攻撃参加は前半はほぼゼロだったが、後半最初の15分間で3度あった。どれだけサイドバックがオープンでもバックパスを何度も繰り返しながらひたすら中央を選択していたのが、小林やワシントンは早い段階でサイドを選択するようになっていく。
オープンなSBを使う

4.2 選択肢は殆どなかった


 しかしSBに預けてから、人を中央に密集させている名古屋はサイドが孤立しがちで、ボールを預けてから個人の選手にお任せ状態が少なくなかった。宮原が持った時には、和泉を消してしまえば選択肢は殆ど奪われていて、決して精度が高いとは言えないクロスを中央に放り込むくらいしかできなくなる。札幌はこれを跳ね返すと、前残り気味の4枚(チャナティップ、都倉、三好、荒野…本来前にいてはいけないが、やはり食いつき傾向が強いので前で残っていることが何度かあった)に素早く展開してカウンターを繰り出す、という展開だった。
フィニッシュは単調で難なく跳ね返してカウンター

 66分、札幌は三好→ジェイに交代。同じタイミングで名古屋は長谷川→玉田。高い位置で仕事をする玉田の投入によって、ジョーだけを見ていればよかった札幌の最終ラインは方針変更を迫られる。しかしその直後、ジェイのクロスに都倉がオーバーヘッドのスーパーゴールで追加点を挙げたことで状況は一変。それまで以上にリトリートしてカウンター狙いが明確になる札幌と、2点が必要な名古屋。札幌はカウンター時に中継役を担っていた三好が下がったが、依然として名古屋は裏のケアができていない状況で引き気味に試合運びができることは言うまでもなく非常に有利な状況になった。

5.雑感


 ハリルホジッチの電撃解任が世間を騒がせている。本番を見据えたハリルのチーム作りは最後まで手の内を明かさないもの(だったと思うが、もはやわからなくなってしまった)で、名古屋はそうしたアプローチとは真反対の狙いが非常に明確な、自分たちのサッカー系のチーム。ミシャもそうした監督だったはずだが、北の地で中の人が入れ替わったのか、相手を見て適切なリアクションを発揮できることが徐々に示されている。
 前節に引き続き、カウンターのオプションをもたらしていたのは都倉。前線がチャナティップ・ジェイ・三好だとやや足元に偏りがちで、やはり都倉の馬力は捨てがたいし、本来ミシャの理想とする9番でもシャドーでもないと思うが、逆にそれによってチームに幅をもたらしているとも言える。

2 件のコメント:

  1. >本質的にはボールにどれだけ圧力をかけられるかという点が重要
     
    勉強になりました。忘れられがちですが、ボールホルダーを自由にさせていたらマンマークだろうがラインディフェンスだろうが出し手と受け手のタイミングさえ合えば無力化できちゃうんですよねぇ。ボールホルダーに制限をかけることで守備を楽にするというのがセオリーと考えるとミシャ式、特に名古屋戦は相手PAでそれができていたわけで良い守備からの良い攻撃を見事に表現していたのでは。

    ジェイほどではなくても放り込めば都倉はそこそこ勝てるのでセカンドボールを簡単に拾って攻撃を続けられる。しかも、名古屋は中に集めがちだったこともあり横幅を広く使うミシャの攻撃スタイルには労せずしてDFラインのサイドのスペースはガラ空きと実に美味しい状態。都倉も裏に抜ける意識をより強く持てたことと思います。

    風間監督は川崎では一旦サイドに振ることでDFラインの視線を切らせるということができていたように思うんですが、名古屋ではなまじっかジョーがスーパーなせいでバカ正直にやりすぎだったのかもしれません。ジョーにクロスを上げるにしても抉ってからじゃないと視線を切らせることはできないですしCBも(一応)できるミンテだから誤魔化せた部分はあったのかな、と。本職のCBであれば自分がいるポジションと相手選手の位置関係(による潰し方の的確な選択)、加えてボールをきちんと把握できるんだろうなあとまた新たな視点が見つかりました。

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    1. 川崎も基本的には横幅を使えないチームだと思っていますが、エウシーニョの特攻や車屋のクロスなど何らかサイドを使う形もあったのと、やはり憲剛の存在もあって縦への意識があったのが相違点かもしれません。正直なところシャビエルがいないとチームとして成り立たないレベルですね。

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