2018年4月23日月曜日

2018年4月21日(土)16:00 明治安田生命J1リーグ第9節 浦和レッズvs北海道コンサドーレ札幌 ~耐え忍ぶ日々はやがてレガシーとして~

0.プレビュー

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-2-1、GKク ソンユン、DF進藤亮佑、キム ミンテ、福森晃斗、MF荒野拓馬、深井一希、宮澤裕樹、菅大輝、三好康児、チャナティップ、FW都倉賢。サブメンバーはGK菅野孝憲、DF石川直樹、MF兵藤慎剛、ジュリーニョ、白井康介、早坂良太、FW宮吉拓実。浦和から期限付き移籍中の駒井は契約条項により出場不可。注目された右WBは水曜日のルヴァンカップ(磐田戦@ヤマハスタジアム)で中盤センターで出場した荒野。ルヴァンカップでは早坂の右CB、白井の右WB、宮吉は後半開始から前線で途中出場と読めない状況だったが、好調の宮吉をジョーカーとしてベンチに残し、アウトサイドは久々となる荒野をチョイスした。前節欠場したジェイ、深井、宮澤、チャナティップはいずれも全体練習に合流し、前日入りした遠征メンバー入りしているとの情報があったが、ジェイはメンバー外。
 浦和レッズのスターティングメンバーは3-4-2-1、GK西川周作、DF岩波拓也、阿部勇樹、槙野智章、MF橋岡大樹、長澤和輝、遠藤航、宇賀神友弥、柏木陽介、FW武藤雄樹、興梠慎三。サブメンバーはGK福島春樹、MF武富孝介、青木拓矢、柴戸海、菊池大介、FW李忠成、ズラタン。この週、オズワルド・オリヴェイラ新監督の就任および今節限りでの大槻毅暫定監督の任期終了が発表された。河合竜二よりもよっぽどヤクザおじさんな風貌が話題をさらったが、就任直後公式戦5試合で4勝1分けと見事に立て直しに成功した。ルヴァンカップの広島、ガンバ大阪戦では4バックの4-4-2、リーグ戦の3試合(仙台、神戸、清水)では3バックの3-4-1-2を採用しており、3バックでくることは読めたもののこの試合では柏木のトップ下+2トップではなく、1トップ2シャドーでスタートから望んでいる。マウリシオは前節清水戦でCB中央で出場したもののの前半途中で負傷交代しており、岩波が途中から起用された。スタメン発表では右から遠藤、岩波、槙野と想像される順に名前が並んでいたが、実際は阿部が中央を務め、遠藤は中盤で起用されている。

1.似て非なるアプローチ

 
 浦和が3-4-2-1を採用したことで所謂ミラーゲームとなったが、前半は浦和がアタッキングサードに侵入する機会が多かった。浦和と札幌は攻守ともに一見同じような形だったが、そのアプローチは微妙に異なっていて、このことがゲーム展開に影響を与えていた。また両チームともWBが上下動する可変システムであることから、後半ルーズな展開になるまでは全般に攻守が明確に分かれた形で攻防が繰り広げられていたことも特徴的だった。

1.1 札幌の前プレはなぜ効果的でなかったのか

1)遠藤の移動と守備の基準点


 ミシャチームと言えば守備は5-4ブロックで撤退、とネット戦術君界隈では定説になっているが、札幌では5-2-3の形で前に3枚を配してスタートすることが多い。この試合も立ち上がりは前に3枚を配して高い位置から浦和の組み立てを阻害することを企図していた。
 浦和はこのことを当然予期しており、遠藤を阿部と槙野の間に落とせるように、阿部と槙野の距離をやや開かせ、遠藤を長澤よりも低い位置に置いた変則的な形で攻撃を開始する。言うまでもなくミシャが好む形に近いが、遠藤は常に最終ラインにいるのではなくて、必要がないと判断すれば中盤に残っていて、状況を見ながら最終ラインにも中盤にも関与できる位置取りをしていたのがポイントになっている。
 札幌はマッチアップ上、基本的に前線3枚で浦和の3バックを見る設計になっている。遠藤が落ちると、都倉の基準は曖昧になる(阿部と遠藤両方を見る必要がある)が、チャナティップと三好には影響がない。よって槙野にボールが入ったところで三好が寄せることから守備をスタートすることが何度か見られた。
槙野を三好が見る

 浦和の攻撃サイドについては、槙野サイド(浦和から見て左)が多かったが、これについては宇賀神のコメントで
--攻撃については?
相手の右サイドの選手が本職のポジションではなかったので、そこを突いていこうとミーティングでも言っていた。
と語られている通り、槙野を起点として左サイドから組み立てることは事前に準備されていたと思われる。なお左サイドの選手も本職ではないことはバレていないようだった。

2)西川の右足


 槙野に渡ると三好が寄せていくが、この時、都倉は遠藤をケアする。遠藤が半端な位置(明確に4バックにならない)にいると、下の図のように都倉はそこからやや下がった位置で遠藤とボールを視野に収めるが、すると都倉とGK西川との距離はやや開くことになり、西川にバックパスがされた場合、都倉以外の選手が西川にプレッシャーをかけていく必要がある。国内だけでなく国際試合でも研究されまくったことでかつてほどの冴えは感じないが、浦和は依然として西川を組み立ての枚数に含めることができる点が相対的なアドバンテージとなっている。
 一方で「かつてほどの冴えは感じない」と書いたが、西川に右足で蹴らせることが浦和からボールを回収できるポイントの一つだとの認識は広まりつつあると感じている。札幌が前プレを敢行した理由は恐らくここにあり、バックパスをさせて更に西川に寄せていくところまでがセットで前線の守備は設計されている。
 都倉が遠藤のポジションによって西川に寄せることができないので、その役割はチャナティップになっていた。チャナティップも最初阿部を見ているが、西川に渡ると阿部を切りながら精力的に二度追いを敢行し、西川に時間を与えない。
西川にバックパスさせたうえで右足で蹴る様に誘導する

 先述のように槙野のサイドから組み立てたい浦和と、西川に右足で蹴らせたい札幌、という思惑を両チームは持っていたと思う。これについて、札幌は西川の左足を切るなら三好が右サイド(浦和の左、西川の左)から寄せたほうが効率的である。その役割がチャナティップと左右で結果的に入れ替わったのは想定内だったか、そこまで考えていなかったかはよくわからない。

3)保険として運用される宮澤と深井


 浦和としては、この一連のプレーで終始フリーな岩波に西川がボールを逃がせればOK。結果的には、多少ミスキックによる失敗はあったが、逃がすこと自体はそれなりに問題なく行えていたと思う。ただ岩波はフィードは得意だが、ボールを運ぶ意識はあまり高くない。オープンな状態はそれなりにあったが、基本的には柏木か長澤にボールを預けて仕事は終了していた。
 詳細は後述するが、浦和との相違点として、札幌は前からハメていく局面でも宮澤と深井は中盤にステイして中央を守っている。これは中盤に残っている長澤もそうだが、下の柏木の動きのように浦和のシャドー(場合によっては興梠も)が中盤に落ちてくる場合の”保険”としてスペースを守っておきたいとの考えによると思われる。
 ”保険”と書いたが、柏木にはマーカーとして福森を充てているので枚数不足等にはならないが、福森があまり最終ラインから離れると空けたスペースを興梠や武藤が狙っていくので、守備対象(柏木)が中盤に落ちた時は他の選手に任せた方が全体のバランスは維持される。守備に関するミシャの考え方はまだよくわからないところもあるが、攻撃時に中盤の選手を動かしてスペースを創出することを得意としているため、自身が守勢に回った時は必要以上に人を動かしたくない、という考えはあるかもしれない。
落ちてくるシャドーを見るために深井と宮澤は中盤にステイ

4)武藤の移動がゲームを動かす


 西川は岩波にボールを逃がすことが多かったものの、宇賀神の言葉通り、浦和は反対サイドから徐々に攻撃の形を作っていく。変化があったのは12分頃で、武藤が札幌の中盤センター2枚の脇となるエリアに落ちてくる。これ以降、武藤が中盤まで落ちてその裏を興梠が狙う、またはその逆パターンで武藤が裏を走る、という具合に進藤やキム ミンテの守備範囲を確認しながら、捕まらない位置に移動してボールを収めることを試みる。
武藤が深井の脇に落ちて収める

 武藤が落ちると、反対サイドと同様にやはり札幌はまず中盤の選手で対応させ、進藤はあまり出過ぎないように注意して対応する。この時、宇賀神はミシャ式の5トップのように張るのではなく、引くことで荒野を釣り出す。荒野が最終ラインから釣り出されると、進藤も守備対象(武藤)が引いているからといってその動きについていくと、札幌の右サイドは荒野と進藤の両方が釣り出されて最終ラインは3枚になってしまう。開幕当初、札幌はこの辺をよく考えていないかのように進藤や福森、キム ミンテもどんどん前に出ていくことでボールにアタックしていたが、これはマズいと思ったのか、あまり釣られ過ぎないように、この状況であれば進藤はステイするように微修正して戦っている。

 しかし武藤が遠藤や長澤を使って展開すると、宮澤と深井だけでは中盤で捕まえきれなくなる。そして遠藤が前を向いて持ったタイミングで札幌のDF-MF間に出てくる柏木や、反対サイドの橋岡を使うことで前進する。
 札幌としては、必要なところに人を残しておくという考え方があったのだと思うが、結果的に特に最終ラインの選手がどのタイミングで対面の選手を潰しに行けばいいかが不明瞭になっていて、前半からアフターチャージ(22分に宮澤に警告)や、中盤で裏を取られてのバックチャージ(10分頃にサイドで荒野が宇賀神を倒してFKを与える)が相次いでおり、枚数は揃っているはずなのに混乱している印象を受けた。
落ちてくるシャドーを深井が見るが数的不利が後手の対応につながる

1.2 浦和のアプローチ

1)初期配置


 札幌がボールを持っている時の浦和の守備は、5-4-1に近い形でセットする。札幌と同じく、シャドーの選手が相手のCB左右の選手(柏木→福森、武藤→進藤)という関係性で考えられていたが、この両者は他の選手が近くに出現したときもほぼ無視しており、チャナティップが阿部を見たり、西川を見たりとしていたような動きはほとんど見られない。
 なお、札幌の選手のポジショニングは、「左肩上がり」のような位置取りをすることが特徴的である。最終ラインは進藤が低めで、福森がやや上がり目、かつサイドに張り出すことが多い。WBは荒野が低め、菅は攻撃時、ほぼ最前線に張っている。この配置は、これまでの試合でも度々見られたが、後方3~4枚でビルドアップの出口を見つけられない時に、右WB(駒井)を出口にすることで解決を図るというもの。菅はそうした役割は求められておらず、常にウイング然として高い位置を取るが、荒野のスタメン起用はそうした役割も意識してだと思われる。
左右のCBをシャドーが見る関係

 武藤と柏木で言うと、特に福森と対峙する柏木は重要で、これまで何度か書いたように福森は対角線上のスペースへのロングフィード1発で、アタッキングサードで三好や都倉が前を向く局面を創出できる能力を持っていて、これがWB(駒井)が引くことでスペースを作ることと非常にマッチしている。よって柏木は福森の左足を、中央方向のコースを切るように寄せていく。福森は前半から後半途中に至るまで、サイドチェンジや都倉へのフィードを全く繰り出せずに窮屈なプレーを強いられる。

2)基本は全てマンマーク


 浦和は興梠1人で2人(キム ミンテ、深井)を見ているところはどう整理するかというと、例えばキム ミンテが興梠の脇から持ち上がると、対面の長澤が非常に早いタイミングで、時に興梠のラインを追い越すことも辞さず前に出てチェックする。これにより、遠藤と宮澤の関係性も出来上がり、基本的に各ポジションで全てマンマークの関係を成立させる。長澤の背後には当然スペースが空きやすくなるが、チャナティップがここに落ちれば岩波が前進して簡単にターンさせないようにケアする。
長澤(と遠藤)は積極的に前に出て最終ラインにボールを持たせない

 札幌が浦和の4枚の中盤を何らか突破(都倉への放り込みが多かった)して浦和陣内に侵入すると、浦和は興梠を残した9枚で低い位置にブロックを築き、自陣深くに撤退する。撤退しながらも、ブロックの前で宮澤や福森がボールを保持すると、対面の選手が必ず寄せて簡単に蹴らせないようにする。
 札幌はこの浦和の高密度ブロックを崩す突破口が見えないまま前半を過ごす。序盤こそ、4分に福森の楔のパスに都倉がフリックしてチャナティップが抜け出す(わずかにオフサイド)ような形もあったが、基本的に札幌のフィニッシュは現状大半がサイドからのクロスに偏っている。前半、浦和のブロック内では三好が受けて一人で反転してシュートまで持っていこうとする程度のアクションしかできていなかった。
2列目を突破されたらリトリートするがボールへの圧力は維持

2.荒野行動

2.1 福森ロールと駒井ロール


 ペトロビッチのチームは毎年何らかのアップデート、マイナーチェンジを伴っているが、札幌では先に述べたように福森と駒井の使い方に特徴がある。
 まず福森は本来攻撃時、4バックの左に該当するポジションで組み立てを担うが、今シーズンはより中央のエリアでもプレーしたり、第7節の湘南戦では殆ど中盤に近い位置まで進出することもあった。役割自体ははっきりしており、前線への楔のパス、もしくは反対サイドへのサイドチェンジで展開を加速させ、攻撃のスイッチを入れる役割なのだが、印象としてはこれをやりやすい(=フリーになりやすい)位置を試合展開の中で探しながら、ポジションを固定せずプレーしている。
 そして福森が自由なポジション取りをすると、組み立ての枚数が1枚減る。対処法として、中盤のもう1枚を下すということもあるが、右WBの駒井を使って詰まった時にビルドアップの逃げ場として活用するやり方もとられている。そのために駒井を最初から高い位置に張らせておくのではなく、低めに配しておいて組み立てに関与できる位置取りでスタートすることが多くなっている。そして駒井が”空けた”右サイドの高い位置は三好が使えるようになっていて、ここまで左利きの三好が右サイドに開いてボールを受けてからのクロスやスルーパスがフィニッシュの一つの形となっている。

 図で示すと、下の図の白い四角のエリアは(相手の形にもよるが)中央よりも監視が薄い。ここに福森と進藤だけでなくて、右WBの選手も配して逃げ場として活用しよう、という考え方になる。
中央がきつい場合はタッチライン際の選手にボールを避難させたい

2.2 落ち着かせられない荒野


 この試合、浦和がマンマークで対抗し、常に興梠や長澤の圧力を受けているキム ミンテや深井としては、「逃げ場」にボールを逃がしていきたい。よって右WBの「逃げ場」としての重要度は高いシチュエーションだったと言える。
 駒井を起用できないこの試合で、筆者は右サイドは本命:早坂、対抗:宮吉、穴:白井と見ていたが、予想は完全に外れ荒野がスタメン起用された。そして荒野が全く「逃げ場」として機能しなかったことが札幌が前半思い通りに攻撃に移行できなかった要員の一つだった。荒野も他の選手同様、宇賀神と常にマッチアップしていて、ボールを受けた時に簡単なシチュエーションではないことが多かったが、サイドでボールを預けられた時に荒野の選択は大半が都倉や三好を狙ったパス。これが受け手と全く合わず、浦和にボールを回収されカウンターを受けてしまう。最終ラインの選手としては、荒野に預けることは攻撃のやり直しを企図したものであって、荒野が(駒井が普段そうしているように)バックパスなどで再び味方に渡してくれればいいのだが、簡単にボールを放棄し攻撃機会をふいにしてしまう。
荒野は預けられると単調な展開を選択しボールを手放してしまう

3.後半開始~布陣変更まで

3.1 変わらぬ構図


 札幌は後半頭から深井⇒早坂に交代。荒野の右サイドはテコ入れの必要性が明白で、早坂の投入は予想できたが、深井との交代は悩ましい選択だったと思われる。前半で三好と宮澤が警告を受け、他の選手も何度かアフターやバックチャージで反則を取られていてファウルトラブルが気になる。それとは別に深井の膝はこれ以上消耗させられないので、どこかで替える必要がある。
 早坂の投入と荒野のポジション移動があったが、構図は前半とそう大きくは変わらない。浦和は札幌の中盤2枚の脇を引き続き狙っていく。前半からの変化があったとすれば札幌の側で、都倉が三好やチャナティップに「前から行くな」と指示を出しコントロールする局面が見られた。少しでも中盤のスペースを狭め、またサポートに都倉自身やシャドーの2枚が加わったりすることができるように、守備時にあまり高い位置を取りすぎない方がいい、とハーフタイムで考え方が整理されたのだと思われる。

3.2 福森の突撃


 浦和ペースで進む中で、55分頃から札幌は福森が更にポジションを上げて攻撃参加を狙っていくようになる。この時の構図は下の図のようになっていて、まず福森がポジションを上げ、完全にビルドアップに関与しないポジションを取る(と同時に、宮澤と荒野が2枚とも下がってくる場合もあれば、下がらない場合もある)と、柏木は福森に完全に付いていくべきか、初めて生じる現象に直面し迷いが生じる。
 柏木の迷いはお構いなしに、福森は上がれるときはいくらでも上がっていく。これを左サイドのタッチライン際で行うと、橋岡の視界には菅と福森が両方出現して、菅を捨てて福森に対して出ていいか、ここでも迷いが生じていた。その迷いによって少しの時間があれば、福森はロングフィード1発で違いを作り出せる。都倉や逆サイドの早坂は、福森を意識した動き出しを行うようになる。
福森が突撃すると浦和右サイドのマンマークの関係が崩れる

4.札幌のレガシー 

4.1 兵藤の投入


 62分、札幌は三好→兵藤に交代。兵藤は初め三好の位置にそのまま入っていたが、65分頃、ミシャが「ヒョードー!」とテクニカルエリアから声を上げたタイミングで3-1-4-2、中盤に右から荒野-宮澤-兵藤と並ぶ陣形にシフトする。2017シーズンに四方田監督下でよく使われていた陣形だが、兵藤投入直後、都倉らがベンチに入念に確認していたことからも、恐らく殆ど練習はしていなかったと思われる(なお丁度この記事を書いている最中、スーパーサッカーで福田正博氏が「ミシャが過密日程のためろくに練習できていないと言っていた」とコメントしていた)。
65分頃~

 この布陣変更は試合展開に以下の影響を及ぼしていた。

4.2 中盤の攻防での優位性を取り返す


浦和は中盤2枚に対して札幌は3枚を確保する。中盤の攻防で1人多く関わることができるようになり、このことは必然と攻守両面でプラスに作用する。
 一例を挙げると、70:19には浦和のカウンターから、柏木から札幌のDF-MF間の武藤に縦パスが出る。札幌は最終ライン5枚と中盤3枚は戻れているが、荒野と宮澤が横に並んでしまっているところを柏木がパスコースを見つけて楔を入れる。
 ただ武藤がこのように札幌のDF-MF間で受けること自体が大きな変化でもあり、それまでの札幌が中盤2枚で戦っていた時間帯ならば、武藤はライン間ではなく荒野の脇で基本的に受けていた。これが中盤3枚になったことで、脇のスペースを狙うことは難しくなったこともあってライン間を狙っているのだが、武藤は荒野と進藤にサンドされ潰されてしまう。札幌がボールを回収し、攻守が入れ替わる。

 札幌はすぐにカウンターに移行するが、浦和は5トップ状態で攻撃を仕掛けていたので、このネガトラは遠藤と長澤の2枚のみで対処しなくてはならない。遠藤がボールホルダーの荒野に寄せてくるが、荒野は隣の宮澤に預けて前に走る。

 宮澤に対して”中盤2枚目”、長澤が出てくる。しかし札幌にはもう1枚兵藤がこの攻防に加わっているので、遠藤と長澤が荒野、宮澤に当たったことで兵藤はフリーで抜け出すことができる。
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

4.3 浦和の攻撃をサイドに誘導


 浦和がボールを保持する展開になると、札幌は5-3-2でセットして守備に移行する。1列目のチャナティップはボールホルダーにプレッシャーをかけたがっていたが、都倉がやはりコントロールして基本は2枚でステイし中を切る。2トップで守備をすると2トップ脇をどう守るか、4-4-2であっても5-3-2であってもポイントになるが、試合終盤ということもあって札幌はこのエリアを放置し、後方のブロックを崩さないことに注力する。
 浦和はこのスペースを、特に後半から攻撃参加が目立った岩波が運んで楔を打ち込むが、岩波はゴールに最短距離となる斜めのパスを狙いたいが、ブロック内で興梠や武藤が受けると先に挙げた局面のように札幌のDFとMFで囲い込んで対応できるようになっている。よって岩波や槙野は外→外の経路で運び、最終的には橋岡や宇賀神、サイドに流れた武藤らの仕掛けで打開しようとするが、5バックを動かさない札幌が中央ではね返すことで解決する。 
岩波の持ち上がりは許容するが中央は固めない

4.4 柏木の背後を突く


 後半になると福森の攻撃参加が目立つようになったのは先述の通りだが、兵藤が最終ラインの左に落ちることで福森は後方を気にせず攻撃参加できる。浦和は終盤になると、特に柏木の運動量が落ち、札幌から見て左サイドがルーズになっていく。もっとも福森も帰陣が散漫になるなど同じような条件だったが、福森は菅と並べてサイドに置くだけでもその左足で脅威を与えられる。菅はこの試合、福森の支援があるまで殆ど仕掛けられなかったが、福森が攻撃参加すると、橋岡が福森に対応するため菅のマークがずれる(岩波が対応する等)。ようやくクロスを上げられる形に持っていくことができる。
兵藤が落ちると福森はポジションを上げられる

 また福森が出ていかない場合は、兵藤が柏木の背後、長澤の脇となる位置に出ていく。兵藤が飛び出すと、長澤は前方の宮澤を見るか、下がってスペースを埋めるか、という二択を強いられる。基本的にこの状況では兵藤にスペースを与えることは悪手だが、ホームで同点という状況もあり、スペースを埋めるだけでなく前方の宮澤もケアしたいところで兵藤が背後を狙うと、難しい二択を強いられる(44分に興梠に変えて投入された李はひたすら札幌最終ラインに気持ち前プレをしていたが、長澤がこのような状況なので、前線の選手が何とかしなくてはならない状況だった)。
兵藤が柏木の背後を狙う

5.雑感


 試合を重ねるごとにイメージを覆すというか、新たな顔を見せつつあるミシャだが、この試合では遂に後半途中からいつものシステムを変更した。都倉をほぼ完封した阿部に代表される、浦和の個人能力の高さによってミラー状態では厳しい状況だっただけに、形を変えたのは妥当な選択だった。駒井を欠いた右WBの人選次第では、交代カードを終盤に残すことも可能だったが、ベンチメンバーのチョイス(FWが宮吉しかいない)を見ても、これまでの試合と異なり中盤勝負になることは札幌ベンチも予想していたのかもしれない。

2 件のコメント:

  1. マリノス戦二もジェイの名前はなし。
    力業で押し込むのは現実的には無理だったというのもあるかと思います。

    荒野のサイド起用が失敗だったことで「サイド攻撃って何だ?」と愚考してみると1つは縦の突破、2つは精度の高いクロス、3つはサイドチェンジ。駒井は突破とクロスはもちろんのことサイドチェンジもそこそこできる、でも荒野は…と考えるとちょっと厳しいものがあるのかな、と。ボラの時はたまにサイドに「おっ!」と思えるボールが出せるんですけどねぇ…。

    ミシャ式だとWBに求められるのはまず縦の突破になるのでしょうか。駒井のように独力で突破は無理でも菅のようにフルタイム走りきるだけの馬力は欲しいように思いますが…。

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    1. 荒野がバランスとり系のWBをやるのはバルバリッチ時代からで、それを考慮して四方田コーチが推薦したのだと推測しますが、彼は中央でボールを持った時の視野確保やターンは得意なので中央の方がやりやすいんでしょうね。確かバルバリッチが解任された後、厚別での試合でサポーターに野次られてちょっと揉めた時はサイドだったかFWだったか…駒井は所謂ゲームメイクというかボールを持って形を作っていくことでも非常に貢献していると感じていますが、駒井と荒野の戦術理解がそのまま表れた試合だったと思います。

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