2019年3月7日木曜日

2019年3月6日(水)YBCルヴァンカップ グループステージ第1節 横浜F・マリノスvs北海道コンサドーレ札幌 ~制約下での布石~

0.プレビュー

スターティングメンバー

 札幌(1-3-4-2-1):GK菅野孝憲、DF早坂良太、キムミンテ、石川直樹、MF中野嘉大、中原彰吾、小野伸二、白井康介、岩崎悠人、檀崎竜孔、FWジェイ。サブメンバーはGK阿波加俊太、DF濱大耀、中村桐耶、FW藤村怜、大和蓮。
 横浜(1-4-1-2-3):GK朴一圭、DF山田康太、栗原勇蔵、ドゥシャン、ティーラトンMF扇原貴宏、大津祐樹、三好康児、FWイッペイ シノヅカ、遠藤渓太、李忠成。サブメンバーはGK杉本大地、DFチアゴ マルチンス、広瀬陸斗、MF喜田拓也、FWマルコス ジュニオール、仲川輝人、山谷侑士。三好はリーグ戦次節の川崎戦には契約条項により出場不可のため今週はカップ戦で使っているのだと思われる。
 レギュレーション等を考慮すると、ルヴァンカップのグループステージに100%ガチで臨むチームは基本的にない。札幌の場合はまず①リーグ戦ベンチメンバーのコンディション調整(小野や早坂がこの位置で先発することはリーグ戦ではない)、②18人枠に絡める選手の確認(特に中盤センター)、③特定選手の出場機会確保、等を念頭に置いたうえでこの試合に臨んでいると思われる。



1.基本構造

1.1 マリノスのアタックの構造


 序盤からマリノスが軽快にボールを前進させ札幌陣内に幾度となく侵入する。マリノスの攻撃に速さと精度が伴っているのは、ボールの動かし方とそのためのポジショニングをオートマティックに叩き込んでいるため。
 ボールと人の動かし方は基本的に下図の通りでほぼパターン化している。崩しのパターンは、サイドに張ったウイングが対面する相手の大外を守る選手(札幌だとWB。白井と中野)を引き出し、その背後をインサイドハーフ(図では大津)かウイング自身(図ではイッペイ)が狙う。白井の背後は隣り合うDF(図では石川)しか守れないので、今度は石川のところが空く(ミンテがスライドする手もあるがマークがずれる)。その石川が元いたレーンを偽SB(絞り気味の位置取りをするSB。図では山田)の選手が狙う。という構造。
 時間をかけてしまったり、相手がサイドを封鎖すると、走りこむ・受ける・グラウンダークロスでえぐるスペースがなくなる。その場合はボールを戻し、サイドを変える。
 起点になるウイングポジションにボールを供給するエリアは、CB~アンカー~SBで構成するトライアングル。図では栗原・扇原・山田が該当する。
ウイングの位置でポイントを作ってスピードを落とさず縦方向に展開

 守る側として厄介なのは、立ち位置と紐づいて役割が決まっているが、人(選手)は紐づいていない点。流れの中で、黄色いトライアングルで示した選手のポジションチェンジ(役割のシャッフル)が許容される。この「規則性を根底に置いた流動的なポジションチェンジ」が活発であると、守る側は攻撃のパターンがわかっていても判断と対処が鈍る。
 また三好は三角形だけでなくアンカー扇原とも役割をシャッフルする。これによりアンカーが関わるタスク(後方でDFとポイントを作ってウイングにボールを運ぶ)を一部、三好も分担することとなり、この点においても守備側の判断を難しくさせ、前進を容易にする狙いがある。
サイドの3選手が位置と役割をシャッフルしても機能する

1.2 札幌の対応


 立ち上がりの札幌はまず、下図の形で対抗する。前線は王様ジェイが中央のアンカーをケア。4日前に埼玉でのリーグ戦でチャナティップが担っていた役割とほぼ同じ。王より1回り以上年下の若者2人が起点となるCBをマーク。中央2人はインサイドハーフを捕まえる。SBはWB。マリノスの3トップは3バック、同数で守る。やり方は札幌お得意の、ほぼ純粋に人についていくマンマークである。

 この理由は2つを予想した。1つは、マリノスはGKをビルドアップに組み入れてくるので、高い位置でマリノスのCBとGKに圧力をかけて(もちろんジェイは走らなくてよい)ミスを誘えばビッグチャンスが期待できるため。この点だけを見ればローリスク・ミドル~ハイリターンな試みである。
 もう1つは、ミシャは後ろに人を余らせておくのが好きではないという点。これは昨年10月のマリノスとのリーグ戦での、まさかの4バック採用が思い起こされるが、相手が3トップならDFを5枚置いておくと2人無駄になる(他のエリアでその2人分不利になる)べさ、というもの。ヨモ将こと四方田ヘッドコーチとは対極の考え方(ヨモ将は「最終ライン5vs3で2人も余ってれば守備は安定、最高じゃん」という守り方をする)である。

 しかし明らかにヤバそうなマッチアップ(マリノスと札幌の人の組み合わせというより配置上の噛み合わせ)がある。下図を見て気付くかもしれないが、マーク関係の選手間の距離が明らかに離れているエリアがある。一つはマリノスのSB(山田・ティーラシン)と札幌のWB(白井・中野)。もう一つはマリノスのウイング(遠藤・イッペイ シノヅカ)と札幌の3バック左右(石川・早坂)。
得意のマンマーク守備で整理するが…

 この距離はそのままマリノスの選手が得て活用する”時間”となり、その時間の分だけボールをドライブさせる余裕が生まれる。
マーク対象と距離が離れていると時間を与えてしまう

  そして偽SB(ティーラトンがよく行っていた、中に絞るポジショニングからの中央での展開や味方のサポート)が発動すると札幌のWBはそれにもついていく。オリジナルポジションから中野や早坂は大きく揺さぶられ、特に早坂の動いたエリアに大きなスペースが生まれる。
 が、15分過ぎからマリノスの序盤のラッシュが落ち着いたこともあり、早坂をはじめ札幌の選手は明らかにマリノスのサッカーに”慣れ始める”。もっとも、小野は揺さぶられるとどうしようもないし、小野が外された背後をカバーするキム ミンテや石川はたびたび難しい状況を迎えていたことも事実だった。
ポジション移動にも律儀についていくのでスペースは放棄しがち

2.おや…ミシャのようすが…

2.1 即席4バック


 20分過ぎ頃から札幌が対応を変える。
4バックに変形

 檀崎と白井を下げる変則的な4バック。最初これは4バックと言っていいのか迷ったが、スカパー!中継の清水秀彦氏は「これは4枚にしてますね~」とコメント。試合後インタビューでもこの質問に対し、特に否定していないことから4バックと表現して良いだろう。
 変則的というが、時間経過と共に各ラインの「4」-「4」-「2」という即席ユニットに相互補完性(たとえばジェイが右に行くと岩崎は左に、小野が飛び出すと檀崎が中に絞ってカバー、等)が徐々に出てくるのが興味深い。4-4-2をやったことがないサッカー選手はおそらくこの世にいないので、なんとかなるものなのかもしれない。またよくよく思い起こすと1年前、厚別でのリーグ戦でマリノス相手にも変則4バック気味のシフトで戦っていた(この時も右の三好がトップ、左のチャナティップが1列下がる)ので、前からあるアイディアだったのだろう。
 
 といっても基調は元のマンマーク守備である。基本的なマーク関係を図示する。
マーク関係は従前と同様 栗原に「持たせる」

 札幌が本来左にいた檀崎と白井を下げている関係上、マリノスはどちらかというと右(栗原)がオープンになりやすい。しかし栗原にあまり持ち上がらせたくないのか、そのオープンな状態はあまり有効活用されず、栗原にボールが渡っても、すぐ近くの選手に預けることが大半だったことも、膠着化につながった要因である。

2.2 札幌のポジショナル攻撃


 展開が落ち着き、札幌のポジショナルな攻撃が現れてきたのもこの時間帯から。
札幌ボール保持時の配置

 マリノスが高い位置から守備を開始すると、このような位置関係になる。宮澤も、荒野も、深井もチャナティップもいない札幌は、ミンテと石川でボールを運ぼうとする。頻繁なポジションチェンジには耐えられそうにない小野はともかく、中原はここで存在感を発揮してほしかったが、預けられる選手が周りに皆無のこの状況では厳しい。
 最終ラインから前線5トップへの供給が生命線のミシャアタック。中央の中原かミンテ(李がチェックに行かない方の選手)にわずかに時間があるが、マリノスのインサイドハーフ(三好と大津)が捕まえに来る。ボールを供給できる福森のポジションには今日は石川であり、ミンテは等々力0-7事件以降長い自分探しの旅に出てしまった状況で、後方に組み立て役がいない。中原やミンテのわずかな時間を前線5トップに繋げたいが、プロデビューの檀崎にチャナティップの仕事を期待することは厳しい。岩崎もミシャ式シャドーにはまっていない。
中央で唯一形を作れたのはジェイ

 よってジェイに預けてからサイドに展開か、石川から中野への対角フィードに活路を見出す札幌。このメンバーではボールが運べない。
 WBに渡ると、4バックのマリノスに横幅の優位性を突きつける札幌だが、右の中野サイドに比べ、左の白井サイドは一度持ち替えてからプレーすることが多く、決定機に繋がらない。

3.前提が崩れる


 後半も4バックで入る札幌。49分のジェイの先制点はその優位性…前残りのマリノスのウイング・遠藤に早坂がマンマークでついていたことでパスをインターセプトに成功。早坂→中野と渡りジェイが流し込んだものだった。
 その後も同じやり方を続ける札幌。しかし、56分、マリノス左サイドでティーラトンが開き、ハーフスペースを空けると三好が降りてきてボールを受ける。三好の得意のバックドアで中原が置き去りにされ、ドリブルで侵入されると、最終ラインで1枚余っていたミンテが三好に出ていく。三好がミンテを引き付け、ファーに流れる李にスルーパスを送ると、李は石川を引き付けてスペースに走ってきた大津に完璧なアシスト。
 札幌はマリノスのインサイドハーフをマークしていた中原と小野が完璧に置き去りにされ、特に余っていたミンテが前に出る原因を作った中原の対応(確かに三好は巧みだったが、この位置で置き去りにされると前提が崩れてしまう)で勝負あり、というプレーだった。
56分 マリノスの得点
 札幌は57分、中原→藤村に交代。20分には小野→濱に交代。中盤センターはキム ミンテと藤村のコンビになる。
65分~

 藤村もやはり投入直後はマンマークの役割に慣れておらず、大津をたびたび離した状態でプレーさせてしまう。
 一方ビルドアップは積極的に関与しようとする点は好印象だった(ボール保持時に積極的に関与しようとするので、対面の選手のマークを離しやすい状況でもあった)。

4.雑感


 リーグ戦でサブの選手中心ながらも、戦術が浸透しているマリノスの完成度の高さを感じるゲームだった。札幌はスカッドの編成上、リーグ戦のベストメンバーと比べると、やれることがかなり制約されることは否定できない。その中で普段と形を変えたミシャの戦術的アプローチ(基本的に、前のシーズンからマリノスのことは非常にリスペクトしている)もあり期待以上に見ごたえのあるゲームだった。2試合残るマリノスとのリーグ戦において、この試合は何らかの布石となるだろう。試合前の命題だった中盤センターのバックアップは、期待の中原はまだチームにフィットしていない印象で、キム ミンテがしばらくその役割を担いそうである。

2 件のコメント:

  1.  おはようございます。にゃんむるです。今回投稿すごくはやいなー( ゚Д゚)ビックリ!
     試合をスカパーで観たけど、まあ、トップチームの開幕戦もイマイチだったし、カップ戦メンバーも次戦以降の向上を期待するとしましょう。
     中原、岩崎あたりは期待外れな印象だけど、ここで判断するのもまだ早いでしょう。自分的には菅野、白井、ジェイあたりはいい感じだなーという印象で、後の選手たちはまだまだこれからな感じでしたね。新戦力がミシャのサッカーに慣れるのにも時間を要するでしょうし、生温い目でマッタリと様子見ていきましょう。
     小野に関しては運動量少なくて周囲の選手の負担が大きくなるので、先発はきついなーという印象が残ってしまいましたね。好きな選手だったけどそろそろ限界かなー。
     今年はリーグ戦あまり行けないし、平日のストレス解消のためにカップ戦も頑張ってほしいです。それだけのクオリティはメンツ的にあるでしょ。
     そんな感じ。にゃんむるでした。またのー('ω')ノ

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    1. 週末にマリノス予習していたのもあって整理が早くできました。あと今年からネット環境変えてますw
      白井は相手が5バックでサイドにスペースがないときにどこまでやれるか、がポイントですね。

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