0.スターティングメンバー
スターティングメンバー |
札幌(1-4-4-2):GK菅野孝憲、DF白井康介、キム ミンテ、福森晃斗、菅大輝、MF中野嘉大、宮澤裕樹、荒野拓馬、檀崎竜孔、FW岩崎悠人、早坂良太。サブメンバーはGK阿波加俊太、DF濱大耀、中村桐耶、MFルーカス フェルナンデス、チャナティップ、金子拓郎、FW藤村怜。マリノスとの対戦は今シーズン3試合目。過去2戦に続いて4バック。金子はこの試合の前日に練習に合流したばかりという。
横浜(1-4-1-2-3):GK飯倉大樹、DF松原健、チアゴ マルチンス、畠中槙之輔、ティーラトン、MF扇原貴宏、大津祐樹、山田康太、FW遠藤渓太、イッペイ シノヅカ、李忠成。サブメンバーはGK杉本大地、DF栗原勇蔵、広瀬陸斗、和田拓也、MF中川風希、椿直起、FW山谷侑士。累積警告によりドゥシャンと中川が出場停止。基本はリーグ戦の控えメンバーだが、最終ラインはティーラトン以外はレギュラークラス。
※この試合は、4/20に対戦したリーグ戦の試合と近しい構図や構造が含まれているので、内容を忘れてしまった方は是非該当記事に少し目を通してください。
1.互いの基本戦略と基本構造
1.1 互いの基本戦略
・札幌
基本はリーグ戦と同じ。グループステージでトップを走っており、引き分けでも問題ないこと、4日後により重要な試合(アウェイでの松本戦)を控えていることから、特にレギュラーメンバーの選手を消耗させたくないという考え方があっただろう。そうした考え方があると、一般に守備開始位置は低くなる。
・横浜
基本はリーグ戦と同じ。トップに本職の選手(李)が戻ってきたので本来志向するスタイルにより近づく(=プレス強度を上げられる)。
1.2 基本構造(マリノスのボール保持時)
札幌はリーグ戦と同じく人の配置は4-4-2、基本はマリノスの各選手にマンマークで対応する方法をとる。
違いを挙げるとするなら、1列目・2トップの守備の開始位置やその強度。リーグ戦では武蔵とロペスの2トップがマリノスのアンカー扇原だけでなく、扇原を受け渡しながらも、もう一人の選手がマリノスのCBをケアする形をとっていた。開始早々のチャナティップの先制点は、ロペスの畠中へのアタックから生まれたことは記憶に新しいだろう。これに対し、今回は岩崎と早坂の2トップはアンカー扇原を守ることに殆ど集中しており、チアゴ マルチンス、畠中のボール保持に対し、ロペスが見せていたような強度のあるアタックを仕掛けることは殆どなかった。
マリノスのボール保持に対する札幌の守備の対応 |
そしてマリノスがグルグルと人をローテーションさせて配置と役割をシャッフルし、札幌の選択を鈍らせるやり方もこれまでと同じ。これも相違点を挙げるとしたら、トップの李は殆ど中央から動かず、シャッフルに加わらない。これは選手特性上、李はゴール前に固定しておいた方が便益が大きいという判断だろう。
マリノスのローテーション |
1.3 基本構造(札幌のボール保持時)
(おさらい)マリノスを3-0と一蹴したリーグ戦での対戦では、札幌がボールを握るとこのように可変していた。右は最初から高い位置にルーカスが張り出している。左は菅が数十メートルを走って最前線に進出し、深井がその背後を守る。
(おさらい)リーグ戦での攻撃時の可変 |
(おさらい)そして、これもルーカスと同じく、最初から「都合の良い位置」にいる進藤が起点となったり、後方でボールを保持して時間を作ってから、いつもの福森を使った展開、どうしようもない時は武蔵やロペスへの放り込みで前進していた。
(おさらい)リーグ戦での主な前進手段 |
一方この試合ではこのように可変していた。リーグ戦との違いは左サイドにあり、深井は自分が下がることで菅を押し上げ、福森を左SBの位置にずらすが、この試合、中盤センターの左で起用されている荒野はそうした働きをしない。
このことは事前に決めていたのかわからない。リーグ戦で深井が落ちていたのは恐らく事前に決めていたのだと思う。その根拠は、それまでの試合で深井と宮澤(もしくは荒野と深井)の役割分担や取るポジションは明確に決まっていなかったが、マリノスとのリーグ戦では全て「深井が下がって宮澤が残る」という関係になっていため。
(この試合)右サイドは同じように可変するが左サイドは荒野が最終ラインに移動しない |
ともかく荒野は深井と違い、あまり下がらなかった。
これにより何が起きていたかと言うと、菅は本来取りたい(というか、ミシャがそうさせたい)最前列左のウイングポジションになかなか進出できない。理由は自分が元いた位置(左SBの位置)から動くと、そこに人がいなくなるため。このことを気にせず攻撃参加していいのか、別な振る舞いをすべきか迷ってしまっているように見受けられた。
結果、菅が中途半端な位置取りに終始すると、札幌の左サイドは前(ウイングとして仕掛けを担うポジション)も後ろ(ビルドアップに関与するポジション)もデッドスペースと化してしまった。
2.一つを除き機能不全
上記の理由で、札幌がボールを保持した時の左サイドは機能不全。トップに本職の李が入ったマリノスはハイプレスを仕掛ける。CBのキム ミンテと福森は、サポートがない状況でボールを右SBの白井に逃がすか、勝ち目の薄い放り込み(ターゲットが早坂しかいない)に逃げるしかできない。
白井に渡ると、「最初から高い位置にいる」中野とのチェーンは一応存在していた。というかこの白井→中野のルートが、札幌の唯一の前進経路となっていた。白井ではなく進藤なら、反対サイドを見て菅が攻撃参加してくるタイミングでサイドを変えられたりしたかもしれないが、遠藤のプレスを受けて自由を奪われる白井にはそれは難しそうだったし、荒野と宮澤も中央で大津と山田に監視されていて殆どボールに関与できなかった。
左サイドで必要な位置に人が配されていないので右からしか前進できない |
もっとも、右の中野にボールが入った時も、前線に放り込んだ時も札幌に共通していたのが、前線の選手が望ましいポジションを取るために必要な時間を奪われているので、最初から高い位置にいる中野以外は殆どの選手が望ましい形でボールを受けられない。
その上で、前線の選手には時間を作れる選手(チャナティップやロペスのような)がいない。周囲が活きるための時間を作れないし、周りの選手が自分のための時間をつくってもくれない悪循環だった。
3.セオリーに忠実に
マリノス攻撃における、リーグ戦での対戦時との変化として、特に試合序盤にハーフスペースへのフリーランが多かったことが挙げられる。リーグ戦ではインサイドハーフに起用されていたのは左に天野と右に喜田。本来は三好が右に入るが、天野と三好は基本的にボールを持ってから何かを起こすタイプであり、オフザボールで勝負するタイプではない(喜田は頑張っていたが)。
3月のルヴァンカップでの対戦では、特に右サイドでウイング(シノヅカ)が張り、インサイドハーフの大津や、SBを務めていた山田のハーフスペースへのインナーラップで再三札幌の左サイドを脅かしていたが、リーグ戦での対戦はそうした仕掛けが殆どなかったため、札幌にとっては与しやすかった。
(ルヴァンカップ第1節)右サイドでのハーフスペースへのインナーラップ |
恐らく李の起用によるポジションの固定化と、ハードワークができる大津の存在が大きかったのだろうが、特に試合序盤にマリノスの「ウイングが幅を取ってインサイドハーフがハーフスペースを強襲する」4バック攻略のセオリーとも言える攻撃が復活する。
16分のマリノスの先制点は、李のポストプレーからの、大津のハーフスペース強襲と続いた攻撃によってもたらされた。ただ、この時札幌の1列目、早坂と岩崎の、扇原への対応のルーズさもなかなか酷いもので、リトリートの意識が強いこの2人の中央守備は肝心のボールホルダー・扇原への強度が皆無。30メートル級の縦パスを通されたことで、札幌は一気に1列目・2列目の計6人が無力化されてしまった。
(この試合の1点目)ウイングが幅を取って大津のハーフスペース侵入を促す |
4.惚れ込む才能と忘れ去られし才能
前半の展開を踏まえると、後半、札幌が採るべき策は
・最終ライン左側の関係と立ち位置を整理してボール保持を安定させ、5トップ攻撃を発動させるための時間を確保する
もしくは、
・上記以外で何らかボールを保持して時間を確保する
だったと言える。
結論としては最終ライン左側の関係が特に整理されることはなかった。荒野は後半も、前半と同じような振る舞いを続けていた。
変化があったと言えば、荒野ではなく宮澤が最終ラインに下りることが何度かあった。恐らく宮澤は前半の問題点を察知しており、解決のためにとった行動だったはずだが、スタート位置が右寄りの宮澤の最終ラインへの移動は、左の福森と菅の位置をそれぞれスライド、押し上げる作用としては不十分だった。もしくは、ミンテや福森はあまり宮澤の意図を感じていないようにも見えた。
右に立っている宮澤が最終ラインに落ちるが左側の問題は整理されなかった |
となると「なんでもいいからボールを保持する時間を作る」…札幌ベンチの考えていたのはこっちの方だったと思う。53分頃だったと思うが、チャナティップが出場準備を始めたとのピッチリポートがあった。ジェイほどではないが足元にボールが入れば時間を作れるチャナティップは、この状況下ではベターなソリューションだった。
しかしチャナティップが実際に投入されたのは、マリノスの李が巧みなトラップでキム ミンテを外して2点目を叩き込んだ後の61分。チャナティップが準備してから、数分間の間に何があったのかはわからないが、スコアは0-2となって勝ち点を得るには難しい状況へと悪化してしまった。
61分~ |
札幌はチャナティップにボールを集める。どうやって集めていたかと言うと、キム ミンテや福森が強引に縦パスを狙っていた。特に左サイドでは、結局最後まで誰が福森や菅の背後を守るのか答えが示されないまま、福森が強引に持ち上がり、菅も前線に駆け上がるようになっていた。
岩崎と交代で入ったチャナティップは、岩崎の位置にそのまま入るとなると役割は右のシャドー。しかし左が得意なチャナティップは次第に左に寄ってくる。檀崎とは相当かぶり気味だったが、とりあえずボールはそれなりに収まっていた。
チーム戦術的には、何故岩崎を下げてまで檀崎を残したのか、妥当な理由は見られない。しかしミシャが檀崎を評価していることは非常によくわかるので、その点では理解はできる。日に日にプロの試合に慣れており、また相手のDFの間でプレーする才覚もある。ただ、特にフィットネス等を含めた選手としての成熟度は明らかに東京五輪代表候補の岩崎の方が上だろう。岩崎はこの使われ方でいいのか心配になってしまう。
福森が強引にボールを運ぶ |
ともかく少しずつ札幌の攻撃らしき時間帯が増える。しかし上記の図にも示したように、キム ミンテの1バックのような滅茶苦茶な形にもなっていた。ボールを運ぶ仕組みは最後まで作れないまま、68分に自陣で檀崎のボールロストからイッペイ シノヅカの3点目で勝負は決した。
5.雑感
マリノスは数人の主力選手を欠いても同じパッケージのプレーができる。札幌はこの日、スタメンを外れた数人の選手の個人能力に依るところが大きいサッカー。厳しい言い方をすれば、ディシプリンや完成度にかなりの差があった。4月のリーグ戦と同じような方法で試合に臨んだが、序盤に飛び出したアンデルソン ロペスと福森のスーパーなクオリティがなければこんな展開になっていたのだろうか、という妄想も全く的外れではないかもしれない。
そうした雑念を別にして、この試合のポイントだったのは先述のチャナティップの投入タイミング。他にどうしようもないならチャナティップのクオリティは不可欠で、コンディションの問題があったのかもしれないが、勝ち点を得たいなら0-1の段階で使っておくべきだった。
用語集・この記事上での用語定義
・1列目:
守備側のチームのうち一番前で守っている選手の列。4-4-2なら2トップの2人の選手。一般にどのフォーメーションも3列(ライン)で守備陣形を作る。MFは2列目、DFは3列目と言う。その中間に人を配する場合は1.5列目、とも言われることがある。ただ配置によっては、MFのうち前目の選手が2列目で、後ろの選手が3列目、DFが4列目と言う場合もある(「1列目」が示す選手は基本的に揺らぎがない)。
攻撃時も「2列目からの攻撃参加」等とよく言われるが、攻撃はラインを作るポジショングよりも、ラインを作って守る守備側に対しスペースを作るためのポジショニングや動きが推奨されるので、実際に列を作った上での「2列目」と言っているわけではなく慣用的な表現である。
・守備の基準
守備における振る舞いの判断基準。よくあるものは「相手の誰々選手がボールを持った時に、味方の誰々選手が○○をさせないようにボールに寄せていく」、「○○のスペースで相手選手が持った時、味方の誰々選手が最初にボールホルダーの前に立つ」など。
それほど頻繁ではありませんが練習を観に行った感想で素人目にも良かった選手は程なくベンチ入りしたりスタメンだったりしてるので練習時で岩崎檀崎に差があるのかなと
返信削除岩崎本人も勉強中と言ってますが、オンザボールでは、今のところ檀崎の方が持ち味を出せているようには見えます。
削除荒野の代わりにボランチに入れる選手居なかったのかな?荒野はそこに置いておくにはリスク高過ぎて、ゲームが上手く回らない事の方が多い気がしますわ。いっその事トップに入れて扇原を追い掛け回させた方が、相手のチームがやりづらかった気がするんだが・・・。 白井の使われ方も相変わらず可哀想過ぎる。中野はシャドーの方が向いてる気がする。檀崎はもしかしたらボランチ適正あるかもな感じだけど、まだ分からん。
返信削除そんな感じ。疲れすぎで目がピクピクしてる。またのー('ω')ノ
どうもルヴァンカップはリーグ戦に比べると全般にゲームプランが雑な印象です。荒野の役割を決めて・確認しておくだけで、この試合の展開はかなり変わったと思います。
削除個人的には、ミシャの認識では中野が右で白井が左(この試合は右SBでしたが)なのが相変わらず興味深いです。
お疲れさまです。仮に岩崎にために多少のコストを払うとしてどこをどのくらい変更すれば岩崎出場とチームがバランスするとお感じですか?今回のような早坂との2トップは岩崎にはいつもより好条件だったかと思うのですが。
返信削除このまま檀崎が慣れてくると、ベンチも彼を使いやすくなってしまい、そのうちに駒井とアンロペが復帰すると詰んでしまうようでちょっと気がかりです。
ミシャの攻撃陣は個人にお任せ的ではないので岩崎が組織的サッカーと折り合えないと来期は次の新人が入ってきてしまいますし…
よろしくお願いいたします。
こんにちは。チャナティップはMF的なプレーが得意ですが、岩崎は基本的に前に勝手に突っ込んでいくタイプなので、現状アンロペとか都倉みたいな使い方が正しいのではないかと思います。ただ武蔵と岩崎が並ぶ、相手によってはスペースを消されるとかなり難しくなりそうです。
削除ルヴァンカップのこの試合は4バックがうまくいかなかったのですが、本当に岩崎がやりやすいことだけを考えると、机上論的には3-1-4-2の2トップで、中盤にチャナティップがいる状態がいいのではないでしょうか。
松本戦は武蔵と岩崎(に、荒野)が並ぶとオープンな試合になりそうな気がします。
ご返事ありがとうございます。
返信削除いまの岩崎だとそうなりますよね。
期せずして松本戦も2トップかもしれませんが、松本は(札幌の裏狙いという意味では)オープンにはしたいでしょうが自身も裏を狙われ続けるのを避ける気もします(それでもオープンになりそうですし)。
チャナがいないので、武蔵岩崎を使うならトップ下(であれもう1枚のシャドウであれ)は(当人が意欲的であれば)中野という手もありそうですが、ミシャはどうするか興味深いです。
選手や関係者から岩崎の凄く評価が高いのは、スペースがあるオープンな状況で突っ込める能力を指していて、後ろからちまちまビルドアップして相手が5バックでべったり引いている状況ではどんなタスクを担うかは考えていかないといけないですよね。
削除松本は左右のCBがあまり高さがないので、2トップにして武蔵を右のCB今井と競らせるのは有効だと思うのですが、多分普通にいつもの形でしょうね。
岩崎の評価はわかります。岩崎はまだオンザボールへの意識が強いので。でもミシャサッカーでオフザボールの質と量が下がるとだいたいチームが難しくなりますよね(^^)。
削除個人的にはロングフィードで左右のCBを狙い続けそこに意識をいかせたところで何かをみたいな狙いを期待します(^^)。たぶんミシャにもソリボールの嫌らしさは相当に頭にあると思いますし(笑)ただその最後の違いを創り出せる選手がまだちょっとという感じでしょうか(^^)