2019年5月20日月曜日

2019年5月18日(土)明治安田生命J1リーグ第12節 FC東京vs北海道コンサドーレ札幌 ~避けられぬデュエル~

0.スターティングメンバー

スターティングメンバー

 札幌(1-3-4-2-1):GKク ソンユン、DF進藤亮佑、キム ミンテ、福森晃斗、MFルーカス フェルナンデス、宮澤裕樹、深井一希、菅大輝、チャナティップ、荒野拓馬、FW鈴木武蔵。サブメンバーはGK菅野孝憲、DF石川直樹、MF白井康介、中野嘉大、早坂良太、金子拓郎、FW岩崎悠人。スタメンは予想通り。チャナティップは当日判断で、遠征には選手を19人帯同させていた(19人目は檀崎か?)という。負傷明けの石川が約1か月ぶりにメンバーに戻ってきた。
 東京(1-4-4-2):GK林彰洋、DF室屋成、チャン ヒョンス、森重真人、小川諒也、MF久保建英、橋本拳人、髙萩洋次郎、東慶悟、FWディエゴ オリヴェイラ、永井謙佑。サブメンバーはGK児玉剛、DF太田宏介、渡辺剛、MF岡崎慎、大森晃太郎、FWナ サンホ、矢島輝一。出場微妙だったチャン ヒョンスがスタメンに復帰し、前節欠場した小川も戻り、ベストメンバーが揃った。



 プレビューはこちら。

1.想定されるゲームプラン

1.1 札幌のゲームプラン


 いつも通り、「なるべく多くの人数で攻めて、多くの人数で守る」。東京はボールを持たせてくれるし、ボールを持っていない方が活き活きとするチーム。札幌の考え方は、「ボールがなくても困らないけど、自分たちにあるボールは大切にする」といったものだった。序盤から攻撃機会は大事にし、点を取りに行く。ここ2戦と同様に、ボールを相手に持たせる戦い方を選択するだろう、とする筆者の予想はこの点で外れた。

1.2 東京のゲームプラン


札幌の戦い方が変わっている、と認識していた長谷川健太監督。序盤は様子見しながら、札幌にボールを持たせて選択を委ねているようにも見えた。結果、札幌は上記の通り、「ボールを大切にする」戦い方を選択する。このことが確認できると、東京は「いつも通りに」2トップの能力を活かすため、自陣に引き、前方にスペースを作って札幌のボール保持攻撃を受けるスタイルで試合を進める。

2.試合の基本構造

2.1 札幌のボール保持時の基本構造

2.1.1 札幌の当初の目的


 東京ボールでキックオフの後、開始6分ほどは東京のボール保持攻撃を札幌が受ける構図が強かったが、以降は東京が札幌にボールを持たせ、それを受け入れる関係が概ね成立していた。そのため、まずは札幌のボール保持時の構造からみていく。

 東京はいつも通り4-4-2でセット。だが2トップは前に残って、ポジティブトランジションのためにエネルギーを温存する傾向にあるのはプレビューで見た通り。ボールを持っていない時に一般的な意味で守備をしているのは主に後ろの「4-4」のブロックである。札幌のボール保持時の人の配置に対しては、これもプレビューで見た通りだが、両サイドハーフの久保と東は一般的なSBのポジション…進藤を福森を監視し、簡単に前進させないように対応する。
東京は4-4-2でセット

 この時、札幌は東京の守備を崩していくうえで、最終的には5トップ気味に並ぶ選手のうち、両サイドのルーカスと菅にいい形で(≒ドリブルしたり、シュートに繋がるパスを供給する仕事がしやすい)ボールを渡したい。チャナティップや武蔵、荒野でもいいが、中央は閉じられているので現実的にはルーカスと菅に渡すやり方を探る。

2.1.2 目的達成のための方法と東京の対応


 ここで、同じサイドでWBにボールへの供給を狙う(図では進藤→ルーカス)と、ゾーン基調で守る東京はボールサイドの圧力を高めてくるので、ルーカスにボールは渡っても、有効な形ではなくなる。逆にこの時、反対サイドの菅はオープンになっている。
 つまり。一度ボールを動かして東京のブロックを収縮させ、それを逆手に取る形で再びボールを動かし、オープンな選手に供給することが必要になる。
同一サイドでボールを前進させるとWBは距離を詰められて身動きできない

 具体的にはどうしていたかというと、中央の選手(アンカー宮澤、シャドーのチャナティップ、荒野、FW武蔵)に一度ボールを当てて、東京のブロックを中央に収縮させてからサイドに展開する。この時、前線に左利きの選手がいると、相手と正対した状態で左サイドに展開しやすいが、この4人は全員右利きということで右のルーカスへの展開が多かった。
 この形が見えてくると、東京は札幌の中央の選手にどう対応するかがポイントになる。チャナティップ、武蔵、荒野は東京の選手の間に立っており、誰が対応するかははっきりしない。武蔵はチャンヒョンスと森重が常にサンドし、いずれかがアタック、いずれかがカバーの関係を保てていたが、荒野とチャナティップ、そして宮澤は序盤、浮き気味で、札幌はこれらの選手を経由してサイドに張るWBにボールを届けることができていた。
一度中央を使ってからサイドに展開することでWBがボールを持てる

2.1.3 別の手段による目的達成


 これとは別に、図は省略するが、福森から対角のルーカスへのロングフィードで「WBにボールを届ける」ことによっても、(いつでもできるとは言えないが)目的は達成できていた。
 このレベルでは異次元のフィード能力を持つ福森。対面の久保は、その目を完全に摘むならかなりタイトに寄せる必要がある。しかし福森の対応にだけ気を取られると、他のタスクが疎かになることもあって、札幌ボール保持時の久保と福森のマッチアップは、福森はそれなりに仕事を遂行できる状況だったと思う。

2.2 東京のボール保持時の基本構造

2.2.1 東京のボール保持攻撃と札幌の準備


 東京ボールでのキックオフから開始したが、序盤7分間程度(互いの”様子見”時間だっただろうか)は東京がボールを保持していた。この時の互いの人の配置は以下。東京の2トップは、永井は序盤、右にいることが多かった。

 札幌は、予想通りシャドーが東京のSBを監視する、タスク的には5-4-1に近い守備だったが、荒野とチャナティップのタスクは少し違っており、チャナティップは常に監視対象は室屋。荒野は、小川の位置取りを気にしながらも、森重にボールが入るとまず荒野が寄せて縦を切ることが多かった。これに対し、チャン ヒョンスは基本的に放置されていた。そして荒野が森重に寄せると、小川は空くが、その場合はルーカスが一列ジャンプして小川をマーク。札幌の最終ラインは4枚になるが、東を進藤、ディエゴ オリヴェイラをキム ミンテ、永井を福森という具合に近い選手から捕まえることで解決を図っていた。
札幌が意識するマッチアップ

2.2.2 左右の相違


 東京は左右それぞれに配されている選手の特徴が異なる。ボール保持攻撃での振る舞いにはその特徴の相違が現れる。
 開始直後の1分すぎの局面を下に図示する。この時は東京の左サイドのキャストの特徴がよく表れている。DFの森重と小川は、いずれもボールの供給役として機能できる。この時は森重が荒野を「引き付けて」(もっとも、荒野は森重に食いつくのも仕事に含まれる)リリース。小川もルーカスを引き付けてリリース。東は札幌の5-2-3守備の泣きどころである中盤の「2」の脇に顔を出す。髙萩を経由して、スペースがあると活きる強力2トップが裏を狙う(結果的には、永井が走ったタイミングでパスが出たがオフサイド)。ここで、ディエゴが森重や小川と同じサイド(左)にいると、東とともにもう1人のボールの収めどころとなる機能も有している。
(1:10)東京の左サイドでの前進のパターン


 逆に東京の右サイドでは、チャンヒョンスは札幌に放置されていたが、自分でボールを運んだり相手の守備ラインを1列超えるようなパスを狙ったりはしない。基本的に森重や橋本に預けて、後はお任せというか”守備の人”である。SBの室屋は最終ラインではなく、前線に攻撃参加して相手のSBやWBと勝負するプレーが得意な選手。
 よって、右サイドでボールを収めたり、前進するパスを出せそうな唯一の選手は17歳の久保。久保はチャン ヒョンス先輩や室屋先輩のもとへ「ボールを迎えに行かなくてはならない状況」(人に寄る)が多い。特に室屋に寄ることが多かった。しかしこれは効率が悪いので、東京はボール保持攻撃においては右サイドから前進することは期待していないようにも捉えられる。札幌がチャン ヒョンスを放置していたのはこうした特徴を分析していたのだろう。

3.アウトサイドでの攻防

3.1 ルーカス フェルナンデスへのダブルチーム


 10分以降は徐々に、「ボールを大事にする札幌と、札幌が動いた後のリアクションで勝負する東京」という構図が強くなっていく。
 札幌のボール保持攻撃は、「2.1」に書いたように、WBを高い位置に張らせてそこにボールを届けることを目指す。ここで、「2.1.2」で書いたように、札幌が一度中央の選手と使ってサイドに展開しようとする時、東京は札幌の選手と中央では勝負しない。よって札幌のWBまではそれなりに、色々な経路でボールが届けられる状況だった。

 試合の焦点はその後の展開。右のルーカスにボールが供給された状況を下に図示する。東京はルーカスにボールが入ると、小川がその正面を切る。小川が出た背後はSHの東がプレスバックしてカバー。反対サイドも同様で、久保が室屋の外側まで戻り、5~6枚が最終ラインに並ぶ状況にもなる。
ルーカスに渡ると東京はSHがプレスバック

 右利きのルーカスは右足クロスでフィニッシュしたいので、ファーストチョイスは縦への突破。小川はその縦突破に常に注意した状態で対峙する。ただルーカスは、縦を見せておいて切り返すパターンもある。縦だけを警戒していると逆を取られる危険もあるが、小川が縦に集中できるのは、小川の内側(つまりルーカスが切り返した場合)は、東がカバーしてくれるため。
 言い換えれば、ルーカスに対する東京の対応は小川と東のダブルチームにも近いものた。この試合、ルーカスのドリブル成功率は0%(スポーツナビのアプリ版より。0/3)。サイドを封鎖できていれば、いくらルーカスにボールが渡っても東京は怖くない。そして聡明なルーカスは闇雲に仕掛けるのではなく、勝負を避けるようになる(そもそもドリブル回数3は少ない)。
ルーカスの突破にはダブルチームで対応

3.2 試行錯誤の末に


 ルーカスで勝負できない、突っ込んでくれるロペスはいないとなると札幌はフィニッシュに持ち込む手段がかなり少なくなる。ゴール前を固める東京の守備陣を崩さずにシュートチャンスに繋がる手段として残されるのは、大外からDFの頭を越えてターゲットにピンポイントで合わせるクロス。ターゲットが武蔵や荒野では、プレビューでも触れた通り、高さに自信を持つ東京の守備陣と対峙する状況は決して安易ではないが、菅と福森の二連砲台が配されている左サイドからの可能性を探る。

3.2.1 WBになり切れない福森


 札幌の左サイドは、福森が非常に流動的なポジショニングをとる。菅は福森に合わせて被らない位置にシフトする関係にある。筆者の予想だが、このポジショニングは、宮澤・深井・キム ミンテ中央3枚の配置と同様に具体的には決められていない。福森先輩のさじ加減で決まるところが多いのだと筆者は考えている。
 この試合、福森は10分過ぎころから対面の久保を追い越すポジションをとる。これは東京の2トップが殆ど圧力をかけてこないので、札幌はフリーパス状態でボールを運べるため、福森は後ろにいる必要がないという判断だったのだろう。そうすると、久保は福森を視界に入れるためポジションを下げる必要がある。攻撃の選手を下げさせるという意味合いでは、札幌としてはこれ自体は悪くない。
序盤に見られた左サイドの選手配置

 問題は福森がWB化した後、どのようにフィニッシュに持ち込むか。シチュエーションを2つに分けて考える。
 1つは、左サイドからのクロス攻撃。シンプルに言うと、東京は自陣ゴール前ではしっかりボールにアタックしてくる。ドリブルで勝負できない福森相手なら、なおさら距離を詰めて守るので、サイドで持ってもクロスまで持ち込めない。
 もう1つは、中央や反対サイドから攻めている時。東京はボールサイドに寄ってくる。進藤のアーリークロスや、チャナティップのパスはボールから遠い位置が狙いどころになる。福森が左WBのポジションにシフトしている状態だと、大外からワイドストライカーとして(2018シーズンに宮吉がそうしていたように、もしくは進藤が時折そうするように)斜め方向から入ってくるボールに飛び込む動きが少なくなってしまう。
福森がWB化(菅がシャドーにスライド)するとファーサイドで飛び込む選手がいなくなる

3.2.2 最適な関係


 結局、オーソドックスな「菅が大外、福森がその斜め後ろ」という関係に戻した状態が最も最適かつ効果的だったように思える。
 38分過ぎの、前半の札幌の唯一の枠内シュートもこの形からだった。右サイドで、引いた荒野がゴールと並行方向にドリブルしながら受け手を探す。大外でフリーになっている菅を見つけ、サイドを変えるパス(荒野が左利きの選手なら、前を向いた状態で左方向に視野を確保しやすいので、更に1秒早く見つけることができたと思うが、同時に左足は対面のDFに切られただろう)。
(38:25)荒野のサイドチェンジから菅へ

 東京は横スライドで対応する。1回程度なら余裕でスライドできる。「3.1」で示したルーカスへの対応と同様に、室屋が縦を警戒し、久保が内側を守る関係。
 ここで福森が菅の斜め後方をサポートする。バルバリッチ監督時代から札幌が仕込んでいる形で、WBが対面の選手を引っ張ることで福森がフリーになる。福森は中央を見て、ファーサイドのDF小川の頭を越えるピンポイントクロス。ルーカスのヘッド(実際にはバウンドが大きく枠に飛んでいなかったかもしれないが)は林に防がれたが、「3.1」で指摘したWBの大外への走り込みにより相手の4バックで対処しきれないエリアを突いた攻撃だった。
(38:32)菅が室屋を引っ張ると福森はフリーになれる

 福森が菅をサポートする関係を作っていれば、ここでクロスだけでなくサイドを変えることもできる。これもプレビューに書いたが、8枚ブロックの東京は、サイドに振られると1回はスライドで対処できる。しかし2回、3回と繰り返されると、構造的にスライドが追いつかなくなる。
 いずれにせよ菅と福森がこの関係をとることは、ルーカスが消される状況では非常に重要だったように思える。特に、菅は2019シーズンに入って仕掛けが明らかに減っている(ボールを受けると、GKとDFとの間に速いタイミングでクロスを狙っている。無理なら戻す)。恐らく、ロペスやルーカスの存在もあって仕掛けを制限しているのだと思うが、菅が仕掛けないとしたら、なおさら福森はそのサポートを行わなくてはならない。

4.中央でのデュエルと頼みの綱

4.1 深井に襲い掛かるディエゴ オリヴェイラ


 札幌にボールを持たせて、攻撃を封殺した後のポジティブトランジションや、自陣ゴールキックからリスタートする東京の攻撃には共通した狙いが見られた。一言で言うと、「ディエゴ オリヴェイラがデュエルを制して永井や久保が走る」。

 ポジティブトランジションから説明すると、東京は永井が最前線で相手の急所を狙いつつ(左サイドにいることが多い)、ディエゴはより中央のポジションにいる。この時、ディエゴは札幌の深井にわざと寄っていくようなボールの要求の仕方をしていたように思える(思い込みかもしれないが)。そしてこの2人のデュエルが発生するが、大抵はディエゴ オリヴェイラが勝つか、イーブンでセカンドボールを東京が拾っていた印象だった。
ディエゴは深井とのデュエル発生を狙う


 データを見ると、Sofascoreではデュエル数はディエゴが7/13、深井は3/9なお深井は個人ページを見ると「Weeknesses:Ground duels」。データに表れない点を指摘すると、深井は自分から体を当てたりボールにアタックすることは問題ないが、相手に強く当たられることを避けていた(無理に競り合わない)ように見える。それが筆者の勘違いではないとしたら、言うまでもなく負傷を避けるためにやっているのだろう。

 東京ボールのゴールキックでは、トランジション以上にこの傾向が顕著だった。林のキックの多くは深井の周囲に落下している。東京はそのボールに合わせてディエゴが、深井の背後から走り込み競り合おうとすると、深井は無理に競り合わない。ここでもディエゴや、その周辺の永井や久保にボールがこぼれる。そこから札幌が5バックを揃える前に素早く展開し前進に成功していた。
 43分の東京のゴールキックの際は、深井と宮澤がポジションを入れ替え、宮澤が競るようにしていた。ただ、後半も同様のシチュエーションを注視していたが、林のキックがずれたりもあって、これは意図的だったのかはわからない。

4.2 ソンユンのビッグセーブと東京のセットプレー


 前半は東京に3度のビッグチャンスがあった。17分と22分、永井がク ソンユンと1対1になるが、いずれもソンユンがビッグセーブ。17分から20分頃にかけては東京のコーナーキックが続く。森重のシュートは難しいバウンドだったが、ソンユンはこれも掻き出した。
 前半、東京のファストブレイクに札幌は後ろ方向のベクトルでの対応を強いられ、コーナーキックが多くなる(前半だけで7本。札幌は2本)。東京のキッカーは全て久保。ストーンの武蔵を越えて落ちる、速いボールを蹴っていた。札幌はキム ミンテと進藤がマークを入れ替えて対抗していた(本来ミンテ⇒チャン ヒョンス、進藤⇒森重だが逆だった)。

5.立ちはだかる林

5.1 ギアチェンジ


 後半立ち上がりは、前半の開始数分と同様に、東京がボール保持攻撃を展開する意思を見せる。この時の構図は特にそれまでと変わらないので詳細は割愛する。
 東京がボールを保持するようになると、札幌は武蔵とチャナティップのカウンターアタックのクオリティを発揮するチャンスが生じる。52分には武蔵がチャナティップのパスに抜け出しかけ、ゴール正面でフリーキックを得る(福森のシュートは林がセーブ)。56分にはチャナティップの足元でのボールキープにスタンドがどよめく。対面の橋本を翻弄してから、対角のルーカスにサイドチェンジ。ルーカスのダイレクトクロスは僅かに荒野や武蔵と合わなかった。

5.2 スコアが動く


 最初の選手交代は東京。57分、永井に変えてナ サンホ。久保が中央に回る。
57分~

 韓国代表にも選出されているナ サンホは所謂スピード系のアタッカー。サイドに張ることで、ディエゴや久保が中央で活動するスペースを作る。
 そのナ サンホ投入から2分後。59分、東京のスローインからナ サンホが福森と競って潰れ、セカンドボールを久保が拾って仕掛ける。キム ミンテが久保の股抜きは阻止するが、回収したボールをミンテは斜め前方、ボックス内で攻撃に転じようとする宮澤にパスするもボールが足元に入りわずかにずれる。宮澤が反転し、同じく攻撃に転じるルーカスに横パスでやり直すが、完全に読んでいた小川がインターセプト。進藤がブロックを狙うも、どのコースにも蹴れる場所にボールを置いた時点で勝負あり。ニアを狙ったシュートにソンユンも全く反応できなかった。

5.3 立ちはだかる林


 スコアが動いたことで札幌もギアを上げる。最終ラインからアンカー、アンカーからシャドー(チャナティップ)、シャドーからFW(武蔵)へと、列を越えるパスのプライオリティが高まる。構造的な変化を一つ挙げると、永井が下がり、久保が中央(トップ下)にシフトした関係で、前半深井を悩ませていたディエゴ オリヴェイラは最前線でプレーすることが多くなる。札幌で一番強いキム ミンテの迎撃で、ボールを収めようとするディエゴに対処しやすくなったことで、東京のファストブレイクの脅威は若干和らいでいたように見える。
 失点直後、チャナティップのスルーパスに武蔵が抜け出しかけるが小川のカバーで枠内にシュートは撃てず。63分にはチャナティップが中央から右足で巻いたシュートで狙うが、林が左手1本でビッグセーブ。ボールの行方を見守った札幌の選手数人が同じように頭を抱える。それでも、「WBが幅を取った後、何をしたらいい?」という試合を通じた課題に対する答えは見えはじめる。
WBが幅を取った後は中央からのシュートでのフィニッシュが見えてくる

 ところが69分、東京にカウンターから追加点が生まれる。この時、5トップで攻める札幌の後方はDF3人のみ。自陣でディエゴ オリヴェイラがボールを拾い、突進から久保へラストパス。久保がボール半個分だけ福森の体幹からずらすコントロールから振りの速いシュートでまたしてもク ソンユンのニアを破る。
 前半から、東京の2枚での攻撃に対し3バックだけで大丈夫か?と思える微妙なパワーバランスだった。速さの永井、若くて速くて巧い久保に、開始早々に警告を1枚受けていた福森では相当分が悪かったのは事実だが、それに加えて前を向いたディエゴ オリヴェイラの突進には札幌DF陣は殆どお手上げ状態だった。

5.4 幅を取る中野


 札幌は73分に菅→中野、79分に荒野→金子、80分にルーカス→白井に交代。東京は80分に久保→岡崎。髙萩が一列前に出る。
80分~

 交代選手の中で目を引いたのが中野。中野は菅と異なり、自ら仕掛けることを許容されているようだった。また、必ずタッチラインを踏むポジションでボールを待つ。そしてDFと正対しながら仕掛け、右足方向でのカットインを見せながら縦にも仕掛けられる。これができるのに先発で使われないということは、一つは左サイドにこうしたタスクを求めていないこと、もう一つはボール非保持時の守備(福森がフレキシブルに動くので、菅は頻繁に福森と入れ替わって対応している)を考えているのだと思われる。
 金子の投入は、「5.3」で言及した中央でのフィニッシャー役の期待が大きかったと思うが、東京も岡崎を投入し、髙萩も含めた9人での対応で中央を締める。86分にはチャナティップのパスから武蔵が決定機を迎えるがシュートは枠外。

6.雑感


 誰かが言っていたが、人生とサッカーにミスはつきものだ。先制点はキム ミンテが7割(宮澤の前方に出せなくもなかった)、宮澤が3割といったところ。ただ、宮澤は札幌で一番難しい役割を担っており、普段は最もミスが少ない選手。キム ミンテはクリアする選択肢もあった中でボールを生かすことを選択したのは、それが今の札幌が目指しているスタイルだから。確かに試合を左右するものだったが、少なくとも筆者は責める気になれない。

用語集・この記事上での用語定義

・1列目:

守備側のチームのうち一番前で守っている選手の列。4-4-2なら2トップの2人の選手。一般にどのフォーメーションも3列(ライン)で守備陣形を作る。MFは2列目、DFは3列目と言う。その中間に人を配する場合は1.5列目、とも言われることがある。ただ配置によっては、MFのうち前目の選手が2列目で、後ろの選手が3列目、DFが4列目と言う場合もある(「1列目」が示す選手は基本的に揺らぎがない)。

攻撃時も「2列目からの攻撃参加」等とよく言われるが、攻撃はラインを作るポジショングよりも、ラインを作って守る守備側に対しスペースを作るためのポジショニングや動きが推奨されるので、実際に列を作った上での「2列目」と言っているわけではなく慣用的な表現である。

・ジャンプ:

ボールを持っていない側の選手が守備ラインを1列上げて相手に対応すること。

・守備の基準:

守備における振る舞いの判断基準。よくあるものは「相手の誰々選手がボールを持った時に、味方の誰々選手が○○をさせないようにボールに寄せていく」、「○○のスペースで相手選手が持った時、味方の誰々選手が最初にボールホルダーの前に立つ」など。

・デュエル:

ボール保持者とそれを守る選手との1対1の攻防。地上戦、空中戦、守備技術、スピード、駆け引きetcあらゆる要素を含む。

・トランジション:

ボールを持っている状況⇔ボールを持っていない状況に切り替わることや切り替わっている最中の展開を指す。ポジティブトランジション…ボールを奪った時の(当該チームにとってポジティブな)トランジション。ネガティブトランジション…ボールを失った時の(当該チームにとってネガティブな)トランジション。

・ハーフスペース:

ピッチを5分割した時に中央のレーンと大外のレーンの中間。平たく言うと、「中央のレーンよりも(相手からの監視が甘く)支配しやすく、かつ大外のレーンよりもゴールに近く、シュート、パス、ドリブル、クロスなど様々な展開に活用できるとされている空間」。

・ビルドアップ:

オランダ等では「GK+DFを起点とし、ハーフウェーラインを超えて敵陣にボールが運ばれるまでの組み立て」を指す。よってGKからFWにロングフィードを蹴る(ソダン大作戦のような)ことも「ダイレクトなビルドアップ」として一種のビルドアップに含まれる。

・ファストブレイク:

元は恐らくバスケットボール用語。速攻のこと。

・プレスバック:

FWやMFの選手が自陣に戻りながら、ボールを持った相手選手に対し、味方と挟み込むなどしてプレッシャーをかけること。

・ブロック:

ボール非保持側のチームが、「4-4-2」、「4-4」、「5-3」などの配置で、選手が2列・3列になった状態で並び、相手に簡単に突破されないよう守備の体勢を整えている状態を「ブロックを作る」などと言う。

・マッチアップ:

敵味方の選手同士の、対峙している組み合わせ。

・マンマーク:

ボールを持っていないチームの、ボールを持っているチームに対する守備のやり方で、相手選手の位置取りに合わせて動いて守る(相手の前に立ったり、すぐ近くに立ってボールが渡ると奪いに行く、等)やり方。対義語はゾーンディフェンス(相手選手ではなく、相手が保持するボールの位置に合わせて動いて守るやり方)だが、実際には大半のチームは「部分的にゾーンディフェンス、部分的にマンマーク」で守っている。

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