0.スターティングメンバ―
スターティングメンバー |
札幌(1-3-4-2-1):GK菅野孝憲、DF早坂良太、石川直樹、福森晃斗、MFルーカス フェルナンデス、荒野拓馬、中野嘉大、白井康介、金子拓郎、檀崎竜孔、FW岩崎悠人。サブメンバーはGK阿波加俊太、DF濱大耀、キムミンテ、中村桐耶、MF中原彰吾、FW菅大輝、藤村怜。藤村とキム ミンテをスタメンと予想したメディアもあったが、ルーカスが右、中野が中央、最終ラインは石川が中央という配置でスタート。石川は3/13のルヴァンカップ第2節以来の公式戦スタメン出場。グループステージ突破がかかるが、リーグ戦の主力選手は必要最低限のメンバーのみの召集にとどまった、という印象である。キム ミンテは4/10のルヴァンカップ第3節から約5週間で公式戦9試合連続でスタメン出場中。カップ戦は休ませる対象へと、序列が変わってきた。
湘南(1-3-4-2-1):GK富居大樹、DF山根視来、坂圭祐、小野田将人、MF古林将太、松田天馬、秋野央樹、杉岡大暉、FW武富孝介、中川寛斗、鈴木国友。サブメンバーはGK松原修平、DFフレイレ、MF菊地俊介、若月大和、FW指宿洋史、野田隆之介、山口和樹。武富、松田、杉岡、山根とスタメンクラスを数人起用している。第3節にスタメン出場した大橋は4月末の負傷で長期離脱中。
試合前の時点で湘南が勝ち点6、長崎が5、札幌とマリノスが勝ち点8。得失点差は勝ち点で並んだ場合は、当該チーム同士の対戦での1)勝ち点、2)得失点差、3)得点、4)アウェイゴール、で順位づけをする。この試合に関しては、札幌は引き分け以上で上位2チームのプレーオフステージ進出が決定。対する湘南は勝ち点3が必要。
1.想定されるゲームプラン
1.1 札幌
ドローでもOK。湘南は速攻に持ち味がある。選手起用の制約上、前線には高さがない選手を並べている。
→となると、ボールを相手に持たせてみた方がよさそうな状況が揃っている。前半はスコアを動かさなければOK、という程度の認識だっただろう。
1.2 湘南
次のステージへの進出のためには勝ち点3が必要。どこかで仕掛ける必要がある。直前のリーグ戦では埼玉で2点差を逆転したが、再びの奇跡を期待するよりはまずは守備から入るほうが妥当と考えていただろう。そして湘南の「守備から」は、高い位置から守備を行う戦い方である。
2.基本構造
2.1 湘南ボール保持時の基本構造
札幌はいつも通りマンマーク基調の5-2-3で守備をするが、ルーカスと檀崎の撤退→5-4-1の陣形への移行は早めのタイミングで行われていた。当然のことだが、試合開始時点での勝ち点差3のアドバンテージを利用する戦い方が選択されている。
湘南のFWは山﨑でも指宿でも大橋でもなく、大卒2年目の鈴木。ピッチ上で一際サイズがあるように見える。湘南の、リトリートする札幌のブロックに対する最初の回答は、この選手にボールを当てるのではなく札幌のWBの裏を狙うことだった。WBの古林、杉岡が引いて白井と中野を引き出したスペースに、シャドーもしくは松田が走る。
早坂と福森をサイドに引きずり出して、そこで勝負してまずは何が起こるかを確認。福森のサイドでは、武富とのマッチアップは確かに何かが起こりそうな気がしなくもない。ただ、結果的には45分と決められていた福森の集中した対応と、中野のカバーもあって、このサイドでは特に”何か”が起こることはなかった。
湘南ボール保持時の基本構造 |
札幌は前線に岩崎しか残していない。サッカー界で常識とされている「守備側の+1ルール」だと湘南は2人残していれば十分に思えるが、実際は3バックが全員残り、かつ中盤センターの秋野もボールを貰いに下がることが多かった。
札幌移籍後、初めてスタートからこのポジションに入った岩崎。ある意味ではミシャチームの9番らしくない、非常にダイナミックな、特定の役割にとらわれない動きをする。岩崎に対して何枚必要か?ということを前半、湘南は見極めていたように思えるが、人を残しすぎると前に投じれるリソースが減る。岩崎の前残りとは結果的に湘南の攻撃リソースを削ぐことになっていたように思える。
2.2 札幌ボール保持時の基本構造(岩崎の使い方?)
札幌は左シャドーに起用されたルーカスが所謂チャナティップロールのイメージだっただろう。ただチャナティップの仕事のうち、ボールを落ち着かせて攻撃時間を創出する役割はルーカスよりも中野が担っていた。右利きの中野がタッチラインを背にして左サイドに張ると、後方のパスの出し手(福森ら)と前方のスペースに走る味方選手の両方を視野に入れた状態で利き足でコントロールできる。ここを起点にし、岩崎や引いて受けるルーカスにシンプルに供給する。
札幌ボール保持時の基本構造 |
札幌の前線は基本的に全員、DFを背負える選手がいないので、スペースを享受した状態で受けたい意識が強いように見える。特に岩崎はここでも中央から左へ右へと自由に動き回る。これがミシャチームのFWのオーダーという観点で見ると非常に微妙だが、本人的にはこの方がやりやすいだろうし、湘南のDFもその動きに対し、マーク関係をそのまま維持したまま捕まえるのか、受け渡すのかの判断が難しかったように思える。
3.大熊ミハイロ清
音声機器の関係か、ルヴァンカップの中継はベンチの声がよく中継に拾われる。90分間の中でミシャが最も名前を呼んでいたのが荒野。そのシチュエーションから判断すると、一つは松田や秋野が低い位置でボールを保持した時にフリーで簡単に前を向かせるな、必ず捕まえに行け、という指示と、もう一つは湘南の攻撃が不発に終わった後のトランジションで、簡単にボールを下げずに前方の味方に展開して攻撃を加速させろ、という話(というより咆哮)だったと思う。
上記のうち前者については、湘南は岩崎を気にして最終ラインが上がれない。シャドーがスペースに走ると、攻撃が不発になった時にやり直す役割は松田と秋野。この2人に簡単にボールが入らないよう、荒野と金子で監視がうまくいくと、ボール保持攻撃の持続性の面で難しくなるシチュエーションは度々あった。
スコアが動いたのは39分、札幌の速攻からバイタルエリア、湘南の5バックの前でルーカスがフリーでボールを受けてターン。対面の山根の緩い対応を切り返し1発で交わして左足でコントロールショットを沈めた。
このプレーの前に、30分過ぎに福森のパスから檀崎が似たような位置で前を向いて浮き球をコントロールからボレーシュート、という場面があった。このプレー以降、30分過ぎからは湘南の5バックが後方で揃った状態で、札幌のシャドーがそれより引いた位置で浮くことが多くなる。CB3枚の間を狙う岩崎の動きを警戒していたのもあるが、全くシャドーにボールが入った時にアタックできない状況に何度も陥っていたのは少し考えられないという印象だった。
岩崎に引っ張られて(?)シャドーが浮く |
4.菅野個人軍
後半開始から2人ずつ選手交代。札幌はルーカスと福森に代えて菅とキム ミンテ。恐らく初めから45分ずつと決めていたのだと思われる。湘南は鈴木国友と古林に代えて菊地と山口。菊地が右、山口が左の、4-1-2-3に近い布陣でスタートする。
46分~ |
湘南の問題意識は恐らく、岩崎1人に対して後方で人が余り過ぎているのでCBは1枚削る。そして2点が必要になったので、より効率的に圧力をかけてボールを回収したい。札幌のビルドアップはCB3枚+MF2枚で、形はともかく常に最大5人なので、湘南も同じ人数を確保して人に強く圧力をかけることができる。
札幌ボール保持時のマッチアップ |
湘南は前に人が増えている。このこともあって後半立ち上がりはオープンな攻防が続く。最初に”ダイスの6”を出したのは札幌で、速い展開から中央でフリーになった金子の得点で0-2と引き離す。
湘南は攻撃に時間と手数をかけないので、3トップは中央に寄っていることが多くなる。そのため中央で3バックと3トップがぶつかることになり、こちら側のゴールでもオープンな展開が増える。
54分には札幌のビルドアップに数的同数でのプレスが成功し、荒野のファウルを誘ってPKを獲得するが杉岡のシュートは枠外。
湘南は60分に中川→野田に交代。前半から用意していた野田だが、この起用法は札幌の右大外を守る白井とのミスマッチを狙っていたように思える。
対する札幌は66分に檀崎→藤村。中盤センターに3枚を並べる3-1-4-2(ボール非保持時5-3-2)に変更する。
66分~ |
中央を固めて試合をクローズしたい札幌。しかし最近あまりやっていない3-1-4-2、かつこのメンバーだといつも以上に急造感が否めない。ミシャのイメージでは、枚数を確保しつつボールホルダーにはしっかり圧力をかけよう、という考えだったはず。これは中央3枚のうち左右を担う中野や藤村にはその意は伝わっていたように思える。
一方、下の図のように中野がボールホルダーに当たった時の荒野のスライドがいまいちで、ここに頻繁にスペースができる。枚数を確保しているはずが中央が妙に手薄になってしまっていた。
中央で中野と荒野とカバーリング関係が働かずスカスカに |
菅野の奮闘でなんとか持ちこたえる時間が続くが、71分に菊地、ATに野田の得点で勝利は逃す。それでも勝ち点1を得てグループステージ突破のミッションは達成した。
5.雑感
湘南BMWスタのカメラアングルだと、前半なぜ湘南が岩崎1人に対してDFを3枚配して余らせていたのかがよくわからないところもあった。単に攻撃時に人を余らせているだけならまだわかるが、札幌のシャドーがフリーになれた30分~前半終了までの時間帯は、完全に人が余っているだけの守備になっていた。札幌は確かに、岩崎以外にも白井が裏を狙ったりと湘南の最終ラインを牽制する動きもあったが、それを考慮しても圧力に欠けており、札幌としてはその時間帯にルーカスのクオリティが発揮されたことが大きかった。
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