0.スターティングメンバー
スターティングメンバー |
札幌(1-3-4-1-2):GKク ソンユン、DF進藤亮佑、キム ミンテ、福森晃斗、MF中野嘉大、宮澤裕樹、深井一希、菅大輝、チャナティップ、FWルーカス フェルナンデス、鈴木武蔵。サブメンバーはGK菅野孝憲、DF石川直樹、MF早坂良太、荒野拓馬、金子拓郎、FW岩崎悠人、ジェイ。前線は、どのメディアも予想しなかった2トップ+トップ下の構成。もしかすると当日スタメンを見ての判断だったかもしれない。ジェイのベンチ入りは報道通り。早坂のWBでの先発を予想するメディアもあったが、右には中野。
ガンバ(1-3-1-4-2):GK東口順昭、DF高尾瑠、三浦弦太、菅沼駿哉、MF矢島慎也、小野瀬康介、高江麗央、倉田秋、福田湧矢、FWアデミウソン、ファン ウィジョ。サブメンバーはGK林瑞輝、DF米倉恒貴、金英權、MF田中達也、遠藤保仁、今野泰幸、FW食野亮太郎。前節と全く同じスタメン、配置。前節は開始直後は4-4-2に見える配置だったが今節は初めから3バックである。
その他プレビューはこちら。
1.想定されるゲームプラン
1.1 札幌
いつも通り、最大人数で守り、最大人数で攻撃する。いつもと違うのは、ガンバは前線に、少ない人数でも打開できる強烈なFWがおり、またアンカーシステム及びそこに配される矢島にも対応する必要がある。そのため、ボール非保持時は枚数確保だけでなく、それらの選手にマーカーをつける等の対応をしつつ、攻撃枚数を確保する。
1.2 ガンバ
札幌はボール保持攻撃に枚数をかけてくるチーム。ガンバは少ない攻撃枚数でも攻撃(カウンター)ができる。自分からゲームをオープンにするのではなく、カウンターの機会を待ちながら慎重に試合を進めていくという考え方が見て取れた。
2.基本構造
2.1 札幌の可変システム
ガンバのボール保持時に札幌は以下の配置で対抗する。いつもと異なり、アンカーの矢島をケアするためにチャナティップが中央、武蔵とルーカスが2トップのような並びになる。一言で言うと浦和戦と同じ。埼玉では、浦和の3バックの中央(マウリシオ)を放置していたが、この試合も三浦にはある程度ボールを持たせてもよし、としていた。
(札幌のボール非保持時)チャナティップが矢島を監視し三浦は放置 |
埼玉では浦和の中盤3枚に対し、チャナティップと深井、荒野の3人でマンマーク気味の対応。中央の受け手を消し、サイドに誘導、ボールを受けようとする浦和のWBを背後からルーカスと菅が迎撃した。恐らく同じイメージでこの試合も考えていただろう。
ボール保持時の配置は「いつもと同じ」。後方でボールを保持して、チャナティップはトップ下から左シャドーに、武蔵は中央に移動する時間を確保する。浦和戦とはこの点が異なっていた。
ボール保持時は2トップから、いつもの1トップ2シャドーに変形 |
埼玉では、ボール保持時もロペスと武蔵の2トップ、チャナティップはトップ下から更に下がったポジションにいた。これは浦和のハイプレスに対し、チャナティップをビルドアップ要員として使うアイディア。前線の枚数は1枚減ることになるが、この奇策が機能したのは、電光石火の2ゴールを挙げた武蔵のクオリティと、前線でターゲット、仕掛け、フィニッシャーと何役もこなしたターミネーター・アンデルソン ロペスの存在が大きかった。
(第2節浦和戦)ボール保持時も前線は2トップでチャナティップはビルドアップ部隊 |
この試合は、アウェイのガンバがハイプレスを敢行しなければ、特に障壁なくガンバ陣内にボールを運べる。よってチャナティップは前線での崩しの局面に投入する。ロペスがいないならばなおさら、その期待は大きくなる。
2.2 ガンバの狙い
試合を通じたガンバの狙いは、2トップのクオリティを活かしたカウンター。ボール保持攻撃も用意してはいるが、基本はこの形がより大きな狙いだったと思う。
筆者がそう考える根拠は、開始10~15分頃までと、それ以降のガンバの振る舞いの比較で、徐々にガンバは守備開始位置とブロックの設定位置が後方になる。序盤は様子を見ながら、狙いとする形に持ち込もうとしていたように感じられる。
札幌はボール保持攻撃を4-1-5や5-0-5の配置で行う。中央にはCBのキム ミンテと、本来DFではない宮澤と深井。深井、ミンテとアデミウソン、ファン ウィジョで2on2の関係で勝負できるならそれだけでビッグチャンス。だから、2on2や2on3で勝負できるよう、後方のブロックでボールを回収したらすぐに前線に送り込む。ボールを回収する方法は「3.」以降にて言及。
(ガンバの狙い)前線2トップと札幌の2人もしくは3人で勝負する状況を誘発したい |
選手のクオリティはかなり差があるが、2017年の四方田札幌(前半戦)が狙っていた形にも似ている。
3.ガンバトラップとその回避
3.1 サイドに張られたガンバトラップ
「2.2」でも少し触れたが、立ち上がり10分~15分を過ぎると、ガンバは8人で5-3のブロックを組んで自陣に撤退を始める。ファン ウィジョとアデミウソンの2トップも、札幌がビルドアップに取り組み始める段階(ク ソンユンのゴールキックも含む)では、中央に並んでいるだけで、2人でワンチャン特攻のような試みもしない。なので、札幌は特に支障なくガンバ陣内までボールを運べるようになる。
ガンバの5-3ブロックは自陣ゴール前に用意されている。5バックと3人のMFのラインは圧縮され、チャナティップやルーカスの活動領域を狭める。札幌が中央の選手を使うリスクを回避し、サイドにボールを展開すると、ガンバトラップが発動する。
ガンバ5-3ブロックの撤退 |
進藤から右の中野に展開したケースを例示する。WB中野には5バックの大外を守る福田が寄せるとともに、その1列前の倉田もボールサイドに寄せてくる。これに連動して、アデミウソンとファン ウィジョの2トップもボールサイドに寄り、特にWBの斜め後ろのポジションをとるDF(ここでは進藤)を監視する。
サイドでボールホルダーとサポートの選手を追い込みボール回収を狙う |
ボールを持っているWBはサイドに押し込められ、そのサポートポジションをとる選手も監視されていると、並の選手なら一か八かで特攻するしかないのだが…
3.2 終点にならない中野のクオリティ
このサイドでのガンバトラップはあまり成功していない。その理由の一つは、中野や進藤がサイドで圧力をかけられた時に簡単にボールを失わなかったため。特に中野は、右も左もできる選手だが、ボールを体幹直下に置いてプレーするので、一方向に仕掛ける以外の選択肢を常に確保している。
この試合、中野は後半に入って自身で仕掛けを解禁する(後述)が、前半はボールを受けると足元で引きずるように縦を見せながらコントロールし、福田や倉田を意図的に引き付けてから、進藤や宮澤へリリースするので、相手の狙いを理解したうえで、自分から墓穴を掘るようなボールのコントロールをしない。
(10m45s)中野が引き付けてリリース |
筆者はプレビューで福森とチャナティップのいる左サイドで組み立てるだろう、と思っていたが、中野の起用によってこの予想は外れたことになる。札幌は前半、明らかに
「ボールを収められる右の中野」をセーフティなファーストチョイスとし、攻撃サイドを左に変え(左サイドの選手は時間とスペースが得られる)てから、「一発のキックで展開できる左の福森」の能力を活かすという考え方になっていた。
3.3 トラップを逆手に取るサイドチェンジ
もう一つの理由は、ガンバは序盤宮澤に対する監視が甘かったため。右サイドでは、進藤が中野の背後でサポートし、宮澤も中央寄りの位置でパスコースを作る。ガンバは5-3ブロックはゴール前を固めており、2トップの片方は進藤、もう片方は前線でカウンターに備えて待機している。宮澤は監視されていない。
宮澤がオープンである状況は中野や進藤も早い段階から確認できており、サイドで閉塞する前に宮澤に逃がすことでトラップを回避できる。
10m59sのケースを例示する。この直前のプレーで札幌は右サイドを使っていることもあり、ガンバのDFは右寄りの意識が強い。宮澤が進藤とパス交換から、オープンな左サイドに展開。中盤3人のガンバは反対サイドは捨てており、福森は完全にオープンになっている。
アンカー(宮澤)がフリーでなければ、この福森へのサイドを変えるパスは宮澤から直接は供給できない。CBのキムミンテや深井を経由することになるが、時間がかかり守備側のスライドが間に合いやすい。
(10m59s)アンカー経由でサイドチェンジ |
福森がコントロールし、余裕をもってルックアップしたところ。ガンバは大外を守る小野瀬が前進し、福森の前に立つとともに、中盤3枚の右を守る高江もスライドする。ガンバの5-3ブロックはサイドは主にWBがカバーし、中盤の3枚は中央を締めることになっているが、この時は低い位置にいるDFの福森にボールが渡ったので、MFの高江も対応したのだろう。
(11m02s)菅へのスルーパス |
この時、ボールサイドでは菅が小野瀬とCB高尾(マーク対象はチャナティップ)の裏を取り、福森がその足元へスルーパス。ボールと反対サイドでは、ガンバのDFは札幌の5トップにマンマークで対応しているので全員ファーサイドにいる。2人のMFはマーク対象がいないが宮澤→福森のサイドを変えるパスにはスライドが追いつかない。
という具合に、短い距離でサイドチェンジができる状態になっていると、ガンバのブロックはいくらスライドしても2回、3回と振られると対応が難しくなる。
どちらかと言うと、ガンバはサイドではなく中央でのボール回収→2トップのカウンターの方が可能性がありそうだった。13m00sには、中央で深井のパスを高江がスライディングで引っ掛けてガンバのカウンターが発動する(ファン ウィジョの左足シュートは枠外)。
ガンバのボール保持時の狙いは、その機会が確保された17分頃から見えてくる。
一言で言うと、3バックが右寄りのポジションを取る。4バックの、左SBが空席になったような配置でもあり、高尾が右SB、三浦が右CB、菅沼が左CB。空席の左SBは誰かが埋める、使う関係にあったかというとそうではない。明らかに右から、また中央で監視される矢島を使わずに前進する意図があった。
なお、この17分頃には札幌にも変化があった。ガンバのボール保持時の守備の形を、武蔵を頂点にした”いつもの”5-2-3に変える。
ガンバの狙いは基本的にはプレビューで予想した通り。WBが札幌のWBを引き出し、裏のスペースに走り込む。
19m25sの展開と、札幌の対応を図示する。小野瀬が菅を引き出す。高江は菅の背後のスペースに走り、アデミウソンは中央でボールを受ける態勢を取る。この時はアデミウソンがスルーし、ファン ウィジョ経由で高江が右サイドを抜け出すが、札幌は中央に進藤と中野しか残っていない。これは福森が高江を捕まえに出たので、ミンテがアデミウソン、進藤がファン ウィジョという関係になったため。高江は中盤では宮澤が見ることを想定していたと思うが、サイドに走られるとその監視関係は曖昧になる。
ただ、この形からシュートチャンスが発生したのは前半1回だけだった。菅や福森も、ガンバが右サイドを突いてくることはインプットされていたのかもしれないし、キム ミンテのアデミウソンやファン ウィジョへの対応が適切だったことも大きい。
上記「4.」で札幌は一度、守備の形を5-2-3に変えたと書いたが、23分頃から再び試合開始当初の陣形(チャナティップがトップ下の5212)に戻したようだった。ボールを持っていない時は2トップ+トップ下、ボールを持って攻撃する時は1トップ2シャドー、自分たちに都合のいい形に都度変形させて戦う”いいとこ取り”を画策している。
ボール非保持時の陣形は「2.1」の再掲になるが以下の通り。
これがいつもの1トップ2シャドーになるといいが、実際は、ガンバからボールを回収して攻撃に転じる局面で、下図のように武蔵が左、チャナティップが中央の、ボール非保持時の陣形そのまま攻撃を始めることが少なくなかった。
武蔵はスペースでのプレーを好む。左サイドでスペースがあるときはそこに走って要求し、勝負を仕掛けることもあり、これはチームの速攻のオプションの一つとして捉えるならアリだが、問題は速攻を諦めて遅攻で組み立てている時も武蔵が左、チャナティップが中央の位置関係がなかなか覆らなかったことだった。
ボールを取られないチャナティップは福森や菅、宮澤のボールの預けどころとしてビルドアップを助け、また左ハーフスペースで前を向いてのドリブルでの局面打開や斜めのスルーパスなどの役割を担う。チャナティップが”定位置”にいないと、これらの機能がごっそりと消えることに等しい。またシャドーがチャナティップとルーカスだと、ゴール前のターゲットは武蔵しかいない。サイドからどれだけクロスを上げても、ターゲット1枚では難しく、またその武蔵も中央にいない。
これが、「4.」に示すガンバの右寄りのDFの配置を意識すると、武蔵が更に左サイド、中央から遠ざかる位置でアクションを開始することになる。ガンバの攻撃に対する対処は特に問題なかったが、全般に、ボールを回収した後に速く攻めたいのか、時間をかけて陣形を整えてから攻めたいのか、どっちつかずな印象が否めなかった。
前半最後のトピックはアンカー宮澤に関係するもの。24分、接触プレーで宮澤が膝を痛め、札幌ベンチはプレー続行できるかを数分間、伺い続けることになる。荒野が準備するが、結局前半は宮澤がそのまま続けることになった。
このプレーがどの程度影響したかはわからないが、宮澤が痛んだ直後の25分頃からガンバのアンカーポジションに対する監視が厳しくなる。ガンバ2トップのうち片方が、2トップの背後で受けようとする宮澤にボールが入るとプレスバック。普段の宮澤なら1人が背後から来た程度ではそう問題ないのだが、負傷してからの約20分間では2回ボールを失ってしまった。
後半立ち上がりも特に両チームの考え方には変化はない。ガンバは2トップを残して撤退。札幌は枚数をかけて攻撃。前半気がかりだった非保持時の守備は、チャナティップトップ下の5-2-1-2で同じやり方だった。
前半との相違点は、札幌は左サイドからの展開が多くなる。これは福森に預けた際に、特に圧力もなくフリーを享受していることをいいことに、前半見られたような何度かサイドを変えたりするでもなくダイレクトに左サイドで前に運ぼうとする選択が増えたことによる。
この時、チャナティップと菅との関係が気になる。結論としては、チャナティップが徐々に本来の左シャドーの位置に収まり、そこから引いて受けることでガンバの右CB高尾を前に引き出す。これによって小野瀬-三浦のチャネルが空き、札幌はそこを最初の狙いどころとして攻め込んでいた。
前半、チャナティップは、”武蔵との入れ替わり問題”により左にいないことが多く、その根本的な要因は後半開始当初も解決されていなかったが、後半立ち上がりの10分間はファウル等によるリスタートが度々生じたため、その間に左シャドーに”戻る”ことができていた。
右サイドも前半以上にポジショニングが洗練されていく。ルーカスはスペースを享受できないガンバのブロック内から脱出。代わりに、中野が裏を取ったり、より高い位置でプレーする。
ガンバは引いて、2トップのクオリティ爆発によるカウンターの機会と札幌のミスを待つ。後半開始からの20分間ではチャンスは3回到来した。
1回目は56分、宮澤のパスミスから。これはシュートチャンスに結びつかず。2回目は58分、札幌のバックパスがミスとなり、ガンバ陣内でボールを回収したアデミウソンの個人技が発動し、札幌の進藤と深井をぶち抜いてゴール前まで運ぶが、この試合冴えていたキム ミンテが体を投げ出してシュートは撃てず。3回目は2トップではないが、倉田が61分にセンターサークル付近で深井を抜いて一気にスペースをドリブルで運びゴール前へ。シュートは自分で放ったが枠外。
この倉田の個人技が発動する少し前くらいの時間帯から、札幌の攻撃時のダイレクトな選択や、疲労もあってか、前線3人の守備意識が下がったことでややオープンな展開になっていく。60分の荒野の投入はそうした状況での選択だった。
どちらかというとガチガチでスペースがない展開よりも、ややオープンな殴り合いの方が攻撃面での良さは活きそうな荒野。この交代はどちらかというと良い方向に転ぶ予感があったが、この後の60~75分頃までの展開はお互いにスローダウン。
膠着状態でゲームは進む。
78分に札幌は菅に代えて切り札のジェイ。ガンバは同じタイミングで高江に代えて食野。2分後、80分にはアデミウソンを下げて今野。
札幌にとっては、ロペスがいない状況で得点を奪えないとするなら、ゴール前の強力なターゲットであるジェイの投入は不可欠。ただコンディションが万全ではないジェイを長い時間使うと、必要以上にオープンな展開にし、ガンバのアタッカーが活動しやすい展開を招きかねない。そうした考え方があってジェイの投入をぎりぎりまで見極め、我慢していたのだと思う。
逆にガンバもジェイがいつ投入されるか、またそれによる影響を注視しながらのベンチワークだったはず。(2年前の吹田での対戦のように)ジェイが圧倒的に勝てるなら何らかテコ入れをしなければならないし、逆にオープンになってカウンターを仕掛けられるチャンスが増大するという捉え方もある。食野と今野の投入は、今のジェイのコンディションなら問題なく対処できるので、中盤から前をよりフレッシュにして、何度か到来するであろうチャンスでのカウンターのクオリティを確保しておこう、という采配だった。
言うまでもなく、サッカーの試合の目的は試合に勝つことである。試合に勝つためには得点を奪い、失点を防ぐことが必要で、そのために大抵の監督はゴールから逆算したチームビルディングを行う。
この試合を「札幌に来てからのベストゲーム」と評したミシャは、「ゴールは最後についてくる」と考えるタイプの監督なのかもしれない。「サッカー批評」最新号でミハエル・ミキッチが「リーグタイトルはとれないかもしれないけど、グアルディオラのようなマイスター」と評していたのも、こうした考え方にあてはまる。
シュート本数は18-7、枠内シュートは7-1(ガンバの枠内シュートはATのファン ウィジョの1本のみだろう)。確かにこのスタッツからは、「内容では勝ってた」「ベストゲーム」と言えなくもない。
筆者は凡人なので、ゴールから逆算した感想、誰もが感じているであろう感想を記しておく。前線の選手が本来の、得意なポジションでプレーする機会をもう少し作ることが必要だった。武蔵は殆どの時間を左サイドで過ごしており、チャナティップも前半はガンバのブロック内に閉じ込められたまま。ルーカスがFWとしてプレーしていた時間、右前方のスペースでプレーする機会は立ち上がりの9分に1度あっただけ。
その理由は記事中「5.」等に示した通りだが、ガンバ相手にそうした本来やりたいプレーをするまでのレベルにはまだないということでもある。我々サポーターは一層、直接的、間接的(スポンサーのビールを飲むこと等)な金銭面でのサポートをしていく必要があるだろう。
守備における振る舞いの判断基準。よくあるものは「相手の誰々選手がボールを持った時に、味方の誰々選手が○○をさせないようにボールに寄せていく」、「○○のスペースで相手選手が持った時、味方の誰々選手が最初にボールホルダーの前に立つ」など。
この時、ハイプレスを最初から最後まで行うとリスキー(後ろで守る選手がいなくなる)ので、ハイプレスは人数やエリアを限定して行われることが多いが、ビルドアップを行っているチームが、ハイプレスを突破してボールを落ち着かせる状態を作れる場所や選手を「ビルドアップの出口」と言っている。
どちらかと言うと、ガンバはサイドではなく中央でのボール回収→2トップのカウンターの方が可能性がありそうだった。13m00sには、中央で深井のパスを高江がスライディングで引っ掛けてガンバのカウンターが発動する(ファン ウィジョの左足シュートは枠外)。
4.右寄り3バックからの前進
ガンバのボール保持時の狙いは、その機会が確保された17分頃から見えてくる。
一言で言うと、3バックが右寄りのポジションを取る。4バックの、左SBが空席になったような配置でもあり、高尾が右SB、三浦が右CB、菅沼が左CB。空席の左SBは誰かが埋める、使う関係にあったかというとそうではない。明らかに右から、また中央で監視される矢島を使わずに前進する意図があった。
ガンバの右寄りポジショニングと札幌の5-2-3ブロック |
なお、この17分頃には札幌にも変化があった。ガンバのボール保持時の守備の形を、武蔵を頂点にした”いつもの”5-2-3に変える。
ガンバの狙いは基本的にはプレビューで予想した通り。WBが札幌のWBを引き出し、裏のスペースに走り込む。
19m25sの展開と、札幌の対応を図示する。小野瀬が菅を引き出す。高江は菅の背後のスペースに走り、アデミウソンは中央でボールを受ける態勢を取る。この時はアデミウソンがスルーし、ファン ウィジョ経由で高江が右サイドを抜け出すが、札幌は中央に進藤と中野しか残っていない。これは福森が高江を捕まえに出たので、ミンテがアデミウソン、進藤がファン ウィジョという関係になったため。高江は中盤では宮澤が見ることを想定していたと思うが、サイドに走られるとその監視関係は曖昧になる。
(19m25s)ガンバ右サイドで菅の背後を狙う |
ただ、この形からシュートチャンスが発生したのは前半1回だけだった。菅や福森も、ガンバが右サイドを突いてくることはインプットされていたのかもしれないし、キム ミンテのアデミウソンやファン ウィジョへの対応が適切だったことも大きい。
5.いいとこどりの難しさとキャプテンの負傷
5.1 机上論となった可変陣形
上記「4.」で札幌は一度、守備の形を5-2-3に変えたと書いたが、23分頃から再び試合開始当初の陣形(チャナティップがトップ下の5212)に戻したようだった。ボールを持っていない時は2トップ+トップ下、ボールを持って攻撃する時は1トップ2シャドー、自分たちに都合のいい形に都度変形させて戦う”いいとこ取り”を画策している。
ボール非保持時の陣形は「2.1」の再掲になるが以下の通り。
(再掲)ボールを持っていない時の札幌の陣形 |
これがいつもの1トップ2シャドーになるといいが、実際は、ガンバからボールを回収して攻撃に転じる局面で、下図のように武蔵が左、チャナティップが中央の、ボール非保持時の陣形そのまま攻撃を始めることが少なくなかった。
武蔵が左、チャナティップが中央の状態で守備→攻撃の切り替えがあるとスムーズに変形できない |
武蔵はスペースでのプレーを好む。左サイドでスペースがあるときはそこに走って要求し、勝負を仕掛けることもあり、これはチームの速攻のオプションの一つとして捉えるならアリだが、問題は速攻を諦めて遅攻で組み立てている時も武蔵が左、チャナティップが中央の位置関係がなかなか覆らなかったことだった。
ボールを取られないチャナティップは福森や菅、宮澤のボールの預けどころとしてビルドアップを助け、また左ハーフスペースで前を向いてのドリブルでの局面打開や斜めのスルーパスなどの役割を担う。チャナティップが”定位置”にいないと、これらの機能がごっそりと消えることに等しい。またシャドーがチャナティップとルーカスだと、ゴール前のターゲットは武蔵しかいない。サイドからどれだけクロスを上げても、ターゲット1枚では難しく、またその武蔵も中央にいない。
これが、「4.」に示すガンバの右寄りのDFの配置を意識すると、武蔵が更に左サイド、中央から遠ざかる位置でアクションを開始することになる。ガンバの攻撃に対する対処は特に問題なかったが、全般に、ボールを回収した後に速く攻めたいのか、時間をかけて陣形を整えてから攻めたいのか、どっちつかずな印象が否めなかった。
5-2-1-2守備に切り替えて武蔵が高尾を意識すると更にゴールから遠ざかってしまう |
5.2 宮澤の負傷交代とガンバのアンカー監視
前半最後のトピックはアンカー宮澤に関係するもの。24分、接触プレーで宮澤が膝を痛め、札幌ベンチはプレー続行できるかを数分間、伺い続けることになる。荒野が準備するが、結局前半は宮澤がそのまま続けることになった。
このプレーがどの程度影響したかはわからないが、宮澤が痛んだ直後の25分頃からガンバのアンカーポジションに対する監視が厳しくなる。ガンバ2トップのうち片方が、2トップの背後で受けようとする宮澤にボールが入るとプレスバック。普段の宮澤なら1人が背後から来た程度ではそう問題ないのだが、負傷してからの約20分間では2回ボールを失ってしまった。
2トップを縦関係にしてアンカーを監視 |
6.後半の展開
6.1 メインスタンド側での斬り合い
後半立ち上がりも特に両チームの考え方には変化はない。ガンバは2トップを残して撤退。札幌は枚数をかけて攻撃。前半気がかりだった非保持時の守備は、チャナティップトップ下の5-2-1-2で同じやり方だった。
前半との相違点は、札幌は左サイドからの展開が多くなる。これは福森に預けた際に、特に圧力もなくフリーを享受していることをいいことに、前半見られたような何度かサイドを変えたりするでもなくダイレクトに左サイドで前に運ぼうとする選択が増えたことによる。
この時、チャナティップと菅との関係が気になる。結論としては、チャナティップが徐々に本来の左シャドーの位置に収まり、そこから引いて受けることでガンバの右CB高尾を前に引き出す。これによって小野瀬-三浦のチャネルが空き、札幌はそこを最初の狙いどころとして攻め込んでいた。
前半、チャナティップは、”武蔵との入れ替わり問題”により左にいないことが多く、その根本的な要因は後半開始当初も解決されていなかったが、後半立ち上がりの10分間はファウル等によるリスタートが度々生じたため、その間に左シャドーに”戻る”ことができていた。
福森の攻撃参加 |
右サイドも前半以上にポジショニングが洗練されていく。ルーカスはスペースを享受できないガンバのブロック内から脱出。代わりに、中野が裏を取ったり、より高い位置でプレーする。
6.2 仕掛けないガンバ
ガンバは引いて、2トップのクオリティ爆発によるカウンターの機会と札幌のミスを待つ。後半開始からの20分間ではチャンスは3回到来した。
1回目は56分、宮澤のパスミスから。これはシュートチャンスに結びつかず。2回目は58分、札幌のバックパスがミスとなり、ガンバ陣内でボールを回収したアデミウソンの個人技が発動し、札幌の進藤と深井をぶち抜いてゴール前まで運ぶが、この試合冴えていたキム ミンテが体を投げ出してシュートは撃てず。3回目は2トップではないが、倉田が61分にセンターサークル付近で深井を抜いて一気にスペースをドリブルで運びゴール前へ。シュートは自分で放ったが枠外。
この倉田の個人技が発動する少し前くらいの時間帯から、札幌の攻撃時のダイレクトな選択や、疲労もあってか、前線3人の守備意識が下がったことでややオープンな展開になっていく。60分の荒野の投入はそうした状況での選択だった。
60分~ |
どちらかというとガチガチでスペースがない展開よりも、ややオープンな殴り合いの方が攻撃面での良さは活きそうな荒野。この交代はどちらかというと良い方向に転ぶ予感があったが、この後の60~75分頃までの展開はお互いにスローダウン。
7.ジェイの影響力
膠着状態でゲームは進む。
78分に札幌は菅に代えて切り札のジェイ。ガンバは同じタイミングで高江に代えて食野。2分後、80分にはアデミウソンを下げて今野。
78分~ |
札幌にとっては、ロペスがいない状況で得点を奪えないとするなら、ゴール前の強力なターゲットであるジェイの投入は不可欠。ただコンディションが万全ではないジェイを長い時間使うと、必要以上にオープンな展開にし、ガンバのアタッカーが活動しやすい展開を招きかねない。そうした考え方があってジェイの投入をぎりぎりまで見極め、我慢していたのだと思う。
逆にガンバもジェイがいつ投入されるか、またそれによる影響を注視しながらのベンチワークだったはず。(2年前の吹田での対戦のように)ジェイが圧倒的に勝てるなら何らかテコ入れをしなければならないし、逆にオープンになってカウンターを仕掛けられるチャンスが増大するという捉え方もある。食野と今野の投入は、今のジェイのコンディションなら問題なく対処できるので、中盤から前をよりフレッシュにして、何度か到来するであろうチャンスでのカウンターのクオリティを確保しておこう、という采配だった。
8.雑感
言うまでもなく、サッカーの試合の目的は試合に勝つことである。試合に勝つためには得点を奪い、失点を防ぐことが必要で、そのために大抵の監督はゴールから逆算したチームビルディングを行う。
この試合を「札幌に来てからのベストゲーム」と評したミシャは、「ゴールは最後についてくる」と考えるタイプの監督なのかもしれない。「サッカー批評」最新号でミハエル・ミキッチが「リーグタイトルはとれないかもしれないけど、グアルディオラのようなマイスター」と評していたのも、こうした考え方にあてはまる。
シュート本数は18-7、枠内シュートは7-1(ガンバの枠内シュートはATのファン ウィジョの1本のみだろう)。確かにこのスタッツからは、「内容では勝ってた」「ベストゲーム」と言えなくもない。
筆者は凡人なので、ゴールから逆算した感想、誰もが感じているであろう感想を記しておく。前線の選手が本来の、得意なポジションでプレーする機会をもう少し作ることが必要だった。武蔵は殆どの時間を左サイドで過ごしており、チャナティップも前半はガンバのブロック内に閉じ込められたまま。ルーカスがFWとしてプレーしていた時間、右前方のスペースでプレーする機会は立ち上がりの9分に1度あっただけ。
その理由は記事中「5.」等に示した通りだが、ガンバ相手にそうした本来やりたいプレーをするまでのレベルにはまだないということでもある。我々サポーターは一層、直接的、間接的(スポンサーのビールを飲むこと等)な金銭面でのサポートをしていく必要があるだろう。
用語集・この記事上での用語定義
・守備の基準:
・(ポジションの)スイッチ:
配置や、その役割を入れ替えること。・ゾーン3:
ピッチを縦に3分割したとき、主語となるチームから見た、敵陣側の1/3のエリア。アタッキングサードも同じ意味。自陣側の1/3のエリアが「ゾーン1」、中間が「ゾーン2」。・チャネル:
選手と選手の間。よく使われるのはCBとSBの間のチャネルなど、攻撃側が狙っていきたいスペースの説明に使われることが多い。・トランジション:
ボールを持っている状況⇔ボールを持っていない状況に切り替わることや切り替わっている最中の展開を指す。ポジティブトランジション…ボールを奪った時の(当該チームにとってポジティブな)トランジション。ネガティブトランジション…ボールを失った時の(当該チームにとってネガティブな)トランジション。・ハーフスペース:
ピッチを5分割した時に中央のレーンと大外のレーンの中間。平たく言うと、「中央のレーンよりも(相手からの監視が甘く)支配しやすく、かつ大外のレーンよりもゴールに近く、シュート、パス、ドリブル、クロスなど様々な展開に活用できるとされている空間」。・ビルドアップ:
オランダ等では「GK+DFを起点とし、ハーフウェーラインを超えて敵陣にボールが運ばれるまでの組み立て」を指す。よってGKからFWにロングフィードを蹴る(ソダン大作戦のような)ことも「ダイレクトなビルドアップ」として一種のビルドアップに含まれる。・ビルドアップの出口:
後方からパスを繋いで行うビルドアップに対し、相手は簡単に前進させないようハイプレス等で抵抗する。この時、ハイプレスを最初から最後まで行うとリスキー(後ろで守る選手がいなくなる)ので、ハイプレスは人数やエリアを限定して行われることが多いが、ビルドアップを行っているチームが、ハイプレスを突破してボールを落ち着かせる状態を作れる場所や選手を「ビルドアップの出口」と言っている。
この試合、ミシャはかなり、ガンバを無得点に抑える+選手の疲労度とコンディションを重視してゲームをしていたように見えました。湘南戦も東京戦も集中力の必要なゲームでしたし連戦フル出場のミンテらの疲労やそれによる一瞬のエアポケットは要警戒だったのかと。
返信削除ガンバが勝つための1つの方法は後ろから2トップにボールを入れ2人の個の力でシュートに持ち込むかそのときのぐちゃぐちゃに中盤の選手が1発という形だったかと思います。遠藤が良ければこれができたと思いますが、遠藤不在でもある形で正確なキラーパスを出せるのが矢島です。ミシャは(浦和時代には柏木阿部との比較等で使えなかったものの)矢島の良さは十分に理解していたと思います。
ここ数試合のコンサには(宮澤は気になりますが)怪我人復帰基調のなかで無理やりリスクをとってマリノス戦のような大量失点的ゲームをしないことはかなり重視されていたように思います。
こんなのミシャじゃないとか言いたいところもありますが(^^)
全般に、放置して問題ない選手とケアしたほうが良い選手の判別は強く意識されていたように思えます。ロペスが戻るかジェイが完調になるまではロースコア牛歩先方のゲームプランだと予想しています。
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