2019年10月21日月曜日

2019年10月18日(金)明治安田生命J1リーグ第29節 北海道コンサドーレ札幌vsセレッソ大阪 ~Widely&Compactness.~

0.スターティングメンバー


スターティングメンバー

 札幌(1-3-4-1-2):GK菅野孝憲、DF進藤亮佑、キム ミンテ、福森晃斗、MF白井康介、宮澤裕樹、深井一希、菅大輝、アンデルソン ロペス、中野嘉大、FW鈴木武蔵。サブメンバーはGKク ソンユン、DF石川直樹、濱大耀、MFルーカス フェルナンデス、早坂良太、FW岩崎悠人、藤村怜。荒野とジェイはいずれも左足ふくらはぎ痛でメンバー外。アンロペは第19節の大分戦以来の右シャドーでの先発起用。GKは、北朝鮮で行われたワールドカップ2次予選に招集され、水曜日に合流したク ソンユンに代わって菅野。

 セレッソ大阪(1-4-2-2-2):GKキム ジンヒョン、DF松田陸、マテイ ヨニッチ、木本恭生、丸橋祐介、MF藤田直之、ソウザ、水沼宏太、柿谷曜一朗、FW奥埜博亮、ブルーノ メンデス。サブメンバーはGK圍謙太朗、DF瀬古歩夢、MF田中亜土夢、斧澤隼輝、丸岡満、FW高木俊幸、鈴木孝司。負傷の丸橋の代役は順当に船木。

1.想定される互いのゲームプラン

・札幌はいつも通り。4バックのチーム相手には横幅を使って攻撃。守備は人を捕まえる。これが、「絶対に負けたくない試合」では、何度か4バックの相手に対してカスタマイズした布陣で挑んでいるが、この試合は特にそうしたカスタマイズは見られなかった。特段この試合のためのプランはなくいつも通りだ。
・セレッソもいつも通り、かつセオリー通り、「広く攻めてコンパクトに守る」。数的優位やポジションのミスマッチを使って、リスクを避けつつ確実、ワイドににボールを動かし、相手のバランスが崩れるのを待つ。

2.基本構造


 一般に、サッカーはボールを持っているチームの側が有利だと言われる。
 それは、「ボールがどこにあるか」によって「いつ、どこで、何を優先してプレーすべきか」という状況の設定・規定を、ボールを持っていない側に対して行えるためだ。
 人間はボールよりも速く動けないので、ボールを持っている側が、ボールを人間よりも速く動かすことで、常に先手を取ることができる。認知と判断のスポーツにおいて、先手を取る側が有利なことは説明するまでもないだろう。

 一方で守備側が活用できるカードとして、「オフサイドルールを利用したプレーエリアの設定・規定(限定)」がある。
 ディフェンスの原則として「コンパクトに守る」ことが重要だとされるのは、コンパクトにすることでボール保持側が活用できるエリアを狭くし、上記のアドバンテージを狭小にするためだ。確かクライフが言っていたのは「ソファの幅なら誰でも守れる」。大通公園の広さでは、11人で守り切るのは不可能だが、狭ければ狭いほど攻撃側の優位性は小さくなり、守る側にとって有利だ。

 逆に攻撃側の視点に戻ると、ボール保持時にワイドに攻めることが重要性なのは、1つは「(相手の)人よりも速く動ける」優位性を活かせること。もう一つは、幅を広げることで「誰でも守れる」状況を壊すこと。

2.1 札幌は「ソファでくつろげない状況」でスタート


 セレッソのボール保持。ボール非保持の札幌は、コンパクトに守りたい。対するセレッソは、札幌の選手が「ソファの幅」を守っている状況をまず崩したい。そのため、札幌のブロックの外周に、それも、札幌の選手から距離をとった状況で人を配する。白円で囲った4人のDFのポジションがそれだ。
 加えて、2トップの奥埜とブルーノメンデスは下図の破線の動きを頻繁に行う。ゴールから遠ざかりコーナーフラッグに向かっていく動きは、ゴールを奪い合う競技において非効率なように思えるが、大通公園でロンドをしている状況を想定すると話は変わってくる。奥埜とメンデスがこの陣地の占有に成功すると、セレッソがボールを持っている時の戦いの場は「ソファ」から「大通公園」に近づいていく。
 なお、斜めに走るメリットは、味方のパスに合わせて飛び出しやすい、元々中央でマークしているDFを動かすことができる、最初からサイドでマークを背負わなくていい、等が挙げられる。
なるべくコンパクトに守りたい札幌の”外周”に人を配してブロックを拡げたいセレッソ

 札幌は判断を迫られる。ソファに座っているべきか。それとも外出の準備を整えて、大通公園に出ていくか。ゴールは中央にあるので、守るなら中央からコンパクトな状態で動かないという選択もありだ。
 この試合、札幌がそうした選択(ゴール前から動かず、選手は「ソファの幅」を守っている)をしなかった理由は、開始6分までは「ホームゲームだから」。それ以降、つまり柿谷のスーパーゴールでセレッソが先制してからは、「ずっと待っているだけではボールを奪えず、点も取れない」という状況になってしまったことが大きい。

 札幌が外出の準備をして、大通公園に出ていかなくてはならない状況で、ようやく次の問題に直面する。

2.2 迎撃開始で露になるミスマッチ問題


 札幌はマンマークで1人1人、セレッソの選手を捕まえる守備。いつものパターンだ。セレッソに対してこのやり方は相性がよくなかった。
 一つは、「2.1」の通りセレッソはワイドに…横方向でだけでなく、ピッチの縦方向も使って広くボールを動かす。捕まえるために動く距離が長くなる。
 もう一つは、セレッソの選手配置上、札幌は誰が、セレッソのどの選手を捕まえるかの判断が難しいポジションがある。所謂「システムのミスマッチ」だ。

 セレッソの2トップに対しては札幌のCB3人、中盤の2人に対しては宮澤と深井。ここまではいい。では、残りの選手で、例えば右CBのヨニッチには武蔵か中野。松田には中野か菅。システムのかみ合わせ上、「どちらもいける位置」にいるが、逆に言えば、「どちらがいくか、その時になってみないとわからない」不安定な状況でもあった。
ワイドかつ中間ポジションに立つセレッソのポジショニングによって札幌はコンパクトでいられなくなる

 ニュートラルな状況では、CBのヨニッチに武蔵、隣り合う松田に中野…というかみ合わせが多かったが、武蔵が木本に1stディフェンスを敢行した場合は1人ずつかみ合わせがずれる。それに、GKキム ジンヒョンが関わるか否かも考慮すると、札幌の選手は、「誰がどこにいくか」が非常に不確定な、パターン化できない場当たり的な対応になってしまっていた。

 「札幌の誰がセレッソの誰をマークするのかわからない」状況はセレッソにはメリットだ。札幌が連動性を欠いていればいるほど、セレッソの1人1人の選手がボールを持ってから、札幌の選手が捕まえに来るまでの時間は長くなり、認知・判断・選択のための時間を得られる。
ワイドかつ中間ポジションに立つセレッソのポジショニングによって札幌はコンパクトでいられなくなる

 加えて、札幌は前線3人以外の選手も、セレッソのDFラインの選手を捕まえるために動く状況になると、上図の白井のように長い距離の移動を強いられる。距離が開いている状況では、どれだけ速く走っても数秒間の時間をセレッソの選手に与えることになっていた。

2.3 セオリーを踏襲しつつミシャ式の盲点を狙うセレッソ


 逆のシチュエーション。札幌がボールを持っている時の状況。
 お互いに「コンパクトに守りたい」、「ワイドに攻めたい」とする基本的な欲求は、「2.1」「2.2」のシチュエーションと同じだ。セレッソが[1-4-4-2]なのは、このシステムが一番コンパクトに、かつバランスよく密度を高めた状態で選手を配置できることもあるだろう。逆に札幌、ミシャ式の代名詞である[1-4-1-5]の配置も、最前線にワイドなポジショニングをする選手を使って相手の守備を拡げ、中央が「ソファの幅」ではなくなったところで攻略したいためだ。

 ここで、セレッソが注目していたのは恐らく、札幌の進藤と白井の"チェーン"。この2人は右サイドで前後の位置関係だが、ミシャ式はWB(白井と菅)に、最前線で張ることを要求する。相手のSB(船木と松田)を押し込み、相手の陣形全体を押し下げるためだ。白井は常に前にガン張り。この状況で、進藤が高めのポジションをとれないと、白井と進藤の距離は開いて、互いにパス交換が難しいポジショニングになる。そうなると、
WBが最前列で張ると後方のDFとは距離が開く

 進藤は白井とのチェーンが分断されると、前にボールを運ぶことが難しくなる。白井の他に、進藤に隣接する選手は宮澤とアンロペだが、それぞれセレッソのブロックの中で、「ソファの幅」でのプレーを強いられるためだ。だから、進藤はバックパス(GK菅野かキム ミンテ)以外の選択が難しくなる。
進藤はWBとのチェーンが分断され中央もスペースがないので前にパスできない

 札幌がこの状況に気付くまでは、セレッソは進藤のサイドを狙う。中央のキムミンテと深井がボールを持った時、水沼は札幌の左サイド(福森)へのパスコースに立つ。右利きのミンテや深井は、この「自分の左側からのアプローチ」を嫌って右足でコントロールするので、必然と進藤のサイドに展開するようになる。後は中央を切りながら進藤に寄せれば、「札幌はボールを持っているのに難しい状況」のできあがり。
水沼のポジショニングと体の向きで進藤サイドに誘導

 札幌はこの状況だと前線にジェイが欲しくなる。武蔵とアンロペのコンビもサイズはあるが、放り込みでのビルドアップにはセレッソのCB2人が目を光らせる。

3.流れに逆らわず


 試合は6分に柿谷のペナルティエリア外からのスーパーゴールでセレッソが先制。札幌が「コンパクトにゴール前を固めているだけでは勝ち点を得られない展開」で残りの90分弱がスタートする。

3.1 引きつけてリリース


 札幌が前に出ざるを得ない状況をセレッソは利用する。相手が前掛かりになるならスペースができやすい。これに、イバンコーチが中心となってチームに浸透させているボールポゼッションの考え方…「相手を引き付けてからボールをリリースすることで、味方にスペースと時間を与える」プレーの選択によって札幌の選手を動かし、セレッソにとって優位な状況を継続的に作っていく。

 まず、ボール保持の始まりとなるCB、ヨニッチは必ず斜め前方向にドリブルしてからボールをリリースしていた。これは札幌の「武蔵と中野の中間」に向かってドリブルすることで、どちらが対応するかの判断を難しくする(札幌は「2.2」の通り、都度判断していた)意味合いがある(他にもあるが)。基本的には、守備に熱心な武蔵が追いかけていたが、武蔵を十分に動かして(引きつけて)から、ヨニッチは松田にリリース。
 武蔵が動いたスペースは、藤田やソウザが使える。深井と宮澤に「ソファの幅を守る」状態で対応されている藤田とソウザも、ボールを失わずに扱うだけのスペースを確保しやすくなる。
ヨニッチは引き付けてからリリースで次の松田の判断の時間を作る

3.2 常に余分コストを払い続ける札幌


 松田に対しては、札幌は菅が対応するが、ここで、松田には上図黄色線の4つのパス選択がある。
 チームでボールを動かしながら保持するという観点では、選択肢があるだけでなく、正確にボールを扱えるだけの余裕が必要だが、松田には余裕がある。それは、菅は常に最終ラインから20m程度スプリントして寄せてくるので、その間に1秒~2秒程度、松田は認知と判断の時間を得られるからだ。4つの選択肢のうち確実性のあるものを選び、実行すればよい。
 札幌の「人を捕まえる」やり方において、人を捕まえるために常に20m移動しなくてはならないという状況はかなりのロスであり非効率だ。それが、このWB菅-SB松田のマッチアップ以外にも、武蔵・中野・アンデルソンロペスの周囲で複数あり、かつそれらは移動だけでなく「誰が誰に行くか」という判断のコストも伴っていた。その札幌が支払ったコストを徴収して自分たちのものにしているのは、言うまでもなくセレッソだ。
 藤田とソウザ、特にボールに寄ってくるソウザに対して、札幌は途中から左サイドの中野が対応することが多くなる。宮澤と深井は中央に残しておけるが、中野のソウザへの対応の強度があまり強くなく、ソウザはマークを背負いながらもボールに関与できていた。もっと強く当たれ、という指示をするのは簡単だが、それができないのは、中野は常に、上記の「移動と認知のコスト」を支払い続けていたためだ。

 松田に見えている選択肢4つのうち、特にハーフスペースの水沼はオープンになりやすい。奥埜が菅の背後に走ると、福森はその動き(角取り)を警戒する。深井は藤田を見ているので、水沼への監視が甘く浮きやすい。この構造は、[1-4-4-2]と[1-3-4-2-1]の対戦において非常に典型的な、生じやすいミスマッチだが、札幌はそれに対する対策は特に見られず、セレッソはハーフスペースに人とボールを送り込むことで札幌の急所を突く(それで刺されてはいないけど、脇腹こちょこちょくらいの痛さはあった)ことになっていた。

4.セオリーに反する理由

4.1 大回りなアンロペにボールが集まる背景


 「2.」に書いた通り、サッカーのセオリーは「広く攻めてコンパクトに守る」。ば、この日の札幌は「狭く攻めて」いた。
 「2.3」の通り、セレッソは進藤のサイドに誘導するが、進藤-白井のチェーンは分断。セレッソは進藤と白井のサイドに選手を寄せ、陣形を圧縮して守る。反対サイドは空いているが、ここにノーステップでパスを通せるのは福森のような名手にしか難しい。

 寄せられた進藤や、中央のキムミンテは、シャドーのアンデルソンロペスへのパスを何度か狙う。ミシャ式はウイングがガン張り、中盤のうち1枚は最終ラインに下がって中盤が空洞化させ、その中盤を飛び越えるようなパスで前線の5トップを使っていく。このコンセプト通りにいかない場合、変化を加えるとしたら、ボールを受けに落ちてくるのはシャドーだ。そのためロングフィードでビルドアップができない時は、ミシャチームは中央を経由した展開になりやすい。
サイドが消されているので降りてくるシャドーしか使いようがない

 チャナティップが札幌で欠かせないのは、セレッソのように圧縮してスペースを消してくるチーム相手でも中央でボールを失わないためだ。チャナティップに比べると、めんこさは互角でもプレーは3周ほど大回りなアンロペ。アンロペにボールが入っても、ターンして突進を図るところで前方の木本とヨニッチ、そして後方からサンドしに来るソウザに潰されてしまう。圧縮してスペースを消すセレッソに対して、DFからの展開先として中央を狙うことは明らかに非効率だったが、構造上そうせざるを得ない理由があった

4.2 宮澤の負傷交代


 そして17分にゴール前で柿谷との接触で右足を痛めた宮澤が24分に負傷交代。ルーカスが入り、中野が宮澤のポジションにシフトする。この交代により雲行きが変わり始める。
24分~

 中野は初め、このポジションをとっていた。宮澤のいたアンカーポジションは深井で、札幌は最終ライン3枚になっていた。
 預ける相手がおらず困っていた進藤。中野がボールサイドに寄ってくることでこの問題は解決される
 対するセレッソ。半端なポジションの中野は、あまり捕まえられていなかった。これは柿谷は進藤とどちらに最初に行くのか迷っていたのか、単に20分が経過して圧力が弱まったのかはわからない。
 色々あると思うが、中野のこのイレギュラーなポジショニングは札幌にはあまり問題をもたらさず、プラスに働く部分が大きかったように思える。
中野の曖昧なポジショニング

 そして札幌が5トップにボールが入るようになると、中野はボールサイド(主に右)でボールホルダーの近くで、もう1人の攻撃的MFのような動き…ハーフスペースに抜けたり、前を向ける位置でボールを保持して自らドリブルで前進したり、を見せる。
 これも、セオリーで考えると5トップで攻めている状況で”6人目”が加わってくるのはやや枚数過多だ。理屈の上では使えるスペースもないし、「宮澤の役割」と考えると、他の役割がある。が、この中野が関与する展開から、札幌は何度か攻撃の機会(主にサイド突破からのクロスボール)。
中野の前線での攻撃への関与

 30分頃を過ぎると、フリーダムに振る舞っていた中野は中央で、宮澤が担っていたアンカーのポジションに収まる。これは何か、深井との調整があったのかもしれない。
 一方、セレッソは守備の開始位置が下がる。セレッソはこの試合、主に2つの高さの位置でブロックを使い分ける。最初は2トップを敵陣センターサークルの頂点に設定し、札幌に突破されるとDFラインをペナルティエリアのすぐ外に設定してブロックを作り直す。札幌の、先述の中野のプレー関与や、セレッソの全般の圧力低下、札幌がセレッソのやり方に慣れたなど色々あると思うが、徐々に突破することが増えて、この30~45分頃はセレッソのブロックは低い位置でセットされることが多くなる
 そうなると、札幌はセレッソの1stディフェンスによって高いポジションを取れていなかった福森や進藤が元気になる。この2人のポジショニングが前になると、菅や白井との距離が近くなり、このサイドガン張りの2人にボールが入る。そうなると、クロスボールが上がるシチュエーションまでは到達する。
セレッソが撤退し大外WBにボールが入るようになる札幌

 前半最も札幌に得点の匂いがあったのは、38分頃に白井の左足インスイングのクロスに、大外の菅が飛び込んだ場面。基本的にセレッソはクロスに対して、CB2人が中央で弾き返す役割。ファーサイドのSBは絞って守るが、松田も船木も、丸橋もサイズはさほどない。だから、札幌はピンポイントでヨニッチと木本の間、それが無理ならセレッソのCBを越えるファーサイドへのクロスを狙いたいところだった。白井からのクロスなら、大外の菅の飛び込みが重要になるし、福森のクロスなら白井だ。

5.誘う者、拒む者

5.1 ロティーナをカオスへの扉に誘う札幌


 ハーフタイムを経ての仕切り直し。
 後半セレッソは再び、試合開始当初のような、ゆっくりとボールを動かして札幌の選手を動かす意識が強くなる。対する札幌。前半の「噛み合わない状態」をいじって、何かやり方を変えたりということは特になかった。前半と同じく前から1人1人捕まえていくが、よく言えば、その出足は前半よりも良かった(気がした)し、悪く言えば、セレッソの思惑通りに札幌の選手は動かされていた。
 しばしば見られたのは下図のパターン。この前線のセット(というか、アンロペがシャドーに入る)と、そのFW的/MF的な選手特性上どうしても武蔵とアンロペの2トップのような平均的なポジショニングになりやすい。この状態で、武蔵がセレッソのCBとGKを二度追い、セレッソがSBを使うと、WBの白井や菅が躊躇なく、武蔵やアンロペに近い高さまでポジションを上げる。サイドにはスペースができる。やはりセレッソの2トップが流れてくるが、これも進藤か、札幌の中盤センターの選手が捕まえる。とにかく視界に入った選手を迷わず捕まえるという整理になっていた。
人を捕まえるのでスペースが空く

 そうなると、それらの選手が本来いたエリアにはスペースができる。深井や中野(中野は藤田を捕まえることが多い)が動いた中央、そしてCBのうちの1人(図では進藤)が動いた最終ラインだ。上図で言うと最終ラインは2on2、菅と水沼を勘定に入れても3on3。この状況を望んでいるのはセレッソの側だ。枚数が少ないとスペースができる。スペースを必要としているのは攻撃側だからだ。
 それでもそのスペースを使う選手にボールが入る前に潰せばセーフ。ボールが入っても、最後は菅野が防いでくれればセーフ。ミシャチームにありがちなパターンだが、後半立ち上がりも「セーフ」なことが多かった。
 
 この対応で札幌が守り切れているうちは札幌のペースだ。札幌ゴール前にスペースがあると、セレッソはそこを使おうと必然とスピードアップする。札幌も奪った後、前への意識が強いので比較的ダイレクトにボールを運ぶ。ボールが行ったり来たり。目まぐるしい展開になると秩序は保たれなくなる。ロティーナのチームは秩序のチームだ。カオスな展開(日本人が好きな攻撃的なサッカー)はミシャチームの好むパターンだ。ロペス、ルーカス、武蔵、いずれも基本的にはスペースがある状況でのプレーが得意で、スペースがない状況で味方にスペースを作るプレー(ざっくり言うとイニエスタがやるような)はあまり得意ではない。

5.2 塩漬けへの固い意志


 セレッソは63分に負傷のブルーノメンデスに代えて鈴木。その後、徐々に運動量が落ちていく中でセレッソは前半途中からと同様にブロックの位置を下げる。鈴木はフレッシュにもかかわらず、奥埜と共に前残り気味で速攻を狙う。
 セレッソが4-4ブロックで守るようになると、札幌はそのブロックの前…セレッソのFW-MF間のスペースを使った攻撃を狙う。ようやくルーカスや白井といった、使いたい選手が仕掛けられる状況でボールを持てるようになる。
 札幌は変わらずハイペース、ダイレクトなプレーの選択を続ける。セレッソはゴール前を固め、ボール回収後は時折速攻も狙うが、基本はあくまでゲームのテンポを上げない選択をしていた。所謂”ゲームの塩漬け”が目的だ。

 札幌はクロスは増えるが、ターゲットに合った本数はわずか。ラスト10分は早坂投入でパワープレー気味に移行する。セレッソはソウザ→瀬古で中央の対空能力を強化。中央を固めるセレッソを崩せず0-1で試合終了。

雑感


 サッカーという競技に勝つための、両監督の対照的な捉え方が随所に垣間見れるゲームだった。ゴールを得るために、ミシャはリスク覚悟でカオスを生み出し、相手DFに混乱を生じさせる。ロティーナはそうした計算できない要素を嫌う。ただゴールを奪うには特別な何が必要な場合もあり、それはロティーナのチームではセットプレーだったり、柿谷のような才能だったりするのだろう。
 仮に同じ対戦をもう一度やるとしたら、柿谷のスーパーゴールのような得点がセレッソに生まれる保証はないので、スコアはどうなるかわからない。ただ試合展開は同じような、それこそ「再現性のある」ものになるはずだ。

 なお、ルヴァンカップ決勝の相手である川崎とセレッソは、4バックであるということくらいしか相似点がない。だから、あまり次の試合の参考にはならないし、この試合を根拠にネガティブな予想はしないこととしたい。

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