2019年10月14日月曜日

2019年10月13日(日)YBCルヴァンカップ プライムステージ準決勝第2戦 北海道コンサドーレ札幌vsガンバ大阪 ~問われる標準装備への回答~

0.スターティングメンバー

スターティングメンバー

 札幌(1-3-4-1-2):GK菅野孝憲、DF進藤亮佑、キム ミンテ、福森晃斗、MF白井康介、宮澤裕樹、深井一希、菅大輝、荒野拓馬、FWジェイ、鈴木武蔵。サブメンバーはGK阿波加俊太、DF石川直樹、MFルーカス フェルナンデス、中野嘉大、早坂良太、金子拓郎、FW岩崎悠人。股関節痛のルーカスは戻ってきたが、アンデルソン ロペスは膝の痛みを訴えたとのことでベンチ外。

 ガンバ大阪(1-3-1-4-2):GK東口順昭、DF高尾瑠、三浦弦太、菅沼駿哉、MF矢島慎也、小野瀬康介、井手口陽介、倉田秋、福田湧矢、FWアデミウソン、宇佐美貴史。サブメンバーはGK林瑞輝、DF藤春廣輝、青山直晃、MF遠藤保仁、マルケル スサエタ、FWパトリック、渡邉千真。スタメン、サブとも4日前の第1戦と同じメンバー。

(さすがに同じ対戦カードが3試合続くと、書くことがなくなってくるので簡潔に。)



1.想定される互いのゲームプラン


・ガンバは0-0でOK。失点をまず回避したい。札幌はガンバとの2試合で、キム ミンテのセットプレーからの得点のみ。この試合はアンデルソン ロペスもおらず、少ないチャンスをものにするというよりは、まず数を撃ちたい。これを前提とすると、基本的な試合の進み方は決まってくる。逆にガンバは前半を0-0で凌いで、後半にギアを上げて試合を決めるのが理想だっただろう。

・札幌はチャナティップの欠場という問題が重くのしかかる。よく、サッカーの批評において「○○選手が消えていた」などとすることがあるが、チャナティップは消えている時間帯が非常に少ない。それはボール保持(自陣/敵陣)、非保持(敵陣/自陣)、ポジティブトランジション、ネガティブトランジションの各局面で”腐らない”だけのオールラウンドな能力があるため。

・チャナティップ欠場の影響は全てにわたるが、特に敵陣ゴール前で、スペースがない状態でプレーできる選手は札幌にはチャナティップ以外にいない。なので、札幌が得点するとしたら、スペースがある状況での速攻かセットプレーが重要になる。速攻のチャンスは欲しい。速攻の応酬でオープンな試合展開になることについて札幌はどう考えていたか。頭では避けたいと思いながら、点を取らなくてはならないので、実際はGK菅野やキム ミンテにその辺のリスク管理は(少なくとも最後のところは)お任せで、多少オープンな試合展開も許容していたように見える。

2.基本構造

2.1 原点回帰


 「1.」に書いたように互いの思惑から札幌がボールを持つ時間が序盤は多め。この1戦を前に精神論を説いたというミシャ。気持ちだけで終わらないのがミシャの仕事だ。
 ジェイの起用法について、吹田での1戦目は「途中出場の方が彼の力を出せると思った」。そしてこの2戦目では(アンデルソン ロペスの欠場が大きいが)先発で起用してきた。この言葉と、札幌のボール保持時の選手配置を見ると札幌の狙いは見えてくる。

 同じ相手との続けての3戦目ということでお互いに手の内は見えている。ガンバはここ2戦と同じく最終ラインに5枚+中盤の3枚のシステムで、2トップはハーフウェーライン付近。そこを越えたらプレスのスイッチ起動。宇佐美とアデミウソンの前方にスペースを作ることで、ボールを奪った後にこのスペースを使って札幌のDFに対して仕掛けていく思惑がある。

 対する札幌。いつもは深井が「福森とミンテの間」に落ちる。この試合では、深井のこのいつもの動きがなく、最後方は進藤-ミンテ-福森の並びでそのままプレーすることが多かった。そしてボール保持者とその選択は、主に福森からの前線へのフィード。ターゲットは中央のジェイと、左サイドで執拗に小野瀬の背後を狙う菅。
 2018シーズン序盤に多用していた、後方を3-2の枚数にして前線の長身の選手(ジェイと、あと1人いたかもしれないが忘れた)にボールを当ててセカンドボール回収に力点を置くやり方だ。チャナティップがいない現状、地上戦で無理に前進するよりも、ジェイのクオリティを活かすこの形の方が得策だと考えたのだろう。
後方はあまり[3-2]から形を変えずにボール保持

2.2 ガンバの狙いと札幌の対応


 手の内が知れているのはガンバも同じだ。ガンバの人の動き方はここ2試合と同じ。狙いどころはより明確になっていて、WBが引いて札幌の菅と白井を前に出し、その背後を狙うところからチャンスができていた。
ガンバボール保持時の選手配置

 札幌のやり方は殆ど変わらない。
 異なっていたのは、一つは右の高尾に対する対応。1戦目は、2トップのうち一角の選手が高尾の攻撃参加についていく。これはジェイが左にいる時に問題が生じることは当該記事参照2戦目はWBの菅を前に出す。小野瀬は早めのタイミングで福森に受け渡すが、その小野瀬のクロスから得点が生まれている。受け渡しが生じることで、小野瀬に厳しく当たりづらいという問題はあっただろう
 そしてこの試合、高尾に対応していたのは基本的には菅。しかし荒野が対応することもあり、オリジナルポジションでは矢島を見ながら、高尾にボールが渡ると(基本的に、高尾が唯一フリーなのでそこにボールが入ることは少なくない)荒野がサイドに出張。矢島は一瞬フリーになるが、武蔵がカバーしたり、そのまま放置されていたりという状況が混在する。
 矢島は当然この状況に気付く。2試合とも最終ラインに下がり、あえて自分がボールに関与しないことで札幌のトップ下・荒野を動かしていたが、この試合ではボールサイドに積極的に寄ってボールに関与することも異なっていた。脇役から主役へと役割が変化する。

 もう一つ異なっていたのは、武蔵とジェイの配置。この2人が先発した「1戦目」は、ボール保持時は武蔵が右の[1-3-4-2-1]、非保持時は左の[1-3-1-4-2]、という配置をかなり意識していた。これは攻撃の際は武蔵を右シャドーに配した方が整理がつき、逆に守備では高尾を武蔵が見る必要があったためだ。
 しかしこの試合では、武蔵は殆ど常に右に、ジェイは中央~左に置かれていた。これは、高尾にジェイがついていく機会をなくし、そのタスクを菅や荒野に分散させることで、武蔵とジェイをとりまく、必要以上のタスクとコストを排除することにつながる。無駄なコストはないほうがいい。それは普通のことだが、この試合では特にボールを奪った後に素早くプレーしたい(=奪った後になるべく人が移動しなくてもいいシステムでプレーしたい)ということも理由にあったかもしれない。

 序盤の攻防がひと段落した後、15~16分頃にガンバが二度立て続けにチャンス(二度目はオフサイドだったが)。いずれも同じ形で、白井の背後に1度目はアデミウソン、2度目は倉田。アデミウソンは宇佐美と左右の位置関係を入れ替わっている。倉田は長い距離を走られると宮澤がずっと付いていくのは難しい。札幌の人を固定して守るやり方をかなり意識した狙いだった。
15~16分頃のガンバのチャンス

3.担保された速さと、別の問題


 「1.」に書いたように、チャナティップ不在の札幌は時間をかけると次第にじり貧に陥る。なので、札幌は速攻のチャンスを大事にしたいところ。
 札幌に速攻のチャンスはあったか。結論としてはそこそこあった。例として17分の局面。小野瀬がアデミウソンに放り込み、キムミンテが跳ね返して宮澤が回収。荒野に縦パスを当てるが、矢島のアタックを荒野が見事なターンでかわす。これでガンバの2列目突破に成功する。
 札幌は全般に、ボール回収後に中央のジェイに当てる意識が強い。この時は荒野を経由したが、宮澤の「まず前方中央を見る」判断はジェイに当てるシチュエーションと同じだ。これが速攻のチャンスに繋がった一つ目の理由だ。
 もう一つはガンバのリスクヘッジ。ボール保持時は、井手口と倉田はそれぞれのサイドの局面に加勢することが多い(「2.」に書いたような、サイド攻略の意識が強いため)。ネガトラ要員は3バック+アンカーの矢島だが、矢島はこの局面以外にも全般に強度不足を感じさせる。矢島が突破されると3バックしか残っていない。札幌は矢島の周辺で勝負を仕掛けることで、中盤での局面が優位になる。
ガンバの放り込みを札幌が対処して縦への展開でカウンターを狙う

 問題はその後のゾーン3…おおよそラスト30メートルの局面だ。荒野が前を向いたとき、ジェイと武蔵はこのような配置…典型的な「2トップ+トップ下」の配置になっている。中央にはガンバのDFが2人。この状況ではジェイも武蔵もゴールから遠ざかるように膨らむ動きをするしかない。最初から中央にいるとスペースが消えるためだ。
全員中央レーンからスタートするので使えるアングルに乏しい

 ミシャチームが得意とする攻撃のパターンに、サイドのDFから斜めの楔のパスを入れて、スルーやフリックを使い前線3~4人の選手が絡んで中央を突破するものがある。攻撃は完全にパターン化するとオートマティズムが高まり、「やる側」の連動性や精度は高まるが、「やられる側」が動きに慣れてしまうという問題がある(グアルディオラがマンチェスターシティで「原則(初期配置)は決めてパターンも持っておくけど、それにとらわれずにアドリブ(個人のファンタジーア)主体でいい」としているのはそのためだ)。
 それでもバレバレの「ミシャアタック」が強力なのは、角度をつけてボールを入れることで相手の視界を操り、その視界の内外を使った高速コンビネーションプレーとして設計されているからだ。
 これに対し、今回の荒野-ジェイ-武蔵で仕掛ける攻撃は、全員が中央レーンからスタートするのでガンバDFの視界に入った状態でプレーし、また武蔵やジェイがスペースで(=スピードを活かしながら)ボールを受けてプレーするには中央にはスペースがなく、膨らむ動きをするしかない。そうするとゴールから遠ざかり、ゴールマウスに対して有効なシュートの角度が少なくなってしまう。

 この17分の局面では荒野は2トップに出せず、ミドルシュートを選択。出せるタイミングがなかった。
 23分にも札幌の速攻。この時は武蔵が持ち込み、ジェイへのスルーパスを選択するが、スペースがない状況で難しい選択。ジェイには合わなかった。

4.仕掛けと我慢


 この試合のターニングポイントは、57分の札幌の選手交代、白井→ルーカスの采配だったと思う。基本的に、右サイドは1on1で勝てる選手が起用される。対面の福田の徹底マークで封殺気味だった白井を早いタイミングで見切りをつけ、フレッシュなルーカスを投入したことで、札幌ゴール前の局面は増え、札幌のボール喪失&ガンバのカウンターの機会は減る。
 投入直後の60分、62分に武蔵、深井。70分にもルーカスの突破から福森がそれぞれシュートに持ち込む。いずれも枠外だったが、ゴールキックからのリスタートになることは悪くない。
 一方ガンバが動いたのは79分、矢島→スサエタの投入だったが、これは札幌のカウンターから、武蔵のミドルシュートでスコアが動いた3分後だった。恐らくガンバベンチとしては、前半に宇佐美の負傷交代で1枚交代カードを切っていた状況で、福田→藤春のようなカードは切りずらいという考え方が合ったのだと思うが、これによって札幌の右・ガンバの左サイドのパワーバランスは終始札幌が優勢。「ここなら絶対勝てる」という領域を持っておくことはかなり有益に働いたと感じる。

雑感


 よく、サッカーを語る上で「速攻」と「遅攻」があるとする論法がある。ただ、このような試合を見ていて思うのは、「速攻」と「遅攻」は並列の概念というより、試合に勝つなら速攻はできないと話にならない…mustに近い位置づけであるのに対し、遅攻はできるにこしたことはないが、できなくてもいい(相手が揃っている状況で点を取るのは難しい。点を取る以外の目的があるなら別だが、遅”攻”とは言えないかもしれない)といった程度の概念なのかもしれない。
 その意味で、チャナティップや武蔵、アンデルソン ロペスのような選手をキープしておくことは重要だ。ジェイは「ゴールの取り方を知っている」選手だが、例えば白井はジェイのプレースピードに合わせてプレーしている。ジェイの準備が整わないと仕掛けられないし、その間に相手のDFが揃って速攻が成立しなくなってしまう状況があった。この試合でも、やはり速攻から唯一の得点が生まれた。相手がどのような振る舞いをするのかにもよるが、相手の枚数が揃っていないタイミングで、その”ボーナス”を活かして攻撃する能力は重要だ。兵藤慎剛や中原彰吾には満足できなかったミシャが荒野を諦めなていないのも、その高い運動能力を活かした、速い展開の中でプレーするクオリティを買っているのだろう。

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