2024年3月2日土曜日

2024年3月2日(土)明治安田J1リーグ第2節 サガン鳥栖vs北海道コンサドーレ札幌 〜十分すぎるシグナル〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:

  • 鳥栖はホームでの開幕2連戦。新潟との前節はハイライトでゴールシーンしか見ていないのでよくわかってないです。選手の出入りを見ると、outで主要なところは小野、岩崎、そんなに起用されていなかったけど中野伸哉。一方inは新卒以外ではFWのヴィニシウスとマルセロヒアン、相変わらずJ2では危険な中原、セレッソから加入した丸橋、昨年仙台でプレーしていたキムテヒョンといったところ。
  • そして開幕戦では樺山が左ウイングに入って、中盤は河原の前に福田と堀米が並ぶ1-4-1-2-3だったようですがこの日はヴィニシウスとマルセロヒアンを2トップで並べる1-4-4-2に変えてきたのが重要なポイントでした。

  • 札幌はこの試合前に、近藤の開幕戦の故障と、高木のシーズンアウトかもしれない程度の大きな故障がアナウンスされており、他にも起用できる選手がさらに減ったことは、新たにベンチ入りした岡田、原といった選手の名前からも推察できます(宮澤とスパチョークがメンバー外)。

中継の質:

  • 札幌の選手配置は4バックですけど、これについてDAZN中継の実況と解説(だれかと思えば私が一番好きなDFの増川でした)は「札幌4バックですね!どうしたのでしょう?」みたいな感じでずいぶん驚いていましたね。
  • ただ、これはコンサはマンマークなので相手が2トップなら、こちらは4バックというか2バックで守るのは2020年からずっとそうですよね。今に始まったことではありません。このブログを読み続けてくれた皆さんなら開始5分でその辺の中継体制の質がわかったでしょうか。
  • それはともかく、宮澤がいたらおそらく真ん中に宮澤(相手が2トップのときに下がって相手FWをマークする役割:通称高嶺ロール)で中村が左だったでしょうか。宮澤にヴィニシウスをマークするのは無理そうな気もしますけど、宮澤がいないならこれを任せられるのは中村しかいませんのでこのようなスタメンになるのは仕方ないとは思います。

おそらくはコンサ対策で2トップ:

  • 90年代のサッカー界では2トップが主流というか多かったと思います。モラッティがロナウド&ヴィエリの2トップでスクデットの夢を見たり、他方ベルルスコーニは「ミランは2トップじゃないとブランドイメージが毀損される」という理由で監督の選手起用に介入したり、みたいなのもありましたね。
  • それが00年代くらいから2トップが廃れて最前線には1人(またはウイングもいるので 3人)、だけを配置するチームが主流になりました。FWの1人を中盤に回し、敵陣ゴール前に張る選手は1人で十分だから他の役割を担える選手を増やしてピッチ中央付近での攻防に勝とうとする流れが加速します。
  • 要はFWタイプの選手を2人並べる2トップだと、現代サッカーの感覚的にはその2人の仕事量が少なすぎるんですよね(ゴール前の局面以外での仕事量)。
  • ですので近年の2トップはいわゆる9番タイプ、ゴール前以外であまり仕事をしないタイプの選手を2人並べて2トップというよりは、1人は下り目のFWまたはシャドーとかトップ下とか言われるタイプの選手が起用され、トップの選手の少し背後でプレーしたりフリーマン的に自由に動いてボールに関与するような場合が多い。

  • これに対して、この日の鳥栖の2トップは、90年代によく見られた9番タイプを2人並べるタイプのものでした。
  • おそらくこの理由は①マンマークでパスの受け手を全員マークしてくるコンサ相手だとGKからFWへのロングボールが多くなるので、それを処理できるようにしたい、②3トップにするとコンサは3バックになるが、鳥栖が2トップならコンサは2バックになるので最終ラインにスペースができ、マルセロヒアンのような選手を活かしやすい、とかそんな感じじゃないかと思いました。


2.試合展開

直線的な攻防:

  • 以前も同じことを書きましたが、鳥栖とコンサは巷では?ボールを保持してプレーすることを対峙にしているチームみたいな扱いを受けることが多いと感じますが、実際にはGKが長いパスを蹴ってピッチ中央をすっ飛ばしてプレーすることが多いという共通点があります。
  • その傾向は今回も同じで、コンサが1列目に小林と長谷川の2人を配置して鳥栖のCBを消してくるので、多くの局面はパクのフィードから始まりました。
  • まず鳥栖はこの展開も想定して準備していたと感じました。
  • 構造的に鳥栖は堀米が右サイドハーフというよりフリーマンで主に中央からスタートし、中央で主にプレーします。堀米と福田、河原(ティーさんに似てきましたね)で中央でセカンドボールを拾ったり、コンサが拾った後にすぐ中央から鳥栖陣内に展開することを阻害していました。
  • 鳥栖がボールを拾ったら、2トップが開いてサイドのスペースを使ってキープしたり、右とは対照的に左で開いたところからスタートしていた長沼に渡したりして陣形を整える。そして最後の局面では、サイドバックが攻撃参加して大外からクロスボールでフィニッシュを考えていたようでした。

  • コンサからすると、鳥栖のSBが果敢に攻撃参加してくるので、なんらかサイドがオープンになっている状態などでボールを奪って攻撃できたらよかったかと思います。
  • ただコンサの問題は、前線が小林、長谷川、駒井でそこまでスプリントしても速くなさそうな選手(みんな足元でボールを受けるタイプですね)。浅野は速いと思うのですけど、ウイングバックはそもそも、SBが攻撃参加したら自陣までそれについていかないといけないので、この局面でSBの背後を突く役割をというのは無理があるでしょう。
  • なので鳥栖のSBの攻撃参加を、コンサの視点ではプラマイでプラスもしくはイーブンにはできてなかったと感じます。

各個撃破:

  • 14分に河原の浮き玉のスルーパスにマルセロヒアンが抜け出す形から鳥栖が先制します。


  • これもコンサのマンマークでの対応をうまく利用してFWに得意なシチュエーションでプレーさせた鳥栖の狙い通りの形だったと思います。
  • というのはコンサの最終ラインで、位置関係上は岡村とマルセロヒアン、中村とヴィニシウスのマッチアップになることが多かったのですけど、マルセロヒアンが中央を離れたときに岡村がそれについていくと、コンサの中央は中村1人になって広大なスペースができるので、そこに縦パス1本でヴィニシウスが裏を取ったりなどのリスクがある。
  • 実際に19分に中村が1枚目の警告を受けたのは、パクのフィードをヴィニシウス(中村より10センチ背が低い)が背中を預けてブロックしてから反転して抜け出したプレーだったし、2枚目も同じくヴィニシウスが縦パスからターンして中村を置き去りにしかけたプレーでした。
  • という感じで、中村がもっと頑張ればコンサは完全に相手のFWと同数で守れるのかもしれませんけど、現状ちょっとそれは無理そうなので岡村はマルセロヒアンのマークと共にヴィニシウスとのマッチアップのカバーリングもしないといけない


  • ですのでマルセロヒアンがサイドに流れると、岡村はそれにマンマークで完全についていくのは難しい。
  • ディレイから2対2の形を作るなどして対応するイメージだったのでしょうけど、先制点の場面のような前にスペースがあって十分に加速できるシチュエーションだと、横浜FCでも度々そうだったように、マルセロヒアンは岡村クラスのDFであってもちんちんにするくらいのフィジカル的なポテンシャルはある。彼の得意な形を戦略的に作った鳥栖のベンチワークの勝利だったと思います。

悔やまれる退場処分と、「まぁどうせ…」という思いの交錯:

  • コンサがボールを持っているシチュエーションの話をします。
  • 基本的には先に書いたように、コンサもあまり考えずに前にとりあえず蹴る、という感じで、小林が頑張って収めようとしていましたが、小林はそんなことをするためにコンサに来たわけでもないし難しそうでした。
  • 鳥栖は4-4の配置のDFとMFが中央に密集してセットして、初期状態ではサイドは少し捨て気味で構えます。

  • 前線に長谷川、小林、駒井と足元で受けたいタイプが並ぶけど、見た感じそんなにパワーがないコンサ相手にはこの対応もかなり効果的でした。
  • この鳥栖のように密集してスペースを消してくるなら、その狭いスペースでプレーできないならスペースのあるサイドに展開するとか、鳥栖がやったようにコンサもDF背後に飛び出すとかそういう選択ができると効果的なのでしょうけど、コンサの前線は浅野以外は裏に飛び出す動きはほとんどしないし(パスもあまり出てこなさそうでしたけど)、また中央で前を向けないのでサイドに振るようなパスも、菅野を除けば殆ど蹴れなかったように思います。
  • 結果、とにかく狭いところで頑張って前を向こうとしていたけど、それで解決できるほどのクオリティもありませんでした。ぶっちゃけこれは福森のような選手がいなくなったのが大きいと思いますけど、福森は色々な意味で規格外なのであまりそこにフォーカスするのはやめておきます。

  • 前線に足元で受ける以外の選手が必要ということで、後半早い時間で武蔵の投入準備がされますが(おそらく活動可能時間が現状それくらいなのでしょう)、その武蔵投入の直前に中村が2枚目の警告で退場になって、ゲームとしては手が打てなくなってしまいました。

雑感

  • 書いた通り鳥栖も主力が入れ替わった中で、使える選手の得意なプレーを引き出すためにチームをマイナーチェンジさせた監督かコーチか誰かの手腕が巧みだと思いました。
  • コンサはキャンプで好調の大森など離脱中の選手が戻ってきたら幾分か変わるかもしれません。のだ、怪我をしている選手が復帰したら劇的に変わるかというと…例えば大森にいいパスが出てこないとシュートを打てませんし、離脱中の選手にそこまでの影響力がないような気もします。中村の対応は軽率でしたが、宮澤が下り坂で高嶺に変わる選手もいない中では彼に頑張ってもらうしかなさそうです。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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