2024年3月31日日曜日

2024年3月30日(土)明治安田J 1リーグ第5節 ヴィッセル神戸vs北海道コンサドーレ札幌 〜歪なる仲良し軍団〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:



  • 国際Aマッチウィークによる中断(日本代表は、北朝鮮との2連戦のうちアウェイゲームが不戦勝となったので1試合消化のみ)を挟んでのリーグ戦5節。神戸はGK前川が召集されていましたが、その他の主力は十分に調整ができたと思われます。
  • コンサは馬場がU23代表でCBとして出場したらしく(私は見てない)、CBよりも中盤センターの方が上のレベルでは可能性ありか?と思われていましたがこの世代の層の薄さによりCBで滑り込むことになるのでしょうか。スパチョークはタイ代表でワールドカップ予選に出場したようです。
  • 神戸のスタメンは前節と同じ。汰木が離脱した左ウイングは廣瀬が3試合連続のスタメン。吉田監督はウインガーというよりはマルチロールとして買っているようです。左SBは初瀬と本多で競っていて、宮代は一旦はFWよりもインサイドハーフまたはトップ下(シャドー)で使われていますが、佐々木が戻ってきたら前線の一角に入ることも増えるでしょうか。
  • コンサはこの2週間でしっかり神戸戦に照準を合わせてきたというのが試合前の地元紙の主張でした。メンバーは高尾が初スタメンで右DF、馬場を中央に回して、浅野が右ワイド、小林をトップに配置変更しています。ベンチにはキャンプで好調が伝えられていた大森がようやく帰ってきました。

2.試合展開

嘆きのreject:

  • まず得点経過に関していうと8分に神戸が先制したのを皮切りに前半で3点を奪い、前年のチャンピオンとのアウェイゲームに臨んだコンサとしてはかなり厳しい展開になりました。なので前半で試合が決まったとする見方は間違ってないと思います。
  • 一方で後半の神戸の3ゴールはいずれもセットプレーで、セットプレーを守ることは簡単だとか対策できるとは言いませんけど、色々な観点であまりにも簡単にやられすぎですし、それをベンチワークが引き起こしていたとするならこの点でコンサ(のベンチ)は自ら試合を投げ捨てたと言えるかもしれません
  • なので試合の振り返りとしては、大きく分けると①前半の攻防と、②後半のセットプレーがらみの話を中心に見ていくのが良いと思います。

どこでクオリティの差異が生じるのか(①サイドでの攻防):

  • まず構造的な話をします。基本的には両チームとも地上戦でパスを繋いで相手のpressingを剥がして前線にボールを届けるということはうまくなくて、GKからのロングフィード1発に頼ったデリバリーをします。
  • そこだけ見ると似たようなチームなのですが、スタッツ的にはシュート本数で24-5、枠内シュートに至っては13-0というかなりの差異が生じています。

  • コンサがボールを持っている時の配置は↓のような形から始まります。
  • まずコンサのスカッドおよびbuild-upの特徴は、前線に(それこそ大迫やライオンハート・ジェイボスロイドのような)ピュアなターゲットというか、適当にボールを蹴っても対人での競り合いに勝ってマイボールにしてくれる選手がいないので、GKはフリーの選手を狙ってコントロールしやすい緩い軌道の浮き玉のパスを多用します。具体的には両SBが受け手です。

  • 菅野がフィードする瞬間はサイドにスペースがあるように見えるのですけど、その判断が決行されると神戸は一気にボールの落下点をターゲットとしてサイドに圧縮してきます。
  • コンサのSBに渡った場合だと、SBにウイング(武藤と広瀬)が寄せるのは当然として、その前方のウイング(図では菅)に酒井、そして内側にいる駒井のところには山口と扇原が2枚で対応しているのですが、山口はまったくスペースを気にせず寄せてくる。FWの武蔵のところにはCBの山川とトゥーレル。そして反対サイドのSBの本多はトゥーレルの背後を守るべく中央まで寄せてきてコンサのファーサイドにいる選手(小林や浅野)をまず捨ててボールサイドでの対応に全力を注ぎます。
  • この際、神戸の強みはSBの酒井の対人能力にもあって、菅はかなりの運動能力の持ち主だと思いますが酒井はパワーでもスピードでも菅と勝負できるし、寄せれば殆ど裏を取られない。
  • だから神戸はサイドに誘導してSBの対人性能でボールを奪うことができますし(中央に誘導する対応をしなくてよい)、そうした能力のある選手が徹底してサイドに寄せてくるだけでコンサは手詰まり感が出てしまいます。

  • そしてコンサは苦し紛れに武蔵や小林にボールを押し付けるのですけど、彼らはピュアなポストプレイヤーではないしセンターバックを背負ってプレーできる選手ではない。
  • 前からpressingを頑張りたいとして、それが苦手であまり評価が高くなかった小林をスタメンのFWで使ったのは、スパチョークのコンディションもあったのでしょうけどおそらくはなんらかボールをキープする役割を担ってほしいという期待だったのでしょう(青木をトップ下にして駒井を上げるとかもありますし)。しかし小林がボールを持って前を向いて得意なプレーを発動させるには、こういうフィジカルで押されてスペースがない局面ではなくてもっとスペースがある局面を作ることが必要になります。

  • そして武蔵がこうしたつぶれ役になると、もう一つ問題があり、それは小林や駒井はあまり背後やスペースに走るのが得意ではないので神戸のDFが捨てているスペースに走って脅威を与えるとか、DFを押し下げて中央にスペースを作るという場面が殆どありませんでした。
  • もっともこれはそもそもボールホルダーが全員塞がっていて、背後に走ったところでパスが出なかったのかも知れませんけど、一つ言えるのは武蔵が潰れ役と背後へのランをタスクとして兼任していて、殆どボールがデリバリーされない中ではかなり負荷が大きかったと思います。

  • 神戸の3点目は、コンサが中央から高尾へのフィードの選択から、高尾がサイドで捕まってボールロストからでした。
  • 高尾としてはサイドの浅野に展開すると手詰まりになるので、ギリギリまで中央への展開を探っていました。これは神戸相手ではなくてもサイドは手詰まりになりやすいのでここだけを切り取って高尾にネガティブな評価をするのはナンセンスだと思います
  • ただ、ここは普通のチームだとアンカー(コンサで言う荒野)の選手が顔を出して中央で受けてボール展開の方向を決めるのですけど、コンサは普段から中央を経由せず対角線にいる選手にロングフィード、サイドチェンジ一発に頼り続けてきたので、これも荒野だけの問題というかは、普段からチームとしてやってないことが必要な場面に陥ったので、必然のエラーなのではないでしょうか。
  • なお田中駿汰はこのシチュエーションで、時間をかけずにすぐに浮き玉のパスを前方向に出して”とりあえず相手が寄せてきたのを回避する”みたいなプレーが非常に上手く、その意味では高尾個人のプレーに向上の余地もあるとは思います。

  • あと余談ですけど、神戸のサイドの選手でいうと本多は空中戦に強いので、もしかするとコンサはウイングの選手をたまにターゲットに放り込んでもくるので初瀬ではなく本多を使ったというのもあるかも知れません。
  • いずれにせよサイドでの攻防で、コンサは1on1,2on2、より多くのグループで見た時にも神戸に劣っていました。

どこでクオリティの差異が生じるのか(②中央での攻防):

  • ①がサイドでの攻防の話になったので中央での攻防の話、および神戸がロングフィードを放り込んでくる局面の話を見ていきます。
  • 改めてですが、コンサは中断期間に「前から行くぞ」ということを徹底していたらしく、小林も苦手なpressingを頑張っていました。ただコンサが前から行こうとそうじゃなかろうと、神戸は大迫を中心とする前線の選手にロングフィードを多用するのは変わらなかったはずなので、まずコンサの2週間は神戸を困らせるような準備をしたことにはならなかったと思いますし、大迫への対処をどうするか?という点を考えた方が有意義だったかもしれません

  • 最終ラインでのマッチアップは、コンサの中村桐耶、岡村、(下がって対応する)馬場にそれぞれ神戸の武藤、大迫、宮代でした。
  • 例えば武藤に対する中村桐耶の対応などはシンプルに能力の差というか経験不足というか、中村は背中でブロックされると非常にナーバスになってしまう(鳥栖のヴィニシウス相手でもそうでした)。馬場も宮代相手に潰せるかというとそうでもなくて、岡村も大迫には苦戦となるとそら神戸としては放り込めば勝手にチャンスになる、ということになります。
  • またGK前川のフィードの精度とキックの速さも重要で、特に低くて速い弾道だとジャンプ力で競り合いに勝つというよりは地上戦での位置取りや体を使って相手をブロックする能力が問われます。特にこれは中村桐耶のマッチアップで顕著でした。

  • 神戸の1点目はまさしく中央で岡村が勝てなかったところからで、大迫は競り勝った後にすぐに次のアクションを開始して宮代のフリックで抜け出すことに成功しましたが、岡村がこのシチュエーションで大迫についていくのは難しいですし、対処法としてはコンサはカバーリング役をもう一人置いておく(前線からのpressingは諦める)しかなかったでしょう。どうせ放り込んでくるので武蔵や小林がどれだけ走っても無力化されまし。

どこでクオリティの差異が生じるのか(③寄せられない・飛び込めない問題)

  • 神戸の2点目も示唆に富むものなので確認します。これもGKのフィードから、左に開いていた広瀬がコントロール、馬場と対峙するところから。宮代と、マークする高尾が寄ってきて2on2の関係になって、抜け出した宮代が軸足の裏を通す切り返しで高尾を剥がして見事なゴールでした。

  • これだけ見ると高尾の対応がまずい、ってことになりますけど、全体的に高尾(というかコンサのDF全員)としては「いつまで自分は対面の選手をマークして、いつ(どういう時に)捨てて味方をカバーしたりする対応に切り替えるべきか」が極めて不明瞭でかなりやりづらかったんじゃないかと思います。

  • DAZNで見直す時間がある方は、5:40くらいの神戸のサイドチェンジ(大迫から左の広瀬へ)と、その前の3:25くらいのコンサのサイドチェンジ(菅から右の高尾へ、最後は中央から左の中村桐耶へ)を比較してほしいです。
  • 先に書いたように、コンサがサイドチェンジを成功させて一時的に神戸の守備を剥がし、神戸が撤退する必要がある時の基準がはっきりしている。ボールホルダーに行く選手ともう一人でサイドを封鎖して、あとの選手は中央にステイで状況に応じて人を捕まえたりスペースを管理したりします。

  • これに対して、この試合コンサのよくある対応は↓みたいな感じで、

  • まずサイドの選手に渡ってコンサのSBが対応する際に、他の選手と離れている状態から始めることが多くてコンサのSBはほぼ1対1での対応を強いられます。
  • 高尾と他の選手との関係性でいうと、例えば高尾の前の右ウイングである浅野は神戸のSB本多を捕まえるために前にいることが多いし、コンサボールの際は同じく最前線に張ってボールをサイドで待つタスクになっている。これは、浅野がボールを持った時に神戸が本多と広瀬の2人でサイドの縦横をそれぞれ切る1on2の関係性を作って対処していたのと対照的でした。
  • 同じく馬場は宮代を見ているし、駒井にも他のタスクがある(前でpressingに参加したり中央でセカンドボールを拾おうとしたり)ので高尾をこの局面でサポートできる選手はコンサにはいない。

  • この状態で高尾が広瀬にギャンブル的に突っ込んで成功すればいいですけど、失敗して裏を取られれば(それこそマンツーマンの対応なので)誰もカバーしてくれないので高尾としてはまず相手に寄せるという選択をとりづらい。寄せてこないなら広瀬にはスペースが与えられていくつかのプレーの選択肢も生じます。

  • 結果コンサが陥りがちなのが、宮代のゴールの場面(この時は高尾と馬場が逆)もそうなのですが、1on1とか2on2の同数で対応する関係性が崩された時の想定をチームとして全くしていないというか、この時だと岡村はいつ大迫を捨てて危険な中央のヘルプ、サポートに向かえばいいか自分では判断が難しくて(大迫をフリーにしたら中村桐耶か誰か他の選手がカバーしてくれるか自信がない)、結果、岡村はなんとなくボールサイドに寄せているけど宮代をブロックできるほどではなくて、とりあえずいるけどどこを守ってるのかわからない中途半端な対応になってしまっていました。


  • ミシャがこの対応に切り替えた2020年以降ずっとそうなのですが、コンサは局面で1on1の対応が明確になっていてかつ相手がその構図を崩そうとしない、あまり工夫がないチーム相手だとそこそこ対応できるのですけど、1on1の関係性が崩れてマークをスイッチしたりカバーリングしないといけないシチュエーションでどう対応するか(そのまま捕まえるのか一旦引いて整えるのかなど)を全然決めてないようなので、ニュートラルな状態が崩されるとかなり脆くなります。
  • 加えて神戸はそもそも1対1の局面で強く、上手くプレーできる選手が多いので、そもそも1対1を作って守る以外を考えていないコンサ(ミシャ)には容量オーバー気味の相手だったかもしれません。

雑感

  • まず神戸は大迫へのフィードで全てが始まりますし、コンサもCB中央の選手の頑張りに頼るところが大きいので、ここでのマッチアップから試合を設計すべきだったと思うのですが、特に策もなく普通に1対1で頑張る!が方針で、結果これまでと同様に岡村が大迫にやられていた時点でこの試合は難しいです。一応準備期間が2週間あったので、普通は何らかやり方を変えるとかはできたのではないかと思いますが、それも含めてチームの力なのでしょう。

  • そして本文中に書いたように、1対1に負けた後のプレー基準があまりにも不明瞭で選手としてもどう守っていいかわからない。
  • 雰囲気がいいとか選手の仲がいいとかそういった評判を聞くことが近年増えましたが、それはいいことなのだけどプレーに関しては基準がなくバラバラで、(仲良しだけど)サッカー的なコレクティブさとか、まとまりには欠けるチームになりつつあると感じますし、予算がないとか選手の能力以前にそこが問題ではないでしょうか。

  • あとは、後半にコンサは原のようなサイズがない選手を投入して打開を図りますが、高尾→スパチョークや中村桐耶→原といったカードの切り方だと、ただでさえゴール前の強度もセットプレーの強さもない(そもそも練習してないし)コンサは更に脆弱になるのはわかりきっていたことで、このセットプレー軽視ともとれる選択は試合を捨てていると感じましたし、得失点差も考慮する必要がありそうなのでシーズンを捨てることにも繋がりかねず笑えない状況になりつつあります。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

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