2019年10月10日木曜日

2019年10月9日(水)YBCルヴァンカップ プライムステージ準決勝第1戦 ガンバ大阪vs北海道コンサドーレ札幌 ~第2章の主人公~

0.スターティングメンバー

スターティングメンバー

 札幌(1-3-4-1-2):GK菅野孝憲、DF進藤亮佑、キム ミンテ、福森晃斗、MF白井康介、宮澤裕樹、深井一希、菅大輝、荒野拓馬、FWアンデルソン ロペス、鈴木武蔵。サブメンバーはGK阿波加俊太、DF石川直樹、MF中野嘉大、早坂良太、金子拓郎、FW岩崎悠人、ジェイ。機能しなかった2トップ+トップ下は諦めたかと思いきや、ジェイ→アンロペ以外は5日前のリーグ戦と同じメンバー・システムで臨む。ルーカスは股関節を痛めてメンバー外。
 ガンバ大阪(1-3-1-4-2):GK東口順昭、DF高尾瑠、三浦弦太、菅沼駿哉、MF矢島慎也、小野瀬康介、井手口陽介、倉田秋、福田湧矢、FWアデミウソン、宇佐美貴史。サブメンバーはGK林瑞輝、DF藤春廣輝、青山直晃、MF遠藤保仁、マルケル スサエタ、FWパトリック、渡邉千真。こちらも韓国代表招集中の金英權以外は同じメンバー。

 読んでいない人は先にこちら(5日前のリーグ戦)をどうぞ



1.想定されるゲームプラン

1.1 札幌


 再びの大量失点は決勝活きの切符と我々の航空チケット代金をドブに捨ててしまう。悪くとも最少失点で2戦目に望みをつなぎたいので、スローテンポなゲーム展開にしたい。アウェイゴールとはよくわからないルールだ。

1.2 ガンバ


 こちらもアップテンポにはしたくない。「どうせ札幌はバランスを崩して前に出てくる」と思っていたかは知らないが、リーグ戦と同じくカウンターがファーストチョイス。

2.基本構造

2.1 札幌の微修正


 ガンバボール保持時の札幌の対応。リーグ戦を回想すると、右に開いて攻撃参加してくる高尾によって、札幌の左のFWの選手が押し下げられる問題があった。
(リーグ戦での対戦)高尾が開くと武蔵はプレスバックを強いられる

 この試合ではマッチアップをこのように変えてきた。武蔵とロペス、そして荒野はそれぞれポジションと見る選手が決まっている。左サイドは高尾と小野瀬の2人いるガンバに対し、高尾に菅、小野瀬に福森がスライドする形で対応。
 ただし、最終ラインは相手FWに対して「+1の原則」で守りたい。なので、福森は最初からサイドに開かず、小野瀬が抜け出しかけるとサポートに向かう。菅も最初から高尾に当たるのではなく、小野瀬を福森に受け渡しながら複数の役割をこなしていた。
札幌左サイドの関係性を修正

 えっ?「水曜日のゲームで福森にハードな仕事を課すのは心配」?大丈夫。宮の沢には美味しい餃子屋さんがあるからカロリーは補給しているはず。

 それはどうでもいいとして、人の受け渡しをしながらも1on1の関係性は依然として強い。なので、抜かれたら一気にピンチになるが、高い位置からでもガンバの選手に対してプレッシャーをかけやすい。それは、久々の出場で、元々プレス耐性があまりないDF菅沼のような選手には難しいシチュエーションだ。
 一方、宇佐美や倉田が得意の密集攻撃からあっさり抜け出したのもこのためだ。マークが曖昧になっていると簡単に破られてしまう。

2.2 変わらぬガンバ


 ガンバの守備の仕組みは5日前のリーグ戦とほとんど同じ。違いを挙げるとしたら、そのアクションの開始位置と強度で、リーグ戦で「札幌には持たせて裏にスペースを作らせた方がよい」と確認できたためか、宇佐美とアデミウソンが自陣まで撤退して構える傾向がより強くなっていた。井手口と倉田が、進藤と福森をロックオンしている構図は一緒だ。
ハーフまで撤退

3.同数守備攻略の原則


 スカパー!中継の解説を務めた播戸竜二氏が「札幌は高いラインで押し上げて守れていますね」という。これはどちらかというと、札幌は人への意識がかなり強いので、引いてボールを受ける宇佐美やアデミウソンにキムミンテと進藤のポジションが設定されていた、というのが実情だったと思う。
札幌がガンバの選手を捕まえる

時間経過とともに、菅と福森が「2.」に示した通り、サイドの高尾と小野瀬への意識が強くなる。ガンバは全選手が札幌の選手にロックオンされている状況だ。先述の通り、この状況で一番ダメなのはプレス耐性が低い選手にボールを渡すこと。逆に、推奨されるのは、(それこそチャナティップのような)1on1で絶対失わない選手にボールを預けること。
 もう一つは、
右サイドにアデミウソンを走らせる

 スペースに人を走らせること。特に、同数で守っている札幌DFを狙うこと。ミスは1点ものだ。またサッカーの守備において、「人」と「スペース」の両立は簡単ではない。札幌はガンバの全員に担当するマーク役を用意しているが、ガンバの選手がいない部分には人を配していないので、そこでの勝負は五分五分~出し手がGK東口として、ガンバの選手との呼吸が合えば攻撃側が有利なシチュエーションだ。

4.アンロペの突進


 「3.」はガンバがボールを持っている時の話。この試合は、逆のシチュエーションでも原理は近しい状況が起こりやすい試合だった。札幌は純粋な人を捕まる守備…マンマーク基調で守る。この状態でトランジションが起こり札幌ボールになると、人の配置はそのままピッチ上で1on1が多く作られている状況になりやすい。それは、ガンバがどのように守りたいかを問わず、だ。
 札幌はその状況で1on1で勝てる選手を使う。言うまでもなく、右サイドで目の上のタンコブなジェイがいなくなったアンデルソンロペスだ。
アンロペゾーンからの突進

 1on1が多発している状況なのでピッチ上には多くのスペースがある。スペースがある時のアンロペは強い。右サイドでボールを持ってゴール方向に突進が始まる。札幌のチャンスの多くは右サイドのアンロペの突進から生まれる。スペースがあるオープンな展開ならアンロペはうってつけだ。これを見越して、守備の重心をリーグ戦の対戦よりもより高めていたのか、それは2戦見てみるとわかるかもしれない。

5.アウトサイドの攻防


 この試合のガンバはサイドアタックが活発だった。特に、福田の左サイド。リーグ戦では左サイドのメインキャストは宇佐美と倉田で、福田はその2人にレーンを明け渡していたが、この日は白井に対して自ら仕掛けていく。今や札幌の攻撃の要である白井に対し、負荷を与える意図を感じさせる。その上で、リーグ戦でも見られた宇佐美や倉田が密集するアタックも見られた。
 札幌はアンデルソンロペスが(札幌から見て)右アウトサイドの攻防に加勢する。アンロペはジェイと異なり、低い位置まで押し込まれても自ら再び前線に”復元”していける選手だ。福田がボールを持つと必ず寄ってきていたので、事前にチームで決めていたのだろう。が、そのアンロペは後半20分ほどでガス欠気味。札幌は全体的に前半から飛ばしており、荒野はまだまだいけそうだったが、他の選手は終盤に足が止まってしまった。
福田vs白井に加勢するアンロペ

 ガンバの得点は2点とも右クロスから、札幌のクリアミスを誘ってのもの。札幌は中央の3バック…特にキムミンテを越えると滞空性能が極端に下がる。大外は白井が守っているので当然と言えば当然だが、加えて人を捕まえる意識が強いので、大外へのクロスボールは視界をリセットされて不安定になりがちだ。1点目は宮澤のバックステップでの不安定な体制からのクリアミスに、白井が福田に勢いよく突っ込んだところをハンドを取られてしまった。
ガンバのクロスは全てファーサイド狙いだった

 2点目もファーサイドのパトリック(途中出場)へのクロスを、白井と被り気味に宮澤が再びバックステップから処理しようとして中央にボールをこぼしてしまった。疲労が蓄積している時間帯で対応が難しかったのもあるが、ガンバのクロスの狙いは全てファー。

雑感


 スコアは2-1と数日前に比べると地味だが、札幌の選択はそれなりにリスキーだ。ラストプレーの失点は精神的なダメージが大きそうだが、試合を通じたギャンブルは悪くない結果だった。
 ベンチウォーマーから最終ラインの要へと返り咲き、ドラマティックかつ計算上はもう日本でのラストシーズンでもおかしくないシーズンを過ごしている、”ミシャ第2章の主人公”キム ミンテの奮闘で、アデミウソンと宇佐美を2人で抑えるミッションは成功したが、これが更に90分おかわりとなると、結果は「期待値」に近づくとガンバ側は思っているのではないか。

準々決勝第2戦に向けて


 札幌のキーマンはアンロペちゃん。キム ヨングォンが韓国代表で不在なことを忘れていたが、対面が菅沼ならアンロペを積極的に使っていきたい。アンロペがやりやすいように…と考えると、前線に左利きの選手は使いにくいのが正直なところだ。ルーカスの股ぐらが回復しない限りは、このスタメンが現状ベストだろう。攻撃面もあるが、リードされてのシチュエーションになるので、まずボールを奪い返さないといけない(穴になりやすいジェイは使いにくい)からだ。

用語集・この記事内での用語定義


1列目守備側のチームのうち一番前で守っている選手の列。4-4-2なら2トップの2人の選手。一般にどのフォーメーションも3列(ライン)で守備陣形を作る。MFは2列目、DFは3列目と言う。その中間に人を配する場合は1.5列目、とも言われることがある。ただ配置によっては、MFのうち前目の選手が2列目で、後ろの選手が3列目、DFが4列目と言う場合もある(「1列目」が示す選手は基本的に揺らぎがない)。攻撃時も「2列目からの攻撃参加」等とよく言われるが、攻撃はラインを作るポジショングよりも、ラインを作って守る守備側に対しスペースを作るためのポジショニングや動きが推奨されるので、実際に列を作った上での「2列目」と言っているわけではなく慣用的な表現である。
質的優位局所的にマッチアップしている選手同士の力関係が、いずれかの選手の方が優位な状態。攻撃側の選手(の、ある部分)が守備側の選手(の、攻撃側に対応する部分)を力関係で上回っている時は、その選手にボールが入るだけでチャンスや得点機会になることもあるので、そうしたシチュエーションの説明に使われることが多い。「優位」は相対的な話だが、野々村社長がよく言う「クオリティがある」はこれに近いと思ってよい。
ex.ゴール前でファーサイドにクロスボールが入った時に、クロスに合わせる攻撃側がジェイで、守備側は背が低く競り合いに弱い選手なら「(攻撃側:ジェイの)高さの質的優位」になる。
→「ミスマッチ」も参照。
守備の基準守備における振る舞いの判断基準。よくあるものは「相手の誰々選手がボールを持った時に、味方の誰々選手が○○をさせないようにボールに寄せていく」、「○○のスペースで相手選手が持った時、味方の誰々選手が最初にボールホルダーの前に立つ」など。
数的優位局所的にマッチアップが合っておらず、いずれかのチームの方が人数が多い状態。守備側が「1人で2人を見る」状況は負担が大きいのでチャンスになりやすい。ただし人の人数や数的関係だけで説明できないシチュエーションも多分にあるので注意。
チャネル選手と選手の間。よく使われるのはCBとSBの間のチャネルなど、攻撃側が狙っていきたいスペースの説明に使われることが多い。
トランジションボールを持っている状況⇔ボールを持っていない状況に切り替わることや切り替わっている最中の展開を指す。ポジティブトランジション…ボールを奪った時の(当該チームにとってポジティブな)トランジション。ネガティブトランジション…ボールを失った時の(当該チームにとってネガティブな)トランジション。
偽SBサイドバックでありながら、その古典的な役割(サイドに位置取りし、攻守ともにサイドでプレーする)にとどまらない役割を担うSB。具体的には中央に位置取りし、中盤の選手として振る舞い、攻撃の組み立てや被カウンター時の中央での守備等に関与する。
ハーフスペースピッチを縦に5分割した時に中央のレーンと大外のレーンの中間。平たく言うと、「中央のレーンよりも(相手からの監視が甘く)支配しやすく、かつ大外のレーンよりもゴールに近く、シュート、パス、ドリブル、クロスなど様々な展開に活用できるとされている空間」。
ビルドアップオランダ等では「GK+DFを起点とし、ハーフウェーラインを超えて敵陣にボールが運ばれるまでの組み立て」を指す。よってGKからFWにロングフィードを蹴る(ソダン大作戦のような)ことも「ダイレクトなビルドアップ」として一種のビルドアップに含まれる。
ビルドアップの出口後方からパスを繋いで行うビルドアップに対し、相手は簡単に前進させないようハイプレス等で抵抗する。
この時、ハイプレスを最初から最後まで行うとリスキー(後ろで守る選手がいなくなる)ので、ハイプレスは人数やエリアを限定して行われることが多いが、ビルドアップを行っているチームが、ハイプレスを突破してボールを落ち着かせる状態を作れる場所や選手を「ビルドアップの出口」と言っている。
ブロックボール非保持側のチームが、「4-4-2」、「4-4」、「5-3」などの配置で、選手が2列・3列になった状態で並び、相手に簡単に突破されないよう守備の体勢を整えている状態を「ブロックを作る」などと言う。
マッチアップ敵味方の選手同士の、対峙している組み合わせ。
マンマークボールを持っていないチームの、ボールを持っているチームに対する守備のやり方で、相手選手の位置取りに合わせて動いて守る(相手の前に立ったり、すぐ近くに立ってボールが渡ると奪いに行く、等)やり方。
対義語はゾーンディフェンス(相手選手ではなく、相手が保持するボールの位置に合わせて動いて守るやり方)だが、実際には大半のチームは「部分的にゾーンディフェンス、部分的にマンマーク」で守っている。
ミスマッチ「足が速い選手と遅い選手」など、マッチアップしている選手同士の関係が互角に近い状態とはいえないこと。

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