2018年9月17日月曜日

2018年9月15日(土)19:00 明治安田生命J1リーグ第26節 川崎フロンターレvs北海道コンサドーレ札幌 ~ダイナモの停止とブラックアウト~

0.プレビュー

0.1 スターティングメンバー


スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-2-1、GKク ソンユン、DF進藤亮佑、キム ミンテ、福森晃斗、MF早坂良太、宮澤裕樹、深井一希、菅大輝、荒野拓馬、チャナティップ、FW都倉賢。サブメンバーはGK菅野孝憲、DF石川直樹、MF兵藤慎剛、白井康介、小野伸二、FW宮吉拓実、ジェイ。川崎から期限付き移籍中の三好は契約条項により出場停止。前節右太もも痛で欠場のジェイはベンチスタート。前節前半で左手を痛めて交代した駒井は手首の骨折が判明、遠征に帯同していない。主力選手の欠場以上に、国際Aマッチデーウィーク中の9/6未明に発生した北海道胆振東部地震の影響で、前節神戸戦後の9/2-9/7は結果的に6日間のオフとなったことが懸念材料である。
 川崎フロンターレのスターティングメンバーは4-2-3-1、GKチョン ソンリョン、DFエウシーニョ、奈良竜樹、谷口彰悟、車屋紳太郎、MF大島僚太、エドゥアルド ネット、家長昭博、中村憲剛、阿部浩之、FW小林悠。サブメンバーはGK安藤駿介、DF登里享平、舞行龍ジェームズ、MF長谷川竜也、鈴木雄斗、田中碧、FW知念慶。奈良は8/1の第19節浦和戦以来7試合ぶりのスタメン復帰。その間谷口の相方となるCBを務めていたのは車屋、左SBは登里が務めていた。森保新監督の初陣となるはずだった札幌ドームでのチリ戦(9/7)、3-0で勝利したコスタリカ戦(9/11)を戦うA代表のメンバーに車屋、大島、守田、小林が招集され、小林はスタメン出場、車屋と守田は途中出場しているが、守田は故障を抱えて帰ってきておりこの試合はメンバー外。逆に代表選前の故障で招集を辞退した大島は間に合い、スタメンに名を連ねた。

0.2 川崎に対する二つの選択肢


 川崎はリーグ有数のボールポゼッション・遅攻型のスタイル。遅攻型のチームに対する主な対抗策として、ゴール前に人を並べてプレーするスペースを消す(モウリーニョ風に言うと「バスを停める」)やり方が一つ、もう一つはビルドアップの段階から圧力をかけてボールを取り上げることで、そもそも狙い通りのボールポゼッションをさせないという考え方がある。
 札幌の、直近の川崎との対戦2試合を振り返ると、昨年8月の等々力での対戦では前者…ペナルティエリアの幅に5人のDFを並べて守ることで接戦に持ち込んだ。今年7月の厚別での対戦では後者…ある時間帯までは、前線の高い位置から守備を敢行して川崎に簡単に札幌陣内に侵入させないという戦い方を採っていた。
 7月の試合で札幌が前から守備をした理由は、ミシャの言うところでは、「高さで分があるために蹴らせて札幌のDFと川崎のFWが競る展開に持ち込みたかった」。しかし実際には、札幌の目論見はジェイの守備能力の問題だったり、中村憲剛や大島のコメントにあるような試合中の修正・対応能力の高さによって札幌のハイプレスは機能不全となってしまった。
「相手は人に来る守備だったので、スペースは空いていた。そこに顔を出してくれる前線の選手がいたら、そこにボールをつけること。」(大島)「相手はマンツーマンで来ていたので、当てて入っていく動きがポイントになっていた。」

0.3 どこまで人を投入してよいものか


 川崎はの攻撃の特徴は端的に言うと、自陣ビルドアップ~ミドルゾーンにおいてボール周辺にどんどん人を増やし、強引にマークが外れた状態を作り出してボールを前に運ぶ。それは時に、「増えた」分の選手が頻繁に被ったポジションを取っていて、秩序的というより無秩序、感覚的にも見える。秩序だっているとしても、無秩序寄りの秩序というか。このやり方がうまくいっているのは、戦術としての整備もあるのだろうが、それ以上に選手間でのコミュニケーション(かつてジュニーニョが憲剛に「常に俺を見ろ」と言っていたように)によるところが大きいと思う。
 この「どんどん人が増える(=局面に人を追加投入する)」が札幌にとっては厄介で、何故なら札幌は伝統的に人を基準とする守備しかできない(スペース管理の概念を一定期間、継続的に導入していたのは三浦俊也氏のみではないか)上、5バックをゴール前になるべく残しておきたいという志向があるため。家長や中村は、後方のGKやCBのところで人が不足していると察知すると、自身が下がることで局面に人を増やすが、これに札幌のマーカー(例えば家長はかみ合わせ上、福森と頻繁にマッチアップする)が家長にどこまでもついていくことは、最優先で守るべきゴール前を放棄することになりかねないので難しくなってしまう。


1.序盤の入り

1.1 高い位置からの守備は継続


 そんな2ヶ月前の敗戦を踏まえた札幌の入りは、この試合も高い位置から守備を敢行し、ミドルゾーン~ディフェンシブサードに運ばれる前に手を打っておこう、というものだった。札幌の最終ラインと川崎の前線の構成は、WBの駒井が早坂になった以外は前回7月の対戦と変わらないため、「長いボールを蹴らせ、高さのあるDFが跳ね返す」という考え方も継続していたと思う。
 一方でその前線守備のやり方は少し変えている。攻撃時に2列目が絞ってサイド1枚となる川崎に対して、川崎SB-札幌WBのマッチアップを徹底することは前回と同じ。異なるのは、川崎のCB2枚に対する人数合わせをやめて、CBはやや放置気味にするが、代わりに中盤センターの大島と下田をシャドー2人でほぼ固定的に監視する。
 そして非常に流動的にポジションを上げ下げする川崎の前線4枚に対しては、残った3バックと中盤センターの2枚で対応するが、宮澤と深井はなるべく中央に留まるように動く。宮澤と深井でカバーできない、サイドのスペースと最終ラインの裏(ビルドアップ段階での裏抜けは、小林がたまに敢行するのみ)は3バックが対応する。前回はこの3バックがあまりゴール前を離れられないことで、中村や家長はポジションを下げるとフリーになることができたが、今回はそうした動きについていく迎撃型の守備を許容することで、安易にフリーにならないようにしていた。
守備開始位置は高めにし、見る人をエリアを決める

1.2 川崎のポゼッションの特徴と、対応に追われるシャドー

1.2.1 決めていた通りに人を捕まえる札幌


 先述のように川崎はボールを保持している時、ボールホルダーに選手が集まっていくことに対して非常に寛容的である。必然とそのボールサイドに選手が集まることになる。
 川崎のボール保持時、下のようにCBから攻撃を開始する時、札幌が5-2-3でセットすると、中央の大島と下田へのコースは切られているので、まずSBに展開する。
川崎のボール保持時の陣形と札幌の守備のセット

 SBに展開すると、約束通りWBがポジションを上げて対応する。このSB⇔WBの関係は曖昧にせず、常にWBがポジションを上げてアタックしていた。
 この時、川崎はボールサイドに人を集める。その具体的な対象は、中盤センターの大島と下田。更に個々の判断によるところが大きいと思うが、中村、家長、阿部、時にトップの小林もボールに近づいてくる。札幌はこれらのボール周辺の選手に対応する必要があるが、下の図で言うと、エウシーニョ⇔菅、更に大島⇔チャナティップ、荒野⇔下田は決めたとおりに対応していて、曖昧になることなく明確化されている。
 残りはある程度守備範囲を決めて、近くの選手を捕まえる。宮澤と深井は中央から動かない。中村や、落ちてくる小林を捕まえることが多かった。家長がサイドに流れる(序盤多かった)と、その場合はポジションの高低に関係なく福森。
川崎のWBと中盤センターには決められた人が対応し、中央に宮澤と深井が残る

1.2.2 決められたことが次第に守れなくなっていく札幌


 という具合に、ある程度捕まえる選手を決め、他は守備範囲を決めていたことで川崎のポゼッションの開始段階ではスムースに対応できていた札幌。しかしこれが、川崎が攻撃を仕切りなおすと次第に決めていたはずの約束事がずれていく。
 ↓のエウシーニョに渡った段階で、川崎はボールホルダー近くの選手が捕まえられているためバックパスでやり直し、攻撃のサイドを変えようとする。この時、札幌が人を用意しておらず、プレスをかけられないGKチョン ソンリョンを経由することが多いが、前半20分前後程から、川崎は札幌のやり方だと反対サイドのCB(図では谷口)が捕まえられないことに気付く。よってSBやCB、中盤の選手から、チョン ソンリョンを経由せず反対サイドのCBにボールを逃がすようになると、そのCBがフリーでボールを受けるようになり、札幌のプレスはスライドが追いつかなくなる。
 その状態で、サイドを変えた後も川崎の選手は直前の展開と同じように、ボールサイドに密集する。ここで札幌は守備を組み直すが、札幌WB⇔川崎SB、というかみ合わせ(図では早坂⇔車屋)はOK。シャドーは大島と下田にまだ、頑張ってついていくことができる。しかしCB(図では谷口)がフリーのままでは、ボールを回収したり、パスコースを限定させて放り込ませることが難しくなる。
サイドを変えられると荒野とチャナティップのスライド距離が長くなる

 このCBへの対応が曖昧なことから、札幌の前線守備は意識とアクションの両方が徐々にずれていく。開始直後からこのズレは存在していたが、序盤は荒野の頑張り等によって覆い隠されていたと思う。

2.駒井と三好の不在を補う予備電源

2.1 飛ばしていた荒野(ボール非保持時編)


 前項「1.2.2」で書いたように、川崎のCBへの対応が開始直後から怪しかった札幌。例えば↓の10:48の局面で、ボールサイドでは人を捕まえて対応が明確になっているが、反対サイドでは谷口が完全に余っている。まだ序盤の段階で、川崎の選手はどの程度、この状況を俯瞰的に認識できていたかはわからないが、少なくとも最後尾のGKチョン ソンリョンには見えている。GK経由で川崎がサイドを変えると、このままでは谷口がオープンになってしまうが…
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

 8秒後の局面。荒野が中央から谷口の位置までスライドして簡単に持たせないよう対応する。そしてボールが谷口から車屋経由で、ボールホルダーのサポートに移動してきた大島に渡ると、谷口への対応からすぐに切り替え、チャナティップと連携して大島をサンドする。この時、荒野は本来の役割(下田か大島を見る)を一度捨てて谷口に対応しているので、ここで谷口に対応して終わり、だと下田か大島がオープンになってしまう(ジェイはそのような単発で終わる守備アクションに終始することが多い)が、
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

 その本来の役割も捨てず、また的確なタイミングでチャナティップをサポートしたことで、高い位置でのボール回収に成功する。

 ボールを回収したことに加えてもう一つ言えるのは、前線で荒野、チャナティップ(+都倉)で枚数不足にならなかったため、宮澤と深井は中央にステイできる。仮に荒野が対応しきれず、枚数不足になれば、大島のサポートに宮澤や深井が対応を余儀なくされ、それまで守っていた中央のエリアに、中村や小林が使うためのスペースが露になっていたはず。

2.2 飛ばしていた荒野(ボール保持時編)

2.2.1 川崎は序盤、ミンテと深井を放置


 守備時の負担が大きい中で奮闘していたのは、もう1人のシャドー、チャナティップも同じ。ただ攻撃時の役割は、荒野とチャナティップで微妙に異なっていて、両者の選手特性を考慮した設計になっていたが、荒野の方がより負担が大きいものだったと感じている。

 「25分頃までの」、札幌のボール保持時の構図は初期状態で以下の通り。前回7月の対戦時、川崎は中村を前に出して4-4-2で守っていたが、この試合は序盤から、中村は札幌のアンカー(主に宮澤)を監視できるよう、小林と縦関係でスタートしていた。不変だったのは、SHの守備の基準点を4バックのSB化した札幌のCB(進藤と福森)においており。この2人にボールが渡ると積極的に前に出て、簡単に蹴らせない対応をとる。
札幌ボール保持時の配置(チャナティップは下がり荒野は前へ)

 まとめると川崎は宮澤、福森、進藤を監視し、キム ミンテと深井は放置気味の対応をしていた。必然と札幌は、この2人がボールを持つところから展開する形が多くなる。

2.2.2 ミンテと深井の次の展開①(とエウシーニョのチャージ)


 札幌の攻撃パターンは主に2つ。1つは左サイドにボールを供給し、菅・チャナティップ福森の3人でオープンな選手から崩していくこと。この時、菅と福森は大外に張ると、縦突破かクロスに絞られるが、チャナティップや福森が中央で持った時には、反対サイドへのサイドチェンジで更に攻撃を加速させ、敵陣侵入を図るパターンが定着している。
 なお福森はシステムのかみ合わせ上、家長と裏表の関係になっていて、福森が上がれば、家長も守備に加わらないと川崎は確実に枚数が足りなくなる。逆に福森が上がった背後は、川崎にとって格好の逆襲の狙いどころとなるのだが、この2人のマッチアップは両社とも、結構奔放な動きをとることが多く、福森はリスキーな局面で上がって、家長もそれについていかないことも結構あった。
左のチャナティップ~菅のエリアに預ける

 2週間前にヴィッセル神戸の年俸6億円の選手が守る左サイドを翻弄した、チャナティップの間受け→反転からのサイドチェンジだが、川崎はチャナティップにボールが入ると、エウシーニョが背後から猛烈なチャージで全く前を向かせない対応をとる。エウシーニョは大外をケアする仕事も担っているが、チャナティップ封じを優先すべく、ハーフスペース付近に陣取っていて、大外が足りなくなった場合は大島にカバーさせるという具合に対応するので、札幌はメインウェポンの1つである、チャナティップから右サイドへのラインを分断されてしまう。
チャナティップはエウシーニョが徹底マークで仕事をさせない

2.2.3 ミンテと深井の次の展開②(荒野の奮闘)


 もう一つのパターンは、シンプルに最前線の都倉と荒野を狙って放り込むこと。左サイドの低い位置で、菅や福森に圧力がかかっておらず、蹴れる状態であれば、角度をつけたボールをファーサイド、特に谷口と車屋の間を狙ってアーリー気味に続けて放り込む。川崎が奈良をCBに戻してきた理由は、恐らく札幌の空中戦対策だったと思うが、札幌のロングフィードの狙いは全て奈良を超える(できれば、谷口も超えて車屋との間に落ちる)ボールだった。
 それでも、フィジカルモンスター・都倉をもってしても1人で川崎のDF3人に対応することは難しい。そこで荒野が、都倉と共に前線で競る役割を担っていて、下がって受けるチャナティップとは対照的に、攻撃時は高めの位置で都倉をサポートする態勢を常に撮り続ける。荒野自身も、車屋を上回る高さ(182cmと178cm)があり、ボール次第で十分勝てるマッチップを確保している、とも札幌は考えていたと思う。
いつも通り中央~右寄りに放り込む

2.2.4 ボール保持時だけで重要な2役を担う荒野


 そして荒野の仕事は、都倉と共に最前線で競るだけに留まらない。↓の17:34はキム ミンテから前線に放り込みを画策するところ。先に示したように、チャナティップは引き、荒野は前線に飛び出す左右非対称な動きが確認できる。
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

 荒野が都倉と共に2枚でターゲットとなる。川崎は奈良、谷口、車屋の3枚での対応を迫られることで、札幌は川崎の最終ラインの押し下げに成功する。この時は最終的に川崎がクリアするが、競り合いは互角で、荒野は競った後のセカンドボール争奪戦にも参加する(この荒野の記述は重要ではないようで、重要である)。

 クリアボールを中央でキム ミンテがが跳ね返す。だいたい中央の白円の近くに転がり、札幌がボール回収に成功するが、

 宮澤のトラップが浮いたところを、中村がプレスバックして引っ掛ける。このボールは青円付近…川崎の中盤の選手の脇に転がる。札幌はここに人を配していないのでこのボールの回収は困難だが…

 最前線にいた荒野が猛然とプレスバックし、阿部とのデュエルを制してボール回収に成功する。この後、中央から左サイドの菅へ展開し、クロスをゴール前に供給するチャンスを作る。

 という具合に、荒野はターゲットマンとしてだけでなく、中盤の攻防に加わる役割も担っていて、しかも持ち前の球際の強さを発揮し、先制されるまでの約30分間だけでも何度もチームを助けていた。

3.ダイナモの迷いと停止、そして全体のブラックアウトへ

3.1 予備電源に潜むリスク


 荒野の役割を整理すると、川崎がボールを持っている時は、先述のように①高い位置からの守備に加わって川崎の中盤センターの選手をケアする、加えて②前線守備が突破されたら自陣まで撤退してブロックに加わることも求められている。攻撃時は、③都倉に次ぐロングボールのターゲット、④都倉が競ったボールを回収する、加えて⑤状況を見て中盤の引いた位置に落ちて最終ラインを助ける、ことも何度か試みている。これだけを見ても、最前線から後方まで非常に広範囲で仕事を求められており、質・量ともにかなり負担が大きくなっている。

3.2 25分前後の予兆

3.2.1 予兆その1


 諸々の条件やコンディションと関わる話なので一概に言えないが、一般に20歳代のサッカー選手が20分プレーして体力が尽きてしまうというケースは稀である。よって体力の問題と言えるかはわからないが、20分以降、上記「3.1」の懸念が的中する展開となっていく。
 ↓の21:46、川崎が札幌の前線守備を突破して札幌陣内に侵入したところ。札幌はゴール前でブロックを構築し直す。チャナティップはボールにプレッシャーをかけながら、徐々にポジションを下げていくが、荒野は反対サイドで歩いており、
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

 数秒後、中央を経由して荒野サイドの展開されても、まだ歩き続けており、バイタルエリアで宮澤の右隣のスペースが露になってしまっている。

3.2.2 予兆その2


 ↓の24:21は、川崎がCBから前進を試みる局面。この局面に移行した当初、荒野とチャナティップはそれぞれの守備対象をケアできるポジションを忠実にとっているが、荒野は矢印のように本来自身が見なくてもいい選手にフラフラと寄っていく。
 更に、下田が奈良にバックパスをすると荒野はそこにも付いていくが、それは圧力をかけているとは到底言えないスローなステップで寄っていくだけのもの。

 これで完全に、試合当初から維持していた荒野・チャナティップと下田・大島のマッチアップが崩れる。すると荒野が見るはずだった大島のマークが外れ、大島が前を向ける状況になると、宮澤が持ち場を捨てて大島に出ていく。深井は、チャナティップが見ているはずの下田への対応が曖昧になっているのを見て飛び出しているが、宮澤と深井が同時に飛び出したことで、中央でスペースができている。

 25分前後の荒野は、単純な体力やプレー強度の問題というよりも、一呼吸休むことを求めているかのような、それまでの力強さは消え失せて、「いつもの荒野」…簡単・不用意に動いてしまう荒野に戻ってしまった。
 そしてこの荒野のインテンシティの低下は、上記の宮澤・深井の対応のように、チーム全体の歯車を徐々に狂わせていく。

3.3 そしてブラックアウトへ

3.3.1 川崎の先制点


 「少し元気がなくなってきたな」と感じて等々力競技場ホーム側の時計を見ると25分頃だった。その直後、川崎の先制点が決まるのだが、これは直接的には、ゴール前でトラップが不用意に大きくなり中村にカットされてしまった宮澤のミス。宮澤が中村に狙われたのはこの試合2度目であり、何らか情報が頭に入っていたのかもしれない。
 その直前のプレーを見ると、札幌は川崎が左サイドでボールを運んだ際、やはり荒野が不用意にボールに食いついて、戻れなくなってしまっている。また宮澤は最終ラインの進藤のカバー、深井もボールホルダーに寄っている状況で、それまで守ってきた約束事が完全に失われ、個々の判断で噛み合わない動きをしてしまったところをスルーパスで裏を取られている。

 この1点目の直後、家長のチップキックを寸前でクリアできなかったキム ミンテは完全に力が抜けたかのようにしばらく座り込んでしまう。他の選手は、まだこの時は何人か、声を掛け合う様子が見られただけに、このミンテの様子は非常に目立っていた。

 またこの川崎がサイドからクロスを送る直前のプレーでも見られたのが、例の荒野の「停電」を発端とする、25分以降頻発していた現象で、荒野がタスクを果たせなくなった分、宮澤と深井が中央に留まらず、前進守備で大島や下田を捕まえるように、徐々に見ていた人と対応がずれていく。この1点目の局面でも、川崎は宮澤と深井の背後にDFラインから浮き球のパスを入れ、これを小林が収めることで前進に成功している。
荒野とチャナティップの仕事の質が落ち、中央を守っていた2人が動いてしまう

3.3.2 狡猾さと若さ


 直後の2点目は川崎の狡猾さもあったが、若い札幌のバックラインの経験不足や不用意さも否めない。川崎の狡猾さというのは、川崎はこの1点目が決まった直後のタイミングで初めて中村と小林を並べた4-4-2で守備を敢行する。それまで放置気味だったキム ミンテと深井は、この試合初めて数的同数でのプレッシングに晒されることとなる。
 札幌の問題は2つあって、1つは深井とキム ミンテが自身が狙われることを全く想定していないかのように、パスコースを確保できる体の向きでボールを扱えていない。もう1つは、この2人はそもそもポジションが非常に近接していて、川崎の選手を外せるポジションを最初からとれていない。互いに対面するかのように近い距離でパスを交換しているが、ボールを前進させる準備が全くできていない状態で、中村と小林、更に家長(こういう時の守備はよく狙っている印象がある)が襲い掛かってきたことで深井は成す術なくボールを失ってしまった。
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

 このナイーブさはたちまち周りに伝染するのか、10分後の40分にはク ソンユンがゴールキックを、中央で川崎の選手に囲まれているキム ミンテにグラウンダーでパス。ミンテが囲まれて簡単に奪われたところから3点目を失う。この後ミンテは前半で下げられることになるが、そもそもリスクを抱えた状態でビルドアップ段階で中央にパスする必要はない。ソンユンとしては川崎が一気に守備のギアを入れた(戦術的に言語化すると、札幌の4-1-5の4に対して数的同数で前から守り出した)ことで、サイドにパスを出せる選手がいないと感じて中央のミンテに出したのだと思うが、この甘い判断が致命傷となった。

4.2枚替えも抜本的解決に至らず

4.1 後半の布陣


 後半頭から札幌は、心が折れた?キム ミンテと宮澤に替え、CB中央に石川、最前線にジェイを投入する。ベンチスタートの予想もあった宮澤は、コンディションや故障の問題があったのかもしれない。
 一方でキム ミンテは1枚警告を受けていたものの、失点はどちらかというとソンユンに問題があり、ミンテはスケープゴートにされてしまった感がある。失点後の異様に気落ちしたメンタリティを嫌ったのかもしれないが、点を取りに行かなくてはならない局面でボールを運べ、高さと速さがあるミンテを下げるとチームとしての幅が狭まってしまう。カードトラブルについては、そもそもそんなことを気にするなら最初からミンテをDFで使っているのがおかしいとも言える。
46分~

 いつぞやの3枚替えとはいかなかったが、膝に不安のある深井を交代させることもほぼ確定なので、この2枚替えは非常に追い込まれた選択であるし、またそうした選択をせざるを得ない展開とした2点目、3点目が非常に痛かった。

4.2 最後まで取り戻せなかったいつもの形

4.2.1 足りなかったいくつかのもの


 前半からミシャは何度かテクニカルエリアぎりぎりまで出て、何らか指示を送っていたが、後半立ち上がりの様子とミシャのこれまでの言動から予想すると、恐らくウイングバックにもっと高い位置を取って川崎を押し込め、という旨の話だったと思う。
 ハーフタイムの仕切り直しを経て、ミシャが取り戻そうとしたいつものサッカーは、高く張るウイングバックを使った横幅攻撃をちらつかせ、相手に4バックでの対応を断念させることでビルドアップを円滑に行うというもの。ただ、札幌でのミシャチームはその横幅を使いきれていないため、相手が4バックのまま対応しようとするケースも増えている。
 この試合も、川崎が4バックを維持して守れたのはいくつか理由があり、一つはウイングバックがサイドでタッチライン際に張れておらず、相手のSBと最初から近い位置、もしくは低い位置にいるためボールが入ってもSBの個人対応で解決されてしまうこと。これは早坂のサイドで多かった。もう一つは、チャナティップがあまり前線にいないので、5トップではなく最大でも4トップになっていて、それなら人を見る数的同数守備でまず対応してみよう、という考え方を相手に促していたこと。チャナティップがもう少し、前線に近い位置でプレーしていれば、例えば左サイドで福森が持った時に、川崎の最終ラインは福森→チャナティップのラインを警戒しなくてはならず、大外の早坂がよりスペースを享受できる。
大外の早坂に展開しても横幅を活用できない

 もう一つは、最終ラインでボールを持った時に、配置的な優位性であったり、ボールを前進するための合理的、効率的なポジションを取れていない状態でフィードを蹴るなどして、ビルドアップというより単なる放り込みに終始していることが頻繁にある。
 特に福森に多いのが、パスを受ける時に受け手との距離が近すぎて、守備対象の選手を外せないポジションでボールを持つことになっている。もしくは深井がボールを奪われた前半の2失点目もそうだが、ボールホルダーをサポートできないポジションに消えてしまって、そもそも数的な優位性、配置的な優位性を作れていない(ので、その優位性を前線に
ドライブさせてボールを前に進めるということに繋がらない)ことが散見される。
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

4.2.2 頼みのジェイも沈黙


 それでも、ここまで何とかなってきたのは、ボールを持った時に繰り出される福森のスーパーなキックだったり、その受け手であるジェイや都倉の強さによるところが大きかった。後半からジェイが投入されたが、先に述べたように、後方で数的や配置的な優位性を作れていない状況で、またそれを作り出すようなドリブルで運ぶ、剥がすプレーも、川崎の前線守備を警戒して全く繰り出せない。
後方でビルドアップできないのでジェイに放り込んでお任せ

 結局、最前線で奈良を背負うジェイへの単調な放り込みが後半立ち上がりから繰り出される。ここで奈良1枚なら何とかしてしまうのがジェイだが、ジェイが勝った後、川崎は撤退が早くゴール前の枚数を確保し、サイドからのクロスと空中戦に備える。ここをこじ開けることができなかった札幌は、57,58分にカウンターから立て続けに2点を奪われる。最後は頼みのジェイもガックリ肩を落としてしまう有様で、7点差がついて試合は終わった。

5.雑感


 試合を振り返る前提として、コンサドーレに限らず、「うまくいっているように見えるけど、実は結構怪しい」は古今東西のサッカーチームで「あるある」な事象だとも言える。また、そうしたチームの「怪しさ」は、札幌で言うとジェイの守備とスーパーなオフェンス能力だったり、福森のポジショニングやトランジションとスーパーなフィード能力だったり、ストロングポイントと表裏一体な関係であることも少なくなく、そうした関係性が、結果として掴みどころのなさを感じさせるようなことにも繋がっていると感じている。
 そのうえで戦術的な部分では、1点目までは、25分で機能不全になってしまうやり方を選択したベンチの責任は大きい。2点目以降はヒューマンエラーによるところが大きく、回避できたはずの失点が大半だが、背後の状況を見ていくと単に個人の問題というよりチームとしてあまりにも無防備すぎた。それでも個人に敗因を見出すとしたら、アウトサイドでビルドアップの出口を作れる駒井(【参考①】【参考②】)の重要性を思い知った試合だった。

2 件のコメント:

  1. J1優勝に向けてモチベーションの高いホームの川崎に対し、駒井と三好の不在に加え震災の影響が確実にあった札幌。
    震災が無くても厳しかっただろうが、点差で心が折れているわけではなく試合前半途中から明らかに体力が落ちていた。
    震災前の休養に4日間も必要だったか疑問だけど、震災の影響は言い訳にしていいと思う。
    この試合は取り敢えず今の札幌に足りない部分を明らかに晒したということで、むしろ今後どうなるかが楽しみ。

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    1. ジェイやソンユンがあそこまで覇気がない様子を見ると、やはり相当影響があったのだと思います。そうした中で、勝ち点を拾うためには合理的な戦術とは言えませんでしたが、だからこそアグレッシブに行きたかったという監督の考えも理解します。

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