0.プレビュー
スターティングメンバー |
北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-2-1、GKク ソンユン、DF進藤亮佑、キム ミンテ、福森晃斗、MF駒井善成、荒野拓馬、深井一希、菅大輝、都倉賢、チャナティップ、FWジェイ。サブメンバーはGK菅野孝憲、DF菊地直哉、MF稲本潤一、白井康介、早坂良太、FW内村圭宏、宮吉拓実。前節途中交代した石川はベンチ外で、菅がスタメンに復帰。宮澤は左足首痛で欠場。菊地は今シーズン初のメンバー入り。2月のキャンプ期間中に左膝外側半月板損傷を負い、手術後リハビリを続けていたが、7月から全体練習に合流していた。
FC東京のスターティングメンバーは4-4-2、GK林彰洋、DF室屋成、チャン ヒョンス、森重真人、太田宏介、MF東慶悟、米本拓司、髙萩洋次郎、大森晃太郎、FWディエゴ オリヴェイラ、永井謙佑。サブメンバーはGK大久保択生、DF小川諒也、丹羽大輝、MF品田愛斗、FWリンス、富樫敬真、前田遼一。橋本は右ハムストリングス筋挫傷で離脱中。梶山は7/16に新潟に期限付き移籍、丸山は7/4に名古屋に完全移籍、久保建英は8/16に横浜F・マリノスに期限付き移籍でそれぞれチームを去った。岡崎はアジア大会を戦うU-21日本代表に選出され離脱中。中断期間明けの6試合は3勝3敗とややペースが落ちてきた。7/5に甲府から期限付き移籍で加入したリンスはこのうち5試合に途中出場し、2試合で決勝点を挙げるなど切り札となっている。
1.あえて時間を与えることの狙い
1.1 ミシャの予言と実際の展開
「FC東京は連敗中なので、この試合は序盤からアグレッシブに前に出て守備を行うだろう」というのが、リーグ戦ここ3試合、勝ちがない札幌・ミシャのコメントである(DAZN中継より)。結論としては、この予想とはやや異なる出方を東京はしてきたと思う。
1.2 リトリートして札幌に変化する時間を与えていた東京
開始直後、5分程度の両チームの”様子見”が終わると、両チームの相手がボールを保持している時の対応の仕方が明らかになるが、FC東京のそれは、札幌がボールを持つとまずリトリートして4-4-2のブロックを構築することを優先するようになっていた。
お馴染みミシャ式の札幌は、最終ラインでボールを保持して守備陣形から攻撃陣形(4-1-5、時に3-2-5)に変形する。この時、1トップ2シャドーは必ず高い位置をとり、両WBは最終ラインをサポートできる位置取りをする時と、最前線でワイドに張る時があるが、リトリートを優先する東京は札幌最終ラインのボール保持に対して殆ど圧力をかけないため、WBが低い位置でサポートする必要性は薄く、駒井と菅は最初から高い位置取りをしている時が多かった。
東京がリトリートすると札幌は4-1-5に変わる時間を得る |
1.3 分断された札幌後方部隊に圧力をかける東京
言い換えればこれは、東京は札幌を5トップにするための時間的な猶予を与えていたとも言える。そして札幌が5トップ化して前後分断気味の陣形になると、分断された後方5枚に対して数的同数で圧力をかけていく。
札幌が前後分断したところを見計らって前線守備を敢行 |
札幌は形を変形させる時間を存分に得ると、ビルドアップの枚数を減らす傾向がある。中でもよく見られるのが、福森が高い位置取りをしてビルドアップに関与しなくなり、代わりに前目の位置でロングボールのターゲットになることがある。これに対しては大森が所謂カバーシャドー気味にパスコースを消していた。高さのあるボールを蹴れば、福森と大森であればミスマッチになるが、浮き球のフィードはやや不安定なキム ミンテから、このミスマッチを突こうとすることはなかった。
また、逆にチャナティップは低い位置まで降りて「ビルドアップの出口」としてボールを収めることができる。三好がいれば、三好も同じような働きができる(但し、全般にチャナティップの方がクオリティがある)が、この日はシャドーが都倉なので、東京はこのパターンに対してはチャナティップのみ警戒していればよかった。
札幌が形を変えても人を充てて対応 |
1.4 放り込んだ先、中央での勝算
札幌は東京の圧力を嫌うとシンプルに放り込みことが多くなる。ターゲットは勿論、ジェイと都倉。SBに高さがない東京は、CB2枚が対応する。
放り込みで圧力を回避 |
これを東京のCBが跳ね返せば、中央のエリア(図の白色)では、本来、空洞化系ビルドアップ手法に分類されるミシャチームよりは東京の選手の方がボールを拾えるポジションにいる。
中央は東京の選手が多い |
逆に跳ね返せなかった場合、札幌は大外のウイングバックに展開し、横幅を使った攻撃を仕掛けるが、東京はすぐに撤退して8枚でブロックを作る。札幌のターゲット2枚に対してはここでもマンマーク気味に対応し、8枚で長谷川健太監督得意のペナ幅守備ではね返す体制をとる。
2トップはこの時、ブロックに加わるまで下がらず、ピッチ中央付近でカウンターに備える。札幌はこの局面でもビルドアップ時と近い形をとっていて、例えば中央を深井や福森(サイドが基本だがしょっちゅう前目に侵入してくる)をネガティブトランジションに備えて置いておくようなやり方も考えられると思うが、そこまでの備えがされていることはほとんどない。よって東京がゴール前のブロックで跳ね返した後は、永井とディエゴ オリヴェイラに収まることが非常に多かった。
2トップを起点にカウンター |
2.ボール保持から札幌の変化を促す
2.1 ビルドアップの出口が塞がらない
上記「1.」では、東京は、札幌がボールを保持している時に、札幌にあえて時間を与えることで札幌が陣形を変化させることを更に促していたと説明した。東京がボールを保持している時もこれに似た考え方でプレーが展開されていた。
東京のボール保持は、下のように4バックが拡がり、中盤から前の選手は中央のレーンに固まっているところから始まる。東京は中央で、CB2枚と中盤センター2枚を使って札幌の前線3枚の守備をピン止めすると、大外でSBがフリーになるので、このSBにボールを逃がすことを頻繁に行う。特に、走力自慢の右の室屋が高い位置を取りがちな一方で、太田が左でこの出口確保の役割を積極的に担っていた。
4バックが横幅をとり3枚で対応できなくなるお馴染みのパターン |
2.2 狙いは駒井の裏
両チームのかみ合わせのミスマッチゆえにボールを持つと毎回時間と空間を存分に得ていた太田。この太田に対し、札幌は①都倉が横スライドするか、②駒井が1列ジャンプして対応するパターンがある。ミシャは基本的に②を好む。ヨモ将こと四方田コーチは、最終ラインを動かしたくないので①をよく使っていたと思う。どちらのパターンに直面しても、太田は常に最適解を選択し続ける。都倉が動けば、都倉がそれまで見ていた森重がフリーになるので、森重にボールを戻してやり直し。そして駒井が前に出た後が狙い目となっていて、駒井の背後にボールを送り、ディエゴ オリヴェイラの突進を促す。
SBに駒井が対応してきた時を狙って裏に放り込む |
3.システム変更で展開一変
3.1 東京に生じた中盤のスペース
前半は札幌の裏が空けば裏を突く、陣形を間延びさせてトランジションで中央を起点にする、この2つを徹底した東京が33分、46分に得点を挙げ2点のアドバンテージを得る。
札幌は後半頭から、荒野→白井に交代。中盤は深井をアンカーに、駒井とチャナティップをインサイドハーフに配した3-1-4-2に変化する。
46分~ |
札幌の後半最初の攻撃で、駒井が深井に「最終ラインに落ちろ」と指示をする。駒井とチャナティップが中央、東京2トップのすぐ背後ほどの低めの位置に構え、これが後半のビルドアップの基本形となる。この時、中盤は札幌と東京で2枚ずつと同数だが、駒井とチャナティップがかなり低い位置にいるので、東京は米本と髙萩の両者が持ち場を離れて迎撃に出てよいか、というと難しい判断を迫られる。結果的には、いずれか1人が前でボールを受けようとする駒井かチャナティップをケアし、もう1枚が中央で残る、という対応をしていたが、この対応が中途半端で、駒井とチャナティップが何らか前を向いて展開する状況ができてしまう。そして中央は髙萩1枚になると、フィルターとして全く機能しなくなり、中央を縦貫するジェイや都倉への縦パスが通るようになる。
東京の中盤でフィルターが効かなくなる |
52分の札幌の1点目は、下がってきたへの楔のパスが成功したところから始まっている。前半は3-4-2-1のシャドーで起用されていながら、2トップの一角のように振る舞っていて全くシャドーらしい働きをしていなかった都倉だが、2トップに変わった後半、この東京の中盤の混乱に乗じた形で起点となることができた。
3.2 守備の重心は最終ライン手前へ
2点を追いかける展開でスタートということで、札幌の戦術変更は攻撃だけでなくボールを奪い返すこと…守備面でも狙いがあったと思われる。ボールを奪い返すという表現をしたが、前半は東京のSBがミスマッチとなり札幌は効率的に圧力をかけられず、ここにボールを逃がされてしまっていた。
2トップにした後半は、CB2枚にジェイと都倉、SBには両WBを前に出すことで枚数を合わせて対抗する。すると東京はこのエリアでの勝負を避け、速い段階で放り込むようになる。札幌から見ると、前線はマッチアップを揃えているが、システムの関係上後方では揃っていないので、この放り込みに対してDFが揃っておらず、跳ね返せず東京が前進に成功することも多かった。
数的同数を嫌って放り込み |
そのため札幌の、後半の開始15分ほどは、撤退してのゴール前での守備も重要になっていたが、この時の対応は、最終ラインの5枚はなるべくオリジナルポジションを守り、その前列…バイタルエリアを中盤3枚のスライドで。気持ち守備気味に守っていた。それでも東京も中央は髙萩と米本の2枚でいることが多く、この試みは、3枚で東京のボールホルダーに襲い掛かることができるうちはそれなりに成果を上げていた。
5バックが蓋をして、その前で3枚で頑張って守る |
3.3 オープンな展開から福森の左足が解き放たれる
66分、札幌は菅⇒早坂。白井が左サイドに移るが、その白井が68分、チャナティップが72分に、いずれも中央の似たような位置からミドルシュートを決めて逆転に成功する。白井の得点はトランジションからの個の仕掛けによるもので、あまり再現性を感じなかったが、チャナティップの得点に関与していたものとして、先述の中央で都倉が起点となる形に加え、福森の攻撃参加が挙げられる。
後半は札幌も東京も8人ブロックでゴール前で守る時間帯が徐々に増えていく。特に東京は、2トップの足が止まり、8人と2人での分断傾向はかなり強くなっていて、8枚でスペースを消して守ると、両チームとも崩しには何らかのクオリティの必要性を感じさせる展開となっていく。前半から再三攻撃参加の機会をうかがっていた福森だが、大森の守備によって殆ど前でプレーすることはできなかった。後半、東京の2トップの運動量が落ちると、大森は2トップと連動して前で守ることが難しくなる。そしてチームが後方のブロック守備に切り替えると、2トップ脇を攻撃参加してくる福森、大外のWB、シャドーのチャナティップの3枚に室屋と連携して対応せねばならず難しい状況を突きつけられる。
2トップのガス欠を契機に福森はどんどん危険な位置に侵入 |
福森の攻撃参加自体はいつものこと(違ったのは、駒井が後ろでバランスをとっていたことか)だが、東京は後半、福森周辺のポジションを完全に明け渡したことで福森に渡った時の危険性は一気に増大する。1点目の都倉のヘッドへのクロス、3点目のチャナティップのミドルシュートの前のジェイへの縦パスは、いずれもハーフスペースの福森から、東京の8枚ブロックを無力化することになるパスだった。
4.雑感
過去の遺物と思われた"ミシャ式"がはまる試合も幾度となくあった2018シーズン、ここまでのリーグ戦において、東京は最もこのやり方を研究してきたことを感じさせるチームだった。前半はその構造的なトランジションの弱さや、これは札幌の伝統的な課題でもあるゾーンで守れないこと(マッチアップを合わせないと守備が機能しない)を突くことで先行したが、後半立ち上がりから札幌がやり方を変えると一気に雲行きは怪しくなった。
札幌としてはようやく「プランB」が手に入りかけている(記事の順番が前後したが、この後の2試合でも近いやり方を採用した)状況にある。諸問題はあるが、4バックでボール保持を試みるチーム相手に少なくとも一矢報いることはできるようになっていくと思われる。
ゴールについてめんどくさそうに説明するの、往年の加茂の解説みたいですね。
返信削除あんまり再現性がないけど展開的に触れておかないと話が繋がらない場合とか、結構困りますね。最近札幌と関係ない試合を見ていると眠くなるときが結構あるので今となっては加茂氏の気持ちは少しわかります。
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