0.プレビュー
0.1 スターティングメンバー
スターティングメンバー |
北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-2-1、GKク ソンユン、DF進藤亮佑、石川直樹、福森晃斗、MF白井康介、宮澤裕樹、深井一希、菅大輝、都倉賢、チャナティップ、FWジェイ。サブメンバーはGK菅野孝憲、DFキム ミンテ、MF兵藤慎剛、早坂良太、荒野拓馬、小野伸二、三好康児。駒井はこの週後半から全体練習に合流しており、スタメン復帰を予想するメディアもあったがメンバー外(つい先日、駒井よりも3割ほど重い怪我をした筆者の感覚では今週復帰だとしたら早すぎるとの印象だったので、妥当な選択となった)。
前節悪夢の7失点負けから8日。何かを変えてくることは予想でき、筆者は三好のスタメン復帰、トップにジェイ起用を予想したが、ミシャの決断はジェイ・都倉のツインタワーでのスタート。前節は明らかにコンディションが悪い中で前線起用の荒野が全開で走り回る空元気戦法だったが、コンディションが整ったこの試合は合理的に、攻めの姿勢に戻したい、そう考えるとジェイのスタメン起用は予想できたが、好調の都倉も簡単に外したくないとの考えかもしれない。そしてキム ミンテに変えて石川。前節の記事でも書いたように、大量失点の責任はミンテにはないと考えているが、これまでのプレーぶりも踏まえての"合わせ技"で、一度外すことを考えたのだろうか。
鹿島アントラーズのスターティングメンバーは4-4-2、GKクォン スンテ、DF西大伍、チョン スンヒョン、犬飼智也、山本脩斗、MF永木亮太、レオ シルバ、遠藤康、安西幸輝、FW土居聖真、鈴木優磨。サブメンバーはGK曽ケ端準、DF内田篤人、町田浩樹、MF三竿健斗、安部裕葵、FW金森健志、セルジーニョ。AFCチャンピオンズリーグでは日本勢で唯一勝ち残っており、9/18(火)に行われた準々決勝2ndレグでもアレシャンドレ パトを擁する天津権健に完勝し、クラブ史上最高となる準決勝進出を果たした。
Jリーグではここまで26節時点で勝ち点39の7位という状況から、ACLで起用されている選手がどちらかというとフルメンバーだと考えられる。昌子、伊東、レアンドロ、中村が負傷離脱中、夏に植田がサークル・ブルッヘに、金崎がサガン鳥栖に去ったが、シーズン当初からターンオーバーを継続してきた成果か、ここにきて選手層の厚さが際立っている。特にここ最近は、夏にサントスから加入したセルジーニョ、金崎と入れ替わりで鳥栖から加入したチョン スンヒョン、そしてJリーグとACLにフル回転する三竿健斗といった選手達の存在感が増している。
0.2 前回のおさらい(鹿島の伝統)
以前にも書いた通り、鹿島は伝統的に人への強さが特徴のチームであり、特にその守備は人を捕まえ、局面でのデュエルに勝つことが大きな部分を占める設計になっている。前回3月の鹿島での対戦では、比較的高い位置から札幌の選手を捕まえていた鹿島。しかしミシャ式4-1-5の札幌に対しては、4-4-2で守備を行うと、マッチアップが噛み合わないエリアでマーク関係が不明瞭になる。
前回のおさらい①:札幌4-1-5と鹿島4-4-2のかみ合わせ |
その不明瞭さの解決を選手個々の判断に任せておくと、基本的にはボールに近い選手から捕まえていこうとしても、鹿島の選手の間にポジショニングされたりすると、必ずオープンになってしまう選手が現れて、危険なエリアでオープンにしてしまう。
前回のおさらい②:近い人を捕まえるだけでは破綻してしまう |
この時は結局は後半途中から5バックに変えることで、マッチアップを合わせて解決を図っている。
前回のおさらい③:5バックに変えると人を捕まえやすくなる |
0.3 前々回のおさらい(鹿島の強さ)
今から1年前を回想する。柏、FC東京相手に2試合連続の2ゴールと、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いだったジェイ・都倉のツインタワーが札幌ドームで当時首位の鹿島に挑む。この時鹿島は、1トップ2シャドーに”擬態”しつつゴール前に侵入してくる大型FW2人に対し、SB山本が中央に絞ってゴール前、ペナルティエリア幅での守備を強固にする。生粋のウインガーを起用していないヨモ将札幌に対して、サイドは多少後手に回ろうとも中央を固めていればそう問題はないという判断。更に中央CBには、半年後ロシアワールドカップのメンバーに選ばれる昌子と植田がジェイを中央で迎撃し、多少ミドルゾーンで後手に回っても、ゴール前だけは譲らない。ラスト6試合で8ゴールと爆発したジェイが唯一完封されたのが鹿島だった。
前回3月の対戦時と異なり、札幌がボールを保持すると鹿島は撤退を優先し、鈴木と土居の2トップは高めに構えるが、中央でボールを保持する石川や宮澤には殆ど圧力をかけてこない。残り8人の選手は低い位置で守備をセットするが、人を捕まえる原則はこれまでと同じである。
一方でその対応方法は札幌の攻撃サイドにより異なっていた。
札幌が右の進藤から前進を試みると、左SHの安西が進藤を守備対象だと認識して捕まえる。これでファーストディフェンスが決まると、すぐに残りの選手もボールに近い札幌の選手を捕まえるが、この試合、札幌は進藤のサイドではWBに白井、シャドーに都倉という構成。都倉は序盤からほぼトップで張っていて、進藤が持ち上がった時に顔を出すことが皆無だった。もっともそれは本来「9番」である都倉の選手特性からして特段問題視する話ではないが、都倉がジェイと最前線で並ぶと、進藤は近いサイドの白井にパスを出すか、反対サイドに大きく蹴ってサイドを変えるかしか選択肢がない状態。
反対サイドへは、安西が中央方向から寄せていき、SB西が菅を捕まえるポジションを取れば、ピッチ幅68メートル(実際には60メートル程度のパスになるがそれでも長い)を横切るリスキーな選択肢は事実上、消失する。そして白井が進藤からボールを受けられる位置に下がっていくと、ミシャが嫌う、「ウイングが相手SBを押し込めない状況」に陥り、加えてボールホルダーは人に強い鹿島DFの密着マークを受けることになる。
一方で札幌左サイドを始点とする攻撃に対して、鹿島は明確な対策を用意していた。
左サイドで福森が持ち上がると、札幌はチャナティップが(都倉と対照的に)必ずボールを受けられる位置に顔を出す。またキックの種類が豊富な福森と、1on1ならボールを収められるジェイの個人能力に依るところもあり、福森が持ち上がった時には進藤よりも多くの選択肢が用意されている。
この中でも最重要なツールはチャナティップのボールキープからのサイドチェンジ。野々村社長が先日3億円の値段をつけたチャナティップの、その値札の大部分は狭いエリアでボールを収め、失わない能力にある(何千万円か分はInstagramのフォロワー数だろう)。福森も自分でサイドチェンジを蹴れるが、進藤と同じく、最後方かつ大外のレーンからサイドチェンジを蹴るよりは、より目的地へ近い位置からパスを出した方が成功率が高い。チャナティップはそのキープ力とターン、パス能力によって、攻撃の出発点である左サイドと、行先である右サイドを"中継"する働きを担っている。これは足元で納められない都倉や三好では難しい働きで、チャナティップの存在が札幌の攻撃サイドの偏りやプレー精度に大きく影響を及ぼすまでになっている。
チャナティップと福森からのサイドチェンジに対し、鹿島の用意していた答えは安西のプレスバックによる最終ラインのサポート。安西はその攻撃能力で鹿島でも頭角を現しつつあるが、東京ヴェルディ1969では主に右サイドバックやウイングバックとしてプレーしていたこともあり、アウトサイドの守備において、普遍的なMFよりも無理がきく。前回3月の対戦では、誰を最終ラインに落とすかを決断するまでに60分近くかかった鹿島だが、この試合では最初から適任者を1人ピッチに立たせていた鹿島だった。
チャナティップはマッチアップすることが多かった永木の徹底マークにより試合から徐々に消えていくが(なお、永木-チャナティップでずっとマンマークではなかった。鹿島自体がマンマーク主体なので必然とこのマッチアップが多くなる)、序盤はチャナティップもしくは福森から白井への展開が何度か決まる。特に15分過ぎの、チャナティップの斜めのパスで白井が安西の背後を突くも、トラップが流れてフィニッシュに持ち込めなかったシーンは勿体なかった。
鹿島のこの対応によって、ポイントとなったのは安西がプレスバックした後に生じる、鹿島左サイド、札幌の進藤の前方のスペース。札幌が鹿島陣内に侵入すると、鹿島は最終ラインはゴール前の選手を捕まえ、中盤の選手はバイタルエリアに入ってくる選手を捕まえる役割になっていて、このように安西がオリジナルポジションからいなくなってもレオ シルバをはじめ、鹿島のMFはスライドしない(スペース管理に無頓着)。
現代サッカーでこのような位置にスペースができるのは珍しい。が、スペースがあるなら活用しない理由はない。この事実に進藤が気付き、行動を開始したのは20分過ぎころだったと思う。白井と進藤、どちらかオープンになった選手からクロスを放り込んでいく。
もっとも進藤もこのスペースを享受し、無双状態だったかというとそうではなく、進藤の"発見"から間もなく鈴木優磨が精力的にプレスバックを行い、進藤をケアするようになる。試合を通じ、進藤-鈴木のマッチアップはチャナティップ-永木、安在-白井(後半途中まで)と並んで非常に多く、またスペースができることはわかりきっている話なので、これは織り込み済みの対応だったとも考えられる。
札幌にとって、進藤が鈴木優磨のプレスバックを受けてそれほど自由になれないこと以上に問題なのは、進藤と白井はいずれみ右利きで、かつお互いがボールを持てるエリアの関係上、両者とも右足アウトスイング(ゴールから遠ざかる)の似たような質のクロスボールしか蹴れないという点だったと思う。加えてJリーグ加盟後の鹿島のCBを思い出してみると、秋田豊さんを筆頭に屈強なゴール前での攻防に強い正統派DFばかりが思い浮かぶが、植田の後釜として加入したチョン スンヒョンもこの点が評価されての鳥栖からの栄転だったのだろう、都倉とジェイ(主に後者を担当していた)に対して全く引けを取らない強さを見せつける。
マンチェスターシティのようなチームならば、ストライカーに空中戦以外のフィニッシュワークの選択肢を提供できるが、ビルドアップに時間をかける札幌は、鹿島に引かれるとクロスボールからの空中戦を封じられるとかなり厳しくなってしまう。
こうした状況で、点が取れない時によく「変化が欲しい」「工夫が欲しい」と言う人がいるが、仮にこの時札幌右サイドのスペース付近に左利きの攻撃的MFがいると、①ゴールに向かってドリブルで突っかけて相手を引き出す(そこからスルーパスやシュート)、②左足インスイングでクロスを供給する、という「変化」をもたらす。②については、インスイングのボールならば右足アウトスイングのボールに比べ、GKクォン スンテから離れた軌道になるのでキャッチされにくい利点がある。
札幌のベンチには三好が控えている。これが、(前節大量失点の悪夢を払拭し)ゴール前での空中戦に強い鹿島相手に点を取りにいくなら筆者が三好の起用を期待していた理由でもある。
一方でシャドーにチャナティップと三好が並ぶと、両名はいずれも身長が170センチに満たない攻撃的MFで、ゴール前でストライカーとして振る舞うことはあまり得意としないため、クロスボールに飛び込む選手が足りなくなってしまう。三好はリーグ戦ここまでノーゴールで、チャナティップは6得点を挙げているが、3点をミドルシュートで挙げており、終了間際のセットプレーから得点した第4節長崎戦を除けばゴール前でクロスやラストパスに合わせた得点は1点か2点しかない。
特に先述の通り、チャナティップの中盤の選手としての重要性が増しており、下がって受けて展開するという中継的な仕事が多くなると、ゴール前に顔を出す回数は必然と減少する。
これに対し、今シーズン中盤から増えているのが、ウイングバックの選手が中央のレーン、ゴール前に入っていこうとする動きだが、これはシャドーがフィニッシュに絡む機会の減少をカバーするための設計で、先日のホーム神戸戦(3-1-4-2に近い陣形で、普段よりさらにアタッカーが少なかった)では菅がこの形から得点を挙げている。また宮吉が右ワイドのジョーカーとして何度か試されてもいたり、白井がここ最近出場機会を増やしている等の変化もあるが、この形もまだ確立されていない。
鹿島相手にシンプルな空中戦一辺倒では難しいことは説明した通りだが、都倉をシャドーで先発起用したことの背景には、こうした事情もあるのだと考えられる。ただ、そうだとすれば、左サイドでチャナティップが永木の徹底マークに遭うと前進ができなくなったことは非常に痛く、また福森の左足も当然警戒されているため、ボールを持っていても点が取れそうな気配がしないのは必然だったともいえる。
試合を通じて札幌が60:鹿島が40というボール支配率で概ね推移していく。この数字に加え、先に述べた構造(鹿島はリトリートしてゴール前から人を捕まえる)もあり、人事占有の観点では前半は札幌が優勢だった。よって鹿島は、札幌の攻撃失敗によるゴールキックや、最終ラインではね返した後のトランジションなどが攻撃開始の主なパターンとなっていたが、どのような形でも、鹿島のボール保持に共通していたのはFWがサイドに流れて起点となることだった。
配置上、土居は右、鈴木は左サイドによく流れていた。どちらのサイドでも言えることは、札幌のWBがジャンプして鹿島のSBに当たろうとしているタイミングなら、札幌5バックのスライドを促せる(例:白井が前に出ていれば進藤がサイドに釣り出される)。逆に札幌WBが最終ラインに残っている状態なら、そのWBが流れてきたFWに対応するが、この時札幌のCBはただ最終ラインに残っている状態のことが多かった。
図示すると下のようになるが、かつてのバルセロナのゼロトップに似た現象で、サイドで高い位置に起点を作られると、CBは中央に守備対象がいなくてもCBだけ高い位置を取るわけにもいかず、中央で仕事がない状態の選手を複数作られてしまう。
ましてミシャチームは元々リトリートの意識が強く、CB中央には安全運転志向の石川が起用されていたこともマイナスに作用した。鹿島のサイドへのロングボールで、WBが1発ではね返せないと、札幌は途端に前線の陣地を放棄して5バックと中盤2枚、計7人が撤退することになるが、言い換えれば鹿島はロングボール1本で簡単に陣地回復ができていた。石川もそうだが、特に鈴木優磨-白井のマッチアップが多発していて、サイズ差もあって白井は対応に苦慮しているように見えた。ここは早坂が正解だったかもしれない。
FWがサイドで起点を作った後は、SBや中盤2列目の選手がサポートし、主に5-2でリトリートする(ロングボール1発で押し下げられると、5-2-3のシャドーが下がるのはしんどい)札幌の中盤センター・深井と宮澤の脇から侵入していく。この時、鹿島の永木とレオシルバが中央に陣取っており、また遠藤と安西も絞ってくるため、深井と宮澤はなかなかボールにアタックできず、更にズルズル下がらざるをえない状況になっていた。進藤と福森はそれなりに前進守備(迎撃)の意欲はあったようだが、これも範囲が限定的な運用にとどまっていて、どうしてもボールに圧力をかけられない札幌だった。結果的には鹿島の先制点は、5-2ブロックの脇からのクロスによってもたらされた。
後半反撃に出たい札幌だったが、48分に鈴木にPKを決められ2点を追いかける展開となってしまう。詳細は省くが、この時はサイドに開いた安西のドリブル突破に石川がファウルを犯してしまったものだったが、前半もこれと似た局面…鹿島の2列目の選手がサイドに開くと対応が曖昧になるところがあった。
DAZN中継では札幌側のコメントとして「鹿島の2列目は結構中央に入ってくる印象」と紹介されており、中央では比較的、受け渡しは問題なくできていた(時に、菅が中央の遠藤にそのままついていくような古典的なやり方もあったが)。むしろ、鹿島が先述のようにFWがサイドで基点を作った時、2列目の選手もサイドに残っていると、WB1枚では対応できないのだが、ここに進藤や福森が出ていくタイミングと寄せ方が甘く、簡単に突破されてしまう時があった。
これについてもやはり札幌の最終ラインは、中央に人を残しておきたい志向が強すぎる印象で、またそれは過去にボールサイドにスライドする守備で失敗したから【その①】【その②】というのが理由だと思われるが、鹿島相手では全般にこのコンセプトが仇となっている印象を受けた。
札幌は後半、福森が高い位置を取り、左サイドからの崩しを狙っていく。これもここ数試合でより形になりつつあるパターンだが、福森がポジションを上げると、下の図のように菅がインサイドのレーンに絞るので、それまで菅を見ていた西はそのまま菅を見続けるか、大外の福森にスイッチするかの選択を迫られる。
鹿島はこのサイドでの対応を反対サイドほど用意していなかったようで、福森の突撃はそれなりの混乱を生じさせていたと思う。具体的には、60分頃に大外のマークが甘くなった福森のクロスにジェイのヘッド(枠外)という場面、福森とジェイがサイドに流れてがら空きとなったハーフスペースに菅が突撃、という場面があった。
福森に対し遠藤がプレスバックで対応することもあったが、最終ライン兼用の安西と異なり、鹿島にとって好ましい状況ではない。
少しずつ形が見えてきた札幌は62分、菅⇒早坂に交代。白井が左に回るが、先の図の「福森が上がり、菅が絞る」形に当てはめると、右利きの白井がハーフスペース付近でプレーすることになる。やはり「シャドーが中盤で作り、WBがワイドストライカーとして中央に入る」形を意識しているかのような交代である。
続けて三好が用意し、交代ボードには「41 9」と表示されるが、直後にチャナティップが足の痛みを訴えて交代は取り消し、三好はチャナティップと交代で投入される。これで都倉が左シャドーに回るが、シャドーにチャナティップと三好を並べ、左サイドで仕掛けていた攻撃を右からも展開するプランは崩れてしまった。
三好のプレーエリアはチャナティップと同様、最前線から下がってくることが多い。しかしその結果、↓のように最終ラインで鹿島は4on4、数的同数でマンマークがしやすい噛み合わせになっていて、またそれまでのチャナティップ・菅・福森のようなレーンを横断することでマークに混乱をもたらすことは、三好・早坂・進藤の間では殆どなかった。
鹿島は遠藤の守備負担を考慮してか、70分に安部と交代。守備固めを図る。一方の札幌は、75分に白井を下げて小野を投入し、生命線であるウインガーを下げ、最終的に何がしたかったのかよくわからない形になってしまった(左サイドに高さのある選手を集めた?)。更には小野とジェイが並び、最終ラインは不慣れな宮澤でラインが上がらず、どうしてもボール回収が難しくなる。ラスト15分はいいように鹿島られて成す術なくタイムアップを迎えてしまった。
コンディションの面で、どの程度の回復状況にあるのかは部外者にはわからないが、走れる/走れないに関係なく言えるのは、マンマーク基調の鹿島にはロングボール/空中戦主体で昨年完敗し、今年3月にはミスマッチを作ってビルドアップする典型的なミシャ式戦法であと1歩まで追いつめている。メンバーの選定からゲームプランに至るまで、これらの経験があまり活かされていなかったように思える点は純粋に残念である。
前々回のおさらい:都倉・ジェイへの放り込みでは鹿島最終ラインを割れず |
1.ミシャチーム アナザーフォルムの長所と短所
1.1 良くも悪くも枠に収まらないシャドー都倉
前回3月の対戦時と異なり、札幌がボールを保持すると鹿島は撤退を優先し、鈴木と土居の2トップは高めに構えるが、中央でボールを保持する石川や宮澤には殆ど圧力をかけてこない。残り8人の選手は低い位置で守備をセットするが、人を捕まえる原則はこれまでと同じである。
一方でその対応方法は札幌の攻撃サイドにより異なっていた。
1.1.1 白井を捕まえておけば勝手に蓋がされる札幌右サイド
札幌が右の進藤から前進を試みると、左SHの安西が進藤を守備対象だと認識して捕まえる。これでファーストディフェンスが決まると、すぐに残りの選手もボールに近い札幌の選手を捕まえるが、この試合、札幌は進藤のサイドではWBに白井、シャドーに都倉という構成。都倉は序盤からほぼトップで張っていて、進藤が持ち上がった時に顔を出すことが皆無だった。もっともそれは本来「9番」である都倉の選手特性からして特段問題視する話ではないが、都倉がジェイと最前線で並ぶと、進藤は近いサイドの白井にパスを出すか、反対サイドに大きく蹴ってサイドを変えるかしか選択肢がない状態。
反対サイドへは、安西が中央方向から寄せていき、SB西が菅を捕まえるポジションを取れば、ピッチ幅68メートル(実際には60メートル程度のパスになるがそれでも長い)を横切るリスキーな選択肢は事実上、消失する。そして白井が進藤からボールを受けられる位置に下がっていくと、ミシャが嫌う、「ウイングが相手SBを押し込めない状況」に陥り、加えてボールホルダーは人に強い鹿島DFの密着マークを受けることになる。
右サイドで持ち上がると都倉が顔を出さず、白井しかパスコースがない |
1.1.2 札幌左サイドからの展開には安西のプレスバックで対抗
一方で札幌左サイドを始点とする攻撃に対して、鹿島は明確な対策を用意していた。
左サイドで福森が持ち上がると、札幌はチャナティップが(都倉と対照的に)必ずボールを受けられる位置に顔を出す。またキックの種類が豊富な福森と、1on1ならボールを収められるジェイの個人能力に依るところもあり、福森が持ち上がった時には進藤よりも多くの選択肢が用意されている。
この中でも最重要なツールはチャナティップのボールキープからのサイドチェンジ。野々村社長が先日3億円の値段をつけたチャナティップの、その値札の大部分は狭いエリアでボールを収め、失わない能力にある(何千万円か分はInstagramのフォロワー数だろう)。福森も自分でサイドチェンジを蹴れるが、進藤と同じく、最後方かつ大外のレーンからサイドチェンジを蹴るよりは、より目的地へ近い位置からパスを出した方が成功率が高い。チャナティップはそのキープ力とターン、パス能力によって、攻撃の出発点である左サイドと、行先である右サイドを"中継"する働きを担っている。これは足元で納められない都倉や三好では難しい働きで、チャナティップの存在が札幌の攻撃サイドの偏りやプレー精度に大きく影響を及ぼすまでになっている。
チャナティップが中継することでサイドチェンジの精度と威力が増す |
チャナティップと福森からのサイドチェンジに対し、鹿島の用意していた答えは安西のプレスバックによる最終ラインのサポート。安西はその攻撃能力で鹿島でも頭角を現しつつあるが、東京ヴェルディ1969では主に右サイドバックやウイングバックとしてプレーしていたこともあり、アウトサイドの守備において、普遍的なMFよりも無理がきく。前回3月の対戦では、誰を最終ラインに落とすかを決断するまでに60分近くかかった鹿島だが、この試合では最初から適任者を1人ピッチに立たせていた鹿島だった。
1.1.3 進藤の前のスペース
チャナティップはマッチアップすることが多かった永木の徹底マークにより試合から徐々に消えていくが(なお、永木-チャナティップでずっとマンマークではなかった。鹿島自体がマンマーク主体なので必然とこのマッチアップが多くなる)、序盤はチャナティップもしくは福森から白井への展開が何度か決まる。特に15分過ぎの、チャナティップの斜めのパスで白井が安西の背後を突くも、トラップが流れてフィニッシュに持ち込めなかったシーンは勿体なかった。
鹿島のこの対応によって、ポイントとなったのは安西がプレスバックした後に生じる、鹿島左サイド、札幌の進藤の前方のスペース。札幌が鹿島陣内に侵入すると、鹿島は最終ラインはゴール前の選手を捕まえ、中盤の選手はバイタルエリアに入ってくる選手を捕まえる役割になっていて、このように安西がオリジナルポジションからいなくなってもレオ シルバをはじめ、鹿島のMFはスライドしない(スペース管理に無頓着)。
プレスバックした安西がいたスペースは放置されている |
現代サッカーでこのような位置にスペースができるのは珍しい。が、スペースがあるなら活用しない理由はない。この事実に進藤が気付き、行動を開始したのは20分過ぎころだったと思う。白井と進藤、どちらかオープンになった選手からクロスを放り込んでいく。
スペースの活用を進藤が試みる |
もっとも進藤もこのスペースを享受し、無双状態だったかというとそうではなく、進藤の"発見"から間もなく鈴木優磨が精力的にプレスバックを行い、進藤をケアするようになる。試合を通じ、進藤-鈴木のマッチアップはチャナティップ-永木、安在-白井(後半途中まで)と並んで非常に多く、またスペースができることはわかりきっている話なので、これは織り込み済みの対応だったとも考えられる。
1.2 シャドーに「攻撃的MF」を配すとワイドストライカーが不可欠に
1.2.1 三好待望論の理由
札幌にとって、進藤が鈴木優磨のプレスバックを受けてそれほど自由になれないこと以上に問題なのは、進藤と白井はいずれみ右利きで、かつお互いがボールを持てるエリアの関係上、両者とも右足アウトスイング(ゴールから遠ざかる)の似たような質のクロスボールしか蹴れないという点だったと思う。加えてJリーグ加盟後の鹿島のCBを思い出してみると、秋田豊さんを筆頭に屈強なゴール前での攻防に強い正統派DFばかりが思い浮かぶが、植田の後釜として加入したチョン スンヒョンもこの点が評価されての鳥栖からの栄転だったのだろう、都倉とジェイ(主に後者を担当していた)に対して全く引けを取らない強さを見せつける。
マンチェスターシティのようなチームならば、ストライカーに空中戦以外のフィニッシュワークの選択肢を提供できるが、ビルドアップに時間をかける札幌は、鹿島に引かれるとクロスボールからの空中戦を封じられるとかなり厳しくなってしまう。
こうした状況で、点が取れない時によく「変化が欲しい」「工夫が欲しい」と言う人がいるが、仮にこの時札幌右サイドのスペース付近に左利きの攻撃的MFがいると、①ゴールに向かってドリブルで突っかけて相手を引き出す(そこからスルーパスやシュート)、②左足インスイングでクロスを供給する、という「変化」をもたらす。②については、インスイングのボールならば右足アウトスイングのボールに比べ、GKクォン スンテから離れた軌道になるのでキャッチされにくい利点がある。
札幌のベンチには三好が控えている。これが、(前節大量失点の悪夢を払拭し)ゴール前での空中戦に強い鹿島相手に点を取りにいくなら筆者が三好の起用を期待していた理由でもある。
左利きの選手なら、ゴール前に異なる質のボールを供給できる |
1.2.2 WBに求められるのはワイドストライカーとしての振る舞い
一方でシャドーにチャナティップと三好が並ぶと、両名はいずれも身長が170センチに満たない攻撃的MFで、ゴール前でストライカーとして振る舞うことはあまり得意としないため、クロスボールに飛び込む選手が足りなくなってしまう。三好はリーグ戦ここまでノーゴールで、チャナティップは6得点を挙げているが、3点をミドルシュートで挙げており、終了間際のセットプレーから得点した第4節長崎戦を除けばゴール前でクロスやラストパスに合わせた得点は1点か2点しかない。
特に先述の通り、チャナティップの中盤の選手としての重要性が増しており、下がって受けて展開するという中継的な仕事が多くなると、ゴール前に顔を出す回数は必然と減少する。
これに対し、今シーズン中盤から増えているのが、ウイングバックの選手が中央のレーン、ゴール前に入っていこうとする動きだが、これはシャドーがフィニッシュに絡む機会の減少をカバーするための設計で、先日のホーム神戸戦(3-1-4-2に近い陣形で、普段よりさらにアタッカーが少なかった)では菅がこの形から得点を挙げている。また宮吉が右ワイドのジョーカーとして何度か試されてもいたり、白井がここ最近出場機会を増やしている等の変化もあるが、この形もまだ確立されていない。
シャドーがゴール前に進出しないなら大外のWBで枚数を確保したい |
鹿島相手にシンプルな空中戦一辺倒では難しいことは説明した通りだが、都倉をシャドーで先発起用したことの背景には、こうした事情もあるのだと考えられる。ただ、そうだとすれば、左サイドでチャナティップが永木の徹底マークに遭うと前進ができなくなったことは非常に痛く、また福森の左足も当然警戒されているため、ボールを持っていても点が取れそうな気配がしないのは必然だったともいえる。
2.「とりあえずリトリート」で失った圧力
2.1 サイド基点で陣地回復を図る鹿島
試合を通じて札幌が60:鹿島が40というボール支配率で概ね推移していく。この数字に加え、先に述べた構造(鹿島はリトリートしてゴール前から人を捕まえる)もあり、人事占有の観点では前半は札幌が優勢だった。よって鹿島は、札幌の攻撃失敗によるゴールキックや、最終ラインではね返した後のトランジションなどが攻撃開始の主なパターンとなっていたが、どのような形でも、鹿島のボール保持に共通していたのはFWがサイドに流れて起点となることだった。
FWがサイドで起点を作る |
2.2 ボールにアタックできずDFが「いるだけ」になってしまう札幌
配置上、土居は右、鈴木は左サイドによく流れていた。どちらのサイドでも言えることは、札幌のWBがジャンプして鹿島のSBに当たろうとしているタイミングなら、札幌5バックのスライドを促せる(例:白井が前に出ていれば進藤がサイドに釣り出される)。逆に札幌WBが最終ラインに残っている状態なら、そのWBが流れてきたFWに対応するが、この時札幌のCBはただ最終ラインに残っている状態のことが多かった。
図示すると下のようになるが、かつてのバルセロナのゼロトップに似た現象で、サイドで高い位置に起点を作られると、CBは中央に守備対象がいなくてもCBだけ高い位置を取るわけにもいかず、中央で仕事がない状態の選手を複数作られてしまう。
サイドに放り込まれるとリトリートするが、CBは下がったままで何か仕事があるわけでもない |
ましてミシャチームは元々リトリートの意識が強く、CB中央には安全運転志向の石川が起用されていたこともマイナスに作用した。鹿島のサイドへのロングボールで、WBが1発ではね返せないと、札幌は途端に前線の陣地を放棄して5バックと中盤2枚、計7人が撤退することになるが、言い換えれば鹿島はロングボール1本で簡単に陣地回復ができていた。石川もそうだが、特に鈴木優磨-白井のマッチアップが多発していて、サイズ差もあって白井は対応に苦慮しているように見えた。ここは早坂が正解だったかもしれない。
FWがサイドで起点を作った後は、SBや中盤2列目の選手がサポートし、主に5-2でリトリートする(ロングボール1発で押し下げられると、5-2-3のシャドーが下がるのはしんどい)札幌の中盤センター・深井と宮澤の脇から侵入していく。この時、鹿島の永木とレオシルバが中央に陣取っており、また遠藤と安西も絞ってくるため、深井と宮澤はなかなかボールにアタックできず、更にズルズル下がらざるをえない状況になっていた。進藤と福森はそれなりに前進守備(迎撃)の意欲はあったようだが、これも範囲が限定的な運用にとどまっていて、どうしてもボールに圧力をかけられない札幌だった。結果的には鹿島の先制点は、5-2ブロックの脇からのクロスによってもたらされた。
CBは最終ラインから、MFは中央から離れられないのでボールにアタックできない |
3.後半の展開
3.1 サイドでの守備対応
後半反撃に出たい札幌だったが、48分に鈴木にPKを決められ2点を追いかける展開となってしまう。詳細は省くが、この時はサイドに開いた安西のドリブル突破に石川がファウルを犯してしまったものだったが、前半もこれと似た局面…鹿島の2列目の選手がサイドに開くと対応が曖昧になるところがあった。
DAZN中継では札幌側のコメントとして「鹿島の2列目は結構中央に入ってくる印象」と紹介されており、中央では比較的、受け渡しは問題なくできていた(時に、菅が中央の遠藤にそのままついていくような古典的なやり方もあったが)。むしろ、鹿島が先述のようにFWがサイドで基点を作った時、2列目の選手もサイドに残っていると、WB1枚では対応できないのだが、ここに進藤や福森が出ていくタイミングと寄せ方が甘く、簡単に突破されてしまう時があった。
これについてもやはり札幌の最終ラインは、中央に人を残しておきたい志向が強すぎる印象で、またそれは過去にボールサイドにスライドする守備で失敗したから【その①】【その②】というのが理由だと思われるが、鹿島相手では全般にこのコンセプトが仇となっている印象を受けた。
3.2 福森の突撃からの混乱と光明
札幌は後半、福森が高い位置を取り、左サイドからの崩しを狙っていく。これもここ数試合でより形になりつつあるパターンだが、福森がポジションを上げると、下の図のように菅がインサイドのレーンに絞るので、それまで菅を見ていた西はそのまま菅を見続けるか、大外の福森にスイッチするかの選択を迫られる。
鹿島はこのサイドでの対応を反対サイドほど用意していなかったようで、福森の突撃はそれなりの混乱を生じさせていたと思う。具体的には、60分頃に大外のマークが甘くなった福森のクロスにジェイのヘッド(枠外)という場面、福森とジェイがサイドに流れてがら空きとなったハーフスペースに菅が突撃、という場面があった。
福森に対し遠藤がプレスバックで対応することもあったが、最終ライン兼用の安西と異なり、鹿島にとって好ましい状況ではない。
福森が高い位置を取ると鹿島はマンマークのまま守り切るのが厳しくなる |
3.3 誤算?
少しずつ形が見えてきた札幌は62分、菅⇒早坂に交代。白井が左に回るが、先の図の「福森が上がり、菅が絞る」形に当てはめると、右利きの白井がハーフスペース付近でプレーすることになる。やはり「シャドーが中盤で作り、WBがワイドストライカーとして中央に入る」形を意識しているかのような交代である。
続けて三好が用意し、交代ボードには「41 9」と表示されるが、直後にチャナティップが足の痛みを訴えて交代は取り消し、三好はチャナティップと交代で投入される。これで都倉が左シャドーに回るが、シャドーにチャナティップと三好を並べ、左サイドで仕掛けていた攻撃を右からも展開するプランは崩れてしまった。
70分~ |
三好のプレーエリアはチャナティップと同様、最前線から下がってくることが多い。しかしその結果、↓のように最終ラインで鹿島は4on4、数的同数でマンマークがしやすい噛み合わせになっていて、またそれまでのチャナティップ・菅・福森のようなレーンを横断することでマークに混乱をもたらすことは、三好・早坂・進藤の間では殆どなかった。
5トップをぶつけられなくなったためマンマークで対処されやすくなる |
鹿島は遠藤の守備負担を考慮してか、70分に安部と交代。守備固めを図る。一方の札幌は、75分に白井を下げて小野を投入し、生命線であるウインガーを下げ、最終的に何がしたかったのかよくわからない形になってしまった(左サイドに高さのある選手を集めた?)。更には小野とジェイが並び、最終ラインは不慣れな宮澤でラインが上がらず、どうしてもボール回収が難しくなる。ラスト15分はいいように鹿島られて成す術なくタイムアップを迎えてしまった。
4.雑感
コンディションの面で、どの程度の回復状況にあるのかは部外者にはわからないが、走れる/走れないに関係なく言えるのは、マンマーク基調の鹿島にはロングボール/空中戦主体で昨年完敗し、今年3月にはミスマッチを作ってビルドアップする典型的なミシャ式戦法であと1歩まで追いつめている。メンバーの選定からゲームプランに至るまで、これらの経験があまり活かされていなかったように思える点は純粋に残念である。
サイドの高い位置のところで1対1でも余裕をもってプレーできない白井、菅に対して
返信削除西大伍はディフェンダーがいてもパスコースを作れていたのが対照的でした。
荒野ウイングバックにコンバートはどう思います?
可変システムの採用に加え、札幌は前線と最終ラインに専門的な選手を置いていることもあって攻守の変形に時間がかかり、ファストブレイクができないことが徐々に顕在化されています。そのためWBにあまりスペースが与えられず、サイドの狭いスペースで勝負することを求められていると考えると、WBに白井のような速さや敏捷性が売りの選手を使ってみたいと思うのはわかります。
削除荒野はどちらかというと、後ろのポジションで、ボールを運ぶ能力を何らかチームに還元できるようになると面白いと思います。
なるほど
削除狭いスペースでも選択肢を限定されないボールの持ち方で単騎突破も出来る駒井は凄いということか。