2018年4月3日火曜日

2018年3月31日(土)15:00 明治安田生命J1リーグ第5節 鹿島アントラーズvs北海道コンサドーレ札幌 ~新しい景色が映し出された背景~

0.プレビュー

0.1 スターティングメンバー

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-2-1、GKク ソンユン、DF進藤亮佑、キム ミンテ、福森晃斗、MF駒井善成、深井一希、宮澤裕樹、菅大輝、三好孝児、チャナティップ、FW都倉賢。サブメンバーはGK菅野孝憲、MF兵藤慎剛、早坂良太、荒野拓馬、小野伸二、FW宮吉拓実、ヘイス。国際Aマッチウィークの関係で前節から2週間の中断期間を挟んでのリーグ戦。前節欠場の宮澤は復帰したが、ジェイは右太もも裏痛を発症しメンバー外。都倉がリーグ戦初スタメンで、空いたベンチ枠は宮吉が入り、故障から復帰している模様のジュリーニョは今節もメンバー外となった。深井は左ひざ痛でこの週の練習を休んでいたが、スタメンに名を連ねている。
 鹿島アントラーズのスターティングメンバーは4-4-2、GKクォン スンテ、DF伊東幸敏、植田直道、昌子源、山本脩斗、MF永木亮太、レオ シルバ、安部裕葵、土居聖真、FW金崎夢生、鈴木優磨。サブメンバーはGK曽ケ端準、DF犬飼智也、西大伍、MFレアンドロ、小笠原満男、FWペドロ ジュニオール、金森健志。国際Aマッチウィークに開催された日本代表戦の2試合でそれぞれ昌子と植田がスタメンフル出場している。植田は火曜日のウクライナ戦から中3日での出場となる。2試合とも途中出場だった三竿健斗はメンバー外で、中盤センターは永木とレオ シルバの組み合わせ。

0.2 「単なる3バック」とは

1)ミシャシステムの基本原理


 札幌の開幕2~3試合を見て、筆者は当ブログにおいて「(ミシャシステムというより)単なる3バックではないか」と書いた。その論拠は、札幌が攻撃時に3-2-5の形でプレーする時間帯が多かったからという表面的なことではなく、全般に札幌の攻撃は4-4-2で守備を行う相手に対し、配置的な困難を突きつけることができていなかったことである。
 オフサイドルールがあるサッカーという競技は、ここ数十年のスパンでみると、多少の流行り/廃れやトレンドの変遷はあるにせよ、基本的にいかに中盤に人とボールを送り込むか、また中盤で選手がプレーするためのスペースを創出するか、という点が焦点となってきた。ミシャシステムはこの盲点を突いたものとも言えるが、改めて基本的な原理を考えると、ボール保持時に自陣最終ラインと最前線に人を配することで、相手に対して本来の守備陣形で対応が困難な状況を作ることから始まる。相手を一般的な4-4-2と仮に置くと、ミシャシステムに対して、4枚のDFで5トップをどう見るかという問題と同時並行で、2トップ脇を使おうとするDFの起点化をどう阻害するか、という問題を突きつけられる。
5トップと4枚での組み立てを突きつける

 多くの場合、失点を減らすために最終ラインの枚数を増やすことで解決が図られる。この時、前線も枚数を増やすことでの対抗を考えると、
それぞれ枚数を増やして対抗すると…

 相手は中盤を放棄することになる。この放棄された中盤をアンカーや、落ちてくるシャドーやFWが使うことでボールを前進させることがミシャシステムの基本原理となる。
中盤を掌握できる

 また相手が陣形を変えず、4バックのままで対抗するなら、5トップの数的・配置的な優位性を活かして殴っていくことになる。最もシンプルなパターンとしては、サイドでボールを持ち、相手の陣形をサイドに寄せた状態からの対角へのロングフィード。横幅を4枚で守るチームは横スライドに難を抱えることが多く、5トップの横幅を活用することがクリティカルな対抗策となりえる(このように、ショートパス主体とかロングフィード主体といった議論は結局どれが効果的か、最適なものを都度使えばいいだけで、極めて陳腐な二元論でしかない)。

2)「単なる3バック」だった3試合


 上記を踏まえて第2節、セレッソ大阪戦を振り返ると、札幌は最終ライン3枚で終始プレーしていたが、まだまだ勉強中である進藤はともかく、福森のプレーエリアは中央に偏っていた。そのため福森は相手2トップによる監視を受けることが多く、また下の写真のように中央方向から寄せられている場合は、対角へのロングフィードを通すことも難しいので、WBに効果的な形でボールが渡ることも少なかった。
 WBにボールが渡らない…横幅を巧く使えないとなると、相手は中央のみをケアしていればよい。よってセレッソの中盤は中央密集でブロックをセットすることになるが、この状態で1トップ2シャドーに縦パスを入れることは、それは針の穴を通すような作業にも等しい。セレッソ戦の2点目はジェイが奪われてからの形だったが、要はジェイ個人の問題以前に、相手を形を変化させられていない…中央から動かせていないので、そこにパスを送れば複数で囲まれ、潰されることは当然でもあった。
 横幅が使えていない状況で我慢できずにシャドーが落ちてくれば、前線は4vs5ではなく4vs3、シャドーは中盤センターの2枚がそのまま見ればよいので、この状況では数的な優位性も殆ど活かせていなかった。
相手に変化を強いることができない


1.対人構築の限界

1.1 鹿島の守り方


 序盤数分間、札幌はこれまでの試合と近い形で攻撃を開始していたが、10分過ぎころから深井か宮澤(主に深井だった)が最終ラインに落ちる4-1-5の形を作ってから攻撃を組み立てるようになる。
 ここで、基本的に鹿島は人を見る守り方を採用している。この試合の札幌に対しても、高い位置から人を捕まえていく守り方で試合に入っている。ミシャ式の札幌にはどのようなかみ合わせだったかというと、4バック(もしくは3バック)に対して2トップとSH、アンカー宮澤に対してはボールサイドのボランチ、WBはSBが捕まえるというかみ合わせで捉えていた。
 しかしこの整理の仕方では、図に示す通り、中央のエリアで札幌の選手配置に対して効率的に人を捕まえられる形になっていないため、中央のエリアでミスマッチが生じやすくなる。
人を捕まえる守備と不明瞭なエリア

 ミスマッチが生じやすい相手に対して、どの程度まで緻密にマッチアップを想定していたかはわからない部分もあるが、序盤は札幌相手でホームゲームということもあってか試合の入りは積極的で、2トップが最初に札幌の最終ラインを高い位置から捕まえに行くので、2列目以降の選手も高い位置から連動して捕まえようとしていた。

1.2 前を向けば恐竜


 「関係性が不明瞭なエリア」としたが、このエリアの解釈は序盤からすぐに明らかになる。札幌の最終ライン(図では進藤)がサイドで持つと、進藤の前にはWBの駒井、斜め前方にはアンカーの宮澤。WBの駒井には、先に示したようにSBの伊藤が担当だが、宮澤と、引いてくるシャドーの三好に対してはそれぞれ近い選手…宮澤に対してはボールサイドのセントラルMF(図ではレオ シルバ)、シャドーに対しては、この時のようにレオ シルバが「手一杯」であるから次に近い選手…昌子が捕まえにきていた。平たく言えば、スペース管理はあまり考えずにどんどん人に食いついてくる。

 よって最前線では”前を向いて走れば恐竜”都倉の前に走り込むスペースができる。この情報を札幌最終ラインの選手も序盤から把握しており、都倉や三好が裏に走るタイミングに合わせて頻繁にフィードが供給されていた。
 「相手が出てくるなら裏を狙う」…サッカーの基本だが極めて重要なアクションでもある。都倉を使ってこの形を複数回見せておくことで、人に対する強さであれば国内最強の鹿島守備陣に、前だけでなく裏のケアの必要性を認識させることになる。
人を捕まえに来るので裏が空きやすい

1.3 捕まえきれなくなる鹿島(2つの困難)


 上記1.2の一つの局面を切り取って見ると、札幌の選手の移動について行けば鹿島のマンマーク守備は問題なく成立するように見える。しかし、実際には試合の流れの中で札幌の攻撃の選手配置の形は上記のワンパターンだけではなく、複数の形を持っているため、鹿島のマンマーク守備は都度、捕まえる対象をシャッフルしながらの対応を強いられることとなり、結果、特に中盤で困難を突きつけられることとなっていた。
 上記1.2は右サイドで札幌の選手がボールを保持した時の一例だが、基本的に札幌のシャドーはボールサイドの選手が落ちてくる。都倉が頻繁に裏抜けを敢行することで攻撃の奥行きを創出していることもあり、シャドーの2枚は中盤でボールを受ける機会を頻繁に窺う。

 鹿島にとって困難な状況となったのは以下の2点。

1)シャドーと宮澤(or深井)が両方守備範囲に出現する


 裏を狙い続ける都倉の存在もあって、札幌のシャドーが中盤の位置まで下がってくると、鹿島のCBがそのままシャドーを監視し続けることは本来の職場(ゴール前、もしくは都倉の監視)を放棄することになってしまうので、時間経過と共にシャドーの監視は中盤センターの2枚…永木とレオ シルバが担うこととなる。
 しかし、シャドー2枚(三好、チャナティップ)が両方とも中盤に下がると、枚数的に中盤では2(永木、レオ シルバ)vs3(宮澤、三好、チャナティップ)となってしまう。もしくはシャドー2枚が両方とも下がらなくとも、例えば永木が宮澤を見ている状態でチャナティップが落ちてくると、永木は宮澤とチャナティップの両方を捕まえられないので、いずれかをレオ シルバに受け渡さなくてはならない。
2人現れるとどちらを捕まえていいかわからない

 では永木が守備対象2人のうち1人をレオ シルバに引き渡せばこの2人の仕事は完了かというと、例えば
 札幌は出しどころがないので、GKのク ソンユンにボールを戻す
→ソンユンに鹿島の2トップが寄せるので前方に蹴りだす
→都倉と鹿島のCBが競り合ってボールが中盤にこぼれる …といった展開に試合の局面が移り変わっていくと、永木とレオ シルバはずっと片方のサイドで人を見る仕事に没頭することが許されない(セカンドボール争奪戦を放棄することになる)。実際この試合、札幌が中盤でセカンドボールを拾えていたのは(「深井が鬼のような強さを発揮したから」ということよりもロジカルに考えると)、鹿島の中盤センターの2枚が札幌のシャドーを捕捉する仕事に追われ、本来いるべきポジションを放棄しがちになっていたことも要因の一つだったと言える。
持ち場を放棄するとセカンドボール回収が困難に

2)5トップ気味に張りつく


 札幌のシャドーとして起用されている三好やチャナティップは(ラファエル シルバや興梠、石原直樹のように)あまり裏抜けを得意とするタイプではない。この選手特性上、札幌の前線は形の上では5トップになる局面があっても、それは多くが見せかけで、シャドー2枚は機を見て中盤に下がることでプレーに関与しようとする。
 ただそれでも鹿島としては、ボールにプレッシャーがかかっていない状況で4バックvs5トップの状況を放置しておくことはリスキーなため、ク ソンユンのゴールキックによるリスタート等も含め、4バックvs5トップに近い状況となると、レオシルバや永木がシャドーを監視できる位置までポジションを下げることで対策を講じざるを得ない。
中盤センター2枚がシャドーを見れる位置まで下げられる

2.横幅の圧力

2.1 曖昧な存在が更に曖昧に


 上記1.3の「2つの困難」を鹿島の視点でみると、中盤センターの2枚が札幌のシャドーに引っ張られ、捕まえるべき対象が定まらないということになる。これによって、札幌はアンカーの宮澤が空く状況が頻発する。元々マッチアップ上、札幌のアンカーは鹿島の誰が見る、ということが明確になっていないポジションの一つだが、その候補者となりえる永木とレオ シルバは上記の状態で、金崎と鈴木の2トップは基本的に前方しか見ていないので、宮澤がオープンになってもプレスバック等の対応をほとんどしない。

2.2 ビルドアップの出口


 冒頭に示したように、鹿島としては札幌のWBのケアはSBが担うことが想定されている。ただ鹿島は中盤が混乱状態で、札幌のシャドーのマークの受け渡しが安定しない。SBとしては、その状態でペナルティエリアの横幅から逸脱した位置取りをすることが難しい。 
 そのため札幌の両WBは鹿島のWBの監視から逃れ、特にボールサイドと反対側で頻繁にオープンになっていた。この「逆サイドのWB」が前半から後半途中まで、札幌のビルドアップの出口として活用される。オープンな状態でWBにボールが渡ると、流石に鹿島のSBも菅や駒井を守備対象として認識して対応してくるが、それでも鹿島陣内の深くまで頻繁に侵入することができていた。
鹿島のSBはシャドーを受け渡される可能性があり、中央を離れられないので逆サイドのWBへの監視は弱い

<中央の守備が決まらないのでサイドの監視が甘くなる>


 混乱する鹿島の守備の例を示す。下の22:40は進藤が縦パスを狙うところで、進藤に対して土居がチェックに出ている。ここでは鹿島の人を見る守備の関係性がはっきりしているが、
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

 鹿島は駒井にSB山本、三好にレオシルバ、チャナティップに永木と人を明確につけているので、素人のサッカー並みに中央のエリアが放棄されている。この試合、進藤の縦パスが何度か成功していたが、基本的に全て鹿島の中盤センターの選手が動かされたところでシャドーの三好につけるものだった。

 三好がレオシルバの監視を一瞬だけ逃れて駒井に渡す。片方のサイドで2回パスを繋ぐと逆サイドが空くことはお約束で、駒井は逆サイドを見る。
 この時、山本の裏を都倉が狙うので、鹿島のCB1枚はそちらに引っ張られる。そしてチャナティップを捕まえていた永木は中央のスペースに意識が向かい、チャナティップを離している(この永木の動きを見れば、関係性が明確になっていない状態でのマンマーク守備は非常に難しいことが示されている)。駒井は結果的にセオリー通り、菅へのサイドチェンジを選択するが、これだけオープンであれば裏を走る都倉やチャナティップへのパスも十分に狙えた状況だった。ずっとチャナティップを見ていた永木は、一番大事な局面でチャナティップを離してしまっている。
 逆に伊東としては、本来伊東の守備対象は大外の菅のはず。しかし中央のエリアで関係性が明確になっておらず、いつ永木(や、レオシルバ)がマーク対象を捨てる状況になるかわからないので、伊東も中央寄りのポジションを取らざるを得ない。

 上記22:43から10秒後。この10秒間で、大外で受けた菅が勝負せず、一度中央寄りの深井に戻している。深井が持ったところで、安部が深井に寄せていくが、永木はここで完全にチャナティップを捨てて深井に当たっていく。やはり永木がチャナティップを捨てるので、ここでも伊東は中央を守ってから菅に出ていかなくてはならない。
 もっとも、深井からチャナティップへのコースは切られているので、ここで深井からチャナティップに出ることはほぼない。また枚数も揃っているので、伊東はサイドにヤマを張っても良かったかもしれない。
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

3.攻撃の圧力が守備の安定を生む

3.1 悪くないファウルの多さ


 DAZN中継(情報元はopta)のスタッツによると、前半のボール支配率は51:49で鹿島が僅かに上回った。一方でシュート本数は鹿島5に対し札幌が9、パス本数は232に228とほぼ同数、コーナーキックは鹿島3に対し札幌6、ファウルは6対11だった。

 前半、最終的な陣形として、鹿島は中盤センターの2枚が最終ラインに吸収される形が恒常化する。この状態で、2トップや2列目の選手が前から当たっても札幌の中盤(宮澤か深井が出てくる)にボールを逃がされてプレスは空転するだけなので、前線からの守備を諦め、2列目のMFも自陣深くに撤退して守るようになる。自陣ペナルティエリア付近に8枚が張り付き、前線には2枚だけが残る状態だが、カイオもペドロ ジュニオールもいない鹿島は、5トップで押し込む札幌が後方に残すスペースをファストブレイクの形で有効活用できないため、まず前線のFWにボールを当てて陣形を押し上げることから攻撃を開始していた。(ペドロはベンチにいるが)。
 そして鹿島ボールになると、札幌はまず自陣に撤退を優先する。FWにボールが入ると、最終ラインに残っていた深井やキム ミンテが素早くチェックに出て金崎や鈴木に前を向かせない対応をしつつ、5-4-1に近い陣形をなるべく早く作りリトリートする。序盤、自陣深くで鹿島にフリーキックを与える局面もあったが、前半10分以降に札幌が犯したファウルの多くはボールを収めようとする金崎、鈴木に対してのもので、結果的にファイルになるプレーもあったが、速攻を未然に防ぐことができていた。

3.2 ブロックを動かせない鹿島


 第3節までで札幌が毎試合不安を残していたのが、WBが釣り出された背後のスペースを突かれる形でサイド突破を許すことだった。恐らくこの点の反省があり、鹿島がサイドでボールを保持しても、駒井や菅は簡単に出ることがなく、三好やチャナティップがブロックに加わるのを待った上で、2列目の4枚がまず当たるようにしていた。
 守りに入った札幌が前に出てこない状況に対し、鹿島は攻め手を欠く。基本的に最終ラインの選手がボールを運べない鹿島は、撤退する札幌のブロックの選手を動かすことができず、中盤で余り気味のレオ シルバや下がってくる土居に預けるところから攻撃の多くが始まっていた。この両者が配されている左サイドからの攻撃が多く、最終的には大外に張る山本の仕掛けで解決を図ろうとするが、駒井や進藤で問題なく対処できていた。
山本の仕掛けは封殺できる

 スタッツ上は鹿島にもそれなりに攻撃機会が多かったように見えるが、クリティカルな局面を多く創出していたのは間違いなく札幌の方だった。

4.後半の変化

4.1 守備はミラーで対抗


 後半頭から(正確には前半のラスト3分頃からだったかもしれない)、鹿島は守備時にレオシルバを最終ラインに下げた5バックにシフトする。これにより、中央の「不明瞭なエリア」は、植田がチャナティップ、昌子が都倉、レオ シルバが三好、永木が宮澤(または深井)、と関係性が明瞭になる。
 ここ数年、Jリーグでミシャシステムへの対抗策がいくつも開発されたが、その中でミラーでの純粋マンマーク化を選択したということはある意味予想通りというか、人につく性質が強い鹿島においては、現状これしか採るべき策がなかったと言えるかもしれない(ミシャの浦和でのラストゲームとなった昨年7月29日の札幌ドームでの浦和戦で四方田監督率いる札幌が採用した仕組みとほぼ同じ)。
中央の関係性が整理される

4.2 駒の優位性が活きる展開


 マーキングの関係性が明確になったことで、鹿島は前半以上に2トップと両SH(守備時5-3-2ではサイドハーフと言っていいのか微妙だが)が札幌の後方の4枚に対して積極的に出てくるようになる。一方で前にどんどん出てきて後ろに5バックが残っているということは、中盤は依然としてスカスカなまま。札幌は早いタイミングでシャドーの三好やチャナティップに縦パスを供給するようになるが、後半立ち上がりの10分ほどは植田やレオ シルバが受け手のチャナティップと三好を潰すことに成功する。こうした仕事をさせれば、上田もレオ シルバも国内では無双状態で、鹿島に分がある展開となっていく。
速いタイミングで楔を入れるが潰される

4.3 即興可変システムの弱点


 ただ鹿島の5バック化はあくまで守備時限定とされていて、札幌からボールを回収して攻撃に転じる際は、レオ シルバがポジションを上げ、元の4-4-2の陣形に復元してから攻撃を開始する。前半からレオ シルバはボールを運ぶ役割を担っており、最終ラインに残したままだと鹿島はボールの循環が悪くなる。そのため、後半立ち上がりはレオ シルバを最終ラインに加えていたが、55分頃から永木と役割を入れ替え、永木が三好をマークする形になっている(その後は再び、レオ シルバが下がる形にもなっていた)。
 その永木も同じように、攻撃時にはポジションを上げて中盤の攻防に加わってくるのだが、鹿島はどうしても守備時に5バックに移行することを前提に入れたポジショニングになりがちで、昌子と植田は札幌から見て左寄りに2枚並んで残っている。つまり永木が攻撃参加した背後はそのままスペースとして残っていて、三好や駒井の体力が残っている限りは狙いどころとなる。54分に三好が裏抜けからCKを得たプレー、56分に駒井が裏を取り、昌子と入れ替わりかけて倒されたプレー、67分に福森が左サイドで拾ってから三好へのロングフィードで抜け出し、と札幌は右サイド(鹿島左サイド)で立て続けにチャンスを創出する。
奪った後は右サイドのスペースに走らせる

4.4 手以外に止める術なし


 61分、昌子の疑惑のハンドが認められなかった、札幌にとっての最大の決定機は、中盤で受けたチャナティップのドリブルから始まる。福森が持ち上がると、チャナティップはミドルサードまで下がって、植田の迎撃を受けないエリアでターンする。実は52分頃も福森⇒チャナティップのラインが同じような位置で開通しかけたが、この時は植田の迎撃でチャナティップは潰されている。これを頭に入れ、今度は植田が出られない、より低い位置で受けてアクションを開始する。
※キャプチャ画像で図解していましたが削除しました。

 チャナティップは縦方向に突っ込むのではなく、横にドリブルすることでパスコースを探しながら侵入していくが、鹿島は各選手とも守備対象となる人を捕まえており、カバーリングの関係が作れていないので、植田が当たらないとチャナティップを止められない。写真中央、昌子は都倉のダイアゴナルランに引っ張られる(勿論昌子が都倉を捨てれば、チャナティップのスルーパスが飛んでくる)。

 チャナティップのピッチを横断するドリブルは中央付近まで到達する。最終的には永木の付近まで侵入していくが、永木はこの時ほぼポジションを動かさず突っ立ったまま。
 それは守備対象として三好を認識しているから。言い換えれば三好を監視する以外のタスクを遂行できない状態で、ここまで侵入されれば普通は優先順位を変えてゴールを守ろうとするが、首を振って駒井が大外を走っている情報も頭に入っていないのでずっと三好の近くで棒立ち状態になっている。植田がコースを限定させているので、味方の位置を見ながら永木もポジションを1m内側に絞ればこのスルーパスは防げていた可能性があった。

5.終盤の展開


 70分ほどが経過すると、札幌は徐々に運動量が低下する選手が表れるようになっていく。特に三好のそれは、攻撃参加した後の戻りの遅さやプレーへの関与頻度といった形で顕著であった。チャナティップはまだ三好と比べると動けるように思えたが、それでも札幌はシャドーがブロックに加わっての5-4-1の守備陣形を構築することが難しくなる。
 札幌のシャドーが戻らず5-2-3に近い形で守ることが常態化すると、鹿島は中央でボランチ脇のスペースを使えるようになる。レアンドロの投入はそうしたタイミングだったが、それ以上にラスト15分は両チームとも戻れない選手が続出し、前残りからのカウンターの応酬となった。
 札幌の1枚目のカードは79分に深井⇒荒野。三好を下げたのは83分で、ヘイスがトップ、都倉をシャドーに移したが、都倉はセットプレー等も考慮し残しておきたいとの判断だったかもしれない。最後は89分にこの試合ここまで奮闘していた進藤のかぶり芸が炸裂するが、駒井のブロックで守り切りスコアレスで試合終了。

6.雑感


 前半、鹿島のあまりの無防備ぶりには本当に驚いたが、それでもミシャチームの本来やりたかったプレーはここまでのリーグ戦に比べると格段にできていた。中断期間によい準備ができたことを伺えるゲームだった。
 個人で言うと、ジェイに代わって前線中央に入った都倉は、動きの量(回数)と質で前線をけん引しており、両シャドーにサポート役を従えて中央で暴れていたバルバリッチ時代を想起させる出来だった。ただクロスが入った時の脅威はやはりジェイの方が上かもしれない。進藤は攻撃面で求められる役割を果たした(後半、右サイドから対角に通した低空サイドチェンジが話題になっていたが、もっと称賛されるプレーはいくつもあった)ことに加え、WBがサイドに蓋をすることで仕事が限定的になり、最後のかぶり芸以外は落ち着きをもって対処できていた。

2 件のコメント:

  1. 鹿島のセック…もといボラがDFラインに吸収される形の6バックはいかにも場当たり的な対処だったことが窺えますね。そりゃ昌子も慌ててホワイトボード持ち出すわな…。マンツー気味のミラーで守備はハッキリしたもののあくまで点をやらないだけでしかなかった。
    ミシャ式というと相手の4バックに5VS4のミスマッチを強要するところが注目されがちですが、このレビューを読むと陣取りゲームの意味合いが強くなっているように思います。ただ単に相手ゴールに近い位置でスペースを作るというのではなくフリーでボールをもらえるor動かせるスペースをどう作るかという意味で。
    メガクラブだと1人でズレを生み出せる選手だらけですがコンサではそうはいかないので集団で“創り出す”必要が出てくる。宮澤は一見動き回っているように見えなくても必要な動きはきちんとしている。だからボールも取られないし安定感を生むという好循環を作っているのではないかと。
    シャドーやWBはどうしても運動量が多くなってしまうとしても、必要なのは高い質であって闇雲に動き回る量ではない。だからミシャはポジショニングを口うるさく指導するし選手の側も頭が疲れるとボヤくのかなと。荒野がそこんところの質をもう3段階くらい上げてくれるといいんですが…。

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    1. 鹿島は元々人を見る傾向が強いチームだとある程度は認識していましたが、札幌のシャドーが張ると平然とセックスバ になるのは少し驚きでした。前半はずっと中盤でプレスが空転していておいおいおい…と思って見ていました。

      >陣取りゲーム
      そうですね、最初は配置的なギャップだったり優位性がキーになりますが、最終的にはマッチアップを合わせられた末にWBの質的優位でぶん殴れるかどうか、という印象ですね。途中まで陣取りで、陣取りで相手を負かして自分の土俵に持ち込んでから特異なパターンで仕留める、という言い方もできると思います。

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