2025年2月17日月曜日

2025年2月16日(日) 明治安田J2リーグ第1節 大分トリニータvs北海道コンサドーレ札幌 〜同数での戦い方〜

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:


  • 4シーズン連続のJ2を戦うことになる大分。直近3シーズンで5→9→16位と順位が変遷しており昇格候補というよりは第二集団以降ではあると思います。予算的にも23シーズンで18億円程度で、岡山と同程度ですが山形、仙台(いずれも25億円程度)あたりの存在を頭に入れて置く必要はあるでしょう。
  • オフにはJ3降格した群馬から天笠、いわきから有馬を獲得しましたが他は他クラブでスタメンではない選手だったり、新卒や下部カテゴリの選手が主体。どっちかというと弓場、保田といったキープレイヤーを持っていかれる側の立場であり、DFラインはなんとか戦力維持に成功、前線はベテランを放出して若返りを図ったとみます。システムは片野坂監督の好む1-3-4-2-1だけでなく4バックのオプションも使っていたようです。

  • 岩政監督の初陣となるコンサ。キャンプ序盤はポジティブな報道が多く、また伝えられるスタメン候補も概ね私が予想した通りでしたが、終盤にバカヨコや白井の離脱があったようで、前線は2トップではなく1トップでジョルディがスタメン。木戸や長谷川が前線で試されていたようですが木戸は中盤センターで、荒野がシャドー、また左サイドもパクミンギュが昨シーズンのリーグ戦同様DFに入りむかわ町応援PR大使中村桐耶を前で使う、前監督体制を踏襲する形も採用した格好となりました。
  • コンサは7年間の長期政権が終わり、岩政新監督を迎えたということで、これからこのブログでも色々と言及することになるでしょうけど、一度に全部書くというよりはほどほどに出し分けていくつもりです。

2.試合展開

「J2らしいサッカー」:

  • 試合後、岩政監督が大分のスタイルをこんな感じで評しましたが、個人的にはこの発言は理解できます。
  • 大分は自陣で撤退する時は5+4の9枚ブロックでスペースを消します。特にこれは特徴を発揮するために広めのスペースを必要とするジョルディのような選手には効きます。
  • また右サイドの近藤が去年J1の後半戦で無双していたのも大分は当然把握していたと思いますが、近藤にはWBの有働とシャドーの宇津元の2枚でなるべく対応することと、近藤がスピードに乗った状態で1人を突破することに成功しても、大分はすぐ二人目(デルランや天笠)がカバーリングすることが可能なポジショニングをとっていました。
  • 開幕前に自信満々だったコンサですが、近藤の1人剥がすプレーを封じられると他に同じような働きができる選手も見当たらず途端に前線は停滞します。

  • 大分は5バック+4MFで低い位置で引いて守るだけでなく、コンサのDFがボールを持っている時には1トップ2シャドーで同数関係を活かしてpressingを仕掛けます。特にFWの有馬は大﨑だけでなくGK(GPか)菅野まで二度追いする走力を持っており、コンサはこの試合ほぼ菅野が蹴っ飛ばす選択しか取れなくなります。もっともセットプレー(ゴールキック)の際も蹴っ飛ばしていたので有馬の走力に関係なくそういう方針だったのかもしれません。

  • この、引いて枚数をかけて守ることと高い位置でたくさん走ってpressingを仕掛けることを1-3-4-2-1のシステムで両立するのは、2010年くらいからJ1で流行り出して、J2でも2010年代は木山監督の愛媛FCや反町監督の松本山雅、井原監督のアビスパ福岡など多数思い当たります。このスタイルで相手の良さを消すチーム、システム的にはミシャの1-3-4-2-1の派生というかフォロワーに見えるスタイルは一時期大流行していました。
  • 最近は幾分かこうしたチームが減ってきましたが、このスタイルについて「J2らしい…」と評すのは何かをクリエイトするよりも相手の良さを消すという文脈だと思いますが、まぁそんなに意地悪な発言でも、不適切な発言でもないとは思います。この手のサッカーは確実にJ2で流行していましたので。

数的同数での戦い方:

  • ただし「この手のあるあるなサッカー」(大分だけでなくコンサも同じシステムだし、コンサのことも指している)同士のマッチアップにおいて、前半に大分の方がうまくプレーしている印象でした。
  • かつてハリルホジッチがあるとき会見で言っていたと思うのですが、「Jリーグはだいたいミスマッチから試合が動いている」。これは逆説的には数的同数の局面が多いとJリーグは均衡状態になる傾向が強いとか、遠藤ヤットのようなフリーマン的なプレーメーカーにbuild-upを頼る傾向が強いみたいなことを指摘していたのかもしれませんけど、1-3-4-2-1同士のマッチアップになったこの試合でお互いにパスを繋がず前方へのロングボールが多くなったことは典型的な現象でもあるでしょう。

  • 両チームとも前に蹴る選択が多い中で「うまくプレーしていた」選手を1人挙げるなら大分の右DFペレイラ。
  • 大分のDF3人に対してコンサの前3人で3-3の数的同数関係を活かしてコンサが守ってくるのは構図としては同じなのですが、ペレイラは対面の青木や、その背後で他の選手をマークしているコンサの木戸や中村桐耶が前に出てくるのを待って、ギリギリまで彼らを引きつけてから青木の脇をすり抜けるようなモーションの小さいキックで浮かせたパスを狙い、それはちょうど木戸や中村桐耶の背後に落ちるような軌道で有馬や池田の足元に転がります。

  • マンツーマン気味に食いついてくる相手に浮き玉を使ったりその背後を突いたりというのはいくつかある解決策の一つで、コンサは組み立てにおいてほとんどそうしたオプションは見せられませんでした。
  • 浮き玉は荒野が前半、組み立てではなくて敵陣ゴール前で使って、それは大分のDF藤原意表をついたことでジョルディへの決定的なパスになりましたが本当にこのシーンだけでした。

  • ペレイラみたいな個人でマンツーマンに対処できそうな選手が見当たらないコンサは、前半何度かパクミンギュが中村桐耶に出すものの、そこを大分の吉田が狙ってボール奪取からのショートカウンターに移行、という場面がありました。個人的に中村のWBをあまり推さない理由はこうした局面でより柔軟にボールを扱える能力が求められるからで、パクミンギュは最終ラインで出し手にするよりももう一つ前で受け手として使いたいのですが、そこはまだ新任の監督としては適性を見極めているところでしょうか。

  • ともかくコンサがこのように安易にボールを動かすのでは前進できなさそうということで、次にコンサは高嶺が最終ラインに落ちたり、青木や荒野が列を下げたりして、私は「ボールを引き取る」と表現するのですがそんな感じの選択をとります。
  • ↓だと青木は左サイドに落ちてきて、ペレイラは特にそこまではついていかず傍観しているので、ここで青木と中村桐耶で吉田に対して2v1、あるいは木戸と青木で榊原に対して2v1とかの局所で数的有利を作ってボールを前に運ぶこともできそうに思えますが、コンサはこの局面で特に何をするとかイメージが全然なさそうで、結局はボールを引き取った選手が前線のジョルディに蹴っ飛ばしたりして雑にボールを捨てて終わる展開に終始していたと思います。

  • あとは数的同数の打開策として、往年のバルサのシャビが得意としていたのが、相手を突っ込ませてからボールを隠しながらクルッと270°〜360°くらいターンするスキルなんかもありましたが、これも基本的にはボールを持っている選手がギリギリまでボールを離さず相手選手を引きつけることでスペースを作るという考え方になる。全体的にコンサはそうしたプレーができないと、前線のジョルディや荒野にボールを押し付ける結末は、その手前でいくら「流動的」だろうと変わらないということになります。

  • 加えてボールを押し付けられたFW同士の比較で見ると、押し付けられるボールの丁寧さとか精度の差もありますが、藤原に対するジョルディよりも、大﨑に対する有馬の方が粘り強くプレーしていましたし、やはりMFではなくDFとしての大﨑は抜かれたら終わりという警戒感があるのでボールにアタックしづらく、彼の良さがあまり活きないのでは?という懸念を感じさせます。
  • この試合は大﨑・有馬のマッチアップでズルズル下がって押し込まれる、というよりは大分が手数をかけずにとにかく速くコンサゴールに向かってくる状況でしたが、たとえば夏場の体力的にキツくなる試合でDFが簡単にクリアできずにズルズル下がると、都度アップダウンの機会が増える他の選手の負担も増すことになるでしょう。

1、1、0、0、0:

  • 1-3-4-2-1同士で膠着しやすい構図だったこともあって、スコアを動かすにはカウンターとセットプレーがキーになります。
  • 前半、大分は40分過ぎに右サイドでボールを奪ってのショートカウンターから、宇津元のクロスに吉田が打点の高いヘッドで合わせますがクロスバーを直撃。コンサも43分に自陣で守ってジョルディがキープしたところから近藤が長い距離を走ってカウンター発動。しかし近藤の優しいラストパスをジョルディが痛恨のシュートミスで先制に失敗します。ただ試合を通じてコンサがこうしたロングカウンターで大分ゴールに迫ったのもこの1回きりですし、大分がそれを許すような不用意なボールの失い方をしたのも他にありませんでした。

  • 後半に大分がセットプレーを活かしてスコアを動かします。73分の先制点は中村のところでデルランが体を当ててクリアミスを誘ったもので、

  • 84分の2点目はコンサは自陣に戻っていたゴニのファウルからでしたが、壁の作り方がもう1枚必要だったように思えます(壁1枚だとキッカーはまっすぐゴールに向かう速いキックを選択しやすいので)。結局速いボールを蹴られてゴニのクリアが不十分なところから決められてしまいました。

  • 「1、1、0、0、0」というのはコンサのFWの選手が去年J1のリーグ戦で挙げたゴール数を指しています。
  • ですのでまずコンサのスコアリング能力に関してあまり過信しない方がいいですよと今から啓蒙していきますが、FW以外もトップ下やシャドーにあまりカウンターが得意な選手がいないのもあって、この試合もその不安的中というか、大分のバランスが崩れた時に1発でダイレクトにダメージを与えられるような要素は見出せなかったと思います。

雑感

  • まずコンサはキャンプで主に1-3-4-1-2の2トップを採用するシステムを試すことが多かったとの報道でしたが、大分相手にわざわざミラーとなる1-3-4-2-1を採用した理由が謎でした。2トップ+トップ下ならより青木をフリーにする仕掛けは作りやすかったはずですので。
  • 結局そうせずミラーとなるシステムでプレーして勝ち点を落としたことで得られた収穫としては、「コンサの選手はそこまで上手くない」ということを、何人かの関係者が認識できたことかもしれません。キャンプ中からクラブとメディアが一体となって妙にポジティブな空気を醸し出すのはコンサの得意技ですが、そうしたコンサらしさに染まってない新任の監督やコーチは現実を見てリアリストとして振る舞い続けて欲しいなと思います。
  • 次節の熊本もマンツーマン主体ですし、こうした相手の特徴を消すことに注力するチームはいくつかあると思われるので、少なくともコンサのDFに対して同数で対応してくる時にどうやってボールを運ぶかくらいは速やかに着手した方がよいでしょう。それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。

2 件のコメント: