2018年4月30日月曜日

2018年4月28日(土)14:00 明治安田生命J1リーグ第11節 ベガルタ仙台vs北海道コンサドーレ札幌 ~プレースピードというレイヤをかけて見てみよう~

0.プレビュー

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-2-1、GKク ソンユン、DF進藤亮佑、キム ミンテ、石川直樹、MF駒井善成、宮澤裕樹、福森晃斗、菅大輝、三好孝児、チャナティップ、FW都倉賢。サブメンバーはGK菅野孝憲、MF兵藤慎剛、ジュリーニョ、早坂良太、荒野拓馬、FW内村圭宏、宮吉拓実。連戦が続く中で前節60分起用された深井のみがターンオーバーで休み。念には念をということで、よほどのことがない限りは中2日、3日では起用しない方針なのかもしれない。中盤センターは荒野か兵藤が有力と思われていて、事前報道では荒野だったが蓋を開けてみれば福森が悲願の?中央起用を勝ち取っている。
 ベガルタ仙台のスターティングメンバーは3-4-2-1、GK関憲太郎、DF菅井直樹、大岩一貴、常田 克人椎橋慧也、MF中野嘉大、板倉滉、梁勇基、永戸勝也、野津田岳人、西村拓真、FW。サブメンバーはGKシュミット ダニエル、DF蜂須賀孝治、金正也、MF富田晋伍、椎橋慧也、関口訓充、FW石原直樹。奥埜が左膝内側側副靭帯損傷、庄司と阿部拓馬が左ハムストリングス肉離れ、このほかラファエルソンと金久保も離脱中で、出場微妙だった平岡と古林もメンバー外と各ポジションでやりくりが難しくなっているが、そうした状況でも1トップの石原、キャプテン富田、第3節以降スタメン定着しつつある金正也、直近4試合フル出場中の蜂須賀は休ませている。菅井が右CBを務めるのはチャナティップ対策もあるのかもしれない。


1.相手の嫌がることをしよう


 試合後の仙台・渡邉監督のコメントで語られている通り、仙台は攻守で明確な狙いを持ってこの試合に臨んできた。その対策は以下2点に集約される。

 ○守備では、札幌が嫌がるマンマーク基調の数的同数守備を徹底する。
 ○攻撃では、ミラー布陣の札幌に対するギャップを作ることで数的同数守備で対抗することを難しくする。

 要するに札幌も仙台も基本的には相手が同じ形を作ってマンマークでずっと付いてくるのが嫌だから、相手が嫌がることを仕掛けたうえでこちらはそれを回避しよう、という考え方である。上記を念頭に置いて試合展開を見ていく。

1.1 ジャメがいく


 仙台は2節前の磐田戦では、3-4-2-1の相手に対し梁をトップ下、西村と石原の2トップの3-4-1-2という、前線で2トップ+トップ下の形にすることで、意図的にギャップを作り主に攻撃面で利用することを狙った布陣で望んだが、磐田の個人技炸裂もあって0-3と敗れている。これは恐らく奥埜と阿部を欠く前線に梁を起用するにあたり、その選手特性からシャドーよりも中央の方が攻撃面で良さが活き、また守備負担が少ないという考え方もあったと思われる。個人的にはこの試合も札幌最終ラインとギャップができる3-4-1-2の方が札幌にとっては好都合だと考えていたが、その期待は外れ、ミラー布陣となる3-4-2-1で臨んできた仙台だった。
 5分頃から、ミラーのままだとボールを運びにくい札幌はミシャサッカーの十八番である4-1-5の形に変形してボール保持と前進を模索していくが、仙台はこれに対し、下の図のように、2シャドーがサイド、中央のジャーメインが福森を固定的にケアすることで対応する。
 札幌としては、福森をこの位置で使うことは当然、最大の特徴であり札幌のサッカーに極めて有益な飛び道具をもたらしている福森の中~長距離のパスを活かすことを念頭に置いている。仙台が前線3枚で、中央がジャーメイン1枚となることは予想通り、キム ミンテと福森でジャーメインに対し2on1の数的優位を突きつけることをまず考えていたと思うが、仙台はこの勝負に乗らなかった格好となる。
ジャメは福森決め打ちでマンマーク

1.2 必然の高速化

1)時間を奪う守備


 ジャーメインが福森を切ると、持たされたキム ミンテは福森と、その奥の石川に展開することが難しくなる。石川を狙って、福森を飛ばすパスを試みることは可能だが、石川を野津田が監視している状況で成功させることは難しい(前半、ソンユンが試みて失敗しピンチを招いていた)。オープンなミンテが持ち上がって次の仙台の対応を観察するが、仙台は梁がミンテに対して出てくる、ここも属人的かつ明確な関係性をもって対応する。
 重要なのは、ミンテが横パスによって攻撃をやり直す選択肢を封じられている点。これによってミンテからの展開は縦方向のベクトルに限定される。その縦方向では、基本的に5トップvs5バックの数的同数関係が成立しており、特に中央3枚のチャナティップ・都倉・三好には仙台の3CBが密着マークで前を向かせない。ここで潰されると、仙台ボールに切り替わる…という具合に、札幌の攻撃が縦に急がせられる格好となったことで、札幌の攻撃~仙台のポジトラ時は1つ1つの局面の時間が短い、高速化した試合展開になっていく。
受け手を潰す

2)時間を奪われて存在感が希薄化する福森


 この数的同数守備によって、ミシャが当日朝に伝えたという秘策・福森の中盤起用は機能性を失う。上記に示したように、福森が最終ラインに落ちるとジャーメインがかなり高い位置から守備を開始してくるが、それでも福森・キムミンテのところで何らかのアクションを起こせる多少の時間は与えられる。しかしミシャチームの可変システムは、攻撃陣形を整えるための時間を必要とし、基本的にその盤面整理が完了してからでないとパターン化した攻撃に移行できない。そしてジャーメインvs福森というマッチアップにおいて、福森は時間を奪おうとするジャーメインから時間を取り返すようなアクション(動き直して捕まらないようにする、ボールを持った時に1on1で勝利する、等)が得意ではないので、ボールを持った時に殆ど効果的なアクションを起こせない。
 ならば別のポジションに移るとどうなるか、というと、先制点の場面のように機を見て攻撃参加していくのも福森の特徴の一つ。ただここでも、基本的にあまり動き直しをせず、また攻撃→守備の切り替えにあまり熱心ではない福森は、短い時間で局面が移り変わるような展開だと、頻繁に移動はするけど、実際にプレーに関与できるポジションをとっている局面はあまり多くない、という状況になる。結局はバルバリッチ政権時から続くように、ギャップを作りやすい位置に最初から配しておくのが最も有効だということがよくわかる。

2.ミラー状態から脱却しよう

2.1 右寄りに配置される3バック


 仙台の攻撃時の選手配置は、下のように3バックが左右均等に並ぶのではなく、攻撃方向に向かって右寄りに配置された状態からスタートしていた。札幌もミラー布陣を意識しているので守備対象は都倉→大岩、チャナティップ→菅井と問題なく決まっているが、都倉と三好がプレッシャーを与えようとすると、大岩と常田は最大でペナルティエリアの幅まで拡がることで圧力を回避するという、4バックのCB的なメソッドを準備していた(ミシャ札幌もそのような位置取り"だけ"はしている試合があり、特段珍しいものではないが)。
 この2選手が4バックのCBに近い位置取りをすると、菅井は必然的に4バックの右SBに近いポジションに押し出され、サイドで比較的圧力を回避しやすい位置取りになる。この菅井の前方に、右WBで菅とマッチアップしながらサイドで受けられる位置取りを狙う中野(基本的には低い位置まで降りれば菅は付いてこない)、シャドーの位置から札幌ボランチの脇に落ちてくる野津田を用意し、ボール保持を続けながらミラー布陣でマンマーク基調の札幌の守備がずれる箇所を狙う。なお反対サイドは左SBのポジションを基本的に空けていて、使う場合は梁が落ちてくることもあるが基本的に放置されていた。
 野津田は守備時、前線で西村とジャーメインと共に札幌のビルドアップ部隊を監視する役割を担うので、この点からは1トップ2シャドーと認識して問題ないと思うが、攻撃時の役割的には板倉がアンカー、野津田と梁がインサイドハーフと見立てる方が妥当だったかもしれない。
右SBの位置にいる菅井を起点にずれを生む

 「守備がずれる箇所」について一例を挙げると、例えば野津田が落ちるときに、野津田に対面の石川が付いていかず、他の選手も自身の守備対象だけ見ていて野津田を放置していれば野津田はフリーで前を向け、またその野津田を石川以外の誰か捕まえに来ると守備対象やポジションがずれる。
 もしくは別のパターンとして、試合序盤にやや目立ったのが、福森が野津田を捕まえに動き中盤に宮澤1枚が残った状態で、受け手を抑えられている菅井がトップのジャーメインや西村に放り込み、このフィードは札幌最終ラインが対処するもセカンドボールの争奪戦で福森がいなくなっており、中央で板倉、梁と宮澤という配置になっているケースがあった。という具合に、相手を動かすことで盤面全体の設計を崩すことにより、近くの選手がパスを受ける、繋ぐというアクション以外でもボールを前進させることに成功していた。
野津田が中盤に登場すると守備対象がずれる

2.2 アイソレーション

1)仙台右サイドからの侵入


 試合翌日の北海道新聞朝刊に、チャナティップの「連戦の影響で体が重い感じはあった」とする旨のコメントが掲載されていたが、その言葉を裏付けるかのように札幌は10分過ぎ以降、1列目をハーフウェーライン付近~自陣内に下げてリトリートの姿勢が明確になる。1列目がこの高さにあるということで必然と2列目(中盤センター2枚)、最終ラインも低い位置になるが、この状況で先述のように菅井を基点として、菅井→中野、菅井→野津田といった仙台の1本目のパスが安定的に成功するようになると札幌のタックルラインはズルズルと下がっていく。

 仙台は右サイドから札幌陣内に侵入すると、基本的には圧力を受けにくいサイドを安全地帯としてハーフスペースに走ることで札幌の選手を動かす。この時の札幌の対応は、菅が大外で中野を見ており、CB3枚は基本的にシャドーをマンマークしているので、特に野津田が中央をスタートポジションとすると石川は絶対に野津田を離せない。よってハーフスペースが空いており、梁や時に菅井、石川を中央にピン止めした後は野津田もこのレーンに移動してくる場合がある。
 札幌は菅も石川もそれぞれ仕事があるので、ハーフスペースに付いていくのは中盤の福森、宮澤しかいない。
右サイドのハーフスペースへのラン

2)質的優位を活かすアイソレーション


 仙台がハーフスペースを突いて宮澤と福森をボールサイドに動かすと、札幌は中央をほぼ放棄した状態になる。仙台の狙いを強く感じたのはどちらかというとこの後の展開で、中央~仙台左サイドがオープンになると、左で張っている永戸にシンプルに供給して駒井に1on1の勝負を突きつける。これは90分を通じて何度も繰り返されており、1年前の開幕戦での対戦で石井謙伍が守る札幌右サイドを切り裂いた永戸の縦への突破力は、駒井相手でも質的優位を作れるという認識のもと、クリティカルな武器として位置付けていたのだと思われる。
札幌の中盤センター2枚が動いたらサイドチェンジ

 また仙台がボールを保持している時のネガトラ対策は大岩が都倉、常田が三好をマンマーク。都倉は可能であれば板倉とサンドで対応する。三好もチャナティップ同様に体が重そうで、常田の守備範囲内ではなかなか起点を作れず、三好のボールタッチはより引いた位置でなければ難しい状況だった。

3.鏡が割れた後

3.1 奇襲成功?


 仙台が札幌陣内に侵入する時間帯が続いたが、16分、進藤の右クロスを拾った菅のパスを受けた福森の得点で札幌が先制。これは端的に言うと所謂「脈略のない展開」からの得点だったと思う。この局面で仙台陣内に札幌が人を送れていたのは、都倉へのロングボールをGK関がペナルティエリアを出て処理した後の展開で仙台のミスパスにより札幌が仙台陣内でボールを回収し、仙台は自陣でのブロック構築を余儀なくされたことが発端だった。この時はマンマークで仙台の選手に付いていたためミスを誘ったとも言えるが、そこまでの圧力ではなく純粋に仙台のミスだったと捉えるべきだっただろう。
 どちらかというと、そうしたチーム戦術的な話よりも、宮澤が回収したセカンドボールが三好に渡り、三好がバイタルエリアで前を向いた状態でボールを持ったことで仙台のDFを更に後退させたこと(三好はこの試合殆ど仕掛けることができなかった)、178cmのGK関はクロスへの対応がやはり微妙だったこと、という具合に、脈略のない形から札幌が
 またこの一連の展開の直前、仙台が札幌陣内に侵入していた局面から攻守が切り替わると、梁と野津田のポジションが流れの中で入れ替わる状態が2分ほど続いていて、結果的に野津田のポジション(中盤センターの左…本来は梁がいる位置)で宮澤のセカンドボール回収、三好の侵入といったプレーが発生した。
 梁と野津田が入れ替わっている状況は前半37分頃にもあり、観察していると梁の帰陣の遅さが原因のように思えたが、本来意図する形で守備をセットできていなかったという点で、これも微妙に影響していたと言えるかもしれない。

3.2 仙台の支配が続く

1)浮き始める板倉


 先制に成功して以降、札幌は自陣にリトリートしてブロックをセットして迎え撃つ傾向が強くなる。前半終了までの時間帯で継続的に問題となっていたのが、仙台のアンカーポジションにいる板倉がフリーでボールを受けられる状況にあり、板倉を起点に簡単にバイタルエリアにボールが供給されるという状況が続いていたことだった。DAZN中継では前半の早めの段階で、札幌ベンチから板倉をケアせよ、という指示があったと伝えられたが、守り方を見ている限り、それは本来対面ポジションに配される福森か宮澤が見ること、と考えられていたようで、例えば1列目のラインを突破されると都倉がプレスバックして板倉をケアする、といったような策はとられていなかった。

2)ミラー布陣なのに中盤に人が足りない


 先制した後も札幌は基本的にはマンマークを基調とした属人的な守備を続けていたのだが、スペースではなく人を見る守備ということで、守備対象にどれだけ当たれるか、という点で守備強度が左右される。この点で見ると、通常スイッチを入れる役割である都倉にいつもの元気がないというか、仙台の最終ラインはハーフウェーライン付近でノープレッシャーでボールを保持できる状況が続く。チャナティップは若干動けそうだが、ワイドな菅井のポジションに引っ張られて、初期位置からたびたびタッチサイン付近まで出張を余儀なくされていた。そして前線守備の強度が低い状況で仙台のジャーメインや西村が裏を狙ってくると、札幌の最終ラインは押し上げができず、3ラインは間延びすることになる。間延びしてしまうと圧縮してスペースを消すというやり方が難しくなるので、やはり属人的な対応で凌ぐことしかできなくなる。
 仙台が右サイドから展開すると、下のように札幌1列目の背後で板倉が顔を出すことでボールホルダーをサポートするが、板倉を福森が見る形になるとバイタルエリアは宮澤1枚のみになってしまう。かといって、この試合の都倉は疲労もあってかプレスバックをして板倉をケアするような対応をとらないし、ベンチもそのような指示を出していない状態だったので、福森が釣り出される状況が頻繁に続いていた。
札幌のFW~MF間の板倉を見るとバイタルエリアが空く

 仙台の左サイドからの攻撃でも同様の現象が起きていたが、左サイドは三好が常田に数的同数守備を仕掛けたタイミングで梁が流れると、宮澤がサイドに出張して対応するしかない。板倉は都倉や三好の裏、浅めのポジションにいるのは変わらずで、福森が板倉に出ると札幌の最終ラインの前は完全に無防備状態になってしまうので、基本的に食いつく傾向がある福森も自重するしかなかった。
梁に宮澤が釣り出される

4.攻守のテコ入れ


 後半開始から札幌は三好→兵藤に交代。仙台はジャーメインに変えて石原、梁勇基に変えて蜂須賀の2枚替えを敢行する。後者によって野津田が中盤センター、中野が左シャドー西村が右シャドーとポジションを移すことになる。
46分~
 両チームが計3名の選手交代を行ったこともあり、後半開始以降が試合が大きく動くことになるが、時系列で見ていくこととする。

4.1 西村の同点ゴール

1)宮澤の安直な中央へのパスが発端


 まず後半開始直後の47分、中央でボール回収に成功した仙台のカウンターから、西村のドリブルからのシュートで仙台が同点に追いつく。この局面は仙台陣内でボールを保持していた札幌が、駒井から宮澤に戻して攻撃のやり直しを図る局面からスタートする(46:31)。この時、宮澤はミシャ式4-1-5における右SBのポジションにいて、安定的にボールを保持しながらも仙台の2ラインが横並びで揃っている(自身にアタックに来ない)のを見て兵藤へのパスを狙いたいが、兵藤はそれに感じておらず呼吸が合わなかったため中央の福森に預ける。
宮澤が右SBの位置から中央の福森に預ける

2)宮澤はなぜミシャ式4-1-5の右SBのポジションを離れたのか


 この(グレーで)図示した宮澤→兵藤のラインが開通しなかったことはそう問題ではなく、命運を分けたのはこの後の宮澤のポジショニング。福森に預けた後の宮澤は自ら中央方向に寄っていくが、福森には野津田が前に出て対応するとともに石原がプレスバックで挟み込む(まさに前半、札幌(都倉)に足りなかった要素でもある)。ピッチ中央で難しい状況に置かれた福森は宮澤に戻そうとするがパスミスで中野がインターセプトし、仙台のカウンターが始まる。
福森は挟まれ、預けられる選手も確保できていない

 この時、疑問は①何故宮澤が中央に寄ったのかと、②本来この右SBのポジションに収まる進藤は何をしていたのかという点。

3)後半の入りは3-2-5だった?


 この答えはカメラが画面左側に寄る、次の局面を見ればわかるが、②進藤は中央でキム ミンテと共に石原をケアするポジション(=右SBの位置で攻撃に参加できないポジション)をとっていた。これを踏まえて①の答えを考えると、これは推測だが恐らく札幌の後半の入りは4-1-5ではなく3-2-5、宮澤と福森を中盤に残す形でスタートしようと決めていたと思われる。
最終ラインに3枚揃っている(ので、3-2-5のイメージで入っていて、
サポートできるポジションにいなかったと思われる)

 3-2-5にするメリットは、端的に言うと中央に常時2枚置くことでセカンドボールの争奪戦に強くなる。前半、ジャーメインから始まる仙台の前線からの圧力に苦しんだ札幌は、ロングボールが多くなること(又は自ら増やすこと)を見越して後半は3-2-5で入ると決めていたとすれば宮澤や進藤のポジショニングにも納得がいく。ただ開幕3戦ほどでも4-1-5と共に併用されていた3-2-5は、率直な感想としては、やりたいことが中途半端であまり機能していなかった。その中途半端さ(ロングボール主体で割り切るのか、丁寧にビルドアップするのか)がこの局面でも表れてしまった。

4.2 兵藤投入の意図


 スコアが1-1となった後、50分頃に見られたのは、札幌が守備の形を以下のように変更して中央に兵藤、右に都倉とする形への変更だった。そして兵藤は下がり目に位置し、その守備対象は仙台のDFではなく中央の板倉だった。チャナティップと都倉は大岩と常田を見ており、4バック(2CB)+アンカーのチームに対するような陣形で迎え撃っていた。いうまでもなく、前半板倉への守備が決まらなかったので、専属の人を置いてみよう、という考え方である。
兵藤が板倉をケア

 しかし上の図を見れば明らかなように、3枚を中央寄りに配すると、サイドに開いた菅井は簡単に1列目のラインを突破して持ち出すことができる。この菅井の持ち上がりに菅は出ることができない(ミシャというより四方田コーチが嫌いな、最終ラインのマークずれに繋がるため)ので、最終ライン5枚はステイし福森がサイドに出張することになり、中央は前半何度も見たように宮澤1枚しかいなくなってしまう。
サイドは放置気味なので簡単に運ばれる

 補足すると、兵藤はこの展開を予期してたかのように菅井が運ぶとプレスバックして中盤の攻防に加わろうとしていて、この動きを見てもやはりイレギュラーな形ではなくて、板倉をケアするために意図的に作った形だったと思われる。
 もっとも、兵藤のプレスバックは「死ぬ気で戻る」という程度でもなかったので、トップ下の位置からバイタルエリアまでを本気でケアしようとしていたとも思えず、あくまで「可能な範囲でスペースを埋める」という程度で考えられていたと思う。かつてアッレグリのユベントスでチャンピオンズリーグ仕様の戦術として、ビダルに似たような役割を与えていたが、超人ビダルでも試合の中で限定的な時間しかできない仕事でもあった。

5.切り札と保険

5.1 宮吉の投入で右サイドを取り返す


 57分に札幌は菅→宮吉に交代。遂に福森の中盤起用を諦め、いつもの形に近い並びに戻す。
57分~

 いつしか札幌の攻撃の切り札となっている宮吉。この試合でも、札幌の前線に欠けていたアクションを交代直後から繰り返すことで右サイドの力関係を一気に覆す。
 体が重そうだった都倉や三好、守備に追われていた兵藤があまりできていなかったアクションが、押し上げてくる仙台最終ライン裏に抜ける動き(チャナティップは元々あまりしない)で、宮吉は下がって受ける動きと裏抜けを足を止めることなく繰り返しつつ、ビルドアップに関与する選手…特に駒井が、後方の数的同数関係を助けるために下がったタイミングで必ず宮吉が関与できるポジションをとる。高い位置から守備をする仙台は、中盤にスペースができやすくなっているし、また最終ラインも高めなので、対面の選手よりも先に動くことを繰り返せば、空いたスペースを使って前進できる。
右サイドでボールを落ち着かせる

 宮吉が2度サイドを突破した他、最大のチャンスは駒井の突破が成功した61分。駒井のシュートを宮吉が繋ぎ、ゴール前2mでチャンティップに渡るが都倉へのパスを選択してしまう。

5.2 原則を捨て保険を取る


 宮吉が裏だけでなく中盤にも顔を出しながら、札幌の右サイドが機能してくると、仙台の守備は右寄り(仙台から見て左寄り)に意識が向く。となれば札幌はサイドを大きく変えて、仙台の意識が薄くなっている左サイドで勝負したいが、菅を下げて石川を左WBに配したことで左から仕掛けることができなくなる。石川が2017シーズン終盤に左WBとして活躍したのは、基本的に4バックで守る相手に対して大外で余る形でギャップを作り、フリーな状態からクロスや仕掛けに移行できていたためで、蜂須賀がケアするという関係性が明確になっている状態ではこのサイドで勝つことができない。
逆サイドが活きてくる展開だが勝負できる選手は下げている

 ただ引き続き仙台がボールを保持して攻め込む試合展開は、"何か"が起こりそうな予感は何となくあったので、守備でバランスを崩さず、かつユーティリティな選手を残しておきたいとの考え方はわからなくなかった。そしてその予感は的中する。

6.ミンテ・リスク

6.1 キム ミンテの退場と札幌の勝ち越し


 宮吉の投入から約15分後、70分過ぎの仙台のコーナーキックで、キム ミンテが石原との小競り合いから2枚目の警告を受け退場。アウェイ側のゴール裏からでは、何が起きたのか全く分からない。1本目のコーナーキックを蹴るタイミングで、札幌は内村が後退を用意し、ビブスを脱いで他の選手とも握手を交わしていたが、この退場によって取り消し、内村がビブスを地面に叩きつける様子で何かが起きたことを察した。
 コーナーキックを凌いだ後、札幌は都倉に変えて早坂、仙台は板倉に変えて富田を投入する。札幌は石川を最終ライン中央、駒井を左、宮吉を中盤3枚の右に移し、チャナティップの1トップとする。
77分~

 早坂と富田が投入された直後の仙台の攻撃。札幌はとりあえず5-3でブロックを作って防戦体制を作る。とにかく凌いで、奪ったら死ぬ気で走ってワントップをサポート。2015シーズンの大宮戦(堀米の気の抜けたバックパスで招いたピンチから、相手FW猛追したパウロンが低空跳び蹴りを見舞って退場。シャドー内村を下げて中盤にニウドを投入)もこのような対策をとったことを思い出す。ただこの試合は既に駒を2枚使っているので中盤を変えることはできず、宮吉に頑張ってもらうしかない。兵藤を右に移動させたのは、永戸と中野のサイドが機能しだしたことを意識したのかもしれない。
 仙台は当然攻勢に出るが、この時、富田が中盤底、野津田は前線で張り6トップのような状況になっていた。常田が持ち上がりルックアップした時に、恐らくこの野津田の余り方を見ていて簡単に放り込んだのだと思うが、これがミスキックで福森に渡り札幌のカウンター。広大なスペースに宮澤が走ってキープしてから、駒井の折り返しをチャナティップが決め勝ち越しに成功する。結果論だが仙台としては人数が減った直後の1発目のプレーだっただけに、野津田と常田の判断はイージーすぎる感は否めなかった。
野津田は確かに余っているがイージーすぎる放り込み

6.2 早すぎた1点


 仙台はラスト10分、ひたすら常田→中野のラインをファーストチョイスとして侵入を図る。札幌は先の、野津田が前線に残ると最終ラインの枚数が足りなくなることを認識していたかわからないが、85分ほどから中野と進藤をマッチアップさせず、兵藤の横スライドで中野を見て進藤は最終ラインに常にステイさせる対応に変更する。
 中盤3枚での横スライドには限界がある。体力的に厳しいシチュエーションなら猶更で、札幌のMF3枚を右にスライドさせた直後、仙台は反対サイドにボールを戻して宮吉の脇を狙う。アディショナルタイム突入後、兵藤がこの位置でファウルを犯し、フリーキック1回とコーナーキック2回を凌げは札幌の勝ちだったが、ラストプレーで大岩が決めて2-2で試合終了。一つ挙げると、兵藤のファウルの直前、ペナルティエリア内からの石川のクリアは正面方向に蹴られたものがあった(関が拾って仙台がやり直す)が、経験豊富な石川にはしっかりタッチラインに蹴り出してほしかった。
常田→中野で基点を作って反対サイドを狙う

7.雑感


 ここまで四方田コーチらの働きもあってか、結果だけでなくその采配においても前評判を覆し続けているミシャだが、ターンオーバーをしないことについては噂通りといったところで、そろそろ出ずっぱりの主力のコンディションが厳しくなってきていると思われる。次節はキム ミンテを次節起用できない最終ラインが喫緊の課題だが、両サイドと前線は元々候補者を多めに用意しているので、内村やジュリーニョの精神衛生を考えても、思い切った策も必要な状況だと感じている。

2 件のコメント:

  1. 過密日程の最中で常にクォリティの高い記事の更新、まことにお疲れさまです。

    プレースピードというとついつい「JリーグのDFラインのパス回しはプレミアより2段階は遅い」といった感じになりがちですが、それよりも判断のスピードや「福森封じの決め打ちでプレスにきているのか?」と相手の思惑を読む、その上でどう外していくかといったアタマの問題の方が重要ということになるでしょうか。

    桂馬の高飛び歩の餌食ではありませんが、福森ボランチは却って奪いどころを晒す格好になるのでどうしてもというときの緊急オプションくらいに思っていた方が良さそうですね。兵藤はこのあたりが危ないからと気が利く選手なのでボランチのローテーションが厳しくなっている現状では頼りになります。ファールはいただけなかったですが…。

    ミンテのイエロー2枚も問題ではあるんですが、やりくりが厳しい中にあってアウェイでドローは悪くない結果だと思っていますが後ろの補強は必須な状況。でも、CBは特にタマが出ないのでぞれもままならずでもどかしい話ではあります。

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    1. マンマークで相手を決めてしまえば、誰を(どのスペースを)守るという判断が省略化されるので、マークの関係を覆す仕掛けがない限りは展開が高速化しつつ一定の守備強度も担保できますね。過密日程で難しいところですが、そろそろメタられた後の対策が欲しくなってきますね。

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