1.ゲームの戦略的論点とポイント
スターティングメンバー:
スターティングメンバー&試合結果 |
- 4試合で勝ち点1の鳥栖は、グループステージ突破がかなり難しい状況で、ホームでの試合に出場していた山下、仙頭といったメンバーも帯同せず完全に消化試合モードを感じます。
- 金監督のポジショナルプレーにおいて特に重要な選手は、GKのパク イルギュと左利きCBのエドゥアルド。仲間に時間とスペースを与えることができるこの2人がいないチームに対するパフォーマンスは、割り引いて考える必要があるでしょう。中盤の福井は16歳、まだまだこんな選手が出てくるのが恐ろしいところです。
- 札幌は何人か負傷者がいるとのことですが、岡村は恐らく確定、中村はベンチ入りしたので使える状況ではあるみたいです。ただ、左DFは昨年も何度か急場凌ぎで使われた高嶺。こちらはレギュラークラスが少なくとも5~6人くらいは名を連ねています。
鳥栖の仕組み:
- 基本的にはこれまでと同じで、左右非対称の守備時5バック、攻撃時4バック変形システム。札幌の対応と踏まえて確認します。
- 札幌ボールでのキックオフから始まりますが、この時は鳥栖はボール非保持を意識した5バックの陣形で並んでいる。札幌は恐らくこれを確認して、鳥栖のボール保持の際には1トップ2シャドーで、その3人のCBをマークするところから始まります。
- ここで、鳥栖が2トップ+トップ下の石井という並びなので、札幌の3バックのうち誰かが前に出て守る必要がありますが、10分前後くらいでその役割は、3バックのうち一番身長が低い高嶺に落ち着きます。ドゥンガは188cm、オフォエドゥは173cmらしいのですが、見た感じパワフルな印象を受けるので、札幌の3人の選手特性からそう判断したのでしょう。
マッチアップ |
- 一方の鳥栖の”いつもの約束事”は、ビルドアップは所謂5レーン…ピッチの横幅68mを5つに分けたときに、同じレーンに人を置かないようにポジショニング。具体的には、3バックのままだとGKの守田と中央の島川が被ってあまり効果的ではないので、島川は左のハーフスペースに移動。これに伴って左CBの大畑が大外のサイドバックのようなポジションに、そして左のアウトサイドにいた相良はハーフスペースに移動します。
- ただ、これに加えて本来はCB2人(3人から1人移動して現象)の間に、中盤の選手を一人置いて、GK-CB2人-MFでダイヤモンドの形を作って相手の1列目のプレスを拡げ、GKパク イルギュからフリーの選手に配球して前進…が得意の形なのですが、この日は恐らくそのパクイルギュがいないこともあって、守田は殆どのプレー機会でドゥンガに蹴って当てる選択をとっていました。
- マリノスの、ACLでの外国人枠という特殊な事情がなければパクイルギュが鳥栖に来ることはなく、みなとみらいの守護神として活躍していたと思われるだけに、彼の有無は金監督としても非常に重要だと思いますし、加えて札幌の人を掴まえる守備相手に、守田が頑張ってボールを保持しても”事故”が起きるリスクがでかい、という判断だったでしょう。
- ですので、中盤の構成もいつもとややバランスが異なり、「ボールを動かす」よりも「当てた後で拾う」方を意識していたようです。特に、普段は樋口と仙頭が中盤のインサイドハーフでアンカーに松岡の逆三角形型の配置ですが、この試合はトップ下に石井を置く形を採用したのは、2トップに当てた後のサポート役と、その背後を掃除する選手、というバランスを考えた結果でしょう。
2.試合展開(前半)
連休モード:
- 鳥栖が割り切った選択をしてきたので、守田からドゥンガへ放り込まれるフィードを適切に処理していれば、札幌はそんなに攻守とも困ることがなく、ボールを持つ時間帯が多くなります。
- この試合、別に、札幌の何かいつもと違う仕込みがうまくいったとは私は思っておらず、あくまで控え中心でやれることが限られる鳥栖相手にいつもよりプレーしやすかった、というのが全てだと思っていますが、その辺の微妙な違いを見ていきましょう。
- 鳥栖は1-5-2-1-2のような陣形で守備をセット。札幌がボールを持っている時に、鳥栖はどこから守備を設定するか?という点に関しては、そこまで引いて対処するというよりは、札幌陣内深くで札幌が保持している時も2トップ+トップ下の石井でまず対処してみよう、との意思はあったと思います。ハイプレス、まで言える強度は正直感じなかったですが、守備の開始位置は高めだったと思ってください。
- 札幌はいつも通り、深井か荒野の片方が下がって1-4-1みたいな形からスタート。なお深井が下がっている時、荒野に対して「下がってくるな」みたいな指示をしていた時もありましたが、深井はそこまで人数かけなくても運べるだろ、という感覚だったのでしょう。ただ、駒井と共にボトムダウンの傾向が非常に強い荒野には、この試合もあまり伝わっていなかったようです。
- 鳥栖はトップ下の石井が2トップの間に立ちます。これは札幌のアンカーを守っているのと、2トップが動いた後にスペースができやすいので、そこを簡単に通されないようにスペースを埋める(2トップの”門”を閉じる)役割でした。
鳥栖の前線はそんなに強度がない |
- ただ、石井が時折サポートするにせよ、あくまで鳥栖の1列目は、まだチームに合流して間もない外国籍選手2人で組むユニットで、特別に走れるとかボールを狩れるとかチームにコミットするとか、そういう基準で見ると「普通」でした。
- 「普通の2人」でピッチの横幅全てをカバーすることはできない。札幌は宮澤と田中駿汰のピッチ右側でまずボールを動かしますが、ここでオフォエドゥを誘導して、石井とドゥンガの意識も寄せた後で、広大なスペースのある高嶺の左サイドに展開すれば、それだけでこの鳥栖の前線守備は難なく突破できていました。もっとも、普通じゃない選手でも、2人では横幅はカバーできないのですが。
撤退戦への移行も強度は確保されず:
- 鳥栖もこの2人のユニットによる前線守備が札幌相手に効くか、というと、そこまで期待していなかったようで、
石井が戻って3枚確保するけどそんなにボールに強く当たれない |
- 札幌が1列目を突破すると、石井はプレスバックに切り替えて中盤の2人と並ぶポジションに下がって、ボールサイドを高橋や福井に任せている間にファーサイドのスペースを埋めます。これで最低限3枚は確保して、スペースは埋めやすくなる、といった考えだったと思いますが、
- ただ石井が上下動しながらなんでもできるか、というとそれは無理で、あくまでスペースを埋めるだけの対応になっていました。ですので、↑の状態で札幌がまた右サイドにサイドチェンジすると、石井と田中駿汰のマッチアップになりますが、田中駿汰はこの時の石井が正面に立っているシチュエーションで、脅威を殆ど感じなかったでしょう。バックパスで逃げたりする選択は非常に少なかったと感じます。
- 鳥栖がもっと中盤でボールを狩りたいと思うなら、札幌が中盤に侵攻してきた時に5バックが最終ラインに残っているのは重心が後ろすぎるというか、例えば1-4-3-1-2のようなシステムにして中盤はもう1人必要でした。
- あくまでスペースを埋める程度の強度でしたので、26分のドウグラスオリヴェイラの得点が生まれたPK(荒野のスルーパスに小柏が抜け出す)の際も、荒野が中央の、鳥栖の中盤2人の脇にあたる位置で持っても、非常に緩い状況だったため決定的なパスが供給される下地になっていたと言えると思います。
札幌の突破口:
- 局面が中盤の”ゾーン”2に移行しても鳥栖はそんなに強度がない。札幌としては、先制点のシーンもそうですが、中央でボールを持った選手がクオリティを発揮しやすい状況だと言えます。
- 突破口になっていたのは、まず左の青木。ミシャはウイングバックに対しては最前線で張ることを要求しますが、そこから考えると青木は自由に振る舞っており、ボールを受けに下がってくることが多かったと思います。
- ただ、中盤にスペースがあり、対面の兒玉のことしか考えなくていい、守備負担もそこまで大きくない中では、この日の青木には兒玉との対面はeasy。簡単にドリブルで剥がして味方に時間を与えたり、その背後を狙う小柏との連携で、鳥栖陣内での打開役となっていました。
下がって受ける青木 |
- もう一つは、柳へのサイドチェンジで、こちらはボールを持って何かをする、というより、少々雑めなパスでも受け手というか競って五分五分にできる、という認識を、札幌の選手は持っているように感じます。
- 金子が右ウイングバックの際は、タッチライン際に張り、その足元にサイドチェンジからのドリブル突破、が多いですが、柳に対しては、鳥栖の左サイドを守る相良の背後に走り込んでほしい、というメッセージ性のある強めのパスを蹴ることが多かったです。3日前の湘南戦もそうでしたが、左ウイングバックの際の石川直樹のような役割、使い方を期待されているのかもしれません。
3.試合展開(後半)
カットイン発動条件:
- 後半頭から鳥栖はオフォエドゥ→酒井。酒井が主に右のFWに入り、高嶺のサイドの牽制は酒井の頑張りである程度は計算が立ちますが、田中駿汰とマッチアップする左のFWは前半に引き続きドゥンガ。田中が持ち運ぶとついていく素振りは見せるのですが、例えば、持ち上がった時に横のパスコースを切る立ち方をしないので、札幌は引き続き右サイドから試合を組み立てることができていました。
- 最初のチャンスは49分の、中央からのドウグラスオリヴェイラのドリブル突破。50mほど重戦車のような突進を見せましたが、シュートの余力も使ってしまっていたようでした。
- そして59分に右から左へのサイドチェンジ、簡単に前進した後で、青木が少しカットインしてからの巻いた素晴らしいシュート。金子の大外からのドリブルは完全に警戒されて、1人抜かれてもすぐカバー役の選手が見張っている状況ですが、このような完全に兒玉と1on1のシチュエーションだとWBの仕掛けも活きてきます。
- 鳥栖が64分に兒玉→湯澤、ドゥンガ→豊田。痛かったのは、酒井が恐らく負傷で71分に今掛と交代したことです。アフリカン2トップや豊田だと、どうしても圧力がかからないので追撃のためには酒井の頑張りは必須だったと思います。
- 鳥栖は今掛が右SBに入り、湯澤が前の1-4-4-2に変更。札幌は1-3-4-2-1でそのまま対処できなくなったことで、ややかみ合わせが悪くなり、鳥栖が前進する機会も増えます。ただ、依然としてGKとDFの主力がいないことで、ポジショナルプレーのボトルネックが解消されたわけではないので、最後ゴール前は豊田のエアバトルしか脅威がなく、ATに1点を失いましたが大きな問題はなく逃げ切りました。
4.雑感
- 見せてくれスカパー事件のおかげで記事を書く気がかなり薄れましたがなんとかやりました。
- 個人に対する印象では、高嶺はこういう相手(自分に対する対応が不明瞭)だとconducciónするんだな、という発見がありました。青木は得点以外もらしさを見せていましたが、恐らくリーグ戦でウイングバックをそこまで自由にさせてくれるチームはない。ただ菅だけではないオプションが加わることは歓迎すべきです。
- リーグ戦では鳥栖との対戦が2試合残っていますが、GKパクイルギュに対する守備をどうするか。戦術理解力を考えるとジェイでは無理で、アンデルソンロペスしか考えられないのですが、カップ戦2試合とは全く別の展開になるでしょう。
- それでは皆さん、また逢う日までごきげんよう。
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