2021年5月27日木曜日

2021年5月26日(水)明治安田生命J1リーグ第16節 北海道コンサドーレ札幌vsサガン鳥栖 ~何が起こるか見てみよう~

1.ゲームの戦略的論点とポイント

スターティングメンバー:

スターティングメンバー
  • 依然としてとしてハードな日程が続くシーズンですが、ボール保持:1-4-1-3-2、ボール非保持:1-5-3-2のようなシステムの鳥栖はほぼ全ポジションでメンバーを固定しています。
  • この日のスタメン以外だと、前線の2トップに酒井宣福や林が入ったり、札幌から期限付き移籍のよし君こと中野嘉大がここ2試合、左MFの小屋松のポジションで活躍したりはありますが、他はほぼこのメンバー。ここまでは素晴らしいシーズンを送っていますが、今後はコンディション維持もポイントになりそうです。前節の鹿島戦に続いて本田が起用されているのは、ディフェンスに理由があったでしょうか。
  • 札幌は、得点ランキングトップのアンデルソンロペスが前節負傷交代、最終ラインのファイター・キムミンテがシーズン2度目の退場処分で2試合出場停止。いずれも起用できれば、鳥栖相手にはキーパーソンとして期待されるので痛い状況です。タイ代表への合流を控えるチャナティップは、全体練習に復帰しておりベンチスタート。

サガン鳥栖の狙いと設計を考える:

この項目は試合前に書いています。(鳥栖は林がスタメンだと思ってました)
  • ルヴァンカップでも少し触れましたが、先日のリーグ戦(vs鹿島)を踏まえて鳥栖について改めて整理します。先に書いておくと、メンバーを固定したい事情が非常に頷ける設計になっています。
  • 鳥栖が自陣でボールを握ると、必ず例の4バック気味の陣形…高校3年生の中野伸哉が左SBに移動して、左のWB(小屋松or中野嘉大)が中央寄りに移動、後方ではGKパクイルギュとCBエドゥアルド、ファンソッコ、中盤の松岡の4人でひし形を作ります。
  • 一般には、ディフェンス側はコンパクトかつ相互にカバーリング可能な位置関係をとることがセオリーですが、縦横に適切な選手間を確保したひし形の陣形は、”列”で守ることを難しくする(完全に消しきるにはマンマーク気味の対応が必要)。
恒例の3バック⇔ボール保持用の4バック変換
  • 後方のひし形でボールを回して、相手のプレッシングを誘発し、スペースを作るというか、相手が前がかりにになるシチュエーションを誘発している、と言った方が近いでしょうか。
  • スペースというのは便利で曖昧な言葉ですが、鳥栖が使うスペースはピッチの中央にできるというより、相手DFの背後にまずボールを蹴る傾向が強い。中盤でのボール保持の余地は残しているものの、中央のスペースを使うのは最小限にしている印象で、これは失ってカウンターからの被弾、のリスクを考えているのでしょう。
  • 最終的にはエドゥアルドか、GKパクイルギュから中央~右サイドへのフィードを狙います。ですのでこの2人がまずキープレイヤーで、エドゥアルドは貴重な左利きのDF(頻度はそう多くないが左方向にも展開できる)。パクイルギュはプレス耐性に優れ、相手を引き付ける能力が高い。札幌もそうですが、GKにバックパスしたはいいけどGKが雑なフィードで終了してしまうチームは多くないですが、パクイルギュは殆どそれがなくて意図のあるボールを蹴ります。
ロングフィードでの前進とセットのトランジション
  • それでもロングパスというのは、本来は確度が高い攻撃とは言えない(福森は本当にレアな存在です)。ですので鳥栖のパクイルギュにせよエドゥアルドにせよ、ロングフィードはある種”失敗する前提”でトライしていて、本筋はそれが相手に渡った後の展開にあります。
  • よくあるパターンは、相手CBの背後なりSBの背後に蹴ってカバーリング役の相手DFが回収→近くの味方に渡したところで、鳥栖のFWは必ずボールホルダーに即時プレスバックする。通常、近くには樋口や飯野がいるので、2~3人ぐらいはボールホルダーを包囲してカウンタープレスを狙います。この間、最終ラインは5バックになるようにポジションを取り直し、ボールを奪えればスペースがある左サイドに展開するとか、また右の飯野の攻撃参加で、DFが整う前にシュートまで持ち込むのがメインのパターンです。

  • 冒頭の話に戻ると、メンバーを固定したい事情は、このスタイルを高いクオリティで遂行できる選手が限られるから。
  • GKは言うまでもなくパクイルギュ。最終ラインはエドゥアルドと、中野はポジションを調整しながら攻撃参加ができる。前線にはパワフルで献身性のあるFWが欲しい。そして右SBの飯野はボールを持たない状況でのアップダウンもそうですが、右サイドにスペースがあると強引に突っ込んでボールを運ぶ役割も持っていて、これは2019シーズンに優勝した横浜F・マリノスのマテウスの役割に似ている印象を受けます。ルヴァンカップでは彼らのような無理が効くメンバーがいなかったこともあって、札幌が2試合とも勝利しました。
  • この選手配置で2トップを、中央レーンに(被り気味に)2人並べるのは珍しい気がします。だいたいここに2人割くなら1人は中盤か、高い位置のウイングに回すかなという印象です。おそらくこれは、ヨーロッパのチームのイメージで1トップにすると、日本人選手だとタスクが多すぎて上手く回らない(しかも鳥栖のFWは収める役割とかはあまりないが、プレスバックを頑張る必要がある)ので、2人、しかも山下とBeast林だと似たタイプですが、負担を分散させつつ相手CBをピン止めしているのでしょう。

2.試合展開(前半)

鳥栖の札幌対策:

  • 試合前にDAZNのフラッシュインタビューで、金監督が「札幌対策をしてきた」と明言していたので、何だろうと考えながら見ていました。
  • 一方、試合後の鳥栖陣営のコメントは、「札幌と1対1でやりあう展開は分が悪いから、局所で数的優位を作っていくのが基本戦略だった」とする旨の話で共通しています。これに加えて、ピッチ上での事象を見る限り、鳥栖は仙頭を下がり目に配置して、ビルドアップの出口を作れるか模索するというか、札幌の選手がついてくるか試していたのではないかと思います。
  • もっとも試行の結果はすぐに判明し、高嶺が最初から仙頭にぴったりとついてくる。仙頭が前を向く形からの展開はあまり見られませんでした。
仙頭を下がり目に配置して宮澤を動かす

そこまで強なんでじゃないんで:

  • 後は、同数守備攻略の定石と言えるのが、札幌の最終ラインとシンプルに勝負する。最終ラインには本来カバー役が必要であり、リスクを負うのは札幌の側だからです。金監督のコメントからは「簡単に蹴らないように」とする旨の話がありますが、普段から鳥栖はロングフィードをよく使うので、「考えてやってこう」ぐらいの話で押さえておきましょう。
  • この時、ターゲットは山下で、山下と宮澤の1on1の関係性が強いのですが、山下がサイドに動くと宮澤はマークをスイッチしないでついてくる。ですので、札幌は中央にスペースができやすい構図ではあります。
  • ただ、こちらの山下は184センチあるようですが、背負った状態でのエアバトルはそこまで強なんでじゃなく、宮澤が難なく対処というか跳ね返すことが多かったです。というか宮澤が強いだけかもしれません。ジョーやダミアンにもそこまで乾杯ってほどでもなかったですし(むしろ地上戦の方が嫌ですかね)。
  • 冒頭に書きましたが、鳥栖は競り合いの後のトランジションが特徴のチームですので、札幌がパクイルギュのフィードをしっかり(ヘディングの飛距離が充分である など)クリアできるかは重要です。この形からはそこまでまずい展開になる感じはしませんでした。

優先順位がわからない:

  • 札幌で、よくわからなかったのはジェイと小柏のところの強度で、小柏は恐らくパクイルギュとエドゥアルドを両方見れるポジションに立って、最初はエドゥアルドにボールを出させてからプレスを開始する。
  • よくアトレチコマドリーなんかは、どっちかの(あまり得意ではない方の)CBに持たせてからプレス、をやっていて、それを鳥栖にやるならファンソッコを空けておいて持たせるんでしょうけど、恐らくジェイだとそれが無理なので、小柏がエドゥアルドを空けて、そしてパクイルギュにも一定のエネルギーで守備をしないといけないので、中間ポジションからスタートしていたのでしょう。
  • ただ毎度のことながら、ジェイがいるとどうしても不整合というか、恐らくミシャはもっとここで強度を出したいのですが、ファンソッコと一定の距離に立っているだけのジェイだと、実質小柏vsパクイルギュ&エドゥアルドの1on2みたいな状況で、ここは優先順位が何だかわからない状況でした。

最後にどうするか:

  • 札幌がボールを持っている時の話をします。
  • 普段と比べて札幌にポジティブな材料があるとしたら、まず高嶺が左、宮澤が右、深井が中央のポジションで固定されることが多かった点です。おそらくこの形は宮澤や深井を中心に考えているのでしょう。彼らが出ている試合では味方に対して具体的な指示(ポジションから動くな、ドリブルで運べetc)をしている様子がよく見られます。左利きの高嶺は左にいた方がいいですし、中央に1人残すなら深井。
  • 札幌は、駒井や荒野に多いですが、中央から動く(ボールに寄る)意識が強いと、ピッチ中央に誰もいなくなってしまいますし、そうなると必然と最終ラインと前線との間で雑な放り込みが多くなる。▼のようなシーンは中央に人がいないと実現しません。よく「バランスをとる」と言いますが、具体的にはこうした判断や選択を指すでしょうか。

  • 鳥栖は、札幌の台所事情(荒野が本調子でなく、チャナティップが使えないなら駒井は1列前)と、深井や宮澤の選手特性を考えてこのスタメンをチョイスしたならば、かなり冴えていると思います。
  • というのは、山下と本田(本来はMF/下がり目のFW)が縦関係になることが多く、この役割なら林ではなく本田が適任、という判断もあってスタメン起用されたのでしょうけど、普段は札幌は、深井以外の選手は下がってプレーすることが多いので、縦関係にしてアンカーのポジションをケアしようとは思わないでしょう。

  • 鳥栖は5バック+3枚のMFでブロックをセットして、基本的には引いて守るよりもプレッシングの志向性が強い。
  • ですので、縦関係の2トップの脇(結構なスペースがあります)に樋口と仙頭が高い位置から出てきて、宮澤や高嶺に制限をかけますが、宮澤→田中駿汰に流すことで、ここを札幌が簡単に剥がすことができる。すると、鳥栖は連動する形でWBの小屋松が出てくることが非常に多く、札幌の大外の金子拓郎には中野がスライドして対応。
  • 金子にはずっとマークがついていてスペースがない状態というより、このスライドの分は鳥栖の対応が遅れるので、これまでの試合と比べると比較的、金子は仕掛ける余地があったと思います。
右サイドは終始札幌優位

  • 前半の途中から、中野は金子への警戒を少し強めると、今度は小柏が右シャドーの位置で空くことになり、駿汰や宮澤からの縦パスを収めようとして、時には低い位置まで下がってプレーすることにもなる。
  • ただ、こうなると小柏が前線の、シュートを最後に撃つポジションからどんどん遠ざかり、フィニッシュ以外の負担が増大することになります。FWとして見ると、前で張っていてボールを最後に届けてもらう、届けてもらった状態で簡単に前を向けるのがベスト。札幌が前進に難のあるチームであるなら猶更で、全般にFWには負担がやや大きいシチュエーションではありました。
ゴールから遠くかつ背中を向けた状態が多くなる

3.試合展開(後半)

勝負の一手:

  • 後半から札幌はジェイ→青木に交代。なかなか普段ないタイプの選手起用で、ジェイ本人曰く特にコンディション等は問題ないとのこと。であれば投入の意図は、ディフェンスから考えた方が良いでしょう。
  • ボール非保持で、青木はそのままジェイの位置に入るのですが、鳥栖のフィールドプレイヤーが4枚(エドゥアルド、ファンソッコ、松岡、仙頭)顔を出してくるエリアを、札幌は青木、小柏、駒井の3枚で見るようになります。
  • 恐らくこれによって、後方の枚数確保がしやすくなるというか、この試合は後方を+1で守った方が安定する、特に鳥栖のトランジション対策で深井と高嶺を真ん中に置いた方がいい、ということだったでしょうか。鳥栖は相変わらずファンソッコを使わないこともあって、実際に札幌はここで「-1」の枚数関係でも問題なくやれていました。
前を1枚削って後ろを1枚増やす


最大のチャンス:

  • ジェイがいなくなったことで、フィニッシュでは小柏と青木に期待が集まります。言うまでもなく、2人とも前を向いたときに特徴が発揮される選手なので、どちらかというとこの展開だと、トランジションからそのまま彼ら(もしくは、右の金子)にボールを渡して時間をかけずにゴール前へ、という展開が多くなります。この点でも、ジェイがいなくてもゲームとして成立することは一定は見せていました。
  • 58分に、まだスペースを享受できていた金子の右サイドでの縦突破から、マイナスの折り返しを菅が合わせて先制。に思えましたが金子のオフサイド判定でノーゴール。
  • これが結果的に痛かったのが、高さのない前線を活かすにはグラウンダーのクロスボールは有効に使っていきたいオプション。また鳥栖は5バックの前の中盤3枚に、松岡以外はあまり守備が得意ではない選手を置いていることあり、このDF-MF間のスペースはケアされておらず、このシュートのシチュエーションでもかなりスペースが空いていました。ノーゴール判定でこの鳥栖の”エラー”を見せてしまった後は、松岡が早めに戻ってケアするようになり、同じ形の攻撃は二度と成功しなかったと思います。

  • 鳥栖は59分に山下→林。この後は膠着気味の展開になっていきます。札幌は、依然として鳥栖の主要なパターンは消すことができる。ボールを奪った後は、右の金子のカットインから中央の小柏、左の青木への展開で鳥栖ゴールに迫り、小柏や駒井がペナルティエリア付近でスペースを得てシュートを撃ちますが鳥栖のブロックに阻まれます。
  • 74分に福森→荒野、駒井→ルーカスのカードを切って、金子をシャドーに置く形に変えますが、依然として右サイドはルーカスだろうと金子だろうと札幌優位。鳥栖は対面の小屋松と中野を変えて対抗するも、このサイドでドリブルを開始するところまではできていました。ただ、ラスト10分は鳥栖が完全にスペースを消す対応に変更し、札幌としては打つ手がなくなったように思えます。

雑感

  • ダイレクト、ワンタッチなど「クイックで即興性のあるプレーによる攻撃」が好きな人には評価できるゲームだったでしょうか。マイナスクロスに合わせた菅の幻のゴール以後、鳥栖はよりスペースを消してきましたが、それでも一定は攻めることができたのはクイックなプレーを多用していてそれが刺さっていたから。選手交代もラスト20分で福森を下げるなど、一部の選手が使えない中で、これまでに見られない試みが見られたのは事実です。
  • ただ、引いた相手を崩すために必要なのは、ワンタッチプレーよりも本質的にはスペーシング。なるべくボールを引き付けて、スペースがあればドリブルで運ぶ。この点では、個人名を挙げるなら、いつもよりも中央でプレーする意識が強かった深井の貢献が大きかったでしょうか。
  • また、これまでの傾向からいって、このチームは目新しいことを一度やってみると悪くないけど、それがベーシックになると徐々にパフォーマンスが下がっていく。このような試みが今後も継続していくかどうかを見てから議論するとしましょう。

  • ジェイがいる時間帯にもっと放り込むべきだった、とする意見を見ましたが、前半その気になればジェイに簡単に放り込むことはできたはず。それをしなかったのは、またこの試合もペースをコントロールしたかったのでしょう。
  • そして小柏が決定機をものにしていれば勝ってた、これはそうと言えばそうですね。ただ、前半はジェイとの併用の関係で小柏のタスクが多い状況でしたし、ゴール前に顔を出せないことも多かった。後半彼が1トップになると高さのオプションを失うのですが、それを言ってしまうと、前半ジェイを起用していた時もカウンターのオプションを失っていた状態だとも言える
  • 今日に関して言えばジェイをスタメンに選んだ理由が弱いかなと感じました。コンサラボあたりで掘ってほしいのですが…

1 件のコメント:

  1. ジェイって元イングランド代表て訳でもないでしょうが、
    中世騎士代のロングソード(諸刃の剣)ですよねえw
    ジェイに放り込むのはアッタッキングサードよりも、
    ミドルサードに位置してる時の方がマークも多少緩くて裁き易いのかな?
    ゴール前じゃーマークが厳しすぎ!

    菅ちゃんをシャドーで、使えないもんですかねえ~
    まあ、ゴール前で気の利いたタスクは無理っぽいけど、
    シュートのパンチ力はありますよねー
    ユース時代はFwですし…
    福森の近侍は駒井には無理かな?

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