2017年1月29日日曜日

北海道コンサドーレ札幌の2016シーズン(4) ~戦術:エメルソン→戦術:ウィル→戦術:ダヴィ→戦術:?~

1.チームは生き物


 「チームは生き物」…だいぶ前に聞いた、誰の言葉だったか忘れたが、長丁場のリーグ戦はまさにこの言葉の通り。7月にセレッソ、岡山、松本と続いた上位対決を1勝2分けで乗り切り、7月を終えた時点(26節、熊本地震の影響で1試合未消化)で、札幌は1試合消化が少ないながら2位に勝ち点差5、3位に勝ち点差8をつけて首位を快走していたが、幾つかの不安要素が露見されつつある状況だった。
7/31(第26節消化)時点での順位表

2017年1月15日日曜日

北海道コンサドーレ札幌の2016シーズン(3) ~先行逃げ切りスタイルの裏~

1.前書き

1.1 最終節金沢戦・二つのイデオロギー


 シーズン最終節、33,000人の観衆の前で勝利を狙わず、引き分けに持ち込んだ金沢戦の戦い方は大いに議論を呼んだ。主な主張は、「リスクを冒して負けたら入れ替え戦行きなんだから当然だよ」派vs「金払って久々にスタジアムに来た観客に見せる試合じゃないよ」派といったところだった。
 個人的には、最終節の記事で書いた通り、リスクを冒して負けてしまえば、野々村社長や四方田監督の言う通り、シーズンの努力が無になってしまう可能性がある以上、エンターテイメントのためにリスクを冒せ、というのは違うと思う。ただ、一部のサポーターは、プレーオフに回った松本山雅FCの戦いを見て、プレーオフに回らなくてよかった、という思いから考えを改めた人もいるようだが、そうした「いかにファン・サポーターを呼ぶか」という視点を持ち続けること自体も確かに重要である。
その状況で敢えてリスクを負ってコンサドーレはゴールに向かう必要は全くなくなりました。
なぜなら勝点1を積み重ねれば優勝&昇格だからです。
個人的にはこの価値(優勝&昇格)と天秤にかけてラスト5分にリスクを負うメリットが見つかりませんでした。
千葉戦の様な筋書きのないドラマもスポーツの醍醐味ですが、非情な現実を突きつけられるのもまたスポーツの一面です。

        ― 都倉賢 オフィシャルサイト「ラスト5分に思うこと」


1.2 (別の視点から)最終節・金沢戦の伏線

<割り切った試合運びの連続の末に掴んだチャンピオン>


 一方、こうした一種のイデオロギーの衝突的な話と別の視点から考えると、そもそも札幌は2016シーズン、戦術的な理由から、試合の最後までもたない戦い方をしていたと思う。具体的には、都倉は「ラスト5分」と言っているが、リードして70分頃を迎えれば意図的にゲームのペースを落とし、攻撃の頻度を少なくしたり、または相手が比較的、力のあるチームならば終盤に一方的に攻め込まれるような試合展開も何度か見られた。もっともこうした戦い方・試合展開は、いずれも札幌がリードしている、このままの状態で試合を終えれば勝ち点3を獲得できる状況だったため、一概には「金沢戦と同じ」だとは言えないが、90分を戦い切らずにゲームをクローズすること自体は今シーズン、何度も見てきた光景だった。


2017年1月3日火曜日

北海道コンサドーレ札幌の2016シーズン(2) ~窮地を乗り切った最高の発明~

1.形成されていく骨格

1.1 勝率を高めるボール保持メソッド(3-1ビルドアップ)の確立


 4月後半から5月にかけては6連勝を飾った札幌。1連勝目となったセレッソ大阪戦は、どちらに転んでもおかしくない試合展開だったが、続く徳島、金沢、水戸、讃岐、山口戦では(少なくとも我々の知っている札幌にしては)ある程度ボールを安定的に保持し、試合をコントロールすることができていたと思う。
 札幌が勝ちを重ねた時期は、競争意識を植え付けさせようとした四方田監督が試合ごとに選手起用を少しずつ入れ替えてはいたものの、コアとなる選手は徐々に固まっていった時期だった。
 特筆すべきは、開幕戦との相違点でもあるCB中央の増川、左CBの福森、ボランチの深井のスタメン定着。この3人に右DFの進藤を加えた「3バック+1」でダイヤモンド型を形成して行うビルドアップが定番となっていく。
 やっていること自体はシンプルかつベーシックで、3バックが横幅を取り(福森と進藤が開く)、深井が相手2トップの間にポジションを取る。中央の深井はオトリにして、主に進藤か福森のところからボールを前進させていくのだが、J2で2トップのシステムを採用しているチームの多く(特に下位チーム)は、3バックでの組み立てに対して2トップ脇を巧く守れない。そのため進藤と福森…特にドリブルでどんどん持ち上がれるスキルのある福森は、相手チームの雑さに気付くと、簡単に敵陣にボールを運んで攻撃機会を創出することができる。
アンカー(この時は稲本)が中央2トップの間
※画像は負け試合…町田戦
サイドのDF…福森を明けやすくなる ※画像は負け試合…町田戦
(この時は町田がうまくケアしている)

1.2 ボール保持からの狙い


 そしてファーストディフェンスを突破し、ボールを敵陣まで運んだ後の狙いとしては、恐らくだが中央からの崩しよりも、サイドからの仕掛けを重視していたと思われる。その根拠は、単にあまり中央突破による崩しや得点があまり見られなかったということと、小野を欠いたトップ下にジュリーニョを置いたこと。中央での崩しを意識するならば、トップ下なり2トップの一角に、狭いスペースでもプレーできる(もしくは、それを志向する)選手を置くのが一般的だと思うが、ジュリーニョは主にブロックの外で受けてドリブルで仕掛けたり、前線にFWとして張り付いたりと、まるで攻撃陣のフリーマンのような振る舞いが試合を重ねるごとに多くなる。
3-1ビルドアップからの狙い ※一応色は今年のユニの色から

1.3 ハマった迎撃守備


 また4月~5月の戦いで勝ち点を積み重ねた裏には、相手にボールを持たせた際の守備対応が確立されてきたことも要因として挙げられる。
 札幌の守備が最も安定していた時期のやり方を一言で評すれば、やはりFW(前3枚)の中央封鎖→サイドに追い込むプレーから始まっていて、FWがサボらずにタスクを遂行できれば、下の図のように後ろは釣り出されるなどして、最終的に守るべきゾーンにいない、ということが少なくなる。
FWが中央を切り、サイドに追い込むところからスイッチが入る

 守備に関して個人で言及するならば、ク ソンユンは別にして、都倉と進藤だろうか。
 都倉はFW陣の中で最も優秀なDFで、自慢の身体能力は攻撃面よりもむしろ守備面で発揮されたシーズンだったかもしれない。体力が残っている時の、相手SBに寄せる際の圧力は尋常ではなく、味方と連動しなくてもボールを単騎で奪ってカウンターに繋げることすらできていた。無論そこまで望まなくても、体力だけでなく勤勉さや、強い責任感といったパーソナリティも関係しているのか、体力が続く限りは守備をサボることは殆どなかった。

 進藤は恐らく、この守備戦術の恩恵を最も受けた選手。あらかじめ低めにラインを設定し、裏を狙われるリスクを矮小化したうえで、上の図や下の写真のようにFWとMFがコースを限定してくれれば、DF(ストッパー)としては前方向、楔のパスを潰すこと(=迎撃)を最優先に考えればよい。
 櫛引との競争に勝ち、開幕からしばらく進藤がレギュラーの座を守ったのは、若さゆえの怖いもの知らずな面もあったのか、"前方向の守備"にだけ関していえば櫛引よりも上だと四方田監督が判断したこともあったと思われる。実際進藤は序盤戦は1試合平均のインターせプト数がリーグでもトップクラスの数値を記録する等、四方田監督の期待に十分に応えていた。

FWがパスコースを限定させると迎撃守備がハマりやすくなる

2017年1月1日日曜日

北海道コンサドーレ札幌の2016シーズン(1) ~辣腕社長の描いた"小野システム"の破綻と四方田監督の僥倖~

1.前書き

1.1 ピッチ上のことを論じる前段階・前提条件


 2016年シーズンのコンサドーレを語る上でまず、野々村芳和社長、及び社長主導(と、経緯からして思われる)で連れてきた小野、稲本といった選手の存在は外せない。
 何故野々村社長が小野に拘るのか。主に理由は二つで、一つは野々村社長が常々口にする「クオリティ」という言葉…発言を読み解いていけば、それは攻撃におけるフィニッシュやそのひとつ前のラストパスといった部分のプレーの精度を指しているが、特に後者において小野の存在が得点期待値を高められるとの考えから。もう一つはピッチ外の部分、人気選手である小野が活躍すればクラブの広告価値やブランドが高まるといった経済的恩恵が見込めるから。前監督バルバリッチの解任・四方田修平監督の就任の経緯から考えても、2015年7月にバトンを受け継いだ四方田監督の喫緊の課題は、「小野をピッチに立たせたうえでチームを機能させること」であった。ピッチに立たせるだけならば誰でもできる。ただ、それをチームとして機能させるかどうかは別の話。
 結局のところ、バルバリッチは7月に解任され、小野は17試合で2得点という成績だった。ニウドや内村、荒野、古田、中原らを3-4-2-1のシャドーで起用したバルバリッチは得点力不足に苦しんだ。小野をトップ下に据えた3-4-1-2にシフトして戦った四方田監督は、1試合平均でバルバリッチ以下の勝ち点しか獲得できなかった、といったいくつかの事実は残ったが、小野を使わなかったバルバリッチの判断(もっとも、そもそも小野がピッチに立てないコンディションだった期間も決して短くはなかったが)の是非に対する認識はその人によるだろう。