0.スターティングメンバー
スターティングメンバー&試合結果 |
- 共にリーグ戦から中3日。マリノスは両SBと、CBのチアゴ マルチンス、トップのジュニオール サントスはターンオーバーで一定の休養を与えたうえで札幌に乗り込んできました。
- 札幌は前節途中出場の高嶺がスタメン復帰。最終ラインと前線は、3日前にドームで名古屋相手に一定の成果を収めたユニットをそのまま流用しています。ジェイ、深井がベンチ外、宮澤もベンチスタートと、数ヶ月前までなら考えられなかったメンバーで今シーズン一のビッグゲームに臨みます。
1.基本構造
1.1 札幌のスタメンから推し量る狙い
- 1ヶ月半で3試合目なので流石に書くことが乏しくなりますが、さくっと両チームのスタメンから狙いを推し量ってみましょう。
- 札幌は最終ラインとアウトサイドは現実的に、このレベルのゲームで起用できる選手が限られています。ミシャが遂にキム ミンテがDFをやれるという記憶を取り戻したので、後はせいぜい右DFが田中か進藤か、といったチョイスしかありません。
- その中では、中盤が比較的選択肢が豊富で、スタメンの3人以外にも宮澤と深井(怪我ではないですよね?)、あるいは田中をアンカーにしたり、中野を入れたりと採用実績のあるオプションは存在します。その中でこの3人が選ばれたのは、マリノスに勝つには攻守の切り替え(トランジション)における「早さ」と「速さ」が欲しかったからです。
- ドームで甘い成功を味わい、小机の巨大な建造物で現実を知った今、マリノスとの明白な差を90分間だけ縮める”マジック”は、ひたすら相手の時間を奪うプレスと、切り替えの隙とハイラインのプライドを突いた裏抜けアタックしかありません。
- ですので、マリノスの中盤の選手がどこにいようと必ず捕まえることが荒野、駒井、高嶺の3人には求められる。誰かが一瞬目を離してスペースを作ると、日本一スペースの創出と活用に優れたチームによって5秒で粉々に破壊されます。
- このハードなタスクをこなしつつ、ボールを奪った後の”速さ”がMFにも欲しい。何故なら、シーズン途中で急遽ポリシーを曲げ、「9番」を置かないことにし、そして武蔵を送り出した札幌は相手の背後を強襲できるFWがいないことがここ数試合で明らかになりました。ジェイは問題外、チャナティップはスペースに飛び出すのではなく、その身体的特性はスペースがないところで活きます。となると、スペック的にはアンデルソン ロペス、ドウグラス オリベイラのコンビに期待がかかりますが、この2人もチアゴ マルチンスとパク イルギュに対する解決策にはならない。
- 要するに札幌のトータルフットボールは、2トップだけだと攻撃が完結できないので必ず2列目のサポートを必要とするのが現実です。それでもチャナティップとアンデルソン ロペスのコンビが採用されているのは、マリノスのCB2人に時間を与えないことを考えると消去法でこの2人しかいないため。
- 「早さ」はあっても「速さ」がない宮澤や深井がベンチを温めるなら、選手特性的にはチャナティップも幾分かはこの2人と近い座標にあるので、67分でピッチを去ったのは”今のポリシー”においては妥当だと感じます。
- スタート時点は、中盤は荒野がアンカー、高嶺が左かな?と思いましたが、後半は高嶺がマルコスジュニオールをずっとマークしていました。中盤の選手の中では、前線に進出した時に最も期待できるのはサイズと力強さのある荒野。高嶺は前目もできますが、ビルドアップを助ける能力に秀でるので配置換えがあったのかもしれません。
1.2 マリノスの狙い
- 一方のマリノス。4つのタイトルを狙うチームは、札幌とは異なり意識的に、起用できる選手のオプションを各ポジションに増やしています。
- 特に前線はスタメン以外にエリキ、オナイウ、松田、水沼etcといったオプションがありますが、結果的にはマリノスは最速のユニットをチョイスしてきました。この理由も明快で、マンマークの札幌はスペースではなく人を守るので、マリノスの選手が移動するだけで(というか移動しなくても)前線にスペースがある。そこに速い選手を走らせてスピード勝負で、スペース管理もしないし足も遅い札幌のDF相手なら速攻で決着がつく、と考えていたのではないでしょうか。
- ルーカスフェルナンデスにはこの日もティーラトンではなく、高野をぶつけています。ただ高野は小机での一戦よりも、大外を守るだけでなく中央に入ってルーカスを動かそうとしていたように感じました。
1.3 重装備と鞭の重要性
- 戦術的には、大枠では7月、8月のリーグ戦と異なり特に目新しい要素は見られませんでした。それでもディティールの調整と徹底によって、本来の力の差よりも接戦になったと感じます。
- 札幌が徹底していたのは、ボールと反対サイドのウイングバックの守備参加です。特に、前節PKを失敗してミシャのご機嫌を大いに損ねたルーカスフェルナンデスは人が入れ替わったかのように走り回っていました。これで左の菅と併せて、マンマークでありながら枚数を確保したい最終ラインは4バックのように振る舞うことができたので、↓のようにマリノスの右サイドからの展開では、福森は仲川を背後から密着マーク、キムミンテと田中は躊躇なくファーサイドを捨てて、中央のジュニオールサントスを見つつ、その突進してくるスペースを消すことができていました。
- ルーカスが干されるんじゃないかと心配していた人もいたみたいですが、それはありえません。何故ならルーカスがいないと勝てないからです。サッカーの唯一の目的は試合に勝つことです。その努力を怠る監督が何年も国内のトップリーグで仕事を得ることはできません。何を離したのかはわからないですが、落ち込んでいた選手を中3日で最高の状態に持ってきたのは誰でもできることではありません。
- なお、福森はやはり攻撃参加を封印して仲川を消します(
普段からこれくらいやってくれれば)。マリノスは簡単に背後を取れない状況でした。
ファーサイドのウイングバックの献身的なカバー |
- 先週の対戦でマリノスのスピードに乗ったアタックが炸裂したのは、GKとCBとアンカーを使ったビルドアップで札幌の1列目を剥がして中盤にスペースを創出してからでした。この日のマリノスは、札幌の果敢な前線守備の効力と、カップ戦1発勝負というシチュエーションも影響してか、1列目を剥がせない状態で前線にボールを送り込みます。1列目を剥がせていないと、札幌のマークもズレていない状態なので、スピードで劣る札幌DFもボールの出所を呼んで対処できていました。
- そして特筆すべきはキムミンテの存在です。ジュニオールサントスとのマッチアップが典型ですが、ミンテはその超人的な運動能力によって、高い最終ラインで守りつつ、人を見ながら味方のカバーリングができる稀有な選手です。ジュニオールサントスだけでなく、その右手にスキンヘッドの選手、その背後にもスキンヘッドの選手が背後を狙ってきますが、ミンテはいざとなるとマーカーを捨ててボールに突っ込んで、かつ追いついて処理してしまう。ギャンブルプレー(メガネクイッ)とも言えますが、サッカーでは無理がきく選手は非常に重要です。
- ミンテの存在によって、スピード重視のユニットを揃えたマリノスの計算はかなり狂ったと思います。ただ、後半になると手で止めざるをえない状況もいくつかあり、ミンテ1人ではかなり難しい相手でもありました。
2.登れるところまで
- 前半マリノスはシュート0本でした。これは純粋に、札幌のゲームプランがうまく機能したと言えるでしょう。
- 対する札幌はこれまでと同じく、ひたすら裏狙い及び右のルーカスへの展開を繰り返します。ルーカスはおじいちゃん子なのかもしれません。この日は体力が落ちる終盤までは攻守とも1on1で高野を圧倒し、度々チャンスを構築します。
- 札幌の問題点は、2トップがあまり最終ラインとの駆け引きが巧くなく、裏へのボールがオフサイドで攻撃機会喪失に繋がることが多かった点です。スピードで勝負できないことはない(はず)のアンデルソンロペスがオフサイドラインの設定で無力化されることが頻繁にあるので、中央突破の機会はわずかでした。
- パクイルギュの前進守備があるので、裏に走らせるパスには一定の精度も求められます。その点では11分の福森からロペスが(結果的に)スルーして、右からルーカスがダイアゴナルランして拾ってシュート(パクイルギュが横っ飛びセーブ)は大きなチャンスでした。
- 後半も同様の展開で始まります。札幌の53分の先制点は、この日のピッチ上で最高のパサーである福森のパスが駒井に渡ったところから生まれました。裏に抜ける選手はいますが、パスの質が伴ってようやくゴールに繋がりました。
- その後も札幌は前線からのプレスで引かない姿勢を見せますが、恐らく65分頃から疲労の色が濃くなります。何度も書きますが、ハイプレスを90分間継続することは基本的には無理なので、どこかでペースダウンしたりゲームをコントロールすることが望ましい。しかし、急造チームにはそのような気の利いた装備はないので、体力に任せて登れるところまで山を登って、後は根性で生還するようなサッカーしかできなくなります。
- マリノスの同点ゴールは77分。右サイドの仲川への展開がタッチラインを割りそうなところで仲川が残し、菅と対峙します。菅もさすがにこの時間帯は疲れがあったか、それとも仲川のスピードを恐れて飛び込めなかったか。下がるしかない対応で松原のミドルシュートを、最後は途中出場の天野に押し込まれてしまいました。
- マリノスも交代カードを3枚しか使っていないのですが、札幌は結果的に5枚使ったものの、「誰が入ってもスタメンよりも機能性が落ちる」というスカッド上仕方ないとも言える問題に直面します。特に、中盤の荒野、駒井、高嶺の疲労は、マルコスジュニオールをはじめとする選手のマーキングの問題と、ビルドアップでの後方支援に大きく影響し、マルコスを後半マークしていた(ファウルすれすれの対応でイラつかせていた)高嶺の足が止まると、反撃は福森のセットプレーしか見込めないところでした。
- PK戦ではその福森が失敗し、今年の冒険は終わりを告げました。
雑感
- 戦術的には今更特筆する話がないのでさくっと書きます。このプレースタイルの採用を前提した時に、チームとしては、選手、スタッフ、戦術面全てで現状のベストを出し尽くしたゲームだったと思います。しかしそれでも、日本で3指の高い山に登るにはあまりにも軽装備でした。
- これまでシーズンの半分以上で本職ではない選手が起用され続けたCB中央のポジションに入った、”重装備”キム ミンテが本来のパフォーマンスを取り戻し、再三チームを救いましたが、このミンテのポジションはいいとして、他のポジションでは急造チームゆえに明らかにスカッドとのミスマッチが見受けられます。
- 繰り返しになりますがジェイ、深井、そして宮澤やチャナティップも、このスタイルでは居場所が危うくなります。それはチームが正しい競争関係にあるとして好意的に捉えるべきか。それとも予算が限られたチームが自ら首を絞めていることになるのか。とりあえずは、シーズン最大(になりそうな)ゲームが終わったことで、この点が本当に正しい方向に進んでいるのか、再考する必要があると感じます。
- そして中3日で、今日のように毎試合走ることは現実的には不可能です。ルーカスや高嶺がこのパフォーマンスを継続できるのは65分までと考えると、それまでに2点が必要なゲームでしたし、そういうチームになりつつあります。2点取れそうなチームかというと、それは福森のセットプレーという飛び道具に大いに期待しないと現状では難しい。
- 今年に関しては、山を登る準備ができてなかったと思います。
ベガルタ仙台が推定今季8億赤字だそうで、コンサドーレもハードロックカフェ抜けましたし似たようなものでしょう。
返信削除高年俸選手は今シーズン終了後に減俸を呑んでもらうか別れる必要があります。
ベストシナリオは今季いまいち活躍できなかった中心選手が減俸に応じて残留。
来季以降、複数プランを遂行できる戦力を低予算で揃えること。
このままだとシーズン通して活躍した選手は菅野、菅、ルーカス、荒野ぐらいで、残りは経営状況を考えるとダウン提示でも仕方ない。
野々村社長は若手を育ててほしい、数年後の戦術トレンドを先取りとかミシャにうまいこといいつつ、戦力維持したままコストダウンにつなげるまで考えている気がします。
なんとなくおっしゃることはわかりますが、コロナがあろうと、ピッチにはベストメンバーが立つというのが勝負の世界の大原則なので、社長が仮に何らか思惑があるとしても、ピッチ上にそれが反映されるのは考えにくいと思っています。
削除戦術とは関係ないただの感想ですが、これほど緊迫した好ゲームになるとは、試合開始前には全く予想していませんでした。
返信削除しばらく挑戦していた、ミシャ曰く"トータルフットボール"路線において、今季のスカッドだとこれが到達点かなと、今日ほどピッチの選手たちが頑張ってもマリノスには及ばないという現在地が確認できたゲームになったと感じました。
昨年の決勝戦ほどではありませんが、シーズンの中で一区切りついてしまったような喪失感を感じています。
リーグ戦でのACL出場圏内という目標の方は現実的とは言いづらい現状なので、まだまだチームにとって最適な戦い方を探す日々が続くような気がしています。
それがこの日のような戦い方なのか、昨年まで積み上げてきたモノの上に、武蔵不在の穴を補えるプラスアルファを探しに行くのか…は、これからのお楽しみでしょうか。
最後になりますがこのブログのおかげでサッカーに対しての理解が深まったように感じています。
また、次の試合からもよろしくお願い致します。
どうもありがとうございます。私もこの数試合で、林舞輝氏が前に言っていた「現代サッカーは総力戦を制さないと勝てない」みたいな話がちょっとわかったような気がしています。
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