2019年9月5日木曜日

2019年9月4日(水)YBCルヴァンカップ プライムステージ準々決勝第1戦 北海道コンサドーレ札幌vsサンフレッチェ広島 ~譲れぬこだわり~

0.スターティングメンバー

スターティングメンバー

 札幌(1-3-4-2-1):GK菅野孝憲、DF進藤亮佑、キム ミンテ、福森晃斗、MF白井康介、荒野拓馬、深井一希、中野嘉大、ルーカス フェルナンデス、岩崎悠人、FWアンデルソン ロペス。サブメンバーはGK阿波加俊太、DF石川直樹、MF宮澤裕樹、早坂良太、金子拓郎、FW藤村怜、ジェイ。スタメンは「代表選出の4選手と30代の2人(宮澤とジェイ)」をリーグ戦から入れ替えた。
 広島(1-3-4-2-1):GK林卓人、DF野上結貴、荒木隼人、佐々木翔、MFハイネル、稲垣祥、青山敏弘、柏好文、川辺駿、東俊希、FWレアンドロ ペレイラ。サブメンバーはGK廣永遼太郎、DF井林章、MFエミル サロモンソン、野津田岳人、清水航平、柴崎晃誠、FW渡大生。代表招集のGK大迫とMF森島、負傷のドウグラス ヴィエイラがメンバー外。


1.想定されるゲームプラン

1.1 札幌のゲームプラン


 試合前インタビューでは「アウェイゴールに気をつけて戦う」と語っていたミシャ。しかしながら、その意識はともかく行動ベースではそうした失点を防ぐための特別な策があったかというと、そうではなかった。「ダイエット中なんです」といいつつビールをがぶがぶ飲んでいる人がいるように、人間の意識と行動にはギャップがある。ミシャチームも言葉とは裏腹に、むしろホームのアドバンテージを活かして先手を取りに行こうとしていたのだろう。

1.2 広島のゲームプラン


 こちらはホーム&アウェイの鉄則通り、初戦は守りを固めてロースコアに持ち込みつつ、カウンターアタックでアウェイゴールを狙う。札幌がバランスを崩すのを待っていただろう。

2.基本構造

2.1 おのれ、パクったな


 ゲームプランを一言で言うと、「まだ攻める気がない広島」と「無理しないとかいいつついつも通り点を取りにリスクを冒す札幌」という構図だ。広島は”弱者の兵法”お馴染みの[1-5-4-1]守備を引っ提げて厚別に乗り込んできた。リーグ戦の順位は札幌よりも上だし、弱者でもないのだが。
 札幌のボール保持で試合が始まる。広島は[5-4]ブロックでまず後方の人数を確保する。ここから、試合序盤は札幌のビルドアップが怪しいなら、というかつついたらボロが出そうなら前線の枚数を増やしてプレッシャーをかける試みはしていた。札幌が対戦するチームがよくやる、ローリスクハイリターン戦法だ。

 この時のプレスのかけ方が興味深かった。[1-5-4-1]でセットした状態から、
広島の守備のセット

 セントラルMFの青山と稲垣が両方前に出てくる(特に、荒野が最終ラインに下がって札幌が[1-5-0-5]になっている時)。通常ピッチ中央は空けたくないので、シャドーを前に出すやり方が主だが、シャドーはサイドに出てくる福森と進藤を見る、かなり人への意識が強めの守り方だった。
 ミシャ式と対峙した2年前の四方田札幌のパクリと同じ守り方でもある。
ハイプレスを狙う時の形

 札幌はこのスペースが使えるものなら使いたい。それはここでボールを受けて前を向いたりできれば、ゴールへの最短距離が開けるからだ。特にルーカスやロペスにボールが入った時は尚更だ。
 しかしここが常にオープンになっているということはなく、
無理そうなら早めに撤退してスペースを消す

 札幌が広島陣内に侵入”できそう”な状況なら広島は諦めて撤退する。この撤退の判断が早めで、またペナルティエリアのすぐ外に最終ラインを設定し、ライン間を狭めて守るので前線のアタッカーは一気にスペースがなくなる。
 札幌としては広島が”色気を出している時”を狙えるなら狙いたいものだが、それには早めのタイミングで前線にボールを送り込む必要がある。

2.2 広島による札幌の選手の操作


 開始早々に失点したこともあって、札幌のボール非保持時は所謂”前から行く”、ボールを奪いに行く守備をしたそうな様子があった。しかし個々の選手の意識には微妙にずれがあり、それが”前から行っているけどうまくはまらない守備”に繋がる。広島の1点目も2点目も、その他のシュートチャンスもカウンターというより、札幌の選手を各個撃破しての疑似カウンター気味のシチュエーションからだった。

 具体的に見ていくと、1列目のロペス・ルーカス・岩崎は、基本はそれぞれ対面のDFに”責任を持っている”状況。ロペスは荒木にまず突っ込んでいくことが多い。が、ルーカスと岩崎は、対面のDFを見る以外にもその背後、深井と荒野の脇のスペースにも責任を持っている。広島がピッチの縦幅を使ってボールを保持しようとするなら、人とスペース両方をケアすることは不可能だ。
 そして札幌は恐らく試合の入りはスペースを消すことを意識していたのだと思う。10分に深井が、前線の選手に「行くな、落ち着け」といったジェスチャーをしていたことなどが根拠だ。
広島ボール保持時のかみ合わせ関係

 それで意思統一できていたならいいが、次第に曖昧になっていく。ビハインドの状況で、1トップのロペス(1トップはあまりスペース管理のタスクは担っていないので、比較的自由に動ける)が前掛かりになる。この時に岩崎やルーカスが中途半端に出てしまうと、所謂”連動しない緩い守備”のままスイッチが入り、それによって生じるスペースを広島に使われてしまう。
半端にボールに寄ったところで剥がされて裏を取られる

 広島が狙っていたのは5on5で同数関係の札幌5バックの選手が前に出た背後。特にワイドのハイネルや柏は、対面の選手の背後を積極的に狙う。
 加えて広島の特徴的な点は、右サイドからの展開において、左シャドーの東がかなりボールに寄って受けようとする点。まるでチャナティップのようだ。問題は、対面の進藤がここまで(時に、反対サイドまで東は出てくる)ついていくべきかという判断を迫られること。進藤はスペースを空けることの危険性を理解しているので、東を受け渡して守りたいとの様子だったが、問題はその受け渡せる選手がいなかった。荒野は青山、深井は稲垣を見ていたためだ。
東が右サイドまで進出してきてボールを受ける

 その東の縦パスから、広島の1点目、2点目が生まれる。狙われたのはいずれも福森の背後。松本山雅の名将には使いこなせなかったレアンドロ ペレイラだが、長いストライドを活かして走れば福森を置き去りにするには十分なスピードがあった。

3.譲れぬこだわり

3.1 キム ミンテのクオリティ


  25分頃から何度か札幌が中央突破からチャンスをつかむ。ギミックは「2.1」の通り、広島の前に出てくるセントラルMFの背後を狙うやり方だ。それがこの時間帯から増えてきたのは、最終ライン中央、チームで一番ボールによく触る選手であるキムミンテからの縦パスが増えたためだ。ミンテは恐らく球足の速いパスに自信がある。普段からよく狙っているが、この時間帯には特に顕著だった。
 受け手も必要だ。荒木の背後からのチャージをものともしないアンデルソン ロペスもこのスペースに気付いて受け手として機能していた。そしてルーカスがロペスからの落としを受けて攻撃をドライブさせる。
広島の中央のスペースにロペスが落ちてミンテからの縦パス

 チャナティップはこれと似た仕事を1人でできる。つまりボールを受けて、味方に落とすことなく反転してドリブルで前に進める。それをロペスとルーカスで分担してやっていると考えると、1人で、しかもミスが少ないチャナティップがいかにJリーグではスーパーな存在かわかる。

3.2 譲れないこだわり


 問題はロペスがポスト役になると、仕掛け役がルーカスで、右のルーカスは右足でボールを持ちたがる。つまり元々右のシャドーにいて、右側に進んでいくので、ゴールから遠ざかるようにプレーしてしまうことだ。だからミシャはシャドーには逆足の選手を置きたい。左はチャナティップでいいとして、右シャドーに三好、アンデルソン ロペス、そして金子拓郎と必ず左利きの選手をセレクトしている。
 武蔵や駒井が右シャドーに入ることもあるが、駒井はシャドーというより3人目のセントラルMFのような、下がり目のイメージでプレーする。武蔵の右シャドーが機能している理由は、右の白井の好調(止まってから仕掛けられるし、裏にも抜けられるので、出し手としては使い勝手がいい)がある。武蔵は右足でボールを扱うようにターンすると右サイドの方を向く。その時に白井が非常にいいタイミングでサポートに顔を出してくれる、という状況だ。

 左シャドーの岩崎は逆足という条件を満たすが、まだ自分探しの旅から抜けられそうになかった。この試合では、左サイドはいつものチャナティップ-菅-福森の関係を岩崎-中野-福森でやろうとしていて、岩崎はチャナティップのように下がり、中野がシャドーのポジション、福森が大外を駆けあがるポジションチェンジを頻繁に行っていた。チャナティップは下がったところでDFを背負って受けて、ターンで置き去りにできる。岩崎にはそれは難しそうで、下がることのデメリット…ゴールからも、ポスト役のアンデルソン ロペスからも遠ざかること、それらの問題しか残らず、悩ましい状況になってしまった。
 と言う具合に、福森の攻撃性能と、中野の中央に入ってプレーする能力はそれだと活きそうだが、チャナティップにしかできない役割を押し付けられた岩崎が行方不明になることと、信州からの刺客レアンドロ ペレイラに裏を取られまくっている福森を攻撃参加させることのリスクヘッジがよく見えないことは問題だった。

 結局後半開始から岩崎を諦めてジェイを投入。ロペスが右、ルーカスが左シャドーに回る。上記の経緯を考えると非常に妥当な交代だ。ジェイがポスト役、フィニッシャーがブラジルコンビになる。
46分~

4.飽和攻撃


 ジェイ投入で勝負をかける札幌。まだ静観の広島。後半は思いもよらぬ展開となった。47分、福森のジェイへのフィードが抜け出しかけたところを荒木が手でボールに関与して、前半の似たような警告と併せて、2枚目の警告で退場。アンデルソン ロペスの1点目もそうだが、広島のCBに対してシンプルなフィードを狙うことは今年6月の対戦でも似たような狙いが見られたので、裏に弱いとの認識はあったのかもしれない。これは福森の判断が秀逸だった。
 FKを蹴る前に広島は東を下げて井林を投入。このファウルで得たFKを、福森が美しい弾道で決めて同点。再開後、広島は[1-3-5-1]にシフトする。
50分~

 数的不利となった当初こそ、極端に引かずにチャンスを窺おう、という姿勢の広島。しかしその守備は中盤4枚であることが前提で考えられているので、3枚になるとどこを捨てる、どこを選択するのかが定まらなくなり、札幌がボールを保持すると撤退するしかなくなる。
 こうなると時間の問題になってくる。広島の横幅を守り切るには足らない3枚の中盤の脇でルーカスやロペスが受けて仕掛ける。特に左は、福森の攻撃参加や中野のポジションチェンジも含めて横幅を突きつけながらルーカスの個人技で打開を図る。ミシャはルーカスに執拗に「サイドに流れるな」(サイドにボールがある時に寄ってくるな)と指示をしていたが、ルーカスの仕掛けは広島の脅威になっていて、シャドーで出場した試合の中では一番の出来だっただろう。
5-3ブロックで守る広島の中盤の脇を狙う

 結果的には得点はルーカスではなく、ピッチ中央のジェイのフリックパス(珍しく右足だった)から白井の裏への飛び出しで得たPKだった。ジェイの身体の向きからすると、白井にボールが出てくることは多くの選手は予測していなかったと思うが、若干出遅れ気味ながらも柏をぶっちぎって先にボールに触ってしまう白井の体の切れは、この試合も頼りになった格好だった。

5.雑感


 3バックで守る相手に対し、2トップにしてギャップを作るやり方も考えられたが、ミシャの選択はジェイ投入での正面からのどつき合い。この選択は荒木(前半からアンロペ、後半はジェイをマーク)の退場という結果で正しさが証明される。2年前に菊地直哉とリカルドサントスが対峙したゲーム(オフの番組で、金山がJ1デビュー1分で失点したといじられていたが、問題の本質はそこではなかった)でもそうだったが、中央にパワーのあるFWを3バックで相手するには、その中央には運動能力のある選手が不可欠だ。荒木がレギュラーで起用されている理由はその点を買っているのだと思うが、札幌はロングフィードで意図的に狙っていた。

 次のゲームへのポイントになりそうなのは
・広島のCB中央の人選。そのまま井林でいいのか。マッチアップする札幌の選手を考えると、フィジカルに長けた選手を用意したいところ。
・広島の暑さを考慮したゲームのペース配分。
・札幌の福森の背後。広島にとっては”使える”部分であると再確認できた。
・広島が中央を締める守り方に戻してきた場合の札幌のビルドアップ経路。普段はシャドーのチャナティップが解決してくれる。広島が中央を締めるなら、この試合のようには簡単に縦パスは通らない。ハーフスペース~ワイドで攻撃の起点を作る仕組みが必要だが、アンデルソン ロペスは再びFWでスタートなのか。

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