スターティングメンバー |
北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-2-1、GK金山隼樹、DFキム ミンテ、菊地直哉、福森晃斗、MFマセード、荒野拓馬、兵藤慎剛、菅大輝、FW都倉賢、ヘイス、チャナティップ。サブメンバーはGK杉山哲、DF進藤亮佑、MF河合竜二、石井謙伍、小野伸二、FW内村圭宏、金園英学。前節浦和に勝利したシステムとメンバーがベースだが、ク ソンユンは累積警告4枚で出場停止。宮澤はこの週の練習中にアキレス腱を痛めて欠場。前節試合中に負傷交代した横山(スタメン発表後、右足関節三角靭帯損傷・距骨骨挫傷と発表された)のほか、ジェイはコンディション不良で帯同せず。仙台から完全移籍で加入した石川直樹は、前日に選手登録が完了したが右ふくらはぎ痛で別メニュー調整中。キム ミンテがリーグ戦では1ヶ月ぶりにスタメン復帰。
セレッソ大阪のスターティングメンバーは4-4-2、GKキム ジンヒョン、DF田中裕介、マテイ ヨニッチ、木本恭生、丸橋祐介、MF水沼宏太、ソウザ、山口蛍、柿谷曜一朗、FWリカルド サントス、杉本健勇。サブメンバーはGK丹野研太、DF松田陸、藤本康太、MF関口訓充、福満隆貴、秋山大地、FW澤上竜一。リーグ戦ほぼ全試合で先発していた松田に代わり、右SBは田中裕介。清武は6/25の第16節仙台戦で負傷し離脱中。山村は左足首痛、山下は右太腿裏の違和感で前節に続いて欠場。第11節から続いていた9戦無敗は前節の大阪ダービーでの逆転負けによりストップしたが、依然として暫定首位に立っている。
1.前半
1.1 金山、受難の90分
札幌ボールでキックオフ。ヘイスから菊地に戻し、菊地から相手SBと近接した位置に立つ都倉にロングボールを送るが、これをヨニッチが跳ね返したセレッソは前線のリカルド サントスと杉本のところへに放り込む。札幌は菊地とキム ミンテが対応するが、リカルド サントスの突進を止められず、ペナルティエリア付近での落としを杉本に決められて開始26秒でセレッソが先制。
四方田監督は試合後のインタビューで、「相手のパワープレーに巧く対応できなかった」という旨のコメントを残しているが、特に立ち上がり、セレッソはロングボールを効果的に使って札幌を自陣に押し込んだ上で、二次攻撃を繰り出していく。この時、セレッソは2トップに加えて両サイドハーフの柿谷と水沼の位置を20mほど上げるだけで、前線に4枚を揃えることができ、かつ札幌の両ウイングバックに後退を余儀なくさせる。また、競り合う相手とエリアも恐らく考えられていて、中央寄りは札幌の右…キム ミンテとマセード、中央の菊地の3枚のところでリカルド サントスと杉本がマッチアップするようになっていた。
ロングボールで押し込む |
横山を欠く札幌の最終ラインは、右CBの選択肢は菊地(その場合、河合が中央)かキム ミンテ、進藤。ミンテが選ばれたのは、高さが欲しいという考え方もあったと思うが、ミンテと菊地のところで跳ね返せないと厳しくなる。菊地はリカルド サントスとのマッチアップが頻発する。リカルド サントスは、個人的にはそこまで強さが特徴の選手という印象はなかったが、菊地との競り合いでは明らかな質的優位がセレッソ側に生じていた。26分のセレッソの追加点(ソウザのFK)も、ゴールを背にして起点を作ろうとするリカルド サントスへの菊地のファウルで得たFKだった。
最終ライン中央に増川や横山、河合のような強さが売りのタイプの選手を欠く札幌にとって、まずロングボールの対処や単純なゴール前での競り合いで後手に回ったことは、シンプルな話だがこの試合の敗因の一つだったと思う。
1.2 暫定首位・セレッソの実像
1)リトリートかつ2トップ脇のケアにあまり熱心でない
セレッソはボールを失うと基本はリトリート。自陣に全選手を下げ、2トップをハーフウェーラインに戻した状態から守備を開始する。
対する札幌はやはり数的優位である3バックの左右、福森とキム ミンテが時間と空間を得やすいので、ここを起点としていく。この時、セレッソのSHの守備対象はどちらかというと、札幌の3バックの左右(福森とミンテ)よりもWB(菅とマセード)であって、例えば福森が持ち上がれば、福森についていくのはFWのリカルド サントス。
2トップ脇は主にFWの横スライドで見る |
しかしFW2枚でスライドを続け、ケアし続けるのは無理があるので、札幌は左右にボールを動かしていけば問題なくギャップを作れる。2トップが対応できない場合、2列目から水沼や柿谷が出ていくこともあるが、あまり徹底されておらず、後述するようにSHの2人は札幌のWBを見ているので、そのまま福森がフリーになっているような局面も散見された。
2)ダブルチームでサイドを封鎖
上記のように、セレッソのSHの守備対象は札幌のWB(菅とマセード)であって、特に右SHの水沼は、福森をリカルド サントスに任せ、福森が菅に渡すと菅に当たっていく。田中は水沼の斜め後ろのポジションにおり、水沼が突破されてもカバーできるポジションを取ることで、攻撃的な選手を配している札幌のWBと、SBと1on1にせず、1on2の形を作ってサイドを封鎖するという意図が読み取れる。
逆サイドでも柿谷と丸橋でなるべく同じ状況を作る。マセードはどちらかというとスピードで一気に抜き去るよりも、対峙するDFとの間合いを見て、切り返しを多用して仕掛けるタイプ。要するに受けてから仕掛けるまでに時間をかけるので、カバーが完全に間に合ってしまう。
ダブルチームサイドを封鎖 |
3)2トップ背後が比較的空く(アンカーが簡単に前を向ける)
上記1)2)の守り方をしている(FWは左右スライドで忙しい、MFは札幌WBをケアするために下がり目)こともあり、FWとMFの「4-2」のライン間はあまりタイトにケアされない。札幌はこの点には序盤から気付いていたと思われ、兵藤や荒野がここで受けて展開することが問題なくできていたことが、札幌にしては比較的高いポゼッション(ボールを簡単に失わない)の要因の一つでもあった。
FW-MF間は割と空いている |
1.3 間受けの次の一手
1)十八番の間受け
上記1.2をまとめると、福森とミンテのところから札幌はボールを運べるが、サイドは2枚で徹底ケアされている。
となると必然的に中央に突破口が欲しくなるが、サイドと異なり360°全方向からプレッシャーを受けることになる中央で基点になることや、前を向くことができる選手は希少である。札幌の前線で起用されている選手…都倉、内村、ジュリーニョ、ヘイス、金園、小野…を見ても、ヘイスがどれだけ怪我が多くても評価が高いのは、中央のエリアで背負て受けたり、起点を作ることに一番長けているため。
ここでチャナティップがセレッソのライン間、又はブロックの間に登場する。浦和戦ではボール支配率が低く、あまりブロックに侵入する機会が少なかったチャナティップだが、一番の特徴は狭いスペース間でもボールを受けて素早く前を向き、次のプレーに移行できる能力にある。欧州ではこうしたプレーでブロックを破壊しようとする選手に対抗すべく、マンマーク気味に動かす選手を配したり、ブロックを限りなく圧縮してスペースを消すといった対策がなされてきたが、この試合のセレッソはそこまでのことはしてこない。よって福森からチャナティップに縦パスが入れば、一発でセレッソの2列目を突破することができるのが、これまでにない札幌の攻撃のバリエーションとなっていた。
ライン間で前を向ける |
2)間受けの次の一手が見えない札幌
ただ札幌は、チャナティップに入れた次の展開をどこまで考えていたかが微妙なところであった。具体的に見ていくと、下の15:54は左サイドの福森を起点として前進を試みるところ。ここでは福森から荒野→菅と経由して前に運ばれる。
チャナティップはこの時点で既にMF-DFの間で待っている。このポジショニングにより、セレッソの右SBの田中は簡単に菅に当たれなくなる。というのは、セレッソはCB2枚で都倉とヘイスを見ているので、チャナティップに対してヨニッチは出ていきにくい。
左サイドからの前進 |
15:58は菅に渡ったところから、チャナティップへの斜めのパスが成功する。菅に対しては、やはりSHの水沼も一定の守備責任を持っていることがわかる。菅に渡ると、チャナティップは微妙にポジションを修正してパスを受けられる状態を作る。ソウザはこれを察知してプレスバックするが、ソウザの股を抜けてパスが渡る。
この程度のスペースであれば、チャナティップは前を向ける。札幌の攻撃はこれまで、カウンター又はサイドアタックが大半であって、バイタルエリアで中央から崩しに移行できるパターンを初めて得たことになり、この位置からドリブルやワンツーによる突破、ラストパス、シュートといった選択肢が生まれる。
この時、セレッソはCB2枚と丸橋で都倉とヘイスを見なくてはならないので、チャナティップが受けたところを迎撃に行くことができない。また左SBの丸橋も絞って対応するので、手前側の右サイドは大きく空いていることになる。
バイタルでの間受けが成功 |
上記から5秒後の16:03の局面が以下。チャナティップは中央のヘイスと都倉を使った崩しを選択する。ヘイスにまずボールを預けるが、ヘイスはヨニッチの徹底マークを受けているので前を向けない。都倉も同様で、結局この時は完全に中央を封鎖された状態でチャナティップに落とすが、シュートはブロックされてしまう。チャナティップが中央で受けてターンしても、その次の崩しの一手が考えられていないためシュートまでもって行けなかった。
時間をかけると中央は封鎖されてノーチャンス |
相手の守り方にもよるが、一般に4バックのチームならば、中央を固めるとサイドに人を割けず、空きやすくなる。この時も手前側の右サイドでマセードが空いている。今後、札幌はチャナティップが受けた後の崩しのパターンを何らか持っておきたいところだが、中央に入れてそのまま都倉やヘイス、ジェイとフィニッシュまでもっていくのもありだが、スカッドの選手特性も考慮すると外(福森・菅)→中(チャナティップ)→外(マセード)と相手の目線を変えつつ揺さぶり、最終的にはやはりサイドからのクロスでフィニッシュを狙うパターンも確保しておくことができるとよいと思う。
外→中→外と展開したい |
1.4 トランジションでの明暗
1)やや不用意だった福森
28分、セレッソの3点目は、福森の縦パスをソウザがインターセプトしたところから始まるカウンターによって生まれた。福森のパスはやや不用意というかチャレンジングで、揺さぶりもほとんどない状態からブロックの中央へ、パスの相手はチャナティップだったのか、都倉だったのかわからないが、いずれにせよ少し難しいボールだった。
福森のパスをソウザが引っ掛ける |
2)トランジションでの明暗
ここからセレッソのカウンターが始まるが、セレッソはソウザがトップの杉本に当てて、杉本が手薄な反対サイドに展開という基本通りのカウンターアタックを展開する。基本通りだが、これが非常に効果的だったのは、セレッソのポジティブトランジション、札幌のネガティブトランジション、両方に要因があったと思う。
セレッソはボールを回収すると、杉本とリカルド サントスに当てると同時に、スペースに向かって2列目の選手が一気にスプリントを開始する。この時どのような状況であっても、必ず前に出ていける選手と、その選手の体力が確保されているのは、4-4-2で極力ポジションを崩さずに守っていることが作用していると考えられる。
札幌は守備時には基本的に5バックの5-2-3となるが、攻撃時にはウイングバックを高い位置に押し上げることで攻撃の横幅を確保する。陣形を数字で表すと、3-4-2-1または3-2-5のような配置になっている。そのため、攻撃→守備に転じる(ネガティブトランジション)際には、攻撃のため前に張っていたWBのマセードと菅が戻れないと、守備の枚数が確保できなくなる。
ただこれが「ネガティブトランジション」と言うように、選手にとっては言うほど簡単に遂行できないネガティブなミッションであって、菅とマセードとしては、何度も長い距離を走って戻らされるのは(特にこうしたビハインドの展開で、高温多湿…コンディションも劣悪な試合だと)苦しい。対するセレッソは攻撃に転じる、まさにポジティブな状況でのトランジション。チャンスとばかりに一気に陣形を押し上げることで、札幌の前3枚(ヘイス、都倉、チャナティップ)を置き去りにしてブロック構築を不可能にさせる(但しチャナティップはしっかりと戻っていた)とともに、札幌がマークの確認もままならない状況から最後は丸橋のクロスを杉本が合わせて易々と3点目を挙げた。
素早い縦への展開で札幌がセットする間もなく速攻を仕掛ける |
近年、ポゼッションを重視するチームにとって、"ネガトラ"の整備(選手の配置、選手の戦術理解や意識の向上、選手のフィットネスの管理等)は避けて通れないものとなっているが、この局面を見ても、札幌のネガトラの意識はかなり改善の余地がある。まず福森の中央を狙った縦パスもイージーであるし、ボランチの荒野と兵藤や最終ラインの選手は、トランジションが発生するとすぐに食い止めて、この失点シーンのように速攻を食い止められるように準備しておく必要がある。
ソウザがインターセプト(トランジションが発生)した時の状況が下の写真。荒野はポジションは問題ないが、ソウザからの縦パスを受けた杉本を簡単にプレーさせてしまったことが結果的に失点に繋がった。前節の浦和戦で、開始早々にチャナティップが警告を受けたが、あのように時にファウル覚悟で食い止めることも必要になってくる。
後半開始から札幌はキム ミンテ⇒河合に交代。守備以外にも、攻撃面で菊地を右に置くことが点を取るためには重要だとの考えもあったと思われる。またキックオフ後の陣形を見ていると、前半は荒野と兵藤の2枚で見ていた中盤底は荒野1枚。兵藤はより高いポジションを取っていて、前線も都倉が中央、ヘイスがやや下がり目の位置に代わっている。
セレッソは立ち上がり、前半と同じようにロングボールで押し込みを図る。相変わらず脅威となっている「前を向いた状態の」リカルド サントスだが、デュエルの専門家・河合を投入しぶつけることでしか解決が難しいという判断だったか。河合とリカルド サントスでもやはり質的優位はセレッソ側にあったが、とりあえず役割分担や菊地、福森の負担軽減においては一定の効果があった。
札幌は攻撃時、以下のような配置になっていた。まず中盤底は荒野1枚になったことで、アンカーに荒野が固定される。
四方田監督になってからの札幌は、2ボランチの場合、深井や稲本が出場している際はアンカーとして1枚が固定され、相方の宮澤がセントラルMF的に上下に動いて振る舞うようになっていたが、深井や宮澤が出場していない場合、アンカーに1枚を置くのではなく、2枚が中央にとどまっているような状況がしばしばあった。
松本山雅のような、3バック+アンカーに対してとにかく捕まえる守備をするチームが相手だと、3バック+2ボランチで5枚を確保することは一定の"保証"になるが、この日のセレッソのように、2トップで3バックを見るチームに対して計5枚は過多である。3バックが幅を取り、中央のDFとアンカーで2トップをピン留めできればボールを運べるメカニズムは確保できる。
セレッソは相変わらず、SHの守備の基準を札幌のWBに設定している。よって福森と菊地の両CBの持ち上がりが有効なことは変わらない。加えて兵藤が、ソウザと山口の近くで活動することで、セレッソはバイタルエリア付近にチャナティップ、ヘイスに加えて兵藤を、実質ソウザと山口の2枚でケアすることを余儀なくされる。
札幌はセレッソの2列目を突破する手段として、前半は福森⇒チャナティップのパスが大半だったが、後半は菊地⇒ヘイスの右からのルートも選択肢に加わる。
53分にはヘイスが受けたところから都倉、チャナティップと渡り、チャナティップが左足で枠内にミドルシュートを放つ。基本的に即興でプレーしてはいるものの、味方を使うだけでなくミドルシュートも持っているヘイスが前を向けるようになると、何らかシュートチャンスを作れるようになる。
左右で似たようなメカニズムを確保できるようになっていた札幌だが、セレッソがより警戒していたのは札幌の左…福森-チャナティップのラインだったと思う。それは試合途中(少なくとも後半頭、もしかすると前半35分過ぎ以降)から、ボランチの山口とソウザの位置を入れ替え、山口にチャナティップをケアする仕事を与えていたことからもわかる。
前半は1トップで殆どボールが渡らなかったヘイスも、後半は菊地からのパスを受けて度々中央での打開を試みる。ただヘイスはボールを受ける際に、基本的にブロックの外で受けてからターンする。よってヘイスへの縦パスでは、札幌はセレッソの2列目のラインを突破できず、セレッソの4-4ブロックの前でスローダウンし、フィニッシュまで持ち込むのが難しくなってしまう。
65分、札幌はマセード⇒小野に交代。小野が中盤、荒野が右サイドに移るのは予想通りだが、同じタイミングで前線はヘイスと都倉の2トップ、チャナティップがトップ下のような形に変化していることが、それまで左にいたチャナティップが中央で何度もボールを要求していることからもわかる。
基本的にボールプレイヤーの小野、ヘイス、チャナティップと中央に重なると、必然と攻撃は中央偏重になる。守りを固める相手にこの形は有効と言い難く、73分にセレッソが柿谷に変えて関口を投入したタイミングで、再びヘイスとチャナティップの2シャドーに戻っている。
小野が入った後の時間帯、札幌の狙いの一つに、セレッソのSB-CBの間(ハーフスペース)、もしくはSB丸橋が出た背後を突くという考えがあったと思う。この時間帯、セレッソは全体的に運動量が低下していて、SHの守備貢献がそれまでよりも弱くなっている。となると右サイドで、荒野に対応するのは丸橋で、柿谷が戻れなくなると、下の図のように丸橋が出た背後のスペースが空くようになる。札幌はここに小野やヘイスが走りこむが、できればもう少しスピードに乗った状態でサイドをえぐれる選手を確保したいところでもあった(このパターンを小野やヘイスで使ってくるのは予想外だった…)。またここでヘイスを使ってしまうと、クロスを上げたとしても中に都倉しかターゲットがいないことも問題となる。
セレッソの関口の投入、また80分のソウザ⇒秋山の交代は、こうした札幌の出方に対する守備の強化の意図があったと思われる。関口は右サイドで攻撃参加してくる小野や菊地を見ながら、丸橋と連携してサイド突破を封じる。秋山は丸橋が出た背後をカバーの役割を与えられていた。
ソウザが引っ掛けたところ |
2.後半
2.1 専門家の投入
1)デュエルの専門家
後半開始から札幌はキム ミンテ⇒河合に交代。守備以外にも、攻撃面で菊地を右に置くことが点を取るためには重要だとの考えもあったと思われる。またキックオフ後の陣形を見ていると、前半は荒野と兵藤の2枚で見ていた中盤底は荒野1枚。兵藤はより高いポジションを取っていて、前線も都倉が中央、ヘイスがやや下がり目の位置に代わっている。
46分~ |
セレッソは立ち上がり、前半と同じようにロングボールで押し込みを図る。相変わらず脅威となっている「前を向いた状態の」リカルド サントスだが、デュエルの専門家・河合を投入しぶつけることでしか解決が難しいという判断だったか。河合とリカルド サントスでもやはり質的優位はセレッソ側にあったが、とりあえず役割分担や菊地、福森の負担軽減においては一定の効果があった。
2)中央突破を狙う札幌
札幌は攻撃時、以下のような配置になっていた。まず中盤底は荒野1枚になったことで、アンカーに荒野が固定される。
四方田監督になってからの札幌は、2ボランチの場合、深井や稲本が出場している際はアンカーとして1枚が固定され、相方の宮澤がセントラルMF的に上下に動いて振る舞うようになっていたが、深井や宮澤が出場していない場合、アンカーに1枚を置くのではなく、2枚が中央にとどまっているような状況がしばしばあった。
松本山雅のような、3バック+アンカーに対してとにかく捕まえる守備をするチームが相手だと、3バック+2ボランチで5枚を確保することは一定の"保証"になるが、この日のセレッソのように、2トップで3バックを見るチームに対して計5枚は過多である。3バックが幅を取り、中央のDFとアンカーで2トップをピン留めできればボールを運べるメカニズムは確保できる。
セレッソは相変わらず、SHの守備の基準を札幌のWBに設定している。よって福森と菊地の両CBの持ち上がりが有効なことは変わらない。加えて兵藤が、ソウザと山口の近くで活動することで、セレッソはバイタルエリア付近にチャナティップ、ヘイスに加えて兵藤を、実質ソウザと山口の2枚でケアすることを余儀なくされる。
札幌はセレッソの2列目を突破する手段として、前半は福森⇒チャナティップのパスが大半だったが、後半は菊地⇒ヘイスの右からのルートも選択肢に加わる。
CBの持ち上がりから斜めにパスを入れていく |
53分にはヘイスが受けたところから都倉、チャナティップと渡り、チャナティップが左足で枠内にミドルシュートを放つ。基本的に即興でプレーしてはいるものの、味方を使うだけでなくミドルシュートも持っているヘイスが前を向けるようになると、何らかシュートチャンスを作れるようになる。
3)より脅威となっていたのはチャナティップ
左右で似たようなメカニズムを確保できるようになっていた札幌だが、セレッソがより警戒していたのは札幌の左…福森-チャナティップのラインだったと思う。それは試合途中(少なくとも後半頭、もしかすると前半35分過ぎ以降)から、ボランチの山口とソウザの位置を入れ替え、山口にチャナティップをケアする仕事を与えていたことからもわかる。
山口はゾーンを捨ててチャナティップをケア |
前半は1トップで殆どボールが渡らなかったヘイスも、後半は菊地からのパスを受けて度々中央での打開を試みる。ただヘイスはボールを受ける際に、基本的にブロックの外で受けてからターンする。よってヘイスへの縦パスでは、札幌はセレッソの2列目のラインを突破できず、セレッソの4-4ブロックの前でスローダウンし、フィニッシュまで持ち込むのが難しくなってしまう。
ヘイスはブロックの外に出てから受ける |
2.2 中央密集
1)小野の投入
65分、札幌はマセード⇒小野に交代。小野が中盤、荒野が右サイドに移るのは予想通りだが、同じタイミングで前線はヘイスと都倉の2トップ、チャナティップがトップ下のような形に変化していることが、それまで左にいたチャナティップが中央で何度もボールを要求していることからもわかる。
65分~ |
基本的にボールプレイヤーの小野、ヘイス、チャナティップと中央に重なると、必然と攻撃は中央偏重になる。守りを固める相手にこの形は有効と言い難く、73分にセレッソが柿谷に変えて関口を投入したタイミングで、再びヘイスとチャナティップの2シャドーに戻っている。
2)ハーフスペースを駆けるボールプレイヤー
小野が入った後の時間帯、札幌の狙いの一つに、セレッソのSB-CBの間(ハーフスペース)、もしくはSB丸橋が出た背後を突くという考えがあったと思う。この時間帯、セレッソは全体的に運動量が低下していて、SHの守備貢献がそれまでよりも弱くなっている。となると右サイドで、荒野に対応するのは丸橋で、柿谷が戻れなくなると、下の図のように丸橋が出た背後のスペースが空くようになる。札幌はここに小野やヘイスが走りこむが、できればもう少しスピードに乗った状態でサイドをえぐれる選手を確保したいところでもあった(このパターンを小野やヘイスで使ってくるのは予想外だった…)。またここでヘイスを使ってしまうと、クロスを上げたとしても中に都倉しかターゲットがいないことも問題となる。
ヘイスや小野のハーフスペースへのフリーラン |
2.3 終盤の展開
1)スペースを見逃さないチャナティップ
セレッソの関口の投入、また80分のソウザ⇒秋山の交代は、こうした札幌の出方に対する守備の強化の意図があったと思われる。関口は右サイドで攻撃参加してくる小野や菊地を見ながら、丸橋と連携してサイド突破を封じる。秋山は丸橋が出た背後をカバーの役割を与えられていた。
ただ秋山が最終ラインのカバーに回ると、バイタルエリアは必然と手薄になる。83分、チャナティップが中村憲剛のような鋭いスルーパスから菅の得点をアシストした場面は、まさに秋山が空けたスペースをチャナティップが察知し、右寄りの位置でボールを受けたところからだった。得点直後、オフサイドとなったがチャナティップのスルーパスから金園がシュートを放ったのも同じようなスペースの察知からだった。
ただこの形はあまり機能せず。それまでサイドで攻撃の横幅を作っていた菅と荒野が消失し、攻撃の選手が全員中央に密集する。5バックと3センターで中央を固める相手に対し、強引にこじ開けるのは難しく、結局サイドを使わざるを得ないのだが、福森や荒野が攻撃参加すると最終ラインは2バック状態。河合や菊地の脇にセレッソの2トップを走らされると、それだけでピンチを招き、また時間を使われて反撃ムードは一気に潰えてしまった。恐らくイメージは、4バックというよりも2バックで、セレッソが5-4-1に変えると読んでの指示だったのかもしれない。
セレッソがこれまでの札幌の戦いぶりを見て、「札幌はサイドを封鎖しておけばボールを持たせても何ら問題ない」といった認識のもと、サイドを封鎖する戦術を採っていたとすれば、それはそう間違っていない考え方だったと思う。今後チャナティップへのマークが厳しくなることが予想されるが、そうなればマセードや菅のサイドアタックが活きてくる。サイド一辺倒でも、(某K監督のように)中央一辺倒でもなく、戦い方に多様性を持つことが重要で、その点でチャナティップの活躍は非常に大きいものだった。
Twitterで、試合前に「セレッソからは何となく勝ち点を取れそうだ」と書いている人が何人かいたが、恐らくその印象は、セレッソのサッカーのパッシブな部分によるのだと思う。ボールを狩りに来るよりは待ち・受けからカウンターを狙うスタイルであるので、ある程度はボールを持たせてもらえるし、福森やヘイス、チャナティップといった選手がいればある程度、仕掛けることはできる。2008年はそうした、遅攻でクオリティを発揮できる選手がクライトンしかいなかったし、2012年のメンバーでは誰も思いつかない(やはり今シーズンのスカッドは札幌史上最高だろう)。
今後、対戦を残しているチームの中ではホームで戦うことになる甲府や新潟戦において、札幌がボールを握る展開が予想される。チャナティップの能力は十分にわかったところなので、今後こうしたチームとの対戦時には、何らか崩しのパターンを用意しておきたいところである。
スペースを見逃さないチャナティップ |
2)謎の4-4-2
菅の得点の後、札幌はヘイス→金園。セレッソは水沼→藤本で5バックにシフトする。札幌は福森を左SBとした4-4-2に切り替え、最後の追い上げを図る。
86分~ |
ただこの形はあまり機能せず。それまでサイドで攻撃の横幅を作っていた菅と荒野が消失し、攻撃の選手が全員中央に密集する。5バックと3センターで中央を固める相手に対し、強引にこじ開けるのは難しく、結局サイドを使わざるを得ないのだが、福森や荒野が攻撃参加すると最終ラインは2バック状態。河合や菊地の脇にセレッソの2トップを走らされると、それだけでピンチを招き、また時間を使われて反撃ムードは一気に潰えてしまった。恐らくイメージは、4バックというよりも2バックで、セレッソが5-4-1に変えると読んでの指示だったのかもしれない。
攻撃の横幅は削ってはならなかった |
3.雑感
セレッソがこれまでの札幌の戦いぶりを見て、「札幌はサイドを封鎖しておけばボールを持たせても何ら問題ない」といった認識のもと、サイドを封鎖する戦術を採っていたとすれば、それはそう間違っていない考え方だったと思う。今後チャナティップへのマークが厳しくなることが予想されるが、そうなればマセードや菅のサイドアタックが活きてくる。サイド一辺倒でも、(某K監督のように)中央一辺倒でもなく、戦い方に多様性を持つことが重要で、その点でチャナティップの活躍は非常に大きいものだった。
Twitterで、試合前に「セレッソからは何となく勝ち点を取れそうだ」と書いている人が何人かいたが、恐らくその印象は、セレッソのサッカーのパッシブな部分によるのだと思う。ボールを狩りに来るよりは待ち・受けからカウンターを狙うスタイルであるので、ある程度はボールを持たせてもらえるし、福森やヘイス、チャナティップといった選手がいればある程度、仕掛けることはできる。2008年はそうした、遅攻でクオリティを発揮できる選手がクライトンしかいなかったし、2012年のメンバーでは誰も思いつかない(やはり今シーズンのスカッドは札幌史上最高だろう)。
今後、対戦を残しているチームの中ではホームで戦うことになる甲府や新潟戦において、札幌がボールを握る展開が予想される。チャナティップの能力は十分にわかったところなので、今後こうしたチームとの対戦時には、何らか崩しのパターンを用意しておきたいところである。
こんにちは。
返信削除3失点目のシーン、不用意な縦パスを奪われてからのネガトラで陣形整えられずに失点、というシチュエーションでは、神戸戦の1失点目も思い出されます。ただでさえポゼッションを志向していないのに、やっともらったボールを1本目のパスで失うというのはもったいないし危険ですよね…。
福森のロングパスはかけがえのない武器であるはずで、諸刃の剣にしてしまうのはもったいない。使い方の練度をもっと上げないといかんよなあと思った次第でした。
ただの感想コメントで失礼いたしました。
>Katsu_Genさん
削除結構福森はリスキーなパスの選択が多いですよね。勿論、崩しの局面で厳しいところを狙えるのは貴重であり重要なのですが、ちょっと軽率というかリスクのほうがだいぶデカいかな…という選択が結構あるので、その辺は監督がコントロールして欲しいのですが、結構選手に丸投げしていてあまり制御できていないのでは?と思う部分も昨年からあります。
横山離脱はやはり痛かったですね。セレッソはいざとなるとGKから山村に放り込んでそこで基点を作るというイメージがあったので山村不在はラッキーと思ったんですが…。ここでの力関係が最初の2失点に大きく影響したとみています(だから2点目は金山がすべて悪いとは思いません)。3点目は何であんなに守備がボロボロになってたんだ?と疑問に思いましたが、なるほど守備陣形を整える前に崩されたのなら納得です。
返信削除機動力がある、小回りが利く、頭もいい(判断が速い)とチャナがかなりのポテンシャルを持つことは浦和戦と共に知れ渡ったのでチャナ対策も当然講じられるでしょう。(そうした観点でレビューを書いているセレサポさんもいますし)。ボールキープできるヘイスが危険視されている中でチャナをどこまで活かせるか。チャナ封じとこっちの打開策のどっちが上回るかで残留できるかが決まるのでしょうね。
>フラッ太さん
削除個人的にはまずリカルドサントスってこんな面倒な選手だったっけ?という印象でした。シンプルな質的不利というか、やはり3バックやるならCB中央に強い選手を置くのは不可欠なんだなと思いました。
チャナティップはまだこれからという感じですが、ブロック内で受けれるだけでも札幌にとっては価値があると思います。私も同じ人のブログ等見ていると思いますが、個人的には独力突破での打開はそもそもあまり期待しないほうがいいというか、彼の持ち味(受けれる、失わない、パス出せる)を活かせれば十分だと思います。