2017年8月19日土曜日

2017年8月13日(日)13:00 明治安田生命J1リーグ第22節 北海道コンサドーレ札幌vsヴァンフォーレ甲府 ~気まぐれなライオンとの心中~

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-2-1、GKク ソンユン、DF菊地直哉、河合竜二、福森晃斗、MFマセード、荒野拓馬、兵藤慎剛、菅大輝、FWチャナティップ、ジェイ、ヘイス。サブメンバーはGK金山隼樹、DF進藤亮佑、MF宮澤裕樹、石井謙伍、小野伸二、FW内村圭宏、金園英学。前節退場処分を受けた都倉は出場停止(TVH中継の解説員を務める)。宮澤はスタメン復帰を予想するメディアもあったが前節に引き続きベンチスタート。少し前は、スタメンの半数以上が道産子という試合もあったが、この試合はスタメン5人が外国籍選手。
 ヴァンフォーレ甲府のスターティングメンバーは3-4-2-1、GK岡大生、DF新里亮、新井涼平、エデル リマ、MF橋爪勇樹、島川俊郎、兵働昭弘、高野遼、堀米勇輝、田中佑昌、FWウイルソン。サブメンバーはGK河田晃兵、DF山本英臣、MF松橋優、阿部翔平、小椋祥平、FWドゥドゥ、熊谷駿。8月頭に加入し、前節8/9の浦和戦で途中出場した高野が初スタメン。


1.前半

1.1 似て非なる両者


 互いに降格圏手前の14位と15位の対戦。採用しているシステムも守備時に5バックとなる3-4-2-1。いくつか共通点があり、似た者同士のように思える両チームだが、その戦術コンセプトは根底から異なる。

1)プライオリティはとにかくリトリート、ブロック構築


 札幌がボールを保持すると、甲府は1トップのウイルソンをセンタースポット付近に残し、他の選手は迅速に自陣に撤退する。いかなる状況でも、ブロックを構築せずに前に出てボールや札幌の選手に圧力をかけてくることはまれである。
 守備時に5-2-3⇔5-4-1と変化する3-4-2-1系のチームの中でも、甲府は特にシャドーに頑張れる、言い換えれば守備で無理がきく選手を配しているのが特徴で、これがチーム全体の守備意識の高さにほぼ直結している。のちに言及するが、札幌のシャドーのヘイスとチャナティップと比べると、このポジションに無理がきく選手を置いていることの大きさがわかる。
 この試合シャドーに入った堀米と田中は、特に試合序盤、例えば下の写真3:02のように、ボールと反対サイドの堀米がかなりインサイドに絞って札幌のアンカー(荒野)をケアすることで、札幌のアンカー経由でのサイドチェンジを阻害する等、一般的な中盤4枚のユニットのうちの1枚としての働きを超えた守備的なタスクを遂行する。それでいて、カウンター時には両者とも前線にスプリントし、攻撃が終了すれば再び戻ってこれる走力を備えており、守備を基調としつつ機を見て攻撃参加というウェイトでプレーする。
堀米が内側に絞って荒野をケア

アンカー荒野をケアしていたので迂回に成功、スライドが間に合う

2)もはや隠そうともしないキャスティング主義


 札幌のシャドー、ヘイスとチャナティップの起用のコンセプトは甲府のそれと実に対照的である。甲府のシャドーが守備を基調として攻撃参加する、という考え方ならば、ヘイスとチャナティップはあくまで攻撃のために起用されている選手。あくまで攻撃がベースで、守備貢献はいわばオマケのようなウェイトでプレーする。
 特にヘイスはこれまでトップ下又は1トップと、守備(ブロック構築)時あまりポジションを動かさなくてもよいポジションで起用されてきたが、シャドーに入ったこの試合では省エネプレーでやり過ごすことは許されないのだが…

 下の写真3:24は、札幌がボールを失って甲府のカウンターに移行する場面。チャナティップとヘイスはこの時点でほぼ同じ高さにいる。 
札幌がボールを失い甲府のカウンター発動

 7秒後、甲府が札幌陣内にボールを運ぶと、チャナティップはしっかりボールよりも自陣側に戻って切り替わりが完了している。一方ヘイスはまだセンターサークル付近におり、この状態で全く守備に参加できていない。
 札幌はヘイスが戻らなかった左サイドのスペースががら空き。容易にアタッキングサードへの侵入を許してしまう。
ヘイスはまだセンターサークル内

 しかし、言い換えればこうしたヘイスの”平常運転”を許容してでも、シャドーで起用し、チャナティップやジェイと共にピッチに立たせること自体が、四方田監督が選択したゲームプランそのものだと言える。守備の問題に目をつむってでも、この前線3枚ならばそれを上回る攻撃面でのメリットがあるので”差し引き”はプラスという考え方。
 もしくは都倉が使えないので、FWにジェイを起用するとヘイスの椅子がなくなるが、ヘイスとジェイの片方をベンチに座らせておくのが勿体ないという考えもあるだろう。そしてこの半ば強引なジェイのスタメン起用は開始10分の先制点という形で結実する。

1.2 甲府は堅守なのか?


 21節を終えた時点で、総得点11ながら失点23と、守備に定評のある甲府。しかし甲府の守備を観察していると、札幌にとって決して困難な問題を突きつけるほどの完成度はないように思えた。

1)ハーフウェーラインまでフリーパス


 甲府が撤退守備に移行したときの一例が以下。5-4-1でブロックを構築すると、最前線にはウイルソン1人。1人で行える守備というのはかなり限られたアクションになるので、甲府の1列目は札幌にとってほぼ”フリーパス”。問題なくボールを運べ、また甲府のMF4人の前で福森や兵藤、荒野が全く問題なく前を向いてボールを持てる。
1列目はフリーパス

2)5-4-1のジレンマ(FW脇とライン間の同時ケアが困難)


 札幌は常時ウイルソンの周辺(甲府のMFラインの手前)にCB3人とボランチ2人、計5人が陣取り、パスを回してチャンスを待つ。下の写真でいうと、河合がボールを持っている時は甲府にとってさほど警戒すべき状況にはない。問題は兵藤や荒野、攻撃参加してきた福森が前を向いてボールを持った状態で、ここをフリーにしたままでは、前線の3トップに簡単に縦パスが入り、バイタルエリアで前を向かれてしまう。
 そのため、前を向いてボールを持たせないためには、ウイルソンに加勢する形でMFの4枚がポジションを上げて守備を行う必要があり、札幌がパスを回していると、甲府のMF4枚は次第にじりじりと前に出てくる。するとMFが前に出たことで、最終ラインとの間のスペース(ライン間)が徐々に開き、ヘイスやチャナティップがより簡単に前を向けるようになってしまう。
ボールにプレッシャーをかけようとするとライン間が空いてしまう

3)ブロックの形は維持されているが、ボールへのプレッシャーが弱く、裏も空いている


 上記2)は2ラインで守備をせざるを得ない5-4-1の宿命とも言えるものだが、甲府は特にブロックを構築するまではいいが、そこから陣形を”維持”することに熱心というか、肝心なポイント…ボールへのプレッシャーを効果的にかけることができていない。プロレベルで相手に自由にボールを蹴らせれば、常に守備は後手に回り、ブロック構築は何の意味もなさなくなる。

 結果的に、ボールの出所も限定できていない、それでいて中途半端にDFラインが高く、最終ラインの裏は無防備にさらけ出されているような状況にもなっている。
 ジェイの先制点の局面が以下。この時は撤退しているので、DFラインの裏がガッツリ空いているというほどでもないが、ボールホルダーの荒野に殆どプレッシャーがかかっていない。荒野のパスとジェイの動き出しがバッチリ合ったこと、GK岡の飛び出しがやや遅れたこともあったが、縦パス1本で簡単に9枚ブロックは無力化されてしまった。

荒野の浮き球パスにジェイが抜け出し先制点


1.3 気まぐれなライオン ~メインキャストが持つ別格の特権~


 という具合に甲府の守備を見ての感想を書き連ねたが、ジェイの先制点の後、試合が経過するにつれ、札幌の守備は甲府とは別次元の問題を抱えていることが露見される。

1)主役と脇役の温度差


 この試合の主役(メインキャスト)はあくまでジェイであることを示す局面が以下。11:12、札幌はヘイスから右サイドのマセードへのサイドチェンジのパスは短く、甲府の左WB高野にカットされる。これで甲府の狙っていたカウンターが発動する。
サイドチェンジをカットした甲府がカウンター

 高野がそのまま持ち上がるが、札幌はボールに近い選手がすぐに守備に切り替わる。チャナティップが高野を追いかけ、攻撃を遅らせてマセードがリトリートする時間を稼ぐ。
チャナティップがカウンターを遅らせる

 チャナティップがストップさせた間に、ヘイスも守備に戻ってくる。この時の陣形が以下で、札幌は5バックと2ボランチのリトリートが完了する。チャナティップとヘイスがボール周辺で守備に関与している。
 一方でジェイは最前線で歩いている。札幌はヘイスが一人でボールにアタックに行くが、甲府はバックパスでフリーの見方に繋いでサイドを変える。まさにジェイが本来戻っていれば阻害できたエリアをパスコースとして活用する。
ボールロストから8秒後 ジェイは最前線で歩いている

 更に10秒後、全く問題なく甲府はサイドを変え、手薄なエリアから前進する。10秒間で甲府は札幌陣内へのボールの侵入、前線の3枚に加えて3人程度の選手の攻撃参加ができている。一方で札幌は、10秒間前と同様に5バックと2ボランチの脆弱な7枚ブロックが用意されているだけ。
10秒間あったにもかかわらず7枚ブロックのまま

 こうなると、ボランチがボールにアタックしなくてはならないので、中央から簡単に引きずり出される。そうしてできたスペースに、チャナティップはスペースを埋めようと戻ってくるが焼け石に水。白円で示した反対サイドのスペースは全くカバーできないまま、駆け上がってきた選手に使われてサイドの深いところへ侵入を許してしまう。
中央にも反対サイドにもスペースが

2)札幌は何故「タックルラインが低い」のか(北海道新聞記事)


 北海道新聞の記事「コンサドーレ データは語る」において、以下の事実が指摘されている(素晴らしい記事なので是非電子版で無料登録をして読んで下さい)。
 ・先制後はボール支配率で劣った
 ・30メートル以上のパスは甲府より13本多い60本で、成功率は36.7%。甲府は55.3%。
 ・札幌の平均タックルラインは27.1m、甲府は47.8m。

 この中で、特に注目したいのが3つ目のタックルライン。記事では単に事実のみ触れられているが、なぜ甲府はタックルラインが高く、札幌は低いのかというと、端的に言えば、甲府はリトリートし、ブロックの枚数を確保するのが早い。枚数が揃っているということは、ボールにアタックしてかわされても味方がカバーしてくれやすい。
 そのため、躊躇なく、また高い位置からボールにアタックできるということ。5-4-1で1トップを守備に組み込むことが難しく2ライン守備になっていることや、また先制点の場面のように、ところどころボールへの圧力が弱くなっている箇所はあるが、全体としてはボールにアタックできるだけの"下地"はあると考えてほしい。
枚数が揃っているのでポジションを捨てて前に出てアタックにいける

 一方で札幌は、"主役"ジェイの守備は全く期待できず、"脇役"ヘイスとチャナティップはそこそこ頑張っているが、そもそもこの2人は攻撃を期待して起用している選手で、撤退守備への加担はそれほど強く求められていない(そもそも、数試合前はヘイスが"主役"で、ジェイのような扱いをされていたのだから、色々無理がある)。よってブロックの基本枚数は5バック+2ボランチの7枚。5バックはともかく、2ボランチでは極めて限定的なエリアしかカバーできないので、容易にサイドから侵入を許してしまう。
 加えて、枚数がどうしても足りないので、自分のポジションを捨ててアタックにいくことでできてしまうスペースが怖い。そのため、甲府のように積極的にボールにアタックすることがどうしても難しくなる。
 結果、ゴール前のスペースを守ることが最優先の守備となり、ボールにアタックに行けないので、ズルズルと守備組織は下がる。タックルラインを測ると、必然と低い位置になるのは想像がつく。
2ボランチがカバーできないスペースから簡単に侵入を許し、なおもボールにアタックしにくい

1.4 前線はボールプレイヤーばかり(甲府の無防備な裏を誰も突かない)

1)求められるのはシンプルな攻撃


 前半の展開でもう一つ顕著だった事象は、冒頭にも書いたが、とにかく甲府の最終ラインが頻繁に空いていたという点。4月の小瀬での戦いでは全く裏にスペースを与えなかった甲府だが、リードを許す展開となったこの試合ではどうしても前に出てくるようになっていて、この点ではジェイの先制点が効いていた。
 しかし札幌の問題点は、フィジカルモンスター・都倉を欠く前線の3人の外国籍選手は、いずれもオンザボールで力を発揮する”ボールプレイヤー”。甲府の「裏が空いている、そのうちライン間も空く(2ライン守備なのでMFがどんどん前に出てくるため)」という状況で、どうしてもライン間でボールを受けたいのが見え見えなポジショニングをとる。下の写真のように裏が空いている状態で、誰も裏に抜けようとしない。
 一方で、パスの配給役となる兵藤や福森は明らかに裏のスペースに気付いていて、前線の選手の動き出しを待っているかのようなボールの持ち方をしている。しかし誰も裏に抜けてくれないので、結局北海道新聞が言うところの「成功率の低いロングパス」で攻撃が終わってしまうことも少なくなかった。
前線はボールプレイヤーばかり

 札幌の裏抜けが成功した数少ない局面が、下の写真14:44の兵藤の抜け出し。誰も裏に抜けてくれないので、最終ラインにボールを預けて前線にスプリントする兵藤。2度動き直して簡単に裏を突き、コーナーキックを獲得することに成功した。
簡単に裏を突ける

2)ジェイのやりたいことと、そのために必要なキャスト


上記でジェイに「よくわからない」とキャプションを出したが、ジェイも基本的には走るよりもボールに触りたいというのは間違いない。恐らくジェイがやりたいプレーは、下の写真のようにキープ力や足元の技術を活かした起点になるプレー。甲府の守備なら確かに縦パスは入るし、”脇役”にチャナティップとヘイスがいる(しかもこの2人に対してもさほどタイトについてこない)状況ならば確かに中央で基点が作れる。
 しかしこの時も、結局崩しが成功したのは”4人目”の動きとして、菅の裏抜けがあったからこそ。足元でもらいたがる選手だけでは崩しを成立させるのは不可能である。
中央で基点を作ってワイドから裏を突く
菅の裏取りが成功

 この日の前線(といってもWB)で唯一、フリーランが期待できる菅だが、前半の平均ポジション(ボールを持った時)はハーフウェーラインよりも手前だった。諸々要因は考えられるが、やはり前3枚が攻撃偏重だと、WBの選手としては後方のバランスを気にしたポジションを取らざるを得ないということはあったと思う。これでは前線にスペースがどれだけあっても、有効に活用することは難しい(参考までに甲府の平均ポジションを比較用に張っておく)。
前半の平均ポジション(札幌)
前半の平均ポジション(甲府)
 何度も言うが、甲府はボールへのプレッシャーもルーズで裏も空いている。難しいことをしなくとも、裏を狙っていればもっと脅威を与えられた。この前線3枚で動き出しがないなら、内村のような選手を投入するしかないとも思って見ていたのだが…

2.後半


 後半、甲府は高野に変えて阿部を投入。札幌はマセードに変えて宮澤。荒野が右サイドに回る。
46分~

2.1 四方田監督の指令(「ラインを上げろ」)

1)指令を遂行する選手達


 DAZN中継によると、四方田監督のハーフタイムの指示は「ラインを上げて守ろう」という旨のものだったと考えられる。その言葉通り、後半立ち上がりの札幌は高い位置からの守備を展開する。
 ↓の写真は甲府のゴールキックから短いパスで繋いで前進を試みた場面。甲府のビルドアップ部隊に対し、前から1人ずつ当たって捕まえていく。甲府には恐らく予想外だったようで、一度GKまでボールを戻す。
前から1人ずつ当たって捕まえていく

2)用意はできていたか?


 しかしこの時の陣形を見て読み取れるのは、3-4-2-1同士で本来マッチアップが噛み合うにも拘らず、空いている選手(奥のDFエデル リマ)が発生してしまっていることから、恐らく札幌のこのハイプレスはチームとして殆ど準備されていないぶっつけ本番のようなもの。
 準備がちゃんとできていれば、前線3枚は甲府の3バックに、ボランチが甲府のボランチに当てるのが自然なマッチアップだが、札幌の前線3枚はまず、守備に移行したときの初期ポジションから整備されていないまま、近くにいる選手を捕まえる、というアクションをしているので、本来マッチアップが噛み合って封殺できるDFのリマが空いている。
奥のDFリマが空いたまま

 ただ、この状況(前3枚が自分の判断でハイプレスを敢行しているが、空いている選手…リマを捕まえないと失敗しそう)を察知した兵藤がポジションを上げ、リマを捕まえようと動いており、かつジェイによって新井⇒リマのパスコースは切れている(兵藤がリマを捕まえるのが間に合う)ので、まだプレスがハマる可能性はなくはない。

3)チャナティップの弱点?


しかしここで完全に墓穴を掘ったのがチャナティップの、絵にかいたような「気持ち守備」。GKへのバックパスをチャナティップが追いかけ、新井を使って回避されたことで、付け焼刃のハイプレスが成功するのに必要な数的同数守備が完全に成立しなくなる。
 写真の奥、兵藤が①ボールホルダーの新井、②守備対象のリマ、③落ちてきたWBの阿部、の3人を見なくてはならず破綻してしまう。あとは甲府はフリーの選手を一人一人使ってパスを繋げば、札幌は人数も揃っておらず個々の圧力も弱いので、難なくボールを前線に運ぶことができる。
チャナティップが出たことで青い円内の枚数が足りなくなる

 付け焼刃のハイプレスだったが、このような状態なので成功するはずもなく、札幌は監督が掲げたミッション(ラインを上げよう)も達成されることはなかった。結果、中途半端に前線が高いポジションを取り、DFは前に出れないので間延びするという、これまでよく見た光景が画面に映し出されることになる。

2.2 ドゥドゥと金園


 57分、甲府は堀米→ドゥドゥ。2トップに変更も考えられたが、守備時のポジションを見ると、そのままシャドーに入る。同じタイミングで札幌はジェイ→金園。ヘイスが1トップ、金園がシャドーで3-4-2-1は維持されていた。
57分~

1)切り札ドゥドゥ

 ドゥドゥのポジションを見ていれば、甲府が札幌の左サイドを狙い目としていたのは明らか。何故左にドゥドゥを入れたのかというと、最も大きかったのは、札幌の守備はシャドーの選手の守備加担が非常に曖昧というか選手任せのようで徹底しておらず、右のチャナティップは献身的によく戻っていたが、左のヘイスは非常に気まぐれで、左サイドに穴が開きやすくなっていたためだと思う。
 左のシャドー(図では交代後を示しているので金園)がブロックに加わらないと、左サイドで菅や福森の前のスペースが空いた状態で、甲府の新里や兵働が持ち上がる。ここに菅が出ていくと、大外の橋爪は福森が対応、となると福森が管理していたスペースががら空きになる。ここにドゥドゥをぶつけて攻めていこうとの意図だったと思う。
左サイドで芋づる式に釣り出してドゥドゥをぶつける

2)大して変わらなかったゾノ投入


 札幌は、四方田監督も当然この守備では90分持たない、というかジェイやヘイスの体力が徐々にemptyになるタイミングでもあったので、内村以上に守備で貢献できる金園の投入はもともと想定していたものでもあったかもしれない。
 ただ、金園の動きを見ていると、恐らく監督の指示は、「ブロックに加わるよりも、前で守備をしろ」という旨のものだったことが想定される。指示通りに?金園が甲府のDFに高い位置で当たっていく動きと、後方のブロックに加わる動きの両立は難しく、結局札幌は7枚ブロック+戻ってくるチャナティップで守るという構図は金園投入以前と大して変化なく、甲府としては、ヘイスがシャドーを務めていた時と変わらず、左で釣り出してドゥドゥをぶつける、というパターンを問題なく使えていた。

2.3 7枚守備の限界

1)既視感のある大外からの被弾


 72分、甲府の阿部の同点ゴールの局面を見ていく。
 ↓の71:40は札幌の宮澤のパスがミスとなり甲府のカウンターが発動したところ。札幌は中盤から後ろの選手が戻りながらの対応となるが、甲府は札幌のボランチ脇でドゥドゥが受けてターンする。トランジションの局面なので、札幌の守備はセットしている時よりも更にカオスになっているが、いずれにせよ前後分断気味の3-4-2-1⇔5-2-3の札幌は、ボランチ脇が狙いどころであるのは変わらない。
 そしてそのボランチ脇のケアは、札幌の場合、基本的にCBの迎撃しか対抗手段がない。よって福森が躊躇なくドゥドゥに出ていく。
福森が迎撃

 ドゥドゥがキープから右サイドへ展開。この時、福森が迎撃で最終ラインを留守にしているので、菅が中央に絞って4バック化している。これはセオリー通りなのだが、中盤(ボランチ脇)をケアしたことで、最終ラインは1人人数が減り、中央に絞ったため、サイドのケアが困難になっている。
 となると甲府の右WB、橋爪は完全にフリーで、余裕をもってルックアップすると、それまでドゥドゥと共に再三繰り返していたように、ウイルソンが札幌のサイドのスペース(福森や菅の裏)に走り出す。
菅が絞って4バック化

 ウイルソンに河合と菅でダブルチーム気味に対応するが、切り返しで河合が置いていかれる。ここはしっかり潰して欲しかったが。河合と菅が釣り出されたので、中央は2枚+戻ってきた宮澤の計3枚に減る。
中央の枚数はさらに減る

 5バックだったはずの守備は2枚+宮澤の3枚に。当然大外はケアできない。クロスが流れたか、それとも元々阿部を狙っていたのか。1年前のこの試合の得点に非常によく似ていた形だった。
枚数が足らず大外のケアは不可能

2)迎撃守備のリスク


 図でこの構造を示す。
 今回はトランジションだったが、仮に5-2-3でセットしていたとしても、札幌の1列目守備は3枚で守っている時はハリボテ同然、フリーパス状態なので、J1の平均的なCBであれば容易に縦パスで突破できる。
 ボランチ脇に通されると、左右のCBが前に出て(迎撃)対応する。すると5バックは1枚減り、4人が中央に絞ったポジションを取る。
福森の迎撃でボランチ脇をケア

 最終ラインが4枚になると、サイドのケアはどうしても遅れてしまう。クロスを上げられると、中央は3枚。この3枚での対応も、通常5バックで守っている札幌にとっては心もとないものではあるが(マークがずれると途端にあたふたする)、それ以上に、3枚で中央に絞って守るので、反対サイドのケアは困難。近年よくある3バックのチーム(攻撃時にWBが上がって4トップ~5トップ気味になる)相手だと、反対サイドを開けていることは致命傷に繋がる(4月の浦和戦、関根の得点を思い出してほしい)。
中央3枚、大外はケア不可能

2.4 動かざる山(再)


 後は甲府がお得意の5-4ブロックでタックルラインを下げて籠城して終わり。前半~後半頭のように裏に広大なスペースを作っていた姿はもうない。誰でも予想できる展開であったので、こうなる前に手を打っておきたかった。

3.雑感


 アウェイの甲府が守り倒すガチガチの展開が予想されたが、ジェイの先制ゴールによってやや予想外の展開に。札幌としては、リードを奪ってからの数十分間をもう少し有効に使いたかった。チャンスを逃せば4月の対戦と同じように、甲府がゴール前にバスを停めたことで痛恨のドローとなってしまった。

 ジェイの評価はその人の好みでもある。点を取ればOK、守備は他の選手で何とかすればよい、という人の考えも理解できる。筆者の意見としては、ジェイを勝てなかった試合のスケープゴートにしたいわけではないが、既に良くも悪くも”ジェイ仕様”のチームになりつつあると感じている。
 勿論、監督も諸々のリスクを承知で、バランスを見極めたうえで起用しているはずだが、この日のヘイスのように、ジェイを起用することで結局誰かが割を食うことになる。トータルで見て本当にプラスなのか、極めて微妙に思える。

 大手メディア?にも、ついにこのような記事を書かれてしまった。
チームとしては相当、厳しい状況だと評さずにはいられない。他チームが開幕時から着実にチーム力を高めていっているなか、札幌は全くそれができていない。厳しい言い方になるが、現状では順位上昇の兆しは見つけ難い。
おそらく四方田監督としては、キャンプ~開幕の時点でチームとしてはほぼ完成していたのだと思う。そこからプラスアルファをもたらそうとして、ジェイやヘイスを組み込んだり、マンマークを導入したりと”肉付け”をしているのだと思うが、それにより組織としてのバランスがどんどん悪化している(バランスが崩れること自体は想定内なのだとは思うが、その度合いは想定、コントロールできているだろうか)。

2 件のコメント:

  1. 外国人トリオで先行逃げ切り、それも可能な限り点を取って…というゲームプランだったのかな、と。
    守備しないジェイとヘイスを並べるってことはそうでも考えないとちょっと理解できないですね。
    3人に競り勝つ高さがある、足下の技術も高いとジェイがスペシャルなのは確かなんですが…。
    気になったのは右サイドの機能不全。左サイドは福森と菅で固定できているせいか受け渡しにそれほど破綻はないように見えましたが
    いずれにしてもマセード1人だけの問題ではないのかな、と(帰陣が遅いというのはありますが)。
    いつもは兵藤が左、宮澤が右の2ボラですが宮澤が入った直後は左右逆になっていました。何か理由があったのでしょうか?
    コンアシのダイジェストでも2列目より後ろの飛び出しは兵藤と菅だけ。それも選手任せのアドリブに映る。
    3-4-2-1にしたせいでボラはアタックに行けない(チャナトップ下の2トップでも基本同じ)、“ジェイ仕様”のデメリットと言えるでしょうね。

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    1. >フラッ太さん
      足元でもらいたい選手が多すぎて、とにかく写真を載せた局面以外にもスペースが使える状況でもう少しシンプルにやれなかったのか…という感想です。甲府相手ならジェイをスタートで使うだけの余裕はあるとの認識はわかりますが、それはいいとして内村はもう少し早くても良かったと思います。
      マセードはサイド攻撃を一人で担っているので、彼の不調はそのまま機能不全に直結しますね。

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