2017年8月25日金曜日

2017年8月19日(土)19:00 明治安田生命J1リーグ第23節 川崎フロンターレvs北海道コンサドーレ札幌 ~愚かなる前進~

スターティングメンバー

0.プレビュー

0.1 スターティングメンバー


北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-2-1、GKク ソンユン、DF菊地直哉、河合竜二、福森晃斗、MFマセード、荒野拓馬、兵藤慎剛、石川直樹、FW都倉賢、ジェイ、チャナティップ。サブメンバーはGK金山隼樹、DF進藤亮佑、MF宮澤裕樹、FWヘイス、内村圭宏、金園英学、菅大輝。メディアでは宮澤のスタメン復帰が予想(兵藤がサブ!)されていたが、まだ怪我が治っていないのか、結果的にはベンチスタート。既報の通りだが、石川直樹が驚きの左WBで初スタメン。1トップは前節得点を挙げたジェイ。ヘイスはベンチスタート。
 川崎フロンターレのスターティングメンバーは4-2-3-1、GKチョン ソンリョン、DFエウシーニョ、奈良竜樹、谷口彰悟、車屋紳太郎、MF大島僚太、エドゥアルド ネット、家長昭博、中村憲剛、阿部浩之、FW小林悠。サブメンバーはGK新井章太、DF板倉滉、MF田坂祐介、三好康児、ハイネル、FW登里享平、森本貴幸。故障を抱えていた小林がスタメン復帰。家長は前節鹿島戦でスタメンに復帰し1得点。

0.2 その他


 JFL時代にはホルヘ・ルイス・デリー・バルデスのハットトリックで札幌が延長Vゴール勝ちした試合もあったが、Jリーグ公式戦における両者の通算戦績は、札幌の0勝3分13敗。公式戦で札幌が川崎に勝利したのは、08年、室蘭でのナビスコカップのみ(ノナトが札幌在籍時に唯一スタメン出場した試合でもある…もっとも他にはFC東京戦の途中出場(4分間)しか記録していないのだが)。


1.前半

1.1 風間アタックとペナルティエリア幅での攻防

1)革命家の示した道筋


 そんな川崎相手に、アウェイで勝ち点を持ち帰るというミッションは困難を極めるが、まず札幌が考えなくてはいけないのは、リーグ戦で1試合平均2点近い攻撃力を誇る川崎の攻撃を何とかして食い止めること。
 今シーズン序盤の戦いぶりを見ると、川崎は前監督の戦い方を踏襲しつつ、攻守ともに微調整を測っているかのように見えたが、夏場以降は特に攻撃において、”風間路線”により回帰しつつある印象を受ける。
 その特徴は、「ピッチの横幅」をほとんど使わず、中央、具体的にはペナルティエリアの幅に選手を密集させて中央突破による攻略を図る。近年、サッカーだけでなく、フットサルやバスケットボール、ハンドボール等のボールスポーツにおいても、攻撃側はピッチを広く使い、ゴールへの最短距離となる中央のエリアのスペースを拡げるため、攻撃の縦幅と共に横幅を確保することが重要かつトレンドになりつつあると聞いたことがあるが、風間前監督が構築した川崎の攻撃はそうした作業を行わず、ひたすら中央密集からのコンビネーションで突破を図る。

2)ペナルティエリア幅の攻防に備える5バックと石川起用


 札幌としては、川崎が「最後は必ず中央突破」であることはある程度読める。よって、川崎対策は、「サイドは捨てて、中央の密度を高める」という考え方に自然と行きつく。その具体策が、石川直樹を左WB(守備時はSB)に起用した変則的は5バックの採用だったのだと思う。
 川崎がボールを持っている時の状況は下の図のようになっていて、中央に密集する川崎の4人のアタッカーを閉じ込めるように、札幌は5バックと4人のMFでブロックを作ってバイタルエリアを封鎖する。この時、都倉とチャナティップは最初ジェイと並んで3トップ、5-2-3のような陣形にも見えるが、例によってこの3人の1列目は、守備ユニット、もしくは”チェーン”としての機能性は殆どない。代わりに都倉とチャナティップは頻繁にボランチの位置まで下がってブロックを再構成するので、5-4-1と表するのが妥当だろう。
中央密集で守る

 サイドでの勝負を捨てて中央を守るならば、WBには菅ではなく本職CBの石川の方がタイトに守れることは言うまでもない。石川は序盤、とにかくペナルティエリア幅から外れないようなポジションを取り続けており、中央を死守するという監督の強い意志が読み取れる。

3)札幌の守備原則(密度と撤退)と河合の個の力の併用


 中央を固めて守る具体例として、↓の1:36~の局面を見ていく。
 川崎が札幌陣内深くまでボールを運んだところ。札幌は既に自陣深くへの完全撤退(裏のスペースを消す)とブロック構築が完了している。札幌が川崎相手に、ピッチ上のすべてのエリアを守ろうとすることは不可能。
 よって札幌は、①最終ラインを下げて裏のスペースを消す、②川崎が使いたい中央バイタルエリアのスペースを消す、この2つにほぼ全てのリソースを割いて特化している。

 川崎は札幌のライン間に中村、小林、阿部と陣取る。家長はブロックの外にいるが、川崎の両SHは阿部が裏を狙い、家長が密集地帯に出たり入ったりという動きが多かった。
5-4ブロックがペナルティエリアまで引いて裏のスペースを消す

 中央で受けたネットが、早いタイミングで中央の中村に縦パスを入れる。札幌はかなりタイトにブロックを組んでいたが、それでも兵藤とチャナティップの間を通されてしまった。しかし中村に渡ると、札幌はすぐさまブロックを収縮させて複数の選手で囲い込む。中村もこれでは何もできないので、バックパスでボールを逃がす。

 このとき、最終ラインでは河合がボールに食いつかず、FW小林をマンマーク。ゴール前で一番危険な選手に対しては、組織(ゾーン守備)だけでなく、明確な潰し役を決め、個の力を併用する。良くも悪くも人に食いつく河合ならば適任でもある。
ブロックを収縮させて憲剛を囲む 河合はマンマーク

4)5バック攻略はお手の物?


 しかしながら、前監督時代から6年ほどこうしたスタイルを続けている川崎の側からすると、札幌に限らず対戦相手がゴール前を固めてくることは想定内といったところで、全く慌てずに札幌のブロックを崩しにかかる。
 川崎が持つ”対抗手段”はいくつかあるが、この試合で主に展開してきた手段は以下の2つ。1つはブロックの間で受ける選手への楔の縦パスで、わざと狭いエリアを通すことでブロックを収縮させ、特にDFの選手を食いつかせることで動かす。下の写真では、ネットからの縦パスを見て、1トップの小林に河合が喰いつくと、
縦パスで食いつかせる

 ネットにすぐさまリターン。河合が食いついたスペースに小林が走りこむ。この時は裏を使わず、サイドに展開したが、この動きだけで札幌の守備原則(裏を消す)は揺さぶられる。
食いついた裏に走る

1.2 愚かなる前進守備


 上記1.1で、札幌の守備について、撤退して裏を消すことと5-4の9枚ブロックでバイタルエリアのスペースを消すことが重要だと挙げた。しかし後者については、時間を追うごとに段々と原則として徹底されなくなっていく。
 具体的には、札幌の守備は5-2-3のような陣形になり、前に3枚を置くことで中盤にスペースができやすい状況を自ら作るようになる。これは監督の指示だったのか、選手の判断だったのかはわからない。戦術的観点からは、監督の指示だとすると疑問の残る選択だが、ただ選手の中には5-2-3とすることの共通理解もあったように見受けられるので、選手が勝手に判断したとも考えにくい。

1)守備原則を崩したのは選手(都倉とチャナティップ)?監督?


 川崎の先制点について。
 ネットが最終ラインにバックパスをすると、札幌は都倉とチャナティップが(選手の判断だとしても、監督の指示だとしても)”不用意に”ここに食いついてしまう。5-2-3になったところを、谷口から大島への縦パスで突破されると、本来5-4ブロックのはずが札幌のブロックは5-2。
 インターネット上では、札幌の1列目を剥がした大島の技術が賞賛されていたが、個人的には、それ以前にここで都倉とチャナティップが食いついてしまったことが問題だと思う。ゲームプランから考えると、札幌の守備は、この位置で都倉やチャナティップがボールに食いつくことで、後方に5-2ブロックしか残らないような守り方は想定していないはず。最優先はとにかく先に述べた2つの原則…「密度」と「撤退」を遂行する、低い位置でのブロックの構築であって、ここで食いつくとブロックの構築が遅れてしまう。
都倉とチャナティップが食いつき大島に突破される

 川崎は大島がボールを運び、一度右サイドを経由してから反対サイドへ。ここで横に展開したために都倉とチャナティップが戻ってくる時間ができた。しかし戻ってはいるものの、2人はこの時点で完全に守備のスイッチが入っている状態ではなくて、ボールにアタックしているのはボランチの兵藤やWBのマセードであった。
戻ってはきたけど守備のスイッチが入らない

 都倉が守備に加担できないので、それまでよりも広い領域でマセードが釣り出されると、隣のゾーンを守る菊地もスライドを強いられる。しかし河合はスライドできない(人を守っている)ので、菊地がいたポジションは空いてしまう。
 また、河合が何かコーチングをしている様子があるが、恐らく守備の枚数が足りなくなっているため、ボランチが動かされたことで中央が手薄になっていて、バイタルエリアの家長を誰が見る?というようなことを言っているのだと思う。
マセードと菊池が動かされる

 都倉が守備に加われず、ボランチも動かされているので、2列目の守備は滅茶苦茶で、ボールが中央に戻されると大島はドフリー。最終的には河合の懸念通り、最後まで家長を捕まえきれず、浮き球パスを家長に通されて失点につながってしまった。
最後まで守備がはまらずボールにプレッシャーがかかっていない

 一連の流れを見ていくと、確かに川崎の崩しにおける組織(相互理解)と個々の選手の技術はJリーグで高い水準にあることは間違いない。ただ、チームとして5バック+4MFという組織がしっかり維持されていれば、ある程度抵抗することはできたはずで、札幌が自ら墓穴を掘り、均衡が崩れてしまった印象を受ける。

2)カラーコーン状態でJ1では通用しない5-2-3


 20分過ぎにも以下のような局面があったが、札幌が2016シーズンの基本布陣としてきた守備時に5-2-3になる守り方はJ1では使える代物ではない。
 5-2-3で守ると、前3枚を何らか守備に組み込まないと、7枚ブロックで守ることになるので、何らか前3枚に仕事をさせたいのだが、札幌の5-2-3は2016シーズンからずっと、自陣でブロックを組んではいるものの、ただブロックを組んでいるだけで、ボールを基準にポジションを取り、相手のパス経路を阻害することができておらず、典型的な「カラーコーン守備」となってしまう傾向が強い。
一応ブロックを組んではいるものの…

カラーコーンの如くただ待っているだけなので選手の間を容易に割られる

 25:45の局面。ジェイが川崎の横パスを狙って飛び出すが、中村憲剛の見事なターンでかわされてしまう。この時、札幌から見て左側にボールが展開されるので、5-2-3のゾーンで守っているとしたら、一般にはジェイと隣り合うポジションのチャナティップがネット(センターサークル内)にアタックする必要がある。
ジェイが突っ込んでかわされたところ

 しかしチャナティップはネットに反応せずステイしている。代わりに兵藤が後方からポジションを上げてアタックに行くが、ここを兵藤が守るというのはどちらかというと5-4-1っぽい守り方ではある。そして兵藤がアタックに行っても、距離がありすぎて全く寄せられていないので、相変わらずネットはフリー。兵藤の背後のスペースに簡単に通されてしまう。
ネットにアタックしたのはチャナティップではなく兵藤

 40分過ぎにはネットのスルーパスに阿部が反応してゴールネットを揺らす(オフサイドの判定)。人数だけ揃っているが、コースは切れず、全くボールにプレッシャーがかかっていないので、スルーパス1本で全員が無力化される。
フリーのネットからのスルーパス

 まとめると、札幌の守備は恐らくスタート時は川崎のバックラインへのプレッシャーを放棄し、ゴール前を固めることに特化した5-4-1。先制された直後くらいからは、都倉とチャナティップが前目に位置する5-2-3に近い形→攻め込まれるとリトリートして5-4-1。
 しかしいずれにせよ、前線の選手…特にシャドーの都倉とチャナティップに守備で何をさせたいのかがはっきりしない。ボールにプレッシャーがかからない、コースも切れていない、中途半端な対応に終始し、ここを見切った川崎は用意に札幌のバイタルエリアに侵入していく。

3)結局は攻めるため?


 一方で前3枚の5-2-3にした時間帯から、徐々に札幌のカウンターのバリエーションが増えていく。特にチャナティップがそれまで以上にカウンターに絡むようになっていく。これは図示すると、5-2-3だとチャナティップや都倉が高いポジションからスタートするので、川崎がシンプルに中央を使ってくる(揺さぶられていない)と、そこで奪えればカウンター時にチャナティップを高い位置に維持できるため。
 図のように、エウシーニョの背後が非常に狙いやすく、左サイドで前を向けることが多くなる。川崎はネガトラ時、ここを主にCBがケアし、プレスバックでSBも加勢する。しかし俊敏なチャナティップが前を向いた状態だと、奈良とのマッチアップで何かが起こる予感は感じさせる。10分過ぎのドリブルで奈良をかわしてFKを得たプレーや、30分頃のサイドチェンジからマセードの仕掛け(これもFK)など。チャナティップや都倉を前に出して攻めるために、監督の指示で5-2-3で意思統一されていたということも想定される。
前に残しておけばSBの背後は狙いやすくなる

1.3 大砲の存在感

1)ジェイの使い方


 川崎相手にボールを保持することが難しい札幌の攻め筋は、やはり低い位置で川崎の攻撃を食い止めてからのダイレクトなカウンター。
 今シーズンここまでの札幌の恒常化している問題として、ボールを回収した後の預けどころがなく、カウンターが機能せず、また攻撃機会を失い守備一辺倒になってしまうという点がある。この試合では、札幌はボールを回収すると、FWのジェイにまず当てて、ジェイが収めたところで後方から選手が飛び出すというパターンを徹底することで、「カウンターできない問題」の解決がある程度見られた。

 川崎が中央突破を図るときの両チームの選手配置は以下のようになっている。注目は札幌のジェイと、川崎の両SBとボランチのポジション。札幌は5-4-1で守るが、ジェイは守備が免除されていてセンターサークル付近から動かない。そのため札幌はジェイと2列目が豪快に間延びしているが、これがある意味で”罠”となっている。
 ”罠”というか、川崎のリスク管理の問題でもあるが、川崎は崩しの局面でネットがブロックの前でのかじ取り役、大島がブロックに入ったり出たりを繰り返して、レシーバーとしての技術を活かすプレーを試みるが、となると2人とも頻繁にジェイよりも前のポジションに出ていくことが多くなる。
 また、MFが中央に絞るのでサイドはSBが担当しなくてはならず、ウイング化とまではいかないが、両SBともそれなりに高い位置をとる。となると最終ラインの2枚でジェイを見ることになり、またSBの裏のスペースは頻繁に空いている。
ジェイに当ててSBの裏

 札幌はこのSBの裏を狙ってカウンターをしたい。最終的にクロスで終わることを考えると、必然とマセードに登場してもらいたいが、マセードが最終ラインから上がっていくにはかなりの距離があり、時間を作ることが必要になる。その解決策がジェイのポストプレーだったということになる。

 なお、(すこぶる評判が悪い)DAZN解説の秋田豊が、「ジェイに渡った時の川崎のケアが甘い」という指摘を前半2度ほどしている。これは指摘の通りで、では何故ジェイのケアが甘くなっているのかというとシンプルにこれという理由は見いだせなかった。一つ言うならば、前半途中から札幌がチャナティップや都倉が前残り気味にカウンターを繰り出す局面がたびたびあり、川崎はCB2枚とネットor大島の計3枚で、中央だけでなくサイドの見なくてはならなくなったことがあるかもしれない。

2)ジェイへの不満


 もっとも、ジェイは長谷川ゆうさんにも指摘されるように、プレーの連続性が著しく欠落しているという課題がある。

 よって、一度競り合った後のセカンドボールを札幌が拾っても、ジェイの準備ができていないので再びジェイに預けることができない、といったような場面もあったが、全体的にジェイによく収まっていたのは、ジェイに当てるボールの質が悪くなかったため。更に言えば、川崎は札幌がボールを奪った際のネガティブトランジション、ファーストディフェンスがそこまで効果的にはまっていない。そのため札幌は奪った兵藤や荒野がジェイに出すまでの時間、空間的な余裕があり、それがジェイに当てるボールの質に直結していたと思う。

3)ジェイ番・エドゥアルド ネット


 そしてジェイのスタメン起用により、川崎にそれなりの悩み事を与えることになっていたと思うのが、高さを活かしたロングボールの競り合い役としてのジェイの強さ。
 例えばゴールキックの際、札幌は昨今のトレンドに逆行して大半の機会においてロングボールをFWに当てる選択をするが、ジェイが谷口と競ると質的優位は札幌の側にある。ここで跳ね返せず、セカンドボールを拾われることを嫌う川崎は、谷口が心許ないならばより強い選手…エドゥアルド ネットしかいないのだが、ポジションを下げて空中戦でジェイと競らせる役割を任せる。するとネットが空けた中盤センターは、大島1人で見なくてはならなくなる。このスペースが前半途中から頻繁に空くようになっていて、札幌としては有効活用したいところだった。
谷口では心もとないのでネットがカバー(スペースができる)

 また、川崎からすると札幌は、ピッチのどこにボールがあろうと、プレーのオプションとしてジェイ(や都倉)への放り込みをしてくる可能性がある存在。よって川崎がボールを持っている際に、ネットがポジションを上げて攻撃参加してしまうと、ネガトラ時にジェイ番が不在になってしまう。そのため、前半途中からネットはジェイ番としての役割から、迂闊にポジションを上げられなくなっていた。
 かじ取り役のネットが適正位置にいないことで、川崎の攻撃力は半減とはいかないまでも確実に削がれることになる。

2.後半

2.1 二兎を追う

1)配置変更の理由


 後半頭から、札幌は前線は都倉とジェイの2トップ、中盤底を荒野1枚にし、チャナティップと兵藤をインサイドハーフとする3-5-2に変更する。適性があるか微妙な、チャナティップのインサイドハーフ起用(ムアントンでは、4-3-3のインサイドハーフに近いポジションでも使われていたが)という点では、アウェイ鹿島戦や大宮戦に続くファイヤーフォーメーションとも言えるかもしれない。
46分~
 配置変更の理由はまず守備にあって、一言でいうとハイプレスによって高い位置からボールを奪いたいため。下の図のように2CBに都倉とジェイ、ボランチにチャナティップと兵藤…というように、全ポジションでマッチアップを合わせてマンマーク気味に対抗することが可能になる。前半は前3枚だけが高い位置から捕まえに行き、枚数が足らず後ろも連動できていないので、結局かわされて運ばれる、という状況だったが、これで枚数不足は解決する。あとは選手個人の頑張りによるところが大きいが、ハーフタイム空けでまだ体力があるうちに仕掛けておこうとのことだろう。
マッチアップを合わせてハイプレス

2)机上の空論


 完全マンマークで人数配置を合わせているならば、理屈上は各選手がしっかり付いていけば破綻しないし、川崎の選手も困るはず。しかしそうならなかったのはいくつか理由がある。
 一つはマンマークで守っている選手に非常に緩い対応をしていて、担当の選手に困難を突きつけられていない選手がいる点。具体的には、ジェイの気まぐれな守備は谷口をしばしば外していたし、そもそも捕まえる気があるのか謎なポジションすらとっていた。
 二つ目は、スペースを守っている選手がいるなど、そもそもマンマークになっていない箇所がある点。これは具体的には札幌のウイングバックの選手がサイドのスペースを埋めるために下がっていて、担当である川崎の両SBがフリーになっている状態が散見された。この時、SBを兵藤やチャナティップが捕まえると、その担当であるネットや大島がフリーになる…という具合に、1on1での対応が基本なので、この原則を徹底できないと必ずどこかで破綻してしまう。
破綻するマンマーク

 上の図で、なぜ石川やマセードは川崎のSBに出られずフリーにしてしまうのかというと、身も蓋もない話だが、川崎の攻撃陣と札幌の守備陣を数的同数で対応させるのが怖いから。もしくはポジションにとらわれず自由に動く川崎のアタッカーに、札幌の守備の選手が全てついていくことでスペースがスプロール状態のようになってしまうのが怖いから。
 要するに、札幌の前線守備vs川崎のビルドアップ部隊、ならばマンマークでも対応できるが、札幌の後方守備はそれができるだけの能力(基本的には個人能力)がない。そもそも札幌は戦力で劣るという前提を受け入れ、四方田監督の下、組織力を高めてジャイアントキリングを起こしていこうというチームコンセプトだったと思うが、負けているので攻撃的布陣に、かつ守備はマンマークで個人能力重視な戦い方を選択、となると、そうした前提はどこへ行ったのか?という気もする。

2.2 ゴールは近くて遠し


 マンマークがハマってボールを回収し、攻撃に繋がったとしても、今度は前線の人数を増やしたはいいが、その駒をどう有効に使うかという道筋が殆ど見えてこない。下の52:12、右のマセード(仕掛けてもいい状況だったがバックパス)から菊地と渡り、ここに侵入してきた荒野に渡ったところ。この局面で、札幌はバイタルエリアに6人ほどの選手が横並び状態でボールを要求しているが、唯一チャナティップがマセードに対応するSB車屋の裏(ペナルティエリア角)を狙う動きを見せたくらいで、他はサイドに張る石川はともかく、ゴール前で3人もの選手が被っている。
前に人がいるだけで何の役にも立っていない

 そもそも菊地が攻撃参加している時に、アンカーの荒野がここに顔を出すと後方は河合と福森のみ。結果、荒野の強引なシュートがブロックされて川崎のカウンターが発動すると、まるで川崎にカウンターしてくださいと言わんばかりのスペースが拡がっている。
カウンターを狙う川崎の格好の餌

 やはりバランサーとしては微妙だと言わざるを得ない荒野だが、この時は前の選手が皆ゴール前に張り付いているので、荒野が何らか攻撃を組み立てないといけないという意図は理解できる。前に人数は増やしたはいいけど、全然効果的に使えていないという状況で、これでは得点の匂いはほとんどしない。

2.3 チャナティップ・タイム

1)雷雨を駆けるチャナティップ


 60分に札幌は都倉⇒ヘイス。ヘイスはそのまま都倉の位置、ジェイと並んで2トップ。川崎は62分、中村憲剛⇒登里。登里は左MFで、阿部がトップ下。

 この時間帯頃から、札幌だけでなく川崎も全体的にプレーの精度、インテンシティが落ちてきた印象で、それにより生じた現象としては札幌の攻撃時、川崎の攻撃時、およびトランジションのあらゆる局面で中盤が間延びする。試合開始前からの断続的な雷雨というコンディションの影響もあったかもしれない。

 ハイプレスという名のエリアを限定しないマンマーク守備が突破されると、札幌はとりあえず撤退し5-3でブロックを組む。ここで何とか河合や菊地が体を張り、精度の低下した川崎の中央突破をやり過ごすと、マイボールにしてチャナティップに渡せば、タイの至宝が間延びした広大なスペースを突進し攻撃機会をつくる。
 チャナティップもこの時、ブロックに加わっているのでかなり低い位置にいるが、こうした低い位置からボールを運ぶドリブルを繰り出せる。そして運べない状況では、味方の動き出しを待って正確にパスで繋げ、不用意にボールを失わない。
広大なスペースをチャナティップが運ぶ

 勝負どころと見たか、札幌は70分に石川⇒菅。選手防衛に徹していた左サイドも攻撃に舵を切る。

2)左サイドの槍


 反撃ムードが続く札幌の心を川崎が打ち砕いたのが75分、スローインから家長のパスに抜け出した登里が低くてクロス。中央で小林が合わせて2-0となる追加点。
 この10分ほど前に登里を投入したことで、川崎の前線はそれまでと異なり、左サイドで登里が固定され、攻撃参加してくる車屋と併せて、マセードに対し1on2の関係を突きつける。そもそもマセードも既にガス欠気味で、フレッシュな登里の対応でも相当厳しくなっていて、(失点の後で書くのは簡単だが)どうなるかは目に見えている。結局ここも、個で何とかする、という以上の解決策を探し出せなかったがゆえの失点でだとも言えると思う。
急所を突く登里の縦突破

2.4 回転ドア

1)川崎のプレゼント


 ラスト15分で0-2。まずは攻撃機会をつくるためにボールの回収が必要な状況という札幌。しかし各選手の体力が落ちている中で、ボールを回収するための有効な手段が殆ど見いだせない。
 そうした状況から80分に1-2というスコアになったのは、一つはDAZN中継の解説、実況が指摘するように、中村憲剛を下げた川崎はゲームコントロールを失い、失点に繋がったネットのパスから谷口のミスのように、イージーな局面で札幌にボールを渡してくれたから。二つ目は”自動ドア”チョン ソンリョンのミス。ともかくこれで望みは残った。

2)終了まで


 86分、札幌は菊地⇒内村。川崎は同じ時間に続けて阿部⇒田坂、小林⇒森本。札幌は4バックという名の2バックのようなイメージだろうが、菅は最終ラインに入ると後方を気にしながら攻撃参加しなくてはならなくなる。過去の試合でも終盤に使われた陣形だが、この陣形が果たして最適解だったのかはわからない。
 アディショナルタイムを含めてラスト10分は逃げ切る川崎、必死に走る札幌。ラストプレーのソンユンの攻撃参加や福森の激走など、個々の頑張りは心を打つが、戦術的にはビハインドを覆す何かは感じなかった。
86分~

3.雑感


 勝ち筋があったとしたら、やはり前半はゼロでいきたかったが、相変わらずな5-2-3で守った時のカラーコーンのような守備を見て厳しいなという印象であった。後半は大胆にリスクを負うスタイルにシフトしたことで、スタミナが切れる25分間ほどはそれなりに脅威を与えることができたが、川崎の再三の逸機が猶予とならなければ、早々に2点目、3点目を取られてもおかしくないバランスだった。

 建設的に今後のことを考えると、システムは選択肢の中でバランスが良い3-1-4-2⇔5-3-2で、となるとチャナティップはインサイドハーフか。柏戦のように、インサイドハーフを走らせる守備では潰れてしまいかねないので、サイドに守備で働ける選手を使いたい。5-3-2ならばジェイの守備貢献もある程度ごまかせる。推す理由は他にも理由はあるが、いずれにせよ今一度バランスの見直しは急務だろう。

2 件のコメント:

  1.  今の3-4-2-1&“戦術ジェイ”じゃ全くといっていいほど展望が見えてきません。拙ブログでもちょっと書いたんですが、守備しないジェイの分を都倉がカバーしなくてはならず、5-4ブロックを敷こうとしても都倉のポジションが中途半端かつ本職ではないので穴になるアンバランスさに加えて、中央にどっかり居座るジェイにボールを集めてしまうせいで相手の守備を自ずから集めさせて守りやすくさせる。

     もともと、四方田コンサは裏のスペースを突くということをあまりしていない。というよりは足下でもらいたがる選手が多い、ボールを持ってナンボっていう弊害とも言えますが、ジェイのところに集めさせておいて…といったズレやギャップを生み出すことができない上に前の3人にお任せ状態の3-4-2-1では後ろからの攻撃参加も望めない。5-3-2であれば少なくともインサイドハーフの攻撃参加はしやすいし、WBも走力重視で馬車馬のように走れる菅と謙伍であればピッチの幅を広く使えますから相手の守備組織を広げて穴もできやすくなる。中盤に3人いれば1人がサイドの守備に引っぱられてもバイタルは2人確保できるので強度は維持できるしアンカーを置いてセンターラインの軸を定めれば左サイド偏重の攻撃も多少は是正されるはず…と妄想もできるというもの。

    4バックが組めれば4-1-2-3にして中盤から前は今のスカッドでも戦術ジェイで行けそうな気はするんですが。
    財さん帰還&石川獲得はその布石なのかと穿った身方もしてしまうほどに今の四方田コンサはちょっと酷いですね。

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  2. >フラッ太さん
    私はTwitterに書いたんですがw 個人的には3-1-4-2(3-5-2)⇔5-3-2しかないと思ってて、仰る通り5-4-1ないし5-2-3だと前線守備が何も機能しなくなる、攻撃ではボランチの位置で2人滞留するのが多いので、後ろに5人も人数書けるようになって無駄、という、そういうパターンになっちゃってますよね。

    >四方田コンサは裏のスペースを突くということをあまりしていない。
    5月くらいまではそういうビルドアップもやってましたね…WBに早坂が入って、インサイドに荒野で、早坂が空けたサイドの裏に荒野が走るパターンとかそういうやつです。

    ちょっとネガティブな書き方をしてしまうと、組織としては、開幕戦~5月上旬くらいまでの完成度がピークで、以降は少しずつ人を変えるたびにバランスがおかしくなってる(但し、”個”がある選手を入れているという考えなので、組織はマイナス、個はプラス?⇒差し引きは???)のは思いますね。昨シーズンもそんな感じでしたが…

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