スターティングメンバー |
0.プレビュー
0.1 スターティングメンバー
北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-2-1、GKク ソンユン、DF菊地直哉、河合竜二、福森晃斗、MF早坂良太、兵藤慎剛、宮澤裕樹、石川直樹、FWヘイス、都倉賢、チャナティップ。サブメンバーはGK金山隼樹、DF進藤亮佑、MFマセード、荒野拓馬、小野伸二、FW内村圭宏、菅大輝。ジェイは慢性的に痛めていた右足ではなく、左足の内転筋痛で欠場(出産した奥さんに会いに行くため札幌を離れている)。代役として都倉がFW、ヘイスがシャドー。この並びはスタメンでは初めて。宮澤は3試合ぶりにスタメン復帰。早坂がスタメンで右WBに入るのは6/4の第14節神戸戦以来。また前節川崎戦の翌日、8/20に柏レイソルとトレーニングマッチを行っており、稲本がスタメン出場している。
ベガルタ仙台のスターティングメンバーは3-4-2-1、GKシュミット ダニエル、DF平岡康裕、大岩一貴、椎橋慧也、MF蜂須賀孝治、富田晋伍、三田啓貴、中野嘉大、野津田岳人、西村拓真 、FW石原直樹。サブメンバーはGK関憲太郎、DF増嶋竜也、MFヴィニシウス、梁勇基、古林将太、FW奥埜博亮、クリスラン。開幕戦でマセードに困難を突きつけた左WBの永戸と、金久保は長期離脱中。野津田は今月期限付き移籍で加入し初スタメン。石川直樹を完全移籍で札幌に放出したCBは、本来守備的MFの椎橋が3試合連続で先発。また8月に獲得したヴィニシウスがベンチ入り。
0.2 仙台の”アンチ4-4-2”
両チームとも同じシステムだが、その採用理由は異なっていて、開幕から3-4-2-1を採用する仙台の狙いは主に攻撃にある。端的に言うと、攻撃時のポジショニングによって相手のギャップを突き、ボールを前進させていこうというコンセプトがあり、特に4-4-2系のチームに対して下の図のように巧くギャップを突ける構造になっている。
ここまで23試合で26得点、39失点と抜群に結果が出ているわけではないが、チームとしては明確なプレーモデルがあり、貴重な左利きCBである石川直樹がゲームに絡めなくなったのも、こうしたコンセプトに適合しないためだとすると説明がつく(キックは比較的正確だったと思うが、機動力や起点となる能力はそれほどでもない)。
仙台の狙い(vs442) |
一方で札幌は、なかなか結果が出ない中で、「個の力による解決を図った結果、ピッチに立たせたい選手を並べたら3-4-2-1に行きついた」というような状況。要はチームとして何をしたい、というより、キャスティング主義的な考えであり、システムを変更したここまでの数試合では、まだチームとしての狙いをピッチ上で体現しきれているとは言い難い。
1.前半
1.1 ”聖地”厚別の戦い方
1)ロングボールと風
札幌が風上を取り、エンドを変更してキックオフ。
両チームともシステムは3-4-2-1。所謂ミラーゲームで、初期配置ではどちらの攻撃時もマッチアップが揃っており、フリーの選手はなかなか見つからない。特に仙台は、プレビューで書いたように相手とのミスマッチを巧く利用してボールを運ぶトレーニングがされているが、3-4-2-1の札幌相手には初期配置ではミスマッチができにくいため、ボールを前進させていくためには何らかの変化が必要な状況でもあった。
開始15分ほどは両チーム、特に札幌がロングボールを多用する。見ていると、雑に縦に放り込んでポゼッションを放棄しているだけいるだけのように思えるが、平面での攻防に移る前にロングボールを使って仙台の陣形を押し下げるという意図があったことは想像がつく。
ミラーゲームなので、両チームとも各局面で数的同数、まず最初に直面するのは、CB3枚のところで相手の3トップが前進を阻害してくるという状況。かつ仙台は最終ラインを高く保ち、陣形を押し上げた状態での守備を志向する。この状況で、ビルドアップがあまり整備されていない札幌がボールを保持して前進を試みるのは得策ではない。よって、まずは仙台の高いラインの裏に蹴り、相手を後退させ、陣地回復を試みる。
数的同数守備を嫌って裏に放り込み、陣形を押し下げる |
2)ビルドアップ vs カウンタープレス
ロングボールで仙台の陣形を押し下げるとともに、仙台にボールを渡した状態から「平面の勝負」がスタートするが、捉え方によってはロングボールを蹴って押し下げ、札幌は押し上げた段階から既に札幌の守備が始まっているとも言える。
仙台のビルドアップに対し、札幌も同じく数的同数で対抗する。基本的にはゾーン守備ではあるが、対面の選手が守備の基準点となっており、各選手はゾーンを守りつつ、対面の選手のポジションチェンジには積極的に付いていく。
狙いどころとなっていたのが、サイドで孤立しやすい仙台の両WB。札幌が前線3枚の「中切り守備」とボランチのスペース監視によって中央をプロテクトすると、仙台は両WBを使って前進を試みる。WBからの次の展開として、仙台は右の蜂須賀からは落ちてくる野津田、左の中野からはサイドに流れる西村、というソリューションが、選手特性も考慮されたうえで用意されているが、序盤、札幌は蜂須賀と中野に対し、WBの石川と早坂が積極的に前に出て時間を与えない。
WBから次の展開と札幌の狙いどころ |
3)都倉とヘイスの入れ替え
札幌は7/1の第17節清水戦以来、前線の基本構成はボールを収められるヘイスがワントップ、シャドーに都倉(とチャナティップ)という並びが続いたが、この試合では都倉がトップ、ヘイスがシャドーとこれまでと入れ替わっている。この狙いの一つに、恐らく前線の選手のうち、守備意識、運動量、戦術理解の全てにおいて最も優れると都倉を頂点におき、スイッチを確実に入れられるようにしたいとの意図があったと思われる。
下の19:39は都倉がスイッチを入れた(開始位置としてはちょっと高すぎるが)ので連動してヘイスにお前も行け、とコーチングをしているところ。出しどころがない仙台は、ボランチの三田と富田が落ちてくるが、ここは兵藤と宮澤が空けることがないので、やはりキーとなるのはチャナティップとヘイスがしっかり都倉に連動できるか、というところだった。なお、この時もヘイスの追い方が甘く、椎橋に剥がされかけるが、絞っていた都倉がカバーして阻止、ボールを戻させている。
都倉に連動した高い位置からの守備 |
4)仙台の背後を狙う札幌
仙台としては、ここ数試合「5-4-1べた引き守備」に徹していた札幌がこの位置でボールを回収しようと前に出てくることは、やや想定外だったかもしれない。序盤は何度か、このWBのマッチアップにおいて札幌の狙い通り、ボール回収が実現する。
WBのところで奪った札幌の次の手は、WBの背後~3バックの脇を素早く突くカウンター。WBの早坂と石川は、攻撃において一人で違いを作れるというタイプではない。奪った後は違いを作れる選手…両シャドーに配されているヘイスとチャナティップに預け、自らは縦にフリーランで侵入する。
奪った後はシャドーに当てる |
この後のパターンは主に2つで、1つは①サイドを縦に抜ける都倉やWBへの展開、もう一つは②中央に侵入してきた逆サイドのシャドーを使うこと。序盤は①の縦への展開で、サイドから侵入を試みる局面が多かった。ただこの時、前に走る選手は都倉か早坂。いずれもサイドを1人で攻略してチャンス構築ができる選手か、というと微妙なところで、深い位置まで侵入はできるのだが、そこからシュートチャンスまでそう簡単には持っていくことができない。
一方で、縦への展開を見せておくと、仙台は裏のケアをより意識するようになるので、②逆サイドのシャドー(図ではチャナティップ)がオープンになりやすい。チャナティップもヘイスも、基本的にボールを持ってから何かをするタイプで、これが逆側の展開…左サイドで奪った場合であっても、ヘイスはあまり裏に抜けたりはしない。ただ、裏に走らないことで撤退した仙台DFの前方のスペースでボールを持てるようになり、ここで前を向いてチャナティップやヘイスに預けて、何とかしてもらおうという想定もあったのだと思う。
都倉とWBが裏抜けで引っ張りバイタルにシャドーが侵入 |
5)結局は強行突破?
という具合に、守備のスイッチを入れる⇒奪う⇒攻撃に転じる、まではよく準備されていたが、前半、札幌が速攻から仙台のゴールを脅かすことができなかったのは、最後のところでもう少し整備が必要だった印象を受ける。
具体的には、ボールを回収して一度中央にボールが入ると、札幌の攻撃はそのまま中央を突破しようとするが、カウンター時のメインキャストである都倉、ヘイス、チャナティップの3人では、強行突破が可能なウェポンはヘイスのミドルシュートくらい。
図示したが、被カウンター時仙台は全力で帰陣して中央を固めようとする。するとサイドに人を割けなくなるので、札幌としては中央で完結しようとするのではなく、都倉や早坂がサイドを突くイメージを持っておきたかった。
中央の強行突破は厳しい |
1.2 返しの一手
1)富田落とし
札幌の数的同数を基軸とした守備の仕掛けに対し、仙台も手をこまねいていたわけではなかった。札幌の対応を見切った仙台の返しの手は、ボランチの富田を落とした4バック
化。非常に単純なメカニズムだが、DF3枚に対して3トップで守備をしてくるので、1枚増やして守備の基準を曖昧にすればよい。
札幌はこれに対し、都倉が中央2枚を1人で担当し、ヘイスとチャナティップはそれぞれ平岡と椎橋を見続ける、という考え方になるので、守備の基準は曖昧にはならないが、逆に1vs2の都倉のところは、都倉がいくら超人であっても、無限に走り続けることはできないので、明らかにタスクオーバーに近い状況を招くこととなる。
4バック化 札幌は基準は変えないが都倉は1on2 |
2)対面の選手を見るだけではやり過ごせない
富田を落として4バックになると、仙台は①都倉が2人を見ることになる以外にも、札幌に変化を強いることで困難を突きつけようとする。
一つは、②平岡と椎橋がワイドなポジションを取ることで、ヘイスとチャナティップとの距離が離れる。チャナティップとヘイスの優先順位は、まず中央のパスコースを切ること。その上で対面の選手にボールが出されたときにチェックに行くが、4バックになると、平岡と椎橋はSBのようにタッチライン付近にポジションを取ることができる。よってチャナティップとヘイスからの距離が開き、中央を切る仕事と対面の選手を見る仕事の両立が困難になる。都倉が2人相手にうまく追い込み、サイドにボールを出させても、そこでプレッシャーがかかりにくくなる。
もう一つは、③サイドに2人が配された仙台の外→外のボール循環をケアすると、蜂須賀と中野に札幌の両WB、石川と早坂が引き出され、3バックの脇にスペースができる。”ミシャ式”のように、攻撃時にWBが常に高い位置をとるやり方もあるが、仙台はより引いた位置にWBを置くことでCB→WBの外→外のパスコースを確保する。札幌は先述のように、WB同士のマッチアップを奪いどころとして想定しており、石川と早坂は厳しく当たるように仕込まれているので、背後は当然空くことになる。
4バック化するとずれが生じる |
3)急所へのロングボール
この構図を踏まえ、札幌としては特に嫌だったのが、仙台の最終ラインから前線の選手や走りこむスペースを狙ったロングボールでの展開。
下の21:00頃は、石川が釣り出され、福森も引いてくる野津田を警戒して前体重になったところで、背後のスペースへのロングパスを通されたところ。守備対象の選手についていく守備を徹底すると、サイドに流れる石原に河合が引きずり出されてしまう。
サイドのスペースに走ると河合が引きずり出される |
フラフラっとついていった福森の戻りが遅れ、ゴール前の番人・河合が引っ張られると、札幌の3バックは菊地1枚のみ。ここは宮澤のプレスバックで何とか枚数を確保し、跳ね返したが、このように対面の選手への対応を重視しすぎると、相手が形を変えてずれを作った時に、ゾーンを守るのか、人を守るのかが曖昧で後手に回りやすくなる。
3バックは菊地1枚のみ |
1.3 昨日の友は今日の敵
これまでの試合に比べるとやり方は幾分整理されていたが、まだまだ怪しさがところどころにある札幌の守備に安心をもたらしていた存在を1人挙げるとすると、WBの石川。90分を通じて左サイドのあらゆる位置で蜂須賀とマッチアップしていた石川の守備対応はほぼ完璧で、札幌は中央を閉めてサイドに追い出せば、石川-蜂須賀のマッチアップでかなりの勝率が期待できる。
仙台は中央を固められると、サイドに活路を見出したいが、左に配されているのは本来サイドアタッカーではない右利きの中野。必然と右の蜂須賀に期待が集まるので、ここに文字通り「サイドに蓋をする」ことができる石川を置いたことは大正解。福森や兵藤、チャナティップがヘルプに駆り出されることも少なく、蜂須賀に対する質的優位により、高い位置でも低い位置でも奪いどころとすることができていた。
2.後半
後半立ち上がりから、札幌はヘイスと都倉の位置を入れ替える。ヘイスが中央に入ったことで、まず攻撃面での良さが出る格好となった。
2.1 横幅の重要性
1)チャナティップの伏線?(スローインの整備)
53分、札幌が兵藤のクロスにヘイスのヘッドが決まって先制に成功。この時の展開は、右サイドで得たスローインからだった。
この試合、札幌は敵陣で得たスローインのほぼ全てをタッチライン際に素早く展開している。それ以上に凝った仕掛けがあったのかは、筆者には読み取ることができなかったが、前半の24分に右サイドのスローインから、チャナティップが突破しクロス(⇒都倉のヘッドはポスト)という局面があった。これ以外にも、1.1で触れたショートカウンターを見ても、とにかくこの試合の札幌は、同一サイドで手数をかけずに展開していくというイメージは仙台の頭の中にあったのではないか。
得点に繋がった時のスローインの際、仙台はボールを基準にゾーンを敷くと以下のような陣形になる。ボール周辺は密集状態なので、基本通り、またこの試合何度も繰り返している通り、タッチライン際にボールを入れて、都倉が一旦収める。
タッチライン際へのスローイン |
2)ポイントガード菊地
都倉が収めたボールは宮澤⇒菊地と戻される。菊地が逆サイドのCB、福森に低くて速いサイドチェンジのパスを送るが、この時のボールの動かし方、パスの精度が抜群で、反対サイドで待っていた福森、そして兵藤には十分な時間が与えられることになる。
菊地から福森にパスが出た瞬間、兵藤は左サイドでの展開を瞬時に察知して大きく左に開く。結果的にこの後、兵藤の左足クロスから得点が生まれるが、これはどの程度計算されていたのかはわからない。サイドチェンジからのアーリー気味のクロスをパターン化しておくならば、左利きの福森がクロッサーになるように、福森と兵藤の役割が逆で用意していてもおかしくない(実際それに近い形はこれまで何度もやっていた)。
菊地のサイドチェンジで逆サイドには時間が |
3)石川の隠れた好プレー
左サイドから兵藤が持ち上がるが、福森⇒兵藤と展開される際に、WBの石川が大きくタッチライン際に張り出している。この動きが仙台のWB蜂須賀を引き付ける。仙台は5-2-3で守っているが、札幌サポーターならこれまで散々札幌の守備を見てきてわかっているように、5-2-3の「3」が横スライドを繰り返してピッチの横幅を守り切ることは困難。よって、このようなサイドチェンジに対してはWBが一列前に出て対応したいが、蜂須賀が石川の動きを意識したため、兵藤に対して出ることができない。
結局兵藤に対応したのは、「3」の一番右である野津田。当然間に合うはずもなく、兵藤は余裕を持ってフリーでクロスを上げることができた。
兵藤に更に時間を与えることとなった石川の動き |
結果的にニアを狙った兵藤のクロスからヘイスの見事なシュートが生まれたが、ゴール前では、ヘイスが中央、都倉が右と、前半の位置関係から入れ替わっている。これにより都倉が椎橋とマッチアップし、札幌に優位なミスマッチが生まれている。シーズン序盤に、クロスに対して都倉が必ずファーサイドで相手SBと競り合うことを徹底していた時期があったが、同じような狙いで意図的にこの形を作っていたことも考えられる。
2.2 耐え忍ぶ時間帯へ
先制点を奪っ後、55分頃からの時間帯は一変して札幌は耐え忍ぶ時間帯となる。
この要因として、いくつかの事象が見受けられるが、基本的に札幌の守備は、1列目の守備が機能しなくなり、「5-2ブロック」で対応することになると一気に脆くなることを頭に置いたうえで考えていきたい。
1)前線守備の強度低下
一つはまず前線守備の強度低下。時間経過による全体的な運動量、体力の低下もあるが、加えて1列目の中央が都倉ではなくヘイスになったことも小さくないと感じた。膝の状態が思わしくないヘイスは、最低限の守備タスク(適切なポジションにいる、コースを切る、スペースを埋める…)をこなすだけのアビリティと戦術理解はあるが、都倉が前半見せていた守備比較すると、どうしても”量”的な部分で劣ってしまう。平たく言えば、すごく間違っているわけではないが、サボる。そんなヘイスが中央にいると、対面の大岩、更には左右のSBに対する圧力は確実に前半より低下する。
仙台としても、スコアをイーブンに戻すためにとにかく前に運びたい状況。札幌の守備強度が弱まったのを察知すると、大岩や平岡がどんどん縦パスを入れてくる。特に、それまでケアできていた中央(ボランチ)への縦パスが通るようになると、1発で札幌の1列目守備は無力化される。
前線の守備強度低下 |
恐らくヘイス中央はまずい、と察し、札幌は60分頃から再び都倉を中央、ヘイスをシャドーに入れ替えている。
2)兵藤の移動によるリスク
二つ目は、ボールを保持している際の攻撃の組み立て方。
先制点を奪った場面でもあったが、札幌は兵藤が左サイドに流れてボールに触り、WBの石川を前に押し出すような形での組み立てを何度か試みている。これまで左サイドでは、主に福森のところでポジションチェンジや守備の基準点をずらす仕組みを作り、福森を基点とする形が多かったが、その役割を兵藤に移譲した形。福森がCBとして、中央に残りやすくなるので、最終ラインの安定感は増すように思えるが、一方で兵藤が中盤からいなくなることになる。
となると、下の61:02のように、兵藤がサイドで組み立てている状態でターンオーバーが発生すると、中盤のフィルターは極めて薄い状態になってしまう。この時は兵藤⇒石川の縦パスが引っ掛かると、仙台は素早く中央(白円)のスペースを察知してカウンターに移行する。
兵藤がサイドで組み立てるがフィルターが弱くなる |
富田がこの位置からドリブルを開始するが、札幌はここへのネガトラの整備が全くないので、ゴール前まで易々と富田一人で運ばれてしまう。
中盤に広大なスペース |
3)「押し上げられないバックライン」という共通認識はあったか?
そしてもう一つが、札幌は根本的にバックラインにスピードがないため、ボールにしっかりとプレッシャーがかかっていない限りは常に裏を警戒せざるを得ず、必然とポジションが下がって押し上げが難しいのだが、ボランチの兵藤や宮澤がこの点を意識したプレーができていたかは微妙なところもあった。
「河合はラインが低い」という言説をしばしば目にするが、どの試合でも、試合序盤は押し上げて高い位置を保っていることが多い。それは河合や他のDFの問題(時間が経過すると走れなくなる)もあるが、それ以上に、試合序盤はチームとして最低限の約束事が徹底されていて、特にボールにプレッシャーがある程度はかかっているので、裏にボールが出てこない状況ならば自信を持ってラインを押し上げられるからだと思われる。
この試合、先述のように55分過ぎころから札幌は徐々にボールへのプレッシャーがかからなくなるので、最終ラインはラインを上げられなくなる。そのような状態で、下の62:28のように、中盤の選手がスペース、バランスを意識するよりも、対面の選手を意識したプレーをしてしまうと、仙台に逆襲の機会を与えてしまう。
62:28は、仙台がDF~GKへバックパスをしたところを、札幌はヘイス、都倉、チャナティップの3人で追いこみ、GKシュミットにクリアを余儀なくさせたところ(黄色の線)これを菊地が宮澤の前方へ、頭ではね返したが、この段階で宮澤と兵藤のWボランチがいずれも前掛かりになってしまっているのが極めて危険で、やはり中盤に誰もいない状態ができてしまっている。
Wボランチが両方とも前掛かりになってしまうと… |
結果この時も富田がボールを拾って、前方のスペースをドリブルで運んでいく。河合が前に出て対応できないのか…と思う方もいるかもしれないが、菊地が前に出ているので河合は出られない。
62分、仙台は三田→奥埜。68分、札幌は兵藤→荒野。奥埜がボランチに入るというのは、やはりルーズになってきた札幌の中盤を攻略するために、ドリブルで運べる選手を入れるのが効果的、という判断だろう。
対する札幌は、荒野がスペースを管理できるか、という点はやや不安だったが、兵藤-宮澤のペアで今一つな状況を変えるには、何らかベンチワークにより介入、解決するしかないという考えは理解できる。
下の写真は荒野投入直後(仙台のリスタートから)の局面。リスタートの際、札幌は再びスイッチを入れたのか、マンマーク気味に仙台の選手にタイトについていく対応。ただこれは完全なマンマークではなくて、ボールを保持している守備対象の選手には持ち場を捨ててついていく(その代わりボールを簡単に出させない)というもの。
この時は仙台のボールを保持する西村に対し、菊地が持ち場を離れて飛び出している。他の選手は、ゾーンを守りながら、おおむね対面の選手を守備対象として認識している(青い線)。
67:24は西村が左サイドの中野に預けたところ。ここで、ボランチの奥埜が早坂の背後のスペースにフリーラン。荒野はこの奥埜の動きにについていくが、このワンプレーに「荒野で大丈夫?という懸念の根拠が現れている。
富田の前に再び広大なスペース |
4)両監督の動き
62分、仙台は三田→奥埜。68分、札幌は兵藤→荒野。奥埜がボランチに入るというのは、やはりルーズになってきた札幌の中盤を攻略するために、ドリブルで運べる選手を入れるのが効果的、という判断だろう。
対する札幌は、荒野がスペースを管理できるか、という点はやや不安だったが、兵藤-宮澤のペアで今一つな状況を変えるには、何らかベンチワークにより介入、解決するしかないという考えは理解できる。
68分~ |
2.3 荒野投入はカオスな中盤の解決策になりえるか?
1)守備の原則を考えてみよう
下の写真は荒野投入直後(仙台のリスタートから)の局面。リスタートの際、札幌は再びスイッチを入れたのか、マンマーク気味に仙台の選手にタイトについていく対応。ただこれは完全なマンマークではなくて、ボールを保持している守備対象の選手には持ち場を捨ててついていく(その代わりボールを簡単に出させない)というもの。
この時は仙台のボールを保持する西村に対し、菊地が持ち場を離れて飛び出している。他の選手は、ゾーンを守りながら、おおむね対面の選手を守備対象として認識している(青い線)。
ゾーンを守りつつ対面の選手のケアを意識 |
67:24は西村が左サイドの中野に預けたところ。ここで、ボランチの奥埜が早坂の背後のスペースにフリーラン。荒野はこの奥埜の動きにについていくが、このワンプレーに「荒野で大丈夫?という懸念の根拠が現れている。
荒野の選択肢は、①ステイしてバイタルエリアのスペースを埋める(奥埜は誰かに受け渡すか放置)、②奥埜についていく、の2パターンがあるが、この時、松田浩氏の言う”climate around tha ball”(ボール周辺の雲行き)を見ると、早坂が中野に、縦を切る形でタイトに寄せているので、奥埜にボールが出てくることは考えにくい。浮き球パスなどはなくはないが、浮き球なら出されてから反応すればよい。
よって選択肢は、失点のリスクを最小化することになる、①バイタルエリアを埋める、以外にない。ボールホルダーではない人につくのは二の次であって、ボランチが何でもかんでも食いついてしまうと、危険なエリアを相手に使わせることになってしまう(進藤も開幕2戦目で同じような失敗をしたが、深井のような例外を除いて、札幌ユース出身の選手は全体的にそうした傾向を感じる時がある)。
早坂が縦を切っているので裏をそこまで意識する必要はない |
案の定、縦を切られている中野は横パスしかない。中野→西村→石原と渡って野津田に出るが、野津田は福森の迎撃で前を向かせない。野津田がバックパスで戻し、再び仙台左サイドからの局面となる。
縦は早坂が切ったので奥埜には出なかった |
2)時すでに遅し
↓の67:31は野津田がボールを戻したところ。再び中野vs早坂というマッチアップが、よりタッチラインから離れたエリアで発生し、移動してきた野津田が間で受けようとする。
この時、奥埜は中央に入る動きを見せるので、荒野もそれについていくが、再びサイドに流れようとする。荒野はこの奥埜の動きによって、奥埜についていくべきか、それとも別の仕事(バイタルエリアを守る)をすべきか、自分でもわからなくなっていたと思う。
仙台の攻撃やり直し 野津田が間受けを狙う 荒野はまだ奥埜を見ている |
「自分でもわからなくなっていたと思う」というのは、↓の67:32で野津田がターンしたとき、荒野は一瞬野津田に対応しようと中央方向に動く。しかし奥埜が裏に走ったのに気づいて、結局は野津田を放置して奥埜についていく選択をする(写真がタコ踊りのようになっているのはそのため)。
ただそもそも、荒野が野津田のケアが優先だとこの時に気付いても、ずっと奥埜しか見ておらず、バイタルエリアを守る気のないポジショニングを取っている時点で無理。バイタルを宮澤一人で守っているような状況なので、野津田は難なくターン→スルーパスに成功した(ドフリーで奥埜がクロスを上げるも西村のヘッドはミートせず)。
野津田のケアが優先だと一瞬気付くが、時すでに遅し |
2.4 クリスラン大作戦
仙台は75分、野津田→クリスラン。79分に蜂須賀→古林。札幌も79分に菊地→進藤。
アディショナルタイムを含めて残り15分。札幌はこれまでならば前線の枚数を削り、自陣深くに撤退する5-4-1や5-3-2で籠城していた時間帯だが、前3人の5-2-3守備を崩さず仙台の最終ラインからのボール供給を阻害していく。
79分~ |
となると、ゴール前でクロスを待ちたいクリスランだが、まず最初の仕事は、向かい風の中、ロングボールの的となってボールを前進させる手助けを行うこととなった。アバウトに放り込んでセカンドを拾い、可能ならばウイングバックに渡しての仕掛けが仙台の突破口。そうしたシンプルな攻撃には札幌は比較的耐えられる。最後は平岡の攻撃参加もあったが、札幌が凌ぎ切り1-0で勝利。
3.雑感
少なくとも先制するまでは、6月以降のリーグ戦数試合では、最も狙いが見え、またそれが破綻せずにピッチ上で具現化することができた試合だった。
蹴って走ることに主眼を置いたこの日のサッカーは、風もひどい、芝もひどいという条件下での、”厚別仕様”なのかもしれないが、基本的にJリーグにおいて”持たざる者”である札幌は、相手よりも巧くボールをつなぐことよりも、効率よくポジションを取りつつ、相手よりも走り、身体を張ってなんぼである(走れない選手を前線に2人以上並べてなんとかなるチームではないだろう)。ドームの快適な環境に慣れ切ったチームに、こうした重要なことを再確認させる効果があるとしたら、厚別がターニングポイントになるといいな、と感じる試合だった。
厚別といえば風が付き物。というわけで風を考慮に入れたキッキングゲームという要素は多分にあったわけですが、それがコンサには幸いしたということでしょうか。あんまりカッコよくはないですが一旦遠くに蹴っ飛ばしておけば守備のセットも容易ですし、陣取りゲームで我慢するというある意味コンサがやらなければならないことをシンプルにやれる状況を作れた。
返信削除ツイッターも追っかけましたが、“本職”の石川の加入は地味に大きかったですね。福森にはWBのようなムダ走りをするイメージが湧きませんし、ボールの出し手として相手から少しでもプレスをされないためにもCBに置いておいた方がコンサにはプラスな気がします。
それにしても、荒野はどう起用すればよいのやら…。
>フラッ太さん
削除WBのところである程度ハマったのは、前線をスイッチが入る構造にした、WBを変えた、色々ありますが、根本的には厚別ということもあり監督がそういうコンセプトを提示したことと、後は相手が同じシステムだから捕まえやすかったのもありますね。普段からこれくらいやってほしいのですが、次の試合でまた逆戻りというのも十分ありうると思います。一応磐田も3-4-2-1で来そうですが…できればスタメンはこのままでいってほしいですね(主にジェイを意識して)。