2017年4月26日水曜日

2017年4月22日(土)14:00 明治安田生命J1リーグ第8節 浦和レッズvs北海道コンサドーレ札幌 ~後手を踏んだ守備のコンセプト~

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-2-1、GKク ソンユン、DFキム ミンテ、横山知伸、福森晃斗、MF早坂良太、荒野拓馬、宮澤裕樹、田中雄大、FW菅大輝、兵藤慎剛、都倉賢。サブメンバーはGK金山隼樹、DF進藤亮佑、MF前寛之、河合竜二、小野伸二、FW上原慎也、内村圭宏。メンバーは前節から内村がサブ、菅がスタメン、金山がベンチ入り以外は同じ。前節試合中に足に違和感を感じて交代の内村だが、軽傷だったようでベンチ入りしている。人の配置は2ボランチ、2シャドーを配し、守備時には5-4-1ないし5-2-3となる3-4-2-1。予想通りというか、第4節サンフレッチェ広島戦と同じ配置で臨んできた。
 浦和レッズのスターティングメンバーは3-4-2-1、GK西川周作、DF森脇良太、遠藤航、槙野智章、MF関根貴大、柏木陽介、阿部勇樹、宇賀神友弥、武藤雄樹、興梠慎三、FWラファエル シルバ。サブメンバーはGK榎本哲也、DF那須大亮、MF長澤和輝、青木拓矢、駒井善成、FW李忠成、ズラタン。今シーズンは中盤に青木が入ったり、シャドーに李や柏木が入ったりする以外はメンバーが固定されている印象である。


1.前半


 21分に柏木のCKからラファエル シルバが押し込み、浦和が先制したが、それまでの時間帯はほぼ一方的に浦和がボールを回しているような展開だった。札幌も都倉を前線に残した9枚ブロックで必死に守っていたが、スタジアムで見ていて「さすがにこの展開が続くと消耗するし、集中力を保つのが厳しいな」と感じていたところの失点だった。この序盤20分間に、ピッチで起こっていた事象をまず整理する(1.1から1.3まで)。
時間帯別支配率(football labより)

1.1 5-2-3ではなく5-4-1


 浦和はいつも通りの攻撃時4-1-5、守備時5-2-3または5-4-1となる可変式システム。浦和はボールを回収するとバックパスなどで時間を作り、4-1-5に可変する時間を作ってから攻撃のフェーズに移行する。
浦和の4-1-5

 この時、浦和が陣形を整える時間は、札幌にとっては守備をセットする時間でもあるのだが、開始10分頃までの札幌の守備陣形を見ていると、ほぼ5-2-3ではなく5-4-1でセットしていたという事実が展開を振り返るうえでの出発点となる。
 浦和と同じシステムを採用しているサンフレッチェ広島戦(第4節)では、下の図のように相手の4枚でのビルドアップに対して前から3枚を当てた5-2-3で守備を行ったが、
広島戦:札幌は5-2-3でセットして相手の4枚+GKに3枚を当てた

 この試合では下の写真のように、両シャドーの菅と兵藤が高い位置で守備をせず、ボランチとラインを形成する5-4-1で守備をセットする。
都倉を残して撤退

 そして5人のDFと4人のMFはそれぞれ自分の担当するエリアに選手が入ってくると、飛び出して迎撃する。ピッチ全体というスケールでこれを表すと、下の図のように浦和側の陣地だけでなく、自陣中央寄りのポジションも浦和に明け渡す、しかしゴール前だけは二重の守備ブロックで死守するという考え方だともいえる。
低い位置にブロックをセットし、ゾーンに入ってきた選手を捕まえに行く

1.2 浦和相手に撤退守備は通用するか?

1)左右に振られて徹底できないチャレンジ&カバー


 しかしこの、「後ろで構えて、ゾーンに入ってきた選手を捕まえる」という守備が言葉でいうほど簡単なものではない。何故ならば、相手がボールを回してくると、「捕まえる(チャレンジ)」「カバーする」という役割が都度目まぐるしく入れ替わるためで、相手のボールの出所を抑えられていないチームは足を止めずにこれを徹底しなくてはならない。
 実際の展開をみていくと、7:11、浦和のDF遠藤がボールをもってゆっくりと前進してくるところ。この写真の位置では宮澤の担当するゾーン(黄色い円)に入ったとは言えないが、宮澤は遠藤の更なる前進およびゾーンへの侵入を予期して構えている。また宮澤の両隣、荒野と兵藤は宮澤がチャレンジした時、その斜め後ろの位置でカバーすることを頭に入れている。
中盤4人の担当エリア

 ここで遠藤は宮澤を食いつかせたところで前進をやめ、隣の阿部にパス。阿部が遠藤と同様に、ドリブルからボールを運んでいくのだが、阿部に渡り、前進を始めた時点で、「チャレンジ」の役割は宮澤から荒野に変わる。
 となると宮澤の役割は、それまでのチャレンジから荒野のカバーへと変化するが、下の写真でわかるように、チャレンジからカバーへと切り替えが完了していない。また荒野も同様に、カバーからチャレンジへと役割が変わっているが、ドリブルで侵入してくる阿部に寄せきれていない。
 すると戻れない宮澤と、前に出た荒野の背後である札幌のDF~MF間にはスペースができてしまい、ここに走りこむ柏木や、待ち構える武藤にパスが出て、バイタルエリアでスペースを与えた状態で前を向かせてしまう。5-4-1というシステム自体は否定しないが、この札幌のようにボールにプレッシャーがかからないままだと完全に相手に主導権を与えたままになってしまう。
左サイドに振られた際、宮澤がカバーに切り替わっていない

2)都倉の守備を免除せざるを得ない理由


 この時、札幌の1トップの都倉は写真で見てわかる通り、ボールを持っている浦和の選手に寄せることなく、守備に殆ど加担しない。
 このFWの守備の有無というのも重要な点で、具体的には、仮に都倉が下がって守備に加われば、下の図でいう遠藤→阿部という最短ルートでのパスを出させなくすることができ、浦和は遠藤→柏木→阿部という迂回ルートでの展開を余儀なくされる。最短距離ではなく迂回させれば、札幌のMFがスライドし、チャレンジとカバーの役割を入れ替えて対応する時間が作りやすくなる。
都倉を守備に加えるとMF前のスペースを使われることを防げるが…

 しかし札幌は、都倉まで守備に下がらせてしまうと、ボールを奪った際に前線で相手DFと競り合い、時間を作ったりカウンターを仕掛ける選手がいなくなってしまう。
 開始3分頃、流れの中で兵藤がトップ、都倉が左に入る5-4-1で守っている時間帯があった。なかなかプレーが途切れず3分ほどその状態が続いていたのだが、この時、四方田監督がピッチに向かって右手で「前に行け」というようなジェスチャーを繰り返し、都倉がサムアップで応えるという光景があった。
 要するに、札幌としては、人数をかけた5-4ブロックで守って、なおかつ何らか攻撃を成立させるためには、個で勝負、打開できる都倉を最前線に残しておくことが絶対条件。
 そのため札幌はDFとMFで形成する2ラインが守備ブロックとなるが、FWをまったく守備に組み入れないと、今度はMFの前のスペースを使われ、「最短距離」でボールを回されてしまう。

3)1トップだけではカウンターも困難


 そしてもう一つ5-4-1の問題点が、前方の1トップが孤立しがちで、ボールを奪って攻撃に転じようとしても、1トップに対して2人、3人のDFという不利な局面が発生しやすいことが挙げられる。広島戦では都倉が相手DFを弾き飛ばし、高いラインの裏を1本のパスで独走して得点を挙げたが、都倉(※前向いて走っている時)のような、圧倒的な質的優位が作れるFWでなければ一人で複数のDFを相手にすることは簡単ではない。
いずれにせよ1枚ではカウンターが困難

 ただこうした問題点を承知の上で5バック+4MFという陣形で守っていたのは、ここまで全試合で先制点を与えているということもあり、開始10分は何が何でも守り切る、という狙いがあったのだと思う。

1.3 浦和の更なる支配と侵攻

1)サイドから押し込む浦和


 札幌が撤退したことで、労せずして押し込むことに成功した浦和だったが、特に浦和のバックラインに対して札幌は殆どプレッシャーをかけないために、ビルドアップに人数を割く必要がなくなる。するとサイドのDF2人…森脇と槙野のポジションを高く上げ、サイドに常時2枚を張らせることが可能になる。
 札幌としては、関根vs田中、宇賀神vs早坂というマッチアップでもいっぱいいっぱい(特に前者)なのに、そこに槙野や森脇も攻撃参加するとなればサポートが不可欠なので、兵藤と菅がサイドのカバーに駆り出されることが多くなる。
 本来シャドーの兵藤と菅がサイドのカバーに駆り出されるということは、前線で都倉はますます孤立し、またボールを回収したとしても、預けどころ、逃がしどころとして菅や兵藤は使えなくなってしまう。

2)出しどころを抑えたいが…


 また宮澤は、浦和が後方でボールを回す、バックパスで攻撃をやり直す等の際にポジションを上げ、浦和のビルドアップ部隊に寄せていくのような動きをたびたび見せていた。
 しかし、この動きは、チームとしてどこまで想定していたのかはっきりせず、恐らく前線で何らか、ボールの出しどころを抑えたほうが良いとの判断に基づく動きだったのだと思うが、単にフラフラとポジションを上げただけでボールに殆どプレッシャーをかけられない、中途半端な対応となってしまう。
 これではただ単に浦和のボール回しによって無意味に動かされているだけで、シャドーの2枚もボランチも走らされ、また本来のポジションから頻繁に釣り出されることで、札幌の中盤は徐々に守備強度が弱まっていった。
シャドーはサイドに駆り出され、走らされる

1.4 ともかく食いつき、食らいつく


 失点後の時間帯、札幌が徐々にリズムを掴み、攻撃の機会を徐々に作るようになる。この理由を端的に評すと、「後方で守備にかける人数が最低限になり、前に選手が残りやすく、都倉が孤立しづらくなった」ということだったと思う。
 結果的に、何度か作った攻撃機会のうち、34分に浦和の守備が戻り切らなかったワンチャンスを兵藤がものにして札幌が1-1の同点に追いつく。

1)食いつくことでブロック構築を事実上放棄


 例えば32:03の局面、浦和の最終ラインがボールを持つと、菅が槙野に猛然とチェイスする。槙野が阿部へのバックパスでいなそうとすると、菅はこの阿部をも追っていく。この菅の動きはチームとして想定されていない”気持ち守備”であって、相手にプレッシャーをかけてボールを取り返そうという意図は伝わるが、前に出た後に下のポジションに戻らなければ、結果的に本来守るべきより重要なポジションを放棄することになってしまう。
 菅がこのように、一人だけ高い位置から守備を開始したプレーが同じ時間帯で他にも1回あった。この2度とも、都倉は菅を右手で制すような動作を見せていることからも、チームとしてこのような高い位置から守備をすることは、イレギュラーな動きなのだとわかる(1点ビハインドであっても)。
菅が二度追いの気持ち守備(開始位置が一人だけ高すぎる)

 ただこの時、都倉は菅が阿部にプレッシャーをかけたのを見て、阿部から横パスを受ける遠藤に寄せることを選択する。
 この都倉の動きは部分的にはOKだと思う。というのは菅が阿部に寄せた時点で、都倉の守備対象は遠藤しかおらず、また元々都倉は後方でブロックを作って守るタスクに組み込まれていない。よって遠藤に寄せることで特段デメリットが大きくなく、むしろ遠藤のパスミスを誘うなど、期待できるリターンを考えると都倉が寄せることに妥当性はある。
 しかしこの動きにもう一人連動?していたのが宮澤で、菅や都倉が前から行ったことに合わせて宮澤もなんとなくというか、フラフラとポジションを上げていく。
 すると宮澤が上がったこと(&荒野が戻り切れていないこと)で中盤には下の写真、黄色い円で囲った大きなスペースができる。ここに武藤が降りてきて、遠藤からの縦パスをフリック(浦和の得意なパターンの一つ)。
 武藤には対面の福森が寄せているが、かなり低い位置まで落ちているので捕まえきれていない。5バックで守る以上、各DFは対面の選手にある程度ついていくことが許容されているが、この低い位置まで落ちている選手を潰しきることは難しい。
菅に宮澤が連動すると中盤が空いてしまう、戻り切れない

 結果、数秒後の状況は以下で、札幌の中盤はリトリートしてブロックを作れておらず、空いた中盤のスペースを再びラファエル シルバに使われる。ラファエルからパスを受けた武藤が仕掛けてくるが、ミンテは裏を狙う興梠の動きが視界に入っているので武藤を潰すことができない。
 このように、高い位置で食いついたことで、最終的に一番守りたいエリアで枚数が足りず、相手に厳しく当たることができなくなってしまう。
簡単にシュートまでもっていかれる

2)撃たれてむしろ助かる(勿論、外してくれれば)


 上記の局面で武藤のシュートはゴール左に外れ、札幌のゴールキックでリスタートされる。
 サッカーやフットサルをしていると、攻撃側のチームの選手で「シュートで終わろう!」と声を出す人がいるが、攻撃側はシュートで終わる(相手ゴールキックで試合再開)ことでカウンターを受けることを防ぐメリットがあると言われる。
 ただ札幌の場合、相手にシュートを撃たれて相手の攻撃が終わる(札幌のゴールキック)ことのメリットとして、陣形を整えた状態で都倉に放り込むことができるという点が挙げられる。ゴールキック以外でボールを運べる相手ならこの点は特にメリットとは言えないが、この試合のように相手に押し込まれ、陣形を回復することもままならない状況では、ゴールキック1発で都倉に当て、二列目の選手がサポートしやすい状況は非常にありがたい。
 よってこの局面のように、浦和がシュートを外してくれるか、札幌DFやGKク ソンユンの個々の頑張りで凌ぐなどすれば、札幌の高い位置からの守備(=ブロック構築の放棄)はゴールキックでリスタート、というメリットが得られるので、損得勘定がプラスになる。
 浦和は札幌の守備開始位置が高くなった(ブロック構築の意識が弱まった)ことでチャンスだとみて、バイタルエリアへの侵入からフィニッシュまで積極的に持っていく。率直に申せば、開始20分ほどよりも浦和の決定的な場面は増えているのだが、そこで決められなかったことで、徐々に札幌が息を吹き返す展開になっていったと思う。

1.5 不明瞭なタックルライン


 スコアが1-1となった後、再び札幌は5-4-1で守備をセットし、後方でのブロック構築を第一とする戦い方にシフトする。「浦和が回す、札幌が籠城する」…文字通り、振り出しに戻ったともいうべき状況となる。
 しかしこの状況は長くは続かず(同点直後の槙野の抗議などがあったので、正味4分間程度だったか)、再び浦和が勝ち越しに成功したのが40分。浦和がバックライン~サイドでボールを循環させると、左にサイドを変えたところで、槙野→宇賀神とパスが渡り、宇賀神が早坂とサイドで1on1。宇賀神の縦への突破から興梠のシュート、大外から中央に入り込み、こぼれ球を押し込んだ関根のゴールに繋がった。
 この時、札幌の守備を振り返ると、宇賀神と早坂の1on1が札幌右サイドで生じるまで、浦和のボール循環に殆どアタックすることができなかった。「気持ち的に守りに入った」と言えるかもしれないが、本質的には、サイドでボールを回す浦和に対して、どこからボールにアタックすべきかが、札幌の5-4-1守備には依然として不明瞭だったように思える。

2.後半

2.1 辿り着いた解決策

1)ゾーンは捨てて人に付く


 札幌としてはビハインドを背負った状態での後半スタートだが、追いつくためには、まずは浦和からボールを取り上げる必要がある。
 前半のビハインドを負った時間帯、札幌は守備の開始位置を高くして対応していたが、その機能性がイマイチだった(けど一度同点に追いついた)ことは1.4で書いた通り。
 前半の守備の問題点は、一言でいうと「ゾーンディフェンスのはずなのにボールに食いついてゾーンを空けてしまう」だった。これに対し、後半開始からの札幌の守備は、ほぼマンマークと言っていいほど人を基準としたやり方をしていた。
 具体的には、まず前線で都倉1枚に対して浦和は阿部と遠藤の2枚なのだが、ここに宮澤か荒野(主に宮澤)が出てくことで「スイッチ」を入れる。すると浦和は、阿部か遠藤…図では阿部にボールが渡るが、ここで都倉が阿部を見る。阿部と遠藤にマンマークで付かれると、柏木が落ちてフォローする場合があるが、その際は荒野or宮澤が柏木に付いていく。という具合にマッチアップを合わせて人を基準とした守備を展開する。
 結果的にこれをサボらずに徹底すると、浦和は出しどころがなく西川(困ったときにボールの逃がしどころとなる)にバックパスをするが、ここも都倉が追っていき、西川にロングボールを蹴らせることでボールの回収に成功する。
マンマーク気味に人に付く

2)捨てたゾーンを使われ撃ち合いに


 理想は先の図のように、浦和がボールを動かす上でキーになっている遠藤、阿部、柏木といった選手を徹底マークし、ボールを運ばせないこと。これが不十分だと、今度は人に付く守備にしたことで、中盤のスペース管理がほぼ全くできなくなっているため、中盤に落ちてくる浦和の興梠や武藤にスペースを使われ、簡単にゴール前への侵入を許してしまう。 
人に付いたことで中盤はがら空きになる

2.2 試合を決めたPK

1)内村の投入


 72分に札幌は田中→内村。菅が左サイドに回り、内村はシャドーに入る。内村は65分頃から準備をしていたが、直前のプレーで田中が痛んだこともあり、状況を見てこのような交代になった。
 スタジアムで見ていて感じたことだが、65分頃から都倉の運動量が落ちてきた印象を受ける。都倉は前半、札幌の守備がハマらず、無駄に走らされたことで、普段よりも体力の低下が激しいのではないかと懸念していたが、その予感が的中する。札幌としては都倉を代えるわけにはいかない中で、前線にフレッシュな内村を入れて再び高い位置から守備ができるように、との意図だったと思う。

2)控えめに言ってPKには見えない


 しかし内村投入直後の73分、札幌の高い位置での守備をいなした浦和は中盤に下りて受けたラファエル シルバから興梠へスルーパス。興梠のシュートをソンユンが一度弾くが、リバウンドを競り合った際に横山が興梠を倒したとの判定でPKが与えられる。これを興梠が決め、この試合で初めて2点差がついたことで厳しくなってしまった。

2.3 一矢報いるも燃料切れ


札幌は79分に荒野→小野に交代。小野がシャドー、兵藤がボランチに回る。これで前線は小野、都倉、内村という構成になるが、この3人を1列目として守備を組むと、まず都倉が完全に燃料切れで守備貢献がかなり難しくなっているという問題がある。
 都倉が厳しいので、兵藤や小野が守備のスイッチを入れる役割を担うのだが、例えば都倉を考慮せず、小野と内村で浦和の最終ラインを見ようとすると、下の図のように必ず槙野がフリーになってしまう。という具合に、ここでも浦和からボールを取り上げるという点で問題を抱えてしまった印象である。
槙野が空いてしまう

 最後はややオープンな、両チームともにアタッキングサードにボールを運ぶ展開の中で、87分に福森が約25mほどのFKを沈めて3-2。途端に勝ち点獲得の芽が出てきたが、アディショナルタイムを含めた残り数分では何も起きず、3-2で浦和が勝利。

3.雑感


 体力が残っていた前半の戦い方が中途半端というか消極的で勿体なかった。もっとも、前と後ろに人を割いてくる相手のボールの出所をケアしようとすると、必然と中盤で人数不足になりやすい。その意味では深井の離脱後、その不在を最も実感させた試合だったかもしれない。また深井以外の選手の離脱…無意味な仮定だが、こうした割り切った戦い方なら、石井のような選手が助けになったのでは、という印象もある。
 試合展開の描写の中で札幌の攻撃に関するものがほ殆どないが、何度かロングボールに頼らないビルドアップを試みたプレーはどれも悪いものではなかった。守備以上に攻撃の方が個人、チームプレー共に通用していた印象である。

<おまけ(上海上港のハイプレス)>


 浦和相手に高い位置からボールを取り上げようとした例として、この試合の少し前にACLでアンドレ・ヴィラス=ボアス率いる上海上港が浦和と対戦した際のやり方はこのようなものだった。
 前提としては、上海上港は4バックの4-2-3-1が基本で、オスカルはあまり守備をしない。またセンターフォワードか右ウイングとして絶対的な存在であるフッキはこの試合は欠場だった。
 浦和がビルドアップを行う際、浦和の4-1-5の4枚の中間ポジションを取るようなイメージで、前線に3枚を配する。
4-2-3-1(4-2-1-3)、3トップで4バックに対抗

 エウケソンがどちらかのCB(図では阿部)にプレス(①)。これがスイッチとなって、もう一人のCB(図では遠藤)をSHが見る。阿部は西川に戻すしかない(②)。フィードなら日本人トップクラスの西川は、遠藤をチェックしたSHの選手を飛ばしてSBの位置にいる森脇に出すことができる(③)。このGK⇒SBへの斜めの距離で30~40メートルのパスを浮き球で正確かつクイックに蹴れるか否かが、欧州では「足元に自信があるGK」の一つの基準になっているように思える。
 また日本代表の試合を見ていても、西川が右足でフィードを蹴らざるを得ない局面が最近増えたなと感じる。国際レベルでの出場経験が増えたことで、そうしたスカウティング上の情報が蓄積されているということもあると思われる。この図で示した局面でも、エウケソンが最初に西川から見て左を切り、また西川にバックパスが出ると左足でのコントロールを切ろうとしていた。
近い位置から切りつつSBの森脇に出させ、森脇のところでハメる
 ヴィラス=ボアスの上海上港ここまで想定していて、森脇にパスが出るとボランチの位置の選手が一気に寄せる。通常Jリーグではこのタッチライン際のエリアは「安全地帯」となりやすく、安全にボールを扱えるが、このように強く寄せられると背後はタッチラインということで一気に安全地帯ではなくなってしまう。

 この試合では、西川のミスキックや森脇のコントロールミスを何度か誘い、高い位置でのボール回収に成功していた。ただ、90分を通してみるとやはりハイプレスを継続するのは困難で、後半は撤退したところで浦和に押し切られてしまった。

6 件のコメント:

  1. 初めてコメントさせていただきます
    某掲示板でこのブログを知り、いつも楽しみに読ませていただいてます
    自分はサッカーを止めて見るのがあまり好きではないので、戦術的なポイントは大雑把に感覚的にしか押さえてないのですが、ここを見るようになってからは時々、気になったプレーがあると一時停止して選手の位置を確認したりしてます笑

    浦和戦については自分も大体同じような印象で見てました
    試合前から心配してたのですが、前半に失点した後、きちんと意思統一しないまま中途半端に守備位置を上げて、空いたスペースをいいように使われてしまったなと
    後半、ブロックに固執せず人に付くようになってからは、ある程度相手に窮屈なプレーをさせることができてたかなと思います
    ただ、誰か一人が人に食い付いたら、その裏のスペースに入ってくる選手も誰かがマンツーで見なきゃダメだろうと
    そこでゾーンの意識が残ってたために、カバーが遅れて何度か決定機を作られてたように見えました
    その辺が課題かなと思います

    コンサはこれまでずっとブロックにこだわって守備をしてましたが、人に付く守備も意外にすぐ機能したように見えました
    あれは浦和戦に向けて準備されていたものだと思われますか?

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    1. >ricaldoさん
      コメント&閲覧ありがとうございます。(某掲示板というとP師匠はお元気でしょうか…?)
      基本的には人に付く、ブロックを作る、というか、まずJ1のレベルだとボールにどれだけ効果的にプレッシャーをかけられるかが重要だと思います。
      この点で、人に付く守備が「機能した」というか、後ろにべったり引いているよりはボールにプレッシャーがかかるようになったということは言えると思います。しかし現実的には後ろで枚数不足になって、シュートまでもっていかれて相手のミスなりソンユンのビッグセーブのおかげでスコア的には何とかなった、という印象です。
      浦和は一般的なシステムのチーム相手だとミスマッチを作ってボールを動かすのが巧いので、ミスマッチにならないようにする…具体的にはマッチアップ上、中盤には柏木しかいないので、余ったボランチの1枚を上げて浦和の最終ラインを見させることは想定していたと思います。

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  2.  こんにちは|´・ω・)ノシ にゃんむるです。
    浦和戦は観る事出来てないのでコメントはできませぬ。ぬぬぬ・・・。

     ハイライト観ただけの感想だと「ありゃあPKじゃねーだろー。」な感じ。
    でも福森のFKで2点目取ったときのきっかけとなった菅はダイブだろうと思ってるのはナイショ・・・。
    浦和は超強敵だったので惨殺されなかっただけでOKということにしておきましょー。

     疲労も溜まってると思うので怪我に気をつけて欲しいですのぉ。怪我人の方々には早く戻ってきて皆を助けて欲しいですわ。これから暑くなってきて、北海道の気候に慣れてるコンサ選手には大変な時期になってくると思いますが上手くやりくりしてシーズン乗り越えて欲しいね。

     そんな感じ。次回も期待してます。にゃんむるでした。(・∀・)ノまたのー

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    1. >にゃんむるさん
      磐田戦を見ての感想でもあるのですが、気候って実際どれほどなんでしょうかね。まだ内地はそんな暑い暑い言うほどの気温ではないので、バタッと運動量落ちるのは気になりますね。

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  3. 前半15分の柏木?→コーロキのループシュートのシーンは5年前の浦和だったらあるいはなかったかな、と。
    5年もかければ選手の質もですが連携の質も当然上がるわけで、ロングフィード1発で裏抜けされたことで
    コンサ側が“シビレた”というか、ブロック全体を押し上げにくくさせられたかなという気はしました。
    率直に力負けなのでスコア上2-3にできただけでも上出来って感じですね。
    むしろ、注目度が高いであろう浦和戦で福森とソンユンがすっかり“人気銘柄”になってしまったことのほうが心配です…。

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  4. >フラッ太さん
    ご指摘の通り浦和は毎年マイナーチェンジを重ねて熟成されている印象です。
    昔広島時代のミシャがダヴィを欲しがった話は有名ですが、本来はあのようなスタイルでこそダイレクトにゴールに向かえる選手が必要なんでしょうね。

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