2017年5月2日火曜日

2017年4月30日(日)15:00 明治安田生命J1リーグ第9節 ジュビロ磐田vs北海道コンサドーレ札幌 ~既視感のある間延びサッカー~

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-5-2、GKク ソンユン、DFキム ミンテ、横山知伸、福森晃斗、MF早坂良太、荒野拓馬、宮澤裕樹、兵藤慎剛、菅大輝、FW都倉賢、金園英学。サブメンバーはGK金山隼樹、DF進藤亮佑、MF菊地直哉、前寛之、石井謙伍、小野伸二、FW内村圭宏。水曜日のホームでルヴァンカップ第3節を戦い、大宮相手に小野のゴールで先制するも終盤追いつかれ引き分け。この試合で菊地が2/25の開幕戦以来となる公式戦出場を果たしたが、河合が右太もも裏痛、田中が右ふくらはぎ痛のためハーフタイムで交代。田中がスタメンに定着していた左WBには石井との予想もあったが、この日は菅が入る。また金園が3/18の第4節広島戦以来となるスタメン復帰。この週から練習に完全合流していたようである。
 ジュビロ磐田のスターティングメンバーは3-4-2-1、GK八田直樹、DF櫻内渚、大井健太郎、高橋祥平、MF小川大貴、川辺駿、山本康裕、宮崎智彦、松本昌也 、松浦拓弥、FW川又堅碁。サブメンバーはGK志村滉、DF藤田義明、MF上田康太、太田吉彰、アダイウトン、松井大輔、FW小川航基。磐田はこの週、ルヴァンカップをホームで戦い、小川航基のハットトリックでFC東京を撃破している。一方リーグ戦では前節鹿島戦で3-0と快勝したが、試合中にカミンスキーが負傷交代。更にこの週の練習で腰を痛めた中村俊輔も欠場、ムサエフも肉離れで離脱中、森下は左太ももの張りで欠場とセンターラインの主力を欠く。また第6節までは2列目に中村俊輔、太田、アダイウトン、松浦から3枚を配した4-2-3-1で戦っていたが、第7節のサガン鳥栖戦からは3-4-2-1、つまり2列目の駒を1枚削り、CBを1枚加えた3-4-2-1に変更して鳥栖、鹿島に連勝している。


1.前半

1.1 狙い通り?


 ここまでリーグ戦全試合で先制を許している札幌。四方田監督の試合後コメントを見ても、この試合では先手を握って試合を進められるように、立ち上がりの入り方は入念に準備され、またエネルギーを投じていくことを想定してゲームに臨んだと思われる。

1)菅の左サイド起用


 この日の札幌のスタメンで最も意外だったのが、石井が使えるようになった左サイドに菅を起用したこと。某ゴーメくんがオフに新潟に家出した札幌左サイドは、候補者が田中、石井に菅、ジュリーニョは数に入れられないという状況。田中が使えない状況で、石井と菅の比較で考えると、一番考慮したのは左利きの選手を配することで、サイドを突いたときに時間をかけずにクロスを入れられる(右利きの石井では一度右足に持ち帰るので、時間がかかってしまう)という点だろう。
 序盤、ゲームが落ち着くまでの時間帯、札幌が最初に糸口としたのはその左サイドだった。菅が引いたポジションを取ることで、まず対面の小川の背後にスペースを作る。
 共に3バックの磐田と札幌は、基本的にサイドで1on1の同数、札幌の左・磐田の右であれば菅と小川大貴のマッチアップが発生しやすい。基本的に、ボールを持っている側のチームに主導権があるので、札幌がボールを持っている時は、菅が引けば小川はポジションを上げて菅をフリーにしないようにする、逆に菅が高い位置を取れば小川は最終ラインに吸収されることを余儀なくされる。この関係は反対サイドの札幌:早坂-磐田:宮崎というマッチアップでも然りである。

2)simple is best


 そして小川大貴の背後には都倉を走りこませ、福森からのロングフィード1発でスペースを突く。磐田は右CBの櫻内やボランチの山本がフォローに走るが、ここで左利きの都倉がそのまま折り返してもいいし、兵藤や菅のサポートを待ってキープしてもよい。いずれにせよ、視野が360°ではなく180°に限定されるサイドの狭いスペースでは、都倉や菅のフィジカルコンタクトの強さが活きる。前半3分に波状攻撃から福森のクロスを横山が押し込んで先制したことは、札幌にとって望外の結果だったが、サイドを都倉や菅が突いて押し込むことは準備通りだったと思う。
WBの裏を狙う

1.2 後方での優位性

1)宮澤を切ると福森が空く


 「球際だったり、セカンドボールで戦っていなかった」というのが磐田・名波監督による前半の総括だったが、見ていて感じたのは、球際やセカンドボール以前にまず、札幌のボールの出所に有効なプレッシャーをかけられる仕組みになっていなかったことが序盤、札幌の攻勢を許した点だったと思う。
 札幌のビルドアップの形は、宮澤のアンカー起用後、定番となった3バック+アンカーで菱形を作るところから始まる。対する磐田は5-2-3で守り、最前線に松本・川又・松浦が並ぶが、まず川又が横山→宮澤のパスコース上に立つところから守備が始まる。
 川又によって中央の宮澤が切られると、必然と札幌はサイドから運ぶことになるのだが、札幌の左には高精度の砲台・福森がいる。並みのDFなら、ここから適当に蹴って相手ボールにしてしまうが、解説の興津大三氏も指摘していた福森の高精度かつモーションの小さいロングキックがあるので、裏のスペースに走りこむ選手を用意するだけで何らかの攻撃機会を作れてしまう。
宮澤を消す磐田だが福森が空く

2)宮澤or横山の二択を強いられる川又


 そこで福森を消そうとして、磐田は対面の松本を前に出すのだが、札幌はここでの回避策として①松本の背後に落ちてくる兵藤に預ける、②一度横山に戻すなどして、松本の背後に移動する宮澤を使う、というボールの動かし方が用意されている。
 松本を福森に当てるところまではいいとして、川又は福森からの横パスを受ける横山を狙うのか、宮澤を切り続けるのか、どう動いていいかわからないという状況になっていて(ハメていくためにはまず横山に当たる必要があったと思う)、結果的に横山、宮澤のどちらも切ることができていなかった。
 この3バック+宮澤で数的優位を作って後方でボールを動かせる(リードしていて、無理に攻める必要がない状況でマイボールの時間を作れる)点は、札幌のストロングポイントの一つになりつつある。かつての曽田・西澤・吉瀬(佐藤尽、池内、和波、西嶋…)の3バックを想い起こすと隔世の感がある。
 また兵藤と荒野の関係については、ボールのあるサイドにもよるが、見たところ兵藤が下がってビルドアップにおける「5人目」として登場する、荒野は前方のスペースに飛び出していく、という異なる役割になっていたように見えた。どちらかというと、荒野はシンプルな役割にし、走力や運動量でサポート役を担わせようとの考えだったのかもしれない。
福森から2つの選択肢が確保されている

3)裏を消すか、ボールを抑えるか


 磐田としては、足元に自信のある選手が揃う札幌の最終ラインが低い位置でボールを動かしてくるので、どこまでついていくべきか、という判断が難しい部分はある。ただボールにプレッシャーをかけないことを選択するならば、下の写真のように時折見られた、高いラインを維持したままでいることは非常に危険で、都倉や金園に裏を突かれないようにケアを徹底しなくてはならない。
ボールの出所が抑えられず、裏も空いている

1.3 磐田がボールを持っている時

1)高い位置から当たる札幌


 翻って札幌の守備を振り返る。磐田の最終ラインがボールを持った時、札幌は都倉と金園が中央でボランチ(川辺と、前半早々に入った上田)へのパスコースを切る。中央を切られた磐田は、左の高橋祥平を起点としてボールを運ぶことを試みる。戦術的な狙い、決め事に加え、スクランブル的に最終ラインに入っている櫻内と、キックに定評のある高橋であれば、必然と後者が頼りにされる。
 ここで高橋にボールが渡ると、札幌は右インサイドハーフの荒野が必ず高橋をチェックする。「中央を切って、サイドに出させ、インサイドハーフを当てる」というやり方は開幕時から変わっていないが、この日の札幌のインサイドハーフ…荒野と兵働は、時に2トップを追い越してまで高い位置から磐田の最終ラインにプレッシャーをかけていく。四方田監督の言う、札幌の意識していた「積極的な入り」はこうした守備面の対応も指していたと思う。
中央にはスペースがないので松浦や川又がサイドに逃げてくる

 荒野のチェックを受け、時間を十分に得られない高橋。前方のパスの選択肢は①ボランチ、②ウイングバック(宮崎)、③前線の1トップ2シャドー、というところだが、①②はそれぞれ札幌のFWと、早坂に消されている。よってシャドーの松浦や、サイドに流れてくる1トップの川又へのパスが頻繁に選択される。

2)「前を向かせない守備」が通用しない相手


 磐田最終ラインからのフィードを収める役割は、当初シャドーの松本と松浦が担おうとしていたが、軽量級で、DFを背負うプレーもさほど得意ではない松本と松浦だと、サイドに流れたとしてもキム ミンテと福森の迎撃守備で潰されてしまう。
 このこともあり、磐田は川又が頻繁にサイドに流れてボールキープを試みる。川又に対しても同様にミンテや福森が潰しに行く。川又に対しても簡単にターンはさせないものの、次第にファウルコミットが多くなり、磐田は何度か、サイドからのフリーキックのチャンスを得る。
 札幌としては、ボールをサイドに押し出して中央を固め、クロスを上げさせてCBが弾き返すことを前提とした守備なので、入れられる分には(特に川又がサイドに流れた際は)余裕をもって対応できる。ただファウルがかさんだことについては、中村が欠場したとはいえ、恐らく想定外で、川又の地上戦での強さに手を焼いたと言ってよいと思う。

1.4 興津の指摘と、英断の前の触れられなかった変化

1)スコアは2-0に


 ただ札幌が川又に手を焼く以上に、前半の磐田には都倉の強さが脅威になっていた印象を受ける。16分に札幌が追加点を挙げるが、これはク ソンユンのゴールキックがミスキックとなり、福森がフォローしたボールを都倉が磐田のボランチ2人と競り合いながら収め、右で高い位置を取っていた早坂に展開。早坂が宮崎との1on1をシザースからの切り返しで制し、左足クロスに後方から都倉がドフリーで飛び込んでヘッド、という流れだった。
 ゴールキックからの展開がややイレギュラーなものとなったが、都倉が磐田の選手2人を抑えながら素早く右の早坂に展開したところ、また宮崎の早坂への緩い応対を見ると、確かに名波監督が「球際が弱い」と指摘するのも理解できるところはあった。

2)興津(解説)の指摘


 32分頃に、DAZN中継で解説の興津大三氏は「札幌の出足がやや弱くなってきたように思える」と言及している。結果的にはこの試合、時間を追うごとに札幌の運動量低下は顕著になっていき、後半磐田の猛攻を許したので、この時間帯でこの点を指摘したのは流石プロだな、という気もする。
 では興津氏はどこを見て「出足が弱い」と感じたのかというと、恐らくまず目についたのは、磐田のバックラインが持った時の札幌のインサイドハーフ、兵藤と荒野の寄せだったと思う。試合序盤は磐田の左右のCB、高橋と櫻内がボールを持つと、かなり高い位置であっても寄せることを徹底し、自由に蹴らせないようにしていたが、この30分前後の時間帯になると、序盤ほどの厳しい寄せはなく、磐田はボールを持ちやすくなっていたと思う。
序盤:この位置で持つとインサイドハーフが寄せていく

3)触れられなかった松浦と上田の移動


 一方でこの30分前後の時間帯、札幌の出足が弱まったこと以上にピッチ上では重要な変化が起きている。それは攻撃時における磐田の中盤、上田と松浦のポジションチェンジで、まず25分頃から上田がアンカー、もしくは1ボランチ気味に中央で都倉と金園の間に立つようになっている。これにより、上田がかじ取り役を引き受け、川辺がより高い位置に進出していく。
 そして上田が空けた左ボランチ付近には、シャドーから松浦が頻繁に落ちてくる。この人の動きを、磐田がボールを動かしたときの札幌の守備対応と共に示すと下の図のようになる。高橋に渡った時、荒野が前に出ることでできる背後のスペースには、松浦が丁度収まる形になる。
上田が中央でアンカーに、松浦が中盤に落ちてくる

この落ちてきた松浦が絡んだ展開が下の図、31:59頃のもの。高橋から松浦に渡ると、宮澤が松浦をチェックするが、川辺が松浦をサポートしてボールを逃がす。札幌はボールサイドに選手を寄せて守っているため、反対サイドは空いており、川辺からオーバーラップする小川大貴の前のスペースへとパスが出る。この時は菅の必死の対応でコーナーに逃れている。
荒野の背後(FW~MF間)を使われる

4)やり直す磐田、動かされる札幌


 先述の、上田がアンカーとして振る舞い、松浦が落ちてくることでもう一つ影響があったと思う事象が、都倉と金園のいずれかが上田をケアしなくてはならず、磐田は最終ラインにボールを戻しての攻撃のやり直しが容易になったことだったと思う。
 下の図で示したのは、磐田が大井→高橋とボールを動かし、高橋が縦パスを入れず、大井にボールを戻し(攻撃をやり直す)、大井から逆サイドの櫻内へとボールが渡った時の選手の動き。高橋→大井→櫻内と磐田の左→右へとボールが動かされると、札幌の3枚の中盤はスライドし、兵藤が櫻内を見ることになるが、何度かこのブログで触れているように、ピッチの横幅を3枚で守ることは非常に困難である。
 そこで、簡単に横パスでサイドを変えられないように(3枚のMFがスライドする時間を稼ぐ)、FWがパスコースを切る必要があるが、金園と都倉はまずアンカーの上田をケアしてから、高橋→大井の横パスに対応しなくてはならない。
 磐田が札幌のビルドアップと同じように、3バックとアンカー上田で菱形を作ると、縦関係の上田と大井を両方ケアすることが困難で、大井が空くことで磐田はサイドチェンジが容易、円滑になる。すると札幌は徐々に中盤のスライドが間に合わなくなり、櫻内や高橋がオープンになりやすくなっていく。
中盤はスライドさせられ消耗

5)名波、決断の時(小川航基の投入)


 30分を過ぎて徐々に試合が動いてきたところで、磐田は39分に松本に変えて小川航基を投入。この時は残り時間が少なく、オープンプレーにおいて磐田の狙いが見えてくるのは後半に入ってからであった。
39分~

2.後半

2.1 トランジションゲームの様相を呈する

1)3-4-1-2で対抗する磐田


 後半の展開は、先述した磐田の小川航基投入および、3-4-1-2へとシステムを変更したことが大きく影響していた。
小川航基が入った磐田の陣形は、川又と小川が横並びの2トップ、3-4-1-2と解釈できる。3-4-1-2は去年の札幌も採用していた陣形で、当ブログで何度かそのメリット、デメリットを書いたつもりだが、要するにサイドが薄くなるのでどう守るか、という点がポイントになる。
3-4-1-2のままだとサイドがスカスカ(画像は去年の記事の使いまわし)

2)3-4-1-2がハマる磐田(2トップ+トップ下の3枚で札幌の3バック+アンカーを見る)


 長短両方あり、なかなか難しいシステム(と個人的に思っている)である3-4-1-2だが、磐田の後半のこのシステム変更は札幌に対してハマっていた。図で示すと、中盤で完全に数的同数…札幌の3センターに対して川辺、上田、松浦の3枚をそれぞれ兵藤、荒野、宮澤に当てることができる。特に、ポイントは松浦を宮澤番として配したことで、これにより川又は宮澤のポジションを気にせず札幌の横山や福森にプレッシャーをかけることができる。
 川又に寄せられ、ボールを逃がしたい福森だが、菅と兵働にはそれぞれ小川と上田が付いている。となると安全な逃がしどころは、前方の都倉へのロングボールしかない。川又と小川航基が高い位置から当たってくるので、札幌のバックラインはボールを保持することが困難になり、マイボールの時間を作れなくなる。
松浦を宮澤に当てる他、中盤で枚数を合わせてくる

3)既視感のある間延びサッカーに引き込まれる札幌


 では上記2)の時、福森のロングパスを都倉が前方でキープするとどうなるかというと、これ以上の失点はできない磐田はMFとDFが決死のプレスバック。札幌は都倉を孤立させては結局相手ボールになってしまうので、中盤の選手や金園がサポートする。
 ここで磐田の2トップは、戻ると言っても限度があるので、この状況でも殆ど前残り状態で、守備には加わらない。また磐田の選手で唯一、どっちつかず気味だったのがトップ下の松浦で、ブロックに加われるときは加わり、無理な時は前残りのような状態になっていた。
 2トップが前に残ったままということは、札幌は磐田の2トップに対抗できる枚数を常時確保する必要があるということ。サッカーにはオフサイドというルールがあるので、ラインを上げて守る選択肢もあるが、川又と小川の2トップに対して、裏のスペースで勝負されると札幌のバックラインは厳しいため、極端な押し上げができない。必然と前線と最終ラインの間、中盤にスペースが空き間延びした状況が恒常的なものになっていく。
2トップ対策のためラインを上げられず間延び

 「3-4-1-2で前の2枚、3枚が残っているため陣形が間延びする」…2016シーズンのJ2にもそんなチームがあった気がするが、そのチームはジュリーニョ、都倉、内村、ヘイスといったJ2では上位のFWを複数抱えていたため、3枚を攻撃に専念させられる間延びサッカーと相性が良かったともいえる。 
 しかしJ1でそれと同じことをやると、まず7人ブロックでは守りきれない、都倉もジュリーニョもJ1レベルではベストという選手でもないということで、別の戦い方を模索し、間延びサッカーからは卒業したはずの札幌。だが、この試合では磐田のシステム変更によって互いに間延びした展開に引き込まれ、また運動量の低下や、キーマン宮澤を消す磐田の守備等により、徐々に試合のコントロール及びチームとしての機能性を失っていく。

2.2 悪手だった逃げ切りへのシフト

1)5-4-1へのシフト


 55分頃から札幌は守備を5-4-1、金園を中盤右に配した陣形に変更する。この時、第4節サンフレッチェ広島戦の前半のように、兵藤と金園が高い位置をとっていれば5-2-3、そうでなければ5-4-1と表すのが適当だが、ポジションを見たところ後者であった。
5-4-1へのシフト(写真は1点返された後)

 この戦術変更の理由は、恐らく前線で走り回っていた金園や、中盤の選手の運動量低下をカバーするため、中盤の枚数を減らしてスペースを埋めようとしたのだと思われる。

2)バイタルエリアへの侵入を防げない


 一方で前線を都倉1枚にしたことで、都倉の周辺(または、札幌の中盤「4」の前)で磐田がボールを持った時にプレッシャーをかけることが困難になる。よって磐田は都倉の脇のスペースから、ボールを札幌陣内まで容易に運び、バイタルエリアに上田や高橋、宮崎が縦パスを入れることが容易になる。
 5バックの札幌は、バイタルエリアにパスを出された際、3人のCBがパスの受け手にマンマーク気味に付いていくことで潰すやり方を取っている。しかしこの時間帯、磐田は川又と小川航基が前線に張り付き、下の図のようにキム ミンテや横山は磐田の2トップをまずケアしなくてはならないので、バイタルエリアに侵入する川辺や松浦のケアが困難になる。
無防備なバイタルエリアに縦パスを通されまくる

3)魔の5分間


 なんとか食い止めていた札幌だが、55分からの5分間で2点を失い、試合は一気に振り出しに戻る。55分の磐田の得点は、先述のように宮澤に松浦を当てて、札幌のボールの逃がしどころを封じた磐田のショートカウンターから。60分の上田のFKによる得点は、バイタルエリアへの楔のパスを潰せなかったところからだった。

2.3 恐怖のアダイウトンタイム

1)内村の投入


 69分に札幌は金園⇒内村。内村には、前掛かりの磐田の背後を急襲すると共に、中盤に空き始めたスペースを管理しながら攻撃を食い止めるという任務が与えられていたと思う。
 しかし70分以降の札幌は完全に足が止まっていて、守備の意識は完全にリトリート、バイタルエリアを埋めて籠城することに意識はシフトする。内村は恐らく都倉との2トップとして投入されたはずだが、いつしか右サイドで守備に回る時間が多くなっていて、特にミンテが川又や小川への対応のためサポートに回れないため、早坂の背後は内村がカバーしなくてはならない。こんな状態では攻撃に出ていくことは不可能で、チームとしても後方で跳ね返し、クリアするだけの時間が過ぎていく。
内村も守備に追われ都倉は孤立

2)恐怖の15分


 76分頃に札幌は都倉が足を攣り、小野が交代の準備をする。同時間帯に磐田は3枚目の交代カードとしてアダイウトン。2年前の10月、櫛引や河合が子どものごとく千切られた悪夢が脳裏をよぎる。
 ただ四方田監督の意図としては小野投入で勝ち越しを狙っていたように思える。自陣で耐えてマイボールになれば、中盤の選手が一気にポジションを上げていくが、都倉を代えたことで最前線での基準点を失ったため、フィニッシュまで持ち込めない。要するに、ポッカリ空いたスペースをアダイウトンに自ら提供するかのような中途半端な戦いになってしまった。勝ち越しどころか逆転負けを覚悟したが、なんとかラスト15分ほどを耐えきってアウェイで初の勝ち点を持ち帰ることには成功した。

3.雑感


 カミンスキーと中村を欠く磐田相手ということで、アウェイで勝ち点3を獲得する大チャンス。狙い通りにウィークポイントを突いて2点を先行したが、後半大きく失速して勝ち点2を失った。後半に荒野が3点目のチャンスで仕留めておけば…といった後悔はあるが、序盤からハイペースで仕掛けた反動もあり、ラスト20分はほぼ制御不能で、勝ち点1を持ち帰れて安堵といった状況ですらあった。
 戦い方については、批判的な見方をしている人もいると思うが、今のJ1では「相手にボールを持たせて自陣に引きこもり耐える」という戦い方では消耗するだけで、やはりある程度マイボールの時間を作ること、守りを固めつつ守備一辺倒にならないことが不可欠だと思う。
 その意味では、後半、磐田が前後分断気味になってきたところでペースダウンしてもよかったし、またあまりにも早く5-4-1にしたことで、重心が完全に後ろに下がってしまったことが極端であった。故障者が相次いでいる厳しいチーム事情もあるが、何らかの攻撃手段をもう少し確保したかった(ジュリーニョがいれば、投入するにはうってつけの状況だったのでは)。

4 件のコメント:

  1. 宮澤対策というか、コンサのビルドアップを阻害する対策が練られ始めているなという印象を受けました。
    J2なら半年くらいは何とかなるのかも知れませんがJ1は研究されるのも速い。ホントJ1怖いわ…。
    手詰まりにならないうちにケガ人の復帰と勝ち点を少しでも稼ぐことが必要ですね。

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    1. >フラッ太さん
      3142(352)はアンカーを消すだけなら容易ですが、3バックも一緒に抑えるのが難しいんですよね。あと宮澤も川崎戦などで何度かサイドに流れて中央を空けたりしているところもあったので、ある程度、今の時点でも返しの策は考えられているように見えます(昔の札幌と比べると色々なプレーの仕掛けの豊富さに本当に驚いています)。

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  2.  おはよー(´・ω・`) にゃんむるですー。

     道南方面行ってたんで磐田戦も観れてませんー。ハイライトのみ昨日見ました。荒野決めとけや!な感じ。荒野にはきびしいです。期待してるから。
     カミンスキーいなかったからホントにチャンスだったのになー。こういう試合確実に勝ち点3とっていかないと今後厳しくなるから選手たちもがんばってね。大宮戦に続いての逃げ切れーずは悲しいかったのぅ。本州はもう暑いと思うけど、これからさらに暑くなっていくから、北海道の気候に慣れた体に90分間はキツイはず。何度もくどいけど今のうちにできるだけ勝ち点稼ぎたいのよ。
     あ、もうこんな時間(大根役者)仕事行ってきます。
     次回も期待。 にゃんむるでした。またのー(・∀・)ノ

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    1. >にゃんむるさん
      連休のお出かけでしょうか?私は磐田に行こうと画策していましたが予定が入り行けませんでした。ヤマハのDAZN中継はアングルが独特でやはり現地で見たほうが良かったなと思ってます。荒野が仕留めておけば本当に大きかったですね。

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