スターティングメンバー |
北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-5-2、GKク ソンユン、DFキム ミンテ、横山知伸、福森晃斗、MF早坂良太、荒野拓馬、宮澤裕樹、兵藤慎剛、菅大輝、FW都倉賢、金園英学。サブメンバーはGK金山隼樹、MF河合竜二、菊地直哉、前寛之、マセード、小野伸二、FWジュリーニョ。契約条項により前節大宮戦に出場できなかった横山がスタメン復帰、他は前節と同じ。サブには今週水曜日から練習に完全合流していたマセードが入った。今週のミッドウィークは各チーム、AFCチャンピオンズリーグ又はルヴァンカップを戦っていたが、札幌はルヴァンカップの試合がなく休み。中7日空きのホームでの連戦となる。
ガンバ大阪のスターティングメンバーは4-3-1-2、GK東口順昭、DFオ ジェソク、三浦弦太、ファビオ、藤春廣輝、MF井手口陽介、藤本淳吾、倉田秋、遠藤保仁、FW長沢駿、赤﨑秀平。サブメンバーはGK藤ヶ谷陽介、DF米倉恒貴、丹羽大輝、金正也、MF泉澤仁、食野亮太郎、FWアデミウソン。前節のメンバーから堂安、アデミウソンに代わり遠藤、赤﨑がスタメン起用されている。遠藤は第7節以来のスタメン復帰。3月の代表選で負傷した今野のほか、呉屋、井出が離脱中。また、5/20より韓国で開催されるU-20ワールドカップを戦う日本代表に堂安、市丸、初瀬、更には高木彰人も追加招集されており、少なくとも今月末まで起用不可。
火曜日にはAFCチャンピオンズリーグのグループリーグ第6節をアウェイ(済州ユナイテッドFC戦、0-2で敗れた)で戦っている。第2節から第7節まではファビオを中心に配した3バック、遠藤をアンカーで起用した3-1-4-2で戦っていた。第8節以降は再び4-4-2に戻しているが、遠藤を外し、倉田・井手口のWボランチだった。
1.前半
フラットに見て、ガンバは非常によく札幌を警戒し、研究していた。ここ数試合、ホームでの札幌は警戒されるに値するサッカーをしていると個人的に思っていたが、アデミウソンと泉澤をベンチスタートにしたことからも、強化費で下から2番目、半分以下の予算規模のチームに対するものとしては不相応なほどだった。
1.1 初めに考えた(であろう)こと
1)宮澤を消せ
ガンバはオフィシャルの発表では井手口と遠藤のWボランチのような表記だが、蓋を開けてみると遠藤がトップ下の4-3-1-2だった。4バック+アンカーシステムの採用は開幕戦以来となるが、ガンバがまず考えたのは、宮澤を抑えることだったと思う。
宮澤は福森とともに、札幌の「攻撃の始まり」であり、詰まったときの逃しどころともなる。ここ数試合の記事で度々触れたが、最前線で都倉が裏を狙い続けることで攻撃の縦幅を作り、後方で時間・空間的な猶予を与えられた宮澤や福森が攻撃を組み立てるという関係性で、ボールを持った時に都倉一辺倒にならない戦い方ができていることが今の札幌の最大の強みである。
これが約10年前のチームだと、ダヴィという都倉以上の推進力を持つFWがおり、またダヴィを走らせる"砲台"クライトンもいたが、この時のチームはクライトン以外にボールを持てる選手が後方にいなかった。よってクライトンが封じられ、またダヴィの走るスペースが埋められると遅攻はまったく機能しなくなり、相手に妨げられずにクライトン⇒ダヴィのホットラインが機能するカウンターやセットプレイ以外では殆ど有効な攻撃ができなかった。
2)数年前ならば逆だった関係
話を2017年5月に戻すと、札幌が攻撃を開始する時のガンバの選手配置は以下のようになる。アデミウソンを外した最前線には長澤と赤﨑。二人で札幌の3枚を見る。そして4-3-1-2の「1」…遠藤が宮澤を、ほぼマンマークに近い対応でケアする。
「遠藤が宮澤をマンマークしている」…数年前ならば逆の関係が成立するかのような話だが、今の宮澤はそれだけの価値があるプレーをしている。
2トップで3バックを見て、宮澤にはトップ下遠藤がマンマーク |
ガンバは前線高い位置で2トップが守備のスイッチを入れ、札幌のビルドアップを下の図のようにサイドに誘導する。横山に厳しく当たると、中央の宮澤が遠藤に密着マークされているので、横山は左の福森、右のミンテのいずれかにボールを逃がすことになる。
この時、ガンバは福森に持たせないように横山の左を切るように追い込みをしていたこともあるが、札幌としては、CBからWBにボールを預けるところまでは想定内でもある。早坂と菅、どちらに持たせたいかというと早坂の方なので、横山⇒ミンテ⇒早坂という経路で運ぶこと自体は特段問題はない。
早坂に渡すまでは想定内 |
1.2 狙いを絞った圧力
1)3枚のMFによる圧力
ミンテから託された早坂の選択肢は大きく分けて二つある。
一つは同一サイドでボールを縦に運んで攻撃を仕掛けること。より具体的に言うと、縦に走る都倉や荒野への縦パスや、早坂自身がドリブルで運ぶなど。荒野が早坂の前のスペースに走りこむ動きはここ数試合で印象に残っている人も多いだろう。
もう一つは、右サイドから攻めずに攻撃を一旦ストップさせたり、やり直すこと。この時の早坂からの預けどころが最終ラインのミンテや横山であり、宮澤である。
対するガンバは、早坂にボールが渡ると4-3-1-2の「3」…倉田、井手口、藤本の3枚がボールサイドにスライドしてボール周辺の圧力を高めてくる。
今日のサッカーでは、中盤3枚というのはピッチの横幅を守るのには不足した枚数とされている。というのは、図を見てわかるように3枚で片方のサイドに寄せれば反対サイド(菅)はがら空きになる。一度寄せるだけならばいいが、ここで札幌がボールを戻して攻撃を逆サイドからやり直す、これを繰り返せば、3枚のMFがボールにアプローチし続けるのは難しくなる。
2)宮澤包囲網
しかしガンバは2トップの守備によってミンテと横山、更に遠藤を宮澤につけることで、早坂からの攻撃のやり直しを不可能にさせる。
ここで早坂からミンテ、横山、宮澤のうち、まだ繋げる可能性があるのは宮澤。というのはミンテ、横山へのパスはマイナス方向へのパスとなるため、赤﨑や長澤が果敢に当たってくる局面で引っ掛けられれば大ピンチを招きかねない。宮澤が遠藤を外せさえすれば、逆サイドの菅のところへボールを逃がせる見込みはある。
札幌は何度か序盤、これを試みていて、2度ほど宮澤⇒菅へのパスは成功した。菅の前は大きくスペースが拡がっているので、多少アバウトなボールでもパスが成功する。
ガンバは宮澤のこのプレーに対して、遠藤だけでなく長沢、赤﨑のプレスバックや、井手口や倉田も連動して寄せることで宮澤への圧力を強めていく。特に宮澤の視野外となる、後方からのFWのプレスバックが加わると宮澤は厳しくなる。
宮澤を経由して展開したいが包囲される |
下の32:08は、札幌が後方でボールを保持しようとした所に、ガンバが高い位置から守備を仕掛けた局面。札幌は福森と菅のポジションが入れ替わっており、菅が3バックの左の位置でボールを持っている。この時、遠藤は宮澤を完全に消すポジションに立っている。宮澤や福森は菅に対し、逆サイドでオープンなミンテに回すように指示する。
菱形の頂点をケア |
菅からミンテに渡ったところが以下の32:14。先ほど写真中央にいた赤﨑が、ミンテに渡ると猛然とチャージし、サイドに追い込む。宮澤はミンテからのパスを貰えるようにボールサイドに寄っていくが、遠藤は宮澤を全く離さずついていく。
宮澤に出せないミンテは、縦の早坂か、中央の横山か、というところだが、早坂には、このとき左MFに入っていた藤本が寄せられる位置にいる。また横山は、長沢が寄せていき、ミンテからの「不用意なバックパス」を待ち構えている。結果ミンテは、最もリスクがないがパスコースも狭い早坂へのパスを余儀なくされ、また早坂もガンバのMFによるプレスの網にかかってしまう。
サイドチェンジされても中央を切り続ける遠藤 |
3)ファビオvs都倉
攻撃の起点であり、逃がしどころを潰された札幌の解決策は「困った時の都倉」。最終ラインの選手は赤﨑と長沢のプレッシャーを受けつつ、ロングボールで活路を見出そうとするが、都倉の頭を狙ったボールや、右サイドに流れる動きに対しては速さと高さを併せ持つファビオがケアする。
実は見たところファビオは、ゴールキックからの競り合いのような正面からのボールには強いが、一度サイドに振って視点を変えるとマークがずれやすいという欠点も見られた。しかし単純な競り合いならば都倉で互角、金園ではかなり厳しい(三浦vs金園なら互角ぐらいだった)。ということで長いボールで一気に前へ運びたいならば、ファビオを避けて三浦のゾーンに蹴って競らせる必要がある。時折金園や都倉が競り勝って前で収まる局面もあったが、全体的には、これまでの試合と比べると、シンプルなボールだけでは攻撃が成り立たないな、という印象が強かった。
札幌からボールを回収した後のガンバは、4人のDFとアンカーの井手口の5枚でボールを動かし、ゆっくりと陣形を整えてから攻撃に移る。時折、札幌は前掛かりになって後方のリスクヘッジが不十分なままボールを失い、ガンバのカウンターチャンスとなりそうな局面もあったが、そうした場合でも速攻が選択されることは前半、ほとんどなかった。アデミウソンと泉澤をベンチスタートとした選択を考えても、遅攻でゲームを組み立てることは非常に徹底されていたように思える。
上記、ボールが最終ラインで動いている時の状態をより詳しくみていく。
システムのかみ合わせ上、ガンバは両サイドバックが札幌のプレッシャーを受けにくく、ボールの預けどころとすることができる。逆に中央へのパスコースは切られているので、ガンバのCBからの最初のパスは必ず両サイドバックのいずれか(図中①)。MFを追い越しての攻撃参加が得意な藤春がかなり自重していたことからも、SBを預けどころと考えていたことがわかる。
ガンバのSB(図では右のオ ジェソク)にボールが入ると、札幌はいつも通り、3枚のMFのうち最も近いインサイドハーフの選手(図では兵藤)が寄せていく。この時、ゾーンで守っているため宮澤と荒野はそれぞれ隣の選手(兵藤、宮澤)の斜め後ろのポジションをとる。
すると反対サイド、札幌から見て右サイドは大きく空くことになる。この構図は、4-3ブロックで守っているガンバがボールサイドに寄せて圧力をかけたときと似ている。
ただし、札幌とガンバには大きな相違点がある。
札幌がボールを持っている時は、ガンバは札幌がサイドチェンジによる攻撃のやり直しができないように、宮澤や最終ラインの選手をケアする人を配している(⇒先述の1.2の2)参照)。一方でガンバがボールを持っている時、中央で組み立てる三浦・ファビオ・井手口の3枚に対して札幌は都倉、金園の2枚しか投入できない。
この時、都倉と金園が最優先でケアすべきはアンカーの井手口なので、いずれかの選手が井手口を見れるポジションを取る必要がある。下の写真のように、ボールに近い都倉がCBの三浦、遠い位置にいる金園が井手口を見ても、ファビオがフリーになってしまうので、三浦からファビオにボールを逃がせば、ガンバは右サイドから左サイドへと確実にボールを逃がすことができる。
サイドが変われば、今度は金園がCB(ファビオ)、都倉が井手口、とマーク対象を受け渡すが、となれば今度は三浦がフリーになってしまう。
このように、ガンバは前に2枚しか配していない札幌に対して必ず誰かがフリーになる構造を後ろ3枚で作っているので、札幌がここを破壊しない限り、無限にサイドチェンジ、攻撃のやり直しができる。
30分過ぎ頃、上記の写真で説明したガンバが横パスを続けた展開があったタイミングだったと思うが、DAZN中継では札幌の沖田コーチのコメントとして、「後ろでしっかりブロックを作っていれば、相手にパスを回させても問題ない」という旨のコメントが紹介された。
実は見たところファビオは、ゴールキックからの競り合いのような正面からのボールには強いが、一度サイドに振って視点を変えるとマークがずれやすいという欠点も見られた。しかし単純な競り合いならば都倉で互角、金園ではかなり厳しい(三浦vs金園なら互角ぐらいだった)。ということで長いボールで一気に前へ運びたいならば、ファビオを避けて三浦のゾーンに蹴って競らせる必要がある。時折金園や都倉が競り勝って前で収まる局面もあったが、全体的には、これまでの試合と比べると、シンプルなボールだけでは攻撃が成り立たないな、という印象が強かった。
1.3 永久機関
1)徹底した遅攻
札幌からボールを回収した後のガンバは、4人のDFとアンカーの井手口の5枚でボールを動かし、ゆっくりと陣形を整えてから攻撃に移る。時折、札幌は前掛かりになって後方のリスクヘッジが不十分なままボールを失い、ガンバのカウンターチャンスとなりそうな局面もあったが、そうした場合でも速攻が選択されることは前半、ほとんどなかった。アデミウソンと泉澤をベンチスタートとした選択を考えても、遅攻でゲームを組み立てることは非常に徹底されていたように思える。
両サイドバックが安全地帯 |
2)CBからの最初のパス
上記、ボールが最終ラインで動いている時の状態をより詳しくみていく。
システムのかみ合わせ上、ガンバは両サイドバックが札幌のプレッシャーを受けにくく、ボールの預けどころとすることができる。逆に中央へのパスコースは切られているので、ガンバのCBからの最初のパスは必ず両サイドバックのいずれか(図中①)。MFを追い越しての攻撃参加が得意な藤春がかなり自重していたことからも、SBを預けどころと考えていたことがわかる。
ガンバのSB(図では右のオ ジェソク)にボールが入ると、札幌はいつも通り、3枚のMFのうち最も近いインサイドハーフの選手(図では兵藤)が寄せていく。この時、ゾーンで守っているため宮澤と荒野はそれぞれ隣の選手(兵藤、宮澤)の斜め後ろのポジションをとる。
三浦からオ ジェソクに渡った時の構図 |
すると反対サイド、札幌から見て右サイドは大きく空くことになる。この構図は、4-3ブロックで守っているガンバがボールサイドに寄せて圧力をかけたときと似ている。
3)永久機関
ただし、札幌とガンバには大きな相違点がある。
札幌がボールを持っている時は、ガンバは札幌がサイドチェンジによる攻撃のやり直しができないように、宮澤や最終ラインの選手をケアする人を配している(⇒先述の1.2の2)参照)。一方でガンバがボールを持っている時、中央で組み立てる三浦・ファビオ・井手口の3枚に対して札幌は都倉、金園の2枚しか投入できない。
この時、都倉と金園が最優先でケアすべきはアンカーの井手口なので、いずれかの選手が井手口を見れるポジションを取る必要がある。下の写真のように、ボールに近い都倉がCBの三浦、遠い位置にいる金園が井手口を見ても、ファビオがフリーになってしまうので、三浦からファビオにボールを逃がせば、ガンバは右サイドから左サイドへと確実にボールを逃がすことができる。
サイドチェンジを阻害できない |
サイドが変われば、今度は金園がCB(ファビオ)、都倉が井手口、とマーク対象を受け渡すが、となれば今度は三浦がフリーになってしまう。
このように、ガンバは前に2枚しか配していない札幌に対して必ず誰かがフリーになる構造を後ろ3枚で作っているので、札幌がここを破壊しない限り、無限にサイドチェンジ、攻撃のやり直しができる。
1.4 「回させている」?
1)2本目のパス(サイドチェンジ)と3本目のパス(CBへのバックパス)
しかし、こうしたガンバのポゼッションに対する札幌の対応は「しっかりブロックを作って相手に回させている」と自信を持って言えないものだったと思う。
具体的に問題点を挙げると、ガンバのサイドチェンジのパス(下の図②)が出されると、札幌は3センターがスライドして反対サイドのSB(図中では藤春)を見るのが困難になる。特に都倉や金園が三浦、ファビオに対するチェックが甘くなると、ガンバの両CBは「一人飛ばしのパス」を容易に出せるので、左右のボール循環スピードは更に加速する。元々3枚で横スライドを続けてピッチの横幅を守り切るのは困難である上に、パススピードが上がれば札幌の3センターはユニットとして完全に瓦解する。
サイドを変えられ続けると中盤3枚で守れなくなる |
図では荒野が逆サイドについていけなくなった時の局面を示した。ここで、最終ラインからWBの早坂が登場し、藤春をチェックする。早坂が抜けた最終ラインは4枚となり、ボールサイドにスライドするが、この時、早坂の背後、ミンテがスライドしきれないところを、ガンバのFW赤﨑や長澤が裏を狙う。この動きによって札幌の最終ラインは押し下げられ、DF~MF間に更なる空間ができてしまう。
2)回させた末路 ~ソンユンのポジショニング以前に~
ガンバの数回の横パスが繰り返され、札幌の中盤が振り回された(&前線の2トップも的が絞れない守備を繰り返し疲弊していたように見えた)後には、必然と中盤の選手間が間延びし、倉田や遠藤、藤本が縦パスを受けるスペースができていく。
中盤スカスカに |
前半終了間際、ガンバは藤本が見事なループシュートで先制点を挙げるが、この時は遠藤→井手口の縦パスで2トップの間を割られ、井手口→赤﨑のワンタッチパスで荒野~宮澤の間をいとも簡単に割られてしまった。藤本はソンユンのポジショニングが前がかりだと予め把握していたということだが、それ以前の部分…5バック+3MFを配しておきながら、中央を簡単に割られたことにこそ本質的な問題がある。
中央を割られてシュートまでもっていかれる |
2.後半
2.1 解決策
前半の札幌の問題点を一言で言えば、①攻撃面で、ボールを運ぶ選手を消されたので前線にボールが届けられない、②守備面で、相手の2CB+1ボランチに対し枚数が足りないのでボールを取り上げることができない、というところだった。
このうち①については、後半立ち上がりから、即効性のある解決策を用意できた、というともっともらしいが、立ち上がり10分頃(55分頃まで)は割り切ってロングボールを都倉や金園に放り込むことを徹底していた。
50分、ゴール前のこぼれ球に走りこんだ菅の、角度のないところからの左足シュートをガンバのファビオがライン上でブロック。体に当てた後、ファビオの手に当たったように見えたが判定はプレーオン。疑惑の判定と言っていいものだったと思うが、この時も発端は早坂が低い位置から都倉に放り込み、都倉の強引なターン→突破からのチャンスだった。
一方②守備面の解決策は、2トップは三浦とファビオの2枚に当たり、井手口を他の選手に任せるというもの。サイドバックに逃がされたときにどうする、という部分はインサイドハーフ又はWBが当たることで解決を試みる。ともかくファビオと三浦を困らせないと始まらないということで、都倉と金園が果敢にチェイスを仕掛けて、長いボールを蹴らせることでボールを回収する。
ファビオと三浦に2対2の関係を持ち込む |
2.2 誤算
1)大誤算マセード
札幌の1人目の交代は62分、早坂に変えてマセード。これを見てガンバは65分、赤﨑→アデミウソンに交代。
ロングボール攻勢で押し込む札幌に対し、ガンバはカウンター狙いに明確に切り替える。全体的に運動量が落ち、チーム全体で高い位置からの守備が難しくなったことで、遠藤をボランチに落とした4-4-2にシフトし、後方のスペースを塞ぐことを最優先とする。そして前線に長沢とアデミウソン、ロングボールを競れる選手と抜け出す選手を揃えて、少ない人数でカウンターアタックを成立させたいとの考えだったと思われる。
アデミウソンは投入直後、早速裏への抜け出しからビッグチャンスを迎えたが、ク ソンユンのスーパーセーブに阻まれた。
スターティングメンバー |
一方、札幌は早坂の位置にそのままマセード。ベンチの駒のうち、マセードが最初に選ばれたのは、サイドのスペシャリストとしての能力を買っていることに加え、早坂との交代ならばバランスを崩さずに攻撃的にシフトできる、という慎重な考え方もあったと思われる。
しかし久々の登場となった切り札のマセードが機能しない。試合勘の問題?なのかわからないが、クロスは短くファーの都倉に届かず、得意の切り返しもステップワークが鈍い。ピッチ上の選手はマセードを信頼していて、オープンな局面では積極的にボールを預けていくが、マセードからの攻撃でシュートに結びついたものは殆どなかった。
2)ジュリーニョの投入と全体の運動量低下
マセード投入から7分後、69分に札幌は金園⇒ジュリーニョに交代。ジュリーニョはそのまま2トップの一角に入る。
この時間帯になると、札幌は中盤の運動量低下が顕著になる。すなわち2トップがガンバの2CBに対するコースを切っても、サイドバックにボールを逃がされると回収が難しくなる。投入直後のジュリーニョが一人でボールホルダーを追いかけるも一人では無力に等しく、ガンバにゴール前までボールを運ばれる局面が増える。もっとも、これを見越してドリブルでボールを運べるジュリーニョを投入したのかもしれないが。
3)終盤の展開
75分、札幌は3枚目のカードとして荒野→小野に交代。79分、ガンバは藤本に変えて泉澤。この79分頃に札幌は福森が足を痛め、ピッチに立ってはいるもののプレーに殆ど関与できなくなる。最終ラインに痛んだ選手を置いておくわけにはいかないので、菅を最終ラインに下げて対応する。
スターティングメンバー |
結果的にこの福森の負傷が非常に痛かった。右で機能しないマセードに代わって、後半はドリブルが突破口となっていた菅が後ろに下がり、ビルドアップでの貢献度が高い福森が最終ラインからいなくなってしまったことで、一気に攻撃の手立てを2つ失った。以降の時間帯は、小野、ジュリーニョ、都倉目がけてロングボールを放り込むだけの単調な攻めに終始する(小野は投入直後からタスクが不明瞭な気もしたが)。
最後はスローインから、ジュリーニョがボールを奪われたプレーを発端に、カウンターから泉澤にダメ押しの2点目を決められて勝負が決まった。
試合後、都倉がこのプレーに関してジュリーニョと口論した、というような話があったが、まだ動ける荒野を下げ、疲労困憊の宮澤を残し、小野をトップ下(=殆どFWに近い位置)に入れたことで、札幌はボールを前線に供給する手立てがほぼゼロになってしまった。そのため何とか問題を解決しようと、ジュリーニョが自分の判断で中盤低い位置までボールを受けに下がったところを潰された、という構図だった。個人のプレーとは別に、選手を変えるほどチームが機能性を失うということで、ベンチワークのちぐはぐさは否めない印象を受けた。
”宮澤アンカーシステム”は当然いつか対策されるだろうとは思っていたが、予想以上に早く到来した。もっとも、対策されたからといって完全に陳腐化するような話ではないので、その点は悲観することはないと思う。どちらかというと、後半途中から繰り広げられた、やたらとボールプレイヤーを並べることで攻撃面の解決を図ろうとしたベンチワークが気がかりである。
3.雑感
”宮澤アンカーシステム”は当然いつか対策されるだろうとは思っていたが、予想以上に早く到来した。もっとも、対策されたからといって完全に陳腐化するような話ではないので、その点は悲観することはないと思う。どちらかというと、後半途中から繰り広げられた、やたらとボールプレイヤーを並べることで攻撃面の解決を図ろうとしたベンチワークが気がかりである。
はじめてコメントさせて頂きます。
返信削除数あるブログの中でも1番勉強になるブログだと思っています。
今後とも戦術解説宜しくお願い致します。
ガンバ大阪がプレスによって宮澤包囲網などのビルドアップ妨害策がされました。コンサドーレは解決策として都倉へのロングボールによって後半盛り返したとの事ですが、単純に戦術都倉が効果的でチャンスも作れ、ドタバタでスリリングで面白かったと思います。
それで質問ですが、コンサドーレのビルドアップ時に私はあそこまでFW(長沢、赤崎)が追ってくるのであれば、ソンユンがビルドアップに関与するポジショニングを行いボールの逃げどころを作り、ソンユンへのバックパス&リターンでFWを外し、もしソンユンまで追わないのであればやりなおしを行えば良いかなと思いました。
投稿者様はそのようなビルドアップ方法はどう思われますか?
>だそんさん
削除コメント&閲覧ありがとうございます。あくまでGKはシュートストップが第一ですが、ご指摘の通り、私もソンユンのところが札幌のビルドアップにおける最大の伸びしろだと思います。具体的には、ソンユンから低い位置のウイングバックへのフィードが通るようになれば、相手が前に3枚を配してDFがフリーになりにくくともそこを飛ばして攻撃を組み立てられるので非常に有用だと思います。
今、欧州で足元がうまいと評されるGKは大体このGK→SB or WBの斜めのフィードを自信をもって蹴れる選手で、今後国際レベルでは必須スキルになっていくと思います。
>アジアンベコム様
削除今までは貴ブログを面白いな~ぐらいにしか読んでなかったのですが、徐々に影響を受けました。最近ではチームとしてどのような守備のはめかたをしているのか、ビルドアップのやり方をしているのかを見るようになりました。サッカーの楽しみ方が増えとても感謝しています。
質問に答えて頂きありがとうございました!
やはりソンユンの所が伸びしろですよね!早くソンユンには足元上手くなってもらってビルドアップ時に違いを見せてもらいたいです。これでキープ力のあるへイスが戻ってきてくれたらmotto・・・まあ怪我で期待のしようがないですが(笑)
次節新潟はガンバを模倣した守備をしてくるのか、ミラーゲームで1点勝負をしてくるのか、ロペス監督の初陣とあって怖くもあり楽しみな一戦ですね!
またの更新を楽しみに致します!
はじめまして。コメントさせていただきます。
返信削除今回の対戦相手だったガンバ大阪サポです。
コンサドーレの戦術を知らないまま、生観戦していたのですが、このblogを拝読し、試合の時にはわからなかった札幌の戦術がわかりました。
今後も拝読いたします。
来年も同じ舞台で戦える状態で、稲本選手の吹田帰還を楽しみにしております。
>*shoko*さん
削除コメント&閲覧ありがとうございます。対戦相手の方に読んでいただけると毎回非常に嬉しいです。
今シーズン中盤センターに3枚を並べる戦い方を採用して、中央ができる稲本は昨シーズン以上に重要な選手だと思っていたので開幕早々の離脱が本当に残念です。おっしゃる通り、来年も吹田に行ける状況を作らなくては、ですね。
「泉澤とアデミウソンをサブに回すとはガンバめ、コンサをナメてるな…」と一瞬思いましたが、実際はむしろ逆で、90分トータルで考えてきて「長谷川監督、イヤらしいことするなあ…」と唸らされました。選手層が厚いガンバだからこそ可能なことで、藤本のゴラッソだけでなくやはり総合力で差は歴然とあったかな、と。
返信削除宮澤アンカーに対してはいわゆるトップ下の選手がマッチアップというのが自然なところですが、それだけではなく、きちんと“答え”を用意してきましたね。新潟がどこまで取り入れるかはわかりませんが、ガンバほどCBは堅くないので都倉にアバウトに放り込んじゃっても何とかなりそうな気がしないでもないですw。ソンユンをビルドアップに組み込めればアップデートはできるでしょうが、すぐにできるかどうか。このあたりの四方田監督の考えも気になります。
四方田コンサに置いては小野の起用法が非常に限られてしまうのがつらいですね。システム変更せずに小野を組み込むのはちょっと無理があるような…。小野は基本真ん中の選手なので交代させるなら消去法で兵藤か荒野のポジションくらいしか思いつきません。荒野OUT小野INは敗着の一手だったように思います。
小野を組み込むなら3-4-2-1に変更して2の一角として起用するのが妥協できるラインかと。その場合、もう1人の2はジュリーニョor金園あたりが可能性が高そうですが、いずれにしても動ける選手を残しておかないと難しいだろうなと妄想します。戦術厨としては勝敗を考えなくていいのでこういう妄想はけっこう楽しかったりするんですがw。
>フラッ太さん
削除持ち駒の力のトータルだけでなく戦術面でも相手が上でしたね。本当にコメントの通りで、システムのかみ合わせだけでなく試合運びとしてどこで仕掛けてくるか、残念ながら札幌はこのメンバーだと先行逃げ切り(クローザーを入れてラスト20分引きこもる)しか勝ち筋がなさそうなのが厳しいところです。
>小野を組み込むなら3-4-2-1に変更して2の一角
あれ、小野-ナザリト-都倉の3トップ…どっかでみたことある気が…