スターティングメンバー |
北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-5-2、GKク ソンユン、DFキム ミンテ、横山知伸、福森晃斗、MF早坂良太、荒野拓馬、宮澤裕樹、兵藤慎剛、菅大輝、FW都倉賢、金園英学。サブメンバーはGK金山隼樹、MF河合竜二、菊地直哉、前寛之、マセード、小野伸二、FWジュリーニョ。スタメン、サブ共に前節と全く同じ。
アルビレックス新潟のスターティングメンバーは4-2-3-1、GK大谷幸輝、DF川口尚紀、富澤清太郎、ソンジュフン、堀米悠斗、MFロメロ フランク、小泉慶、ホニ、チアゴ ガリャルド、山崎亮平、FW鈴木武蔵。サブメンバーはGK守田達弥、DF大野和成、酒井宣福、MF加藤大、本間勲、成岡翔、森俊介。呂比須ワグナー新監督が就任しての初陣。これまで主に4-4-2で前線にホニと、山崎またはチアゴ ガリャルドが起用されていたが、ホニを右に回して鈴木武蔵が1トップ、チアゴ ガリャルドが下がり目でトップ下。堀米は左SBの3番手(原輝綺、酒井宣福の次)だったがこの試合でJ1初スタメン。矢野貴章は5/5の第10節川崎戦で負傷し離脱中。
1.前半
1.1 見え見えの罠
1)当然のリトリート ~(勝てない時にまず考えることを)俺らは知ってるぜ~
2012年にとあるチームで実現したジョゼ・カルロス・セホーンとのタッグの印象しかない”指導者・呂比須”ということで、監督としての手腕やタイプは未知数。ただ新潟のチーム状況…この試合前の時点で1勝2分け8敗の勝ち点5で最下位、前節は浦和相手に6ゴールを献上してホームで1-6の敗戦、そして準備期間がない中での新監督初戦、といったことを考慮すると、どのような戦い方をするかは容易に予想がつく。
そして蓋を開けてみれば、序盤の新潟の出方は予想通り、といったところ。開始数分間はロングボールで散発的な攻撃を仕掛けてくるが、これが失敗に終わり札幌がボールを回収すると、10人のフィールドプレイヤーが迷わず自陣に帰陣しリトリート、4-4-2のブロックを低い位置に築く。最前線の鈴木武蔵、チアゴ ガリャルドのポジション(=守備の開始位置)はセンターサークルより手前に設定されていて、ここ以前で札幌の3バックがボールを保持しても、ボールにアタックする素振りを全く見せない。
全体を低く設定することで、最終ライン背後のスペースを消す。都倉や金園が裏を狙っても、中央のレーンではGK大谷の守備範囲に入っている。よって裏を狙うならば、サイドのレーンを狙う必要がある。
ホームだがリトリートする新潟 |
2)当然の左基点
相手が守備を固めてきたときの札幌のファーストチョイスは、これまた予想通りであるが左右のDFのうち左、すなわち福森にまずボールを集める。ここで福森がまず、4-4-2攻略の定石であるFW脇、SHの前方のスペースに侵入していくと、新潟は福森に対してここでもあまり強烈なプレッシャーは与えてこない。1列目のチアゴ-鈴木のラインを福森が超えたあたりでようやくホニが福森に寄せてくる、といったところで、かなり福森には時間と猶予が与えられていた。
守備の開始位置が低い新潟 |
3)緩さは罠
福森のところから札幌が新潟陣内に侵入していった局面の例が、下の13:46。新潟の両サイドハーフの対応を見ていくと、右のホニは対面の福森を守備の基準点と認識していないようで、ボールホルダーにプレッシャーを殆どかけずにズルズルと下がるだけ。福森を捕まえに行ったのは2トップとして並んでいたチアゴ ガリャルドで、中央からタッチライン際までスライドする。
このとき、チアゴと鈴木は一応ユニットとして動いているように見えるが、2列目の4枚は1列目の守備と全く連動せず、MF-FW間にガッツリスペースを与えているので、福森から荒野にパスが通れば簡単に前を向ける状況になっている。
そして4枚のMFのうち、反対サイドの山崎はこの状況で左サイドに残ったまま、ほとんど絞ってこない。実質3枚で守っていることが更に中盤守備を脆弱なものとしていて、簡単に札幌の選手の侵入を許す状況になっている。
2トップ脇から容易に侵入でき、中央も空いている |
しかし中盤にスペースを空けてまで山崎を前に残していることは、突破力のある山崎を必要以上に下げるよりも、カウンター時に脅威を与えることのできるポジションに置いておくことの方が損得プラスだと考えてのもの。
更に言えば、札幌の選手が易々と侵入できるほどの緩い守備も、前掛かりにさせて後ろを手薄な状態にさせるための罠だったと考えられる。事実、この時も福森が攻撃参加すると、札幌は後方に宮澤、ミンテ、横山しか残っていない。仮にここで新潟がボールを回収できれば、2トップに加えて山崎がカウンターに参加できるという状況が生じる。
序盤は無理をせず福森から、サイドの菅へと外→外でボールを運ぶ札幌。サイドの高い位置に張る菅に渡ると、流石にこの位置で自由にさせるわけにはいかないということで、新潟は右SBの川口が出てくる。
この時、川口がサイドに出ると、川口の背後、川口-富澤の間にスペースができる。これは4バックで守るチームにとってどうしても構造的にウィークポイントとなりやすい部分で、何らかケアする策がなければ、下の図のように2列目の選手(図では兵藤)のフリーランニングを組み合わせることでペナルティエリア内への侵入を許してしまう。
ではどうするのかというと、一般には①DFラインがボールサイドにスライドする、②中盤の選手が下がる、といった考え方になるが、新潟は上記①(DFラインのスライド)で対応することは難しい。なぜならば最終ラインの選手の身長をみると、富澤181cm、ソン ジュフン190cm、このCB2人はいいとして左SBの堀米は公称168㎝。
CBの富澤をスライドさせてスペースを埋めれば、都倉・金園に対してソン ジュフン、堀米が対応しなくてはならず、堀米のところで深刻なミスマッチが発生する。
そのため、新潟は都倉と金園がゴール前で待つ限り、両CBを絶対にゴール前から動かせない。5バックで、高さのあるCBを3人起用している札幌が、福森やミンテをゴール前から動かして守ることができること(=1人が動いても2人残っている)と比較すると、このことの難しさを何となくわかっていただけると思う。
というわけで新潟は、川口-富澤の間にできるスペースを中盤の選手が埋めるしかないので、札幌がサイドにボールを展開するたびに、小泉、ロメロ フランクがスペースを埋めるため奔走する。
特に、札幌が左(新潟の右)から攻めてくる関係上、右ボランチの小泉によるプレスバックが頻繁にみられるようになる。そして小泉が下がるということは、小泉が元いたポジション…中盤底右寄りの位置は空くことになる。この位置は空けたまま放置している場合と、チアゴ ガリャルドが恐らく自己判断で戻ってスペースを埋めている場合があった。
上記のように、攻め込まれてチアゴが下がると、新潟の最前線には鈴木武蔵だけが残ることとなる。DFを背負ったプレーが得意でもない鈴木が収めどころになれるかというと、難しいだろうとの印象だが、この解決策として、新潟は奪った後、とにかく前線の空いているスペースにボールを蹴りこみ、鈴木と両SHのうちいずれかを走らせてのロングカウンターを徹底する。
図のように、札幌が左から攻めた場合は、札幌の右が空いているので、ファーで跳ね返して山崎を走らせるという形になるが、山崎、ホニと両ワイドにスピードのある選手を配しているので、どちらのサイドでもスペースが空いていれば、ロングカウンターの脅威を札幌に与えることができる。
立ち上がりから、撤退してのブロック構築→素早いロングカウンターといった戦略を徹底していた新潟に対し、札幌はよりアグレッシブな守備を仕掛けていた。
新潟がボールを回収すると、札幌もまず自陣に撤退してのブロック構築からスタートすること自体は新潟の守備と変わらないが、この札幌の5-3-2守備ブロックは、考え方として、①相手CBに対して2トップを同数で当てる、②相手SBに対してインサイドハーフを当てる、③相手SHに対して5バック化しているWBを当てる、という狙いがある。
要するに新潟がCB→SB→SHとボールを動かしたところで1枚ずつ当たって1on1を作り、ボールホルダーを困らせ、長いボールを蹴らせるなどしてボール回収を狙ったもの。新潟の守備と比べると、新潟は最終ラインで跳ね返すような守備に終始していたのに対し、札幌はより高い位置でボールを奪うという狙いが見てとれる。
しかし札幌の積極的な守備はあまりハマっていなかった。シンプルに言えば、札幌は新潟の最終ラインをハメるという考え方は持っていたが、新潟のボランチ2枚がどう動き、同ボールを動かすかを殆ど考慮できていないかのような守備を繰り出していた。
下の図は新潟がボランチ1枚を下ろさず、札幌の2トップとCBが2on2の関係が成立しているところ。前に出せないCBがSB(堀米)に出すと、堀米には荒野がチェックに行くが、ここでボランチの小泉が堀米に寄って行ってボールの逃がしどころを作る。この小泉を捕まえられない限り、札幌は新潟のボール循環を止めることができず、反対サイドにボールを逃がされてしまう。
そして新潟はDAZN中継で呂比須監督のコメントとして「ホニはサイドのほうがいいと思った」という話だったり、縦に仕掛けろとの指示があったりとの情報から、手薄なサイドに素早く展開し、ホニ又は山崎の1on1でシンプルに仕掛けるというイメージを持っていたようである。
前半途中から新潟がボランチを1枚落とし、最終ラインを3枚で組み立てると、札幌の守備は更に混迷していく。1列目を2トップの2枚のままでは、オープンになったCBから運ばれ、またアンカーを捕まえるために荒野を上げれば、荒野が見るべき堀米がフリーになる。
下の写真のような新潟のビルドアップに対抗するには、①人数をかけて高い位置からハメる、②2トップを撤退させる、という2つの選択肢があったと思う。前者ならば、2トップが縦関係になって1枚がアンカーを切りながら、SBに出たところで兵藤や荒野が寄せる。後者ならば2トップは最終ラインの3枚を放置でよい(SBに出たところで兵藤や荒野が寄せるのは同じ)。いずれにせよ、中央のアンカーの選手を切るのは必須だったと思うが、新潟にビルドアップの枚数を増やされると、札幌の守備は勢いだけで、全然準備ができていないことが露見されていたと思う。
25分、新潟はプレーと関係がないところで山崎が痛み、交代を余儀なくされる。変わって投入されたのは左利きのサイドアタッカーの森。右に入りホニが左に回る。
この交代について、印象としてはそこまでゲームプランを変えたものではないな、と思った。というのは、サブメンバーの中で成岡と並び、森は最も攻撃的な駒であり、より守備的にするのであれば中盤底の本間だったり、加藤や酒井といった選択肢もあったためである。
札幌は前半終了間際、オーバーラップしたキム ミンテがロメロ フランクの危険なタックルを受けて負傷、プレー続行不可能となり、前半アディショナルタイムに菊地と交代。
菊地は開幕戦以上のリーグ戦出場で、試合勘がまだ戻っていないことも心配だが、最終ラインで最もスピードのあるミンテを失った状態で、新潟の速攻を止められるか(しかも対面はホニ)という嫌な予感がしたまま試合は後半に突入する。
前半の項を「ミンテを失って嫌な予感がした」と〆たが、後半立ち上がりは代わって投入された菊地が積極的にボールに関与し、ゲームを組み立てる。横山と菊地は、公式戦では殆ど一緒にプレーしていないが、見たところ横山は菊地を非常に信頼していて、ミンテが出ている時以上にボールを預ける様子がみられた。
札幌左サイドでの展開で、新潟が森を下げて5バック気味に守り、またホニをあまり守備に関与させないとなると、中盤は実質ボランチ2枚で守っているようなもの。となれば「出し手」として札幌で一二を争う菊地がいる状態で、兵藤や荒野がこの位置にポジショニングすれば容易に受けられる。
下の図で示した51:15頃の展開は、①新潟が左を警戒したところで右に展開する、②間で受けようとする兵藤に菊地が縦パス、③荒野を経由してオープンな早坂へ、という具合に、ピッチをワイドに使った展開だった。特に守備免除気味のホニの周囲は、誰がカバーするわけでもなく狙い目だったと思う。
しかし札幌の前後半共通の課題は、ウイングバックまでボールを運んでからフィニッシュに持っていくまでの崩しの部分。例えば、右の早坂がボールを持った時の新潟の守り方を考えると、早坂には堀米がホニが対応する。先述のように、2トップに対して2CBが張り付いているので、堀米の背後はロメロや小泉がカバーするが、後半途中ともなってくるとスペースを埋めきれず頻繁に空くようになる。
個人的にずっと思っていたのは、スピードを落とさず早坂にボールを展開した状態で、新潟SBの背後に荒野か兵藤を走りこませる(インナーラップ)ことによってサイドをえぐった形をつくることができたと思うが、
札幌の攻撃にそうした仕組みはなかった。サイドに展開した後、どうフィニッシュまでもっていくかの共通理解がないと、サイドの選手のところで攻撃がスローダウンし、守備の枚数が揃ってしまう。そしてスペースがなくなると、スペースを作ろうとしてか、金園や都倉がサイドに流れる(要するに荒野にやらせたい役割)と、ターゲットは中央1枚になり、またプレスバックしてきた新潟のダブルマークを背負った状態である。
では崩しの仕組みや仕掛けがないながら、これまでのリーグ戦でそこそこの得点を挙げることができたのは何だったのかというと、前線で都倉が相手DFに対して作り出す「高さの質的優位」によるところが大きい。
69分、札幌は荒野に変えて小野を投入。失点直後に決断したのか、もともと想定していたのかわからないが、これまで通常ラスト10分、最長でも前節ガンバ戦の15分の出場にとどまっていた小野を非常に早い段階で投入する。
投入直後、小野のポジションはトップ下ではなく中盤3センターの左、兵藤、宮澤と3枚並んだように見えた。もっともこのポジションはあってないようなもので、小野はピッチを広範に動きボールに関与する。
85分くらいまでの時間帯では、札幌の”出し手”…菊地や福森がまだボールを持てる状況であったので、小野はどちらかというと”受け手”として関与しようとする動き、ボールホルダーに選択肢を提供するポジショニングを意識したプレーが多かったように思える。
ただ小野がどれだけ周りに気を使った動きをしても、周囲との調和、即興の連続には限りがある。例えば下の写真の局面では、小野は早坂にボールが渡るとサイドのスペースに流れていくことで新潟の中央のMFが引っ張られてスペースができるが、このスペースができることの共通理解もなく、ボールホルダーの早坂も次のプレーをイメージできていない。結果早坂には選択肢がない状態…バックパスをするか、都倉に放り込むかしかない状態で、相手のDFも中央に揃っている状態で放り込んだとしても勝ち目は薄い。
80分、札幌の3枚目の交代は菅⇒ジュリーニョ。菅はかなり消耗が激しい様子だったが、金園を残したということで高さ勝負という考えもあったのか。マセードかジュリーニョか、という二択でより得点力のある選手、という考えもあったかもしれないが、籠城する新潟の守備を崩せず0-1で試合終了。
厳しい現実を思い知らされた2週間であった。新潟はそこまで堅くないのだが、一言でいうと、攻撃に時間がかかってしまうので守備の枚数が揃ってしまう。何故攻撃に時間がかかるかというと、パターン化されていない(再現性がなく、その場でプレーを考えている)ため。ただ、小野や菅の重用をみると、この点はそもそも諦めているのかもしれない。だとしても、明らかにカウンター狙いのチームに対してリスク管理が不十分なまま先制点を献上、試合を難しくしたところで個人技頼みのギャンブルサッカー、では雑な試合運びだと言わざるを得ない。
ちょうど2016シーズンで言えばヘイスがトップ下で起用されるようになったくらいの時期かもしれない。何かを変えるとしたらこのタイミング、という印象もある。
※私事ですが、メンタルがきつい出来事があったので更新が遅くなりました。何度もアクセスしていただいた方には申し訳ございませんでした。
1.2 籠城作戦のキーマン
1)新潟の懸念事項
序盤は無理をせず福森から、サイドの菅へと外→外でボールを運ぶ札幌。サイドの高い位置に張る菅に渡ると、流石にこの位置で自由にさせるわけにはいかないということで、新潟は右SBの川口が出てくる。
この時、川口がサイドに出ると、川口の背後、川口-富澤の間にスペースができる。これは4バックで守るチームにとってどうしても構造的にウィークポイントとなりやすい部分で、何らかケアする策がなければ、下の図のように2列目の選手(図では兵藤)のフリーランニングを組み合わせることでペナルティエリア内への侵入を許してしまう。
CBが動かなければ簡単にCB-SB間が空く |
ではどうするのかというと、一般には①DFラインがボールサイドにスライドする、②中盤の選手が下がる、といった考え方になるが、新潟は上記①(DFラインのスライド)で対応することは難しい。なぜならば最終ラインの選手の身長をみると、富澤181cm、ソン ジュフン190cm、このCB2人はいいとして左SBの堀米は公称168㎝。
@tokurasaurus 168㎝や!!…いや、167㎝です。正確に言うと166.6です。— 堀米悠斗 (@gomesssuuu) 2015年7月6日
CBの富澤をスライドさせてスペースを埋めれば、都倉・金園に対してソン ジュフン、堀米が対応しなくてはならず、堀米のところで深刻なミスマッチが発生する。
そのため、新潟は都倉と金園がゴール前で待つ限り、両CBを絶対にゴール前から動かせない。5バックで、高さのあるCBを3人起用している札幌が、福森やミンテをゴール前から動かして守ることができること(=1人が動いても2人残っている)と比較すると、このことの難しさを何となくわかっていただけると思う。
2トップに対抗するためCBを動かせられない |
2)籠城作戦のキーマン
というわけで新潟は、川口-富澤の間にできるスペースを中盤の選手が埋めるしかないので、札幌がサイドにボールを展開するたびに、小泉、ロメロ フランクがスペースを埋めるため奔走する。
特に、札幌が左(新潟の右)から攻めてくる関係上、右ボランチの小泉によるプレスバックが頻繁にみられるようになる。そして小泉が下がるということは、小泉が元いたポジション…中盤底右寄りの位置は空くことになる。この位置は空けたまま放置している場合と、チアゴ ガリャルドが恐らく自己判断で戻ってスペースを埋めている場合があった。
スペースのカバーは小泉に託されている |
3)跳ね返したら一気に前へ
上記のように、攻め込まれてチアゴが下がると、新潟の最前線には鈴木武蔵だけが残ることとなる。DFを背負ったプレーが得意でもない鈴木が収めどころになれるかというと、難しいだろうとの印象だが、この解決策として、新潟は奪った後、とにかく前線の空いているスペースにボールを蹴りこみ、鈴木と両SHのうちいずれかを走らせてのロングカウンターを徹底する。
図のように、札幌が左から攻めた場合は、札幌の右が空いているので、ファーで跳ね返して山崎を走らせるという形になるが、山崎、ホニと両ワイドにスピードのある選手を配しているので、どちらのサイドでもスペースが空いていれば、ロングカウンターの脅威を札幌に与えることができる。
罠を張ってカウンター1発 |
1.3 新潟がボールを持っている時
1)より高い位置で奪いたい札幌
立ち上がりから、撤退してのブロック構築→素早いロングカウンターといった戦略を徹底していた新潟に対し、札幌はよりアグレッシブな守備を仕掛けていた。
新潟がボールを回収すると、札幌もまず自陣に撤退してのブロック構築からスタートすること自体は新潟の守備と変わらないが、この札幌の5-3-2守備ブロックは、考え方として、①相手CBに対して2トップを同数で当てる、②相手SBに対してインサイドハーフを当てる、③相手SHに対して5バック化しているWBを当てる、という狙いがある。
要するに新潟がCB→SB→SHとボールを動かしたところで1枚ずつ当たって1on1を作り、ボールホルダーを困らせ、長いボールを蹴らせるなどしてボール回収を狙ったもの。新潟の守備と比べると、新潟は最終ラインで跳ね返すような守備に終始していたのに対し、札幌はより高い位置でボールを奪うという狙いが見てとれる。
想定していたマッチアップ |
2)ハマらない守備は体力の浪費
しかし札幌の積極的な守備はあまりハマっていなかった。シンプルに言えば、札幌は新潟の最終ラインをハメるという考え方は持っていたが、新潟のボランチ2枚がどう動き、同ボールを動かすかを殆ど考慮できていないかのような守備を繰り出していた。
下の図は新潟がボランチ1枚を下ろさず、札幌の2トップとCBが2on2の関係が成立しているところ。前に出せないCBがSB(堀米)に出すと、堀米には荒野がチェックに行くが、ここでボランチの小泉が堀米に寄って行ってボールの逃がしどころを作る。この小泉を捕まえられない限り、札幌は新潟のボール循環を止めることができず、反対サイドにボールを逃がされてしまう。
そして新潟はDAZN中継で呂比須監督のコメントとして「ホニはサイドのほうがいいと思った」という話だったり、縦に仕掛けろとの指示があったりとの情報から、手薄なサイドに素早く展開し、ホニ又は山崎の1on1でシンプルに仕掛けるというイメージを持っていたようである。
ボランチがフリーなので逃がされる |
前半途中から新潟がボランチを1枚落とし、最終ラインを3枚で組み立てると、札幌の守備は更に混迷していく。1列目を2トップの2枚のままでは、オープンになったCBから運ばれ、またアンカーを捕まえるために荒野を上げれば、荒野が見るべき堀米がフリーになる。
下の写真のような新潟のビルドアップに対抗するには、①人数をかけて高い位置からハメる、②2トップを撤退させる、という2つの選択肢があったと思う。前者ならば、2トップが縦関係になって1枚がアンカーを切りながら、SBに出たところで兵藤や荒野が寄せる。後者ならば2トップは最終ラインの3枚を放置でよい(SBに出たところで兵藤や荒野が寄せるのは同じ)。いずれにせよ、中央のアンカーの選手を切るのは必須だったと思うが、新潟にビルドアップの枚数を増やされると、札幌の守備は勢いだけで、全然準備ができていないことが露見されていたと思う。
三角形が複数作られているので、限定させられていないと簡単に回避される |
1.4 追い風と逆風
1)新潟への追い風
25分、新潟はプレーと関係がないところで山崎が痛み、交代を余儀なくされる。変わって投入されたのは左利きのサイドアタッカーの森。右に入りホニが左に回る。
この交代について、印象としてはそこまでゲームプランを変えたものではないな、と思った。というのは、サブメンバーの中で成岡と並び、森は最も攻撃的な駒であり、より守備的にするのであれば中盤底の本間だったり、加藤や酒井といった選択肢もあったためである。
30分以降も札幌は依然として左サイドから攻める。若くフレッシュな森は、時に最終ラインに吸収されてまでの守備貢献を厭わない。ホニも特段サボっている印象はなかったが、森の守備貢献…ボールホルダーを潰す、プレスバックしてペースを埋める…という一通りのアクションは攻撃以上に効いていた。
下の写真のように、札幌はウイングバックが幅をとることで新潟のブロックを拡げようとする。森が投入されるまでは、川口が菅に対応していたので、川口が出て空いたスペースに小泉がプレスバック、すると小泉がいたポジションが空く(たまにチアゴが埋める)…という具合にスペース管理が難しくなっていたが、森が菅に対応すれば、川口が動く必要はないので、最終ラインにスペースができず、小泉も本来の中盤を守れる。
そしてホニが左サイド…要するに福森の反対側に回ると、守備負担が軽減され、前に出ていく余力を残すことができる。
森がサイドを保護することで川口や小泉は持ち場を守れる |
2)ミンテを失った札幌
札幌は前半終了間際、オーバーラップしたキム ミンテがロメロ フランクの危険なタックルを受けて負傷、プレー続行不可能となり、前半アディショナルタイムに菊地と交代。
菊地は開幕戦以上のリーグ戦出場で、試合勘がまだ戻っていないことも心配だが、最終ラインで最もスピードのあるミンテを失った状態で、新潟の速攻を止められるか(しかも対面はホニ)という嫌な予感がしたまま試合は後半に突入する。
2.後半
2.1 20分間の攻防
1)2枚目のポイントガード
前半の項を「ミンテを失って嫌な予感がした」と〆たが、後半立ち上がりは代わって投入された菊地が積極的にボールに関与し、ゲームを組み立てる。横山と菊地は、公式戦では殆ど一緒にプレーしていないが、見たところ横山は菊地を非常に信頼していて、ミンテが出ている時以上にボールを預ける様子がみられた。
札幌左サイドでの展開で、新潟が森を下げて5バック気味に守り、またホニをあまり守備に関与させないとなると、中盤は実質ボランチ2枚で守っているようなもの。となれば「出し手」として札幌で一二を争う菊地がいる状態で、兵藤や荒野がこの位置にポジショニングすれば容易に受けられる。
下の図で示した51:15頃の展開は、①新潟が左を警戒したところで右に展開する、②間で受けようとする兵藤に菊地が縦パス、③荒野を経由してオープンな早坂へ、という具合に、ピッチをワイドに使った展開だった。特に守備免除気味のホニの周囲は、誰がカバーするわけでもなく狙い目だったと思う。
右からも形を作れる |
2)足りない崩しの仕組みと共通理解
しかし札幌の前後半共通の課題は、ウイングバックまでボールを運んでからフィニッシュに持っていくまでの崩しの部分。例えば、右の早坂がボールを持った時の新潟の守り方を考えると、早坂には堀米がホニが対応する。先述のように、2トップに対して2CBが張り付いているので、堀米の背後はロメロや小泉がカバーするが、後半途中ともなってくるとスペースを埋めきれず頻繁に空くようになる。
個人的にずっと思っていたのは、スピードを落とさず早坂にボールを展開した状態で、新潟SBの背後に荒野か兵藤を走りこませる(インナーラップ)ことによってサイドをえぐった形をつくることができたと思うが、
SBの裏をスピードを落とさずに突きたい |
札幌の攻撃にそうした仕組みはなかった。サイドに展開した後、どうフィニッシュまでもっていくかの共通理解がないと、サイドの選手のところで攻撃がスローダウンし、守備の枚数が揃ってしまう。そしてスペースがなくなると、スペースを作ろうとしてか、金園や都倉がサイドに流れる(要するに荒野にやらせたい役割)と、ターゲットは中央1枚になり、またプレスバックしてきた新潟のダブルマークを背負った状態である。
減速すると守備が間に合い、走りこむスペースがない |
では崩しの仕組みや仕掛けがないながら、これまでのリーグ戦でそこそこの得点を挙げることができたのは何だったのかというと、前線で都倉が相手DFに対して作り出す「高さの質的優位」によるところが大きい。
サイドに展開してのクロス→頭という非常にシンプルで、相手も読みやすい攻撃が得点パターンとして成り立っているのは、端的に言えば都倉の”個”によるもので、言い換えれば、都倉を封じられるDFに直面すると途端に威力を失う。新潟のCBコンビ、富澤とソンは都倉を圧倒していた、とは言わなくとも、特にベテランの富澤は簡単に都倉を飛ばせないようにするなどうまく対応していた。試合後、Twitter等でのサポーターの反応を見ると、「何故都倉への放り込みを徹底しなかったのか」という意見が多く見られたが、個人的には崩していない状態でどれだけ放り込みをしても、効果はさして変わらなかったとのではないかと思う。17 - @tokurasaurus はヘディングで今季リーグ最多の17本のシュートを放っている。J1の6チームが同選手よりヘディングシュートを記録していない。モンスター。 pic.twitter.com/n7bJKD8EUI— OptaJiro (@OptaJiro) 2017年5月6日
3)金園の怠慢?
65分、札幌の右CKを跳ね返した新潟は、富澤がボールを拾うとドリブルで中央を運ぶ。金園が並走するが、センターサークル付近から左のホニへスルーパスが通る。この時まで力を溜めていた?ホニがスピードで兵藤を振り切り、確度のないところからク ソンユンの股を抜くシュートで新潟が先制。見ていた印象としては、金園がファウル覚悟で止めることはできなかったのかというところだった。
2.2 困った時の天才頼み
69分、札幌は荒野に変えて小野を投入。失点直後に決断したのか、もともと想定していたのかわからないが、これまで通常ラスト10分、最長でも前節ガンバ戦の15分の出場にとどまっていた小野を非常に早い段階で投入する。
投入直後、小野のポジションはトップ下ではなく中盤3センターの左、兵藤、宮澤と3枚並んだように見えた。もっともこのポジションはあってないようなもので、小野はピッチを広範に動きボールに関与する。
85分くらいまでの時間帯では、札幌の”出し手”…菊地や福森がまだボールを持てる状況であったので、小野はどちらかというと”受け手”として関与しようとする動き、ボールホルダーに選択肢を提供するポジショニングを意識したプレーが多かったように思える。
ただ小野がどれだけ周りに気を使った動きをしても、周囲との調和、即興の連続には限りがある。例えば下の写真の局面では、小野は早坂にボールが渡るとサイドのスペースに流れていくことで新潟の中央のMFが引っ張られてスペースができるが、このスペースができることの共通理解もなく、ボールホルダーの早坂も次のプレーをイメージできていない。結果早坂には選択肢がない状態…バックパスをするか、都倉に放り込むかしかない状態で、相手のDFも中央に揃っている状態で放り込んだとしても勝ち目は薄い。
即興の動きの連続では早坂への選択肢がない |
80分、札幌の3枚目の交代は菅⇒ジュリーニョ。菅はかなり消耗が激しい様子だったが、金園を残したということで高さ勝負という考えもあったのか。マセードかジュリーニョか、という二択でより得点力のある選手、という考えもあったかもしれないが、籠城する新潟の守備を崩せず0-1で試合終了。
80分~ |
3.雑感
厳しい現実を思い知らされた2週間であった。新潟はそこまで堅くないのだが、一言でいうと、攻撃に時間がかかってしまうので守備の枚数が揃ってしまう。何故攻撃に時間がかかるかというと、パターン化されていない(再現性がなく、その場でプレーを考えている)ため。ただ、小野や菅の重用をみると、この点はそもそも諦めているのかもしれない。だとしても、明らかにカウンター狙いのチームに対してリスク管理が不十分なまま先制点を献上、試合を難しくしたところで個人技頼みのギャンブルサッカー、では雑な試合運びだと言わざるを得ない。
ちょうど2016シーズンで言えばヘイスがトップ下で起用されるようになったくらいの時期かもしれない。何かを変えるとしたらこのタイミング、という印象もある。
※私事ですが、メンタルがきつい出来事があったので更新が遅くなりました。何度もアクセスしていただいた方には申し訳ございませんでした。
更新お疲れ様です、初めてコメントさせて頂きます
返信削除今年からこのblogを拝見させて頂き、「こんなサッカーの見方があるのか」と感嘆しています
せっかくなので質問を一つ、雑感の項にて攻撃パターンの再現性についての言及がありましたが、なぜ菅選手の起用が再現性を諦めているということなのでしょうか?若さゆえの戦術理解の低いプレー?、それとも身長の問題?
サッカー未経験者の浅い疑問点ですがお時間あれば教えていただきたいです
>Unknownさん
削除コメント&閲覧ありがとうございます。
わかりにくい記述ですみません。菅の起用=再現性のあるプレー構築を諦めている、のではなく、再現性のあるプレー構築が難しいため小野や菅といった一芸を持っている選手をピッチに立たせたい、と推測しています。選手個々のコンディション等わからないですが、攻守トータルで見るとまだまだ菅よりも石井だと思います。
返信ありがとうございます、なるほどです、そもそもの戦術として再現性の構築<個の創造性、ストロングポイントの強化を重視しているということでしょうか?
削除是非とも久々のj1の舞台で戦うコンサドーレ、願わくは残留を願っています
また質問させて頂きたいと思っていますのでその折は宜しくお願いします
|´・ω・)ノこんばんは~ にゃんむるですよ。
返信削除無理して更新急ぐ事もないぞい。メンタルがきつい時はゆっくり休んで英気を養うのが吉ですわ。
ワシも今年は仕事であまり生観戦できてなくて気持ち盛り上がらないことが多いので、そういう時こそマッタリ構えて別角度から何か見えないかなーとか考えたりしてるから、人によって違いはあるだろうけど、上手くいかない時なんかは一歩引いてみるといいのかなーと、今のコンサの選手達に言いたい事も交えてコメントしてみたw
ああ、次に観戦できるの天皇杯かよ・・・。遠いわー(´・ω・`)ショボーン
マッタリでいいですよ。次回もマッタリと期待してますー。勝ち試合の検証だといいんだけどなー。んでわー(・∀・)ノ
>にゃんむるさん
削除励ましありがとうございます。なかなかお忙しそうですね。私は今のところリーグ戦は何らか見れているのですが、ルヴァンカップの開催日はなぜか縁がありません。
新潟戦はちょっと緩い雰囲気があったかもしれません。まぁアウェイだけど勝ち点とれるだろう、のような。個人的には、監督の采配もちょっとイージーすぎたように感じました。
J1での景色がようやく見えて、さて新たなステップを…という時に露骨に籠城戦に持ち込んだ新潟。浦和戦の失点シーンではSBとCBの間を衝けばかなり行けるんじゃないかと思ったんですが、新潟も(急場凌ぎの感があるとはいえ)対応策を練ってきていましたね。
返信削除コンアシでは早坂や宮澤がミドルを撃つ場面もありましたが基本は都倉のヘッドにってことだったのでバカ正直に攻めすぎたというのはあったかな、と。大手門だけじゃなく搦め手からという発想があまりなかったように見受けられます。コンサにはボールプレイヤーが多いという指摘と関わる部分があるのかも知れませんね。内村が戻って多少なりとも改善されればいいのですが…。
金園に関してはミンテが負傷交代で想定外のカードを1枚使ってしまったためにあるいは金園に「10人になったら試合が壊れる…」とよぎったのかも。でも、それはどちらかというと選手よりも監督が考えるべき範疇なので失点シーンではカード覚悟で行って欲しかったというのはありますね。結果論ですけど、仮にそこで1発レッドになったとしても観る側は受け入れたと思いますし、監督も勝ち点1でもやむなしと考えを改めることもできたでしょうから。
お忙しいことと思いますが健康第一。御身を大切に!
>フラッ太さん
削除新潟は実質7枚ブロックでしかも中盤1枚が最終ラインによく吸収されていたので、確かにミドルシュートも狙い目でしたね。今のメンバーは、そこそこハードワークができて走れる選手が揃っていますがミドルがないのは確かに欠点ですね。結局ラストパスが全てサイドからのクロスなので、そこをどれだけ精度を高められるか…都倉は去年J2で松本戦など、とんでもないゴールも決めてましたけど、基本クロスの精度に左右される選手だと思います。
今週ちょっとメンタルとタスクがきつかったですが復活しました。ありがとうございます。今後もよろしくお願いします。