2017年4月20日木曜日

2017年4月16日(日)13:05 明治安田生命J1リーグ第7節 北海道コンサドーレ札幌vs川崎フロンターレ ~謎めくポジショニング~

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-5-2、GKク ソンユン、DFキム ミンテ、横山知伸、福森晃斗、MF早坂良太、荒野拓馬、宮澤裕樹、兵藤慎剛、田中雄大、FW都倉賢、内村圭宏。サブメンバーはGK杉山哲、DF進藤亮佑、MF前寛之、河合竜二、小野伸二、FW上原慎也、菅大輝。前節試合中に太ももの裏を痛めて交代したジュリーニョがメンバー入りせず(注:この試合後に左ハムストリング肉離れ・全治非公表のアナウンス)、内村がリーグ戦初スタメン。FWはこれで3人が離脱し、上原のFW起用(非・パワープレー)も現実的なオプションと考えざるを得ない。また、一部メディアではマセードのスタメンが伝えられていたが、ベンチにも入っていない。サブのGKは金山に代わって杉山。余談だが昨シーズンから、負傷者情報の公式アナウンスを試合当日に行うようになったのは一種の情報戦(直前まで誰が出てくるのかを隠しておく)なのだろうが、当日急に重傷だと発覚するのはあまり精神衛生上よくない。
 川崎フロンターレのスターティングメンバーは3-4-2-1、GKチョン ソンリョン、DF田坂祐介、谷口彰悟、奈良竜樹、MFハイネル、エドゥアルド ネット、中村憲剛、車屋紳太郎、FW小林悠、長谷川竜也、登里享平。サブメンバーはGK新井章太、DF板倉滉、MF三好康児、森谷賢太郎、阿部浩之、FW大塚翔平、森本貴幸。公式のスタメン発表では4-4-2となっていたが、実際は守備時に5バックになる3-4-2-1。
 エドゥアルドはオフに右肩関節反復性脱臼の手術をしたため離脱中。家長は3月に右足第一末節骨の骨挫傷および不顕性骨折(全治1ヶ月)、舞行龍ジェームズは右膝外側半月板損傷(全治5ヶ月)、大島は4月に右ヒラメ筋肉離れ(全治5週間)でこちらも札幌同様に主力級を数人欠いている。
 ミッドウィークにルヴァンカップ、AFCチャンピオンズリーグを開催したため日曜開催のリーグ戦。札幌はルヴァンカップ、アウェイでの清水エスパルス戦に控え組主体+ソンユン、ミンテ、宮澤といったメンバーで進藤のゴールで勝利。個人的には、小野が入った前線の並びに注目していたが、昨シーズン同様の3-4-1-2だった。川崎はホームでのAFCチャンピオンズリーグ、広州恒大戦を戦い0-0。ほぼフルメンバーで、後半から中村憲剛、登里を投入している。



1.前半

1.1 川崎のいくつかの謎と札幌の対応


 特に前半、川崎の選手配置にはいくつか謎があった。具体的には、①奈良と谷口はなぜ奈良が左、谷口が右になるよう配していたのか、②そもそも前半は4バックの4-4-2だったのか、という点である。
 これについては、答えが川崎の番記者・いしかわごう氏のnote(有料)に書かれているようだが、そこで得た話をここに書くわけにはいかないので、ここでは私見をもとに書いていく(後で200円払って、コッソリ答え合わせをしようと思う)こととしたい。

1)革命の香り


 序盤は川崎がボールを持つ時間帯が多かった。前半、川崎がボールを持っている時の形は下の図のようなものであった。ボールを持っている時の川崎の形で、明確なのは中村とエドゥアルド ネットの2ボランチ。最終ラインは4バックとも3バックとも取れる形をしているが、前線に3人の選手(小林、長谷川、登里)を配し、アウトサイドに登里とハイネルが配されているのを見ると、3-4-2-1(守備時5-2-3)に近い形だった。
 風間八宏氏が退任した川崎だが、見たところ、やりたいことはそう大きくは変わっていない。後方で数的優位を確保し、CBがボールを動かす際に困らない(フリーの選手を必ず作る)状況を作りボールを前進させると、崩しの局面では中央のエリアを攻略しにかかる。
 対する札幌は、これまでの試合と比べると引き気味に構え、川崎の最終ラインにはある程度ボールを持たせる戦い方を選択する。札幌があまり強烈なプレッシャーを与えてこないので、川崎はスタメン発表通りのCB2枚(谷口+奈良)に加えて、中村かエドゥアルド ネットを最終ラインに加えた3枚を確保すれば、容易にボールを動かせる。
攻撃時は3-4-2-1

2)左の奈良


 ここで一つ目の謎。川崎はなぜ中央に谷口、左に奈良という配置で臨んだかについて。攻撃か守備かで考えれば、素直に考えれば守備に理由がある。恐らく札幌の2トップの並びを、都倉が(札幌から見て)右、内村が左だと考え、奈良を都倉に当てようとしたのだと思うが、結果的にはこの策は川崎に十分なリターンをもたらしたかというと微妙なところ。都倉は前半10分過ぎころに二度ほど奈良と競り合う局面があったが、それ以外は大半の時間を札幌から見て中央~左サイドでプレーしていた。

 都倉がここまでの試合で主に右でプレーしていた理由は、2トップの相方がジュリーニョだったから。元々左サイドの選手との触れ込みで入団してきたジュリーニョは、持った時に基本的に左足でドリブルを仕掛ける。そのため左サイドで起用すれば縦方向、右サイドでは中央に切り込む方向に仕掛けていくことが多い。
 ジュリーニョ本人としては「俺は左も右もいける」と思っているかもしれないが、チームとしては左に置いた方がベター。右に置くと、高い位置で受けられれば、中央に切り込んで突破できればシュートチャンスにも繋がるが、右のジュリーニョがそれをやってくることはバレバレで、それならば左サイドで持たせたほうがボールロストになりにくい。
 そのような考えもあって、これまでジュリーニョを先発で起用してきた試合は、札幌はそこを起点にボールを運び、都倉は中央右寄りで待たせ、クロスに相手SBと競らせる形を作っていたのだと思う。

3)運ぶ奈良とバイタルを消す札幌


 ただ試合序盤は、左サイドに配されて窮屈なはずの奈良が、結構ボールを前に運んでくるな、という印象で試合が進む。この記事を書いている段階では、川崎の左がストロングポイントなのか、それとも札幌の右が弱いと見たのか断言できないが、一つ考えられるのは、川崎は得点源である小林と新外国人のハイネルを右サイドに配して、左で崩して右で仕留めるというパターンは考えられていたと思う。

 最初川崎が狙っていたのは、奈良や車屋からバイタルエリアで間受けを狙う登里や長谷川への斜めのパス。前監督時代もこのように狭いところを崩そうとする縦パスやポジショニングが非常によく見られたが、ピッチの中央を狭めて守るのは現代サッカーの常識であり、特に5バック+3ボランチと中央に最も人を割ける布陣で戦う札幌のようなチームを相手にするならば、中央に縦パスを入れる前にまずブロックを拡げなくてはならない。
 あまり川崎のサッカーを頻繁に見ているわけではないが、どうしてもピッチの横幅を使う前にまず中央、という展開が目立つように見受けられる。守る側としては、中央に人を密集させれば安易に囲い込めるので、よほど一級のテクニシャンでも相手にしない限りはこの形で縦パスを入れられることは怖くない。
中央は封鎖しているので安易な縦パスでは割られない


4)方針転換(早坂の背後)


 10分頃から川崎は徐々に方針を転換しだしたというか、中央突破一辺倒ではない戦い方にシフトする。やはりここも何度か奈良が起点になっていたのだが、奈良からのパスで川崎が狙っていたのは、下の図のように早坂を釣り出した背後のスペース。
 サイドが1on1関係になっているので、車屋が引いたポジションを取ることで早坂を釣り出すことは容易。早坂が車屋をケアするためにポジションを上げると、背後に登里や長谷川が走りこんでサイドからの切り崩しを狙う。ただ札幌も、早坂がポジションを上げれば背後が空くことはわかっていて、また前線は5バックの札幌と5トップ気味の札幌で人数がかみ合っているので、早坂の背後を突く登里や長谷川が空くことは少なかった。
早坂を釣り出した背後を突く

1.2 札幌のスライドが間に合う理由

1)札幌のサイド封鎖と攻撃のやり直し


 川崎の攻撃における「横幅問題」についてもう一つ別の見地から述べると、右サイドで横幅を作り切れないので、左で行き詰った時にサイドを変えて攻撃をやり直す機能が不十分、ということが指摘できる。
 この試合、川崎が札幌の右、早坂を釣り出して左サイドから仕掛けた時、札幌は早坂を切り離して4バック化し、右CBのキム ミンテを筆頭にボールサイドにスライドすることで、サイドに穴を作らずに守る。ミンテは日に日に”CBっぽいプレー”ができるようになってきていて、DAZNの週刊ベストイレブン選出も納得の出来だったと思う。



 ただこの時、川崎は片方のサイドでボールを運ぶことができれば、崩しきれなかったとしても札幌の守備ブロックはボールサイドに寄っているので、反対サイドにはスペースができる。ここで一度ボールを戻し(攻撃をやり直し)、ピッチを横切るようなサイドチェンジのパスを素早く通せれば、手薄になっているサイドを突くことや、一発で仕留めなくとも守備側に再びスライドを強いる(=走らせる)こと消耗させることができる。
左サイドで詰まれば、攻撃をやり直して右に展開したい

2)横幅要員がいない(または中に入ってくる)川崎


 川崎のシステムを3-4-2-1、ハイネルがウイングバック、田坂が右CBと解釈すると、通常はハイネルが右サイドで待ち構え、サイドチェンジのパスを受けるポジションを取りたいところ。または田坂は、ボランチが落ちれば4バックのSBに近い役割とも考えられるが、基本的に川崎の攻撃時に高いポジションをとることが許容されているようで、ビルドアップにもあまり関与せず高い位置に進出していたことから、局面によっては田坂がサイドに開くというやり方もあったかもしれない。
 しかし田坂は左サイドから仕掛けている際、最終ラインのケアをしており、これ自体は一般的な右CBの仕事と考えると当然のことだが、ハイネルは左で展開されると、下の図のように斜めのランニングで中央に入っていく。こうなると、川崎の右サイドには誰も選手がいなくなるので、下の図のように奈良からサイドチェンジ(攻撃のやり直し)をしたくても、その機能がない状態になってしまう。
右サイドに誰もいなくなる

3)攻撃のやり直しに時間がかかるのでスライドが間に合う


 下の写真、29:09は札幌の右・川崎の左サイドでの攻防を札幌が食い止めたところ。攻撃が詰まったので、川崎は中村→奈良→田坂という経路でサイドを変える。しかし黄色い円で示したように、反対サイドには誰もいない。ハイネルはピッチ中央まで入っている。
U字パスでサイドを変えようとするが誰もいない

 結局この時はハイネルが再び外に開いてボールを受けることで、川崎は右サイドから攻撃をやり直していくのだが、ハイネルにサイドでボールが入ったのは下の写真、29:19の局面。実に10秒を擁していて、この間に札幌の5バックのスライドが完全に間に合ってしまう。
ハイネルに渡るも、札幌のスライドが間に合っている

1.3 川崎の数的同数守備と札幌の回避

1)3バック+アンカーに人を配する川崎


 ボールを持った時に最終ラインで数的優位を作ろうとする(=数的同数を避ける)川崎は、逆に守備時には札幌に対して数的同数の局面を作ることで、ビルドアップを阻害しようとする。3バックで実質3-4-2-1になる布陣の採用理由もこのためで、札幌の3バックに対して小林、長谷川、登里の三枚を高い位置から当ててくると共に、前節アンカーの位置で大車輪の働きをした宮澤に対してもネット又は中村が必ずケアしている。
札幌の3バック+アンカーに同数を当ててくる

 前節はFC東京の2トップに対して4on2の関係を作ることでファーストディフェンス(と呼べない代物だったけど…)の突破に成功した札幌。今回は宮澤にもマークがついていて、簡単に前を向かせてもらえない。
 そのため突破口としたのはアンカーの宮澤ではなく、両ウイングバックの早坂と田中、特に右のミンテ⇒早坂のラインがよく使われていた。

2)両翼からボールを持ち出す札幌


 いずれも3バックを採用しているので、札幌と川崎の両ウイングバックは対面の選手と常にマッチアップする関係になっている。川崎の攻撃時、車屋が引いた位置を取ることで早坂の背後にスペースを作ろうとしたように、早坂が引いた位置でボールを受けると、車屋も前に出て対応する。すると下の図で示したように、車屋の背後にはスペースができるので、札幌はここをポゼッションの終着点(ひとまずの目的地)に設定する。
 ミンテ⇒早坂と渡ると、車屋が早坂に寄せてくるが、早坂には中央から寄ってきた宮澤がサポートする。宮澤が中央からサイドへ大胆に移動すると、中村(又はネット)はついてくるものの、宮澤から前方のスペースへのパスを阻害することはできない。
初めに中央(アンカー)は使わずサイドから

 スペースに走りこむ役割は主に内村で、主に奈良とのマッチアップになる。内村を孤立無援にさせてしまうとここで攻撃が終了してしまうので、サポートには荒野や早坂が向かう。これは言い換えれば、サイドに3人を集めるられることがこの形でのビルドアップの強みでもあり、川崎の守備が揃いきる前に一気にクロス、都倉が飛び込む形に持っていく局面も前半だけで何度かあった。
 また、41分過ぎのように、早坂が引いたスペースにそのまま宮澤が走りこむなど、最初に早坂が引くという点は固定しつつ、人と動きを変えつつ繰り返されていたプレーでもあった。恐らく5-2-3のチームが前3枚で守備をしてきたときの崩し方として、入念にトレーニングされていたのだと思う。

1.4 荒野の前進と露になるスペース

1)荒野の前進


 20分ころから札幌の守備に変化がみられる。後方を3枚でボールを動かす川崎と人数を合わせるように、インサイドハーフの荒野または兵藤がポジションを上げて、ここで3on3の数的同数を確保する。下の図では荒野がポジションを上げた状態を示したが、これはやはり川崎が最終ライン左にいる選手(主に奈良)のボールタッチが多く、対面の荒野がポジションを上げる局面が目立ったため。
3バックに人数を揃えるべく?荒野が前に出る

 このときの札幌の対応をもう少し詳しく見てみると、川崎の最終ラインから左サイド(札幌から見て右)の車屋にパスが出た瞬間が下の写真、20:22。荒野が内村と同じラインまで並んでいて、ここだけを見ると前3枚の5-2-3で守っているようにも見えなくもない。
 しかし中盤の残る2枚、宮澤と兵藤のポジションはそれぞれ中央と左寄り。ここから3秒後、車屋が前を向いてボールを持った局面が次の写真、20:25である。
荒野の背後が空いたまま

 中盤右サイドには荒野がプレスバックしていて、宮澤と兵働のスライドは殆どない。つまり5-3-2から5-2-3にシフトした、とは言えないもので、荒野は川崎の最終ラインへのアプローチと共に、中盤を守る本来の仕事は免除されていない。
 何が言いたいかというと、荒野のプレスバックが甘くなると中盤右サイドはぽっかりと空くことになるということと、左右へのスライドだけでなく上下動も担うことになった荒野の負担が大きい守り方に変化していったということが言える(左の兵藤も同様)。
そのまま荒野がプレスバックして埋める

2)覆いきれない中盤のスペース


 そして荒野がこの2つの役割を両立させることができず、戻り切れないならば、札幌の中盤には下の図のように荒野の背後、宮澤の右側にスペースができる。序盤から左サイド(札幌の右)を継続して突いてくる川崎に対して、この位置にスペースを自ら作ってしまうような荒野の対応は悪手だった。荒野が明けたスペースには、長谷川や登里が降りてボールを受けようとする。札幌はミンテが前に出て迎撃するが、ここで潰しきれなければ再びサイド…早坂の背後のスペースを使われてサイドをえぐられる局面が多くなる。
荒野が戻り切れないと空いたまま

2.後半

2.1 戻れなくなる荒野

1)あるべき場所へ


後半開始から川崎は選手配置を変更している。中村とネット、谷口はそのままにして、奈良が右、田坂とハイネルがそれぞれ一列上がり、登里と車屋は一列下がるという具合に、反時計回りに一周したような変化をしている。第5節の仙台戦と第6節の甲府戦と同じ、右から奈良・谷口・車屋という3バックの並びで、右CBには右利き、左CBには左利きの選手という具合に、あるべき場所に戻したといえる。

 両チームにとって予想外だったのが、後半開始早々の48分に内村が太もも裏に違和感を訴えて交代を余儀なくされたこと。札幌は事実上、ベンチに一人しかいないFWの菅をこのタイミングで投入せざるを得ない。
48分~

2)荒野に感じた違和感


 後半立ち上がりの時間帯で一番のトピックは、前半から散見されていた、荒野の背後のスペースが空く現象が継続的、かつ顕著な者になっていた点。
 川崎がボールを回している際、荒野のポジションは殆ど都倉や菅と同じラインにまで前進している。すると下の図のように、前半から問題になっていた宮澤の右脇、荒野の背後のスペースは空いたままになっているのと、ここをケアしようとミンテが出れば、中央に回った小林に裏を突かれてしまう構造になっている。
 ただ、見ていて例えば都倉は味方がボールに食いつきすぎると、味方の動きを制するようなジェスチャーをしていたのだが、荒野が前に出て戻らない、又は谷口や中村、車屋を二度追いするような、明らかに効果的ではないと思えるような動きに対しても特に気にする素振りはなかった。
簡単に食いつく荒野

 考えうる理由の一つは、カウンターの機会を作るために荒野のポジションを意図的に高い位置に残していたというもの。後半開始15分間で、札幌が自陣でボールを奪い、都倉が川崎最終ラインの裏を突いたプレーが3度ほどあったが、これらのプレーは全て右サイドに都倉が走ることで成立している。
カウンター時に余っている

2.2 明確になっていく左狙い

1)空き続ける札幌の右


 65分頃に一度、川崎が右サイド(奈良)から展開しようとした攻撃があって、この時の札幌の対応(兵藤が奈良に当たっていく)を見ると、やはり札幌の守備は5-3-2。荒野がトップに移った5-2-3にシフトしたということはなかったと思う。
 しかし荒野の妙にボール、人に食いつく対応は変わらず、下の図のように車屋や登里が引いた位置で貰おうとした時でも、優先度は低いはずなのに食いついて中盤を空けてしまう。
中盤にスペースができてくる

 この時間帯、序盤から後方のブロックで耐えて、攻撃は長い距離を走ってカウンター、という展開が続いていた札幌は、少しずつ中盤3選手の距離が開くようになっていく。徐々に左のボランチに配されている中村が前を向いて受け、縦パスをバイタルエリアに入れていく局面が増える。

2)均衡が破れる


 71分に川崎は長谷川→阿部に交代。阿部はそのまま、長谷川のいたシャドーの位置に入る。直後の72分、川崎がPKを獲得。小林がこれを沈め均衡が破れる。
 均衡が破れたのはやはり札幌の右、川崎の左サイドからだった。ゆったりとしたボール回しから、中村がボールを持つと一旦間を作ってから一度、左の車屋を使って宮澤と荒野の中間に中村が侵入。ここで縦の阿部に浮き球の楔を入れると、中村はペナルティエリア角にスプリントし、阿部からのリターンを受ける。福森が察知してカバーに入るも、ファウルを犯したとの判定でPK。やはり荒野がサイドの車屋…優先順位の低い選手に食いついたところから始まっていた。
荒野が食いついたところで宮澤との間に入り込まれる

2.3 終盤の展開

1)まずはボール回収


 まずボールを川崎から取り上げなくてはならない札幌は、失点直後から兵藤を一列上げ、荒野と宮澤のWボランチの3-4-2-1にシフトする。兵藤と荒野のどちらを上げるかは、おそらく疲労度等との兼ね合いもあったのだろうが、結局ここでも荒野は明確に前線の選手との位置づけがされていない。やはり終始高いポジションを取っていたのは、チーム戦術とは異なる動きだったのかもしれない。
 一方、川崎は2点目を狙う姿勢を見せる。札幌は5-2-3又は5-4-1に守備の形を変えているが、高い位置で守備をしても、5-4ブロックで撤退しても、足が止まりかけているので、川崎の二列目、三列目からの飛び出しに対応することが困難になっていく。

 ただ川崎が時間を使わず、シュートまで持ち込んでくることは、防げればボールが回収できるのでその意味では助かっていた面もある。ラスト10分は追加点を狙う川崎、最小限人数で守って攻撃に転じる札幌、というオープンな展開になっていく。

2)ワンチャンスをものにした都倉


 札幌は79分に田中→小野に交代。小野が右のシャドー、菅が左サイドに回る。この小野が入った直後、ラスト10分頃から川崎は時間を使う方針にシフトする。こうなると、前線が疲労困憊の都倉、兵藤に小野という組み合わせでは圧力が足りない。
79分~

 追いつくのは厳しいかと思って見ていたが、81分、札幌陣内深くでの川崎のFKを凌いで攻撃機会を作ると、左に開いた菅の仕掛けから、セカンドボールを拾った荒野の左足クロスに、都倉が中央で驚異的な跳躍からのヘッドで同点に追いつく。試合展開的に、川崎が完全にゲームをクローズさせにかかるかというタイミングであった。
 同点に追いついた札幌は再び兵藤を下げ、3-5-2、小野と都倉の2トップにシフトする。8人で川崎の猛攻を凌ぐと、中盤のスペースを察知する小野にボールを預けて攻撃の時間を作る。互いにペナルティエリア付近まで侵入する局面もあったが、フィニッシュの精度を欠き0-0で試合終了。

3.雑感


 5-3-2で荒野が本来守るべき位置が前半途中からずっと空いていたのは、川崎によってオープンになってしまったというより札幌が自ら空けたように思える。そのことによる明確なリターンが感じられなかった以上、戦術的には後手を踏んだ印象のゲームだった。ポジティブな要素を挙げると、システムの噛み合わせ的にそう相性が良いとは言えない相手にもかかわらず、ビルドアップの失敗は少なかった。宮澤がアンカーである限り、後ろで動かせなくて困ってしまう、という試合はかなり少なくなるのではないか。

4 件のコメント:

  1.  こんにちはー。にゃんむるです。
     ずっと荒野方面の事が書かれていましたが、試合中にそこがすごく気になっていたので興味深く読みましたわ。どこの掲示板読んでも荒野よくやったばかりだったので・・・。
     結果的に引き分けで終われて良かったですが、相手が万全ならば痛手を負っていたような気がしました。ただ、早坂と兵藤が非常に献身的かつ効果的にプレーしてくれるおかげで中盤のスペースが上手く埋められて、相手のチャンスが大きくならないうちに消えると言う事が多いような状態で助かってると感じました。兵藤については以前も書いたかもしれませんが、ある程度はやってくれるだろうとは思っていましたが、早坂に関してはそんなに期待してなかった(申し訳ない・・・)のでクレバーでスタミナ豊富なプレーに驚かされています。宮澤は怪我せず頑張って。(´・ω・`)あなたがこのチームの脊髄ですwww
     そしてミンテなんですが、一瞬、苦労しながら一気に伸びた時の奈良が見えたんですが・・・。もしかするとすごいことになるかも知れん、ああ気のせいですか・・・(^ω^;)
     最後に、個人的に荒野は決して悪くなかったとは思うんですが、今より上に行くならプレーの精度をもう少し上げて欲しいとは常々感じています。まあ、期待してるから評価は厳し目です。頑張って。スペース空けたのは久々に会った奈良さんと1対1の練習したかったんだと思うことにしますw。
     そんな感じ。にゃんむるでした。またのー(・∀・)ノ

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    1. >にゃんむるさん
      ずっと荒野の話になってしまいました。
      実は1回目(リアルタイム)の視聴では、随分早い時間から守備時の中盤の距離感スカスカだな…程度に見ていたのですが、2回目を見ると荒野のポジションがノーマルじゃない、という結論にしか至りませんでした。
      ただその背景というか意図が最後まで分からず記事のリリースのタイミングになってしまったというか、このブログを公開し始めて一番謎が謎のままで終わってしまった試合でした。

      twitter等で5-2-3だったのでは?という意見を複数見ましたが、宮澤と兵働のポジションニング的に考えにくいし、それをやるなら荒野ではなく兵藤を前に出すはずなんですよね(追いつかれてからもそうしていましたし)。
      何よりも、中央突破を狙ってくる川崎に対して、自分から中盤をスカスカにするような策を数十分も続けるような監督ではないと思います。

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  2. 貴ブログを読むと拙ブログのピンボケっぷりに泣けてきます。
    FC東京戦でも見受けられましたが、荒野は人に行きたがる癖があるように思うのですがどう思われますか?
    単に荒野のプレースタイルなのかもしれませんが、このあたりを相手チームに利用されるとまずいかもとは思いましたね。
    風間監督の「背中を取る」策にまんまとひっかかっているというか…。
    運動量は秀でたモノはあるんですが常に全開というかサジ加減がまだ掴めていない感じがします。
    もっとも、これは試合に出て経験を積まないと得られないものだとは思うんですが。

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    1. >フラッ太さん
      自分でもちょっと自信がないままの記事リリースだったのですが、見返す限り、荒野のポジションは謎だったと言えるんじゃないかと思いこのような記事になりました。
      荒野はすごくコメントが難しい選手ですね。「四方田監督は荒野好きだよね」という意見をtwitterで去年見ましたが、攻守ともに対人プレーの強さはあるほうだと感じます。逆にご指摘の通り、スペースを管理するような部分が弱いなら、バルバリッチがウイングバックで使ったことも頷けます。
      個人的には、荒野はラキティッチみたいな「ボールスキルのある労働者」を目指すべきだとずっと思ってたので、インサイドハーフはハマりそうな期待もあります。正直なところ、守備時のスペース管理だったり攻撃時の相手に捕まらないポジショニングだったりは、札幌のユースから上がってきた選手全般の課題なのでは…という思いもあります(結構前から)

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