2017年4月9日日曜日

2017年4月8日(土)19:00 明治安田生命J1リーグ第6節 北海道コンサドーレ札幌vsFC東京 ~クライトンの遺言~

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-5-2、GKク ソンユン、DFキム ミンテ、横山知伸、福森晃斗、MF早坂良太、荒野拓馬、宮澤裕樹、兵藤慎剛、田中雄大、FW都倉賢、ジュリーニョ。サブメンバーはGK金山隼樹、DF進藤亮佑、MF前寛之、河合竜二、小野伸二、FW内村圭宏、菅大輝。深井を失ったアンカーには宮澤、右のインサイドハーフには荒野。ウイングバックは右に札幌デビュー戦となる早坂。左は田中が戻ってきた。兵藤は体調不良で一昨日の練習を休んだとの情報があるがスタメンに名を連ねた。また永坂も7日の練習中に左太もも裏を痛め別メニュー調整をしていたとのことで、CBのサブには進藤。
 FC東京のスターティングメンバーは4-2-3-1、GK林彰洋、DF室屋成、森重真人、丸山祐市、太田宏介、MF橋本拳人、田邉草民、東慶悟、阿部拓馬、中島翔哉、FW大久保嘉人。サブメンバーはGK大久保択生、DF徳永悠平、吉本一謙、MF梶山陽平、FW永井謙佑、前田遼一、ピーター ウタカ。高萩が日本代表招集中の故障で離脱中。また試合と関係ないが、FC東京は練習中の写真撮影禁止措置を打ち出したとのことで話題になっていた。
 札幌にとっては前節・甲府戦から中6日での開催となる。この間、前節に負傷交代した深井は事実上シーズンアウトとなる重傷であったことがリリースされた。6ポイントゲームを落としたこと以上に、将来を嘱望された札幌の宝が遂にJ1の舞台で「発見」される、との期待が叶わなかったことの失望感は大きい。ただ、まだJ1はリーグ戦29試合を残しており、まだまだこれからという状況である。いつまでも嘆いているわけにはいかず、一人一人が自分にできることをやっていくしかない。特に、深井を欠いた中盤以上に厳しいのが金園とヘイスが使えない前線で、内村はスーパーサブとしてベンチに置いておくことを考えると、ここまで沈黙のジュリーニョに奮起してもらうほかない。


1.前半

1.1 序盤は東京の時間

1)基本構造(これまでの試合と同じ)


 4バック系のシステムにおいて、二極論でいうと、①後ろをCB2枚のままにして攻撃を組み立てるチームと、②ボランチを1枚降ろしてCB2枚+1の3枚や、場合によっては4枚にするなど変化してビルドアップを試みるチームがある。FC東京は前者で、4バックの陣形を維持したままボールを循環させる。
 この時の札幌の守備との嚙み合わせは以下の通りで、札幌としては第2節の横浜F・マリノス戦と同様に、まず2トップが2CBの前に立つ。相手のSB(室屋、太田)に出たところでインサイドハーフ(兵藤、荒野)が中を切りながらケアすることになっている。
システム上の噛み合わせ

2)検証作業


 札幌のこのやり方(今流行り?の、5-3-2でセットし、インサイドハーフを4-4-2のサイドハーフのように運用する)は東京も当然わかっていて、SB(東京から見て左なら太田)にインサイドハーフ(東京から見て左なら荒野)を当てるところまではいいとして、そこからボールを動かしたり人を動かすと札幌がどう対応するかを、序盤は見極めようとしていたと思う。
 東京の主な見極めポイントは、下の図で示した3つだっただろうか。①中島が引いてくるなどして釣り出した札幌のウイングバックの背後のケア、②ウイングバックが釣り出されて4バック化する際のがギャップのでき方、③手薄になっている反対サイドに展開した際にどう守るか。
SB(太田)に渡った時の札幌の変化とギャップ

3)東京の攻撃のスイッチ


 序盤の展開を見ていると、東京は恐らく③(サイドを変えることでスライドさせる)を基本としつつ、機を見て①(ウイングバックの背後を突く)という方向性になったと思う。
 札幌は東京に攻撃のサイドを変えられると、特段の対応はしておらず、SBにインサイドハーフを当てるという基本ルール通りに運用しようとしている。ただ、5-3-2で守る札幌において、ピッチの横幅をMF3枚で守ることは不可能。兵藤も荒野もサボっているわけではないのだが、逆サイドに展開されるとどれだけ一生懸命走っても東京のSBの位置が空いてしまう。

 東京はこのサイドチェンジによって享受できる時間を使い、「攻撃のスイッチ」を入れる。サイド基点で攻撃を仕掛ける東京の攻撃のスイッチが入った状態は、両サイドバックの室屋と太田が中盤の選手を追い越していくこと。二列目のサイドに入る東や中島は、どちらかというと中央でプレーする選手であり、サイドの限定されたスペースで仕掛けていくタイプではない。
 そのため東京はサイドアタックを成立させるためには、仕掛けるサイドでSBを攻撃参加させる必要があるのだが、初めからSBを上げた状態にすると、今度は後ろでボールが回らなくなる。

 東京にとって、SBが低いポジションを取らなくていい(CBからSBを経由しなくてもボールを運べる)状況というのが、サイドチェンジした後で札幌の寄せが弱くなっている字時。下の図のように、例えば左で一度作ろうとした後ならば、右で東や室屋は空きやすくなっているので、CB経由でサイドを変えることで室屋を高い位置に押し上げた状態を作ることができる。
SBを上げることが東京の攻撃のスイッチが入った状態

4)不明瞭だった中島への対応


 上記のサイドチェンジされた時の対応と別に、もう一つ気になったのは、東京から見て左サイドで中島が低い位置まで下がってボールを受けた際の対応。東京からすると、チーム戦術的に仕込んでいるというよりは、ボールに触ることが好きな中島が勝手に落ちてきたと表した方が適切だと思うが、中島は殆どチェックを受けないのを察知すると、ここからドリブルで長い距離を運んでバイタルエリア付近まで侵入してくる。
引いて受ける中島への対応が不明瞭

 守備の考え方からすると、ボールに一番近い荒野がケアしなくてはならないが、恐らく荒野は中島の背後にいる太田を気にしていたのだと思われるが、この場合は内側のレーンでボールを持っている中島を自由にさせないことが最優先。結果的に、中島の侵入に合わせて太田もポジションを上げてくるので、

5)出鼻を挫かれる


 開始10分間はまだ両チームとも様子見、という落ち着いた展開だったが、8分、東京のゴールキックから東京の左サイドでボールを運ばれ、クロスが右サイドに流れたところで、大久保が右から入れたクロスにニアサイドで阿部が触る。コースが変わったところの東が飛び出し、冷静に流し込んで東京が先制。
 この時、札幌は早坂が左にいたり、田中が中央にいたりと陣形が変化していて、また5バックで一番外側(右WBの位置)はミンテだった。最終的にはミンテが絞り切れず、東の得点を許してしまったのだが、おそらく直前のカウンターで札幌の攻撃が終了した状態のままポジションンを直していなかったのだと思われる。

6)徐々にスイッチが押せなくなっていく


 しかし前半の中で、東京が攻撃の形を作れていたのはこの立ち上がり10分くらいがピークだった。


 Optaのツイートにあるように、10分以降、東京がなかなか札幌のバイタルエリアに侵入できなかった理由は、端的に言えばサイドアタック以外で攻め筋が乏しい中で、サイドアタックにおいて崩しを担うべきSBが、崩し以外の仕事…すなわち後方でボールを循環させる役割も担わなくてはならない設計だったためだと思う。
 図示すると下の図のように、札幌が中央を固めることで、東京は外⇒外でボールを動かすしかない(高萩がいれば、もう少しFWに縦パスが入ったかもしれないが)中で、室屋が仮に下の図の位置におらず、サイドの高い位置に張ると、その張った室屋自身にボールを届ける術がなくなる。厳密にはCBからのロングフィード等があればボールを届けることは可能だが、両CBは都倉・ジュリーニョと数的同数で対峙しており空きずらい。
SBがスタートポジションにいないとボールが回らない

 となると東京はWボランチの田邉、橋本が何らかボールを循環させるタスクを担うべきだったと思うが、この2人にもそうした仕掛け、役割を用意してはいないようなので、結果どれだけ全然に強力な駒を持っていても、そこまでボールが供給されなくなってしまう。

1.2 コマンダー宮澤


 10分以降は、リードを奪った東京が一旦引き、追いかける状況となった札幌がボールを保持する展開で試合が進む。
 出鼻を挫かれた札幌は、これまでの札幌ならばシュンとしてしまい、一気に畳みかけられるような展開になってもおかしくなかったが、ここで四方田監督がポイントとして挙げていたように、マイボールの時間を作り試合をコントロールすることに成功したことで、徐々に試合の流れを引き寄せる。そしてその中核にいたのは、特にアンカーで起用された宮澤の働きが大きかったと思う。

1)まだ慌てるような時間じゃない(まず縦幅を使う)


 東京の守備は4-4-2。札幌は1列目の大久保と阿部に対し、3バックとアンカーの宮澤の4枚で対抗する。まず初めに行うことは、3バックが低い位置でボールを持つことで、阿部と大久保を後方の8枚と引き剥がすこと。
 これで完全に4on2の人数関係を作り、また宮澤が阿部と大久保の中央に位置することで縦のパスコースを作るとともに、阿部と大久保を中央にピン留めする。この時、田中と早坂はサンフレッチェ広島の5トップのように始めから高い位置を取るのではなく、より最終ラインからのパスを受けやすいように、東京のMF~DF間でポジショニングする。
縦幅を使ってビルドアップを開始

2)中央から動かないことの重要性


 札幌のビルドアップのキープレイヤーは言うまでもなく、ドリブルで運べてキックも短距離・中長距離の両方が揃っている福森。東京も当然この点は把握していて、横山から福森にパスが渡ると大久保や阿部が厳しくチェックに行く。これまでの試合だと、福森が消されると一気に攻め筋が乏しくなる札幌だったが、この日はアンカーの宮澤が東京の2トップ間から動かないことで、常に中央のパスコースを確保する。
阿部と大久保の2人だけでは4人をカバーしきれない

こうなると東京は宮澤と福森の両方をケアすることが困難になる。最初のプレーでは宮澤が空いたが、宮澤が前を向いて東京のFW~MF間でボールを持てば、裏の都倉やサイドの早坂への展開で勝負できる。
東京のFW~MF間が間延びしているので宮澤が前を向ける

 また、東京の最終ラインの中では太田(公称178cm)へのハイボールで都倉や荒野、早坂と競らせることも狙いの一つだったと思う。かつて横浜FCではCBを務めた経験があり、空中戦が物凄く苦手というほどの印象はない太田だが、都倉、荒野、早坂と180cmオーバーの選手3人で空中戦を挑むとやはり札幌に分があるといったところで、ここで質的優位を確保し、右サイドからチャンスを作れたことは、札幌としてはスカウティング通りだったのではないか。

3)中を見せれば左が活きる


 そして一度この形(宮澤からの展開)を見せておくと、今度は東京の2トップが宮澤のケアを優先するので、福森が空きやすくなる。
 福森が空くと、東京は右MFの東を高い位置に出して当ててくるが、すると今度は東京から見て右サイドで、室屋1枚に対し田中と兵働がフリー、兵働は田邉に任せるとして、室屋が田中に食いつくと、サイドのスペースをジュリーニョが突くという構図になっていて、必ずどこか空く領域ができる。
宮澤がケアされると福森が空き、福森を東がケアすると兵藤が空く

<2016福森が封じられた理由:実は深井は殆どオトリ>


 2016シーズンのJ2だと、特に2トップのチームは福森をどうケアするのかがはっきりしておらず、オープンな福森がドリブルで運んだり、前線への縦パスで攻撃のスイッチを入れたりと猛威を振るっていた。しかしJ2のシーズン後半から既に福森基点の攻撃は対策されつつあり、特にシーズン終盤は福森が思うようにボールを持てず、攻撃が単調なものになってしまったことが苦戦の要因だったと個人的には考えている。
 2トップのチームによる福森対策というと、2016シーズンの状況を例に一つ説明すると、下の図のように札幌のCB中央の選手(増川)がボールを持った時の選択肢は基本的に右か左しかいない。選手配置上、増川の前には深井(アンカー)、後ろにはソンユンがいるので4人へのパスコースがあるように思えるが、札幌のビルドアップはアンカーとGKを殆ど使わずに行われていた。
 そのため相手からすると、右(主に菊地)を切れば増川の出しどころは福森しかいない(逆も同様…福森を切って菊地に出させてもいい)。増川⇒深井の中央のコースを使ってこないので、FW2人で左右だけケアすれば福森は自由に持てなくなる。
 又は、下の図で示したように、FW2人で対応できなければ、ボールサイドのMFを福森に当てていく。ここまで徹底すれば、福森からの展開はかなり難しくなる。
アンカー深井があまりビルドアップに絡まないので
増川⇒福森のところで選択肢が少ない

 GKのソンユンはともかく(守備以外で余計な負担をかけたくない)、U17日本代表でアンカーとしてボールをさばきまくっていた深井をビルドアップにあまり組み入れない理由は、恐らく中央でのボールロストの危険性を排除したいためだと思われる。しかし結果的には、中央の深井(深井が離脱した後は前寛之など)を使った組み立てを初めから排除してしまったことで、相手は対策が容易になり、結果的には攻撃がじり貧になってしまいリーグ終盤戦の失速に繋がったとの印象である。

1.3 消えゆく大久保と帰ってきたジュリーニョ

1)間延びする東京


札幌のビルドアップには、先述のような狙いや意図(相手2トップを引き剥がして4on2から前進する)があったが、札幌がこの形を見せ始めた15分以降、東京は効果的な策を殆ど打てなかったと思う。
 対策としては、端的に言えば①2トップの守備開始位置を下げさせてMF&DFとの距離を近づける、②MF&DFが押し上げてコンパクトにする、といったやり方があるが、そのいずれも採らない東京は2トップは札幌の最終ライン&宮澤にどんどん食いついてくる(が、捕まえきれない)、最終ラインは都倉の裏を狙う動きに引っ張られてラインが下がる、という具合であった。

2)宮澤が空く:大久保はそれでよかったのか? ※追記


 (※「サボり」という表現は語弊があったので書き換えました)
 すると25分過ぎころから散見されてきたのが、東京の前線の守備の中で大久保が誰も見なくなる…具体的には、阿部が前から追いかけまわしている時に、大久保は宮澤を見るのがベターだったと思うが、下の写真のように阿部の動きに連動せず、宮澤も福森も捕まえようとしなくなる。
 注記すべきは、まず阿部の高い位置からの守備がそもそもチームとしてどうかという問題はある。ただ阿部が一人で高い位置から暴走してしまうとして、阿部が前・大久保が後ろ、のような縦関係になってしまうとしたら、大久保はアンカーの宮澤を見るべきだったと思う。宮澤を見ると、福森が絶対に空いてしまうが、左の福森と中央の宮澤では優先度が高いのは後者。
 神戸時代にMFで起用した松田浩氏も評価するように、大久保は本来守備…対人プレーだけでなくスペースを管理することもできる。阿部個人の問題か、東京のチーム戦術なのか、大久保にはどうしようもない部分があったとしても、経験豊富な選手であれば中央でやれることはあったはずだと思う。いずれにせよ、本来は監督がコントロールすべき問題なのは仕方ないが。
大久保は誰を見るでもなく中央に佇む
宮澤をフリーにしてしまう

3)空いた宮澤に食いつく東京の2列目


 すると東京は福森に東が当たる、ここまでは大久保と関係なく想定内としても、大久保が本来見るべきアンカーの宮澤に、ボランチの田邉や橋本が食いつくようになる。東も前に出て、ボランチも1枚釣り出されているとなれば下の図のように、中盤に広大なスペースができるようになる。
 ここで、兵藤のいる中央左寄りのエリアは、東京が4-4-2で守っていることを考えると、東を釣り出した時点で札幌が使えるようになるスペース。言い換えれば、東が出れば兵藤が空く、東が出なければ福森が空く、という構図になっていて、システムのかみ合わせ上、東京としてはここが空いてしまうのはある程度仕方ない面もある。
 しかし問題なのは、守備をしない大久保の分をカバーしようとした田邉が空けた中央よりのスペースで、ここも明けてしまうと兵藤だけでなく、ジュリーニョや荒野にも使われてしまう。
 特にこれまでの試合で2トップの一角という、スペースを得にくいポジションで徹底マークを受けて持ち味を殆ど発揮できなかったジュリーニョだが、この試合は東京のMF~DF間にこのようなスペースができたことで気持ちよくプレーする。
大久保のカバーのため田邉が前に出ると背後にスペースが

4)ジュリーニョを生き返らせた兵藤


 上記とは異なり、東京の中盤が札幌の最終ラインや宮澤に食いつかなかった局面もあった。ただ東京の中盤にとって罠というか、餌になっていた要素はもう一つ…神出鬼没な兵藤の動きだったと思う。
 前半の25分頃から兵藤が何度か見せていたのは、左サイドで田中と縦関係になるようなタッチライン際まで張り出すポジショニング。ここに兵藤がいると、福森⇒兵藤⇒田中という外→外でのパスコースが作られるので、東京は東がここをケアする。すると下の図のように、東と室屋がタッチライン際まで引っ張られることになるので、2トップの一角…左寄りの位置で待っているジュリーニョが少しポジションを下げればここでフリーになり、前を向けるようになる。
兵藤がサイドに流れて東京の選手を引っ張りジュリーニョが浮きやすくなる

 福森や宮澤が後方でパスコースを作ることが、縦方向に東京の守備を引き剥がすことだとしたら、兵藤のサイドに流れる動きは横方向に引き剥がす動き。縦と横両方のベクトルでジュリーニョが活動するのに必要なスペースをおぜん立てすると、これまでの試合で沈黙していたジュリーニョが2016シーズン序盤のように躍動するようになる。

5)自ずと結果はついてくる


 札幌の同点ゴールに繋がった攻撃は、前を向いたジュリーニョから都倉への縦パスが収まり、都倉からオープンな右サイドの早坂へと展開されたものだった。
 この一連のプレーの展開を見ていくと、やはり先述したような札幌の意図したボール保持から始まっている。まず最終ラインが低い位置でボールを動かし(まんまと東京の2トップが食いついてくれた)、阿部と大久保を剥がすと、福森が持ったところで東が前に出てくる。東が福森を捕まえても、宮澤と田中が捕まっていないので福森は困らない。ここでは田中へのパスを選択(パスというか、福森が以前からたまに見せる、一度味方に預けてサイドリターンを貰って自分が攻めあがっていくプレーである)。
低い位置でビルドアップすると東京が食いついてくる


 田中と福森の絡みでボールを運ぶと、再び宮澤がパスコースを作る。
 ここで、兵藤がサイドに流れて室屋を引っ張る。東京は東と橋本が釣り出されている状況で、田邉が宮澤に寄っていく。
兵藤が中央にスペースを作ったところで福森が運ぶ(⇒宮澤に縦パス)

 更に最前線で都倉が裏を狙う(室屋の背後)動きを見せると、東京はDFラインが押し下げられる。結果間延びしたDF~MF間でジュリーニョがフリーで前を向く。
 都倉だけでなく、ジュリーニョも前を向いてナンボの選手であり、この時のように中央でマークを引き剥がしてやれたのは、後方のDFと宮澤でボールを動かして縦方向に東京の選手を引き付けたことと、兵藤がサイドに流れて横方向の守備を剥がしたことによる。
宮澤が潰されるがジュリーニョに渡る
兵藤がDFを拡げ、都倉が裏へ引っ張っているので前を向ける

2.後半

2.1 人を変えてくる東京

1)梶山の投入


 後半頭から東京は田邉⇒梶山に交代。東京は後半立ち上がり…正確には前半の同点に追いつかれたラスト3分頃からだが、両サイドバックを高い位置に押し上げて攻勢に出てくる。
 ただ見ていた印象として、東京のこのやり方は本来4バックの4-4-2ないし4-2-3-1でポジションを考えているものから、強引にSBに高い位置を取らせることで攻撃の横幅を作ることを試みたような陣形のため、後方のリスク担保やSBにボールを届ける手段があまり考えられていないように思える。
 通常SBを押し上げる場合、SBの位置にボランチや中盤の選手を落とすか、CBの間にボランチを落とすなどして、本来SBがいた部分(ちょうど、2トップのチームに対してFW脇となる)を代わりに使う選手を用意することが多いが、東京はそうした仕組みを考えていないようで、とにかく室屋と太田を張らせて、梶山や森重が放り込むなどして「何らか」ボールをSBに入れて仕掛けさせる。
 また札幌の5-3-2を動かせてもいないので、SBを張らせてブロックを広げさせてから中央を使うでもなく、散発的な攻撃に終始する。
ともかくSBを上げてSBに入れる

2)ピーター ウタカの投入


 SBを張らせただけでは動かせないとみると、東京は55分に中島⇒ピーター ウタカに交代。これにより前線は阿部、ウタカ、大久保の3トップとなる。
55分~

3)東京のノーガード戦法から漂う得点の予感


 DAZN中継の実況席(解説は大森健作氏)はやたらとウタカの脅威を煽るが、ウタカの投入ははっきり言って悪手だった。
 J1得点王を獲得したにもかかわらず、ウタカがサンフレッチェ広島を契約満了になった理由は部外者にはよくわからないが、少なくとも一部で指摘されていた「守備をしない」というのは短角的すぎると思う。ただこの試合に関しては、前線の守備が整理されていない状況でウタカを入れて前掛かりな3トップにしたことで、フレッシュなウタカはまずボールを回収しようとして高い位置から追いかけていく。しかしこれに大久保も阿部も、後ろの選手も連動しないので、全くの徒労に終わる。
ウタカが高い位置から1人で守備を開始するが、札幌の菱形ビルドアップの前には無力

 札幌が宮澤を経由してボールを東京のMFの前まで運ぶと、阿部はプレスバックして福森や田中についていくが、東京は4-3-3にしたことで中盤の枚数が1枚減っている。前半よりも1枚減り、更に緩やかな空間となっている中盤で、兵藤が難なく顔を出してパスを受ける。
東京は単にFW~MF間が間延びしただけになる

 さらに兵藤からの落としを宮澤が受けると、兵藤と入れ替わるように荒野がライン間に顔を出す(最後は荒野から外のジュリーニョ、ジュリーニョのクロスに早坂と都倉が飛び込む)。東京の守備は「ハマらない4-4-2」から、単に後方で4-3で守っているだけのもの(ブロックの枚数が4+4から4+3に減っている更に脆弱な守備)になってしまっている。
兵藤⇒宮澤⇒荒野と中央で容易に繋がる

 なお「ウタカ投入は悪手」と書いたのでついでに言及しておくと、結果論だがこの時間帯までが札幌のDFライン後方やサイドにスペース…つまり隼・永井謙佑のスピードで勝負できる余地が残されていた時間帯だった。篠田監督としては、ラスト15分など足が止まったところで永井、と考えていたのかもしれないが、結果的にはその前に点を取ってラスト15分は籠城し、スペースを消した札幌のほうが試合運びでも勝った。

2.2 遅すぎた戦術的交代

1)予感通り


 ウタカの投入から約3分後の58分、DAZN中継では札幌が菅の投入を用意との情報が入る。後ほど明らかになるのだが、菅は兵藤との交代が考えられていて、体調が万全ではない兵藤は60分が限度、攻撃力を落とさないために前寛之ではなく菅の投入、ということだったのだろう。
 この情報が伝えられた直後のプレー、札幌はゴールキックの跳ね返りを宮澤が拾うと、ほぼノープレッシャーの宮澤から右の早坂へ展開。典型的な「ポジティブトランジション」で、札幌は2トップに兵藤、荒野、両ウイングバックの6枚が攻撃参加する。対する東京は完全に4-3ブロックで守っていて、枚数不足気味なのがわかる。
 右サイドで早坂がキープし、上がってきた荒野がマイナス方向にドリブルしてから左足でアーリークロス。この時、ニアゾーンにジュリーニョが走り込み、クロスに触ってコースを変えると、跳ね返りをボレーシュート。これが室屋を直撃し、室屋がペナルティエリア中央でうずくまり、事実上室屋がオフサイドラインとなると、「ライン」を冷静に見た都倉が兵藤のスルーパスを受けて流し込み札幌が逆転に成功する。
得点に至るシーン…ゴールキックを拾った宮澤からの展開

 解説の大森健作氏は、「東京は札幌のアーリークロスへの対処が甘かった」としていたが、ジュリーニョがニアゾーンに走ったことで「何か」が起こったプレーだったとの印象である。東京は4バックで守っていて、サイドからのクロスに対処する際、CB2枚は中央から動かないのだが、ボランチもサイドハーフもニアゾーンを埋める用意ができていないので、たびたび空くようになっていた。
 札幌はクロスに対し、都倉がファーサイドで競ることを徹底していたので、ニアゾーンのスペースは前半から放置されていたが、この時は荒野の逆足クロスが短かったこと、ジュリーニョのニアに走る「閃き」が結果的に功を奏した。

2)徳永の投入


札幌がリードを奪うと、再び試合展開はビハインドの東京が攻勢に出るようになる。札幌は意図的にペースを落としたということ以上に、中盤から前の選手の疲労が激しく、セカンドボールを拾えなくなっていったことが大きかったと思う。
 東京は66分に東⇒徳永に交代。これまた実況、解説共に指摘しなかったが、徳永投入後の東京は3バック。この試合において、この交代が東京の唯一の戦術的交代だったと思う。
69分~

 徳永を入れた東京は、3バックの右の位置、5-3-2で守る札幌からのプレッシャーを受けにくい徳永からのドリブルにより、ようやく室屋にボールが入るようになる。また後方に徳永、丸山、森重と常時3枚のDFを置いたことで、室屋と太田は後方の憂いなく高いポジションを取り続けることができる。
徳永のドリブル

 徳永投入から3分後の69分、札幌は予定通り兵藤⇒前寛之に交代。フレッシュな前寛之が中盤の左に入り、徳永の持ち上がりに対応することで、このマッチアップにおいて押し込まれることを回避する。

2.3 締めの竜二


 70分以降は自陣ゴール前に撤退する札幌、こじ開けようとする東京という構図。札幌は定番となった5-3-2ブロックでの撤退守備に切り替え、最終ラインはペナルティエリア付近、中盤とDFラインの距離を限りなく圧縮することで、東京の選手をゴール前から締め出す。
 東京は依然として前線の選手にボールを供給する術を持たないので、大久保、阿部、ウタカに殆ど有効なパスが供給されない。待っていてもどうしようもないということで、阿部や大久保はブロックの外に出てくるのだが、仮にそこでボールを受けようとしても、8人ブロックを築いている札幌はボールにアタックがしやすい。ブロックの外で持たせても、前を向かせないようにチャレンジ&カバーを徹底する。
 東京の最大の決定機は下の写真、ブロックの外からの梶山のミドルシュートで、この時は荒野や宮澤のチェックが遅くなったが、言い換えればブロックの外からの”一発”以外は殆ど怖くなかった、ということになる。
梶山のミドルシュート

 ただ逃げ切りのためには疲労も考慮せねばならず、75分にはジュリーニョが太ももの裏を抑えて倒れこみプレー続行不可能に。菅が投入される。菅は交代直後のファーストプレーでは2トップの一角に近いポジションだったが、その後の動きを見ると、中盤に4枚並ぶ5-4-1の左MFのようなポジションをとっていた。おそらく、中盤でブロックを築くことを最優先しつつ、行ける状況では一人でカウンターに持っていけ、というようなイメージで起用されたと思う。
5-4ブロックで完全封鎖(東京は外で回すしかない)

 84分には「全身が攣った」都倉に代わり河合を投入。後は締めるだけ。かつてと異なり、今は締めることができている。アディショナルタイム4分を危なげなく守り切り、札幌が2-1で勝利。

3.雑感


 曽田雄志・ノルディーア北海道球団代表の言う通り(?)、深井の離脱が選手やスタッフにとって特別なモチベーションになった面は確かにあるだろうが、そもそも、試合に臨むにあたりモチベーションがないサッカー選手など存在しない。個々のフィジカル、メンタル、技術があっても、グループとしてどのようにプレーするかを持っているか否かの差だったと思う。
 やることが整理しきれていない東京に対し、四方田監督は明快に答えを用意していたと思うし、宮澤を筆頭に選手たちは監督のビジョンをプレーで示せることを証明した。まだ負傷者も多い状況で、2勝しただけということで、強いチームだとは言い切れないが、少なくとも直近10シーズンほどのチームと比べて、最も期待していいチームではないかと思う。


 また宮澤に関しては、クライトンの後継者指名は印象深いエピソードだが、それ以前に、宮澤が高校生の時に札幌をJ1に導いた三浦俊也監督と選手達(当時宮澤はJ1クラブか札幌かで迷っていた)や、「FWなら並だけど中盤なら代表目指せる」として中盤にコンバートした石崎信弘監督など、これまで札幌に関わった人たちによる”種蒔きや水やり”も忘れてはならないと思う。

4 件のコメント:

  1. 地上波で観ました。FC東京のメンツ的にやや落ちるかなと思えたのはボラかなあと思っていましたが
    高萩不在がけっこう痛かったと言えそうですね(高橋秀人は神戸に出しちゃったし)。

     今のサッカーは守備免除されるのはせいぜい1人という認識です。大久保は自分が下がることで攻撃を活性化させる意図はあったのでしょうが、それが組織としての守備に穴を空ける格好になったわけで都倉のファーストディフェンダーとしての頑張りと大久保のサボりが内容にも結果にも差となってクッキリ現れる試合になりました。

     序盤は中島の背中を荒野が追いかけるというのが散見されていたし、基本コンサは人数をかけたブロックで守備をするのでドリブルで切り崩すきっかけを作れる(と同時にその裏をかいてワンツーとかでズレを起こさせる)中島を引っ込める選択肢はないと思ったのですが、単にピーター・ウタカ投入ありきだったとしたら疑問手といっていいでしょうね。

     宮澤のアンカーは必要に迫られてのものでしたが、安定っぷりがハンパなかったですね。もともとスペースを見つけるのが上手い(それ故にプレスにも落ち着いて対処できる)上に、少ないタッチで捌けるのでチームが落ち着ける。広島戦もですが、特にコンサの右サイドへポンと出すタイミングの良さは惚れ惚れしますなあ。

     石崎コンサはJ1で数々のワースト記録を樹立してしまいましたが、それでも石崎コンサがなければJ1の厳しさも体感できなかったし、もちろん今の宮澤もなかった。そう考えるとコンサも積み重ねというものがあるんだな、と。ただ、人数をかけた守備と運動量で何とかやれているというのもまた事実。離脱者はこれ以上出して欲しくないけど無理しなきゃ渡り合えないというのが何とも…。

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    1. >フラッ太さん
      中島がブロックの隙間に突っ込んでいくのが唯一の脅威だったので本当に助かりました。
      石崎監督時代、河合宮澤のWボランチだった2011年は河合がアンカーやったんですよね。そのころから考えるとこの2,3年で本当にいい選手になったなと思います。
      後はおっしゃる通り、消耗が激しいスタイルなのでコンディション管理が心配ですね。

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  2.  昨日長文書いて投稿しようと思ったら、突然全文が消えてしまいました。しばらくしたらアジアンベコムさんの文が出ていて、もしかするとカブリーニが原因で消滅したのかと思って諦めました。にゃんむるです。

     なんとなく書いた事思い出しながら・・・、FC東京は中島引っ込めたのは悪手でしたねー。それまでのチームとして崩す動きが、中島がいなくなった後にまったくできなくなってしまいましたね。縦のスペースつくる動きが無くなって、太田の動きも、大久保の動きも全部単発で恐さがまったくなくなりましたね。交代は監督の大失敗と言ってもいいと思います。フラッ太さんが書いている通り高萩不在も助かりましたねー( ^ω^)チームとしての完成度はまだ低かったですね。でも次は変わってると思うから気を引き締めましょう。
     コンサは兵藤が相変わらず良いですね。マリノスに感謝してますわー。最強のリンクマンですね。彼がいることによって、周りの選手のポテンシャルが引き出されて、チーム力がかなり上がってる。そんな表現で良いのかは分からないけど、自分的には、そんな感じに受け取っています。今回ジュリーニョが良かったのも、少しポジション下げてゲームメイクに絡んだ事が大きいと分析していましたが、このブログで兵藤がそのきっかけを作っていたことを知って、さらに兵藤がお気に入りになりましたわ( ゚ー゚)
     そして宮澤が兵藤とのからみもあってなのか、良いですねーーーーー。この試合はホント良かったですね。怪我無く1年間こんな感じでいって欲しいです。今、宮澤と兵藤に怪我されるときびしいですね。
     初登場の早坂は思ってた感じと違って、テクニカルな部分もあって良かったですね。泥臭いプレーする選手というイメージでしたけど、攻撃時に見せたルーレット(2chでは「早坂んルーレット」とか書かれてました)はカッコよかったですわ。また観たいね。良いよねああいうの。お客さん大喜びだよね。
     菅についても書いてたけど、試合から時間経ったから省略w頑張って引き出し増やしてくれ。期待はしてますよ。

     今年初の生観戦で、試合を楽しむ事に主眼を置こうと思って行きましたが、まあ、正直勝つことに期待してなかったんですけどね。ここでは気合で応援しようとか言ってたけどw 良い試合&勝利で最高でした!
     
     そして反省しました(´・ω・`)ショボーン 選手を信じて全力で応援しようと思った。時には気合も大切だわ!

     きびしい戦いがつづくと思うし、勝てないことがあるかもしれないけど、チームを信じて応援しましょう。
     今回は本気で言ってますよ(`・ω・´)ノ 気合で相手をねじ伏せようー!
     こんな感じ(消えた文とだいぶ違うけどw) にゃんむるでした。またのー(・∀・)ノ
     

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    1. >にゃんむるさん
      そんな仕様があったんですね…嫌な思いをさせてしまいすみませんでした(謝罪はしますが賠償は…)
      それはともかく…
      個人だと私も早坂がいいなと思ったのは、マセードの良さ(持った時の仕掛け)と石井の良さ(汗をかく、潰れる、サイドに蓋をする)の両方を持っていることですね。早坂がこれだけやれるとマセードは結構厳しいかもしれません。J1だとWBはまずはサイドに蓋をしたうえで、何回攻撃に転じるチャンスがあるか、という90分の過ごし方になりますので。
      東京は太田と室屋だと、丸投げされてまだ何とかできるのは室屋の方というか、太田はクロッサ―としては優秀なんですがサイドバックとしては一人で何役もできるスーパーマンではないですので、彼のところにサポートがない状況は日非常に助かったと思います。

      自分はアウェイ中心になって以来、ホームゲームでの得点シーンの動画をよく漁っているのですが、いつも撮られてる方が今回都倉の逆転ゴールの時に音声が録れてなかったとかで映像だけアップされていたのはちょっと残念でした。都倉のゴールの時の盛り上がりはDAZN中継でも凄かったですね。この試合見れたのは間違いなく勝ち組でしょう。

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