2019年9月9日月曜日

2019年9月8日(日)YBCルヴァンカップ プライムステージ準々決勝第2戦 サンフレッチェ広島vs北海道コンサドーレ札幌 ~俺たちの誇り・劇場型DF~

0.スターティングメンバー

スターティングメンバー

 札幌(1-3-4-2-1):GK菅野孝憲、DFキム ミンテ、宮澤裕樹、福森晃斗、MF白井康介、荒野拓馬、深井一希、中野嘉大、アンデルソン ロペス、ルーカス フェルナンデス、FWジェイ。サブメンバーはGK阿波加俊太、DF濱大耀、MF 檀崎竜孔、早坂良太、金子拓郎、FW岩崎悠人、藤村怜。進藤は水曜日の第1戦で右足首を捻った影響で欠場。第1戦をベンチスタートだった(休ませた)宮澤とジェイを先発起用。
 広島(1-3-4-2-1):GK林卓人、DF野上結貴、井林章、佐々木翔、MFエミル サロモンソン、柴崎晃誠、稲垣祥、柏好文、川辺駿、東俊希、FW渡大生。サブメンバーはGK廣永遼太郎、MF吉野恭平、青山敏弘、野津田岳人、松本大弥、清水航平、ハイネル。第1戦で2ゴールのレアンドロ ペレイラは前日練習で右脚の付け根を負傷し欠場。FWは渡しかいなくなってしまった。第1戦で退場処分の荒木の代役は、退場後にそのポジションに入った井林。サロモンソン、柴崎の起用はターンオーバーも意識しているのかもしれない。



1.想定される互いのゲームプラン

1.1 札幌のゲームプラン


 ミシャが試合後のインタビューで語っているのは、「守りに入ると負ける」。ジェイとルーカスの先発起用はそのためだとしている。監督の試合後のコメントはミシャだけでなく、全般に真実を言っている場合とそうでない場合があるが、これに関しては特にカムフラージュ等はしていない説明だと思う。

1.2 広島のゲームプラン


 1点取ればトータルスコア上はリードに変わる。そうすれば札幌は前に出てくるので、得意とする「守ってカウンター」がしやすくなる。札幌の1戦目をみると、先制するのはそこまで難しくない(先制した後の展開が問題だが、プラン上は変わらない)。まず早い段階で点を取りに行く考えだっただろう。

2.基本構造

2.1 3日前から放置され続けるリスク

2.1.1 城福監督の考え方


 サッカーの国際試合基準である105×68mのピッチは、成人男性がボールを扱うことを想定すると、互いに11人×11人の対戦では全ての領域をカバーすることは不可能だ。ポジショニングという考え方はこのことに立脚する。要するに「俺(・僕・私)しかいない」エリアを確保することで、そのエリアでのプレー(ボールに関与すること)を優位な状況から始めることができる。あるいは、味方をそのような状態にする。
 その意味では、広島・城福監督の考え方はポジショニングよりも、「コンビネーション」等、他のことを重視していると見える。何故なら広島は、「俺しかいない」ポジションの確保よりも、基本的にキープレイヤー…ボールに関与させたい選手、具体的には左サイドの柏はボールに寄ってくる傾向が強い。柏のほか、シャドーやセントラルMFが寄ってくることで局所的な数的優位を作って、自らの選択肢を増やし、相手の判断を迷わせることをより重要視している。

 この試合、もとい厚別での第1戦でもその印象は変わらない。ただ異なっていたのが、広島の攻撃における勝負の”ウェイト”はいつもの柏ではなく、「福森の周辺」になっていた点。普段は自由を与えられている右シャドーの川辺は、1トップ(1戦目はレアンドロペレイラ、この試合は渡)と共に福森の背後を狙う。背後を狙うには福森を前に呼び込む必要がある。なので最初は川辺は福森の前方でボールを”待っている”(ボールに必要以上に寄らない)。
左サイドに選手を寄せる

 もう一つ。城福監督のコメントで「第1戦の退場者が出るまでは白井を押し込んで無力化されることに成功した」とあった。それは柏に、なるべくビルドアップの役割を担わせず、最初から高い位置に置いておくことで白井を最終ラインまで後退させる(結果的にはその後ボールを貰いに下がってくることが多いが、白井のスタートポジションは後ろになる)。なるべく柏を高い位置に置いて、その分ボールは佐々木など他の選手が運ぶ、という整理になっていた。

2.1.2 キム ミンテと福森の違い


 札幌は上記のシチュエーションで、ボールサイドのシャドー(東。ボールに寄る)にはキムミンテではなく荒野を動かす。そうすると、深井も荒野のポジションに合わせてサイドにスライドするので、反対サイドの川辺の周囲のスペースは更に拡大する。
 予想だが、キム ミンテはCBに本格的にコンバートされるにあたって「ポジションを守れ」(MFをやっている時と違って後ろにはカバーしてくれる選手がいないのでなるべく元のポジションから動くな)とする指導を受けているのだと思う。今野泰幸や仙台のシマオ マテもそうだが、MF経験が長い選手が最終ラインにコンバートされると、この点でボロを出してしまうことが見受けられる。特にキム ミンテは足が速く、高さもあるので、相手より先に動かなければやられる、というシチュエーションはそこまで多くない。

 このことも関係していると思うが、重要なのは、ボールサイドでミンテではなく荒野が動くと、反対サイドでは深井が荒野のようにカバーできない状況なので、最終ラインから福森が動く(本来の持ち場とは異なるポジションで、1on1で勝負する)必要性が生じている点。

 上記「2.1.1」の状況で川辺にボールが入るとする。福森が前に出ればその背後を渡が狙う。もしくは川辺と福森の1on1。ゴール前ならともかく、この位置で勝負されると厳しいところだ。
 福森が出なければ札幌はここで全くプレッシャーをかけられないのでゴール前に撤退・籠城を余儀なくされる。相手ゴールに近いところでプレーしたいとするミシャの思惑とは乖離が生じる。
札幌の右の中盤が動くと左は福森の周囲が無防備になる

2.1.3 いつもと違う福森の隣人


 ルーカス フェルナンデス。1戦目では相手が10人になってから、得意のドリブルで広島ゴールを脅かした。このシチュエーションで、チャナティップの代役であるルーカスの問題点は、「福森の前方」を守る能力がルーカスにはないことだ。
 この試合はお互い[1-3-4-2-1]の所謂ミラーゲーム。そしてお互いに守備はマンマーク基調のチーム。ルーカスの担当は自分の正面のDF野上だ。しかしずっと野上を見ていることが正解かというとそうではない。野上がボールに関与していなければ、他の役割を探して守備をすることが賢明だ。
 上記のシチュエーションでいうと、「深井の左隣を守る」。これは深井の左脇を狙うパスコースの寸断につながる。味方の隣を守るという、一般的なゾーンディフェンスの考え方だ。この辺が”マンマーク基調”であって、常に100%マンマークで人だけ見ていればいいという机上の空論的な話とは異なる点だ。
 が、この役割に慣れていないルーカスはかなり野上を意識した佇まい。チャナティップは福森の周辺、深井の周辺をよく守ってくれる(インターセプトや体を当てての守備の印象がある人は少なくないだろう)。札幌はチャナティップ不在により、いつもよりも1人少ない状態で守備をしていることと同義だった。

 宮澤。宮澤がディフェンダーとして(特にミシャチームのような攻撃志向のチームにおいて)は少なくともJ1上位~中位のレベルにはないことは、2019シーズン開幕の湘南戦、序盤の鹿島名古屋大分との3連戦で立証できたはず。札幌が浮上したのは、最終ライン中央に、ゴール前ならばどのようなタイプのFWとでも勝負になる運動能力あるキム ミンテを据え、かつそのウィークポイントであるボール保持局面を”ミンテ仕様”に改善してからだった。札幌ドームでの大分戦が典型だが、宮澤では福森の背後をカバーできない。この点を意識すると、福森はあまり前に出たくない(チームとして出したくない)とする考え方はあっただろう。

 中野。福森は普通のDFではない。自分が攻めたい時に前線で攻撃参加するし、ボールロストしても攻撃参加の時ほど一生懸命に走らない。それでも試合に起用される(だけの能力を持つ)特別なDFだ。菅はそんな福森が好きなように振る舞った時に背後を管理している。中野は見たところ、まだそこまで「福森の隣でプレーすること」の構造を読み切れていないように見える。

3.開始10分間の攻防

3.1 当然の選択


 序盤から広島が、札幌の福森サイドを執拗に狙う。 
 
 4分、左サイドからのサイドチェンジを受けたサロモンソンの左足クロスで終わった局面。上記「2.1.1」の状況から、川辺ではなく更に遠くで、スペースを享受しているサロモンソンを使ったことになる。サロモンソンが受けた時はフリーだったが、仕掛けられる選手ではない。味方の攻撃参加を待ってからのクロスだったが、これなら比較的札幌としてはありがたい。

 7分、札幌の自陣でのスローイン。ルーカスのコントロールミスからボールロスト、川辺が奪って渡が宮澤をサイドで振り切り、折り返しを川辺がダイレクトシュートするもポストをかすめて外れる。シチュエーションのはじまりはルーカス、もしくはチャナティップ感覚でルーカスに預けた中野に原因があるが、川辺の守備⇒ポジトラのプレーの切り替えを福森は眺めているだけだった。

3.2 マタドール左足一閃


 が、その7分の展開の直後の8分、ジェイへのフィードから、アンデルソン ロペスが東、柏と競り合ってペナルティエリア外、ハーフスペースでボールゲイン。持ち前の身体の強さで2人を振り切って反転の後、左足を一閃するとグラウンダーのシュートがゴール左隅に吸い込まれる。これが札幌のファーストシュートだった。
 広島は2点が必要な展開に。それでも広島のやることは変わらない。一方、札幌の意識が変わったかというとこの段階ではそうは見えなかった。

4.180分間のターゲット


 先制したことで、札幌に(ミシャがあまり好まない)逃げ切りへの意志が開始10分で芽生え始めたかというとまだそこまでは感じられなかった。それは、逃げ切るならば考えられないバランスの崩し方をしていたのが以下の「4.1」(16分の場面)。
 一方、「4.2」(18分の場面)は、札幌としては少ない人数でカウンターをしたい。しかし結果的にカウンターが不発に終わり、トランジションから1列目のバランスが崩れたところを広島が突いたもの。

 いずれにせよ広島のターゲットは明確で、札幌の左・広島からみて右の福森の背後を徹底して狙い続ける。それは札幌があらゆる動きをしてきても変わらなかった。

4.1 福森の背後①


 16分、福森のフィードにルーカスが抜けだしかけるが、野上が体を入れてボールを奪う。一旦GK林に戻すが、この時、CBの宮澤がフィードをルーカスが触ったところで攻撃参加。攻撃が失敗し広島のボールキープに切り替わっても宮澤は前進をやめない。宮澤の単騎での特攻(まるで普段の荒野のようだった)は当然のごとく広島は簡単に無力化。井林⇒稲垣と渡ると、ここで深井が出てくるが、稲垣は深井から離れるようにターン(ルーカスの方向だが、ルーカスの寄せは緩い)。前からアタックしていて空洞化している札幌の中盤をスループットとして、渡に縦パスが通る。
宮澤の不用意・不要な前線守備を広島が剥がして前進

 渡には荒野が出る。そして裏を取る東を福森は全く捕捉できていない。この時は中野が絞っていたので渡から裏へのボールは出ず難を逃れた。が、札幌は最終ラインを荒野と中野(しかも荒野は無力化されている)が守っている異常事態だ。
渡に出た瞬間に東は完全に福森を置き去りに

4.2 福森の背後②


 18分。このプレーの直前は川辺が中央付近でパスを受け(「2.1」と同じ構図から)、スルーパスを狙うが札幌がカット、前線のロペスに預けたもの。ロペスが効き足を使って左方向にドリブルで打開を図るが広島が人数をかけてボールを回収してから。
 札幌はロペスが動いたこともあって前線の並びが崩れている。ルーカスは気を使って中央を絞っているが、ジェイは仕事を見つけられていない。
 札幌1列目が無効状態で、2列目の荒野と深井も切り替えられていないのを見て柴崎は東へ縦パス。札幌の守備⇒ポジトラ⇒ネガトラの切り替えがイマイチなのと対照的に、広島の攻撃⇒ネガトラ⇒ポジトラは狙いが明確だ。狙いは常に福森だ。東と川辺は、柴崎や稲垣がボールを持つと常に福森の周囲を狙う。この時は東が受けたのを見て、川辺は裏狙いに切り替える。裏抜けに成功した川辺のクロスは、ここでは戻れた福森が必死にクリアでCK。
札幌のネガトラが不十分で中盤が空いたのを見てすぐに福森の前方を狙う

4.3 福森の背後③


 28分。この時は札幌は先述の2局面と異なり守備の枚数が揃って[1-5-4-1]でセットされてもいる。なお開始15分頃までは、札幌は1列目をどこに設定するか模索していた様子だった。特にジェイは、前からいったり、広島のアンカーポジションの選手を見ることにしたりと対応が定まらなかった(ミシャが指示を飛ばしたり、本人が様子を見て模索したりといろいろあったのだろう)。結果的には自陣に引いて5-4ブロックで、この時間帯には落ち着いている。

 札幌が[1-5-4-1]でセットすると、広島は札幌の[4]とまず対峙することになる。序盤左の佐々木からの前進が多かった広島が、次第に右サイドからの前進が増えていったのは、札幌の右(広島の左)のロペス、左(広島の右)のルーカスで見たときに、ルーカスの方が与しやすいためだ。基本的にルーカスは「誰か1人を見る」以外の仕事はできないため、その周囲に2人目(下図では、ルーカスは本来野上のマークだが、稲垣を置いている)を配せばルーカスの仕事を曖昧にすることが可能だった。
 この時は川辺が引いて福森を引き出して、サロモンソンが川辺とのワンツーで侵入する。特筆したいのは、通常サイドの選手をこの局面で走らせるなら、サロモンソンの前方(タッチライン付近)にボールを落とすのが一般的だが、川辺はより内側の、福森の背後にスペースがあることがわかっているので、そこを意識してボールを落としている。中野とサロモンソンの競争になるが、中野が体を入れて札幌は危機を逃れる。このあたりの仕事を意識して、後半により馬力のあるハイネルが投入されたのだと思われる。
シャドーが福森を引き出して背後にWBがラン

 このほかにも前半だけで福森の周囲であった事象としては、
・30分:トランジションから川辺が抜け出しかけるが福森がファウルで止める(カードなし)
・33分:「2.1」の形で、柴崎⇒川辺のフリック⇒(福森と宮澤の背後に)渡が抜け出すが菅野がコースを消してシュートミス

 対する札幌のチャンスは2回。32分頃にボックス内のジェイへの放り込みから、頭での落としをロペスがヘッドは林の正面。42分にロペスのフリックをジェイが左足アウトでシュート。広島に後退させられ、ルーカスが単騎でのドリブル突破も見せていたが、結局は前線のパワーのある選手がボールを収めてからの形しかなかった。

5.必然の修正

5.1 メンバーチェンジ


 後半頭から札幌が1人、広島が2人、選手を入れ替える。札幌はルーカス⇒早坂が右DF。キムミンテ、宮澤、荒野がスライドするが、荒野はキックオフ直後の展開を見ると、トップ下のようなイメージで当初は考えられていたのだろう。詳細は後述する。早坂については、2018シーズンは練習試合でしかDFをやっていなかったが、2019シーズンはルヴァンカップでは最終ラインでの起用が何試合かあった。早坂がサブ、宮澤の最終ライン起用という(筆者に言わせれば)不可解な起用には何か理由があるのかと思ったらこういうことだった。さすがはミシャだ。
 広島はハイネルと青山。ハイネルは恐らく先述の理由だろう。稲垣は守備(特にネガティブトランジション)に優れる。青山への交代は、より攻撃的なスイッチだ。
46分~

5.2 10分間のトップ下・荒野


 後半はその荒野ののクロス→ジェイのヘッド(枠外)でオープニング。直後の広島のGKのシチュエーション。札幌はジェイとアンロペの2トップ、荒野がトップ下のような配置になっていた。広島は右に展開し、アンロペの二度追いと深井のサポートで札幌がボール回収に一度成功(その後奪われ、広島のCK⇒失点に繋がった)。
後半立ち上がりは荒野をトップ下気味に中央を守らせる

 52分、札幌のボールロストから広島が自陣内で組み立てる。左からの前進を広島が探ると、荒野はそれまでいた左から中央付近にポジションを移しながらマーク対象の選手を探す。この時は柴崎がポジションを上げてアンカーポジション、更にはボールサイドに寄っていくが、荒野は柴崎を捕捉してついていく。明らかにシャドーとは異なる働きだ。
2トップと2列目の間に入って広島のアンカーを監視

 一方、上図のシチュエーションでなぜ荒野は最初左にいたのか。それは、「攻撃時は通常の左シャドー、チームは[1-3-4-2-1]」の設計でプレーしているからだ。その流れから、守備に切り替わるとそれまでいたポジションからプレーを開始することになる。

 前半の流れが変わらなければ、荒野はどっちのシチュエーションでプレーする局面が多くなるか。普通に考えれば、札幌が守備をしている局面だ。しかし55分以降、荒野は殆ど左シャドー、札幌は[1-3-4-2-1]のいつもの形になっていた。これは意図して切り替えたのか、それとも攻撃の形は作れないけど、攻撃陣形の[1-3-4-2-1]でプレーしたいがためにその形のまま守備をすることが多かったのかはわからない。確かなのは、57分に深井がハイネルに削られた時に、荒野がロペスに「右サイドに行けよ」という指示をしてロペスが従っていたことだ。

5.3 菅野のミスから失点


 47分、広島の左CKから、東のクロスをストーンのジェイがクリアミス。上空に上がったボールを菅野が出るも触れず、渡が押し込んでトータルスコアは4-3に。
 広島のCKは全てニア狙い。ジェイが処理することが多く(これ以外はほぼノーミスで、ジェイは信頼できるDFだ)、恐らく菅野が出るか出ないかの線を狙っていたと思われる。ソンユンの高さに慣れているDFにとっては難しいシチュエーションだ。

6.次なる手

6.1 左サイドのアップリケ荒野


 「5.2」の経緯の末に荒野は左シャドーとして結局プレーすることになる。前半と比較すると、ルーカスが荒野に変わった形だ。この影響は小さくなく、荒野はルーカスが放置していた左サイドのボールホルダーにプレッシャーをかけることができる。これで、福森の前方で川辺がボールを受け放題だったこと、その背後にスペースができることの解消(少なくともごまかし)に成功した。
荒野の運動量で左サイドの穴をふさぐ

6.2 主戦場はサイドへ


 広島は攻め手を変える。中央が空かないとなればサイドだ。アンロペと荒野、より守備貢献が小さいのは前者。そのサイドから、WBを起点に札幌の2枚の中盤の脇を使う。シャドーが受けてサイドに抜け出したり、更に中央の渡を狙うなどのパターンだ。
 主戦場はサイドになる。サイドの選手のクオリティにもよるが、札幌としては前半よりも広島の攻撃がゴールから遠ざかるのはありがたいところだ。
仕掛けのある柏を起点にスペースを使う

 左の中野は前半のサロモンソン、後半のハイネル共に抑えていた。両者ともあまりドリブルで仕掛けてこない。味方を使ってのフリーランが多いが、中野はコース取りが巧みだった。
 白井は困難に直面していた。柏が仕掛けを解禁すると単純に負担が増える。69分には、左サイドでの1on1に佐々木がオーバーラップして数的不利に。白井は佐々木を”誰か”に任せる。しかしアンロペはここまでは戻れないので”誰か”はいない。フリーの佐々木のクロスを菅野がファンブルし、渡が詰めるもポストに救われた。76分にはパスをインターセプトしようとして失敗し、柏がフリーでゴール方向に突進。頼りになる男・早坂のカバーリングでコーナーに逃れた。

6.3 金子と野津田の投入


 75分、札幌は深井⇒金子。76分、広島は柴崎⇒野津田。深井は中3日で90分プレーを続けることにリスクがあるとの判断だったか。野津田は福森とマッチアップするポジションに配される。
76分~

 広島の攻め手は柏。82分には川辺のパスで左サイドを抜け出して爆走。マイナスの折り返しを青山がダイレクトシュートも中野がブロック。
 最後の10分は総力戦だった。柏が左から仕掛けたと思えば、流れの中から中央にも移動する。89分には札幌のポジトラからジェイが前を向いて運ぶ。何故か福森が全速力でオーバーラップ。この攻撃が失敗すると、前残りの柏が裏に抜けてキムミンテとの1on1。シュートは枠内だったが菅野が横っ飛びでセーブ。これが最後のチャンスで、最後は菅野に救われた札幌が辛くも逃げきった。

雑感


 進藤の欠場によって急遽配されたCB宮澤。この、ひいおばあちゃんの家財道具を引っ張り出すような既に過去のものと化した選手起用と、北海道の選手を優先的に使いたいとのミシャのでっかいどうな親心、そして福森の選手特性と広島のゲームプランによってドラマティックな2戦目になった。
 
 福森は劇場型DFだ。福森ほど見せ場のあるDFはこの世にいない。しかしながら、これだけ数字に表れる結果を出してなお代表に引っかからないDFもいない(マリアーノ・ペルニアの帰化直後等、特殊な事情がなければ)。日頃、隣人のチャナティップ、菅、ミンテにいかに守られているかが。広島の執拗な左サイド狙いによって立証された。

 コンディションについて。久々の連戦となった深井やロペスは、あまりコンディションがよくなかったかもしれないが、中野などを見ると一概には言えないと思う。この試合展開の理由は他にもあるだろう。

 準々決勝の相手はガンバ大阪。直前のリーグ戦と併せてガンバ3連戦だ。ルヴァンカップでは、再び代表組(U-22代表も遠征が予定されている)の不在が予想される。
 特に影響が大きいのは、攻撃面のチャナティップの不在。札幌のビルドアップは、最終的にはチャナティップかジェイがボールをキープしていることが多い。この試合、ジェイに放り込まなかった理由は、恐らくジェイが競った後に拾える選手がいない、加えてマイボールの時間を作りたい(ジェイに蹴って失敗するとすぐ相手にボールを離してしまうことになる)ためだったと思う。チャナティップの代役は誰にも務まらないのは悩ましいが、カップ戦でタイトルを獲るには運も重要だ。予想だにしない選手が救世主になる展開もありうるかもしれない。

用語集・この記事上での用語定義


1列目守備側のチームのうち一番前で守っている選手の列。4-4-2なら2トップの2人の選手。一般にどのフォーメーションも3列(ライン)で守備陣形を作る。MFは2列目、DFは3列目と言う。その中間に人を配する場合は1.5列目、とも言われることがある。ただ配置によっては、MFのうち前目の選手が2列目で、後ろの選手が3列目、DFが4列目と言う場合もある(「1列目」が示す選手は基本的に揺らぎがない)。攻撃時も「2列目からの攻撃参加」等とよく言われるが、攻撃はラインを作るポジショングよりも、ラインを作って守る守備側に対しスペースを作るためのポジショニングや動きが推奨されるので、実際に列を作った上での「2列目」と言っているわけではなく慣用的な表現である。
サリータ・ラボルピアーナセンターバック2人の間にセントラルMFの選手が降り、計3人で3バックの配置にしてからビルドアップを行うこと。相手が2トップで守備をする時に3人で数的優位かつ、幅をとることで相手2トップがカバーしきれないポジションからボールを運べるようにする。最近誰かが「サリーちゃん」と言い出した。
質的優位局所的にマッチアップしている選手同士の力関係が、いずれかの選手の方が優位な状態。攻撃側の選手(の、ある部分)が守備側の選手(の、攻撃側に対応する部分)を力関係で上回っている時は、その選手にボールが入るだけでチャンスや得点機会になることもあるので、そうしたシチュエーションの説明に使われることが多い。「優位」は相対的な話だが、野々村社長がよく言う「クオリティがある」はこれに近いと思ってよい。
ex.ゴール前でファーサイドにクロスボールが入った時に、クロスに合わせる攻撃側がジェイで、守備側は背が低く競り合いに弱い選手なら「(攻撃側:ジェイの)高さの質的優位」になる。
→「ミスマッチ」も参照。
守備の基準守備における振る舞いの判断基準。よくあるものは「相手の誰々選手がボールを持った時に、味方の誰々選手が○○をさせないようにボールに寄せていく」、「○○のスペースで相手選手が持った時、味方の誰々選手が最初にボールホルダーの前に立つ」など。
数的優位局所的にマッチアップが合っておらず、いずれかのチームの方が人数が多い状態。守備側が「1人で2人を見る」状況は負担が大きいのでチャンスになりやすい。ただし人の人数や数的関係だけで説明できないシチュエーションも多分にあるので注意。
チャネル選手と選手の間。よく使われるのはCBとSBの間のチャネルなど、攻撃側が狙っていきたいスペースの説明に使われることが多い。
トランジションボールを持っている状況⇔ボールを持っていない状況に切り替わることや切り替わっている最中の展開を指す。ポジティブトランジション…ボールを奪った時の(当該チームにとってポジティブな)トランジション。ネガティブトランジション…ボールを失った時の(当該チームにとってネガティブな)トランジション。
ハーフスペースピッチを縦に5分割した時に中央のレーンと大外のレーンの中間。平たく言うと、「中央のレーンよりも(相手からの監視が甘く)支配しやすく、かつ大外のレーンよりもゴールに近く、シュート、パス、ドリブル、クロスなど様々な展開に活用できるとされている空間」。
ビルドアップオランダ等では「GK+DFを起点とし、ハーフウェーラインを超えて敵陣にボールが運ばれるまでの組み立て」を指す。よってGKからFWにロングフィードを蹴る(ソダン大作戦のような)ことも「ダイレクトなビルドアップ」として一種のビルドアップに含まれる。
ビルドアップの出口後方からパスを繋いで行うビルドアップに対し、相手は簡単に前進させないようハイプレス等で抵抗する。
この時、ハイプレスを最初から最後まで行うとリスキー(後ろで守る選手がいなくなる)ので、ハイプレスは人数やエリアを限定して行われることが多いが、ビルドアップを行っているチームが、ハイプレスを突破してボールを落ち着かせる状態を作れる場所や選手を「ビルドアップの出口」と言っている。
ブロックボール非保持側のチームが、「4-4-2」、「4-4」、「5-3」などの配置で、選手が2列・3列になった状態で並び、相手に簡単に突破されないよう守備の体勢を整えている状態を「ブロックを作る」などと言う。
マッチアップ敵味方の選手同士の、対峙している組み合わせ。
マンマークボールを持っていないチームの、ボールを持っているチームに対する守備のやり方で、相手選手の位置取りに合わせて動いて守る(相手の前に立ったり、すぐ近くに立ってボールが渡ると奪いに行く、等)やり方。
対義語はゾーンディフェンス(相手選手ではなく、相手が保持するボールの位置に合わせて動いて守るやり方)だが、実際には大半のチームは「部分的にゾーンディフェンス、部分的にマンマーク」で守っている。
ミスマッチ「足が速い選手と遅い選手」など、マッチアップしている選手同士の関係が互角に近い状態とはいえないこと。

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