0.スターティングメンバー
スターティングメンバー |
札幌(1-3-4-2-1):GKク ソンユン、DF進藤亮佑、キム ミンテ、福森晃斗、MF白井康介、荒野拓馬、宮澤裕樹、菅大輝、鈴木武蔵、チャナティップ、FWジェイ。サブメンバーはGK菅野孝憲、DF石川直樹、MFルーカス フェルナンデス、深井一希、中野嘉大、早坂良太、FW岩崎悠人。小野⇒岩崎以外は前節とメンバーは同じ。荒野と深井の序列が変わってきたことを示唆させる。
清水(1-4-2-3-1):GK西部洋平、DF立田悠悟、吉本一謙、二見宏志、松原后、MFヘナト アウグスト、竹内涼、金子翔太、河井陽介、西澤健太、FWドウグラス。サブメンバーは GK大久保択生、DFファン ソッコ、飯田貴敬、MF六平光成、滝裕太、FWジュニオール ドゥトラ、中村慶太。エウシーニョは内転筋痛で欠場し、代役は立田。他はここ数試合と同じメンバー。ヘナト アウグスト、立田は先発出場した天皇杯から中2日。
その他プレビューはこちら。
1.想定される互いのゲームプラン
1.1 札幌のゲームプラン
”ボールは預けてもいいが、ゲームのコントロールは渡さない”。
清水ボールの時間帯が多くなる展開も頭に入れつつ、その際に受け身の守備でボールに振り回されるのではなく、しっかりアクションをしていこう、との考えだったと思う。そしてそのアクションの目的はカウンターアタックの機会創出にあっただろう。
1.2 清水のゲームプラン
清水の選手の試合後のコメントを見ると、「(札幌との)システムが噛み合わないことによりうまくいかなかった」とするコメントをしている選手が2人いる。プレビューでも毎回触れているシステム噛み合わせ論だが、”それで全てが決まるほどではないにせよ、議論の出発点となる場合もある”程度には重要だ。この”噛み合わないエリア”について、札幌がどう対応してくるか、ボールを保持しながら見極めつつゲームを進めていこう、との意図だったと思う(試合展開上、その意図は次第に薄れていったが)。
2.基本構造
2.1 札幌の守備の改善(固定的なマンマークの見直し)
札幌は基本的にマンマークの意識が強いチームだ。マーク対象の選手を決めて、(いつぞや駒井が言っていたが)”責任をもって”対応する。
このやり方は一長一短だ。プレビューでも触れたが、清水と同じ4バックの仙台戦で顕著だったのは、予めマークを決めて固定的に動こうとすると、相手選手が動くと札幌の選手も動かされる。特に、相手のSBが攻撃参加すると、その選手に”責任を持っている”札幌のシャドーの選手(この試合で言うとチャナティップと武蔵。仙台戦で言うと武蔵とアンロペちゃん)が攻撃参加に引っ張られてポジションを押し下げられる。すると、本来取りたいポジションから乖離してしまう(前で攻撃したいのに、ポジションがどんどん下がる)という現象だった。
(仙台戦)マークを固定しすぎて相手の動きに振り回される |
この試合では札幌はあまり個々のマンマーク関係を固定的にしていなかった。例えば、清水の右SBの立田にボールが渡ると、通常このポジションの相手選手に”責任を持っている”チャナティップに対応を全て任せるのではなく、最終ラインから菅がジャンプして立田の正面を切る。
この時、菅は背後に本来”責任を持つべき選手”の金子がいるが、菅が立田にアタックする瞬間、金子を福森に預けて(受け渡して)いたとも言えるし、人によっては「捨てていた」とも言えるだろう。というのは、菅が寄せてくる瞬間に立田が浮き球のパスなので菅の背後を取れば、その瞬間金子がフリーでボールを受けることも可能で、特に全般にプレーの切り替えに難のある福森が関わるとなるとそのチャンスは大いにあったと思う。
しかしエウシーニョの代役の立田にそうした仕事は厳しかったか。3:28の局面では下のように寄せられて、パスミスからボールを失って札幌のカウンターを招いてしまった。
SBに対しては状況に応じてシャドーとWBで分担するなどマーク関係を固定しすぎない対応に切り替える |
2.2 清水のボール保持時の狙い
清水は序盤の10分~15分ほどは、”噛み合わない”札幌の対応を見極めていたと思う。その札幌の対応は「2.1」の通りだと判明した15分頃から、徐々にボールの動かし方が変わってくる。
札幌はウイングバックを前に出して守る。サイドで清水のSBがボールを保持すると、菅や白井はかなり高い位置までポジションを上げてアタックする。そのWBの背後が空くので、まずはそこに選手を走らせて前進させようとの意図が見られた。
これは左右両サイドから探っていたように見える。試合前に立田が「(左SBの松原)后君に上がってもらい自分はカバーする。相手にカウンターをさせないことが肝になる」と語っている記事があったが、そのような役割分担が成立するか否かは、自らの意志だけではなく相手の振る舞いによって規定される。結果的には、立田からの展開もそれなりに多かったと思う。これは清水は右利きの選手が多いので、右の金子、左の西澤で比較すると、サイドに流れた時に金子の方がスムーズにボールを扱えそうだったことも要因かもしれない。
札幌のWBが前に出てくることを確認した後はその背後を狙う |
少し予想外だったのは、ヘナト アウグストも右サイドで菅の裏を狙うなど攻撃参加していく。ヘナトは基本的に中央でボールを狩る役割の選手だ。清水がボールを保持している時に、ヘナトが中央から離れた状態で清水の攻撃が失敗すると、札幌は厄介なヘナトが中央にいない状態で攻撃を始められる。このことを考えると、あまり動きすぎない方が良さそうだったが、実際はかなり動いていた。そしてそのスペースを竹内がカバーできていたかというと、これも微妙だった。
3.ボスロイド 動きます
プレビューで清水について「ボール非保持(自陣):最終ラインの押し上げは消極的」と書いたが、札幌がこの試合を通じて繰り出していたカウンターアタックは、この清水の特徴を分析した上でのアクションが見られた。
上記「1.1」で触れた、3分の立田のボールロスト(このシチュエーションで簡単に失う時点でかなり厳しいが)から始まる札幌のカウンターの場面で例示する。
札幌ボールへとトランジションが生じると、清水はやはり4バックがリトリートを優先してラインを下げている。この位置では、ヘナト アウグストがネガティブトランジションを一身に引き受けているのもプレビューで見た通りだ。
札幌はチャナティップと武蔵が前線に駆け上がる。カウンターアタックにおいて速さは重要な要素だ。相手守備が整っていない状態で叩くことができれば得点期待値を高められる。だからチャナティップや武蔵がまずゴール方向に走るのだが、この時ジェイだけゴールとは反対方向に動いている。この動きによって、ジェイは清水の中央の選手のマークから完全に外れてフリーになっている。”中央の選手”というのは、本来のマーク関係でいうと吉本か二見、スペース管理の観点でいうと竹内。どちらもジェイの存在はまったくケアできていない。この試合を通じて、ジェイは札幌のトランジションでは常にこの位置を狙うことで、トランジション後の”最初の攻防”を優位な状態としていた。
トランジション後、清水DFが撤退を優先することを逆手にとってジェイは中央でフリーになって起点に |
4.格好の餌撒き
24分の札幌の2点目(ジェイのヘッド)について。
この得点は竹内の縦パスを福森がインターセプトしたところから札幌のカウンターが発動している。福森のカットがチャナティップへのパスとなり、チャナティップのドリブルで清水のDFはペナルティエリアまで後退し、菅の仕掛けにつながっている。
チャナティップがフリーでドリブルを開始した要因は、竹内がセンターサークル手前まで下がってボールに関与し、本来のポジション(下図の白円)から離れていたことにあった。「2.2」に示したヘナトの攻撃参加に関しても同様のことが言えるが、SBをサイドの高い位置に張り出してプレーさせるシステムにおいて、セントラルMFの選手が動きすぎるとトランジョンでの対応が課題になる。それが、特に「3.」のジェイの中央でのプレー、チャナティップや武蔵も中央寄りのポジションを取ることで、格好の餌となってしまった。
中盤センターの選手が動きすぎるとトランジション後に札幌は中央から攻撃できる |
雑感・メモ
戦術的には、全般にプレビューで予想した通りの展開が多く、今一度書きたいと思うことが少なかったが、一言で言うと札幌は清水の「センターサークル付近を狙い撃ち」することでトランジション後の攻防を優位な状態にしていた。後は、下に<メモ>としていくつか列挙したような細かい話が気になった。
ここ数年、清水は4バック系のシステム、札幌は3バック系のシステムということもあって、清水戦は毎回似たような構図になっている。”システムが噛み合わない”状況は互いに同じ条件だ。ミスマッチをプレスの強度で圧殺し、サイドに選手が2枚いる優位性をポジショナルに活用できれば清水、それが無理なら札幌の横幅攻撃が炸裂し、ジェイvsパワー不足の清水DFという最悪なマッチアップが露見される。その意味では、筆者が清水の選手で最も注目していたのがプレッシングの核となるヘナト アウグストだったが、ヘナトがボールを狩れない展開になったことで「8点」はともかく勝ち点3は約束されたと言えるかもしれない。清水の近年の監督でミスマッチが生じる相手への対策が一番うまかったのは、ヤン・ヨンソンだったと思う。
<メモ>
・ヘナトと竹内の関係。両方とも前に行くなど連携がイマイチのように見えた。理由は?
・白井の右サイドの”無理がきく”守備。
・2017年の対戦でも感じたが、ジェイ相手に二見では確実にパワー不足(ファン ソッコは?)。
用語集・この記事内での用語定義
1列目 | 守備側のチームのうち一番前で守っている選手の列。4-4-2なら2トップの2人の選手。一般にどのフォーメーションも3列(ライン)で守備陣形を作る。MFは2列目、DFは3列目と言う。その中間に人を配する場合は1.5列目、とも言われることがある。 |
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守備の基準 | 守備における振る舞いの判断基準。よくあるものは「相手の誰々選手がボールを持った時に、味方の誰々選手が○○をさせないようにボールに寄せていく」、「○○のスペースで相手選手が持った時、味方の誰々選手が最初にボールホルダーの前に立つ」など。 |
ショートカウンター | 守備ラインを高めに設定し、相手ゴールに比較的近い位置でボールを奪い、速く攻撃すること。 |
トランジション | ボールを持っている状況⇔ボールを持っていない状況に切り替わることや切り替わっている最中の展開を指す。ポジティブトランジション…ボールを奪った時の(当該チームにとってポジティブな)トランジション。ネガティブトランジション…ボールを失った時の(当該チームにとってネガティブな)トランジション。 |
ハーフスペース | ピッチを縦に5分割した時に中央のレーンと大外のレーンの中間。平たく言うと、「中央のレーンよりも(相手からの監視が甘く)支配しやすく、かつ大外のレーンよりもゴールに近く、シュート、パス、ドリブル、クロスなど様々な展開に活用できるとされている空間」。 |
ビルドアップ | オランダ等では「GK+DFを起点とし、ハーフウェーラインを超えて敵陣にボールが運ばれるまでの組み立て」を指す。よってGKからFWにロングフィードを蹴る(ソダン大作戦のような)ことも「ダイレクトなビルドアップ」として一種のビルドアップに含まれる。 |
ビルドアップの出口 | ビルドアップを行っているチームが、ハイプレスを突破してボールを落ち着かせる状態を作れる場所や選手。 |
マッチアップ | 敵味方の選手同士の、対峙している組み合わせ。 |
マンマーク | ボールを持っていないチームの、ボールを持っているチームに対する守備のやり方で、相手選手の位置取りに合わせて動いて守る(相手の前に立ったり、すぐ近くに立ってボールが渡ると奪いに行く、等)やり方。 対義語はゾーンディフェンス(相手選手ではなく、相手が保持するボールの位置に合わせて動いて守るやり方)だが、実際には大半のチームは「部分的にゾーンディフェンス、部分的にマンマーク」で守っている。 |
お疲れ様です
返信削除清水の交代カードの切り方はどうとらえられました?
選手交代は結構気になったので記事で触れようかと思いますが、疲れていたのもあって省略していました。
削除1人目のドゥトラを入れたのは、シンプルに、所謂ゴール前でクオリティを発揮できるタイプが欲しかったんだと思います。ただ、ドゥトラもコンディションが恐らく万全ではなく、また選手特性的に本来スペースがある状況で投入するカード(イーブンもしくはリードしている状況で前に置いてカウンターみたいな使い方)を切らざるを得ないのが根本的に厳しいところでした。
2枚目の立田⇒飯田は監督が言う通り、立田のパフォーマンスが厳しかったため。疲労があるにしても、エウシーニョの代役として許容できるレベルではなかったので。ただ、これで1枚使うのは厳しいですね。
3枚目の竹内⇒滝は攻撃の選手を増やしてバンザイアタックですが、Jリーグだと結構この手の采配をよく見る気がします。得失点差の問題もありますが、4点取られている時点でバランスに問題があるのは明白で、そこの改善にリソースを割いたほうが結果的には僅かでも可能性が高まるんじゃないかと思うのですが。
という具合に、2枚目はともかく1枚目と3枚目のカードは、ゴール前にボールが入った時のクオリティはともかく、全般にバランスは崩れるなという交代でした。
完全にこれは素人の結果論ですが、例えば攻撃の枚数を増やしたいなら、前半終わった段階で3バック(二見-吉本-立田)の1-3-4-2-1にしてマンマーク主体のミラーゲームに切り替える等のやり方もあったと思います。