2019年6月13日木曜日

プレビュー:2019年6月14日(金)明治安田生命J1リーグ第15節 川崎フロンターレvs北海道コンサドーレ札幌 ~シャーレという印籠~

1.予想スターティングメンバー

予想スターティングメンバー

・札幌:
 ×(非帯同、欠場確定):MFルーカス フェルナンデス(前節退場処分により出場停止)、FW菅(日本代表招集)、FW岩崎(U22日本代表招集)
 ×(負傷等で欠場濃厚):MF宮澤(5/25ガンバ戦での右膝軟骨損傷)、MF駒井(右膝半月板損傷、6月末に復帰の見込み)
 ▲(負傷等で出場微妙):MF中野(6/1広島戦での負傷)

・川崎
 ×(非帯同、欠場確定):MF田中(U22日本代表招集)
 ×(負傷等で欠場濃厚):DF奈良(4/26トレーニング中に左膝内側側副靭帯損傷、内側半月板損傷)
 ▲(負傷等で出場微妙):なし

 昔々あるところにアンドレ・ルイス・デ・ソウザ・シルバという釣りが趣味の男がいた。男はやがて好きなお菓子をルーツにした名前「ビジュ」と名乗りコンサドーレ札幌と契約した。ブラジル人とは思えない足さばきと全治3週間の負傷を1週間で治す強靭な肉体を武器にビジュは活躍を続け、道産子の美しい奥さんを嫁にもらって幸せに暮らしたとさ。
 時は流れ、札幌にアンロペという股下が長い男が移り住んできた。男は爆発的な得点力と軟体生物のような身のこなしからのドリブル突破で活躍を続けたが、不慮の事故により大怪我を負って故郷に帰ってしまった。ブラジルに帰った初日、床に就くアンロペに「きこえますかアンロペさん…あなたの頭の中に直接話しかけています…」ビジュの加護を受けて負傷から回復したアンロペはその後も活躍を続け、札幌で幸せに暮らしたとさ。めでたしめでたし。

 国際Aマッチウィークを挟んでの一戦。2週間前に札幌の空を覆っていた暗雲はよさこいソーラン祭りの太鼓の音とともに遠くに去って行った。6月10日、スポークスマン・ジェイ ボスロイドが自身のインスタグラムにおいて高らかに宣言する ”All injured players are now back in training which means we have a fully fit squad.”。
 前節・広島戦の前後で一気に負傷離脱者が増え、しかも全て中盤~全員が前線の選手。追い打ちをかけるように、ルーカス フェルナンデスは前節の退場処分により出場停止(試合後すぐに奥さんとともに新千歳から舞浜に飛び立ち、オフを満喫したトランジションの速さは流石である)という状況だったが、2週間の休みがあったことは僥倖だった。「出場微妙」だった鈴木武蔵、チャナティップはいずれも出場できる状態のようだ。
 アンデルソン ロペスは6/8のU18との練習試合にも先発出場しており出場に問題はなさそうだ。溶鉱炉に落ちても復活してプレーを続ける。靭帯損傷から1ヶ月で復帰する。「アンデルソンロペス=ターミネーター」説の完全立証にまた一歩近づいた感がある。まだビジュである可能性は排除しきれていないが。
 ジェイの”All injured players"に含まれていない人物は恐らく2人。「夏復帰予定」の駒井(6月末に復帰との報道)、そしてキャプテン宮澤。ジェイのインスタグラムには白井のパーマ頭と小野の坊主頭が写っているが宮澤の姿は確認できない。
 予想スタメンは、最終ラインと中盤2人は決まっている。アウトサイドは恐らく右が早坂。左は読めない。筆者の意見では川崎相手なら右は守備的、左は攻撃的な選手起用が良い。よって希望込みで白井としている。トップは迷ったが武蔵とした。武蔵が全体練習に復帰したのは今週火曜日。ジェイの方がコンディションが良さそうだが、ミシャは川崎相手に守備で仕掛けてくるはず。となると武蔵しかいない。

 川崎は奈良以外は、負傷者が戻ってきている。選手層は間違いなく日本一。前節・浦和戦では負傷者以外に中村健剛、馬渡、阿部がベンチ外だった。普通、勝っているチームはスタメンで出られない選手が出場機会を求めてチームを離れるが、どのポジションにもスタメンと遜色ない能力を持つ選手をバックアップに置いている。大卒選手が毎年入団してくるのも卑怯である。
 川崎でスタメン当確と言えそうなのはGKのチョン ソンリョン、DFの谷口、好調を維持する登里、MFの大島、長谷川、家長あたりか。中盤は田中が代表招集中のため、守田も恐らく確定か。前節は右SBに左利きの車屋が起用されていたが、サイドに張って仕掛ける仕事は他の選手で代替できるので、”サイドに蓋をする”仕事の能力を買われたのだろう。谷口の隣を守るCBはじぇじぇじぇ…ジェジエウ。前線はレアンドロ ダミアンを軸として、そのパートナーは2トップ気味に小林が有力だが、戦術的なオプションとしてはその背後に脇坂を置く選択肢もありうるだろう。


2.戦術面の一言メモ


 サッカーは4局面:「ボール保持」「ボール非保持」「ポジティブトランジション」「ネガティブトランジション」に分けられると言われる。
サッカーの4局面

 一方、個人的に最近思うのは、特にJリーグにおいてはこの4局面の考え方にプラスして、ボール保持を「自陣ボール保持」「敵陣ボール保持」、ボール非保持を「自陣ボール非保持」「敵陣ボール非保持」と明確に区分した方が説明がつきやすいように思える。
 先日のUEFAチャンピオンズリーグファイナル、リヴァプールとトッテナムの一戦は、後半運動量が落ちるまでは、互いに自陣ボール保持と敵陣ボール保持(非保持)の攻防が一体化、シームレスなものになっていて、まるでフットサルのように自陣でのボール保持で得た優位性がそのまま敵陣にドライブされるような展開だったが(近年最低の決勝、とも言われていたらしいが…)、Jリーグのゲームテンポはもう少しスローで、「自陣」「敵陣」を区別してみた方がより実態に近い。

※以下、札幌は青字が前節との変更点。

2.1 札幌


 基本戦略:より多くの人数による攻撃を突きつけ、相手の攻撃機会や攻撃リソースを奪う(守勢に回らせる)。

 ボール保持(自陣ビルドアップ):ビルドアップはミシャ式4-1-5から、高い位置に張るWBを出口と位置付けてサイドチェンジ等でボールを届ける。キム ミンテがスタメンに復帰して以降は後方の役割が固定気味で、宮澤がアンカー、深井が中央左。福森のフリーロールも自重気味。ールキックは相手がハイプレスの構えを取らなければCBにサーブする。そうでなければ無理せずロングフィード。

 ボール保持(敵陣):押し込んでから仕掛けるのは右のルーカス。菅は極力シンプルにクロス供給に専念。ルーカスのアイソレーションを活かすためにチャナティップ、福森からのサイドチェンジを狙うが、チャナティップは消されがち。

 ボール非保持(敵陣):相手がボール保持が得意なチームならハイプレス。ハイプレス時、リトリート時ともにマンマーク基調の守備を展開する。特に相手のCBと中盤センターに同数で守備できるよう、前線の枚数を調整することが多い。

 ボール非保持(自陣):基本は5-2-3で、前3枚はポジティブトランジション用に残しておく。ゴール前からCBを動かさないことを念頭に置く。マンマーク関係を維持する。

 攻撃→守備の切り替え(ネガティブトランジション):中盤2枚は即時奪回を目指す。ビルドアップが成功するとともにポジションと役割がCBからMFになる。CBは2枚、時に1枚で相手のFWと同数。裏はGKク ソンユンの極端な前進守備で何とかさせようとの考えがここ数試合は強くなっている。

 守備→攻撃の切り替え(ポジティブトランジション):ゲームプラン次第。ロペスを欠くここ数試合はあまりオープンな展開を好まない。相手のネガトラの方針にもよるが、前半は急がないことが多い。後半、オープンになってからはチャナティップ(オープン展開で前残りしていれば速攻の起点になりやすい)からの速攻が増える傾向。

 セットプレー攻撃:キッカーはほぼ全て福森に全権委任。ファーサイドで、シンプルに高さを活かすことが多い。
 セットプレー守備:コーナーキックではマンマーク基調。

2.2 川崎


 基本戦略:ボールを保持して場を整え、被カウンターのリスクを消しながら殴り続ける。

 ボール保持(自陣ビルドアップ):形は1-4-4-2ないし1-4-2-3-1でSHは幅取り。長谷川(左)は幅を取り続けるが、家長(右)はフリーロールで、試合途中から中に入る傾向が強い。役割が整理されている左からの前進が多くなっている。ただしゴールキックでの振る舞い(FWへのロングフィードが基本)も考慮すると、パスを繋いで前進することにイメージほど拘っていないとも捉えられる。

 ボール保持(敵陣):ゾーン3侵入後はSHとSBが被らないポジションを取る。ボールサイドに人を集め、ブロック前~中でパス交換からのローポスト侵入、高速低空クロスが崩しのパターン。これも左サイドが優位で、右は家長が絞ったり、SBが幅を取らなかったり(左利きの車屋が右を務める場合もある)で、あまり活用されない。
 ボールと反対サイドはあまり幅を取らず、サイドチェンジよりも突っ込む攻撃主体。

 ボール非保持(敵陣):4-4-2中央密集、ミドルゾーンでブロックをセットが基本。基本はハーフウェーライン付近で待っているが、大分トリニータのようなGKのビルドアップ関与度合いが高いチーム相手には、マンマーク気味のハイプレスもあり(札幌もどちらかというとそっちか)。

 ボール非保持(自陣):4-4-2中央密集。ゴール前ではスライドせずFWを捕まえる(サイドを変えるとSB-CBチャネルが空きやすい)。

 攻撃→守備の切り替え(ネガティブトランジション):予防的なポジション(ボールサイドに密集、相手FWにマンマーク)をとってからの6秒ルールでゲーゲンプレス。

 守備→攻撃の切り替え(ポジティブトランジション):自陣奪回は作り直す。敵陣奪回はそのままトップに当てて突っ込む。

 セットプレー攻撃:キッカーは中村憲剛不在なら家長。
 セットプレー守備:コーナーキックではマンマーク基調。

 川崎が(自陣・敵陣はひとまず置いておいて)ボールを保持している時の基本的な動きを図示すると以下。CBがペナルティエリア幅に開いてハーフスペースの入口に立つ。この2人はボールを敵陣に運んだ後は、相手のFWに対しマンマーク気味にネガトラ対応をする。中央は大島と守田が縦関係になることが多い。
 家長はフリーロール(特定の役割やポジショニングに縛られない)で、”Galacticos” レアルマドリードのジダンのように中に入り、かつての憲剛の仕事を担う。違うのはジダンの背後にはロベルトカルロスがいて、背後からその前までカバーするが、川崎は右SBにそこまでを求めていない。右SBで幅を取る仕組みを何らか確保しないと必然と左偏重の攻撃になりがちだと思うが、それは織り込み済みで設計している(右サイドは捨てるか、個人の突撃でなんとかする)ように見える。
川崎のボール保持時のポジショニングとマッチアップ

 札幌は予想スタメンの通りで、いつもの得意のマンマークで対抗すると想定する。札幌の前線vs川崎のビルドアップ部隊ではマッチアップが合う。数的にも4on4で同数、特に無理のあるポジションや選手同士の対面もない。しかし川崎の左サイド、偽SBで絞ってくる登里や、白井では少々距離のあるマギーニョへの対応はポジショニング的なミスマッチが想定される。

3.予想される互いのゲームプラン

3.1 札幌のゲームプラン


 ミシャは川崎の他マリノス、名古屋?あたりのチームを、”敵陣でのボール保持攻撃に優れる(するに相手にボールを持たせて自陣から守備を開始するのではやられてしまう)チーム”だと認識しており、それらのチーム相手には守備開始位置を高め、ハイプレスを仕掛けて札幌陣内にボールを運ばせないことを念頭に置いた戦い方を選択する傾向にある(川崎戦その①:昨年7月)(川崎戦その②:昨年9月)。
 →筆者の印象では川崎はマイナーチェンジしつつある(後述するが、敵陣ゴール前で崩すというよりトランジションで相手をハメるチームになりつつある)が、恐らくミシャのこの基本認識は変わっていない。となるといかに効率よくハイプレスを仕掛け、川崎のペースにさせないか、をまず考え、かつゴール前の守備強度も確保するという考え方になる。
 ボール保持攻撃はなるべくリスクを冒さず、また省エネ的な方策でいくことになるだろう。

3.2 川崎のゲームプラン


 ミシャ式相手に「ミドルゾーンでの1-4-4-2守備」は本来、最も対応が難しくなるやり方。横幅を5枚にせず4枚のままでいくならば、ブロックをより深く落とすか、ハイプレスでビルドアップを破壊するか、という考え方が妥当。
 →昨年9月の対戦と同じように、序盤は様子を見つつ、前半の途中から機を見て守備開始位置を高め、ハイプレスで対抗することになるだろう。

4.予想される試合展開とポイント

4.1 (札幌のビルドアップ)キム ミンテのリベンジとビルドアップの出口は?


 両チームの監督が誰を起用しようと、確実に言えるのは、このゲームの”ボス”は川崎だ。川崎に試合展開の選択権がある。そして恐らく川崎は、「3.2」に書いたように前半のうちに札幌にハイプレスを仕掛けてそのボールと戦意を喪失させようとしてくるだろう。昨年の9月15日のように。
 昨年9月の対戦で試合を決めたのは、札幌の自陣でのビルドアップの際の整理されないポジショニングと川崎の無慈悲なハイプレス。川崎の2点目、3点目は、それぞれ直接的な原因は深井とク ソンユン。しかし責任をとらされたのはキム ミンテで、この試合以降は宮澤がCB中央に収まり、ミンテはサブに降格するともに、札幌のビルドアップは5-0-5…要するに中央でのボールの運び役を宮澤・深井・荒野(または駒井)のMF3人にして、CBの選手をビルドアップ役から外すことになった。
(札幌)2018シーズンは「0-7」を経てビルドアップの形とメンバーを変えた

 2019シーズンも開幕からこの傾向は続く。しかしキム ミンテがパワー不足の最終ラインのソリューションとして返り咲くと、再び「0-7以前」のビルドアップに近い形に戻っている。そうした経緯をもって迎える等々力決戦。予想通り川崎がハイプレスを敢行してくるなら、このキム ミンテを含めたビルドアップ部隊の出来がキーになる。

 ビルドアップの成功、札幌の勝ちを定義するなら、”ビルドアップの出口”となる選手やポイントににボールを運んで落ち着かせる状態を作ること。出口は2つ想定される。一つはアンカーポジションの荒野。最近は開幕から憑いていた妖精もどこかへ消えていつもの荒野に戻りつつあるが、大島相手ならやれる可能性は十分にある。
川崎がハイプレスを仕掛けてきた時のマッチアップと、ビルドアップの出口の予想

 もう一つの出口候補はチャナティップ。昨年9月はチャナティップを見ていたのは右SBのエウシーニョ。チャナティップの背後に張り付くようなマークで得意の反転からの縦や反対サイドへの展開を完全にシャットアウトした影のMOMだった。
(2018年9月)チャナティップvsエウシーニョは川崎に軍配

 エウシーニョは川崎に去った。マギーニョ、馬渡には恐らくベストイレブン・エウシーニョほどのマンマーク対応はできない。となるとチャナティップを見るのは守田か?それとも右SBに車屋で専守防衛か。守田が左シャドーのチャナティップを見る仕事が多くなると、中央が手薄になる。ロングボールも多く使う札幌相手にそれは避けたいだろう。

4.2 (川崎の敵陣ボール保持攻撃)チャンピオンの印籠と本性


 川崎は何で強いの?とドーレくん(22)に聞かれたら筆者は「ボール保持攻撃が強いイメージで相手を押し込んでおいてからの、ネガティブトランジションが極悪だから」と答える。
 かつて浦和の監督を務めていたゼリコ・ペトロビッチ氏が「ゴール前にブロックを作られると崩せていないがどう対処するのか?」と記者に質問され、「ブロックを作られる前に攻める」と答えたことがあったが、川崎は遅攻になることのデメリットをあまり嫌っていない。それは遅攻展開で相手がゴール前を固めても得点を奪えるため。Jリーグの多くのチームも川崎はゴール前のコンビネーションで崩してくるとのイメージを持っていると思われ、川崎戦では撤退守備で守る術を必ずと言ってよいほど用意している。だからまず川崎との対戦では、川崎の”印籠”によって多くのチームは本来攻撃に割きたいリソースを守備に回さざるを得ない展開になる。
 しかし筆者の印象では、2019川崎はゴール前を固める相手をコンビネーションで崩すことと同じかそれ以上に、攻撃が失敗した後のネガティブトランジション発動→奪回・二次攻撃が機能していることがここ数試合の好調の要因だとみている。

 「2.2」に書いたように、川崎のボール保持攻撃は左偏重で設計されている。SH長谷川がウイング然としてサイドに張る、いわゆる”横幅要員”。SB登里はその斜め後ろでボールの供給役、かつ長谷川の斜め後ろでネガトラに備えながら、長谷川が相手の大外DF(図では早坂)を引っ張って開けたハーフスペースへの侵入を狙う。家長はボールサイドに寄り、大島は守田に背後を守ってもらって前線に突撃。ダミアンは主にファーサイドでクロスを待ち、小林はそのシャドーとしてDF-GK間へ飛び出す。
 ①長谷川が勝負してクロス、②ハーフスペース侵入、が主なパターンだが、これらは個々の選手が矮小なスペースしか得られていない空間で行われることが多い。というのは、川崎の選手がボールサイドに寄ってくると、そのマーカーとなる選手も引き連れてしまうため。
 またハーフスペースを狙ってくることはどのチームもわかっているため、図では進藤がいるが何らか人を配すなどして対策される。
川崎の敵陣での主なパターン ①大外勝負からのクロス ②ハーフスペース侵入

 川崎が②ハーフスペース侵入を選択して、札幌が守ったとする。札幌のポジティブトランジション、川崎のネガティブトランジションが発生して、札幌は攻撃に転じる(ボール保持時の陣形に変わる)ため、下図の黄色破線のように人が移動するが…
トランジションが生じて札幌ボールになると札幌の選手が移動

 ボール周辺に寄っていた川崎の選手がDFとなって相手のボールホルダーに襲い掛かる。この局面で、ボール保持側はボール周辺を守っていた数人の選手が広がる(=ボールから離れ、またポジション移動中はボールに関与しにくい)と、ボールホルダーへのサポートが薄くなる。川崎はこのタイミングを狙って、ボール周辺に密集していた数選手でゲーゲンプレス。一気に圧力をかけてボールを再奪回し、そのまま手薄になった守備を突いて二次攻撃を仕掛ける。こっちの方がむしろメインウェポンになりつつある。
即時奪回のゲーゲンプレス発動から手薄になったゴール前強襲を狙う

 このネガトラが機能して、川崎の相手が攻撃を守ってもすぐにボールを奪回…という展開になると、次第に攻撃を仕掛ける体力も気力も奪われて一方的な展開になってしまう。直近の試合では、第11節で川崎と対戦した清水は4失点を喫したがボール保持攻撃では崩されていない。何度かゲーゲンプレスを食らったのち、セットプレーとカウンターで前半のうちに2失点、後半は大島とダミアンのスーパーゴール、という展開だった。

 札幌はここでも誰に展開するかを決めておく必要がある。図にも書いたが、近くの選手が全員消されるなら前線に放り込んでリセットするのも手。2トップの布陣である1-3-1-4-2を推奨する理由の一つもここにあり、本調子のターミネーター・アンデルソン ロペスと武蔵のコンビなら、谷口・ジェジエウにも1~2回は勝機があるだろう。ロペスがシャドーの1-3-4-2-1なら、守備時は5-4ブロックで前線に武蔵のみ、1人で谷口とジェジエウの相手をしなくてはならない。

4.3 二度同じ失敗はしないはずだが…


 「2.2」の最後にさらっと触れたが、川崎のビルドアップに対して、札幌はいかなるシステム・人の配置であってもポジショニング上のミスマッチに頭を悩ませるはずだ。
 再び昨年9月の等々力を回想する。この時は札幌の布陣1-3-4-2-1、守備陣形は1-5-2-3。川崎は左SHが阿部なので、2列目が3人とも中央に寄る傾向があったのは今回との相違点。札幌は2シャドーが中盤センター2人(大島と下田)を見て、SBには5バック化しているWBがジャンプ(図では菅→エウシーニョ)。しかしこのやり方は、川崎の中盤センター2人をほぼフルコートでマンマークするシャドーの負担が大きい。25分過ぎの荒野のガス欠とともに札幌はブラックアウトに陥った。
(2018年9月)シャドーが中盤センターをマンマークしたが体力的負担が大きかった

 いくつかのミスマッチ覚悟で、筆者が2トップの1-5-2-2を予想するのは上記の顛末を見ているから。ミシャは同じ失敗を二度繰り返すことはないだろう、という希望的観測である。
 となると川崎の”出口”となる選手に明確なマーカーを用意する必要がある。登里には進藤か、早坂か。右SBには白井しかいない。
 こう考えると、白井のポジションは守備の役割が多い。撤退守備時も大外で「4人目のCB」として小林の裏抜けやクロスに常に目を光らせておく必要がある(「4.2」参照)。スタメン予想で左WBに”白井(石川)”、としたのはこのため。
川崎のビルドアップの出口を消さないと前線で枚数を合わせる意味がない

 なお札幌の、マリノス戦で成功した4バックの採用は、選手特性的に右MFにピンズドなルーカス フェルナンデスの不在を考慮するとない(はず…)。

用語集・この記事上での用語定義

・1列目:

守備側のチームのうち一番前で守っている選手の列。4-4-2なら2トップの2人の選手。一般にどのフォーメーションも3列(ライン)で守備陣形を作る。MFは2列目、DFは3列目と言う。その中間に人を配する場合は1.5列目、とも言われることがある。ただ配置によっては、MFのうち前目の選手が2列目で、後ろの選手が3列目、DFが4列目と言う場合もある(「1列目」が示す選手は基本的に揺らぎがない)。
攻撃時も「2列目からの攻撃参加」等とよく言われるが、攻撃はラインを作るポジショングよりも、ラインを作って守る守備側に対しスペースを作るためのポジショニングや動きが推奨されるので、実際に列を作った上での「2列目」と言っているわけではなく慣用的な表現である。

・6秒ルール:

ゲーゲンプレスのような戦術をずっとやっていると体力的負荷が大きいので、シチュエーションや時間を限定して行われる。ゲーゲンプレスに6秒ルールを敷いているチームは、「ボールを失ってから6秒間」はゲーゲンプレスを行って、それでボールが奪えなければ別の守備プランに切り替える、という戦い方になる。なぜ6秒なのかというと、グアルディオラは「約6秒以内のスプリント(全力疾走)は疲労が蓄積しにくい」としている。
「ゲーゲンプレス」も参照。

・ゲーゲンプレス:

Gegenpressing. ゲーゲン=ドイツ語で「強い」と訳されていたが直訳すると英語のversus等に近いらしい。
ボールを持っているチームがボールを失って相手ボールになった後、間髪入れずにプレスを仕掛けてボールを取り返す戦術。一度相手ボールにすることで、相手は攻撃に切り替えるので守備が手薄になる。敵陣ゴール前で行うと威力が増す。クロップ監督のドルトムントによって一気に世界へ広まった。

・チャネル:

選手と選手の間。よく使われるのはCBとSBの間のチャネルなど、攻撃側が狙っていきたいスペースの説明に使われることが多い。

・トランジション:

ボールを持っている状況⇔ボールを持っていない状況に切り替わることや切り替わっている最中の展開を指す。ポジティブトランジション…ボールを奪った時の(当該チームにとってポジティブな)トランジション。ネガティブトランジション…ボールを失った時の(当該チームにとってネガティブな)トランジション。

・ハーフスペース:

ピッチを5分割した時に中央のレーンと大外のレーンの中間。平たく言うと、「中央のレーンよりも(相手からの監視が甘く)支配しやすく、かつ大外のレーンよりもゴールに近く、シュート、パス、ドリブル、クロスなど様々な展開に活用できるとされている空間」。

・ビルドアップ:

オランダ等では「GK+DFを起点とし、ハーフウェーラインを超えて敵陣にボールが運ばれるまでの組み立て」を指す。よってGKからFWにロングフィードを蹴る(ソダン大作戦のような)ことも「ダイレクトなビルドアップ」として一種のビルドアップに含まれる。

・ビルドアップの出口:

後方からパスを繋いで行うビルドアップに対し、相手は簡単に前進させないようハイプレス等で抵抗する。
この時、ハイプレスを最初から最後まで行うとリスキー(後ろで守る選手がいなくなる)ので、ハイプレスは人数やエリアを限定して行われることが多いが、ビルドアップを行っているチームが、ハイプレスを突破してボールを落ち着かせる状態を作れる場所や選手を「ビルドアップの出口」と言っている。

・ブロック:

ボール非保持側のチームが、「4-4-2」、「4-4」、「5-3」などの配置で、選手が2列・3列になった状態で並び、相手に簡単に突破されないよう守備の体勢を整えている状態を「ブロックを作る」などと言う。

・マッチアップ:

敵味方の選手同士の、対峙している組み合わせ。

・マンマーク:

ボールを持っていないチームの、ボールを持っているチームに対する守備のやり方で、相手選手の位置取りに合わせて動いて守る(相手の前に立ったり、すぐ近くに立ってボールが渡ると奪いに行く、等)やり方。対義語はゾーンディフェンス(相手選手ではなく、相手が保持するボールの位置に合わせて動いて守るやり方)だが、実際には大半のチームは「部分的にゾーンディフェンス、部分的にマンマーク」で守っている。

・ミスマッチ:

「足が速い選手と遅い選手」など、マッチアップしている選手同士の関係が互角に近い状態とはいえないこと。

1 件のコメント:

  1. 札幌を無視したJリーグの見所はみちろん、恐らくサカダイ(まだアップされていない)よりも気合いのプレビューですね!
    エルゴラの真面目さ如何では上回りそう(^^)

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