2019年6月20日木曜日

2019年6月19日(水)YBCルヴァンカップ プレーオフステージ第1戦 ジュビロ磐田vs北海道コンサドーレ札幌 ~嘘を嘘と見抜こう~

0.スターティングメンバー

スターティングメンバー

 札幌(1-3-4-2-1):GK菅野孝憲、DF早坂良太、濱大耀、中村桐耶、MF金子拓郎、藤村怜、中原彰吾、白井康介、檀崎竜孔、岩崎悠人、FWアンデルソン ロペス。サブメンバーはGK阿波加俊太、DF進藤亮佑、MFルーカス フェルナンデス、高嶺朋樹、本間洋平、FW大和蓮。北海道新聞の予想では岩崎と高嶺はメンバー外だったが、直前でコンディションを見て判断したのだろう。岩崎は日本時間で月曜日の夜にトゥーロン国際大会の決勝戦にフル出場したので、中1日での試合出場となる。
 磐田(1-3-1-4-2):GK三浦龍輝、DF櫻内渚、新里亮、藤田義明、MF針谷岳晃、石田崚真、ムサエフ、上原力也、エレン、FW中山仁斗、ロドリゲス。サブメンバーはGK志村滉、DF大南拓磨、MF太田吉彰、宮崎智彦、アダイウトン、森谷賢太郎、荒木大吾。グループステージでは清水、ガンバ、松本と同じグループに入り3勝3敗。静岡ダービーは2戦とも落としたが、松本に2勝したことが効いてプレーオフステージに進出した。スタメンではFWの中山のみ、3日前のリーグ戦で先発している。ルクセンブルク代表帰りのロドリゲスはベンチスタートだった。

1.想定されるゲームプラン

1.1 札幌


 アンデルソン ロペスが札幌加入後は初めてFWに入る。この他、選手起用から考えると、前半はロペスに放り込む選択肢を残しつつリスク回避を優先。後半、オープンな(容易にビルドアップができる)展開で切り札・ルーカスを投入してゴール前の勝負に持ち込む、と考えていただろう。

1.2 磐田


 ホームでの1st leg。積極的にポジションを崩して、仕掛けられる選手にボールが入ると仕掛けていく。ただし後半に勝負できるカードを残してもいる。

2.基本構造

2.1 札幌のボール保持時

2.1.1 デマに騙されるな


 札幌はボール保持時はいつもの1-4-1-5。なおスカパー中継の実況・解説は4バックとか言っていたが、勉強不足の人は無視していい。磐田とのマッチアップは以下のようになる。中盤センターは、中原が深井、藤村が宮澤(または荒野)のいつもの役割を担う。ロペスがターゲット役。競る部位は頭ではなく胸トラップなどが多いが、武蔵以上にジェイの役割をこなせそうである(3月のアウェイ浦和戦でもロペスが1人2役的にジェイの役割を担っていた)。
札幌ボール保持時の陣形

2.1.2 磐田の決め打ち?


 前半、スカパー中継では実況解説が札幌の布陣について考察を小一時間ほど続ける。なお答えは単なるミシャ式である。
 札幌以上に、磐田の方が興味深い布陣で札幌に対抗する。札幌のボール保持時を1-4-1-5、つまり4バックと見立てて、磐田の2トップの中山とロドリゲスが数的同数で圧力を与える。これは理解できる。興味深いとしたのは2列目3人の仕事で、左インサイドハーフの上原は殆ど藤村にマンマーク気味に対応。藤村が中原と濱の間まで下がってもついていく。ムサエフと針谷は右にスライドして、ムサエフは中村を守備の基準点としていた。最終ラインも同様に右サイドに寄る。
 一般に5バックで守るチームは、その採用理由として「横スライドが楽だから」という考え方が見受けられる。よって、あまり横幅5枚を崩そうとしないのだが、磐田はボール周辺にかなり密集するので反対サイドは大きく開けている。
上原が藤村をマンマーク気味に見て右寄りの守備を意識する

 こうなると磐田は札幌の右サイドがら空きじゃん、と思う。その対策は、ロドリゲスが濱→早坂と二度追いする。これでエレンを最終ラインにステイさせ、金子とのマッチアップを維持させる。実態は、早坂はロドリゲスが追ってくると簡単にボールをリリースしてしまうので、このサイドが磐田にとって問題になることは殆どなかった。

2.2 磐田のボール保持時

2.2.1 特徴的な磐田の左サイド


 磐田の人の配置を数で表すと1-4-4-2のような形に近かった。これはアンカーの針谷が頻繁に落ちてくるため。磐田の方が4バックっぽかったが、この点は実況解説とも指摘しなかった。
 ボール保持を開始した段階から磐田は人が活発に動く。特に左サイドは、エレンが中央に入っていく動きをする。代わりにアウトサイドに出てくるのは、最終ラインから押し上げられる形になる藤田と、自由を与えられているロドリゲス。J1リーグ戦ではロドリゲス無双で勝ち点を拾った試合も複数あった。いつの間にかこのチームの主役になっている。

 ロドリゲスと中山は、試合を通じて札幌の中央のCB3人、セントラルMF2人で包囲されているエリアから頻繁に脱出してボールを受けに下がる。FWがサイドに流れたり下がったりする活動には賛否両論ある。ロドリゲスについては、この試合の札幌最終ライン相手なら、ボールを受けに下がることでDFを背負ったプレーが多くなるが、誰とマッチアップしても勝てそうなのでダメとは言い切れないところでもある。
磐田の左サイド(エレンが中に入ってロドリゲスが外に出る)

2.2.2 必死な若手DF2人


 この、チームですっかり信用を得ているロドリゲスにボールが渡ると、磐田は攻撃のスイッチが入り、人がどんどん前に出てくる。この試合は早坂と、濱が前に出た背後のスペースにエレンや上原が飛び出していく。サイドのロドリゲスには濱が相手をすることが多かったが、早坂は下図のように余った状態になることが多い。濱は人につく意識が強すぎて、受け渡しをしたほうがいいんじゃないかと思う場面が散見されていた。
濱は人についていく意識が強いので最終ラインの枚数が頻繁に足りなくなる

 もう一人、札幌の最終ラインでは左CBの中村も人についていく傾向があった。お互いに3バックで両サイドは1枚ずつ。互いのWBがゾーン2でマッチアップすると、CBはWBとのチャネルが開き孤立気味になる。ここでWBとCBの間に突っ込まれるとCBは難しい対応を迫られる。突っ込んできた選手を捕まえるか、ステイして中央を守るかである。中村は人を捕まえる意識が強いので、札幌のゴール前からはしばしば濱と中村がいなくなる。9分の右クロスへのロドリゲスのヘッドはその典型で、中村と濱がいなくなったゴール前を早坂と金子で守っていた。

3.前半の試合展開

3.1 セーフティな札幌


 札幌はその空いている右サイド(「2.1.2」)ではなく左サイドからボールを運ぼうとしていた。これは一つは、濱と中原の関係で、中原の方が信頼されているという点。右は濱と、早坂だが、早坂はこのシチュエーションではそこまで信頼されていない。石川直樹もそうだが、ベテラン勢よりもこの試合スタメン出場した中村の方がボールが持てそうな、持った時に落ち着きがありそうな様子だった。
 他には前線の選手を見ると、左に岩崎、中央に左利きのロペス、という配置になっているので、左サイドからボールを運んで斜めにパスを出した方が、ミシャ得意の角度を作って裏にフリックさせるプレーは発動させやすい、と言う考え方もあったかもしれない。右はWBに左利きの金子が配されており、この金子が序盤、バルバリッチ体制時の古田寛幸を彷彿とさせる、タッチラインを背にして視野を確保するボールの持ち方から、やはり中央レーンへの斜めのパスを狙う。しかし右シャドーに右利きの檀崎、中央に左利きのロペス、2人とも、右サイドからのパスにあまり反応しやすそうではなかった。

 敵陣に侵入した後(ロペスへの放り込み等で)の札幌は両ワイドの仕掛けもあったが、目立ったのは早坂と中村のアーリークロス。特に早坂は、磐田のプレッシャーのかけ方を見ると、もっとボールを持ち、動かせそうだったが簡単に放棄することが多い。
 そのクロスの狙いは全てファーサイド、アンロペの頭を超えるボールだった。味方に合わせようとしているというより、磐田DFが背走して対処することになるボールを蹴り、セカンドボールをロペスや岩崎、白井で狙おうというような意図に見えた。ゾーン3侵入後にミシャが好むグラウンダーの、よく見るパスとは異質のボールで、ここでもリスク低減の意図が感じられた。

3.2 ギャップを狙い続ける磐田


 磐田の狙いは引き続きギャップ狙い。札幌のWBを引き出して最終ラインを4枚にする。この時、右なら早坂、左なら中村が4人の一番外側を守ることになるが、左の中村サイドからも結構崩せそうだということで前半20分過ぎ頃から狙っていた。
 下図の展開では、大外の櫻内が白井を引き出す。同時にムサエフがハーフスペースに出ていくと、中村はムサエフを警戒して捕まえようとする。その背後を石田が狙う。よく「3バックのチームは3枚のCBの脇を狙え」というが、実態は3バック=守備は5バックなのでもう少し工夫が必要である。ただ中村と濱がかなり食いついて本来の3バックCBの位置から離れていくので、磐田は簡単に裏を取れていた。
中村を食いつかせてその背後を狙う

 札幌はいつもの、リーグ戦と同じ1-5-2-3で守るとして、ルヴァンカップでは意思疎通がうまくいっていないように思える。札幌の1-5-2-3守備は前線からハイプレスをする場合と、後方でブロックを作る場合、試合展開により運用を変えているが、後方でブロックを作るなら、ボール回収後に前線にボールを運んで攻撃するための仕組みが必要になる。
 これが、リーグ戦のメンバーなら福森、前線は武蔵、ロペス、ジェイ、チャナティップといるので低いブロックで守っても前進にあまり苦労しない。ルヴァンカップのメンバーでは後ろが重くなると前進に苦労するので、低い位置で守っているだけでは防戦一方になる。
 このあたりの相違や、普段経験している試合のレベルの違いもあってか、この試合で言うと、中盤から前ではロペスや岩崎はリトリートを優先していた。逆に藤村は荒野のように中央から頻繁に動いて守備をしたがる。その藤村が中央からいなくなると、磐田の選手にスペースを与えるので、濱や中村はそこをケアするために更に動くようになる…というサイクルにあったような印象である。もっとも、単に選手特性と言えるのかもしれないが。

4.後半の試合展開

4.1 点の取り合い


 メンバー変更はなし。磐田は後半開始から、特徴的な上原-藤村の関係をリセットして中盤3人をよりゾーナルな動かし方に変える。
 49分に札幌が、中央での競り合いから藤村が拾って、切り返しからの見事なスルーパス。GK三浦に倒されたアンロペが得意のPKを決めて先制。しかし8分後、磐田が札幌のGK菅野からのショートパスによるビルドアップを引っかけてのショートカウンターから、この試合2度ほど決定機を逸していたロドリゲスが釜本ゾーンから強烈なシュートで菅野のニアを破って同点。

4.2 札幌のガス欠と磐田の猛攻


 札幌は61分、檀崎→ルーカス。金子が右シャドーに移る。続いて65分、中村→進藤。振動が中央、濱が左CBに移る。結果論だが、フル出場も経験している檀崎はもう少し引っ張ってもよかったように思える。磐田も65分に針谷→森谷に交代。

 札幌はここから一気に運動量が落ちる。70分前後には金子、濱、藤村あたりの疲労の色が濃くなっていく(金子は78分に高嶺と交代)。
 若手が走れなくなる札幌に磐田が猛攻を仕掛ける。ボール保持時は、簡単に人に釣られる札幌DFの間に人とボールを動かして揺さぶる。札幌のボール保持時はビルドアップを狙う。菅野はゴールキックの時に迷っただろう。前線はロペス以外に収まる選手がいない(そのロペスはもっと俺に出せ、と味方に要求していたが、なかなかボールがもらえなかった)。ビルドアップ部隊は全般に疲れている。磐田は札幌の1-4-1-5のビルドアップの「4」に人を当ててナーバスな状態にしてから、下がってくるシャドーにボールが入るタイミングを狙う。ロドリゲスの得点時以外にも似たような形でのボールロストがあった。

 濱が足を吊ると、ロドリゲスが濱のサイド(磐田から見て右)に移動する。極めて危険なマッチアップだったが、プレーの選択が殆ど右足だったことが幸いする。
 後半、磐田の最大のチャンスは76分、ロドリゲスの右クロスに中山が頭で合わせるが、菅野が至近距離でブロック(反応と言うより壁を作って当てた)。83分には中山→亜大ウトンに交代で点を取りに行く。
 防戦一方の札幌だが、85分に自陣から早坂が右のルーカスにフィード。まだ元気なルーカスがウイニングイレブンのR1ダッシュのような縦突破からロペスにグラウンダーのクロス。完璧なクロスをロペスが合わせて札幌が勝ち越し。終了間際にも菅野のビッグセーブで失点を逃れ、まずはアウェイの”前半戦”をリードで折り返した。

5.雑感


 試合については理想的な結果で”折り返し”することができた。2018シーズン、ミシャは選手やスタッフに「何か1つはタイトルを取ろう」と言っていたらしい。それはプレシーズンのパシフィック・リム・カップを指していたのかもしれないが、このルヴァンカップに関してはまだ本気で獲りにいこう、というマネジメントは去年、今年とも(プレーオフステージまでの段階では)せず、あくまでリーグ戦優先のシフトを組んでいる。ノックアウトステージ進出後はプライオリティが少しずつ変わってくるかもしれない。
 起用された選手については、やはり継続的にチャンスを与えられることが必要だろう、との印象である。1人挙げるならDFの中村。守備はまだまだ課題があるが、ボールを運ぶことにトライしていたし、まずまず成功していた。ロングレンジのキックで福森路線を目指すのは難しいが、いいところは福森から盗みつつ、別なタイプでのビルドアップができる左利きDFとして、この体型のまま継続してほしいところだ。

4 件のコメント:

  1. 若手が(リーグ戦に出ている選手を越えられないまでも)期待に値する才能を持っていることと成長していることが端々に見られたと思います。
    早坂は川崎戦もフル出場でしたし、この試合はフル出場が想定されていて、しかもメンバー不足で鳥栖戦も出る可能性があって基本的に省エネしたかったのかと見えました。。。

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  2. 限られた選手で選択肢が多くはないことはわかりますが、このあたりどうお感じですか?
    1)金子はなぜ右ワイドだったか(ボラでも左ワイドでもなく)
    2)2ボラはなぜ中原金子ではなく中原フジレンだったか
    3)岩崎檀崎は当面はシャドーのみを勉強させるのか(普通にやるとアンロペかチャナを越えないとレギュラーにはなれない)
    よろしくお願いいたします。

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    1. 1)中原と藤村を中央で考えているのでアウトサイドしかないのと、基本的にカットイン型の選手なので、右の方がやりやすいだろうという考えだったと思います。インスイングのクロス等を狙ってるのか?とも最初は思いましたが、このゲームだとそこまでは読み取れませんでした。同じような起用がまたあるとしたら、違った見え方がすると思います。
      2)使えるメンバーの制約の問題で、若手を最大限ピッチに立たせると考えると、藤村中原をあてはめる組み合わせが一番それを実現できるという考えだと思います。
      3)選手特性的には、やはり今のシステムだとシャドーかトップしかないと思いますし、シャドーやトップで使われるための戦術理解やボールを持った時の能力を身に付けないと、どこに行っても難しいと思います。

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    2. ありがとうございました。
      そういう諸々の制約でも勝てたのは良かったですね!

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