0.本企画の説明
本ブログの2018シーズンの総括として、2018年6月に日本で発売された『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディ、片野道郎)の第2章、「チーム分析のフレームワーク」において示されているフレームワークに基づき、北海道コンサドーレ札幌の2018シーズンの戦術的な傾向を整理する。
なお、フレームワークの内容は、以下note(フットボリスタ)で整理されている。
https://note.mu/footballista_jp/n/n06a1bcfd951a
https://note.mu/footballista_jp/n/n06a1bcfd951a
分析にあたり、バルディは直近の試合を中心に5試合程度を見たうえでアウトプットを作成する必要があるとしている。よってリーグ戦のラスト5試合、ということになるが、先に申しておくと、札幌のサッカーは相手チームのタイプ…3バック(守備時5バック)でミラー布陣で戦うチームか否かによって試合の進め方が異なる傾向にある。そのため以下の試合で見られた傾向を中心に整理することとした。
2018年9月23日(日)明治安田生命J1リーグ第27節 北海道コンサドーレ札幌vs鹿島アントラーズ
2018年9月29日(土)明治安田生命J1リーグ第28節 北海道コンサドーレ札幌vsサガン鳥栖
2018年11月4日(日)明治安田生命J1リーグ第31節 北海道コンサドーレ札幌vsベガルタ仙台
2018年11月10日(土)明治安田生命J1リーグ第32節 北海道コンサドーレ札幌vs浦和レッズ
2018年12月1日(土)明治安田生命J1リーグ第34節 北海道コンサドーレ札幌vsサンフレッチェ広島
もっとも今シーズンのリーグ戦は全試合見ているので、この5試合以外での現象も踏まえていくが、ただ春先2月~3月頃のチームはリーグ戦終盤とは大きく異なるので、基本的には2018シーズンの最終形となったチームの分析とする。
0.1 局面の遷移関係を理解しよう
チーム分析において基本となる概念を改めて2つ整理しておく。一つはサッカーの4局面で、これはバルディに限らず多くのサッカー関係者が同じような認識でいると思われる。攻撃(ボール保持)、守備(ボール非保持)と、それらの境目にあるトランジション(攻守の切り替え)が遷移する関係にあるという考え方。実際はトランジション→トランジションが続いたり守備→ポジトラ→すぐにまた守備、等の展開もあると思うが、基本概念として4局面が順に遷移するものとして捉えておく。
0.2 階層構造として捉えよう
もう一つはバルディが示している4局面(+セットプレー)の階層構造で、例えばバルディの言う「守備」には「プレッシング」、「超攻撃的プレッシング」、「組織的守備」の3タイプがあるとされる(詳細は後述)。一言で守備戦術と言っても大別すると諸タイプあり、それぞれ意図やとられているアクションが異なることを踏まえてみていく必要がある。
チーム分析の階層構造 |
0.3 その他
4局面+セットプレーについて書いてみたところ、長すぎるので記事を2分割する。
また記事中ではチーム戦術について言及する際、ポジションや役割を挙げて言及する場合と具体的な選手名で言及する場合とがある。2018シーズンの札幌の基本メンバーは以下。スタメン11人+DFの石川、中盤の荒野、アウトサイドの白井と早坂、前線の都倉という固定メンバーでリーグ戦の殆どを消化してきた(他、スタメン出場した選手は兵藤が4試合、宮吉が2試合、内村が1試合)。
2018シーズンの基本メンバー |
※以下、青字はバルディのフレームワークに基づく各項目の説明である。
1.守備
”フレームワーク”において、守備は「プレッシング」「組織的守備」に分けられる。「プレッシング」は相手のGK~CBから始まる攻撃に対するファイナルサード~ミドルサードでの守り方、「組織的守備」は自陣側のファーストサードでの守り方だとしている。
更にプレッシングの中でも、開始位置によって以下3つに区分される。
・開始位置が25m~センターサークルの敵陣側まで…オフェンシーボ(攻撃的プレッシング)
・開始位置がセンターサークルより手前…ディフェンシーボ(守備的プレッシング)
開始位置に基づく「プレッシング」の分類 |
まず「プレッシング」「組織的守備」の使い分けについて。札幌はプレッシングの中でも「守備的プレッシング」と「攻撃的プレッシング」の中間的な形を基調とした守備を行い、それが突破されると自陣に引いた「組織的守備」に移行する戦いが多かった。プレシーズンは相手のGK時にGK→CBへのボール供給に圧力をかける超攻撃的プレッシングも試していたミシャだが、リーグ戦ではそうした選択を取ることはそう多くはなかった。
1.1 プレッシング
1.1.1 基本形(「守備的プレッシング」「攻撃的プレッシング」の中間)
札幌のプレッシングの典型的な形は、5-2-3の陣形をセットし、前線3枚が敵陣側センターサークル内かその付近に1列目のラインを形成してから相手DFにプレッシングを行う。この時、セットする位置は「守備的プレッシング」に該当するエリアだが、1列目の3人は時にそのエリアを逸脱して、守備対象である相手のボールホルダーに圧力をかけることも少なくない。よって「守備的プレッシング」「攻撃的プレッシング」の中間的、と表現した。
このプレッシングの狙いは、前線3枚のチェイシングによって相手に安定的な後方でのボール保持を許さず、前線にボールをシンプルに蹴らせ、後方でボールを回収すること、更に自軍の前線3枚を残した状態で後方でボールを回収し、その3枚を使ったファストブレイクを仕掛けることにある(詳細は後述)。
札幌の典型的なプレッシングにおける守備セット位置(第32節浦和戦) |
札幌の最終ラインはCB3枚が進藤(182cm)、福森(182cm)、キム ミンテ(187cm)、又は宮澤(182cm)と高さ勝負ではそう苦労しないメンバーが揃う。これらの選手の”裏”はともかく、高さ勝負や相手FWに対する正面方向からの楔のボールへの対処であれば簡単に競り負けない。更にその前方の中盤センター2枚とサンドすることで相手FWの可動域を狭め、計5枚で対処する。
この5枚が位置する局面での攻防の戦況は、相手が中央に配するFWのクオリティや、その枚数が1枚か、2枚か等にもよる。一例を挙げると、2018シーズンに対戦した選手で最強のFWである名古屋グランパスのジョーに対しては、前半戦はキム ミンテがほぼ地上戦、空中戦共にシャットアウト。後半戦、CB中央を務めた宮澤はジョーに押し込まれ、札幌の守備ラインはかなり下げられてしまった。
シーズン中に見られた問題点が2つある。一つは、4バックの相手に対して前3枚でのプレッシングでは枚数が足りなく、横幅を使われると対応できなくなり前進を許してしまうこと。もう一つは相手のアンカーポジションの選手へのケアが甘く前進を許されることにある。
後者については、札幌の5-2-3守備は最終ラインの「5」が相手の1列目と同じ位置に、中盤「2」は先述のように、最終ラインと連携して相手のFWに対処できるポジションをとることが基本であるため、札幌の前3枚の背後をカバーすることが難しくなる。その場合、中盤2枚のうちの1枚を前目にマンマーク気味に配して対応することが多かった。
↓は第15節神戸戦での構図。4バックで、アンカーポジションの選手がCBとパスコースを作るポジションを取ってくる、札幌には最も対処の難しい相手である。アンカー藤田には深井の前進で対処したが、相手SBへのマークは終始甘く、そこから前進を許してしまった。
苦手な4バックに対する攻防 |
1.1.2 超攻撃的プレッシング・攻撃的プレッシング
札幌の超攻撃的プレッシングや攻撃的プレッシングが見られた試合を例示すると、7/18の第16節川崎戦、11/4の第31節仙台戦など。
川崎戦ではミシャが試合後に語っているが、後方からパスを繋いで前進してくる相手に対しより強い圧力をかけ、長いボールを蹴らせるために非常に高い位置でのプレッシングを選択したとのことだった。
仙台戦は札幌と同じ3-4-2-1の布陣である相手に対し、関係性を非常に明確にしたマンマーク守備。仙台は3バックだが、3枚を中央に均等に配するのではなく右にスライドさせた(右CBが大外のレーンに位置取る)非対称な形を作って札幌の守備基準をずらそうとした。しかし札幌はズレる仙台に対し自身も同じようにズレることでマンマーク関係を崩さずに対抗した。
超攻撃的プレッシングの例(第16節川崎戦) |
攻撃的プレッシングの例(第31節仙台戦) |
札幌の超攻撃的プレッシング・攻撃的プレッシングはパターンが決まっている。それは前線3枚+中盤センターの2枚はほぼ純粋なマンマークで人を捕まえる。では5バック化している最終ラインはというと、大外を守るWBは人に食いつきすぎるとサイドのスペースを空けてしまうので、人も見るがスペースも空けない、という位置取りを要求される。白井康介はこのポジショニングの習得に苦労していた印象だった。
1.2 組織的守備
「プレッシング」が敵陣側のファイナルサードからミドルサードまでをカバーする守備戦術と定義されるのに対し、「組織的守備」は、自陣に引いてセットした状態で、ファーストサード(自陣側1/3)をカバーする守備戦術だと定義される。
札幌の「組織的守備」の基本陣形は5-2-3。時にシャドーが下がって5-4-1気味に対処することもあるが、それほど極端な撤退戦はミシャは好んでいないようだった。前線3枚を数に含めず考えれば守備ブロックは5-2。中央は3+2枚で計5枚がいるが、サイドは基本的に各1枚しかいない。よってサイドを起点に相手がボールを保持し、その形に対する対応が基本となる。
この基本陣形および札幌の組織的守備における最大のポイントは、ボールがどの位置にあろうと最終ライン5バックの選手は極力持ち場を離れずに待機し、ゴール前の危険なエリアから優先的に人を捕まえられるようにしていること。逆説的に説明すると、札幌はボールの位置を基準にした純粋なゾーンディフェンスを殆ど行わない。厳密にはシーズン開幕時に挑戦していたが機能せず(開幕戦で早速広島に破られている)、DF5枚を動かさない四方田式マッチアップゾーン(2017シーズンまでの基本形でもある)が定着した。
ボールサイドにスライドして守る純粋ゾーンディフェンス寄りの組織的守備(第1節広島戦) |
5枚のDFはなるべく中央を動かない。先述の通り、サイドを起点にされやすいのでWBは頻繁に大外の対応に駆り出されるが、WBと隣り合うCBはその場合も基本的には持ち場離れない。まず中央に陣取りゴール前の選手を捕まえる。次に札幌陣内に侵入してくる選手を捕まえたうえでボールに対処する。
↓の鹿島戦の先制点の場面は、鹿島の鈴木が札幌の5-2守備のエアポケットとなるエリア(この時はシャドーの都倉が戻ってはいるが対応は遅れ気味だった)を起点としてラストパスでアシストに成功した場面。
5枚が極力ポジションを守るマッチアップゾーン的な組織的守備(第27節鹿島戦) |
2.ポジティブトランジション
「ポジティブトランジション」は、組織的守備により自陣でボールを奪った時に攻撃に転じるアクションであり、以下2カテゴリに分けられる。
・「ショートトランジション」(プレッシングや攻撃側のミスによって敵陣でボールを奪った時)
・「ミドルトランジション/ロングトラジション」(自陣でボールを奪った後の振る舞い。ゼッションの確立か、すぐに前方のスペースに向かって縦にボールを運ぶか)
なお敵陣でボールを奪った時は、ほとんどの場合、最短距離でゴールを目指すため分析の余地はそう多くない、またどのようにゴールを目指すかは、戦術よりもむしろアタッカーのタイプや特徴に左右されるとのこと。
2.1 ショートトランジション
バルディの解説に甘えるわけではないが、札幌のショートトランジションにおいて分析の余地は少ない。というよりショートトランジションの機会が少ない。この理由は、敵陣でボールを奪うアクションを積極的にとらないため。札幌の超攻撃的/攻撃的プレッシングは相手に長いボールを蹴らせて後方で回収することに比重を置いており、ボール回収位置が敵陣となることは非常に少ない。
2.2 ミドル/ロングトランジション
ミシャ式は極端に遅攻志向というイメージがあるが、札幌の自陣でボールを奪った後の振る舞いは、「ポゼッションの確立」に偏ってはいない。第34節広島戦、ジェイのスーパーゴールに繋がった展開が典型だが、「縦への展開」もしばし見られた。
札幌で縦への速い展開からのミドル/ロングトランジション攻撃がそれなりに機能した理由は以下2点。
1つは戦術的な理由で、守備時になるべく5-2-3の陣形を維持することで前線に攻撃の選手を3人残せ、縦への展開が成功した後にフィニッシュに持ち込むまでの枚数不足やクオリティ不足にならない。特に、右シャドー三好のドリブル突破は、守備時の前残りの振る舞いからのポジティブトランジションでスペースが生じている状況で光った。
もう1つは選手個々のクオリティに拠るところである。前線で必ずいずれかが起用されるジェイと都倉。ジェイは後方からのボールを収めるスーパーな能力を持つ。都倉はよりスペースに走る志向が強いが、空中戦ならば多少不利な競り合いでも最低限ボールに関与できる。加えて左後方に、非常にパスの射程距離が長い福森が配されている(ボール回収後、すぐサイドに開けばフリーになりやすい)ことも大きい。
上記の補足になるが、縦への展開を急ぐ場合のパスの受け手(基準点)となる選手は前線の3枚である。トップはジェイか都倉。ジェイは基本的に中央から動かず、相手CBと競る。↓は第28節鳥栖戦で見られたポジティブトランジションの例だが、この時は相手CBと1on2の局所的数的関係にも関わらず五分五分以上の勝ちっぷりだった。
ジェイを見ていて思うのは、相手が3バックのミラー布陣ならばCB中央の選手はジェイとの1on1が非常に多くなる。しかしそこでジェイに勝てないと数的同数守備の前提となる「対面の選手に負けないこと」が崩れ、枚数を合わせていることは寧ろ仇となるチームがいくつか見られた。よってCB中央に競り合いに強い選手を配することは、ジェイがいる札幌と対戦する上では非常に重要となる。
ジェイへの放り込みで強引にポジティブトランジションを成立させる(第28節鳥栖戦) |
シャドーはチャナティップ、三好、駒井という小さな選手と、右で数試合起用された大柄な都倉の、二タイプの選手がいる。チャナティップ、三好、駒井は基本的に足元で受けられるポジションをとる。ここで相手が3バックならば、シャドーの選手ははCBにマンマークに近い対応をとられることが多く、その圧力から逃れるために低い位置まで下がってボールを受けようとする。するとトップの選手が孤立気味になるが、ジェイのスーパーな能力もあってここはあまり問題にならなかった(ちょうど↑の鳥栖戦の図がそれに該当する)。
シャドーの選手のうちトランジション時に最も信頼されていたのはチャナティップ。ボールが入れば簡単に失うことは殆どなく、また並みのマーカー相手ならばターンして前方に突進ができる個人能力は大いにチームを助ける。一方、三好はこのポジトラ時の相手との間合いの取り方にシーズン序盤は苦労しており、三好に渡ったところで潰されてしまうことも少なくなかった。
都倉は他の選手とは異なる動きをする。トップであろうと、シャドーであろうとポジトラ時は基本的に右前方のスペースに走ってボールを引き出すことが多い。Jリーグには、都倉より強いDF、都倉より速いDFはいるが、都倉と同等以上に強くて速いDFは数えるほどしかいない。右前方に走るだけでボールの前進と陣地回復ができてしまう特異な能力は2018シーズンも健在だったが、シーズンを通じては、ジェイの収める能力の方がより”効いていた”と言える。
後編へ続く
あけおめー('ω')ノ
返信削除発見してしまいましたwww
雪かき疲れで頭回転しないから、明日以降に内容チェックしてフムフムしたいです。
今年もよろしくです!
んでわまたのー
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
削除私も正月のみアリバイ的に雪かきに加勢しました。年明けから急に積もりだして困りますね。ぜひお時間のあるときに御覧ください。