2018年12月22日土曜日

2018年11月24日(土)14:00 明治安田生命J1リーグ第33節 ジュビロ磐田vs北海道コンサドーレ札幌 ~一撃必殺~

0.プレビュー


スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-2-1、GKク ソンユン、DF進藤亮佑、宮澤裕樹、福森晃斗、MF早坂良太、荒野拓馬、深井一希、菅大輝、駒井善成、チャナティップ、FWジェイ。サブメンバーはGK菅野孝憲、DF石川直樹、MF兵藤慎剛、白井康介、三好康児、FW都倉賢。前節浦和戦後、2週間の国際Aマッチウィーク中にU21日本代表はUAEでのドバイカップU-23に参戦しており、札幌からは菅、三好が招集され、それぞれ1試合、2試合に先発出場。その疲労も考慮されてか三好はベンチスタートとなっている。浦和戦の欠場で心配された深井は、浦和戦前々日からの膝の痛みの影響で欠場していたことが判明した。
 ジュビロ磐田のスターティングメンバーは3-4-2-1、GKカミンスキー、DF大南拓磨、大井健太郎、高橋祥平、MF櫻内渚、ムサエフ、田口泰士、宮崎智彦、松浦拓弥、山田大記、FW大久保嘉人。サブメンバーはGK三浦龍輝、DF藤田義明、MF中村俊輔、山本康裕、荒木大吾、上原力也、FW小川航基。直近4試合で勝ち点8を積み上げ、16位名古屋のほか15位鳥栖、14位湘南から勝ち点で4上回る13位につけ、この時点では安全圏にまで浮上した。川又は前々節、劇的勝利を収めた広島戦での負傷により欠場。長期離脱中のアダイウトンはこの試合から復帰の予想もされていたがメンバー外となっている。同じく長期離脱中のムサエフは前節FC東京戦からベンチ入りし、今シーズン3試合目の先発出場となった。

1.序盤の攻防


 共に3-4-2-1を基本布陣とするチーム同士の顔合わせだが、序盤は札幌がボールを握り、立て続けに磐田陣内に侵入する局面が続いた。主な要因は以下2点だったと思う。

1.1 磐田の対応


 札幌がJ1に復帰した2017シーズンから数えてリーグ戦での対戦は4度目。この間、磐田の基本的な、相手がボールを保持している時の振る舞いは殆ど一貫しており、ゾーン1ではほぼ全く、相手の前進を限定させるようなアクションをしない。
 3バック(守備時5バック)の布陣を敷いている際は、ゾーン2に1トップとシャドー、更には中盤センターの2枚の選手を配しているが、この試合も川又に代わってトップに入っている大久保の周辺で、札幌の選手がボールを保持したとき、宮澤や深井は大久保の周囲をフリーパス状態で活動できすることができていた。
大久保の周囲で殆ど制限なくボールに触れる札幌

 またこの時の松浦と山田の振る舞いは、基本的には進藤と福森を基準点としているものの、大久保の周囲での札幌のボール保持に対応すべく中央レーンをカバーしようと動くこともあり、役割が定まっていない印象だった(中央も見て、サイドの進藤福森を見る役割も捨てない)。この辺の理不尽さを黙殺するのはカリスマ・名波監督の手腕と言えるのかもしれないが、本来基準点が置かれているはずの福森は比較的フリーになる状況が多く、かといって中央で札幌の選択肢を消しきれているわけでもなかった。
シャドーが中央にずれるとサイドがオープンになる

1.2 右サイドへのフィード狙い撃ち


 別の試合の記事でも書いたが、ミシャ札幌がボールを保持したときの前進手段として最大のリソースは後方ビルドアップ部隊(GKク ソンユン含む)から前線5枚に直接放り込むロングパスである。そのターゲット、狙うエリアは試合に寄って異なっていて、一時期は石川直樹や菅、時に福森をターゲットとした左サイド狙いが多かった。ジェイはピッチに立っている限り、オプションとして常に重要な位置づけである。
 この試合では早坂を狙ったフィードが序盤から何度か試行される。アウトサイドの選手として大型の早坂は、ターゲットとして、後方でボール保持が詰まった時の逃がしどころとしてリーグ戦終盤で存在感が増している(駒井を他のポジションで使いたいことも早坂には追い風となっている)。この試合、マッチアップする相手は10センチ以上のミスマッチが生じる宮崎。ボール出所に制限がかかっていないこともあり、宮崎1人での対処は難しく、早坂への放り込みを始まりとして札幌は前進にたびたび成功する。
2人目のターゲットは早坂

 押し込んでいた10分間で、左サイドのFKから早坂の折り返しがオウンゴールを誘い札幌が先制する。

2.ミシャのペース

2.1 中央は使わずとも試合を支配下に


 札幌の先制後も大きく状況は変わらず、典型的なミシャチームの試合展開が(それも、かなり見慣れた。既視感のある)繰り広げられる。言い換えれば札幌ペースで、磐田は後手に回り続けていた。
  札幌のボール保持時、磐田は1トップ2シャドーと中盤2人で作る5角形を維持するような陣形でのリトリートを続ける。この5角形が意識され、またその内部を使おうとする動きを迎撃する体制が備わっていればピッチ中央の一般的に重要だとされる部分の安全性は高まる。しかしミシャチームはこのエリアの活用に殆ど拘りがない。ミドルゾーンの支配というのは近代サッカーにおいて多くの監督がゲームを安定的に進めるために重視しているが、特にリードした展開において、ミシャチームはミドルゾーンよりも後方でに数的優位を確保する(=要は、後ろの人を増やしてボールを保持しやすい状況にする)ことがゲームの鎮静化を図るためにより重要だと考えているのだろう。よって磐田がミドルゾーンに作った5角形は、この試合では意味合いが非常に薄いものとなっていた。
ペンタゴンディフェンスvs中盤空洞化

2.2 菅の突撃


 中継の20分前後には名波監督の「ジェイとの空中戦は絶対に止められないからクロスの供給を防ぐしかない」という旨のコメントが紹介された。基本的にはクロスボールはサイドの選手から供給される。磐田にとり札幌の菅、福森という、特にクロスボールの供給が多い選手をケアすることは最優先課題だったと思われるが、ミシャチームの5-0-5化と福森が高い位置を取り続けること、そこに荒野や深井が運ぶドリブルを敢行するようになると、シャドーの松浦が福森をケアすることは難しくなる(あるいは、名波磐田はそもそもそこまで準備していなかった可能性もある)。
 ともかく、本来菅に対応するWBの櫻内が前に引きずり出され、菅がその裏を狙うという構図から磐田は逃れられなくなっていた。
櫻内がズレて対応せざるを得ないので菅は裏抜けを存分に敢行できる

2.3 ボールに寄ることのメリットデメリット


 磐田はボール保持時に田口かムサエフが下がって枚数を確保し、まず落ち着かせようとするアクションがよくとられていた。もっとも、トランジションから磐田のボール保持が始まると、札幌は最前線のジェイが休憩していることが多く、また磐田も前半は速攻を殆ど意識しなかったので、非常にスローな展開下で両チームが攻守を入れ替えることが多かった。
磐田のボール保持時の配置

 札幌は磐田と対照的に、守備ブロックや選手間のチェーンの維持は殆ど意識されず、特に相手が同じ3-4-2-1の布陣で合わせてくるチーム相手には1on1を基調にした守備で解決する。よって田口が引けば、荒野や深井がそのまま高い位置から捕まえることで解決を図っていた。

 前半磐田の攻撃で再現性を感じた(同じような局面が複数回繰り出された)のは、シャドーの2枚が同じサイドに寄ってプレーし、1人が引いて札幌DF(図では進藤)を釣り出す。進藤が「ミラー布陣だから対面の相手(下の図では松浦)についていけばいいや」と判断すると、もう1人のシャドー山田が近いゾーンに登場し、進藤の移動によってできたスペースを突くというもの。
シャドーの大胆なポジション移動に対応しきれない札幌

 この時、当然本来山田がいるサイドには磐田の選手が誰もおらず、札幌ボールになればこの山田が不在のエリアを突かれて一気に前進されるというリスクをはらんでいる。モンバエルツがかつて「日本人選手はいるべきポジションを遵守せずボールに寄ってしまう傾向が強い」と指摘していたのを思い出すが、1on1基調の札幌相手にはこの大胆なポジション移動が、前半は最も効いていた。

3.チャナティップ包囲網


 後半立ち上がりは一変して磐田のペース。入りの10分は明らかにギアを上げてきていたが、戦術的にはアンカーを置かない(もしくは、1人置いていてもあまり有効に活用されない)札幌に対し、福森とチャナティップの個人技と、CB経由のU字パスによるチェンジサイドをケアするという建設的な対応がとられるようになる。福森をシャドーがケアし、中央は田口とムサエフで締め、チャナティップの活動範囲を狭める。大久保が適切なポジションを取ることでサイドを変える選択肢も除外すると、前に蹴るしかないが、起点を作ろうとするジェイをCBの果敢な前進守備で潰すことに成功すると、そのまま逆襲に転じる機会が徐々に訪れる。
ボールホルダーに当たり前線のチャナティップ、ジェイと後方のDFを切る

 特に、前線で唯一間受けができるチャナティップが潰されると、左サイドにおいて札幌のビルドアップは大半の選択が前線へのロングボールに偏る。この時にピッチに立っているメンバーでは、ターゲットはジェイしかおらず、ジェイを磐田DFによるダブルチームと、ライン押し上げによるスペース圧縮対応で潰されると、ジェイにボールが収まらなくなる札幌は中央の広大なスペースを放置したまま放り込むだけになってしまう。
放り込みが跳ね返されると中央スペースを使った逆襲に

 逆に、右サイドでは駒井の得意の「出口を作る動き」…パスコースを作れる位置まで降りてきて後方を助けることで、被カウンターを回避する。
駒井のヘルプ

 しかし58分のミシャの選択は深井→都倉。深井のポジションに配せる選手の選択肢が、宮澤(石川を入れる)、駒井(都倉か三好を入れる)、兵藤とあった中で、ミシャの起用方針から考えると都倉か三好が妥当なのだが、(今振り返ると)戦術的には最もカオス化しそうな選択肢ではある。
 投入直後の59分には早速上述の図式に非常に似た展開…前線に放り込むも、磐田が跳ね返し、無人の中央を山田がドリブルで運び、駒井がゴール前でファウル。田口のフリーキックはポストを直撃し、札幌は命拾いする。
58分~

4.スクランブルアタック


 都倉投入後も流れを掴めない札幌は67分、ジェイを諦め三好に交代。磐田は70分、宮崎と大久保を下げ、中村と小川航基を投入し、4バックにシフトする。
70分~

 ボールに寄ってくる中村が投入されると、ボール保持時の磐田の人の配置は更に流動的、もしくは不定形でいる時間が多くなる。中村は4-2-3-1の右に配されるが右にはいない。右サイドは基本的に櫻内の”滑走路”として空けられ、日本の4バックのチームでよくあるSBが攻撃時に上がりっぱなし、2列目は中央に密集する形に変化する。更に山田と荒野もそれまでと同様、非常にボール周辺に寄ってくる傾向にある。
 こうなると、下に図示したように磐田は非常に多くの選手がボールサイド(中村と小川の投入前後は、大半が磐田右サイドからの展開だった)に集まり左サイドは大きく開けられる。
 ホーム最終戦ということもあってか、このオープンなスペースに札幌がボールを展開すると、磐田はそこで戦うことをやめてしまうとまではいかないが、例えば図のように田口や高橋が出張して対応するとなると、それらの選手は本来いるべき位置にいなくなる。
 これが常態化すると、磐田は個々の選手が本来担うべき・担わせるべき役割とそのポジショニングが非常に曖昧になる。
流動的・不定形に

 76分の札幌の三好の追加点は、自陣からのカウンター、数的同数の場面で三好が勝負したことで生まれたが、三好に付いていたのは本来前にいるべき中村。まさに一撃必殺のクオリティを示した三好も素晴らしかったが、ゴール前の勝負どころで、磐田はあまりにバランスを欠いている状況にあった。

5.雑感


 前半はボールを狩らないチーム同士が、相手のターンオーバーによる攻守切り替えで互いに攻め合うターン制ゲームのような展開。後半は磐田の反撃があったが、整理・用意されたものというよりもカオス的なアタックで非常にオープンな展開になった。いずれにせよ、特に組織守備があまり両者とも感じられず、個々の選手のクオリティが現れやすい展開だったと思う。そうした中で、(この記事を書いている時点ではチームを離れることが決まっている)三好のクオリティが炸裂したが、チャナティップ、ジェイ、都倉と、磐田を上回る前線のクオリティを抱えているチームであることがそのまま結果に繋がったようにも感じる。


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※今年もありがとうございました。後は総集編を1回くらい書いてシーズンを締めます。
今年は本業の他、入院(骨折)とwimaxの通信制限との戦いでした。コメント返しもできずすみませんでした。良いお年をお過ごしください。

2 件のコメント:

  1. 今年も楽しく記事を拝見させていただきました。総集編&来年も楽しみにしています!

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    1. ありがとうございます。総集編は初笑いをもたらせるよう頑張ります。

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