2018年11月8日木曜日

2018年11月4日(日)14:00 明治安田生命J1リーグ第31節 北海道コンサドーレ札幌vsベガルタ仙台 ~波紋を呼ぶ男~

0.プレビュー

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-2-1、GKク ソンユン、DF進藤亮佑、宮澤裕樹、福森晃斗、MF早坂良太、駒井善成、兵藤慎剛、菅大輝、三好康児、チャナティップ、FWジェイ。サブメンバーはGK菅野孝憲、DFキム ミンテ、石川直樹、MF白井康介、小野伸二、FW都倉賢、宮吉拓実。深井、荒野がいずれも累積警告4枚で出場停止。4月の仙台ホームの試合でも深井は欠場しており、その時はぶっつけ本番で福森を中盤センターで宮澤と並べて起用したが機能不全に終わっている。ここで封印された中盤・福森をこの週の練習では再び引っ張り出して試していたとの報道もあったが、兵藤の起用という、部外者から見て最も妥当に見える線に落ち着いた。

 ベガルタ仙台のスターティングメンバーは3-4-2-1、GKシュミット ダニエル、DF平岡康裕、大岩一貴、板倉滉、MF蜂須賀孝治、椎橋慧也、矢島慎也、中野嘉大、野津田岳人、阿部拓馬、FW石原直樹。サブメンバーはGK関憲太郎、DF永戸勝也、MF梁勇基、富田晋伍、関口訓充、FWジャーメイン良、ハモン ロペス。



1.基本構造

1.1 ゾーン3での仙台の圧力


 まず札幌がボールを保持している時の展開を見ていく。
 仙台は所謂ゾーン3(仙台から見て、札幌ゴールに近い側から起算したピッチの1/3のエリア)では札幌のボール保持に対して積極的に圧力をかけていく。これは、札幌のこれまでの戦いぶりを見て後方でのボール保持は相当怪しく、ボール保持者に圧力をかければ、ローリスクでそれなりのリターンが期待できると踏んだと予想する。
 対する札幌は、約2ヶ月前の川崎戦の0-7以来、後方で安易にボールを保持することを極力避けたうえで前進する傾向が非常に強まっている。それは鳥栖戦などでの5-0-5でのビルドアップの多用だったり、チーム最多得点の都倉をベンチに置いて、前線でポイントを作る能力が傑出しているジェイの重用などに表れていると感じる。

 仙台の前からの圧力は、基本的に「3(1トップ2シャドー)-2(中盤センター)」の形で行われていた。札幌は兵藤か駒井を落とした4-1の形からのボール保持・前進で対抗する。仙台は札幌の4にボールが出されると、石原を始点として前3枚で捕まえに行く。
ゾーン3では前から捕まえる

 仙台はボールを中心として前進を阻んでいくか、マンマークで人を捕まえるかという二択になるが、札幌が4枚で横幅を取り、更にアンカー(駒井か兵藤)とGKク ソンユンで奥行きを作ると、仙台は3枚だけで守れる範囲が、札幌の陣形に比べてかなり小さくなってしまう。
 そのため、ゾーンを限定して守ることができなくなると、必然と仙台の守り方は人に対する意識が強めの守り方になるが、仙台は下の図のような捕まえ方をしており、①アンカー(駒井か兵藤)に対する守備の強度が不足、②GKクソンユン経由で攻撃をやり直す時の対応が不明瞭、という問題を2つ抱えているように見えた。
 特に、選手特性的に小回りが利く駒井は、通常この位置を担っている深井や荒野以上に前を向けるシチュエーションの幅が広い。ここをしっかり捕まえられないと、中央経由の最短距離でシャドーに展開され、一気に攻撃側が有利な状況が生じやすい。
 ここ数試合、中央を使う頻度がさらに減っていた札幌だが、駒井と兵藤の起用は怪我の功名というか、中央で前を向ける選手が増えた状況になっていて、これまでの試合以上にロングボールと外経由での迂回ビルドアップ以外の展開が増えていたが、これはどの程度、指示や共通の認識があったのかはわからない。
アンカーの捕まえ方とGKへの対応が課題

1.2 出口は左に


 仙台も札幌と同じく、ボール保持時はミラー状態(数的同数かつ人を捕まえられている)を回避するために、純粋な3バック2MFを崩した形での組み立てが多い。最も多く見られたのが、3バックを右寄りに配置し、中央に大岩と板倉、右に平岡をタッチライン際に張らせた左右非対象の配置でスタートする形だった(これは4月の仙台ホームの対戦と同じ)。
 札幌はミラー状態を活かした、ほぼ純粋な数的同数守備をベースに考えている。相手が多少、立ち位置を変えてきた程度なら、それに合わせて自分たちも立ち位置を変える。人の関係性が極力ズレないようにしたい。よって、ジェイ、三好、チャナティップは、それぞれ大岩、板倉、平岡の立ち位置に合わせて、左寄りのポジションが基本となる。

 この形を基本とした上で、ポイントとなる点は2つ。1つは、図の下側に示したが、仙台からみて左サイド、中野の後方には初期状態で誰も配していないため、スペースができやすい。中野は早坂のマークを受けている状況にあるが、中野がこの後方のスペースまで活動範囲を広げると、ほぼ純粋マンマークに近い札幌は、早坂がカバーしなくてはならないエリアも拡がる。たまにここを矢島が使う状況もあったが、中野が早坂と距離をとるようにしてこのスペースに落ちてくる方がより効果的に、ビルドアップの出口を作ることができていた。
1on1関係を維持して守る

 もう1つは、マンマーク気味に対応している各選手の個々の対応の問題で、上の図で中野にボールが供給されるには、シュミットから板倉を飛ばして直接、もあるが、板倉が前を向ける状況になっているとより確実性が高まる。この点において、三好(とジェイ)は、対面の選手から距離を取って構える傾向が強い。三好のボール保持時はバチバチやりあっていた三好と板倉だが、板倉のボール保持時は殆ど制限がかかっておらず、マンマークで関係性明確になっていても、仙台はこの大岩と板倉のところではそう困ってはいなさそうだった。

2.ポジションと試合が動く

2.1 右サイドでの旋回


 札幌がゾーン2にまで侵入すると、仙台は潔く撤退守備に切り替える。5-4-1ないし5-2-3で守る仙台に対して、札幌は右サイドのユニットを突きつけることで、よりゴール方向に前進を試みていた。
 ゾーン2での仙台は5バックでゴール前を封鎖するところから守備が逆算され、その前方が「2-3」でも「4-1」でもあまり札幌のボールホルダーに圧力がかからない。必然と野津田と阿部は下がり目でスペースを埋める守り方に近くなっていく。
 李国秀氏がかつて言っていたが「前に人がいなければ運んで、人が出てくればパスすればいい」。後方に宮澤、兵藤、駒井と並ぶと全員それなりに運ぶことはできる。この時、下の図のように札幌は、三好が板倉から遠ざかり、矢島の背後で間受けを狙う。三好が消えた内側のレーンにはWBの早坂が出てきて、大外は進藤が、シャドーの阿部をパス1本で越えられるポジションにまで上がってくる。
三好・早坂・進藤の旋回で基準を守備の狂わせる

 旋回っぽい動きでもあり、ミシャ式だと5-0-5に近いメソッドで大外のにフリーの選手を作って前進を試みる。ただ、ボール欲しがりの三好が中央で受けて強引にターン、という展開もしばしばあり、この場合は成功すればビッグチャンス、失敗すればその後の展開(仙台の逆襲)は、札幌は駒井や宮澤の個々の危機察知能力に非常に依存している。
 なお、左サイドはより固定的な運用と位置取りになっており、菅が大外、チャナティップが椎橋の脇、という配置が殆ど動かなかった。定位置から動かないチャナティップが、椎橋(とその隣の矢島)をピン止めしていたとも見れるし、チャナティップは前半、明らかに様子見というかペースを落としていて、平岡がどこまで着いてくるかを観察しながらプレーしていたように見えた。

2.2 崩しの切り札


 一方で30分前後からは、5-0-5…後方でより人の移動が激しく、中央に人を残さないやり方がより使われるようになっていた。ミドルゾーンには三好とチャナティップ以外誰も配さないので、この2人が享受する空間(サッカー用語のスペースというか、札幌の他の選手と被らないで活動できるエリア)はより広くなる。
 ここでも札幌のファーストチョイスは三好。もしかすると、板倉との「平面のミスマッチ」を突くという狙いがチームにあったのかもしれない。
より5-0-5気味の形だと三好は仕掛けやすくなる

 札幌の選手の移動が活発になると、ボールを失い攻守が切り替わった時に、仙台の選手を捕まえることはより難しくなる。例えば下の図のように三好のところでロストが発生すると、ボールを回収した板倉から阿部に展開されれば、中央で3on3となっているので、兵藤、宮澤、駒井が初期対応をすればよいが、
1トップ2シャドーには3枚を確保しているが…

 ここで矢島が最初に登場すると、駒井は矢島をケアしなくてはならない(本来、ミラー布陣と考えると、駒井の対面の選手は矢島なので、駒井が矢島を見る意識は強い)。すると阿部は進藤が初期対応しなくてはならないが、この駒井⇔矢島、阿部⇔進藤はいずれも非常に距離が開いており、迅速にボールの出所(矢島)をケアするか、進藤や福森が急いで戻って枚数確保しないと対応が厳しくなる。
 ただ、数的同数を作っておけば、仙台のファストブレイクは怖くない。駒井と兵藤、バランスを気にする選手が中央にいたこともあって、大幅に破綻することにはならなかった。
4枚目(矢島)が出てくると変形攻撃のデメリットが露になる

3.攻守は一体


 後半は両者の構図がより明確になっていく。重心を下げる仙台と、前に人数をかける札幌。仙台は5-4-1で過ごす時間が長くなり、石原の脇から兵藤、駒井、宮澤が持ち出すところからセット攻撃の大半はスタートされる。仙台の5-4ブロックは、兵藤や駒井への圧力よりもバイタルエリアの封鎖が優先されており、札幌は前線の5トップ以外の選手はかなりイージーにボールを保持できていた。
 ただ札幌の問題は、シャドーのチャナティップ、三好、そしてトップのジェイ以外の選手では、左の菅が局面打開を図れる唯一の選手で、蜂須賀が菅を消していれば、札幌はブロックの外からの放り込みぐらいしか選択肢がなくなる。
 特に、右に配される進藤や早坂にボールが渡った時の崩しの選択肢不足は顕著だった。この点においても、ラストパス(特にジェイの頭へのクロスボール)の供給役として、三好が活動しやすい環境を作ろうとしていた問題意識は非常によくわかる。
5-4ブロックで中央を固める仙台

 後方に札幌を引き込んでボールを回収すると、仙台は躊躇なくトップの石原に当てる。石原は決して抜群に競り合いが強いタイプではない(弱くもない)が、石原vs宮澤のマッチアップ以上にセカンドボールの回収と、それを制すために速いタイミグで前にボールをマネジメントすることが重要で、下のように札幌が5トップで攻めていた陣形がそのまま残っている時にすぐに前に放り込めば、(赤い四角で示した)札幌の5トップは「ボール周辺の局面に関与できないエリア」に置き去りにできる。そして中央には札幌は人がいないので、(渡邉晋監督のハーフタイムコメント通り)「前に出ていく」ことができれば、中央でセカンドボール回収は容易になり、一転して反撃の機会を享受することになる。
回収した後は放り込みで一気に札幌の前5枚を無力化

4.波紋を広げる男

4.1 ハモン ロペスの投入


 62分、仙台は矢島→ハモン ロペスに交代。野津田を一列下げた配置とする。
62分~

 ハモンが入ってからの仙台の守備は再び5-2-3、シャドーを前目に置いた形に戻る。恐らく仙台としてはハモンの投入が攻撃のスイッチをさらに入れる合図で、そのハモンは阿部や野津田のように、守備時に5-4ブロックに加えていては脅威とならない。
 なので前目で運用し続けるために、守備時も高めの位置に置いておくという考え方になると思うが、そうすると後方は5-2ブロックのみで撤退して守ることは守備強度的に、それまでよりも難しくなる。ということで、必然とハモン投入は、仙台はボール保持だけでなくボール非保持の状況においても、重心を上げた戦い方を選択「せざるを得なくなる」。この点は5バックあるあるというか、札幌がヘイスや小野を二列目に使うと、重心を上げてプレーするか、前後分断的に割り切ってプレーするかの二択を強いられることと非常によく似ている(かつての札幌の場合はラインを上げられないので、後者しか選択肢がない)。
ハモンをシャドーに使うと5-2-3しか選択肢がなくなる

 ハモンの投入によって札幌の左、仙台の右サイドから斬り合いの様相が波紋状に拡がっていく。仙台はハモンに殆ど守備タスクを課さず、福森に適宜ついていく程度の役割を許容していたが、先述のように重心を上げることは必須であるため、野津田がポジションを上げてハモンに免除している前線守備をこなすが、中央は椎橋1人で対応することになる。
 一方で札幌は、対面の選手が野津田からハモンに変わったことなどお構いなしに福森が以前として攻撃参加を活発に繰り返す。よって、札幌のボール保持時間が長くなり、福森が前にいる時間が増えると、仙台はハモンの前方にスペースが生じる。
対面が誰だろうと気にしない福森

 この状況でトランジションが発生すると、仙台は当然ハモンをファーストチョイスとして展開するので、駒井や兵藤が福森の背後をカバーしなくてはならない。結果、札幌は守備時も中央から人がいなくなり、徐々に仙台が容易に前進できる状況ができていった。
福森の裏に駒井が引っ張られる

 得点は脈略のないところから生まれる。ジェイへのロングフィードを大岩が処理し、板倉が自陣ゴール側を向いてトラップしたところを三好が掻っ攫う。
 この得点の後、仙台は阿部→ジャーメイン。札幌は兵藤→石川に交代。福森を中盤に上げ、石川を3バック左に持ってくるが、ジャーメインとマッチアップした石川が高速ターンに置き去りにされ、速攻でPKを献上してしまう。これをク ソンユンがストップ。
 その後の15分間は、ジャーメインの突破に対する最適解が最後まで見つからなかったものの、札幌が凌ぎ切り、ACLまであと3つ、とした。

5.雑感


 ミラーゲームと言いつつ両チームともボール保持時に形を変えるので、そこまでがっぷり四つ感は本来ないはずだが、やはりゴール前に5バックを並べていると打開できるこの力が重要になる。札幌は、前の試合では、シャドーにボールを晒す選手を置きたくないという意思を感じさせた札幌のベンチワークだったが、この試合は明らかに三好がファーストチョイス。右サイドでは駒井と三好しかこの役割は現状担うことができない。特に、浦和戦は非常に重要な駒井(期限付き移籍の身分にして、右の崩しのキープレイヤーかつ中央での組み立てでも欠かせない存在であり、ついでに菅の教育係兼チャナティップの話し相手でもある)を欠くだけに、右サイドでは三好に期待が集まる。
 相手が4バックか5バックかでパフォーマンスが激変する仙台。仙台も膠着状態を崩すために、矢島やハモン ロペスのような選手の力が必要だとの考えは非常によくわかる。人数を合わせてくる守り方をしてくる相手には、無理が効く選手を抱えているか、またその選手が持ち味を出せるだけのバッファがチームにあるか、という点を感じた試合でもあった。

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