2019年1月8日火曜日

「チーム分析のフレームワーク」に基づく北海道コンサドーレ札幌の2018シーズン振り返り(後編)


 前編に引き続き、『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディ、片野道郎)の第2章、「チーム分析のフレームワーク」において示されているフレームワークに基づき、北海道コンサドーレ札幌の2018シーズンの戦術的な傾向を整理する。
 前編(守備~ポジティブトランジション)

 後編では攻撃、ネガティブトランジション、セットプレーについて整理する。

3.攻撃


 ビルドアップ(この記事の3.1)とポジショナルな攻撃(3.2)で分けて考えると、札幌の場合は敵陣で前線5人にボールを届け、何らか保持することに成功するまでが「ビルドアップ」、そこからの展開が「ポジショナルな攻撃」と定義できる。
 別の言い方をすると、対戦相手の守備陣形を、札幌の5トップによるアタックに対抗する形に変形させればビルドアップは成功である。また、この時多くのチームはゴール前にDFを5人以上並べる形をとることを余儀なくされる。
 ミシャが攻撃時5トップに変形する3-4-2-1という布陣に拘るのは↓の例のように、自軍がビルドアップに成功すると相手はその対応のため後方の枚数を増やさざるを得ず、前線が手薄になり、反撃に転じることが難しくなる(≒札幌が押し込む展開になりやすい)ため。
ビルドアップが成功し、相手をゴール前にくぎ付けにした場合の例(第27節鹿島戦)

 ビルドアップを成功させ、相手を押し込む展開に持ち込むことは攻撃が機能しているバロメーターだとも言える。一方で2017シーズンまでの札幌が得意としているダイレクトなビルドアップは、手数や時間をかけずに前線にボールを運び、自軍・敵軍共に人数が少ない状況でも攻撃を完結させることができる。このミシャが本来志向するビルドアップと、札幌が伝統的に得意なスタイルのビルドアップが併存していることが2018札幌というチームを掴みどころがない印象にしている要因の一つであり、またミシャの監督として優れた手腕が示された点だと思う。

3.1 ビルドアップ


 ファーストサードでのボール奪取や被ファウル後のFK、流れの中でGKにボールが渡った状況など、自陣低いところでGKかCBを起点とし、攻撃を組み立てるアクション。どのような陣形を取り、どのルートから誰がどのようにボールを動かし、敵の第1プレッシャーラインを越えようとするかがポイントである。
 大まかに分類すると以下2つがある。
 1)後方からパスを繋いで攻撃を組み立てる(ポゼッションによるビルドアップ
 2)前線のターゲットに直接ロングパスを入れる(ダイレクトなビルドアップ)

 札幌のビルドアップには、ダイレクト志向の四方田サッカーから極端な遅攻志向のミシャ式への過渡期にあるチームの特徴であり強みが非常に色濃く出た。ミシャの就任が発表されたのは2017シーズンの最終戦前だったが、新監督に用意されたスカッドはダイレクト志向に向いた選手が多かったこともあり、前のシーズンまでの強みであるダイレクトなビルドアップも戦術的なオプションとしてシーズン終盤まで残されることとなった。

 ビルドアップの基本陣形については、ミシャ式の代名詞は4-1-5の陣形からのビルドアップだが、プランBとして浦和時代から見せていた5-0-5、プランCとして札幌で特にシーズン序盤に多く使っていた3-2-5がある。
 ここで重要な点は、選手の話や各種報道を整理すると、「ビルドアップ時の人の配置」(上記のプランA~C)、ダイレクトに蹴るかポゼッションを行うか、は基本的に選手個々の判断に任されており、ミシャが細かく指示するケースは少ないということだった。
 但し、第30節の湘南戦では、ピッチコンディション等の問題もあり、ジェイと都倉(シャドーでスタメン起用されていた)にダイレクトに蹴ることをメインとしてもいいか、とミシャから野々村社長に確認したという後日談もあった。
 また、基本陣形については、第26節の川崎戦で0-7の敗戦を喫した後は5-0-5の採用が非常に多くなっていたが、これは何らかの形で5-0-5を積極的に使っていこうとのコミュニケーションがあったと考えるのが自然である。
シーズン終盤のビルドアップの基本形は5-0-5(第33節磐田戦)

3.1.1 ダイレクトなビルドアップ


 ダイレクトなビルドアップが選択される状況の最も典型は、相手の出方を見て、ポゼッションによるビルドアップが困難だと判断された場合である。ただ2018シーズンはミシャが語っていたようにワールドカップ開催の影響による超過密日程下で進行したため、移動が多い札幌は中断期間まで殆ど戦術練習ができなかったとのことだった。このことに加え上記のスカッドや選手特性もあって、ダイレクトなビルドアップは非常に汎用的な使われ方をしており、またそのパターンはポゼッションによるビルドアップ以上に多彩だった。

<パターン1(FWに蹴って収めてもらう)> 
<パターン2(サイドの選手の高さを利用)>
 ロングパスを蹴る選手は最終ライン中央の選手で、サイドから角度をつけて放り込むことはそう多くはなかった。福森が発射台となることもあるが、そのポジショニングはサイドよりも中央寄りのレーンに立ってからのアクションが多く、進藤はそもそもこうしたボールを蹴らなかった。

 ターゲットは端的に言うと「ジェイか他の選手か」となる。繰り返しになるがジェイは本来不利な状況である「DFを背負って長いボールを収める」というミッションを時に簡単に成功させてしまうスーパーな能力がある。他の選手はボールを簡単に収められない。一方で札幌の強みは、サイドに空中戦に強い(少なくとも苦としない)選手が数名いること。菅はサイズはないがしばしターゲットとなっており勝率もまずますだった。早坂がシーズン終盤に再評価されたのはその高さが大きいだろう。後述するが、CBを押し出す5-0-5では進藤や福森もターゲットになりうる。という具合に、競る選手自体は確保できる。
ジェイかサイドの選手をターゲットに(第22節セレッソ大阪戦)

 では競った後、セカンドボールを拾って二次攻撃に移行したいが、ここで問題は、シャドーが前線に張り付くミシャ式の5トップ布陣はターゲットに当てた後のセカンドボール回収に向く陣形ではない。第3節清水戦の記事で詳しく言及したが、2列目に人がいないため、ボールを手前に落とすと被カウンターのリスクが非常に大きい。
 そのため、ジェイ以外のターゲットはフリックして裏やスペースに流すなど、手前に落とすなどして直接味方に繋げるよりも、相手のミスを誘うことで攻撃機会に繋げていたと思う。
ジェイ以外の選手をターゲットにする時は裏に蹴る等、「競った後の展開」を考えて蹴る(第33節磐田戦)

<パターン3(ミシャ式基本形)>
 シーズン序盤によく使われた形。4-1-5の陣形を取り、後方でボールを動かし、「4」の両端の選手から対角のWBにロングフィードを狙う。純粋なゾーンディフェンスに近い守備を採用しているチームは、札幌の福森や進藤にボールが渡った時はボールサイドにスライドして守るため対角のWBがオープンになりやすい。福森は警戒されることが多かったため、進藤が菅を狙ったフィードを積極果敢に敢行することが目立った序盤戦だった。
シーズン後半には殆ど見られなくなった、対角フィードによるミシャ式の典型的なビルドアップ(第8節柏戦)

 しかしこの形はシーズン後半には殆ど使われなくなった。理由は主に以下1)2)である。

1)始めから5バックを採用する、4-4-2のSHに前進守備やプレスバックができる選手を配する等で、パスの出し手であるCBや受け手のWBをケアする対戦相手が増えた。
2)他の手段によって、より効果的に前進できるようになった。

3.1.2 ポゼッションによるビルドアップ



 ポゼッションによるビルドアップの基本は、相手に対して局面で数的優位や配置的優位を作り、常に有利な二択・三択を突きつけていくこと。
 先日テレビインタビューで、ミシャも自身のビルドアップについて「まず数的優位を作る」と語っていたが、実際には札幌は局面の数的優位を作るというよりも、「とにかく後方に人を4人確保する」(シーズン終盤は5-0-5なので更に増えて5人になっていた)という原則でプレーしているように見える。またその各選手の配置は局面で相手に対する優位性を得られるポジションを確保していないことも少なくなかった。

 典型だったのは↓の写真にもある第26節の川崎戦。4-4-2でブロックを組む川崎の1列目を2人と見立てると、この2人は中央レーン(↓の図に破線を引いたが、センターサークルが収まるレーン)に初期ポジションを取るので、札幌はその隣のレーンに人を配せば川崎の1列目の選手にいくつかの択(レーンを移動して守る、自分はステイして他の選手に見てもらう、等)を突きつけることができる。しかし札幌の中央の選手2人(この時は深井とキム ミンテ)は↓のように、わざわざ相手選手と鉢合わせするポジションを取っており、ポジションによる優位性を得られていない。そのため1人ずつ人を捕まえる川崎の前進守備にはまってしまい、ビルドアップ局面を狙われて次々と失点を重ねてしまった。
4-4-2で守る相手に対し有効な立ち位置を取れていない(第26節川崎戦)

 上記のようにそのポジショニングはあまりロジカルとは言えず、また数的にも実は「数的優位」ではない状態で戦っている局面は非常に多くあった。それでもボールを運ぶことに関しては、先に説明した「ダイレクトなビルドアップ」と合わせていくつかの形を持っていたことはこのチームの大きな武器となった。
相手1列目に対し3on2で局面の数的優位だが、相手の守備射程内のポジションを取っている(第27節鹿島戦)

<パターン1(チャナティップからの右サイドへの展開)>
 ダイレクトなビルドアップに不可欠な選手がジェイだとしたら、ポゼッションによるビルドアップの主役は左シャドーのチャナティップ。
 札幌のボール保持攻撃は陣形が4-1-5にせよ5-0-5にせよ、前と後ろの人数配置は5:5となっている。チャナティップは初期配置ではほぼトップに近い位置を取っており、相手DFを背負っているが、その監視から逃れるように低いポジションまで(時にセンターサークル付近まで)ポジションを下げ、浮いた状態になることで縦パスを受けようとする。この時、相手最終ラインはカバーリングの意識が強いほど、ボールサイドの人の密度は高くなるが反対サイドのWBはオープンになりやすい。
降りてきたチャナティップへの縦パスが前進のスイッチ(第25節神戸戦)

 ここに縦パスが入り(左側にいるDFから。福森やその隣の選手)、チャナティップが自身の左側に180°ターンすることで一気にビルドアップのスイッチが入る。DFを背負っていても、足元に入ったボールを簡単に喪失することは殆ど稀なチャナティップは、反転により相手DFと間合いを確保すると右足で対角の右WBにサイドチェンジ。スペースを享受しているWBにボールを届けることで一気に前進に成功する。
チャナティップのキープからサイドを変えると共に前進(第25節神戸戦)

 前項3.1.1の2)で「他の手段によって、より効果的に前進できるようになった。」と書いたのはこのチャナティップを経由して左サイドから右サイドにボールを運び、前進するプレーの精度が全般に高まったことを指している。従前福森→右WB(駒井)に長いボールを蹴ることで行っていたビルドアップを、チャナティップを経由することでより精度を高め、またパスの距離が短くなることで相手の対応(DFのスライド等)をより難しく、札幌にとってはチャンスを創出しやすくなった。
 一方で反対サイドではこのようなパターン確立には至らず、進藤のサイドチェンジの成功への期待はシーズンの終わりまで維持された。

<パターン2(駒井がビルドアップの出口を作る)>
 もう1パターンは、駒井の位置取りによって相手の圧力を回避するもの。これは最終的には相手の前線守備を空転させ、自陣への撤退を余儀なくされ、札幌が敵陣に侵入できるという展開に繋がることが多かった。
 駒井の基本ポジションは右WBで、攻撃時には前線で5トップの一員として位置取りをし、左の菅と共にサイドからの崩しを担うことが求められている。しかし菅は常時前線に張り付いているが、駒井は状況を見てサイドの低い位置や、より内側のレーンに移動することで浮くポジションを取り、相手の圧力を受ける後方の5人からボールを逃がす。逃がした後は”浮いた”状態から反対サイドやトップのジェイ、シャドーへの展開もあれば、先述のように相手が撤退するのを待つ場合もある。
 2018シーズン、駒井は29試合に出場し、欠場した浦和戦2試合、26節(川崎戦)、27節(鹿島戦)、34節(広島戦)では札幌は2分け3敗と全く勝てなかった。
駒井がビルドアップの出口を作る(第3節清水戦)

3.2 ポジショナルな攻撃


 「ポジショナルな攻撃」=組織的守備の陣形を整えた相手に対して、いったんミドルサードでポゼッションを確立したところから、一定の陣形を保って攻撃を仕掛けていくこと。

 前提として、札幌がポゼッションを確立するまでのプロセスには陣形を変形させるための時間を要する。そのため、ポゼッションを確立した段階では相手が自陣に引き、枚数を確保しブロックを構築している状態と対峙することが基本となる。

3.2.1 クロス爆撃


ゴール前を固める相手に対しての回答は、一つは質の高いクロスボールをターゲットに供給すること。「質の高いボール」となると福森が思い浮かぶ。2017シーズン以前と同様に、福森のいる左サイドからのクロスは札幌の最大の武器だと言える。
 福森の活かし方は、バルバリッチ体制の2015年からほぼ変わらない。大外のWBが縦に仕掛けを意識させることで対峙するWBやSBを引っ張る。その斜め後方に福森がポジションを上げ、WBから下げられたボールをオープンな状態で受ける。
WBが縦を意識させ相手SBを引っ張る(第24節清水戦)

 福森の左足ならば距離があってもターゲットへと届くボールを蹴れるという意味では、アタッキングサード全域はほぼ射程範囲内だと言える。
 札幌のクロス爆撃におけるポイントは、ターゲットとなる選手は常にファーサイドに配されている。これはジェイや都倉の高さや跳躍力を活かすために、クロスボールは速く低い弾道よりも高い弾道で合わせるボールの方が都合がよいため。ターゲットがポジションを確保してジャンプするための時間を稼ぐ上でもクロスの滞空時間が長いファーサイドを狙うことは理にかなっている。
後方からポジションを上げてきたCBがフリーでアーリークロス(第24節清水戦)

 攻撃参加してきたCBがクロスを上げることについてもう一つ言及すると、シンプルにクロスを供給して本数を稼ぐよりは、キッカーがフリーになる状況を作った上で必ずファーサイドのターゲットを狙う(ニアではね返されることを避ける)ことを徹底している。これはニアではね返されるとカウンターの危険が非常に大きいため。この点において、三好は優秀なキッカーでもあった。

3.2.2 (主に5-0-5採用時)CBの攻撃参加とWBの中央進出


 CBの進藤や福森の攻撃参加について、シーズンオフに放映されたローカル番組では、宮澤と福森が冗談交じりに「福森がボールを持っている時に勝手に進藤も攻撃参加するので困る」という旨の発言をしていたが、進藤や福森の攻撃参加はチームとして設計された攻撃パターンに組み込まれている。(むしろ、福森の方が「勝手な」攻撃参加が目立つ)。
 どのようなパターンなのかを考える前に、前提条件として札幌にはかつての浦和の関根のような、サイドの狭いエリアでボールを保持したときに打開できるようなウインガーは駒井の他にはいない。よって、本来ボールホルダーのスペースが矮小になりがちな遅攻とは相性が悪い。札幌のスカッドならば、ミシャ式でいちいち攻守で布陣を変えて攻めるよりも、よりファストブレイク志向が強いサッカーの方が合っているはずである。

 CBの攻撃参加は、強力なウインガーがいない札幌がサイドから局面打開をするための策と位置付けられている。相手を押し込んだ状態で、5トップ化していた札幌のシャドーが中盤に下がり、シャドーが空けた中央レーンにWBが進出する。このポジションチェンジによりいくつかの守備の基準点のずれを生じさせる。落ちていったシャドーを見るのは誰か。内側レーンに入ってきたWBをどう捕まえるか。そして大外に新しく登場してきたDFへの対応も必要になるが、ゴールから遠く優先度が低い大外レーンは放置されやすい。そのため、強力なウインガーの局面打開がなくとも、進藤や福森はフリーでクロスを供給することができる。
5-0-5からのDFの攻撃参加による崩し(第28節鳥栖戦)

4.ネガティブトランジション


 まず、攻撃時の陣形において、ボールロストに備えた予防的カバーリング/マーキングをどのように行っているかがポイントである。
 次に、取りうるアクションは以下2つ。
1)『ゲーゲンプレッシング』により即時奪回を目指す:カオティックな状況でのアクションであり、即興性が強く、再現性は低い。プレー原則のレベルであれば把握・理解が可能
2)自陣に『リトリート』して組織的守備に移行する

4.1 ボールロストに備えた予防的カバーリング/マーキング


 「予防的ポジション」と言えるポジショニングは殆どない。このことはミシャチームの大きな問題点である。32節浦和戦ではその問題点を突かれる形で先制点を献上したが、この時も本来ゴール前を守るCBの選手が中央からいなくなり、中央をMFの選手2人で守る状態になっている。予防的カバーリングどころか、本来いるべき選手がいない状況である。
ボール保持時に本来中央にいるべきCBをサイドに移している(第32節浦和戦)

中盤の選手が中央で応対するが、「予防的」というよりCBの代替に過ぎない(第32節浦和戦)

 ミシャとしては、就任1年目の2018シーズンは、まずボール保持攻撃の精度をできる限り高めることに取り組む方針だったのだろう。浦和では右CBの森脇が中央に絞って予防的なカバーリングをする形も見られたが、2年目以降こうしたチューニングがされる可能性はある。

4.2 ボールロスト後のアクション(ゲーゲンプレッシング/リトリート)


基本的には大半がリトリートである。ゲーゲンプレッシングを行えるポジションをとっている痕跡は殆どないため、やりたくても不可能で、アクションは個人個人の判断に任されている印象を受ける。

5.セットプレー

5.1 ゴールキック


 ゴールキックはスローインと並び、最も頻度の高いセットプレーの1つであり、どのような陣形を取りGKから誰にどんなパスが出されるか、そこからどのような展開が想定されているかがチェックポイントになる。

 ク ソンユンの選手特性もあるが、札幌のGKのビルドアップへの関与度合いは決して高くない。ク ソンユンへのバックパスで攻撃をやり直すことはあるが、ソンユンは近くのDFにボールを預けることで基本的には仕事終了となる。それができない場合は、前線のターゲットに蹴ることが許容されている。
 上記はゴールキック時も同様で、ソンユンのファーストチョイスは最も近いDFにボールを預けるだけ。それができない場合はロングフィードを狙うが、この時一つ特徴を挙げると、ターゲットは前線の都倉とジェイ以外に左サイドの菅、福森を狙う試合もあった。菅はさほど大柄ではないが跳躍力に優れ、マッチアップする相手との数センチ差を覆すことも少なくない。福森は相手の右MF等とのマッチアップが多いが、福森のマッチアップがピッチ上で最も札幌に高さの分があるケースもいくつかあり、そうした場合にターゲットとして活用され、高めの位置を取っていることがある。
ソンユンからサイドの菅をターゲットに(第8節柏戦)

5.2 スローイン


 戦略的な活用方法がある場合は分析する(特にファイナルサードでのスローインにおいて素早くクロスに持ち込む等)。

 札幌のスローインの大半はポゼッションの確立に繋げられ、上記のような例は少ない。

5.3 CK・FK

5.3.1 攻撃時のCK・FK


 キッカーは誰で、どこに何人を送り込むか。ボールはどこを狙うか。

 福森が健康な状態であればキッカーは不動。ジェイか都倉は必ずピッチに立っており、加えてキム ミンテも両者に匹敵する高さがある。これら大型選手を”影”として利用するパターンが多い。ファーサイドにジェイか都倉を配し、ニアサイドにキム ミンテ。キム ミンテの前方に宮澤、ジェイや都倉の後方に進藤が飛び込むパターンが多い。

5.3.2 守備時のCK・FK


 守備はゾーンかマンマークかミックスか。弱点はあるか。

 基本的に純粋なマンマーク。相手のターゲットのうち強力な選手から、キム ミンテ
>都倉>宮澤、福森、早坂、進藤、といった優先順にマークを決める。
 ストーンはニアに1人置く。加えてニアポストに1人を配する。ジェイはマークを担わずストーンとして運用される。レギュラーのうち、駒井、三好、チャナティップは競り合いに強くないので、この3人を除いた選手はほぼ必ずマーキングかストーンを担うことが求められる。この人数勘定上、菅はニアポストに1枚置かれる役割を担うことが多い。
 シーズンを通じて、コーナーキックからの失点が目立った(10節マリノス、11節仙台、15節神戸、21節セレッソ、23節FC東京、24節清水、25節神戸戦)。このうち11、21、23、24節の失点は全て相手がニアのストーンの前で触られ、11、23、24節の失点は人を配していないファーポストに流し込まれる形だった。

 マーキングに関していうと、高さ、強さには一定の信頼がおかれているはずのキム ミンテが競り負けることが目立った。かつてガリーネビルとキャラガーがCKの守備に関して議論していた時、「ゾーン派」のキャラガーはマンマークのデメリットとして「空中戦に強いFWの選手でも人をマーキングすることは勝手が違うので難しい(数に含めづらく、ストーンしか任せられない)」と語っていたが、ミンテのクロス対応はまさにそれを思わせるもので、ミンテがスタメンを外れた試合ではセットプレーではやられていないというのは偶然ではないと思われる。

6.まとめ


・四方田修平→ミハイロ・ペトロヴィッチという監督交代により全く正反対の方向に進むかのような報道等があったが、撤退守備が基本のミシャ式と、長い距離を前進させることができるリソース(ジェイの起点を作る能力、都倉の運動能力、福森のロングフィード)は非常に親和性が高い。引き継いだチームにこうしたリソースが残っていたことはミシャにとり非常に有益だったと思われ、また選手もこの点はそう大きな違和感がなく戦術に対応できたと思われる。

・ミシャ式の導入により、2017シーズンに比べ、主にボール保持攻撃において再現性のあるパターンが増えた。一方でスカッドの特性を活かしたダイレクトな攻撃も健在で、カオス展開が多めの試合も散見されたが、チャナティップや駒井、三好、ジェイなどのボール保持時に力を発揮する選手が多く加わったことで、シンプルに攻撃のクオリティが高まったことがより重要だったと思われる(カオス展開の分析には「SPLYZA Teams」等のツールを使いたいが、正月休みが終わってしまったためマンパワーの捻出が課題である)。


・守備面は、戦術的には2017シーズンとそう大きく変わらない形に軟着陸した。

・攻守トータルで見ると、前進守備を可能とし、ボールを運ぶ能力も兼備するキム ミンテの抜擢と失速(と宮澤の最終ラインへのスライド)は戦術面に大きな影響を及ぼした。

・あるサッカーライターの方が「ジェイ不要論を唱えていた札幌サポーターはわかっていない」という旨の主張をしていたが、筆者の印象では、シーズン序盤はジェイ起用のデメリットが浮き彫りになるスタイルで戦っていた。シーズン終盤、ACLが見えてきたころになると、ジェイのスーパーな起点創出能力を拠りどころとしたサッカーに変態していて、ジェイ起用の損得勘定はシーズン序盤とは異なる数式になっていたと思う。

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