スターティングメンバー |
北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-1-2、GK金山隼樹、DF菊地直哉、増川隆洋、福森晃斗、MFマセード、深井一希、上里一将、荒野拓馬、ヘイス、FW都倉賢、内村圭宏。サブメンバーはGK阿波加俊太、DF櫛引一紀、MF河合竜二、石井謙伍、小野伸二、宮澤裕樹、ジュリーニョ。今週から完全合流したヘイスが早速スタメン復帰、前線は都倉内村の2トップで、好調のジュリーニョがサブに戻ったのは、やはり守備面の不安からだろうか。一方ボランチは複数の組み合わせが考えられる中、上里がスタメンに復帰しており、左サイドに荒野。また出場が危ぶまれた福森もスタメンに名を連ね、大一番を前に宮澤以外はほぼベストメンバーが揃った。
清水エスパルスのスターティングメンバーは4-4-1-1、GK杉山力裕、DFキム ボムヨン、ビョン ジュンボン、角田誠、松原后、MF枝村匠馬、河井陽介、竹内涼、白崎凌兵、石毛秀樹、FW鄭大世。サブメンバーはGK植草裕樹、DF三浦弦太、MF村田和哉、澤田崇、六平光成、FW長谷川悠、北川航也。
清水は依然として攻守の2枚看板、大前と本田を欠いている他、新潟から期限付き移籍で獲得し、スタメン出場を続けていた川口が右腓腹筋肉離れ、CBのレギュラークラス犬飼も離脱中。大前に加えてミッチェル デュークも長期離脱している前線は、出遅れていた鄭大世が第8節以降の19試合で13ゴール、ここ6試合で7ゴールと牽引し、相方に金子や石毛といった2列目タイプの選手を配している。6月上旬に全治6週間の負傷を負った本田拓也は8月に入り、ようやく実戦復帰したところのようである。 清水は14節までで5敗を喫し、やや出遅れていたが15節~26節は7勝4分1敗で乗り切り、試合開始時点では自動昇格圏と勝ち点差7の5位につけている。持ち直した要因の一つに、ベテランの域に達した枝村の存在があるとみる。第17節以降継続してスタメン出場しているが、攻守でスペースに気が利く選手で、若い選手が多い中盤にバランスをもたらしている。
0.前回対戦を振り返る+α
3/20にIAIスタジアム日本平で開催された第4節の試合では、劣勢が予想された中で2-0でアウェイの札幌が勝利。札幌は中盤に3枚を横に並べた(3センター)3-5-2の布陣で守備的な戦いを選択。福森のコーナーキックからのオウンゴールと、直接フリーキックをGK西部のミスもあり都倉が挙げた2ゴールで前半に2点を先行。その後は自陣に5-3のブロックを築き守り切ることに成功した。この時の感想としては、札幌の3-5-2は付け焼刃で完成度はまだまだ、清水の拙攻やチームビルディングの遅れのおかげでなんとか守り切ったな、との印象で、その後札幌が首位を快走、清水に勝ち点差12をつけてこの試合を迎えることになるとは到底思えなかった。
試合を見ていて感じたのは、この試合で初めて最終ラインの中央に入った増川の存在感。37歳になったとはいえ、6年前のJリーグベストイレブンは伊達ではないなと思わせる高さやシュートブロックの技術に加え、ボールを保持した時の展開も(少なくとも札幌のレベルでは)悪くない。DFとしての経験値は本来中盤のファイターである河合とは比べ物にならないとの印象を受けたが、四方田監督同様のことを考えたかもしれない。この試合を境に、バルバリッチ体制からの泣き所であった「3バックの中央問題」は解決し、増川がディフェンスリーダーに定着した札幌の快進撃が始まっている。
1.前半
1.1 清水のボール保持時の展開
清水は左ボランチの竹内を最終ラインに落とし、両サイドバックを押し上げて3バック化した状態からビルドアップを行う。
基本的に、清水の攻撃はサイドからのクロスによるフィニッシュ…クロスに合わせる形や、トップの選手が落としてからのミドルシュート、から逆算されている。これはいくつか理由が考えられるが、他の攻撃パターンと比較して、陣形を大きく変えることなくフィニッシュまで行くことができるので、失点(カウンターを食らう)リスクが最も低いということが大きいと考えられる。清水の中盤サイドには河井と白崎という、どちらかというと中央の選手が起用されていて、所謂"攻撃の横幅"役はサイドバックの選手。その意味で、川口が離脱してしまったのは痛い。
ボールを動かすうえで主体的な役割を果たすのは、3バックの中央の角田。角田からサイドのキム ボムヨン、松原にボールが入ると、この両選手、特に松原はサイドアタッカー然として振る舞うことが許されていて、対面の選手…マセードや荒野と対峙して積極的に仕掛けていき、クロスを上げることが仕事である。
ビルドアップ時の平均的なポジション |
札幌は清水のビルドアップに対して、前線の3枚はリトリートして中央を封鎖、言い換えればボールを奪いにはいかず、"待ち"の対応をとる。そのため清水の後方の3枚、ビョン ジュンボン、角田、竹内は殆どノープレッシャーでボールを持つことができるが、札幌は中央を閉めることで清水の攻撃のサイドを限定させる狙いがある。そして清水が攻撃のサイドを決め、サイドバックにボールが届けられたところで、対峙するウイングバックが縦を切り、スライドしてきたボランチが横を切ることでプレッシャーをかけ、ミスを誘いボールを奪うのがコンセプト。
清水はサイドバックが高い位置に張りだす 札幌はサイドを限定させてサイドバックに届けられたところで狙う |
清水の攻撃の問題点を挙げるとすると、最終ラインの選手…特に角田から縦パスが入らないので札幌の狙い通り、サイド経由での展開一辺倒になってしまう。札幌のFW~MF間は比較的空きやすい傾向にあり、また3トップによる中央の守備も選手間が空いてパスコースを作ってしまうことも少なくなく、例えばセレッソ大阪はボランチの山口がFW~MF間で受けてサイドに展開するプレーなども行っていたが、清水はこのスペースを使える選手が出し手(CB)、受け手(ボランチ)共に乏しいので、ほぼ全てがサイド経由の展開となり札幌としては読みやすい。下の写真、9:55は角田からキム ボムヨンへのパスがややずれたのもあるが、モーションの時点でバレバレで、荒野が読み切ってインターセプト、カウンターに繋げている。
CBからの展開に工夫がほしい |
上記のように、札幌の5-2-3守備の緩さもあり、清水はサイドで基点を作るところまでは問題なく展開することができる。しかし例えば左サイドで松原がボールを受け、中央に鄭大世と石毛が待ち構えている状況で、5バックの札幌は3人のCB…全員180センチオーバーの菊地、増川、福森に、絞ってきた石井がゴール前を固める。ここを正攻法(ハイクロスに鄭大世のヘディング)で崩すのは簡単ではないので、サイドからひたすらクロスを上げればいいのではなく何らかの工夫が求められる。この点について、清水は当然無策ではなく、前半20分を過ぎたころから"工夫"を具現化してくる(後述)。
1.2 札幌のボール保持時の展開
札幌のボールを保持時のマッチアップは下の図の通りで、清水は鄭大世が増川、石毛が中央のボランチ(主に深井)をマークする4-4-1-1で守備をセットする。清水としてはこの中央の2人を切ってサイドに誘導し、福森や菊地に出たところでプレッシャーをかけてミスキックを誘う意図があったと思われるが、序盤の札幌は繋がずにロングフィード…対角に位置するウイングバックや、裏を狙う2トップを狙った長いボールを多用することで清水のプレッシャーを回避する。鄭大世が増川に徹底マークの姿勢をとっていたが、これは中央の選手に簡単に縦に蹴らせて、DFライン裏に走られたFWに渡って1vs1…といった形を簡単に作らせないためである。
図で示した通り、札幌の後方の選手の中で菊地、福森、上里の3人が浮くことになるが、この中で最も清水に問題を突き付けていたのはボランチの上里。上里が左ボランチ、半端な位置で受けると、清水は誰がマークに着くのかはっきりしない。一応、一番近い選手は河井だったり枝村だが、上里がモーションの小さい、速いキックでサイド(主に、体格のマセード)に展開すると清水の4-4ブロックは横スライドを強いられる。
恐らく内村と上里が先発で起用されているのはこのようにロングフィードを多用したビルドアップを行うためで、裏を狙うのが巧い内村がハイラインを維持する清水を牽制し、またロングボールを多用する展開ならば、チーム随一のロングキックを持つ上里も活きてくる。
清水は4-4-1-1でセット 札幌はロングフィードを多用して左右に振り、内村と都倉が裏を狙う |
1.3 やってはいけないミス
先制点は試合が落ち着く前の開始4分、札幌右サイドのスローインが入ったところで清水は人数をかけて奪う。鄭大世が河井に落とし、攻撃に転じようかというところで河井が中央の枝村に斜めのパスを出すが、これが合わず福森が拾う。この時清水は3バック化して押し上げていたところでラインが上がっており、福森がその裏へ柔らかい浮き球パスを通すと内村に簡単に裏を取られてしまう。GK植草が出るが、内村がジャンピングボレーで押し込んで札幌が先制。清水としてはこの守→攻のトランジションでこうも簡単に失ってしまっては話にならないといったところで、キャプテンマークを巻く河井の軽率なミスであった。
一方、札幌としてはラッキーな先制点だったが、清水は他のJ2チームと違ってハイラインを維持するので、また内村が先発で起用されていることからも考えると、恐らく「積極的に裏を狙って行こう」といった指示はされていたと思われる。9分にも自陣で奪ってから、深井の裏へのパスに都倉がフィジカルを活かしてシュート体勢に持ち込み、杉山を脅かすシュートを放っている。
1.4 清水の様子見の終了と反撃
清水の"様子見"が終了し、攻撃のパターンに変化を加えてきたのは前半20分以降。
開始20分間の攻防において、清水としては札幌の守備の基本的対応…札幌はサイドにはウイングバック1枚しか配していないので、清水がサイドバックに加えてもう1枚をサイドに投入すれば簡単に2vs1を作れるという点をゲームの中で再確認し、徹底してここを突いてくる。
枝村や白崎がサイドに流れれば1vs2 加勢するのは両ストッパーの福森と菊地 |
まず22分、左サイドで石毛が降りてきて受けると札幌はマセードが対応するが、必然的にマセードの本来のマーク対象である松原が空く。石毛が受けると同時に、白崎がマセードの背後のスペースへ、松原はペナルティエリア角に向かってインナーラップ。菊地はより危険度の高い松原のマークを優先するので、白崎がサイドでフリーに。石毛から白崎に渡ると、増川がマークに着くが、これにより札幌の強固だったはずの5バックは福森と荒野しか残っていない。結果的に白崎がマイナスの折り返しを松原に通し、松原のシュートは戻った増川にブロックし、この局面はなんとか守り切る。
石毛がマセードを釣りだし、白崎が背後、松原がペナルティエリア角を狙う 札幌は芋づる式に菊地と増川が釣りだされる |
続く26分、今度は札幌左サイドで、キム ボムヨンがやや引いたポジションで受ける体制をとると、対面の荒野がキム ボムヨンに食いつく。すると荒野が空けたスペースに枝村が出ていき、ビョン ジュンボンが枝村に浮き球のパス。このパスはやや合わず、札幌が回収しかけるが、セカンドボールをサポートした石毛が拾い、右サイドをドリブル突破。この時、札幌左サイドは荒野が釣りだされたことで福森がスライド対応しているため、またも中央の枚数が減っている。
キム ボムヨンに荒野が食いつくと同時に枝村が背後を狙う |
石毛がドリブルから早いタイミングでクロスを上げ、増川と菊地の間に入り込んだ鄭大世がダイビングヘッドで狙うも枠を外れる。
石毛の突破からクロス、鄭大世がダイビングヘッド 札幌の中央は手薄になっている |
共通しているのは、5-2-3で守る札幌はサイドにウイングバック1人しか守備要員を配していないので、2人目、3人目を送り込むとCBの選手がサポートに来るが、中央の枚数が減り手薄になるうえ、スライド対応するのでクロスに対するマークがズレやすい。(加えてポジションチェンジでウイングバックの守備の基準点をずらせば尚良い)。仕組みとしては極めてシンプルなオフェンスで、清水でなくとも一定以上のビルドアップ能力があるチームなら必ず狙える攻撃パターンだが、この2つの局面を見てわかるように、札幌は首位のチームとは思えないほどにあっさりと崩されている。
ただこの時にそれぞれ、増川のシュートブロックと鄭大世のシュートミスで失点を免れたのはある意味で象徴的で、この試合に限らず、札幌のJ2最少失点は相手の技量にかなり助けられた結果でもある。
1.5 傑出するヘイスの"個"と代償
徐々に清水にペースを握られる展開となった札幌にとって大きい存在、所謂"効いている選手"を一人挙げるとするならばヘイス。札幌の受け身的な守備サッカーでは、どうしてもボール回収地点が低い位置になり、また奪った後にとりあえずクリア…という場面も少なくないが、ヘイスにボールが入ればキープして、味方が上がる、陣形を整える時間を作ることができるので、5-2-3でブロックを組んだ際に最前線の中央にヘイスがいるということは守→攻の転換をスムースにする上でも非常に大きい。
そして28分、清水のGK杉山へのバックパスを内村がチェイスすると、杉山のパスはミスキックとなり中央のヘイスへ。ヘイスがトラップからがら空きのゴールへ冷静に流し込み追加点。一見イージーに見えるが確実なトラップからの小さいモーションでのシュートは決して難易度は低くない。ヘイスが"モノが違う"ところを見せつけて札幌が2-0とリードを広げるが、このプレーでヘイスはふくらはぎの肉離れを再発。ゴールから間もない32分、石井と交代でピッチを後にする。
32分~ ヘイス→石井 |
1.6 拾えない 収まらない 奪えない
ヘイスを失った札幌は荒野がトップ下に入るが、これにより前線で個の力により溜めを作れる選手がいなくなる。収めるという能力に関しては、荒野とヘイスの能力差は歴然で、札幌はボールの収まりが極めて悪くなり、セカンドボールを清水が拾う時間が多くなる。
そして札幌は先述の通り、守備は基本的にリトリートなので能動的にプレッシングを仕掛けてボールを回収することが難しい。30分、スコアは2-0だがボールを保持し、動かし、ゲームをコントロールするのは完全に清水となる。個人的には、この守備対応ならばヘイスに代えてジュリーニョで良かったと考える。
ジュリーニョでいいじゃないか、というのはもう少し補足すると、例えば下の写真、34:39の局面でも如実に表れている通り、基本的に札幌の前3人はユニットとしての守備が殆ど機能していない。この局面は清水が右サイドからボールを運び、札幌の前線3人の守備ラインを突破したところだが、ボールに一番近い内村はボールサイドでの局面的な展開に対応すべく、マーク対象についていく(プレスバック)ものの、荒野と都倉は棒立ちで守備に加担していない。
ゾーンディフェンスの原則からいうと、この場合のFWの選手、荒野や都倉の仕事はサイド→中央のコースを切り、サイドチェンジを防ぐことであり、ここで中央を切らなければ、ボールサイドで何人人数をかけたところでサイドチェンジされて無駄に終わる。
ドリブルで運ばれたら守備を放棄し サイドチェンジを防ぐポジションをとれていない |
手薄な逆サイドを突かれてクロスを上げられる |
この問題(前3人がユニットとして守備できない、1列目を突破されると5-2ブロックが晒される)は序盤戦…モンテディオ山形戦やセレッソ大阪戦でも見られたが、結局のところ札幌の前3人の守備は殆ど飾りであり、誰が出てもザルさは殆ど変わらない。それならば打開力のあるジュリーニョを投入し、攻撃で圧力をかけた方がマシだったのではないか。
こうしてシステムによる構造的な欠陥を抱え、かつそれを補うだけの戦術を備えていない札幌が清水のサイドアタックに対してとった策は、FWを下げての5-4ブロック構築による人海戦術。これにより当面の危機は脱することができるが、都倉や内村がこの位置にいては効果的なカウンターを仕掛けることも難しい。
5-4ブロックで枚数確保 |
1.7 舵取り役不在
また2点を先行した後の時間帯で札幌のポゼッション時間が短くなった(Football Lab のデータでは31~45分のポゼッション:清水68%)理由の一つに、先に指摘した清水の守備対応…鄭大世と石毛が中央の増川と深井を消していることも挙げられる。清水は鄭大世と石毛が中央の2人に着いているので、札幌はサイドのDF、福森と菊池はフリーで持てるものの、横にボールを動かすことが難しくなる。
横に動かせない分、菊池や福森は縦(最前線の都倉や内村に当てるか、高い位置に張るウイングバックに着ける)に動かすという選択をするが、逆に言えばこれは最終ラインでボールを回して時間を使ったり、ポゼッションの時間を増やして体力を温存したりするということができないということでもある。2-0でリードしている状況ではむしろ好ましくない。またチームとしても、縦にどんどんボールが供給されると、どうしても前線の選手は勝負したくなるもの。スカパー!中継では解説の大森健作氏がマセードのクロスの技術…抜き切らない状態で、相手にブロックされずにクロスが上がる、を絶賛していたが、この時間帯、チームとしてはマセードに勝負させる(クロスが跳ね返されて攻撃が終わることになりやすい)ことよりも、ボールを動かして時間を使い、清水のブロックを動かすことのほうが戦術的には効果的であった。
菊地が持った時に、近くの増川と深井は鄭大世と石毛に切られているので 遠くの選手(=マセード、FW)に渡すしか選択肢がない ⇒縦方向への早い展開になるので、マセードや都倉は仕掛けたくなるが ボール保持の時間は短くなる |
2.後半
2.1 仕切り直し後も変わらず清水ペース
札幌としてはハーフタイムを挟んで修正、仕切り直しとしたかったところだが、後半立ち上がりから数分間も清水ペースが続く。
前半途中から少しずつ見られていた傾向だが、清水は攻撃時、右のキム ボムヨンのポジションを左の松原と比べて低い位置に置く。札幌は清水のSBに対して常にマンマーク気味にウイングバックをぶつけているが、キム ボムヨンが低い位置にいる時にウイングバックが出てくると当然背後が空いてしまう。バランスを考えるとサイドのFW(下の図では内村)に対応させた方が良いはずだが、恐らくチームとしてSBにはWB、と約束事を決めてしまっているためそうした臨機応変な対応ができない。
このキム ボムヨンのポジショニングが石井を釣りだす狙いを持っていたのは明らかで、石井が食いつくとその背後を枝村が狙ったり、あるいはボランチ脇で受けようとする枝村にキム ボムヨンから早いタイミングでパスが供給される等、後半の清水は右サイドを起点にボールを運ぶ。
低い位置のキム ボムヨンに石井が食いつくので裏が空く 枝村はボランチ脇と石井の背後を使える 札幌は荒野がサイドに回りプレスバックして中盤の枚数を確保 |
2.2 村田vs四方田監督の懐刀
後半立ち上がりの札幌の守備を見ていると、荒野がFWなのかMFなのか中途半端な位置…5-2-3にも5-3-2にも見えるようなポジションをとっている。ただ、札幌の左(清水の右)サイドから攻められた際に荒野がプレスバックして中盤の枚数を確保する対応をしているところを見ると、恐らく5-3-2のイメージだったと考えられる。逆に言えば、判断に迷うくらい荒野は動き回っていて、札幌がボールを回収した際には前線に駆け上がり、3人目のアタッカーとして振る舞う等、かなり負担が大きいようにも見られたが、結果的にはポジションを2度変えながら90分フル出場。リオ五輪出場は逃したが、ここ数試合で非常に頼もしい選手になりつつある。
清水も60分前後から運動量が落ちてきて、札幌も久々にボールを保持する時間を作れるようになる。状況を打開すべく、60分に石毛→北川、69分には枝村→村田の交代策が打たれる。
村田の投入に対しては、札幌はマセードに代えて宮澤を投入し、荒野を左、石井を右にシフトさせ、村田に荒野をぶつける。これは荒野の守備が良いということもあるが、石井が警告を1枚受けていたので退場のリスクも考慮されたと思われる。
71分~ 宮澤⇒マセード、村田対策で荒野を左に |
2.3 キム ボムヨンの中絞り
一方、ウインガーの村田を投入し、活かすための清水の戦術的変化は、村田を背後でサポートするサイドバックのキム ボムヨンが中に絞ったポジションをとること。札幌の3センター、上里の脇にポジショニングし、上里のチェックを受ける前に、大外に張る(攻撃の横幅を担う)村田に対してシンプルにボールを供給する。すると札幌のサイドの守備は、中盤左の上里が中央、荒野がタッチライン際を見なくてはならず、互いの距離が開いてカバーリングが難しくなり、清水は村田の勝率を高めることができる。また仮に村田が仕掛けて失った際は、斜め後方でキム ボムヨンが残っているので、カウンターの起点となる上里をチェックすることができる。
2.4 待ちの守備では守れない
村田のファーストタッチでの仕掛けは荒野が止め、「案外守り切れるかな?」との楽観的な考えも頭をよぎったが、直後の75分に清水が1点を返す。清水はやはり村田の右サイドにボールを展開すると、荒野が村田を徹底マークしサイドからの突破は防ぐ。すると村田は一度ボールを戻し、札幌の守備ブロックの間に移動すると、中央の河井から間で受ける村田に再び供給される。この所謂"間受け"は一番近いDF、この場合は福森が迎撃して潰すべきだが、普段食いつきすぎなほどの対応を見せる福森はこの時、村田を放置してしまう。すると前を向きかけた村田に深井が釣られたところで、村田は河井にリターンのパス。
村田の間受けを福森が潰せない⇒深井が村田に釣られる |
深井が釣られているので河井には誰も対応できず、十分な時間とスペースを与えた状態で正確なクロスが上げられる。鄭大世のヘッドはクロスバーを叩き、リバウンドを北川が押し込む。
フリーの河井からクロス (中央で増川が北川に付いているが、これが「迎撃」) |
1点差に迫り、勢いに乗る清水は79分に竹内→長谷川に交代。右サイドからクロスは上がる状況を整えたので、最後の交代カードで前線のターゲットを増強する。
79分~ 竹内→長谷川 |
追われる札幌は完全に足が止まり、清水の攻撃を跳ね返してもセカンドボールの回収が困難な状況に。札幌から見て左サイドでは、荒野がなんとか村田との1on1で突破を許さずに食い止めているが、サイド以上に中央が危機的状況であった。一応"形式上"は5-3-2で中央に選手を確保しているが、2トップの都倉と内村は疲労でほとんど効果的な守備ができず、中盤3センター前のゾーンを清水に自由に明け渡す。縦を切れないので縦パスで中央を割られ、簡単にゴール前まで運ばれてしまう。
縦パスで中央を簡単に割られ、使われる |
2.5 待ちの守備では守れない②
そして83分、オープンな展開から清水は難なく右サイドに張る村田に供給すると、札幌は直前のトランジションにより福森と荒野の位置が入れ替わっている。つまり福森が左WB、村田に対応するポジションになっているが、福森は村田にボールが渡る際に距離を詰めずジョギングしているだけ。キム ボムヨンから村田へのパスは山なりの緩いボールで、距離を詰める余裕は十分にあったが…
村田に渡った時の福森との距離 |
結果、またもクロッサーを自由にした札幌は、村田のクロスから鄭大世の強烈なヘッドで追いつかれる。
土壇場で追いつかれた札幌は86分にようやくジュリーニョを投入(上里と交代)。時間的、試合展開的にジュリーニョがその才覚を発揮するチャンスは殆どないまま5分のアディショナルタイムに突入する。4分が経過したところで自陣で得たFKから、高めの清水DFラインの裏を狙った都倉が抜け出し、角田と競り合いながらも、飛び出しが遅れたGK杉山の頭上を越すループシュートを決める。裏抜け1本の先制に始まり、同じようなパターンによる幕切れで、真夏の上位対決は3-2で札幌が競り勝った。
北海道コンサドーレ札幌 3-2 清水エスパルス
・5' 内村 圭宏
・28' ヘイス
・75' 北川 航也
・84' 鄭 大世
・90+4' 都倉 賢
マッチデータ
ある程度、押される展開は想定していたが、ヘイスのアクシデントもあり予想以上に長い時間を耐え忍ぶ試合展開となった。清水のシュートがポストを叩くなどラッキーもあったし、"いつもの"5-2守備は予想通り、早い段階から守備は決壊しかけていた展開で、2点で済んだのは幸運、予想外でもあった。
気になったのは後半、3-5-2にしてからの選手起用で、前線を2枚にすると1枚はキープ力のある、攻撃の時間を作れる選手が必要だと考える。都倉・内村のセットでは時間を作れず、また疲労も考慮すると早い段階で内村→ジュリーニョでも良かったように思える。
(後日追記)余談だがこの記事のサブタイトルがなかなか思いつかず、一度記事を更新した後にサブタイトルを変更したのだが、結局この大一番を清水が落としたのは、ハイラインの4バックの裏を1本のパスでやられてしまったことが直接的な理由で、一方5バックで撤退する札幌はゲームを支配されるものの、最終的には2失点にとどめて勝ち点3を手にしている。
結局のところ、積極的な守備によるボール狩りの概念が定義化されていないJリーグや日本サッカーにおいては、形だけ4-4-2にしたところでボールの出どころをケアしたり、組織的なプレッシングでサイドに追い込んで奪ったりといった守備ができず、ラインを高く保てば清水のように一発で裏を取られて終わり、ということになってしまう。このことを考えると、CBを3枚並べて撤退することが勝利への近道であり、U-18を指導していたころは4-4-2を採用していたが、トップでは一貫して3バックという名の5バックで戦っている札幌の四方田監督の判断は理に適っていると言えるかもしれない。
どフリーでクロスを上げる瞬間 |
2.6 呆気ない幕切れ
土壇場で追いつかれた札幌は86分にようやくジュリーニョを投入(上里と交代)。時間的、試合展開的にジュリーニョがその才覚を発揮するチャンスは殆どないまま5分のアディショナルタイムに突入する。4分が経過したところで自陣で得たFKから、高めの清水DFラインの裏を狙った都倉が抜け出し、角田と競り合いながらも、飛び出しが遅れたGK杉山の頭上を越すループシュートを決める。裏抜け1本の先制に始まり、同じようなパターンによる幕切れで、真夏の上位対決は3-2で札幌が競り勝った。
北海道コンサドーレ札幌 3-2 清水エスパルス
・5' 内村 圭宏
・28' ヘイス
・75' 北川 航也
・84' 鄭 大世
・90+4' 都倉 賢
マッチデータ
3.雑感
ある程度、押される展開は想定していたが、ヘイスのアクシデントもあり予想以上に長い時間を耐え忍ぶ試合展開となった。清水のシュートがポストを叩くなどラッキーもあったし、"いつもの"5-2守備は予想通り、早い段階から守備は決壊しかけていた展開で、2点で済んだのは幸運、予想外でもあった。
気になったのは後半、3-5-2にしてからの選手起用で、前線を2枚にすると1枚はキープ力のある、攻撃の時間を作れる選手が必要だと考える。都倉・内村のセットでは時間を作れず、また疲労も考慮すると早い段階で内村→ジュリーニョでも良かったように思える。
(後日追記)余談だがこの記事のサブタイトルがなかなか思いつかず、一度記事を更新した後にサブタイトルを変更したのだが、結局この大一番を清水が落としたのは、ハイラインの4バックの裏を1本のパスでやられてしまったことが直接的な理由で、一方5バックで撤退する札幌はゲームを支配されるものの、最終的には2失点にとどめて勝ち点3を手にしている。
結局のところ、積極的な守備によるボール狩りの概念が定義化されていないJリーグや日本サッカーにおいては、形だけ4-4-2にしたところでボールの出どころをケアしたり、組織的なプレッシングでサイドに追い込んで奪ったりといった守備ができず、ラインを高く保てば清水のように一発で裏を取られて終わり、ということになってしまう。このことを考えると、CBを3枚並べて撤退することが勝利への近道であり、U-18を指導していたころは4-4-2を採用していたが、トップでは一貫して3バックという名の5バックで戦っている札幌の四方田監督の判断は理に適っていると言えるかもしれない。
読みましたー(・∀・)ノ
返信削除この試合に関しては、観た人の意見みんな近いんじゃないかなー。今回の解説は、ほぼ異論ないですわ。
それにしてもヘイスが凄過ぎて(私の私見)、ヘイスがいた時と抜けた後が別チーム状態でちと心配。中原あたりが伸びてきて、ゲームの動き作ったり、繋ぎに走ってくれたり、荒野やゴメスと楽しいサッカー見せてくれるようになってくれるとお金払って見に行きたいと皆が思ってくれそうなんだけどなー。(個人的に中原押しなのでw)
次回も解説待ってますー( ・ω・)つ≡つつ またねー。
>にゃんむるさん
削除コメントありがとうございます。見方・感想は人それぞれですが前の記事のコメント欄に書かれていた「采配に疑問」という箇所は触れられていたでしょうか。
私はやはり、内村を引っ張ってジュリーニョを最後まで出さなかった部分、ドン引きサッカーをやるなら強力なFW…キープできたり一人でボールを運べる選手は絶対必要です。序盤戦に3-5-2で清水と京都に勝てたのもジュリーニョがトップでいい働きをしたからだと思っています。清水が前に出てくる状況で、ヘロヘロの都倉内村だとジリ貧ですね。
こんにちは|´・ω・)ノシ
削除一度長々と返信を書いたんだけど、いつもと違うパソコンで反映されなかったみたいなので、思い出しながらチラホラと書きますよ。
内村引っ張ってジュリーニョのところはその通りですね。人それぞれ意見はあるでしょうが、自分は、内村がキレで勝負するタイプの選手だと思ってるので、年齢なども考えると今季のような使い方はアリだなと考えています。ヘイスの交代で石井ちゃん入れた時にジュリーニョでもと思っていたし。守備の面からジュリーニョを使ってないのかは分からないけど、もっと使ってほしいですね。俺が面白い攻撃観たいだけなのかもしれんがwww ただ清水戦だったということで、石橋を叩いて渡りに行ったと考えてはいますね。でも守備ばかり考えていれば負けないかというとそうでもないからサッカーは面白いわけで・・・。
あとなんだっけかな?マセード元気そうな感じだったけど宮沢に替えたのがちと不満だったかなー。これも守備考えてなのかもしれないけど、かなりバランスくずして、なおかつ宮沢があまり良くなくて、観てて「あ、逆転負けあるな。」と思ってました。
その他もいろいろあるんだけど、思い出せんwww
でも一番気になるのは、選手交代のたびにポジションが変わりまくる事かなー。ポリバレントとかこのレベルの選手達に必要あるんか?と思ってる自分にとっては、コロコロ選手の配置が変わりまくるのはチームのバランスくずすだけの感じがして、どうも納得がいかんのですよ。少々の配置換えは仕方ないにしても、荒野とかは何でも屋開けるレベルで動かされてて可哀想だなといつも思ってますわ。荒野に関しては便利屋で終わってしまわないか最近すごく心配(´・ω・`)
そんな感じ。他は忘れたから終了(`・ω・´)シャキーン
ちなみに試合の次の日、宮の沢のトレーニングゲーム観に行けたんだけど、ヤバイぐらいダメダメでした。もうワンマンオーナーの俺がそこにいたら、「こいつら今日で全員クビでいいわ。」って言っちゃいそうな状態で、現在サブに甘んじている方々の奮起を期待したいです。夏場乗り切るのはチーム全体の押し上げあってこそだと思うので、みなさん頑張ってくださいです。
本日はトラブルによって仕事が休みになるという奇跡が起きてwww謎のお盆休みが発生したので、いつもより長々と書きましたwww奇跡嬉しすぎてwww「w」大発生www今日何しようかな( ・ω・)つ≡つつ などという俺の話はいいとしてwww
試合バシバシ詰まってますが、解説期待してますよ。んでわまたねー(・∀・)ノ
>にゃんむるさん
削除コメントありがとうございます。
確かにご指摘の点は一理あるかもしれません。先行逃げ切りの試合が多いですが、大体どんな手を打っても終盤に押し込まれていますよね。マセードが替えられる試合が多いので私も注視していましたが、マセードは確かにサイドで寄せが甘くて怖いなと思う部分はあるかもしれません。
TGについては見ていないので安易なことは言えないですが、福森と菊地がいないとガラッと変わるだろうなという予想はあります。
また天皇杯は映像の入手が難しく書けなさそうなのですがよろしくお願いします。