スターティングメンバー |
北海道コンサドーレ札幌のスターティングメンバーは3-4-1-2、GK金山隼樹、DF菊地直哉、増川隆洋、福森晃斗、MFマセード、深井一希、上里一将、荒野拓馬、ヘイス、FW都倉賢、内村圭宏。サブメンバーはGK阿波加俊太、DF櫛引一紀、MF河合竜二、石井謙伍、堀米悠斗、ジュリーニョ、FW菅大輝。ク ソンユンがリオ五輪韓国代表に招集され、代役は金山。内村が4試合ぶりに、マセードが5試合ぶりにスタメン復帰。菅は第8節山形戦以来のメンバー入り。
松本山雅FCのスターティングメンバーは3-4-2-1、GKシュミット ダニエル、DF後藤圭太、飯田真輝、喜山康平、MF飯尾竜太朗、岩間雄大、宮阪政樹、安藤淳、工藤浩平、石原崇兆、FW高崎寛之。サブメンバーはGK白井裕人、DF那須川将大、安川有、MF武井択也、パウリーニョ、FWウィリアンス、山本大貴。
0.前回対戦を振り返る+α
前半戦の対戦機会は約1ヶ月前、6/8開催の第17節で、3トップによる数的同数ハイプレス、ボール回収後の高速トランジション…と札幌を研究し尽くしていた松本が、アルウィンの大声援もあり序盤から札幌を押しまくる展開。札幌は松本のハイテンポなサッカーに圧殺され、最終ラインでは経験の浅い進藤が狙われてあたふたし、前線でフリーダムに攻める"トリデンテ"(ジュリーニョ、都倉、内村)が守備の穴となる。松本が前半のうちに狙い通りに2点を先制し、5-4ブロックを築き逃げ切りを図るが後半に札幌はコーナーキックから福森→都倉のヘディング2発で追いつくも、最後は岩間にミドルシュートを決められて2-3で松本が勝利している。
この試合の次の節で松本は岡山に敗れているが、その後はJリーグ昇格後のクラブ新記録となる5連勝を記録し、第14節以降の10試合で9勝1敗と目下絶好調、勝ち点47で札幌、セレッソと並んでいる。
札幌は松本戦で守備の穴となったトリデンテに微修正を加え、18節の長崎戦からはジュリーニョに代わりヘイスがトップ下で先発。4連勝を記録し、ここ2試合はアウェイでの上位連戦(セレッソ、岡山)もドローで乗り切ってホームに帰ってきた。松本・反町監督の徹底的に相手の穴を突くスタイルが結果的に札幌に小さなイノベーション(ヘイスのトップ下…アイディアは前からあったそうだが)をもたらしたとも言える。
1.前半
1.1 両者の共通認識と微妙な相違
試合前のコメントからも両チーム共に上位を争うライバルとして意識しており、互いに都倉や高崎をターゲットとしたロングボール中心の慎重な入り方。マッチアップを改めて確認すると、両チームともに3バックでゴール前、中盤、両サイドの人数が揃っている。相違点は、松本は前線3枚の運動量を活かした前からのプレッシングというオプションがあり、5-4ブロックでのリトリートとの使い分けができるが、札幌の"トリデンテ"は松本ほどの上下動の運動量がなく、5-2-3での撤退守備が基本となる。
マッチアップ |
札幌と松本、両チームの共通点は、どちらも5バックでブロックを築いた時の守備は堅いので、相手にある程度、人数をかけさせ、誘い出してからのカウンターを狙っている。特にウイングバックが攻撃参加した際にできるサイドのスペースは、両チームが共通して抱える構造上のウィークポイントで、ボールを奪うとすぐにこのスペースに選手とボールを送り込んでいく。
札幌は下の図のように、前に3人を残して後方は7枚、5-2ブロックで守る形が基本で、中盤は手薄。反面これが松本の選手の攻撃参加を誘い出す餌になっており、一歩間違えば手薄なエリアを突かれて簡単にシュートを許してしまう構造でもあるが、この日超人的なパフォーマンスを見せる深井と復調した上里のコンビが体を張って守ることでなんとかする、というスタイル。
札幌に比べるとアウェイの松本はより慎重、もしくは消極的な入り方をしており、序盤はアルウィンでの前回対戦で見せたようなハイプレスは敢行せず、下の写真のように札幌が中盤までボールを運ぶことに成功するとすぐに5-4の9枚ブロックを構築する。反町監督の試合前コメントで菊地についての言及があったが、菊地が加わった札幌最終ライン相手にハイプレスは分が悪いと判断したのかもしれない。
この5-4-1の形だとゴール前の守備は強固になるが、ボールの回収地点が後ろになること、また前にFW1人しかいないため、最前線での守備としてできることがかなり限定され、能動的にボールを奪うスイッチが入りにくいといった問題がある。要するにジリ貧ともいえる状況に陥ることが多いが、松本のゲームプランとしてはある程度、札幌が押し込む展開も想定していたと思われる。失点さえ与えなければ、札幌が前がかりになったところでカウンターのチャンスも生まれるので、前回のホームゲームとは異なり、後ろに重心を置くことで、ホームで何としても勝ちたいであろう札幌を誘い込む意図があったと思われる。
札幌のロングボールの使い方は、下の図のように内村に裏を狙わせてラインを押し下げたうえで、下がり目に位置する都倉とヘイス(主に都倉)が半端な位置で、プレッシャーを受けにくくした状態で競ることができるようにする工夫がされている。
内村は3バックの裏だけでなく、ウイングバックの裏も狙うが、共に3バックのシステムなので図のように松本は飯尾が荒野に出ていくとその裏が空きやすく、松本の3バックは内村のこの動きによってかなり動かされている。また対照的に前線は札幌が3バックの選手やGKの金山にボールを下げるとプレッシングをかけていくので、この状態でロングボールを蹴られると、間延びした中盤には岩間と宮坂のボランチコンビしかいなくなる。ここまで状況をセットできれば、競り合いに強い都倉やヘイスの勝率はかなり高まる。
松本のボールの運び方は、下の図のようにとにかく徹底してセオリー通り、札幌の5-2-3で守る守備の手薄なサイドを突いていく。ここで、札幌もミラーの布陣なので机上では松本と同数の人数をサイドに割くことができるが、松本はサイドのDFが攻め上がることでウイングバックとシャドーの選手と合わせて最大3人を同一サイドに集めてくる。これに札幌が対抗するには、後述するがFWの選手が松本のDFの攻め上がりに着いていかなくてはならない。ここで着いていかなければ松本は3vs2で数的優位を作ることができ、FWの選手が着いてきて同数になっても、システマチックな動きとパスで相手の守備にズレを生じさせて空く選手を作り、同一サイドをえぐるようにボールを運んでいく。
具体例を見ていくと、下の図は10:30頃の展開で、札幌はプレスバックした内村、マセード、菊地の3選手が対応していて浮く選手はいないが、松本は"4人目"、FWの高崎がサイドに流れてポストプレー、喜山からの縦パスを受け、更に一度石原に落とした後に、マセードと菊地の裏のスペースに走り込むことでサイドからチャンスを作る。
上記のプレーにおいて注目したいのは、中盤のエリアに札幌の選手は深井と上里がいるが、松本はやや後方に岩間がいるだけで非常に手薄になっている点。この一連のプレーのフィニッシュは、高崎のクロスが走り込んだ選手に合わず、札幌がボールを回収し、深井がボールを持った時点では前方に広大なスペースができている。
この理由は、札幌は先述のようにサイドではFWをプレスバックさせて人数を合わせて対応することができるが、そのFWの選手(この場合は内村)はサイドから縦に展開された時点で守備を放棄するため、札幌は「平然と」5-2ブロックで守り、前に3枚を残した形となる。すると松本としては、前に3枚残っている札幌にカウンターを食らうリスクを考えると、一気に陣形を押し上げることが難しいため、押し上げられなかった結果このように中盤ががら空きになってしまっている。
一方、高崎がクロスを上げたときの札幌の守備の状況はせいぜい数的同数で、枚数が十分とは言えない。ここで松本がシュートまで持ち込めていれば、札幌の前3枚残しは"収支マイナス"であった。カウンターに繋げることができ、"収支プラス"になったのは松本の攻撃のクオリティ、つまり高崎のクロス精度が低かったからであり、札幌の守備が所以ではない。
松本の攻撃時、ターンオーバー発生時の札幌のカウンターチャンス サイドのスペースに選手が走り込む 5-2-3で3枚残しているので手薄だが奪った後のリターンは大きい |
1.2 ハイプレスの封印
札幌に比べるとアウェイの松本はより慎重、もしくは消極的な入り方をしており、序盤はアルウィンでの前回対戦で見せたようなハイプレスは敢行せず、下の写真のように札幌が中盤までボールを運ぶことに成功するとすぐに5-4の9枚ブロックを構築する。反町監督の試合前コメントで菊地についての言及があったが、菊地が加わった札幌最終ライン相手にハイプレスは分が悪いと判断したのかもしれない。
この5-4-1の形だとゴール前の守備は強固になるが、ボールの回収地点が後ろになること、また前にFW1人しかいないため、最前線での守備としてできることがかなり限定され、能動的にボールを奪うスイッチが入りにくいといった問題がある。要するにジリ貧ともいえる状況に陥ることが多いが、松本のゲームプランとしてはある程度、札幌が押し込む展開も想定していたと思われる。失点さえ与えなければ、札幌が前がかりになったところでカウンターのチャンスも生まれるので、前回のホームゲームとは異なり、後ろに重心を置くことで、ホームで何としても勝ちたいであろう札幌を誘い込む意図があったと思われる。
松本は序盤から9枚ブロックで迎撃態勢 最前線に1人しかいないので後方で回せるはずだが 札幌は素直に攻めに行く |
1.3 内村の突撃が持つ意義
札幌のロングボールの使い方は、下の図のように内村に裏を狙わせてラインを押し下げたうえで、下がり目に位置する都倉とヘイス(主に都倉)が半端な位置で、プレッシャーを受けにくくした状態で競ることができるようにする工夫がされている。
内村は3バックの裏だけでなく、ウイングバックの裏も狙うが、共に3バックのシステムなので図のように松本は飯尾が荒野に出ていくとその裏が空きやすく、松本の3バックは内村のこの動きによってかなり動かされている。また対照的に前線は札幌が3バックの選手やGKの金山にボールを下げるとプレッシングをかけていくので、この状態でロングボールを蹴られると、間延びした中盤には岩間と宮坂のボランチコンビしかいなくなる。ここまで状況をセットできれば、競り合いに強い都倉やヘイスの勝率はかなり高まる。
内村が3バックの裏、ウイングバックの裏を狙い 都倉やヘイスが下がり目で受ける |
1.4 松本の左起点のボール運び
1)松本のボール運びの基本
松本のボールの運び方は、下の図のようにとにかく徹底してセオリー通り、札幌の5-2-3で守る守備の手薄なサイドを突いていく。ここで、札幌もミラーの布陣なので机上では松本と同数の人数をサイドに割くことができるが、松本はサイドのDFが攻め上がることでウイングバックとシャドーの選手と合わせて最大3人を同一サイドに集めてくる。これに札幌が対抗するには、後述するがFWの選手が松本のDFの攻め上がりに着いていかなくてはならない。ここで着いていかなければ松本は3vs2で数的優位を作ることができ、FWの選手が着いてきて同数になっても、システマチックな動きとパスで相手の守備にズレを生じさせて空く選手を作り、同一サイドをえぐるようにボールを運んでいく。
松本が必ず狙うゾーン:5-2-3で守る札幌の脇 喜山に近いFW(この場合ヘイス)が着いていかないと空いてしまう |
具体例を見ていくと、下の図は10:30頃の展開で、札幌はプレスバックした内村、マセード、菊地の3選手が対応していて浮く選手はいないが、松本は"4人目"、FWの高崎がサイドに流れてポストプレー、喜山からの縦パスを受け、更に一度石原に落とした後に、マセードと菊地の裏のスペースに走り込むことでサイドからチャンスを作る。
松本の得意のパターン:同一サイドに3選手を集めて攻略する 札幌のFWは前残りで、松本は後ろに人数を割いている 中盤には札幌の選手しかいない |
2)札幌の前残し対応~「高リスク・中リターン」
この理由は、札幌は先述のようにサイドではFWをプレスバックさせて人数を合わせて対応することができるが、そのFWの選手(この場合は内村)はサイドから縦に展開された時点で守備を放棄するため、札幌は「平然と」5-2ブロックで守り、前に3枚を残した形となる。すると松本としては、前に3枚残っている札幌にカウンターを食らうリスクを考えると、一気に陣形を押し上げることが難しいため、押し上げられなかった結果このように中盤ががら空きになってしまっている。
一方、高崎がクロスを上げたときの札幌の守備の状況はせいぜい数的同数で、枚数が十分とは言えない。ここで松本がシュートまで持ち込めていれば、札幌の前3枚残しは"収支マイナス"であった。カウンターに繋げることができ、"収支プラス"になったのは松本の攻撃のクオリティ、つまり高崎のクロス精度が低かったからであり、札幌の守備が所以ではない。
リスク:高崎のグラウンダークロスが上がった時、ゴール前の人数が不十分 (クロスが合わず、上里が拾う→マセードへ) |
リターン:マセードから受けた深井の前には広大なスペース |
このように一連のプレーは、ゴール前で人数が足りない札幌と、中盤で広大なスペースを与えてしまう松本という2つの事象を示唆しているが、よりリスクが大きいのは札幌の方。前に3枚残すことで、カウンターで札幌が点を取る可能性も高まることも事実だが、それと同じかそれ以上に失点のリスクも大きい、「高リスク・中リターン」な状況を札幌は自ら作り出しているとも言える。
3)ヘイスの頑張りによる対応と限界
松本の繰り出す、サイド起点のビルドアップにはもう一つの"副作用"がある。それは、元々攻撃の選手で足元の技術に優れる喜山にタッチライン際でドリブルされると、札幌は3トップのうちの誰かが長い距離を走って対応しなくてはならないことで、中央寄りのスタートポジションからサイドを駆けあがる喜山に着いていくことは、担当する選手にとっては小さくない負担となっている。
ここで、このサイドでの守備の主担当は誰かというと、内村はこの試合、最前線で攻撃の縦幅を作る役割があるので、基本的に中央のポジションにいることが多い。となるとサイドの担当は都倉かヘイスで、流動的な面も大いにあるが、この試合で右を主に担当していたのはヘイスであることが多かった(本来はトラッキングデータのヒートマップ等で確認したいが、J2の試合はデータがない)。喜山の攻撃参加に対しヘイスは相当頑張っていたが、守備の選手ではないヘイスにはのちのち、この動きがボディブローのように効いてくる。
松本がサイドのDFからボールを運ぶと マセードは対面のウイングバック安藤を見るので、FWの誰かが着いていかなくてはならないが 内村は中央に置いているのでヘイスか都倉、この場合はヘイス |
ヘイスが長い距離を走ったことでサイドで数的不利にならずに済んだ パスの出し手、受け手にマークがつくことでパスミスを誘い深井がボール回収 |
1.5 スーパーゴールを生んだ上里の中央侵入
1)都倉がアドゥリスになった
このように両チームとも守備から入っているが、攻撃に転じた際には小さくない隙ができていて、先制点はどちらに入ってもわからない空気があったが、14:40頃、札幌はスローインからの展開で、5-4-1で撤退する松本のブロックを通そうと菊地が縦パスを入れるが岩間に跳ね返される。こぼれ球を拾ったヘイスから、5-4のライン間に侵入していた上里を経由して左の荒野に展開すると、荒野は1秒ほど溜めてから左足でふわっとしたクロスを後方から走り込む都倉に上げる。都倉がペナルティエリアのライン付近での踏み切りから強烈なヘディングシュートを叩き込み札幌が先制。ビルバオのヘディング職人・アドゥリスを髣髴とさせる文句なしのスーパーゴールであった。また荒野の左はどうかな?と思っていたが、見事なアシストで起用に応えた。
ヘイスと上里が中央で仕事をしたことで松本の守備は中央に収縮し サイドで荒野がフリーになる |
2)上里の中央での潰れがゴールの布石
都倉は試合後のインタビューで「荒野のクロスには期待していなかった」と冗談交じりに応えたが、荒野は完全にフリーでクロスを上げることができている。松本は5-4で守っていて人数は足りており、また攻撃の開始時…菊地が縦パスを出した時の対応も特段問題がない。
ゴールを演出した陰の立役者は、中央でヘイスから受けて荒野にパスを出した上里。上里は上の図のように、松本のDF-MF間のスペースにポジショニングしており、中央で受け手となると、札幌の菊地→内村(失敗)、ヘイス→上里という2本の縦パスを見たことで松本の守備の意識は完全に中央に向く。
結果、そこまで外に張っていたわけではない荒野が左サイドでフリーになり、都倉のポジションを確認してから逆足の左足で正確なクロスを上げる時間を得ることができた。また、後方から縦パスを入れた菊地もまさに"攻撃の起点"と言える役割を果たしている。受け手にも出し手にもなれるヘイスもそうだが、中央を攻略できる選手がいることでサイドアタックもより効果的に機能する。
2本の縦パスで松本の意識は中央(ヘイス、上里対応)に 中→外(荒野)→中で仕留める |
1.6 "確認作業"のやり直し
恐らく松本のゲームプランとしてはリトリートで札幌をおびき出し、引き分けも想定したうえで隙あらばカウンターやセットプレーで仕留める…というもので、札幌が先制したことでまずボールを回収し、札幌のブロックを崩していくというゲームプランの修正が早い時間で生じてしまった。
スカパー!解説の水沼貴史氏は「序盤は両チームともにスカウティング情報の確認作業・すり合わせだろう」と評していたが、松本はこの確認作業を、前半15分でゲームプランが変更されたことで改めてやり直すことになる。ハイプレスを敢行し、ボールを奪いに行く本来のスタイルを出し始めてくるが、これを前半25分~30分頃まで行っていた。札幌が松本の確認作業…ハイプレスに対して綻びを見せなかったのは、やはり菊地の存在が大きい。また右利きの増川としても、自分の右側に安心して預けられる菊地がいるのは心強いと思われ、この日が3試合目だが試合を追うごとに菊地の信頼度は高まっている印象を受ける。
1.7 新たなホットラインの予感
また松本の確認作業という名の前線からのプレッシングにより明らかになったことだが、札幌は松本のプレッシング対策を今回は明確に用意していて、それが以下で示す、深井を落とした4バック化によるプレッシング回避。これまでも3トップ気味で前から当たってくるチーム…愛媛や岡山に対しては近い形を見せていたが、この試合で披露したものは過去の試合で見られた形と比べても、場当たり的(とりあえず1枚増やして4バックっぽくしたが、その後のアイディアがない)ではない、明確なボールを運ぶプランが感じられるものであった。
深井を落とした4バック化 中盤に降りてきたヘイスの組み立て能力を活かす |
具体的には、ワイドを張らせ、人数の減った中盤にヘイスを落とし、ヘイスに時間を与えることで得意のサイドチェンジやターンしてのドリブル、前線の選手との連携などでボールを運ぼうとするもので、都倉も似たプレーを見せることはあるが、やはり技術も視野の広さもヘイスの方が明らかにクオリティがある。松本は最前線から降りて受けに来るヘイスを誰が捕まえるのかがはっきりしなかったこともあり、前回対戦のように松本のプレッシングにあたふたする状況はかなり減っていた。
特に後方で落ち着いてボールを保持でき、グラウンダーの鋭いパスを出せる菊地はヘイスを非常によく見ていて、松本のプレッシングをかいくぐり菊地→ヘイスの縦パスが何度か決まっており、このクオリティのある2選手の絡みは今後"ホットライン"となる予感がある。
菊地からボランチ脇に降りてきたヘイスへの縦パス ヘイスも菊地が出す体制になると察して最前線から降りてくる |
1.8 アルウィンの教訓
また先制後の札幌の変化としては、マイボール時に、前で張る内村をターゲットにしたボールを後方から、松本の守備陣形が整っていないうちに蹴っていく局面も頻繁に見られるようになった。この時に気を付けていることは、内村がボールをキープするまでは内村よりも前に選手を出さないことで、つまり下の図のように、5-4-1に近い形を作った上でロングボールを蹴っていく。
当然、前には内村しかいないのでマイボールにできるチャンスはそう多くはないが、前回対戦時のように下手に人数をかけてリスクを冒し、松本の得意とするカウンターの機会を与えるよりはマシという考え方で、十分理にかなったものである。
守備に転じたときのことを考えて 5-4ブロックを組んだ状態でロングボールを蹴る |
1.9 不穏なラスト5分
ただ前半の終わり、40分頃~のプレーを見ていくと、札幌はFWの選手を中心に前半だけでもかなり疲れている様子が感じられ、特にサイドで守備に回る機会も少なくなかった都倉とヘイスは、開始時と比較すると明らかに守備の圧力が弱まっている。
事例① 41:29 5-4ブロックを作っているが都倉は対面の選手を傍観 |
FWの選手が守備に加担できないとサイドに大きな穴をあけることになり、ロスタイムに松本の高崎がサイドからクロスを上げた一連のプレーもやはり、一列目の守備の機能不全から始まっており、やや不穏な空気で後半に突入する。
事例② 前半のラストプレー、岩間の受ける動きに都倉もヘイスも無反応 都倉~ヘイスの間に縦パスを通される |
最前線の守備が機能しないのでボランチ脇を簡単に使われ 最後は裏に抜けた高崎がクロスを上げる |
2.後半
2.1 しんどい内村&ヘイス
後半キックオフから松本は前線に選手を集め、ロングボールを送り込むことで押し込んでくる。札幌はこの5分ほど続く流れを耐えるが、松本のラッシュがひと段落した後も主導権を握り返すことができない。原因は、前半の終盤から兆候が見られた前線の選手の運動量低下で、下の写真のように内村やヘイスは担当すべきサイドのエリアに展開された際、殆どついていくことができなくなってしまっていた。両者に比べると都倉は(同様に、おそらく相当苦しかっただろうが)まだ動けそうではあった。
内村はサイドへの展開についていけない |
2.2 緩やかなビルドアップの中に見え隠れする緊張感
一方、ビルドアップの起点となる後方の選手は、前線の選手と比較するとまだそこまでの疲労感は感じさせていない。ただ、ボールを持った時のサポートの動きが少し減っているか、個人のドリブルやロングパスで逃れるプレーが前半に比べるとやや多いか、という印象はある。
札幌のビルドアップの基本構造自体は前半とさほど変わっていない。前線で奥行きを作り、ラインを押し下げたうえで手薄な中盤を降りてきた選手に使わせる。違いを挙げるとすれば、前線で奥行きを作る担当が内村から都倉になり、内村は中盤で受ける役割に代わっていることと、後方では金山へのバックパス…前半にも何度かあったが、後半はより現実的な選択肢としてプライオリティが高まっている印象もあり、また他の試合の印象と比較すると、金山はク・ソンユンよりも増川から信頼されているのかもしれない。
後方は3バック+深井+金山vs松本の3トップ+ボランチ 福森は中途半端な位置におり、増川から菊地、菊地からの縦パスがファーストチョイス 厳しい時は金山に戻す |
ピッチの縦幅を使って自陣後方でゆったりと回すと、松本も札幌同様にある程度の疲労が出てくる時間帯でもあるので、前半に見せたようにバランスを崩してでもボールを奪いに来るという姿勢は見せない。しかし、それでも松本は札幌のミスを虎視眈々と狙っており、判断を誤ったりパスがずれたりすると一気にピンチを招くリスクと隣り合わせの緊張感のある展開となる。
松本は札幌のミスを待っており 判断を誤ったりパスがずれると引っ掛けられるリスク |
後半の内村は、前半とは打って変わって中盤での仕事が増えている。これは四方田監督の采配によるものなのか、前線3人のローテーションによるものなのか、個人的には判断が難しいが、前半にリンクマンとして機能していたヘイスが、後半はかなりプレーエリアが狭くなっている中で、札幌のボール循環がそこまで機能性を失わずに持ちこたえられたのは内村の働きが大きかった。
内村が下がって受けに来ることでトライアングルが作れる |
2.3 優先順位が難しい
62分、松本は飯尾→山本。山本が左シャドー、石原が左サイド、安藤が右サイドに回る。シャドーに入った山本の最大の役割は裏狙いで、投入直後に裏を狙う山本へのパスから、増川の危ない処理によりヒヤリとする場面が生まれている。このプレーの影響もあったのかもしれないが、札幌は65分頃の時間帯から、5-4-1に近い陣形でのリトリート守備へシフトしていく。
しかし時間が経過するにつれ札幌は複数箇所で同時多発的に問題が露わになっていく。67分頃に菊地が足を攣り、またマセードも元来の守備能力の問題に加え、疲労もあり簡単にサイドで裏を取られるなど不安定さを露呈する。そして前線ではヘイスが殆どジョギングしかしなくなっている。
都倉がパスコースを限定させているが、マセードがサイドに張る喜山に釣られて 縦のコースをがら空きにしている |
2.4 神懸る金山
74分、松本は右サイドのスローインをマイナス方向に入れると、フリーで受けた宮阪が高速アーリークロス。これが山本の頭に完璧に合うが、金山が掻き出しコーナーに逃れる。まさに前回対戦でもやられた「5-2守備からのアーリークロス」で、サイドを1人しか配置できない札幌にとってどうしてもケアが難しいエリアを使われた形だったが、金山のビッグセーブで命拾いする。
5-2脇からのアーリークロス |
直後のコーナーキックの際に、札幌は菊地→櫛引、内村→石井に交代。そしてこのコーナーキックでも再び金山がビッグセーブで札幌を救う。ノーマークの大外を駆けあがってきた喜山が左足ボレーで合わせるが、金山が左足1本で弾きだす。
一連のプレーが落ち着いた後、札幌の陣形を確認すると、最初荒野がトップ下に行こうとするが、ベンチの方向を見たうえで右サイドに移っている。そして石井が左サイドに入り、マセードが中盤右、都倉が中盤左の5-4-1に近い形となっている。
76分~ |
2.5 スクランブル化
80分、松本は工藤→パウリーニョに交代。宮阪がシャドーに入ったか、もしくは3センターのような陣形にも見える。というのはこの時間帯の松本はスクランブル化して、喜山や飯田が後方から攻撃参加…クロスのターゲットとなり、右の安藤からアーリークロスを入れまくる、中盤はひたすら安藤に供給する…という形に特化している。札幌は5-4-1としているが、「4」の左側の都倉には大外をケアする体力はなく、最後尾から石井が出ていくが、安藤との距離を詰められずクロスを上げることを許してしまい、中央での空中戦勝負となる。
安藤のアーリークロスに託す |
また札幌はヘイスが限界で、87分にようやく下げられるが、交代要員は河合で深井をトップに上げるという恐らく二度と見ることのない陣形になる。危ない場面もあったが、最後は松本のパワープレーを凌ぎ切り札幌が1-0で勝利している。
最終の布陣 |
北海道コンサドーレ札幌 1-0 松本山雅FC
・15' :都倉 賢
マッチデータ
3.雑感
3.1 試合内容について
何とか勝ち点3は獲得したものの、執拗にサイドから組み立てる松本に対し、「死ぬ気で走る」で対抗した結果、70分でほとんどの選手がガス欠になってしまった。平日開催で中3日、数人の選手は故障明けとはいえ、札幌ドームであれだけ早い時間で足が止まり、足を攣る選手が続出するのは、死ぬ気で走らなくてはカバーできない戦術にも構造的な問題があると言わざるを得ない。金山のビッグセーブと、中盤で深井の超人的なパフォーマンスがなければ早々に破綻していたかもしれない。一方で運動量が落ちなかった上里や、荒野が見せた対人の強さ等の好材料もみられ、またメンバーを固定せず、そうしたコンディションが上がっている選手を信じて使う四方田監督の選手起用がチーム全体に好影響を与えている。
3.2 札幌はなぜ後半バテるのか?
9割方、戦術的な理由(システムと選手起用、守り方)による問題だと考える。5-2-3で守備をセットすると、サイドに選手を配していないゾーンができる。ここに相手が選手を送り込んで来たとき、特にサイドに2人以上を配してくるチーム相手だと、下の図のようにFWの両端にいる選手が、トップの位置から相手のサイドの選手(大抵はサイドバック)に着いて行かなくてはならない。そしてこの状況はボールを持っているチームが発動させることができ、一定水準のビルドアップ能力のあるチームを相手にすると、こうした状況を頻繁に作られる。つまりビルドアップが巧いチームが相手になるほど札幌は相手によって走らされ、消耗してしまう。
今の札幌は本来FWの選手であるヘイスや都倉、内村がこの役割を強いられ、毎試合消耗が激しい。なお小野はこの上下動に耐えられないと思われるので、前線のポジションでスタメンで起用するのは恐らく無理。
札幌の守備陣形と泣き所となるエリア サイドをカバーするためにFWの走る(走らされる)距離が長い |
やはり3バックのシステムでバランスが良いのは、FWを2人にした3-5-2。4バックの4-4-2だと、J2でも複数のチームが採用している3-4-2-1と対峙すると、相手が5トップ気味で来た時に最終ラインが足りなくなる。どれも一長一短ではあるが、札幌はバルバリッチ前監督、四方田監督共に、CBを3人並べる(5バックを作る)形を継続して採用している。これは札幌のDFの守備能力では4バックで守ることは難しいとの判断によるもので、タイプの違う両監督ともこの点はほとんどいじっていないことを考えると、今後相当能力のあるDFの選手や4バックしかできない選手が加入しない限り、3バックの3-4-1-2や3-5-2が基本線となっていくと予想される。
0 件のコメント:
コメントを投稿