2016年6月11日土曜日

2016年6月8日(水)19:00 明治安田生命J2リーグ第17節 松本山雅FCvs北海道コンサドーレ札幌 ~練度の差:3バック歴2年 vs 5年~

スターティングメンバー

 北海道コンサドーレ札幌のスタメンは3-4-1-2、GK金山、DF進藤、増川、福森、MFマセード、深井、堀米、石井、ジュリーニョ、FW都倉、サブメンバーはGK阿波加、DF上原、櫛引、MF前寛之、河合、上里、FWヘイス。内村。出場停止明けの深井と、増川がスタメン復帰、故障の宮澤は前節に引き続き欠場。
 松本山雅FCのスタメンは3-4-2-1、GKシュミット ダニエル、DF當間、飯田、喜山、MF飯尾、宮阪、岩間、那須川、工藤、山本、FW高崎。サブメンバーはGK白井、DF酒井、安川、MF石原、武井、FW前田、ウィリアンス。開幕から全試合フル出場していた田中隼磨が体調不良でベンチ外。


0.松本のプレーモデルや戦術コンセプト


 アルビレックス新潟監督時代の名言「ギャンブルサッカー」で知られる(?)反町康治監督体制で5年目を迎える松本のスタイルは、守備時に5バックとなる3-4-2-1の基本布陣を採用し、守りを固め(ギャンブル性を排除し)つつ、攻撃時にボールを前進させる手段としては1トップにシンプルにロングボールを当てて押し上げるスタイル。通常このスタイルのチームは、5バックで守備は強固になるものの攻撃の枚数確保が難点となっているチームが少なくないが、2015シーズンのJ1での戦いで苦戦した影響から、J2に戻った今シーズンはボールポゼッションも採り入れたスタイルにややシフトしつつある。
 その結果が、16節まで札幌、山口と並んで失点がリーグ最少の9点、また多くの試合で相手を上回るポゼッション(負けた3試合はいずれもスコア0-1で、ポゼッションで上回っている)というデータも頷ける。更に昨シーズンから何度か使われていた、FWを増やした3-1-4-2(3-5-2)もオプションとして蓄積されている。
 選手起用については、GKと3バック、両ボランチと右サイドの田中、攻撃的MFの工藤、FWの高崎がほぼ固定。左は特徴の異なる複数の選手が試されているが、開幕から使われていた右利きの安藤が離脱後、サイドバックタイプの那須川が使われている。喜山康平はいつの間にか、すっかりセンターバックになっているが、先述のポゼッション志向を反映しての起用だと思われる。
 3-4-2-1は、サンフレッチェ広島がパイオニアとなりJ2で非常に流行し、今でもその潮流が残っている。守備は撤退時に5-4で組むこともでき、特に3人のセンターバックを起用できるので固くなるが、守るだけでは勝てない。点を取って勝つには、昨シーズンのアビスパ福岡がFWウェリントンを得てから猛スパートが始まったように、孤立しがちな1トップでボールを収められる選手(攻撃陣形にシフトする時間を作る)、又はシャドーなどに単騎で長い距離のボールを運べる選手など、むしろ個の能力が重要で、個人的には"弱者の兵法"ではないように思っている。

1.前半の展開

1.1 札幌のビルドアップと松本の守備戦術:数的同数プレッシング


 試合開始から前半15分頃まで、札幌は最終ラインでボールを持つと、前線の都倉を狙ってのロングボールをひたすら繰り返す。これはピッチコンディション等も考慮して意図的に狙っていた(普段から都倉を狙ったロングボールは多い)ことと、松本の守備により蹴らされていたということの両方だと考えられる。
 松本に蹴らされていたというのは、札幌のDF3人で試みるビルドアップに対し、松本がFWの高崎、シャドーの工藤と山本の3人を当てることで3vs3になる数的同数のプレッシングを行ってきたため、札幌の3バックはボールを持つ時間が作れず、持ったらすぐに前に蹴るしかなかったためである。松本は前線の3人に加え、ボランチの選手1人を札幌のボランチを見る役割として前方に配す。松本としてはこの3+1人が、アグレッシブに振る舞える最大限の人数で、残りの選手はリスクマネジメントとしてプレッシングに参加しない。前の4人が仮に剥がされたら撤退しての守備に移行する。
 よってDFにボランチも含めると、実際の人数は5vs4で、深井や堀米のポジショニング次第では松本のプレッシングを剥がして前に運ぶこともできなくはないのだが、ボールを下げたときの松本の選手個々の圧力がかなり高かったことと、そもそも深井や堀米をDFラインに落とした形に変形するという共通認識がなかったことで、札幌は前半序盤から松本のプレッシングを剥がすことができず、ロングボールを蹴り続ける展開となる。
 一方、意図的なものかもしれないと思う根拠は、まっすぐ縦の都倉に蹴るだけでなく、主に増川が松本の3バックの脇、ウイングバックの背後のスペースを狙って石井を走らせるように蹴っていたことと、アルウィンのピッチコンディションがかなり悪く、選手が序盤から再三足を滑らせていたことで、右のマセードではなく左の石井を起点にしていくという、何らかの共通認識のようなものは、札幌の選手間でも事前にあったように思える。
3vs3の数的同数プレッシング
札幌は引っかかる前に都倉や石井を狙う

1.2 松本の先制点を考える:進藤個人のエラーなのか?


 そして結果的に札幌は前半、この数的同数プレッシングに全くと言ってよいほど無策だったことが先制点を献上する要因となった。下の写真、20:44の局面では札幌が中盤でボールを回収し、深井からから進藤へバックパスすると、松本の前線の選手が追いかけてくる。進藤は中央の増川にパスすると、増川にも松本の中央の選手、高崎が追いかけてくるので増川はダイレクトで進藤に戻す。すると進藤はパスコースがなくもたついたところで松本の山本と高崎が二人がかりでボールを奪い、山本が縦に仕掛けたところで進藤がファウル。これで得たフリーキックで宮阪のクロスを高崎がヘディングで流し込み松本が先制する。
 札幌が進藤→増川→進藤とボールを回す間に、松本の選手が圧力をかけ、どんどん選択肢が狭められていき、最後は行き詰った進藤が2人に挟まれてボールを奪われる。確かに、前半20分を過ぎていて、松本が札幌の最終ラインに積極的に圧力をかけてくることはわかり切っていた状況で、進藤か増川、特に2度ボールタッチがある進藤が繋げないと判断してクリアするか、GK金山に戻して金山がクリアするといった判断ができていればこの失点は防げたはずで、直接的には進藤のミスである。
 ただ、先に説明した松本の数的同数のプレッシングに対し、札幌は最終ラインの選手にパスコース(=選択肢)を作ってやることや、ボランチの選手が最終ラインに加わって松本のプレッシングをぼかすといったチーム戦術が全くできておらず、これではチームとして戦うのではなく、ボール持っている選手に個人で何とかしろ、と言っているも同然で、複数選手で連携してプレッシングをかけてくる松本に捕まってしまうのは時間の問題だったとも言える。また堀米は進藤にパスコースを作るようなポジション(写真の赤破線)でなく、まっすぐ増川の方向(黒破線)に走ってしまう。
堀米がパスコースを作れなかったため
進藤のところで奪われてしまう

 ただ、攻撃時の堀米のプレーで非常によかった点は、松本がプレッシングに出た裏にできるスペースに向かってドリブルでボールを運ぶことに何度かトライし成功していたこと。こうした個人でのドリブル突破もプレッシングをかわす上で重要な手段の一つであり、札幌の選手(宮澤、深井、稲本、上里…)で見ても、ボランチでこうしたプレッシングをかいくぐり、長い距離を運ぶドリブルができる選手は希少である。
スピードがあるので長い距離をドリブルで運べる

1.3 松本のビルドアップと札幌の守備戦術・対応

1)可変式システムの弱点を突く、素早い攻撃移行


 この試合序盤、松本がボールを持っているときの札幌の守備は、いつもの5-2-3ではなくジュリーニョが前に出ない5-2-1-2のような形が多かった。これはあまりに両チームともロングボールを多用し、展開がすぐに切り替わるためジュリーニョが前に出る守備陣形に変形する時間がなかったというのが実情だと思われる(セットプレーのリスタートの際など、ジュリーニョが前に出て「いつもの5-2-3で守備をしようとしている状況が見られたため)。
 四方田監督が採用する札幌のフォーメーションは、攻撃時3-4-1-2、守備時5-2-3に変形する可変式システム。可変式システムとは攻撃時に攻めやすく、守備時に守りやすくするように局面で人の配置を変えるもので、こう聞くと一見最強に思えるが、この変形に時間がかかること、選手によっては運動量が必要になること、といった弱点がある。
 そしてこの試合の松本はボールを回収すると、センターバックがワイドに開いてビルドアップの体制に素早く移行し、札幌が守備陣形を整える(ジュリーニョが前に出て3トップの形になる)前にビルドアップを開始する。これがジュリーニョが前に出ない、5-2-1-2のような形で札幌が対応せざるを得なかった最大の理由だと思われる。
 ただもしかしたら、前節の千葉戦で前線の守備を突破され、札幌の両ボランチの周りのスペースを使われまくったことに対する対抗策で、中盤を一人増やしたかったとの意図があった可能性もある。
3-4-1-2⇔5-2-3 可変式システムの弱点
攻撃・守備の転換時(トランジション)に時間と運動量が必要
サイドには体力のある選手を置いているが
前線は攻撃専任の選手で構成されており、転換が遅い

2)喜山のCB起用

<3バックvs2トップのミスマッチを素早く突く>


 札幌が5-2-1-2で守備をしているとき、ジュリーニョは松本のダブルボランチのうちボールに近いほうの選手を視界に入れてたポジショニングをしている時間帯が多く、松本の3バックに対しては都倉と内村の2枚で対応する。すると3バックで組み立てる松本は1人多い数的有利の状況になる。これが何を意味するかというと、下の図のように松本の3バックが大きく横に開くことで、都倉と内村の2人で対応することを困難にする。そして両端のセンターバック、特に元々前線の選手だった、技術のある喜山がドリブルを使うことで安全に松本はボールを運ぶことができる。
札幌が5-2-1-2気味になる(=前3人が守備陣形…横並びの形になれていない)と
後方で3vs2の数的優位から、ワイドに開いたCBの運ぶドリブルができる
シャドーが顔を出すことでサイドでも3vs1、3vs2を作れる

 そして喜山が中盤まで上がった時に、同じサイドのシャドーである山本が札幌のボランチ横のスペースに顔を出すことで、サイドのエリアでも松本の3枚に対し札幌の1枚(マセード)、または2枚(+深井)といった状況を作れる。ここからウイングバックを縦に走らせるパスやシャドーに一度当てるなどして札幌の守備をずらすことを試みるほか、ウイングバックからアーリークロス気味に前線の高崎やシャドーの選手を狙ったロングボールを入れてくる。
ジュリーニョが前に出て守備に参加しない(できない)と
2枚で守ることになり、松本の最終ラインが空きやすくなる

<3vs3でも速い展開で突破可能>


 では札幌がジュリーニョを前に出して3トップの形、つまり松本と同じように、札幌も松本に対して数的同数のプレッシングをしてきたらどうするのかというと、図のように素早くCBからウイングバックに入れて、札幌の対面のウイングバックが寄せてくる前に、サイドに流れたシャドーに縦パスを入れることでボールを運ぶことができる。
 図のように、サイドに流れたシャドー(この時は山本)に対応できる札幌の選手はストッパーの進藤しかおらず、進藤がサイドに釣りだされることで札幌の中央は手薄になる。ここから早いタイミングでクロスを入れる。このあたりは、松本も長年3バックで戦っているので、どのように攻略すべきかを各選手が当然のごとく頭に入れて、システマチックに縦に運ぶことができている印象を受ける。
札幌が5-2-3で守備をしてきた場合は
早めにウイングバックにつける
シャドーがサイドに流れてWBの背後のスペースを突く
ウイングバックのマセードが出るが
低い位置で受けられると蹴らせないことは難しい

 こうした松本の外を起点としたビルドアップは、札幌の守備において外を意識させる意義もあり、札幌が外を警戒すると選手間の距離が空き、今度は中央にパスコースを作ることができる(後述)。

1.4 トリデンテ起用の弊害①

1)札幌の攻撃終了後のネガティブトランジションの悪さ


 ボールを前進させるという点に関係することだが、過去の記事でも似たようなことを何度か書いているが、そもそも札幌は前線に特徴の異なるFW3選手("トリデンテ"と呼ぶ)を起用し、彼らの個人能力を活かしてゴールを奪うスタイルで、相手からすると都倉や内村が常にゴールを狙っている状況は危険ではあるが、ただその攻撃が終わってからの守備への転換、ネガティブトランジションが非常に悪く、なかなか都倉や内村が戻ってこない状況も少なくない。
 特に内村が先発起用されたセレッソ大阪以降、この点が顕著になっていて、シュートを決めたり、ふかしてゴールキックから再開されればあまり問題にならないのであまり露見されなかったが、松本はこの構造的な問題を把握していて、札幌の守備が整わないのを見ると素早く前線にボールを運んでくる。
金山の縦1発ロングフィードを都倉が競り内村が走り込む
強力な"個"を持つ前2人だけでチャンスを作れる
(コバチェビッチ&ニハトのようなコンビネーション)
ゴール前に突っ込んでいった内村は
攻撃終了(シュミットがキャッチ)後、なかなかプレーに復帰しない
松本は札幌の守備陣形が整わないうちに運ぶ

2)前後分断を助長するロングボール戦術


 特に札幌が金山や増川からの長いロングボール1本でボールを前に運ぼうとするときに、下の写真のように都倉のフリックで内村とジュリーニョの両方が狙いに行ってしまうと、これが内村やジュリーニョに渡ればよいが、松本の選手に渡ればその瞬間、札幌は全く前で守備ができない状態になっている。極端に評せばリスクマネジメントが全くと言ってよいほど存在しない。札幌がたびたび蹴ってくるロングボールへの対応に対して、松本はセカンドボールを拾うと極めて冷静にボールをキープできていたので、札幌としては都倉への"縦ポン"がこの日は、非常に分が悪いギャンブルになってしまっていた。
金山からのロングボールを都倉が競るが飯田が拾う
飯田が拾った瞬間、札幌の前線3人はバラバラなポジションなので
守備をすることが不可能

 そして先述の通り、札幌はネガティブトランジションが悪い"トリデンテ"があまり守備に戻ってこないため、3人が長い時間前に残った状態になる。一方、後はどうしているかというと、前3人が守備に参加しない(=ボールを持つ松本の選手にプレッシャーがかからない)ことに加え、単純にDF個人能力の問題(札幌の最終ラインの中央を務める河合、増川ともに、全盛期ほどの対人守備の強さ、背後のケアができない)もあり、縦パス1本で背後をとられることへの恐れから、DFラインを高く保って守れない。
 他のチームと比較しても、札幌のラインの低さ、陣形の間延びは顕著で(※比較画像準備中)、DFラインが低いとただでさえ仕事量の多いダブルボランチの活動域が非常に広大になり、深井のような対人に強く、読みも鋭い選手であってもボールを奪取することが難しくなる。
深井一人で相手と正対
飛び込んでかわされたら危険な状況になるため奪いに出れない
ボランチの岩間一人に任せるのではなく
FWがプレスバックしてサポート(結果山本がジュリーニョから奪う)
前3人は戻らない、後方はラインを高くできない
…中盤の広大なスペースを2人で見る

1.5 札幌ボランチ周辺の攻防

1)左右両脇:スカスカだがCB迎撃で潰す


 先述のように、松本は札幌の前線の守備を剥がす術を複数備えているので、札幌としては前から守備をしても松本にかわされてボールを運ばれてしまう。よって札幌がとるべき手段は、自陣にリトリートしてスペースを限定させ、5-2-3でセットすることで松本に対して役割をはっきりさせる。
 札幌の5-2-3に対する松本の狙いどころは、前節のジェフユナイテッド千葉が狙ってきたのと同様に札幌のダブルボランチの脇で、ここをシャドーの選手が降りて使おうとするが、ミラー布陣なので札幌は対応する選手が明確になっている。図のように工藤が降りれば福森が着いていき潰すことで、基点を作らせないことに成功している。
各ポジションで数的同数なのでマンマーク気味に対面の選手に対応
出し手と受け手が明確なので潰しやすい

2)前後のスペース:どうしても空いてしまう


 では、札幌は5-2-3でセットしてマンマーク気味に対応すれば盤石かというと、まだ非常に曖昧なゾーンが残されていて、それは3トップの背後、両ボランチの前方のスペース。
まず松本は出し手となるサイドバックやボランチの選手が札幌のFWの選手間…下の写真では内村と都倉の中間に位置すると、札幌の選手はうまくパスコースを切れず、間で待つ岩間が受けられる。ここに札幌はボランチの堀米が出る。ここで堀米を食いつかせて出し手の宮阪に戻すと、宮阪は札幌の選手が視界にとらえられていないボランチ背後のスペースに降りてきたトップの高崎にパス。高崎が中央この位置で受けると、札幌は増川が対応するが高崎はボールを収めて起点になることができる。
中盤に2人しかいないので、ボランチの深井・堀米の前後左右にスペースがある
松本のボランチが縦関係になり、岩間がFWの背後へ
FWはプレスバックしないので堀米が出て対応
札幌ボランチの背後にトップの高崎が降りてきて受ける

1.6 トリデンテ起用の弊害②:繰り返された大外からの被弾

1)4+3人ではカバーしきれないバイタルエリア


 この試合で最も考えさせられたのが、以下に示す局面、松本の2得点目のプレーで、右サイドでストッパーの當間を上げ、松本はサイドに3人(當間、ウイングバック飯尾、右シャドー工藤)を集めて崩しにかかる。札幌は石井が前に出た4-3ブロックに前方にFW3人も含めると4-3-3の守備陣形を作っており、内村のポジショニングがやや甘いなどは別にすると、この状態は現在の札幌の守備戦術上、陣形が整っている状態であるが、この時、画面奥川のボランチの横、赤円で示した部分が大きく空いている。
 結果的にこの後、松本が右サイドから上げたマイナスのクロスが流れて、この赤円のゾーンに走り込んだ松本の選手がシュート、こぼれ球を山本がねじ込むという、途中までは前節の千葉戦の2失点目(阿部翔平のミドルシュート)と非常に似た形で2点目が決まっている。
 これも前節の記事で書いた内容であるが、札幌は5バックに2ボランチの計7人で5-2(今回のように変形すると4-3)で守るが、2枚で横幅を守るボランチの脇をカバーする設計になっていないため、頻繁にこのエリアが空く。

2)7人ブロックはマイノリティ


 現代サッカーにおいて5-2や4-3といった7枚ブロックで守るチームはかなりマイノリティとなっており、例えば札幌と同じように前線に3人の攻撃的な選手を配するバルセロナも、ボールと反対サイドのFW…ネイマールやスアレスが中盤に下がることで4-3+1、4-4の8枚ブロックを最低限として確保している。試合を見ていると、たまに札幌は都倉やジュリーニョが自己判断で中盤の守備に加わることがあるがそれはあくまでアドリブで、チームとして守る形になっていない。この場面であれば、下の写真の赤円に1人(この場合都倉)が下がることをチームとして組み込んでおけば、失点の危険性はかなり低下させることができたと考えられる。
石井が出て4-3ブロックを作れているが
「3」の脇、画面奥側のボランチの横が空いている(赤円)
余談だが深井が内村に間の選手をケアしろ(赤破線)と指示するも
内村は黒破線のように動く
高崎がターンしてクロス、は大外に流れる
大外の選手のシュートを中央で拾った山本が決める
増川が高崎にサックリとターンされてかわされたのも問題ではあるが
非常に前節と似た失点の形

1.7 3バックの"練度"の差

1)個の札幌、組織の松本


 札幌と松本は3-4-1-2、3-4-2-1と似たフォーメーションを採用しているが、前半のいくつかの局面を見てもわかる通り、攻撃両面でチームとして機能しているのは松本で、札幌はビルドアップを個人にお任せだったり、攻撃は前線のトリデンテ頼みだったりと、チームとしての完成度に差があるように感じられる。
 例えば松本が後方からパスを繋いでボールを運んだりできるのは、松本の選手がうまいからというより、3バックの札幌がどう守り、どこに隙が生まれるのかをチームとして把握できていて、最適な選択肢をパターン化、共有化できているためである。
 一方、札幌も3バックで似たシステムのため、松本と同じようにやれないのかというと、それは選手の質が劣っているからではなく、共通認識のもとパターン化された動きが落とし込まれている松本に対し、選手個々がその都度考えてからプレーしている札幌という印象で、チーム戦術としての"練度"の差を感じずにはいられなかった前半であった。

2)先行したら緑色のバスを止めれば良い


 前半で2点リードを奪った松本は無理に攻める必要がなくなったことからペースを落とし、守備に重きを置いた戦い方にシフトする。このとき松本は前線でのプレッシングも継続しながら、守備時に両シャドーが戻り、5-4の守備ブロックを作ることも想定に置く。このように人数をかけられると札幌は都倉の強さや内村のスピードといった、単純な個人能力のみでは複数選手の守備をかいくぐってゴールに迫ることは難しくなる。
攻め込まれたときはゴール前に5-4のブロックを作る

2.後半の展開

2.1 スローダウンにより札幌の流れに


 後半開始直後の時間帯、2点をリードし無理に攻める必要のない松本は、前半積極的に前に出たことも考慮したのであろうが、素早いトランジションからの展開を封印し、ゆっくりとボールを回す、スローダウンした展開となる。時にマイボール時には、GKのシュミット ダニエルにボールを戻してもいる。
 そしてこのゆっくりとした展開は、先述のようにトランジションに難を抱える札幌に流れが傾くこととなる。攻守の切り替わり時に前線のジュリーニョや都倉が適切なポジションに移動する時間が得られ、また最終ラインへのプレッシングも弱まったことから徐々に敵陣にボールを運ぶことができるようになる。

2.2 個の破壊力を発揮し1点を返す


 そうした札幌としては松本のスローダウンによりやりやすくなった時間帯で、コーナーキックから1点を返すことに成功する。50分、左の石井の突破からコーナーキックを得ると、1度クリアされた後の2本目、福森のクロスを都倉がニアで飛び込み頭で合わせる。松本はニアに高崎と飯尾をストーンとして置き、増川に當間(191cn-178cm)、都倉に飯田(187-185)、進藤に岩間(180-178)、ジュリーニョに喜山(184-179)、石井に宮阪(177-169)、内村に那須川(173-176)とマンマークで対応するが、札幌がおおむね高さで上回っていて、福森の正確なキックに増川と進藤、さらにそのマーカーをスクリーンとしてうまく使った都倉がニアに飛び込んで合わせられると成す術がなかった。

2.3 5-2脇からのアーリークロス①


 そしてこの得点以降、再び松本は意識をややオフェンス寄りにシフトさせ、札幌も2点目を狙いに行くことで両チームともチャレンジ的なパスが多くなりつつボールへの全体としての圧力はやや弱まり、どちらに転ぶかわからない展開となる。
 59分、松本は山本→石原。そのままシャドーに入る。そしてこの交代直後に松本は、前半から再三表面化していた札幌のFWのトランジションの悪さを突き、5-2の状態で守っている札幌の左サイドに展開、右の飯尾からアーリークロスを上げると石原が飛び込むが、ヘディングシュートはわずかに枠を外れている。
 この形で攻められることは札幌にとって2つの問題点があり、一つが5-2で守っているとこの位置が空きやすく、フリーでクロスを上げられやすいこと。もう一つは、ウイングバックの選手がボールホルダーのチェックに出ると、ゴール前でマークがずれやすくなること。
 この局面で札幌はゴール前の松本の3トップを全く捕まえられていないのだが、これはボールサイドの福森がボールにアタックしようとしてマークを外し、増川は福森の背後をカバーしようとしているため、増川の背後で石原が完全にフリーになっている。このシュートの直後、マセードや増川が進藤に何らか話しているのは、恐らく進藤が自分のマーカーを捨てて(マセードに受け渡して)増川の背後を守るポジションをとれ、ということを指示しているのだと思われる。
ボランチの脇、福森が出たところでどうやってもケアできないエリアから
フリーでアーリークロス
進藤のスライドが不十分で増川の背後(石原)がフリー

2.4 メッセージ重視の交代カード

1)遂にジュリーニョを(守備面で)諦めた四方田監督


 この直後の61分、札幌はジュリーニョ→上原に交代。ジュリーニョをこの時間で下げるのは初めてである。上原の使い方は、恐らく守備時はジュリーニョのポジションである中央だが、攻撃時は中盤で受けて触って…というタイプではないため、3トップの中央でターゲットマンとして振る舞うイメージでの投入かと考えたが、実際は都倉と内村がほとんど守備に戻ってこないため、都倉と内村が前、上原が中盤に近い位置のトップ下のようなポジション(つまりジュリーニョと同じ役割)の3-4-1-2となっていた。
それでも札幌としては、具体のポジションがFWかトップ下かはともかく、ジュリーニョアウトで前線に上原の投入というのはこの上なく明確な「形はどうでもいいから放り込め」というメッセージであり、選手としてはやることが明確になってやりやすい面が大きかったと思われる。2トップは前に残らせてロングボールへの競り合いや、セカンドボールへのフォローに専念させ、体力に比較的余裕のあるマセードや石井が行けるときに前線に駆け上がる、といった体力任せのスタイルで攻勢をかける。
 またジュリーニョよりは守備が計算できる上原が前線に入ったことで、ロングボールが相手に渡った後のトランジションで、前半ほどは簡単に松本にボールを運ばれることも少なくなる効果がみられている。
61分~
松本は山本→石原、札幌はジュリーニョ→上原

 そして上原投入からわずか3分後の64分、札幌は右からのコーナーキックで、福森のキック直前に都倉が競り合いで飯田を弾き飛ばしてペナルティスポット付近でフリーになる。またしても福森の完璧なキックが都倉に合い、2点目となるヘディングを叩き込んで同点に追いつく。

2)守備面のプラスは思ったほどなかった

<上原に与えられていたのはFWと中盤のマルチタスク?>


 同点に追いついた後の札幌の守備を見ると、上原は前線に加わって5-2-3の「3」を形成するように見える状況もあれば、中盤の深井や堀米に近いポジションにいることもみられる。恐らく上原は前線と中盤、両方の役割を与えられていて、下の図のようにスタートは前線の3枚の一角を構成し、ここを突破されてボールを運ばれると中盤に加わるというイメージかと考えられる。
 ただ、四方田監督からこの指令を受けたであろう上原が投入された時間帯は札幌の前線の守備はほぼ機能しなくなっており、一方で中盤の選手としての役割遂行についても、マルチなタスクを与えたことで結果的にどっちつかずのような形になってしまっていた。このタスクを求めるならもっと明確なポジショニングをすべきだったと考える。ジュリーニョ→上原で守備力が高まるかと考えていたが、結果的には上原の役割が難しかったこともあり、守備は改善されないまま松本に何度かチャンスを許すことになっている。
上原は前線と中盤の守備タスクを担っているように見える
中盤を3枚で守れて深井堀米の負担が軽減できるように思えるが
実際は上原は中盤の守備にあまり参加できなかった

<依然として中盤はスカスカ>


 そしてこの上原が中盤に加わったことをあてにしてなのか、堀米や深井が持ち場であるバイタルエリアを離れて松本の選手に当たりに行く局面が何度か見られる。下の図は72:10頃、堀米が低い位置のボランチ、岩間に対して出て行った局面だが、これをやると堀米の背後ががら空きになる。ここを隣のMFがスライドしてカバーできるならよいが、この時、上原は堀米の隣のゾーンを守るという意識がなく緩やかにジョギングをしているだけ。結果、堀米が出ていったスペースで工藤が受け、工藤から高崎に繋がれ、がら空きのバイタルエリアでミドルシュートを許している。
72:10頃
松本の最終ラインからの展開に堀米が出てチェック
バイタルでの間受けを許し高崎がミドルシュート

 74分、札幌は内村→ヘイスに交代。ヘイスはそのまま2トップの一角に入り、やはり上原がトップ下(=中盤の役割も担っている)のように見える布陣のまま戦う。結局最後までこの上原を加えた中盤の機能性が今一つで、下の写真、79:13の局面でも深井がボールホルダーに出て空けたポジションのカバーができておらず、中盤の選手としてはほとんど計算できない状態である。
喜山が持ち上がったところに深井が出る
上原は中盤の選手として深井のカバーリングポジション(赤破線)に動くべき
高崎が明けたスペースをに走り込んだ喜山に使われる

2.5 5-2脇からのアーリークロス②


 両チームとも消耗が激しく、どちらに転ぶかわからない展開の中、決勝点となるゴールが生まれたのは松本で、80分、自陣でボールを回収すると高崎のポストプレーから右サイドに展開する。札幌は「後ろの7人」、要するに5-2ブロックを構成する選手たちが戻っているが、仮に5-2でセットできたとしても、この時松本が展開したボランチの脇のスペースが空く。左サイドの石井と、福森が出るもフリーでクロスを上げられ、増川が不十分な体制で触ったボールがバイタルエリアに走り込んだ岩間の元に転がり、岩間の放ったコントロールシュートはポストをかすめてサイドネットに流し込まれる。
福森がボールに食いつくと、堀米は福森があけたスペースに走っているが
ここをカバーする意味はない(使える選手がいないため)
結果バイタルを空けてしまったが
堀米がバイタルのケアに動いていれば深井とでシュートを防げたかもしれない


 増川のクリアが不十分だったことなどもあるが、再考したいのは堀米と福森の動きで、福森が出て空けたスペースをカバーするような動きをしている。結果からいってしまえば、松本の選手でここを使う選手はいないためカバーは不要で、堀米(と深井)はバイタルをケアするべきだった。
 ただそれ以前に、福森が持ち場を離れてボールに食いつく必要があったかというのも問題で、福森が恐らく元々のポジション(赤い円)にいれば堀米も赤い円に動くことはなかったはずであるし、結果的に出たにも関わらずクロスを上げられている(そもそも距離的にどうやっても無理)。ではなぜ福森が出てしまったかというと、やはりチームとしてこのゾーン(ボランチ脇)がどうしても空いてしまう構造的欠陥を抱えているのもそうだが、福森の個人戦術(=どこを守ればいいかわからない)にも問題があると言わざるを得ない。

 勝ち越し後、松本は83分に工藤→武井に交代。トリプルボランチにして逃げ切りを図る。といっても後は札幌の高さと福森のキックによるパワープレーを耐えるだけで、フィールドプレイヤーの高さでは劣るが、長身のGKシュミットを中心に最後まで耐えきった松本が逃げ切り勝利。
最終の布陣

松本山雅FC 3-2 北海道コンサドーレ札幌
・23分:高崎 寛之
・34分:山本 大貴
・52分:都倉 賢
・65分:都倉 賢
・81分:岩間 雄大


3.雑感


3.1 試合結果や内容について

1)松本の強さ


 今の札幌と松本のチームコンセプトは、ローブロックでの守備の固さやロングボールの多用、セットプレーの強さなど、いくつか共通点がある。そのうえでどちらが成熟度や練度が高く、戦術の幅があるかというと、5年間このシステムで戦っている松本であり、この試合でも札幌のウィークポイントを的確に松本が突いたことが2点を先行される展開となった要因。
 そんな松本が昨シーズン、1年でJ2降格の憂き目に遭いながら、反町監督の留任という選択をし(5年目というとマンネリ化し、グアルディオラのいう"監督の賞味期限"が切れかけていてもおかしくないなかで)、ポゼッションプレーを強化して再びJ1に挑もうとしていることは、札幌がJ1を見据えて戦っていくなかで必要な要素を暗示しているかのようにも思える。

2)3-4-1-2(守備時5-2-3)を続けるべきか?


 前節の千葉戦と今節の松本戦で、一気に現戦術の問題点が噴出した形となっている。端的に言うと前3人をFW的な選手で固めるとバランスが悪く、相手が格下のチームや、山口のような特殊な戦術のチームなら覆い隠せるが、戦術のいびつさを的確に突けるクオリティのあるチーム相手だと厳しい。現在首位だが、試合内容を見ると転換・バランス修正が必要な時期にあると見たほうが良いと考える。

3.2 野々村芳和社長の見解について


 引用はしないが、Twitterで「野々村社長が、サポーターからの質問『なぜ札幌はファウルが多いのか』という質問に、『ボールを奪う技術が下手だから』と答えた」とのやりとりを見た。真偽はわからないが、これが真実であればコンサドーレの社長の発言としては非常に心配になってしまうもので、札幌のそうした点に問題があるとすれば、確かに個人の能力は全く切り離して論じることはできないが、それ以上にチーム戦術に改善点が大いにあるためだと考える。
 すべてを個人の問題だとしてしまえば、例えばバロンドーラーのカンナバーロが、イタリア代表とレアル・マドリーでは別人だったことや、身近な話ではダブルボランチで起用するには心もとない前寛之や堀米が、3ボランチでは持ち前の運動量や技術を生かして攻守両面に活躍し、チーム全体でもバランスよく戦うことができた第5節の京都戦などは何だったのか、ということになる。
 記事中でうまく表現できなかったが、中盤や最終ラインの選手にファウルが多いのも、ファウル覚悟でリスキーな形で奪いに行かざるを得ない状況を頻繁に作り出している、札幌のチーム戦術が根本的な問題であり、個人的な見解を述べれば、特に"トリデンテ"を先発で同時起用するようになって以降、ボランチや最終ラインの負担は増していて、手っ取り早い手段としてはこれをやめれば(又は何らか守備寄りにバランスを改善させれば)幾分は改善されるのではないかと予想する。
単純な1vs1の形を作りにくいチーム戦術設計ならば
能力が低くてもノーファールでボールを奪える

1 件のコメント:

  1. にゃんむる2016年6月17日 1:59

    (´・ω・`)平日は行けませんって・・・

    返信削除