スターティングメンバー |
北海道コンサドーレ札幌のスタメンは3-4-1-2、GKク・ソンユン、DF櫛引、増川、福森、MFマセード、深井、宮澤、石井、ヘイス、FW都倉、内村。サブメンバーはGK金山、DF上原、進藤、MF上里、河合、前寛之、ジュリーニョ。ふくらはぎを痛めた堀米がベンチ外で、石井がスタメン復帰、前寛之がサブに入る以外は前節の長崎戦と同じ。
ギラヴァンツ北九州のスタメンは4-4-2、GK鈴木、DF星原、刀根、寺岡、石神、MF小手川、風間、新井、川島、FW池元、原。サブメンバーはGK阿部、DF市川、MF井上、加藤、本山、FW多田、小松。CB寺岡、ボランチに新井が2試合連続でスタメンで入り、川島の左サイド起用など、昨シーズンのスタメンにやや回帰している傾向がみられる。
1.前半の展開
◆首位相手のアウェイゲームへの臨み方
北九州は前半開始早々のファーストプレーで前線から激しくプレッシングに出ていく姿勢を見せるが、これを札幌の個の力(ヘイスのドリブル)で回避されると、自陣に4-4のブロックを敷いての撤退守備の構えをとる。スカパー!!中継では、北九州の柱谷幸一監督の、「首位の札幌相手のアウェイと考えると、勝ち点1でも御の字と考えてもよい」との旨のコメントが紹介されていたが、序盤からそうした考え方が反映されたゲーム展開となる。序盤の北九州を見ていて感じたことは、とにかく攻撃→守備のトランジション時における帰陣の速さを徹底しており、札幌が攻撃の枚数を揃える前に素早く4-4のブロックを確保して攻撃を送らせ、さらにはFWも守備に加わらせての、ローブロックによる籠城作戦を展開する。
8:24 札幌が中盤で拾ってカウンター ヘイスから左でオープンな石井へ展開 |
3秒後には石井にアタックしつつ 自陣で8枚の守備を確保している |
◆北九州のゾーン風マンマーク
北九州は守備に転じると素早くリトリートし4-4のブロックを構築するが、序盤の北九州の守備は、2トップが縦関係になる4-4-1-1の状態が多く、この時札幌の最終ラインは、前線に残る原1人を見ていればよいので、櫛引と増川の2枚を残し、福森を左サイドで活用する(前節の長崎戦の記事でも言及した変則4バック)。
また北九州の守備の特徴は、4-4でセットしているものの一般的なゾーンディフェンスのようにボールの位置を基準にして守備の位置が決まるのではなく、ブロックの周囲にいる選手(札幌のサイド攻撃を担う選手)を非常に意識したポジショニングをする。
これは具体的には、左の福森と右のマセードで、左サイドでは4-4のブロック外側で受ける福森に対し、北九州は右サイドハーフの小手川が積極的に当たっていき、福森の左足からの前線へのパス供給を封じる。
ウイングバックを福森が後方支援する左サイドに対し、現在の札幌の右サイドは基本的にマセードの独力突破に頼ったオフェンスであり、櫛引は福森のような攻撃タスクを期待されていない。よって北九州は札幌の右サイドではマセードにボールが渡ると突破させないよう厳しく対応するが、具体的には左サイドバックの石神がポジションを捨ててどんどんマセードに付いていく。
図で説明すると、2:00頃の局面で、札幌はマセードの位置を押し上げられていない(櫛引が後方支援していないため)ので、通常の4-4-2ゾーンディフェンスであれば図の位置のマセードにボールが渡ると、中盤のブロックがスライドしてサイドハーフの選手がマセードに当たる。しかし北九州は写真で示したように、サイドバックの石神が本来守るべき最終ラインのエリアを投げ出してまでマセードを徹底マーク。ここ数試合で切れているマセードの縦突破やクロスによるサイドアタックを封鎖する。
4-4-1-1気味にセットして 福森とマセードに渡ると担当の選手が早めに当たる |
マセードにボールが渡る前(深井が出した瞬間)からポジションを捨てて 本来守るべき位置を空けてまで、マセードに早めに当たる |
ただこの守り方だと、本来4-4のゾーンディフェンスでバランスよく組んでいるはずのブロックが人に引っ張られていびつな形になるため、例えば下の写真、宮澤がドリブルで運んでから、小手川が空けたゾーンを突いてサイドに展開したように、福森やマセードを意識するほど綻びが生じるという危険性もはらんでいる。
7:24 小手川が画面内の福森にチェックに出ると 福森から受けた宮澤がドリブルで運び 小手川が戻り切らないうちに都倉、石井とサイドで展開 |
◆ボール運びにも現れるリスクマネジメント
マイボール時の北九州のシステムは4-4-2をベースに、時折ボランチの風間が降りて3バック化するパターンもあるが、いずれにせよサイドバックにはあまり高い位置を取らせない。ボールを前進させる経路は基本的に2つで、いずれも札幌の3トップによるプレッシングを考慮してもわずかに時間を得ることができる、両サイドバックを起点として行う。一つはサイドハーフが引いて札幌の5バック化しているウイングバックを引きずり出し、空いたスペースに2トップの一角、主に池元が流れて受ける。もう一つは中央に残った原が札幌のセンターバックを背負って受けるもので、いずれのパターンも、ボールを前進させる過程においてのリスク(=低い位置で奪われてカウンターを受ける)を回避しようとする姿勢が表れている。
サイドバックが低い位置で開いて受けて 都倉がプレッシングに来る前に前線に運ぶ |
◆早々とゴール前にバスを停める
前半10分頃には、北九州は最終ラインをペナルティエリアに設定し、DF-MF間を圧縮して間のスペースを封じた4-4のブロックを築き、籠城作戦への準備を万端にする。
低い位置でブロックを築く |
このようにバスを停める(引いて中央を固める)相手を崩すには、簡単に言うとまずブロックの前後左右に人を配し、ピッチを広く使ってボールを回すことでブロックの選手間を広げたうえ、ブロックの間でプレーする選手(図では石井とヘイス)に時間とスペースを与えることが重要になる。
バスを止める相手に対し、奥行と幅を作ってブロックを広げ ブロックの間に位置する選手がプレーするスペースを作る |
◆札幌がバスをどかせない理由:変則4バックのデメリット
ではこの試合で北九州がバスを止めはじめた時の札幌の陣形を見ると、先に言及したように「変則4バック化」しており、マセードと福森がサイドバックの位置にいる。この時、福森の前方にはウイングバックの石井がいて、石井が左から横幅を広げる役割を担っているが、右はマセードが下がってきているため、右から横幅を広げる役割の選手が不在になっている。
なぜマセードが下がってくるかというと、これは4バック化して櫛引、増川、福森がそれぞれ左にスライドしたポジションをとっており、また深井は相手2トップの間(2トップをピン止め)、宮澤は後ろを深井に任せてバイタルエリアに進出しようとしているため、右サイドにはマセードを後方から支援してくれる(マセードを高い位置に押し出しつつ、ボールを届けてくれる)選手がおらず、マセードは低い位置まで下がらなくてはならない。
4バック化するとマセードが下がってきて 右の高い位置には誰もいなくなる |
要するに札幌の変則4バック化は、左の福森→石井の関係性を高めるメリットがある半面、右サイドが孤立無援になり死ぬ、という問題を抱えている。恐らく宮澤としては北九州は2トップだけを残しているので、後ろは増川、櫛引、深井の3人に任せて自分はバイタルを攻略しようとの考えだと思われるが、この問題を解決するには、前線に進出している宮澤が右サイドの支援役になることでマセードを押し上げるのがベターな策だと思われる。
そして右でマセードが張る形を作れないと、先に述べた、北九州のブロックを横に広げるということもできておらず、間で受けるヘイス、内村、都倉に縦パスを出してもカットされてしまう。
ただ札幌の右サイドにおいては、右ストッパー櫛引のボールを運ぶ能力という根本的な問題もあり、このように4バック化していない、3バックで相手の2トップに対して1枚余る状態でもなかなかボールをマセードに届けることができておらず、そう考えると右サイドを活かすには、ボランチが右サイドに1枚流れて供給源となる形をつくることがベターだったかとも考えられる。
そして「マセードがワイドに張り、後方で支援要員を確保する」という構図が作れない札幌の右サイドは、時間が経過するにつれ、内村がブロックの外で受けたり、またはマセードが下がって櫛引が大外をオーバーラップする(櫛引とマセードが担うべき役割が入れ替わる)など、アドリブ、思いつきとしか考えられない動きを繰り返し、一向に機能する気配を見せない状況が続く。
基本的に右で櫛引が供給役になれないため、消去法的にマセードが下がって福森の役割を担っているような状況になり、その近くに内村やヘイスが流れてきて絡もうとするが、人の動きもボールの動きも効果的なものがなく、それでいて狭いエリアで展開しようとするので、逆に北九州にとっては奪いどころとなっていた。
櫛引や内村がサイドに流れて攻撃参加するよりも、サイドの専門家であるマセードを仕掛けに専念させられる形を作るほうがよほど効果的で、マセードが供給・組み立て役になっている状況こそがこの試合の右サイド問題の本質だといえる。
また特に櫛引の動きで気になったのが、前半35分過ぎの局面で、マセードに渡るとひたすらオーバーラップをする動きが何度か繰り返し見られたが、下の写真、38:39もそうだが、わざわざ背後を通ってマセードを追い越すよりも空いている内側のスペースにインナーラップした方が効果的である。回り道して時間をかけて背後を通ることで、万が一マセードが奪われたらバックアップができず大ピンチになりかねない状況になっていた。おそらく足元の技術であまり貢献できないなりに考えた何とかしたいとの意図は感じられるが、効果的だとは言い難かった。
北九州はべた引きで守るが、その分ボールの回収地点は自陣深くであり、また札幌の最終ラインがボールを持っているときは強い圧力をかけることができないため、札幌としては焦らずにパスを回し、北九州のブロックを拡げたいところ。
しかし、ブロックを崩すために札幌がバランスを崩して前線に人数を送り込むんでも、先に説明したメカニズムで攻撃の横幅を作れないと攻撃が停滞する。そうして、ボールをどのように動かして良いかわからなくなった状況において、札幌の最終ラインが意図もなくロングボールを前線に蹴り込むと、これを跳ね返してカウンターに繋げる…という展開は北九州にとっては好都合である。
いわば、札幌は攻め急がずパスを回す、北九州は撤退して札幌のミスや安易なロングボールを待つ、という我慢比べのような関係で、主導権を握っているのはポゼッションをしている札幌だが、アウェイで勝ち点1でもいいという北九州とホームで勝ち点3が欲しい札幌という立場の違いに加え、札幌は普段からそうしたポゼッションを大事にするチームコンセプトが徹底されている、またはトレーニングで仕込まれているというチームではないので、この我慢比べに勝てない局面も散見される。
北九州が我慢比べに勝ったのは例えば20:29の局面、札幌は後ろで回していた増川が、前線の都倉を狙って浮き球のパスを送ると北九州の刀根が跳ね返し、右サイドハーフの小手川が拾う。小手川は追いかけてくる宮澤、ハーフウェーライン付近でチェックに出た深井、福森をかいくぐって右サイドの池元へパス。池元がドリブルで運び、右サイドからクロスを上げるとゴール前は2vs2、札幌は増川が釣りだされていて櫛引とマセードで対応せざるを得ない。原のヘディングは力がなくク・ソンユンがキャッチ。
ただ、我慢してパスを回していれば北九州の守備はどんどん人についてきて、せっかく組んでいる4-4のブロックを自ら崩してしまうので、札幌としては我慢せず、攻め急がずに後方でパスを回していればチャンスが訪れる展開となっている。
札幌が我慢比べに勝った例は、たとえば下に示した31:26の局面で、札幌が左サイドで下がってきた内村や、石井、福森などがパスを回した後、前線のヘイスに預け、ヘイスがキープしながら深井に渡した場面であるが、北九州は人に食いつく守備をしてくるので、このように複数選手がポジションを変えながらボールを回していれば北九州の守備もそれに食いついてきて、結果このようにブロックが跡形もない状況が発生している。
他にも42:28の局面でも、内村が中央右寄りで持った時、既に北九州のブロックは都倉やマセードのポジショニングにつられて崩れているが、ここでマセードに預けた内村が前方にフリーランすると、このゾーンにいた新井はいとも簡単に内村に着いていくので、後方から侵入してきた宮澤の前にはスペースが広がっている。
前半30分頃からは、北九州が完全にゴール前にへばりつき、高い位置からチェックに出ていた福森が空きだすようになる。すると福森は左サイドの浅い位置から、ゴール前の都倉を狙うアーリークロスが繰り出せるようになるが、ペナルティエリア内まで撤退する北九州相手に、絶対の強さを持つ都倉をターゲットとした空中戦に持ち込むことは非常に効果的である。
特に都倉が福森の左サイドから見てファーサイドである右サイドに流れると、都倉が競る相手はSBの石神や、プレスバックしてきた川島になる。181センチとSBにしては大柄な石神はともかく、169センチの川島や、石神の隣のエリアを守る179センチのCB寺岡では特に都倉に対して分が悪く、福森からファーサイドを狙うボールが非常に北九州にとっては危険になる。
右サイドの機能不全は気になるも、ストロングポイントの左を活かしながら攻め続けた札幌が"我慢比べ"に勝ったのは前半のロスタイム。北九州のゴールキックからのルーズボールを前線で内村が収めると、残っていた北九州のDFラインの前を横切るように右サイドから左サイドへドリブルし、時間を作る。左サイドまで来たタイミングで後方から駆け上がってきた都倉へスルーパス、都倉の左足のグラウンダーパスは北九州のDFが足に当てるが、こぼれ球に走り込んだ宮澤がボレーシュートを叩き込み札幌が先制する。
先制を許した北九州は後半開始から、ボールを運ぶとブロックを前方に押し上げ、ボール回収地点を前半よりも高くして攻勢に出る。札幌としては守備らしい守備の局面が殆どなかった前半とは打って変わって、FWの池元や原、2列目の小手川と川島の個人能力を前面に押し出したオフェンスを繰り出す北九州を受ける局面が発生する。
北九州が繰り出す攻撃は、5-2-3で守る札幌相手の非常にオーソドックスな、サイドを迂回してサイドバックを起点に外⇒外、または外⇒中(ボランチの周囲)に縦パスを打ち込むもの。札幌としては今シーズン毎試合のように見ている光景で、対処法は既に染み込んでいると思われるが、後半開始直後に札幌はこの外⇒外で何度もボールを前進させられている。
下の図のように、北九州の右サイドからの攻撃を例にみていくと、ファーストディフェンダーの都倉の圧力自体は悪くない。ただ都倉と2列目、また3列目との距離感が問題で、都倉がこのハーフウェーライン付近からプレッシングに行くなら最終ラインがペナルティエリア付近では低すぎるし、ボランチも北九州の中盤で受ける選手が活動する領域を狭めなくてはいけない。又は最終ラインを上げて守れないなら、FW陣のプレッシング開始位置をもう少し下げなくてはならない。基本的なこうした守備の設計がイマイチで、北九州がその気になれば簡単にバイタルエリア付近までボールを運べる状況になっていて、到底首位チームの守備組織とは思えない緩さである。
5-2-3の守備が機能するかどうかのポイントは1列目の「3」の守備で、このラインを簡単に突破させないことが重要だが、札幌の場合、都倉や内村に加え、ヘイスも1vs1の局面ではコンディションが上向いてきたこともあり、寄せる圧力やタイミングなどがかなり改善されてきている。ただ、問題点はヘイスや都倉個人ではなく、むしろ3人の連携した守備ができていないことである。
たとえば下の図のように、サイドの選手が渡った時にヘイスが寄せると、ヘイスが元々いたポジションが空くので、ここを内村がスライドして埋めることが必要だが、内村や都倉はオリジナルポジションにとどまっている。これでは北九州としては石神から寺岡に戻して、寺岡ががら空きのゾーンに縦パスを打ち込めば難なくボールを前進させることができる。ヘイス一人でどれだけ頑張っても、内村や都倉が連動しないと無駄追いになってしまう。
しかし後半開始からの北九州の攻勢は60分頃でひと段落してしまう。ボールを前進させることはできても、ゴール前で5バックで守る札幌の守備網を打開することができず、攻撃が行き詰まりボールを下げると、札幌がラインを押し上げてくるが、札幌の守備はこの状況(相手がボールを下げた時に全体が押し上げる)が最も前後の圧縮ができており機能する。
この時、押し上げてくる最終ラインの裏を狙ってシンプルに裏へのパスを狙ったりしてもよいのだが、北九州は札幌の圧力から逃げるように下がるので精いっぱいで、結果自陣まで撤退してからGKまで戻し、五分五分のロングボールを蹴るような、効率の悪いオフェンスになってしまう。そうしているうちに、60分から70分頃の時間帯は再び、撤退する北九州と攻める札幌という展開になる。
70分、札幌は内村→前寛之、ヘイス→ジュリーニョの2枚同時交代を行い、3-5-2へシフトする。同時に北九州は風間→加藤に交代。
札幌はFWを1枚削り中盤を増やしたことで、ジュリーニョの攻撃力を活かしつつ試合をクローズさせる方向へシフトさせる。守備のやり方としては、2トップを中央の封鎖に専念させ、北九州のサイドバックに誘導したらインサイドハーフの前寛之と宮澤が距離を詰めて、パスコースを限定させる。北九州のFWには3人のCB、サイドハーフには両ウイングバックと、マッチアップを明確化させ、最低8枚の守備ブロックを作ることで中央を固める。
北九州は守りを固める札幌に対し、小松、本山を続けて投入し中央をこじ開けようとする。この試合、北九州の攻撃で最も可能性を感じたものは、試合終盤になって繰り出してきた、星原をビルドアップから解放して右サイドの深い位置まで侵入させるパターンで、星原が石井との勝負を制することができれば枚数を確保した中央へのクロスや、石井を動かしてできたニアゾーンのスペースを小手川が使うことで札幌の左サイド深くを脅かす。ただこの攻撃も、星原のスピードや馬力に頼った単調さもあり、得点を奪うには至らず、1-0で札幌が勝利。
北海道コンサドーレ札幌 1-0 ギラヴァンツ北九州
・45+1分:宮澤裕樹
試合を経るごとにマセードの存在感が増しているが、四方田監督の起用法(リードしている状況で何度か交代させている)を見ると、守備はあまり評価されていないように思える。おそらく右ストッパーに進藤ではなく櫛引を使っているのも、そうしたバランス感を意識している面もあるだろうが、長崎戦、北九州戦と櫛引が思った以上に攻撃面で貢献できていない。この試合では前半に得点を奪うことができたが、守りを固めるチーム相手だと、進藤が再び重用されることになるかもしれない。
サイド攻撃を機能させるには、左の福森・石井の関係のように 櫛引か宮澤がマセードにボールを届ける役割を担う必要があるが 両者とも供給できるポジションを離れていて マセードは下がって貰いに行かないといけない |
そして右でマセードが張る形を作れないと、先に述べた、北九州のブロックを横に広げるということもできておらず、間で受けるヘイス、内村、都倉に縦パスを出してもカットされてしまう。
都倉がDF-MF間で受けようとするが ブロックを十分に拡げていないためカットされる |
ただ札幌の右サイドにおいては、右ストッパー櫛引のボールを運ぶ能力という根本的な問題もあり、このように4バック化していない、3バックで相手の2トップに対して1枚余る状態でもなかなかボールをマセードに届けることができておらず、そう考えると右サイドを活かすには、ボランチが右サイドに1枚流れて供給源となる形をつくることがベターだったかとも考えられる。
◆供給役不在の右サイドの更なる混乱
そして「マセードがワイドに張り、後方で支援要員を確保する」という構図が作れない札幌の右サイドは、時間が経過するにつれ、内村がブロックの外で受けたり、またはマセードが下がって櫛引が大外をオーバーラップする(櫛引とマセードが担うべき役割が入れ替わる)など、アドリブ、思いつきとしか考えられない動きを繰り返し、一向に機能する気配を見せない状況が続く。
バイタルエリア(赤円)で前を向かせたい内村が 低い位置まで下がってきて、櫛引がそれを追い越す謎の動き |
基本的に右で櫛引が供給役になれないため、消去法的にマセードが下がって福森の役割を担っているような状況になり、その近くに内村やヘイスが流れてきて絡もうとするが、人の動きもボールの動きも効果的なものがなく、それでいて狭いエリアで展開しようとするので、逆に北九州にとっては奪いどころとなっていた。
櫛引や内村がサイドに流れて攻撃参加するよりも、サイドの専門家であるマセードを仕掛けに専念させられる形を作るほうがよほど効果的で、マセードが供給・組み立て役になっている状況こそがこの試合の右サイド問題の本質だといえる。
櫛引の「マセードに預けて仕事は終わり」のような 攻撃面の貢献の低さが目立つ 内村やヘイスが助けようとするが、ブロックの間に誰もいなくなる |
また特に櫛引の動きで気になったのが、前半35分過ぎの局面で、マセードに渡るとひたすらオーバーラップをする動きが何度か繰り返し見られたが、下の写真、38:39もそうだが、わざわざ背後を通ってマセードを追い越すよりも空いている内側のスペースにインナーラップした方が効果的である。回り道して時間をかけて背後を通ることで、万が一マセードが奪われたらバックアップができず大ピンチになりかねない状況になっていた。おそらく足元の技術であまり貢献できないなりに考えた何とかしたいとの意図は感じられるが、効果的だとは言い難かった。
マセードの外側(黒破線)を通ろうとするが 空いているゾーンにシンプルに抜ければよい |
◆我慢比べの関係①
北九州はべた引きで守るが、その分ボールの回収地点は自陣深くであり、また札幌の最終ラインがボールを持っているときは強い圧力をかけることができないため、札幌としては焦らずにパスを回し、北九州のブロックを拡げたいところ。
しかし、ブロックを崩すために札幌がバランスを崩して前線に人数を送り込むんでも、先に説明したメカニズムで攻撃の横幅を作れないと攻撃が停滞する。そうして、ボールをどのように動かして良いかわからなくなった状況において、札幌の最終ラインが意図もなくロングボールを前線に蹴り込むと、これを跳ね返してカウンターに繋げる…という展開は北九州にとっては好都合である。
いわば、札幌は攻め急がずパスを回す、北九州は撤退して札幌のミスや安易なロングボールを待つ、という我慢比べのような関係で、主導権を握っているのはポゼッションをしている札幌だが、アウェイで勝ち点1でもいいという北九州とホームで勝ち点3が欲しい札幌という立場の違いに加え、札幌は普段からそうしたポゼッションを大事にするチームコンセプトが徹底されている、またはトレーニングで仕込まれているというチームではないので、この我慢比べに勝てない局面も散見される。
北九州が我慢比べに勝ったのは例えば20:29の局面、札幌は後ろで回していた増川が、前線の都倉を狙って浮き球のパスを送ると北九州の刀根が跳ね返し、右サイドハーフの小手川が拾う。小手川は追いかけてくる宮澤、ハーフウェーライン付近でチェックに出た深井、福森をかいくぐって右サイドの池元へパス。池元がドリブルで運び、右サイドからクロスを上げるとゴール前は2vs2、札幌は増川が釣りだされていて櫛引とマセードで対応せざるを得ない。原のヘディングは力がなくク・ソンユンがキャッチ。
浮き球のパスを跳ね返して小手川が拾う 宮澤がついていく |
小手川のドリブルの前に深井と福森が対応するが 右の池元にパスを通す |
池元もドリブルで運びクロスを上げる 増川が釣りだされていて櫛引とマセードで対応 |
◆我慢比べの関係②:回していれば勝手にバスが崩れる
ただ、我慢してパスを回していれば北九州の守備はどんどん人についてきて、せっかく組んでいる4-4のブロックを自ら崩してしまうので、札幌としては我慢せず、攻め急がずに後方でパスを回していればチャンスが訪れる展開となっている。
札幌が我慢比べに勝った例は、たとえば下に示した31:26の局面で、札幌が左サイドで下がってきた内村や、石井、福森などがパスを回した後、前線のヘイスに預け、ヘイスがキープしながら深井に渡した場面であるが、北九州は人に食いつく守備をしてくるので、このように複数選手がポジションを変えながらボールを回していれば北九州の守備もそれに食いついてきて、結果このようにブロックが跡形もない状況が発生している。
左サイドで福森、石井、内村、深井などで細かく繋いでヘイスに渡した後 北九州は人に着いてくるので肝心な部分ががら空きになっている |
他にも42:28の局面でも、内村が中央右寄りで持った時、既に北九州のブロックは都倉やマセードのポジショニングにつられて崩れているが、ここでマセードに預けた内村が前方にフリーランすると、このゾーンにいた新井はいとも簡単に内村に着いていくので、後方から侵入してきた宮澤の前にはスペースが広がっている。
内村がマセードに預けて走り出す |
ゾーンにいた新井が内村についていくのでスペースがら空き |
◆飛び道具の解放
前半30分頃からは、北九州が完全にゴール前にへばりつき、高い位置からチェックに出ていた福森が空きだすようになる。すると福森は左サイドの浅い位置から、ゴール前の都倉を狙うアーリークロスが繰り出せるようになるが、ペナルティエリア内まで撤退する北九州相手に、絶対の強さを持つ都倉をターゲットとした空中戦に持ち込むことは非常に効果的である。
特に都倉が福森の左サイドから見てファーサイドである右サイドに流れると、都倉が競る相手はSBの石神や、プレスバックしてきた川島になる。181センチとSBにしては大柄な石神はともかく、169センチの川島や、石神の隣のエリアを守る179センチのCB寺岡では特に都倉に対して分が悪く、福森からファーサイドを狙うボールが非常に北九州にとっては危険になる。
下がって守ると福森のケアが難しくなる アーリークロス一発で都倉が競り勝てるのでチャンスを作れる |
◆いい時間帯に先制
右サイドの機能不全は気になるも、ストロングポイントの左を活かしながら攻め続けた札幌が"我慢比べ"に勝ったのは前半のロスタイム。北九州のゴールキックからのルーズボールを前線で内村が収めると、残っていた北九州のDFラインの前を横切るように右サイドから左サイドへドリブルし、時間を作る。左サイドまで来たタイミングで後方から駆け上がってきた都倉へスルーパス、都倉の左足のグラウンダーパスは北九州のDFが足に当てるが、こぼれ球に走り込んだ宮澤がボレーシュートを叩き込み札幌が先制する。
2.後半の展開
◆攻勢に出る北九州
先制を許した北九州は後半開始から、ボールを運ぶとブロックを前方に押し上げ、ボール回収地点を前半よりも高くして攻勢に出る。札幌としては守備らしい守備の局面が殆どなかった前半とは打って変わって、FWの池元や原、2列目の小手川と川島の個人能力を前面に押し出したオフェンスを繰り出す北九州を受ける局面が発生する。
◆そもそも札幌の守備は堅いのか?
北九州が繰り出す攻撃は、5-2-3で守る札幌相手の非常にオーソドックスな、サイドを迂回してサイドバックを起点に外⇒外、または外⇒中(ボランチの周囲)に縦パスを打ち込むもの。札幌としては今シーズン毎試合のように見ている光景で、対処法は既に染み込んでいると思われるが、後半開始直後に札幌はこの外⇒外で何度もボールを前進させられている。
下の図のように、北九州の右サイドからの攻撃を例にみていくと、ファーストディフェンダーの都倉の圧力自体は悪くない。ただ都倉と2列目、また3列目との距離感が問題で、都倉がこのハーフウェーライン付近からプレッシングに行くなら最終ラインがペナルティエリア付近では低すぎるし、ボランチも北九州の中盤で受ける選手が活動する領域を狭めなくてはいけない。又は最終ラインを上げて守れないなら、FW陣のプレッシング開始位置をもう少し下げなくてはならない。基本的なこうした守備の設計がイマイチで、北九州がその気になれば簡単にバイタルエリア付近までボールを運べる状況になっていて、到底首位チームの守備組織とは思えない緩さである。
SBを起点に外⇒外、外⇒中で前進させる |
5-2-3の守備が機能するかどうかのポイントは1列目の「3」の守備で、このラインを簡単に突破させないことが重要だが、札幌の場合、都倉や内村に加え、ヘイスも1vs1の局面ではコンディションが上向いてきたこともあり、寄せる圧力やタイミングなどがかなり改善されてきている。ただ、問題点はヘイスや都倉個人ではなく、むしろ3人の連携した守備ができていないことである。
たとえば下の図のように、サイドの選手が渡った時にヘイスが寄せると、ヘイスが元々いたポジションが空くので、ここを内村がスライドして埋めることが必要だが、内村や都倉はオリジナルポジションにとどまっている。これでは北九州としては石神から寺岡に戻して、寺岡ががら空きのゾーンに縦パスを打ち込めば難なくボールを前進させることができる。ヘイス一人でどれだけ頑張っても、内村や都倉が連動しないと無駄追いになってしまう。
ヘイス個人の守備は改善されているが 3人のユニットとしての動きがないため 追いすぎると中央を通されてしまう |
◆引き寄せた流れを止めてしまうバックパス
しかし後半開始からの北九州の攻勢は60分頃でひと段落してしまう。ボールを前進させることはできても、ゴール前で5バックで守る札幌の守備網を打開することができず、攻撃が行き詰まりボールを下げると、札幌がラインを押し上げてくるが、札幌の守備はこの状況(相手がボールを下げた時に全体が押し上げる)が最も前後の圧縮ができており機能する。
この時、押し上げてくる最終ラインの裏を狙ってシンプルに裏へのパスを狙ったりしてもよいのだが、北九州は札幌の圧力から逃げるように下がるので精いっぱいで、結果自陣まで撤退してからGKまで戻し、五分五分のロングボールを蹴るような、効率の悪いオフェンスになってしまう。そうしているうちに、60分から70分頃の時間帯は再び、撤退する北九州と攻める札幌という展開になる。
ボールを下げると札幌のブロックが押し上げてコンパクトになる |
◆3-5-2へのシフトとゲームのクローズ
70分、札幌は内村→前寛之、ヘイス→ジュリーニョの2枚同時交代を行い、3-5-2へシフトする。同時に北九州は風間→加藤に交代。
70分~ |
札幌はFWを1枚削り中盤を増やしたことで、ジュリーニョの攻撃力を活かしつつ試合をクローズさせる方向へシフトさせる。守備のやり方としては、2トップを中央の封鎖に専念させ、北九州のサイドバックに誘導したらインサイドハーフの前寛之と宮澤が距離を詰めて、パスコースを限定させる。北九州のFWには3人のCB、サイドハーフには両ウイングバックと、マッチアップを明確化させ、最低8枚の守備ブロックを作ることで中央を固める。
インサイドハーフがサイドバックを担当するほか マッチアップを明確化させる |
北九州は守りを固める札幌に対し、小松、本山を続けて投入し中央をこじ開けようとする。この試合、北九州の攻撃で最も可能性を感じたものは、試合終盤になって繰り出してきた、星原をビルドアップから解放して右サイドの深い位置まで侵入させるパターンで、星原が石井との勝負を制することができれば枚数を確保した中央へのクロスや、石井を動かしてできたニアゾーンのスペースを小手川が使うことで札幌の左サイド深くを脅かす。ただこの攻撃も、星原のスピードや馬力に頼った単調さもあり、得点を奪うには至らず、1-0で札幌が勝利。
星原がサイドを駆け上げり深い位置で受ける |
北海道コンサドーレ札幌 1-0 ギラヴァンツ北九州
・45+1分:宮澤裕樹
【雑感】
試合を経るごとにマセードの存在感が増しているが、四方田監督の起用法(リードしている状況で何度か交代させている)を見ると、守備はあまり評価されていないように思える。おそらく右ストッパーに進藤ではなく櫛引を使っているのも、そうしたバランス感を意識している面もあるだろうが、長崎戦、北九州戦と櫛引が思った以上に攻撃面で貢献できていない。この試合では前半に得点を奪うことができたが、守りを固めるチーム相手だと、進藤が再び重用されることになるかもしれない。
守備が首位チームのものではないっちゅうのは完全同意(´・ω・`)
返信削除マセードにもっとパスまわれば面白いんだけど、どうしたもんかねー。この試合中ずっと、「友達いないマセードにパスしてあげてーっ!」って叫んでましたわwww