スターティングメンバー |
北海道コンサドーレ札幌のスタメンは3-4-1-2、GKク・ソンユン、DF櫛引、増川、福森、MFマセード、深井、宮澤、堀米、ヘイス、FW都倉、内村。サブメンバーはGK金山、DF上原、進藤、MF上里、河合、石井、ジュリーニョ。
水曜日開催の前節松本戦から中4日ということも考慮したのか、メンバーが4人入れ替わっている。GKはU23韓国代表から返ってきたク・ソンユン。ボランチに宮澤がフェイスガードを装備して先発に復帰し、堀米は左ウイングバックに回っている。ナチュラルなレフティーが適任だと考えるポジションなので、この選択を支持したい。右ストッパーには開幕から全試合スタメンを続けていた進藤がサブで櫛引を起用。進藤は前節、失点に繋がるミスを犯しているが、出ずっぱりであることの疲労も考慮したと考えられる。そしてトップ下はまさかのヘイス。事前情報はほとんどなかったが、ここ数試合で見せているボールタッチやキープ力、スペースへの嗅覚を考えると理解できない起用ではない。問題は守備。
V・ファーレン長崎のスタメンは3-1-4-2、GK大久保、DF李栄直、田上、趙民宇、MF中村、田中裕人、パク ヒョンジン、前田、梶川、FW佐藤、永井。サブメンバーはGK三浦、DF岸田、村上、MF木村、養父、宮本、北川。前節から中村、パク ヒョンジンがスタメンに復帰。開幕から全試合スタメンを続けていた高杉が欠場。
2016年シーズンの長崎は、リーグ最少失点の堅守を武器に6位と躍進した昨シーズンから継続して3-4-2-1のシステムを採用してきたが、第2節から11試合勝ちなしと苦しいシーズンが続いている。そこで第13節の山形戦から3センターの3-1-4-2を採用し、永井と佐藤の2トップを置く形にしてから2勝2分け1敗と持ち直しつつある。3-4-2-1と比較すると、単純に守備ブロックに割ける枚数は1枚減少するが、その分FWの選手を1枚増やすことができ、攻守のバランスが改善されている。
長崎の攻撃は、スピードのある永井と9番タイプの佐藤のコンビを軸に縦に早い攻撃を狙っている。守備時はまず3センターで中央を固め、ウイングバックが下がった5-3-2でサイドに誘導してから、全体をボールサイドにスライドさせて守る(後述)。
J2では岡山も3-4-2-1から3-5-2(3-1-4-2)に転換しており、一時期の3-4-2-1の大流行の流れは一旦落ち着いてきたように感じられる。
札幌がボールを保持している時の長崎の守備陣形は、ウイングバックが最終ラインに下がった5-3-2でセットし、3センターで中央を固め、FWの永井と佐藤は縦関係、つまり札幌の最終ラインに対しては佐藤が一人で対応し、永井はボランチを見る。
札幌はこの試合もやはり福森からの展開をまず狙っていくが、これには長崎は右インサイドハーフの前田が出て行って対応し、福森の得意とする左足からの展開を自由にさせないのとともに、前方のウイングバック堀米には5バック化しているサイドバックの中村が対応する。
これにより札幌のサイドの選手に対してのマッチアップをはっきりさせると、札幌としてはボールを下げたくなるところだが、このとき長崎は永井がボールサイドのボランチ(図では宮澤)をケアすることで、ボランチ経由でのサイドチェンジを阻害し、手詰まりになってサイドを変えようとする札幌の横パスを引っ掛けてからのカウンターを狙っており、実際に何度か横パスが引っかかりピンチを招いている。
そのため札幌は最終ラインの増川までボールを戻し、大きく迂回してのサイドチェンジを狙うが、この時福森→(深井)→増川→櫛引と渡ったころには、長崎のスライドが間に合っていて、櫛引に渡った所でFWの佐藤や永井のプレッシングを受けると、足元に自信のない櫛引は簡単にボールを放棄(前に蹴りだす)してしまい、ビルドアップがそこで終わってしまうという状況に陥っている。
そして上記の変則4バック化したビルドアップにおいて、左は福森と、その前方に堀米がおり最低2枚が確保されている。ここにボランチの宮澤やトップ下のジュリーニョ(この日はヘイス)が絡むことで、福森に対して複数のパスコースを確保し、福森のパサーとしての能力を活かした攻撃が札幌の強みである。
一方、右サイドはマセードが基本的に一人で担当していることが多く、福森が持った時に前に堀米がいるが、マセードは前に誰もいない。そのためパスを出せる味方が、相手選手を背負った中央のトップ下やボランチの選手しかいないという状態が頻発する。
この状況でマセードが囲まれると、独力で突破するか、斜め後方の増川やボランチへのパスで逃れるしか選択肢がない。この斜め後方のパスは選択肢が他にない状態で蹴られることが多いので、長崎としては狙いどころになる。
左サイドからボランチ経由でのサイドチェンジを阻害された札幌だが、ここでトップ下のヘイスがボールサイドに流れてくる。長崎は福森に対して前田が出ると、中盤は2枚になっており、この脇のスペースにヘイスが流れてきて受け、チェックに来た田中を背負って右足で反対サイドのマセードにサイドチェンジを通す。ヘイスとしては効き足が右なので、逆サイドでこれをやれ(=左足でサイドチェンジ)と言われるとかなり精度が低下すると思われるが、札幌が左の福森から攻撃を組み立てる傾向が強いことともマッチして、この左→右の展開がスムーズで、サイドで人数をかけて封鎖してくる長崎から、最終ラインを経由せずにボールを反対サイドへ逃がすことに何度か成功していた。
ただ、ここから理想的なのは手薄な右サイドで受けたマセードが仕掛けてクロスを上げることだが、長崎はサイドチェンジされた後のスライドが早く、なかなかマセードが仕掛けられない局面も見られた。それでもサイドチェンジを繰り返して長崎のブロックをスライドさせることで、体力を消耗させることができるので、中期的に効いてくるプレーである。
札幌の3枚でのプレッシングに対し、長崎はアンカーの田中裕人を最終ラインに落として4バック化し、札幌の守備の基準点を曖昧にしたうえで、素早くサイドに展開してボールを前進させようとする。下の図のように札幌のダブルボランチの脇を起点に、インサイドハーフの前田や梶川、FWの永井が受けて、同一サイドのFWやウイングバックを使ってワンタッチ、ツータッチでボールを前進させる。基本的に右利きの選手が最終ライン~中盤に多いこともあり、右サイドからの組み立てが多いように思える。
詳しくは次の項で説明するが、前半の札幌は、1列目の守備において選手間の距離やパスコースを切るポジショニング、連動した動きの面で甘く、この試合でも長崎は札幌の1列目-ボランチ間のゾーンは自由にボールを出し入れできるものだと認識しており、最終ラインからインサイドハーフへの縦パスによって簡単にボールを運ぶことができていた。
札幌のここ2試合…第16節千葉戦、第17節松本戦で露見された守備の課題がいくつかあるが、主要なものは
①1列目の守備の基準を曖昧にされるなどして機能不全に陥り、縦パスなどで突破される
②1列目を突破されるとプレスバックがなく、ラインも低いため間延びした5-2ブロックで守る
③手薄なボランチ脇で基点を作られ、人数が足りないファーサイドで仕留められる
という2項目であった。それぞれについてどう修正されているかを以下にに見ていく。
この試合の札幌は、千葉戦、松本戦よりもプレッシングのラインを下げており、長崎がハーフウェーラインを越えたあたりからFWが守備を開始している。これによりFWの守備開始位置が高すぎ、DFラインが低すぎ、といった前後の間延びは改善されている。ただ守備をする選手はジュリーニョがヘイスに変わっただけで、相変わらず都倉-内村-ヘイスの3人の連動性や、ボールホルダーに対するファーストディフェンスが悪いことで中央のパスコースを封鎖しきれていない局面も何度か見られた。
この試合に限った事ではないが、札幌の場合、中央をトップ下の選手が担当することが多いため、やや下がったトップ下の位置から最前列まで移動したうえで守備をしなくてはならないため、ここでの対応(最前列に出て両端のFW2人とディアゴナーレを組む)が遅れがちで、結果ど真ん中を縦パスで通されることが多くなっている。
また守備開始のラインを下げたことから、長崎の最終ラインに対して圧力が弱まっている。長崎の先制点も、最終ライン左サイドの趙民宇がフリーでボールを受け、左サイドで札幌最終ラインの裏を狙っていたパク ヒョンジンに通されたところから始まっており、パク ヒョンジンが競ったこぼれ球をペナルティエリア角付近で拾った梶川がクロスを上げ、ファーサイドで永井が堀米に競り勝ちヘディングを決めて長崎が先制している。
更に、長崎は守→攻のトランジション時には、なるべく早くFWに楔のパスを通す、ドリブルで持ち上がるなどでハーフウェーライン付近までボールを持ち上がることで、札幌の"トリデンテ"がプレスバックする機会をなるべく与えないということができていた。
この試合で一番驚いたのが、札幌が1列目の守備を突破されて5-2ブロックになり、人数が足りなくなる問題を、主にトップ下のヘイスがプレスバックすることで5-3の形になり、スペースを埋める対応が頻繁に見られたこと。これにより中盤は横幅に4人を確保とはいかなくとも、3人を確保できるので、千葉戦や松本戦のようにサイドから中央に折り返されたときにがら空き…といった状況は発生しにくくなる。前節の松本戦で、途中からトップ下に投入された上原が時折中盤に加わる動きを見せていたのは、単にフレッシュな選手が手薄なゾーンを助けるという類のアクションなのかとも考えていたが、この日のヘイスの動きをみると、四方田監督の頭の中では、このトップ下を下げて枚数を確保するやり方は以前から頭の中にあったのだと思われる。
ただヘイスのこの役割は、「FWとボランチの兼任」のようなもので、状況に応じて最前線での守備と、プレスバックして中盤に加わる役割を使い分けなくてはならず、ものすごく疲れるはずで、ヘイスが比較的早い時間帯で交代したのもそれだけ負担が大きかったことで、今後もこのやり方が継続できるかは疑問に思う。
①②に共通して言える札幌の守備の問題点は、前線3人の攻撃時の動きを流動的にしているため、攻→守へのトランジション時に3選手のポジションと役割が状況によって変化する(=誰がプレスバックする、守備に加わるか決まっていない)ことである。そのため各選手個人の守備能力と判断力によってファーストディフェンスの強さやプレスバックでスペースを埋めるプレーの質にばらつきが生じることになる。一番多いパターンはトップ下の選手が前に出て3トップの頂点でファーストディフェンスを開始するものだが、ここ最近の試合でトップ下に入ることが多いジュリーニョは、ファーストディフェンスの圧力と運動量でややばらつきがあり、時折簡単に中央からの突破を許している。一方、札幌の攻撃陣の中で最良のディフェンダーは、ボディコンタクトに強く利他的なメンタリティも持ち合わせる都倉だと考える。
序盤、②ができていない時間帯に大外のケアがされない場面が何度か見られた。まず開始早々4分過ぎ、、右サイドで詰まったマセードが中央に出したパスがカットされて長崎の右サイドに運ばれた局面である。4:09の写真を見ても、長崎が運ぶ数秒の間に札幌の前3選手(トリデンテ)はプレスバックしないので、手前側、ボランチの深井の隣が大きく空いている。
ここから4:14頃、長崎がゴール前にクロスを上げると、DFラインがスライドして対応している札幌は増川、櫛引、マセードで3バックを構築するが、ペナルティエリア手前にいる長崎の13番、パクのポジションをケアする選手が誰もいない。松本戦では似たような局面で増川のクリアが小さくなったところをミドルシュートで失点している。
札幌の同点ゴールは25分、長崎が札幌の最前線の守備を突破し、ボールを運ぶが、一度バックパスで最終ラインに戻したところで、4バック化している長崎のCB田上に、一度プレスバックしてスペースを埋めていたヘイスが前に出てプレッシャーをかけると、田上から中央に絞り、深井の脇にポジショニングしていたインサイドハーフの前田に縦パス。ヘイスがプレッシャーをかけたことでこのパスコースを読み切っていた福森が迎撃してインターセプトすると、ヘイスのポストプレーから前を向いた深井に渡り、深井が後退するしかない長崎のDFの間を通すスルーパスを都倉に通すと、都倉がタイミングをずらしたシュートが決まって同点に追いつく。
この一連の流れは、最前線が易々と突破されてボールを運ばれることを写真で説明した、先の25:10からの連続したプレーである。写真で示したように、札幌は簡単に1列目の守備を突破されて長崎は札幌のボランチ脇までボールを運ぶが、この時長崎は両ワイドのウイングバック、2トップの永井と佐藤、ボールを運んだインサイドハーフの梶川、もう一人のインサイドハーフの前田が攻撃参加していて、後方に3バック+アンカーの田中裕人の4人だけが残っているが、前田も梶川も上がっていった状態で最終ラインが押し上げられていないため、中盤ががら空きになっている。
この状況で、田上の中央を狙ったチャレンジ気味のパスを出してカットされたことは、結果的に最悪の選択肢となってしまう。プレッシャーを受けていたとしてもここは絶対に奪われてはいけない場面で、再びサイドを循環させてボールを運ぶか、札幌DFラインの裏に蹴るなどの対応をしなくてはならない。
ただ、長崎の中盤の選手が攻撃参加して中盤ががら空きになっていたことや、田上が安易に縦パスを狙ったことは、直前の札幌の緩い守備対応を考えると理解できなくはない。立ち上がりから手堅く慎重にプレーしていた長崎だが、直前のプレーで簡単にボールを運べたので、最終ラインに戻してからの二次攻撃においても楽勝だろう、といった感覚でCBは縦を狙い、中盤の選手も前に残っていたところ、急に守備のスイッチを入れた札幌の罠にかかってしまった、といった印象を受ける展開だった。
32分、長崎は右サイドから李栄直の楔のパスを、降りてきた佐藤がヒールで梶川に流し、梶川から右ウイングバックの中村に展開、中村がクロス。この長崎の素早い展開によって、札幌の1列目の守備は完全に置き去りにされ、また福森が佐藤の迎撃を試みて失敗しているので、最終ラインは4枚になっている。中村のクロスは増川がヘディングで跳ね返すと、こぼれ球を長崎の前田が回収するが、プレスバックしていたヘイスが前田に足を出してボールを奪う。
ヘイスから都倉に渡ると、都倉は長崎のパク ヒョンジンに後ろから倒されてファウルを受けるが、ボールがヘイスにこぼれると主審はアドバンテージをとり、拾ったヘイスがドリブルで運ぶ。このとき、長崎は都倉の所で人数をかけて奪おうとしていたため、後方には右ストッパーの李栄直と、CBの田上しか残っていない。
ヘイスは最後尾から上がってきたマセードにペナルティエリア内、絶好のタイミングでパスを出すと、GKの大久保が出てコースを消したのを見てマセードは中央のヘイスにリターン、ヘイスが難なく流し込む。長崎としては、都倉に周囲の選手3人が全員当たってしまい、チャレンジ&カバーの関係を作れなかったがことが致命的であったが、潰されない都倉の強さと、長い距離を運べるヘイス、走れるマセードといった強烈な個の能力が発揮された形で札幌が逆転に成功する。
後半立ち上がりは、長崎は前半見せていたような素早いパスワークでのビルドアップは封印し、ウイングバックや札幌最終ラインの裏を狙ってシンプルにロングボールを蹴る展開。リードしている札幌は、自陣に全選手を撤退させた5-2-3を組み、中央のスペースを狭めて守る。特に札幌としては、ヘイスがしっかり最前列中央で長崎の中央の2枚(CB田上、アンカー田中裕人)に守備をしてくれるのでサイドの選手に都倉と内村、間を狙うインサイドハーフ梶川と前田にはボランチが出て潰すという役割が明確になり、長崎に思うようにボールを前に運ばせない狙いがほぼ遂行できていた。
この試合の札幌で攻撃の組立役となっていたのがトップ下のヘイス。基本ポジションはFWとボランチの中間で、これがここ数試合のジュリーニョだと、最前線でターゲットとしての役割も一部担っていたり、サイドで受けてブロックの外から仕掛けたりと、フリーダムに動き回ることで相手の脅威になる反面、やや動きすぎて、いてほしい時に中央のエリアにいてくれないという状況にもなっていたが、ヘイスが中盤の選手と近い距離感を保ち、ボールを収めていたことで中盤の選手が攻撃参加をする時間を作ることができる。
下の写真、49:02の状況を見てもそうだが、中央のエリアで待つことで都倉や内村、堀米と近い位置におり、またここで長崎の選手に囲まれるが、体を使ってキープすることでパスを出した宮澤が後方から上がる時間を作ることができる。
札幌は60分過ぎから前線の運動量が落ち、5-2-3で守備をセットできていても、中央からサイドに振られるとサイドのFWの選手がついていけず、簡単に長崎にボールを運ばれたり、攻撃終了時に戻ってくるのが遅れたりといった状況になってくる。また特に疲れが顕著だったヘイスの周り…FWとボランチの間を長崎に起点にされ始める。
前線の3枚の運動量が落ち、距離が開いて連動した守備ができなくなると、札幌のFW-MF間は完全に支配され、長崎が後方でボールを回す時間が増える(60-75分は長崎がポゼッションで大きく上回っている)。
74分、札幌はヘイス→石井に交代。石井が左に入り、堀米が中央にシフトしての3-5-2、3センターとなる。続けて77分にジュリーニョ→内村に交代。同時間帯に長崎はパク ヒョンジン→村上に交代している。札幌は前線を削って中盤3枚にしたことで、前からの圧力を失う代わりに中盤のスペースを埋めやすくする。札幌の3-5-2採用は久々であったが、この試合の15分間を見る限り、以前よりも守備の練度が増していて、特にサイドでウイングバックとインサイドハーフのチャレンジ&カバーの関係が適切に作れており、サイドではよく守れていた。サイドを封鎖し、長崎が苦し紛れにクロスを上げても、中央に増川を中心とする3選手が控えていることから、得点の香りはあまりしなかった。
その後、長崎は84分に前田→養父、札幌は87分にマセード→進藤で後方を固める。札幌がこのまま逃げ切り、2-1で勝利。
北海道コンサドーレ札幌 2-1 V・ファーレン長崎
・19分:永井 龍
・26分:都倉 賢
・33分:ヘイス
前半は緩かった。しかしその緩さが長崎にとっての罠になり、2点を奪って逆転してから、60分頃までは割と手堅い試合運びができていた。
ヘイスはやはりまだ運動量が少ない。ただあまり動かないことが守備の安定に繋がった。ジュリーニョのトップ下起用もまさにこの点が問題で、チームが勝ち続けるにつれジュリーニョがどんどんフリーダムな動きをするようになっていったが、これにより守備時のポジショニングやバランスが悪くなり、素早く前に運んでくるチーム相手だと簡単に突破されてしまう。
0.長崎のシステム(3-1-4-2、3-5-2)について
2016年シーズンの長崎は、リーグ最少失点の堅守を武器に6位と躍進した昨シーズンから継続して3-4-2-1のシステムを採用してきたが、第2節から11試合勝ちなしと苦しいシーズンが続いている。そこで第13節の山形戦から3センターの3-1-4-2を採用し、永井と佐藤の2トップを置く形にしてから2勝2分け1敗と持ち直しつつある。3-4-2-1と比較すると、単純に守備ブロックに割ける枚数は1枚減少するが、その分FWの選手を1枚増やすことができ、攻守のバランスが改善されている。
長崎の攻撃は、スピードのある永井と9番タイプの佐藤のコンビを軸に縦に早い攻撃を狙っている。守備時はまず3センターで中央を固め、ウイングバックが下がった5-3-2でサイドに誘導してから、全体をボールサイドにスライドさせて守る(後述)。
J2では岡山も3-4-2-1から3-5-2(3-1-4-2)に転換しており、一時期の3-4-2-1の大流行の流れは一旦落ち着いてきたように感じられる。
1.前半
1.1 左の強みを活かす変則4バック(気味)ビルドアップ
今シーズンの札幌のビルドアップのオプションとして、左ストッパーの福森がサイドに開き、右ストッパーの進藤が中央に残った、左右非対称の4バックのような形で行うやり方があり、この試合も序盤から何度かこれに近い形を見せている。通常の3バックでのビルドアップは両端のCBがサイドに大きく開くことで、2トップの相手からのプレッシングを回避するもので、これは3トップで前からプレッシングを仕掛けてくる戦術が相手だと分が悪い(前節の松本山雅FC戦もこのパターン)。
そのため3トップのチームに対しては、更に1枚を最終ラインに確保して4バック化し、数的優位を確保するというやり方が一般的である。ただ札幌のこの変則4バック気味の形は、3トップのチーム相手だとあまり採用されていない。どちらかというと、3トップの相手に対する変則4バックというより、1トップ気味で守備をしてくるチームに対する2バック化、と言えるかもしれない。
長崎の2トップは縦関係なので、後ろに3枚必要ない →福森を外に出して、変則4バック気味に変形してビルドアップ インサイドハーフが両サイドのストッパーを担当 FWの永井はボランチをケアしてサイドチェンジを阻害 |
1.2 長崎のハードワーク:寄せてくる5-3の壁
札幌がボールを保持している時の長崎の守備陣形は、ウイングバックが最終ラインに下がった5-3-2でセットし、3センターで中央を固め、FWの永井と佐藤は縦関係、つまり札幌の最終ラインに対しては佐藤が一人で対応し、永井はボランチを見る。
札幌はこの試合もやはり福森からの展開をまず狙っていくが、これには長崎は右インサイドハーフの前田が出て行って対応し、福森の得意とする左足からの展開を自由にさせないのとともに、前方のウイングバック堀米には5バック化しているサイドバックの中村が対応する。
これにより札幌のサイドの選手に対してのマッチアップをはっきりさせると、札幌としてはボールを下げたくなるところだが、このとき長崎は永井がボールサイドのボランチ(図では宮澤)をケアすることで、ボランチ経由でのサイドチェンジを阻害し、手詰まりになってサイドを変えようとする札幌の横パスを引っ掛けてからのカウンターを狙っており、実際に何度か横パスが引っかかりピンチを招いている。
長崎は全体をボールサイドに寄せて守る 札幌は逆サイドに展開したいが、長崎のFWがボランチをケアしサイドチェンジさせない 最終ライン経由のU字パスでサイドを変えると、スライドが間に合い 櫛引の所でプレッシャーを受けてしまう |
そのため札幌は最終ラインの増川までボールを戻し、大きく迂回してのサイドチェンジを狙うが、この時福森→(深井)→増川→櫛引と渡ったころには、長崎のスライドが間に合っていて、櫛引に渡った所でFWの佐藤や永井のプレッシングを受けると、足元に自信のない櫛引は簡単にボールを放棄(前に蹴りだす)してしまい、ビルドアップがそこで終わってしまうという状況に陥っている。
3センターが距離を保ちつつボールホルダーの福森に寄せてくる サイドチェンジするには一度最終ラインまで戻さざるを得ない 櫛引に渡ったところで佐藤(18番)が櫛引にプレッシング |
FWが縦関係になり、それぞれCBとボランチを見る 甘い横パスをカットしてカウンターを狙う |
1.3 右で孤立させられるマセード
そして上記の変則4バック化したビルドアップにおいて、左は福森と、その前方に堀米がおり最低2枚が確保されている。ここにボランチの宮澤やトップ下のジュリーニョ(この日はヘイス)が絡むことで、福森に対して複数のパスコースを確保し、福森のパサーとしての能力を活かした攻撃が札幌の強みである。
一方、右サイドはマセードが基本的に一人で担当していることが多く、福森が持った時に前に堀米がいるが、マセードは前に誰もいない。そのためパスを出せる味方が、相手選手を背負った中央のトップ下やボランチの選手しかいないという状態が頻発する。
この状況でマセードが囲まれると、独力で突破するか、斜め後方の増川やボランチへのパスで逃れるしか選択肢がない。この斜め後方のパスは選択肢が他にない状態で蹴られることが多いので、長崎としては狙いどころになる。
右はマセード1人なので個人技に頼らないとボールを運べない 運べないときにバックパスや横パスをするところを 長崎の選手が狙っている |
1.4 攻撃を循環させるヘイスのサイドチェンジ
左サイドからボランチ経由でのサイドチェンジを阻害された札幌だが、ここでトップ下のヘイスがボールサイドに流れてくる。長崎は福森に対して前田が出ると、中盤は2枚になっており、この脇のスペースにヘイスが流れてきて受け、チェックに来た田中を背負って右足で反対サイドのマセードにサイドチェンジを通す。ヘイスとしては効き足が右なので、逆サイドでこれをやれ(=左足でサイドチェンジ)と言われるとかなり精度が低下すると思われるが、札幌が左の福森から攻撃を組み立てる傾向が強いことともマッチして、この左→右の展開がスムーズで、サイドで人数をかけて封鎖してくる長崎から、最終ラインを経由せずにボールを反対サイドへ逃がすことに何度か成功していた。
ただ、ここから理想的なのは手薄な右サイドで受けたマセードが仕掛けてクロスを上げることだが、長崎はサイドチェンジされた後のスライドが早く、なかなかマセードが仕掛けられない局面も見られた。それでもサイドチェンジを繰り返して長崎のブロックをスライドさせることで、体力を消耗させることができるので、中期的に効いてくるプレーである。
1.5 長崎のボールの運び方
札幌の3枚でのプレッシングに対し、長崎はアンカーの田中裕人を最終ラインに落として4バック化し、札幌の守備の基準点を曖昧にしたうえで、素早くサイドに展開してボールを前進させようとする。下の図のように札幌のダブルボランチの脇を起点に、インサイドハーフの前田や梶川、FWの永井が受けて、同一サイドのFWやウイングバックを使ってワンタッチ、ツータッチでボールを前進させる。基本的に右利きの選手が最終ライン~中盤に多いこともあり、右サイドからの組み立てが多いように思える。
サイドから運びボランチ脇を起点にする CBを食いつかせて裏に抜ける動き |
詳しくは次の項で説明するが、前半の札幌は、1列目の守備において選手間の距離やパスコースを切るポジショニング、連動した動きの面で甘く、この試合でも長崎は札幌の1列目-ボランチ間のゾーンは自由にボールを出し入れできるものだと認識しており、最終ラインからインサイドハーフへの縦パスによって簡単にボールを運ぶことができていた。
最前線に3枚いるが、守備は機能しておらずほぼフリーパス状態 インサイドハーフに当てたらサイドのスペースに逃せば安全にキープできる |
1.6 宿題に手を付ける時間なし
札幌のここ2試合…第16節千葉戦、第17節松本戦で露見された守備の課題がいくつかあるが、主要なものは
①1列目の守備の基準を曖昧にされるなどして機能不全に陥り、縦パスなどで突破される
②1列目を突破されるとプレスバックがなく、ラインも低いため間延びした5-2ブロックで守る
③手薄なボランチ脇で基点を作られ、人数が足りないファーサイドで仕留められる
という2項目であった。それぞれについてどう修正されているかを以下にに見ていく。
1)1列目守備の機能性…△:コンパクトさと引き換えに相手の最終ラインを自由にさせる
この試合の札幌は、千葉戦、松本戦よりもプレッシングのラインを下げており、長崎がハーフウェーラインを越えたあたりからFWが守備を開始している。これによりFWの守備開始位置が高すぎ、DFラインが低すぎ、といった前後の間延びは改善されている。ただ守備をする選手はジュリーニョがヘイスに変わっただけで、相変わらず都倉-内村-ヘイスの3人の連動性や、ボールホルダーに対するファーストディフェンスが悪いことで中央のパスコースを封鎖しきれていない局面も何度か見られた。
この試合に限った事ではないが、札幌の場合、中央をトップ下の選手が担当することが多いため、やや下がったトップ下の位置から最前列まで移動したうえで守備をしなくてはならないため、ここでの対応(最前列に出て両端のFW2人とディアゴナーレを組む)が遅れがちで、結果ど真ん中を縦パスで通されることが多くなっている。
また守備開始のラインを下げたことから、長崎の最終ラインに対して圧力が弱まっている。長崎の先制点も、最終ライン左サイドの趙民宇がフリーでボールを受け、左サイドで札幌最終ラインの裏を狙っていたパク ヒョンジンに通されたところから始まっており、パク ヒョンジンが競ったこぼれ球をペナルティエリア角付近で拾った梶川がクロスを上げ、ファーサイドで永井が堀米に競り勝ちヘディングを決めて長崎が先制している。
更に、長崎は守→攻のトランジション時には、なるべく早くFWに楔のパスを通す、ドリブルで持ち上がるなどでハーフウェーライン付近までボールを持ち上がることで、札幌の"トリデンテ"がプレスバックする機会をなるべく与えないということができていた。
トップ下からヘイスが最前線に出て守備をするが
コースを切るのが不十分で縦パスを許す
コースを切るのが不十分で縦パスを許す
2)札幌の1列目によるプレスバック…○:解決策はまさかのヘイス
この試合で一番驚いたのが、札幌が1列目の守備を突破されて5-2ブロックになり、人数が足りなくなる問題を、主にトップ下のヘイスがプレスバックすることで5-3の形になり、スペースを埋める対応が頻繁に見られたこと。これにより中盤は横幅に4人を確保とはいかなくとも、3人を確保できるので、千葉戦や松本戦のようにサイドから中央に折り返されたときにがら空き…といった状況は発生しにくくなる。前節の松本戦で、途中からトップ下に投入された上原が時折中盤に加わる動きを見せていたのは、単にフレッシュな選手が手薄なゾーンを助けるという類のアクションなのかとも考えていたが、この日のヘイスの動きをみると、四方田監督の頭の中では、このトップ下を下げて枚数を確保するやり方は以前から頭の中にあったのだと思われる。
ボランチ3枚がサイドにスライドすると中央が空くが ヘイスが戻って埋めることで「5-3」を確保 |
ただヘイスのこの役割は、「FWとボランチの兼任」のようなもので、状況に応じて最前線での守備と、プレスバックして中盤に加わる役割を使い分けなくてはならず、ものすごく疲れるはずで、ヘイスが比較的早い時間帯で交代したのもそれだけ負担が大きかったことで、今後もこのやり方が継続できるかは疑問に思う。
11:24 長崎にボールを運ばれたときにヘイスが中盤の守備に加わる できれば赤円まで下がってほしいが、守備に加わる意図は伝わる |
56:15 札幌は攻→守のトランジションのため前線3人の守備がない 5-2で対応するがヘイスが戻り赤円のスペースを埋めて5-3を作れる |
①②に共通して言える札幌の守備の問題点は、前線3人の攻撃時の動きを流動的にしているため、攻→守へのトランジション時に3選手のポジションと役割が状況によって変化する(=誰がプレスバックする、守備に加わるか決まっていない)ことである。そのため各選手個人の守備能力と判断力によってファーストディフェンスの強さやプレスバックでスペースを埋めるプレーの質にばらつきが生じることになる。一番多いパターンはトップ下の選手が前に出て3トップの頂点でファーストディフェンスを開始するものだが、ここ最近の試合でトップ下に入ることが多いジュリーニョは、ファーストディフェンスの圧力と運動量でややばらつきがあり、時折簡単に中央からの突破を許している。一方、札幌の攻撃陣の中で最良のディフェンダーは、ボディコンタクトに強く利他的なメンタリティも持ち合わせる都倉だと考える。
3)5-2ブロックファーサイドのケア…②ができないと当然×
序盤、②ができていない時間帯に大外のケアがされない場面が何度か見られた。まず開始早々4分過ぎ、、右サイドで詰まったマセードが中央に出したパスがカットされて長崎の右サイドに運ばれた局面である。4:09の写真を見ても、長崎が運ぶ数秒の間に札幌の前3選手(トリデンテ)はプレスバックしないので、手前側、ボランチの深井の隣が大きく空いている。
長崎の選手が運ぶ数秒の間にFWはプレスバックせず ジョギング程度の動き |
ここから4:14頃、長崎がゴール前にクロスを上げると、DFラインがスライドして対応している札幌は増川、櫛引、マセードで3バックを構築するが、ペナルティエリア手前にいる長崎の13番、パクのポジションをケアする選手が誰もいない。松本戦では似たような局面で増川のクリアが小さくなったところをミドルシュートで失点している。
長崎の13番・パクがフリー 松本戦の3点目の状況と酷似している |
1.7 札幌の同点ゴール:緩さが罠になったのか
札幌の同点ゴールは25分、長崎が札幌の最前線の守備を突破し、ボールを運ぶが、一度バックパスで最終ラインに戻したところで、4バック化している長崎のCB田上に、一度プレスバックしてスペースを埋めていたヘイスが前に出てプレッシャーをかけると、田上から中央に絞り、深井の脇にポジショニングしていたインサイドハーフの前田に縦パス。ヘイスがプレッシャーをかけたことでこのパスコースを読み切っていた福森が迎撃してインターセプトすると、ヘイスのポストプレーから前を向いた深井に渡り、深井が後退するしかない長崎のDFの間を通すスルーパスを都倉に通すと、都倉がタイミングをずらしたシュートが決まって同点に追いつく。
この一連の流れは、最前線が易々と突破されてボールを運ばれることを写真で説明した、先の25:10からの連続したプレーである。写真で示したように、札幌は簡単に1列目の守備を突破されて長崎は札幌のボランチ脇までボールを運ぶが、この時長崎は両ワイドのウイングバック、2トップの永井と佐藤、ボールを運んだインサイドハーフの梶川、もう一人のインサイドハーフの前田が攻撃参加していて、後方に3バック+アンカーの田中裕人の4人だけが残っているが、前田も梶川も上がっていった状態で最終ラインが押し上げられていないため、中盤ががら空きになっている。
この状況で、田上の中央を狙ったチャレンジ気味のパスを出してカットされたことは、結果的に最悪の選択肢となってしまう。プレッシャーを受けていたとしてもここは絶対に奪われてはいけない場面で、再びサイドを循環させてボールを運ぶか、札幌DFラインの裏に蹴るなどの対応をしなくてはならない。
ただ、長崎の中盤の選手が攻撃参加して中盤ががら空きになっていたことや、田上が安易に縦パスを狙ったことは、直前の札幌の緩い守備対応を考えると理解できなくはない。立ち上がりから手堅く慎重にプレーしていた長崎だが、直前のプレーで簡単にボールを運べたので、最終ラインに戻してからの二次攻撃においても楽勝だろう、といった感覚でCBは縦を狙い、中盤の選手も前に残っていたところ、急に守備のスイッチを入れた札幌の罠にかかってしまった、といった印象を受ける展開だった。
梶川がボランチ脇まで運んだところで一度最終ラインに戻す プレスバックしていたヘイスが田上にプレッシング 田上の縦パスを福森が迎撃してインターセプト、カウンターへ |
1.8 ヘイスの逆転ゴール:「4」を上回る「3」の威力
32分、長崎は右サイドから李栄直の楔のパスを、降りてきた佐藤がヒールで梶川に流し、梶川から右ウイングバックの中村に展開、中村がクロス。この長崎の素早い展開によって、札幌の1列目の守備は完全に置き去りにされ、また福森が佐藤の迎撃を試みて失敗しているので、最終ラインは4枚になっている。中村のクロスは増川がヘディングで跳ね返すと、こぼれ球を長崎の前田が回収するが、プレスバックしていたヘイスが前田に足を出してボールを奪う。
佐藤のポストプレーのリターンを受けた梶川から右サイドへ 素早い展開で札幌の3トップは置き去りにされる |
プレスバックが間に合ったヘイスがボールを奪う |
ヘイスから都倉に渡ると、都倉は長崎のパク ヒョンジンに後ろから倒されてファウルを受けるが、ボールがヘイスにこぼれると主審はアドバンテージをとり、拾ったヘイスがドリブルで運ぶ。このとき、長崎は都倉の所で人数をかけて奪おうとしていたため、後方には右ストッパーの李栄直と、CBの田上しか残っていない。
ヘイスは最後尾から上がってきたマセードにペナルティエリア内、絶好のタイミングでパスを出すと、GKの大久保が出てコースを消したのを見てマセードは中央のヘイスにリターン、ヘイスが難なく流し込む。長崎としては、都倉に周囲の選手3人が全員当たってしまい、チャレンジ&カバーの関係を作れなかったがことが致命的であったが、潰されない都倉の強さと、長い距離を運べるヘイス、走れるマセードといった強烈な個の能力が発揮された形で札幌が逆転に成功する。
アドバンテージ判定により都倉を潰しきれなかった 全員都倉に行ってしまったのでヘイスの前にスペース |
2.後半
2.1 立ち上がりの展開
後半立ち上がりは、長崎は前半見せていたような素早いパスワークでのビルドアップは封印し、ウイングバックや札幌最終ラインの裏を狙ってシンプルにロングボールを蹴る展開。リードしている札幌は、自陣に全選手を撤退させた5-2-3を組み、中央のスペースを狭めて守る。特に札幌としては、ヘイスがしっかり最前列中央で長崎の中央の2枚(CB田上、アンカー田中裕人)に守備をしてくれるのでサイドの選手に都倉と内村、間を狙うインサイドハーフ梶川と前田にはボランチが出て潰すという役割が明確になり、長崎に思うようにボールを前に運ばせない狙いがほぼ遂行できていた。
ヘイスが守備のスイッチを入れる |
2.2 ヘイスの「巧さ」
この試合の札幌で攻撃の組立役となっていたのがトップ下のヘイス。基本ポジションはFWとボランチの中間で、これがここ数試合のジュリーニョだと、最前線でターゲットとしての役割も一部担っていたり、サイドで受けてブロックの外から仕掛けたりと、フリーダムに動き回ることで相手の脅威になる反面、やや動きすぎて、いてほしい時に中央のエリアにいてくれないという状況にもなっていたが、ヘイスが中盤の選手と近い距離感を保ち、ボールを収めていたことで中盤の選手が攻撃参加をする時間を作ることができる。
下の写真、49:02の状況を見てもそうだが、中央のエリアで待つことで都倉や内村、堀米と近い位置におり、またここで長崎の選手に囲まれるが、体を使ってキープすることでパスを出した宮澤が後方から上がる時間を作ることができる。
中央から動かないことで、2トップや他のMFとの距離感が近く 溜めを作って攻撃参加する時間を作れる |
2.3 早かった電池切れ
札幌は60分過ぎから前線の運動量が落ち、5-2-3で守備をセットできていても、中央からサイドに振られるとサイドのFWの選手がついていけず、簡単に長崎にボールを運ばれたり、攻撃終了時に戻ってくるのが遅れたりといった状況になってくる。また特に疲れが顕著だったヘイスの周り…FWとボランチの間を長崎に起点にされ始める。
FW陣の電池が切れ、サイドに振られるとついていけなくなったり FWの背後で持たれてもプレッシャーに行けなくなる |
前線の3枚の運動量が落ち、距離が開いて連動した守備ができなくなると、札幌のFW-MF間は完全に支配され、長崎が後方でボールを回す時間が増える(60-75分は長崎がポゼッションで大きく上回っている)。
札幌の前3人の距離が開き、組織的な守備ができなくなると 長崎は後ろで自由に回せる ※62分に長崎は中村→岸田に交代している |
2.4 中盤を増やして逃げ切り
74分、札幌はヘイス→石井に交代。石井が左に入り、堀米が中央にシフトしての3-5-2、3センターとなる。続けて77分にジュリーニョ→内村に交代。同時間帯に長崎はパク ヒョンジン→村上に交代している。札幌は前線を削って中盤3枚にしたことで、前からの圧力を失う代わりに中盤のスペースを埋めやすくする。札幌の3-5-2採用は久々であったが、この試合の15分間を見る限り、以前よりも守備の練度が増していて、特にサイドでウイングバックとインサイドハーフのチャレンジ&カバーの関係が適切に作れており、サイドではよく守れていた。サイドを封鎖し、長崎が苦し紛れにクロスを上げても、中央に増川を中心とする3選手が控えていることから、得点の香りはあまりしなかった。
77分~ 札幌はヘイス→石井で3-5-2へ、長崎はパクヒョンジン→村上 |
その後、長崎は84分に前田→養父、札幌は87分にマセード→進藤で後方を固める。札幌がこのまま逃げ切り、2-1で勝利。
最終布陣 |
北海道コンサドーレ札幌 2-1 V・ファーレン長崎
・19分:永井 龍
・26分:都倉 賢
・33分:ヘイス
3.雑感
前半は緩かった。しかしその緩さが長崎にとっての罠になり、2点を奪って逆転してから、60分頃までは割と手堅い試合運びができていた。
ヘイスはやはりまだ運動量が少ない。ただあまり動かないことが守備の安定に繋がった。ジュリーニョのトップ下起用もまさにこの点が問題で、チームが勝ち続けるにつれジュリーニョがどんどんフリーダムな動きをするようになっていったが、これにより守備時のポジショニングやバランスが悪くなり、素早く前に運んでくるチーム相手だと簡単に突破されてしまう。
平日は試合やめてー(´・ω・`)観れないわー
返信削除そんなわけでこの試合は観れてません。公式戦の先発ヘイス観たかったなー。
練習試合ではボランチの横を埋める動きから逆サイドにパス出してゴール前までスプリントしてたから、きっとやってくれると思ってたけど期待通りだったか。まあ売り込み動画見る限り、体さえ大丈夫ならもっとできるはず。絞れてきたし、個人的には今季最も期待してた選手なので攻撃で良いところ一杯見たいわ!守備はまあ頑張れwww
北九州戦は行ける!次回も解説期待(・∀・)ノ!楽しみにしてマッタリ待ちますわー。
にゃんんむるさん
削除いつもコメントありがとうございます。
ヘイスの小さいモーションからのサイドチェンジは少しフッキを彷彿とさせますね。
守備はまぁ今の戦術なら中山元気みたいな選手以外、誰がやってもほぼ同じと思いますし、しっかり中盤にプレスバックしてたのは練習試合から仕込まれていたんですね。情報提供ありがとうございます。